2012年芸術の秋ラノベ祭りのようです
(・∀ ・)と兄弟のようです
  前編 五



515 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 11:07:17.33 ID:EHpwtljV0
   
ドラゴンの食事も終え、一向は早速、灯南のある方向へ向かうことにした。

(・∀ ・)「そういえばさー」

( ^ω^)「お?」

兄者と弟者に挟まれているまたんきが足をぶらつかせながら呟く。
新しい靴は足に丁度はまっているので、抜け落ちる心配はない。

(・∀ ・)「きのう、すな? っていってただろ」

('A`)「クラクテミエナカッタナ」

(・∀ ・)「うん。で、下にあるのは、ぜーんぶ、すな、なのか?」

下に見えているのは砂漠だ。
時たま緑も見えるが、おおよそ砂の茶色と黄色しか見えない。

(´<_` )「そうだ。あれは全部砂だ」

(・∀ ・)「すなっていっぱいあるんだなぁ」

( ´_ゝ`)「おいおい。海はもっとすごいぞ?」

(・∀ ・)「そうなのかー!」

518 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 11:09:16.90 ID:EHpwtljV0
    
( ´_ゝ`)「ついでだ。外にあるものについて教えてやろう。弟者が」

(´<_`;)「オレかよ!」

( ´_ゝ`)「いや……役割的にお前だろ?」

('A`)「アニジャニ、セツメイナンテ、ムリダロ……」

(´<_`;)「まぁそうか……」

( ´_ゝ`)「あ、何か傷ついた」

(;^ω^)「こいつめんどうくさいお」

元々、騒がしい集団だったのだが、またんきが加わって騒がしさはさらに増した。
己の背中の上で作られる楽しそうな声に、ドラゴンも目を細めて喉を鳴らす。

(´<_` )「草木はわかるって言ってたな」

(・∀ ・)「あの、みどりのやつだろー」

(´<_` )「そうそう」

520 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 11:12:43.21 ID:EHpwtljV0
   
砂のこと、草木と枯れ木のこと、空のこと、風のこと。
弟者は聞かれたことは極力答えた。上手く説明できないものは、全員で言葉を投げあった。
空っぽだったまたんきは、弟者の答えをすぐに吸収する。
その様を見るのは楽しいものがあった。

(・∀ ・)「風がきもちいいぞー」

(´<_` )「そうだろ。ドラゴンの背中は飛行船なんかよりも快適だ」

またんきは目につくものについて質問しきった。
好奇心が満たされたのか、満足げに知ったばかりの言葉を使う。

(・∀ ・)「そういえば、おとじゃはまほうが使えるんだよなー」

(´<_` )「一通りの精霊とは契約してるぞ」

先ほど使ったのは、火属性の魔法だ。
火属性の土地であるニュー速で使う魔法に、これ以上適切なものはない。

( ´_ゝ`)「契約するまで大変だったよな」

当時のことを思い出して呟く。
基本的に他種族を嫌う傾向にある精霊だ。
契約したところで、精霊へのメリットは少ない。デメリットも少ないのだが、そこは問題ではない。

521 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 11:15:45.31 ID:EHpwtljV0
   
( ´_ゝ`)「ずーっと黙ったままの奴とか、攻撃してくる奴とかいたからな」

(・∀ ・)「まほうでこうげきしてくるのか」

(´<_` )「いや、肉弾戦」

精霊使いを介さない魔法は弱い。
そのため、精霊達は力に自信がある者の方が多かったりする。
物理攻撃ならば倒せる。と、安心してはいけない。彼ら精霊は、合間合間に、弱いながらも魔法を仕込む。
普通の人間や耳族ではできない戦い方に翻弄される者は多い。

( ^ω^)「ぼくもつよくなりたいお」

(;´_ゝ`)「ジョルジュみたいにムキムキになったブーンなんて嫌だぞ!」

('A`)「キモチワルイ……」

小さなブーンに筋肉が隆々とついているところを想像したのか、
ドクオのただでさえ悪い顔色が、さらに悪くなる。

(・∀ ・)「おれもつよくなりたいぞー。
     まほう使ってみたいぞー」

(´<_` )「またんきは精霊でもあるからな。
      練習すれば使えるんじゃないか?」

524 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 11:18:54.77 ID:EHpwtljV0
   
(・∀ ・)「おとじゃみたいに、ガーッとできるか?」

(´<_` )「そうだなぁ……」

またんきはブーン達よりは大きい。
当然、能力は彼らよりも高い。使える魔法の威力も多少は勝っているはずだ。

しかしながら、精霊は単体では強い魔法を使えない。
そもそも、半分は人間であるまたんきがどれほどの魔法を使えるかなど未知数にもほどがある。

(´<_` )「……とりあえず、ブーンとドクオに魔法のコツを教えてもらえ。
      オレは精霊使いだから、精霊自身がどうやって魔法を使っているのかまではわからん」

( ^ω^)「おしえてあげるお! ぼくらがせんせいになるお!」

(・∀ ・)「せんせーか」

('A`)「センセイ、ナ。チジョウニオリタラ、カルクシテミルカ」

ドラゴンの上で魔法の練習をするのは危険だ。
今すぐにでも使い方を学びたいまたんきをどうにか説得する。

(・∀ ・)「ぜったいだからなー」

( ^ω^)「やくそくだお」

525 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 11:21:49.58 ID:EHpwtljV0
   
( ´_ゝ`)「地上に降りるのは夕方くらいになるぞ」

(・∀ ・)「そうかー」

長い時間を空で過ごさなくてはならない。
それも、飛行船とは違い、ドラゴンの背の上では動き回ることもできない。
退屈な時間が流れるだけだとわかっていながらも、またんきは文句を言わなかった。
ずっと一人で暇を潰し続けてきていた彼にとって、誰かといるという事実はそれだけで退屈から逃れられる。

(´<_` )「魔法に関してのレッスンは夕方からになるとして、明後日には灯南に着くはずだから、
      軽く灯南地方について説明しておこうか」

('A`)「ソレガイイ……。
   アソコハ、アルイミ、ニューソクヨリアブナイ」

(・∀ ・)「そんなにあぶないのかー」

ドクオは頷いた。
彼も流石兄弟と出会ってから世界を回ったので、灯南に何度も訪れたわけではない。
一、二回訪れただけでも、危険だと思うほどの土地なのだ。

527 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 11:24:34.12 ID:EHpwtljV0
   
(´<_` )「そうだな。違った意味での危険だ」

(・∀ ・)「ふーん?」

(´<_` )「灯南は荒れ果てた土地でな、荒氏という植物以外は育たない。
      だから作物なんてないし、動物も少ない。
      飢えた土地なんだ」

飢えと絶望に負けた者は自ら己の体を安価で提供する。
そうやって食いつなぐしかなかった。
始めはただの奉公だったのが気づけば奴隷にまで落ちていた。

( ´_ゝ`)「今じゃ、無理矢理連れてくるのが主流だけどな」

絶望に負ける者よりも、奴隷を必要とする者の方が増えてしまった。
泣き叫ぶ女子供を、家族を思う男を、奴隷へと変えていく。
生まれを嘆けばいいのか、奴隷商人に見つかった運命を嘆けばいいのかわからない。

(´<_` )「そんなわけで、基本的にみんな離れて暮らしてる」

(・∀ ・)「いみがわからないぞー?」

( ^ω^)「みんないっしょにいたら、いちどにつかまっちゃうお。
      はなれてくれしていれば、ぜんいんがどれいになるしんぱいはないんだお」

531 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 11:33:23.23 ID:EHpwtljV0
   
(・∀ ・)「なるほどなー」

(´<_` )「だから、はぐれたりするなよ?」

('A`)「ミツカラナクナルゾ」

(・∀ ・)「だいじょうぶだぞー」

またんきは弟者にもたれて、足をぶらつかせる。
外に出られたからといって、好き勝手に動く気はないらしい。

( ´_ゝ`)「奴隷商人に見つかっても面倒だぞ」

(´<_` )「灯南にいる奴は全員奴隷予備軍だと思ってるからな」

(・∀ ・)「どれいはいやだぞ」

( ^ω^)「ならそばにいるお」

昨日の今頃はまだ実験体だったまたんきだ。
再び奴隷として売り出されるのは勘弁願いたい。

(´<_` )「武器はないし、強くなるだけの食料もないから、
      暴力的な意味合いではニュー速ほど危なくないがな」

(・∀ ・)「そうかー」

隣の地方だというのに、ニュー速とはまった違う特性を持っているらしいことはわかった。

535 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 11:42:50.50 ID:EHpwtljV0
   
( ´_ゝ`)「よーし。今日は野宿だぞー」

日が落ち始めた頃、ドラゴンは地上に降りた。
周囲には何もない。砂とわずかな植物が生えているだけだ。

(・∀ ・)「のじゅくかー」

野宿については既に知識を得ている。
知識のみを有しているまたんきは、始めて経験する野宿に心が躍る。

('A`)「メシー」

( ´_ゝ`)「ちょっと待ってろ」

兄者は旅袋からいくつかのパンと干し肉を取り出す。
その間にブーンはわずかに生えていた植物をほんの少し摘み取る。

( ^ω^)「おとじゃ、これでいいかお?」

(´<_` )「十分だ」

適当に掘った穴の中にブーンが摘んだ葉を放り込む。

536 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 11:45:24.93 ID:EHpwtljV0
   
(´<_` )「炎の精霊、渋沢と契約せし我が命ず。
      この地に宿る炎よ、温もりを届けよ。
      葉に火を灯せ。火よ留まれ」

弟者の詠唱で、葉に火がつく。
しかし、それは普通の炎とはまったく違う。
わずかな葉を燃やしているとは思えぬほど、大きく燃え上がり、焚き火のような明るさと暖かさをもたらす。

(・∀ ・)「すげー!」

またんきが歓声を上げる。
マッチやライターではできない。魔法だからこそできる芸当だ。

(・∀ ・)「やっぱり、おれもまほう使いたい!」

( ´_ゝ`)「おー。やればいい。戦力が増えるのはありがたい」

(´<_` )「だがその前に飯だ」

懐からナイフを取り出し、肉とパンを切り分ける。
戦いで刃物を使うのは苦手だが、こうした日常生活の中での刃物使いは中々上手い。
手早く五人分のパンと肉が出来上がる。

539 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 11:48:41.33 ID:EHpwtljV0
    
(・∀ ・)「これだけかー」

('A`)「フツウハ、コンナモンダ」

( ^ω^)「ごうせいなのはおしごとしたときくらいだお」

( ´_ゝ`)「十分だろ?」

(´<_` )「いや、兄者。これからはもっと栄養バランスとやらを考えた方がいいのかもしれん」

育ち盛りの子供には栄養バランスが大切だと聞いたことがある。
寿命の短い耳族や、体の小さな精霊だけならば、適当な食事でもよかっただろう。
けれど、今はハーフとはいえ子供がいる状況だ。
少しは考えて食事をする必要がある。

( ´_ゝ`)「なら、明日の港町で仕事をするか」

(´<_` )「それがいいな」

ニュー速地方とはいえ、港町は栄えている。
その理由として、奴隷になる者がいる灯南へは、ニュー速の港を通過しないと行くことができないからだ。
金持ちに奴隷を売る為に灯南へいく奴隷商人は、必ず港を通らなければならない。
だから、港町には金持ちも大勢いる。

盗賊にとって、あれほど仕事をしやすい場所はない。
兄者はパンを齧りながら、仕事へ思いを馳せる。

540 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 11:51:38.43 ID:EHpwtljV0
   
(・∀ ・)「食べたらまほうだぞー」

('A`)「ハイハイ」

子供には干し肉が硬いのか、またんきは食べ終わるのに苦戦していた。
弟者は次に干し肉を渡すことがあれば、もう少し細かく分けてやる必要があるなと分析する。

( ´_ゝ`)「ならオレは運動でもしようかな」

(´<_` )「兄者はテントを張ってくれ」

( ´_ゝ`)「へーい」

既に食事を終わらせている兄者は返事一つで駆けだす。
ドラゴンの背中に積んでいた簡易テントを展開していく。
一人でも作り上げることができるそれは、昔に兄者が盗んだものだ。

ドラゴンやブーン達に始まり、ククリやテントまで、流石兄弟が所持しているものは全てが盗品と言っていい。
盗んだ金で物を買うこともあるが、より珍しいモノに兄者が惹かれるため、市販品を所持することはあまりない。

( ´_ゝ`)「明日も頼むな」

すぐにテントを完成させた兄者はドラゴンの体を優しく撫でる。
一緒に町へ入ることができない彼と一緒にいるのは、空を飛んで移動しているときくらいだ。
しかし、長時間の飛行はドラゴンに負担がかかる。
労われるとき、共にいることができるときは、できるだけ声をかけてやりたいと思う。

542 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 11:54:45.84 ID:EHpwtljV0
   
口をもごもごと動かしていたまたんきだったが、ようやくその動きが止まる。
ほぼ同時に細い喉が動いた。

(・∀ ・)「ごちそーさまでした」

(´<_` )「はい。お粗末様」

硬い肉とパンを飲み込んだまたんきは早速立ち上がる。

(・∀ ・)「まほうだ!」

( ^ω^)「わかってるお」

精霊達は弟者が作り出した焚き火から少し離れる。
街灯など存在していないので、光源から距離をとると視界が一気に暗くなる。
またんきは美しい太陽を思い出して空を見た。

(・∀ ・)「……真っ暗だー」

('A`)「チガウ。ホシガアル」

(・∀ ・)「あの、キラキラしてるやつか」

( ^ω^)「そうだお。あれがほしだお。となりにあるおおきなのが、つきだお」

(・∀ ・)「へー」

543 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 11:57:29.33 ID:EHpwtljV0
   
(・∀ ・)「たいようとはちがう、けど、きれい、だ」

( ^ω^)「ぼくもほしがすきだお」

('A`)「デモ、テハトドカナイ」

三人は顔を上に向けて、じっと星と月を見続ける。
月は満月だった。

(´<_` )「おーい。魔法の練習はいいのかー?」

焚き火のある場所から弟者が声をかける。

(・∀ ・)「そうだ! まほうだ!」

魔法を使うために焚き火から離れ、暗くなっている場所に移動したことを思い出した。
ハッとすると、ブーンが喉を鳴らす。

( ^ω^)「っん。じゃあ、さっそくはじめるお」

(・∀ ・)「おう」

545 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 12:00:42.56 ID:EHpwtljV0
   
( ^ω^)「ぼくはひとりでまほうをつかうとき、おなかのそこからちからをだすお」

('A`)「オーラテキナモノヲ、ホウシュツスルカンジ」

(・∀ ・)「よくわからんが、やってみるぞー!」

抽象的なイメージのみを伝えられてしまったが、またんきはすぐに実行した。
お腹に力を入れ、それを放出することを想像する。

( ^ω^)「どうだお?」

(・∀ ・)「食べたものが出そうだぞ」

(;'A`)「ワー! ヤメロー!」

力を入れることに間違いはなかったのだろうけれど、それに伴う結果は大違いだ。
ドクオとブーンは慌ててまたんきを止めにはいる。

(・∀ ・)「じゃあ、どうすればいいんだー?」

('A`)「マタンキハ、フタツノゾクセイヲモッテルカラ、ヒト、ミズ、ドチラカヲ、イメージシテミロヨ」

(・∀ ・)「おー。わかったぞー」

547 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 12:03:33.48 ID:EHpwtljV0
   
またんきは弟者が火を操っている姿を見て、魔法を使うことに憧れた。
それまで、魔法を使えと言われることも、魔法に関する単語を聞くことも嫌だったというのに。

(・∀ ・)「むむむー。火よ、出ろー!」

雄たけびも虚しく、一つの明かりさえ出やしない。
静まり返った砂漠で、またんきは膝をつく。

(・∀ ・)「もー!」

(;^ω^)「だいじょうぶだお。すぐつかえるようになるお!」

('A`)「オレタチハ、ウマレテスグツカエタ――」

(;^ω^)「どくお!」

(・∀ ・)「みてろー。おれだって、使えるようになってやるんだからなー!」

(´<_` )「おーい。そろそろ寝ないかー?」

地団駄を踏んでいるまたんきに、弟者が声をかける。
夜の砂漠は冷え込むので、そろそろ眠るなり、火のあたるところに戻ってくるなりして欲しい。

548 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 12:06:42.48 ID:EHpwtljV0
   
(・∀ ・)「まだねむくないぞー」

飛行船で昼頃まで眠っていたのだから、それもしかたあるまい。

(´<_` )「ドラゴンの上で寝てたら落ちるぞ」

(・∀ ・)「おとじゃはつかんでてくれないのかー」

(´<_` )「寝てる奴は知らんなぁ」

(・∀ ・)「むー」

まだ見たいものは山のようにある。
またんきは渋々火のもとへ戻っていく。それにブーンとドクオもついて行く。

( ´_ゝ`)「またんき」

(・∀ ・)「何だ?」

戻ってきたまたんきは、兄者に手招きをされた。
疑問符を浮かべながらも、彼の方へ近づく。

553 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 12:19:34.03 ID:EHpwtljV0
   
(;・へ ・)「な、何だよ!」

( ´_ゝ`)「うーん。この顔の方が似合うぞ」

兄者はまたんきの口の端を指で抑えて下げる。
いつもの笑みが途端に不機嫌そうな表情へ変わった。

(;・へ ・)「やーめーろー」

またんきが暴れ、兄者は手を離す。

(;・∀ ・)「何がしたいんだよ!」

( ´_ゝ`)「今さら何を。
      オレは言っただろ? お前を泣かせてやりたい。
      喜怒哀楽に相応しい表情を付加させてやりたいのさ」

魔法が使えなくて地団駄を踏んだときも、
吐きそうだと言ったときも、またんきは口角を上げて笑っていた。
その様子は事情を知っている兄者から見ても奇妙なもので、彼はそれが非常に気に喰わない。

(・へ ・)「……」

またんきは自分の指で口を下げてみる。

(・∀ ・)「……」

けれど、指を離せば元通りだ。

558 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 12:26:25.91 ID:EHpwtljV0
   
( ´_ゝ`)「ま、オレは気が長いから、じっくり時間をかけて料理してやるよ」

(;・∀ ・)「食べられるのかー?」

(´<_` )「言葉のあやってヤツだ。気にするな」

弟者は焚き火に砂をかける。
火の明かりが消え、周囲は一気に暗さを得る。

(´<_` )「テントに行くぞ」

(・∀ ・)「まっくらだな」

('A`)「オレニハ、チョウドイイ」

闇属性であるドクオは、この暗さの中でも十分に動くことができる。
陽射しが出ているときよりも活発に動けるくらいだ。

( ´_ゝ`)「しかし残念! もう皆で寝る時間だ」

('A`)「マッタクモッテザンネンダ……」

活発なドクオを見る機会は殆どない。

560 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 12:31:42.39 ID:EHpwtljV0
兄者が最初にテントの中へ入る。
次に弟者がまたんきを入れ、最後に弟者が入る。
それほど大きなテントではないので、三人も入れば体が密着する。

( ´_ゝ`)「こうしてくっついていると暖かいだろ?」

(・∀ ・)「おう」

耳族は体温が高い。
左右を耳族で固められているまたんきは、テントの中で一番温かい場所にいることになる。

( ^ω^)「ぼくらはまたんきのおふとんにはいるお!」

('A`)「ツブスナヨ」

小さな体がわずかな隙間にもぐりこむ。
五人は三枚の毛布を被り、目を閉じた。

(-∀ -)「……あったかいぞー」

( -_ゝ-)「天然毛皮だからな」

(-∀ -)「それもあるけど……」

もっと違ったところが暖かい。
またんきは言葉を発する前に眠りについた。

562 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 12:34:35.33 ID:EHpwtljV0
   
翌日の夕方、彼らは港町についていた。
始めて見る港町に、またんきは目を見開いている。

(・∀ ・)「すごいぞー。いっぱい人がいる!」

( ^ω^)「はぐれちゃだめだお」

(・∀ ・)「わかってるぞー」

ブーン達に声をかけられながらも、またんきは周囲を何度も見る。
見たこともないような店の数に、興味を持たずにいるなど、できるはずがない。

( ´_ゝ`)「とりあえず、宿を取るか」

(´<_` )「もう盗ったのか。流石だな、兄者」

宿を取ることを提案した兄者の手には、見覚えのない財布があった。
膨らみのあるソレは、一目見ただけで金持ちの物だとわかる。

( ´_ゝ`)「食料品は明日、ドラゴンのところに行くついでに盗ればいいだろ」

(´<_` )「そうだな。オレも手伝おう」

563 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 12:37:40.37 ID:EHpwtljV0
   
兄者ほどの技術は持っていないが、弟者も盗賊だ。
人混みに紛れて盗みを働くことは朝飯前といえる。

(・∀ ・)「何か、からだがきもちわるいなー」

('A`)「ベタベタスルノカ」

(・∀ ・)「べたべた?
     わからんぞー。でも、へんなにおいもする」

(´<_` )「それは潮の匂いだろ」

(・∀ ・)「しお?」

( ´_ゝ`)「磯臭いとも言う」

(・∀ ・)「いそ?」

(´<_` )「海の匂いだ」

(・∀ ・)「うみかー」

海はすごいと言われていたが、いまいち頭の中に思い浮かべることができない。
またんきは首を左右に動かしながら考える。

565 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 12:40:46.27 ID:EHpwtljV0
   
( ´_ゝ`)「アレが海だ」

兄者が指を差す。
その方向には太陽の光を浴びて輝いている海面がある。

(・∀ ・)「へー。
     おもったより、すごくないんだぞー」

ずっと広がっている砂漠の方が驚いたし、衝撃的だった。
海はもっとすごい。と、言っていた兄者の言葉とは、イメージが違う。

( ^ω^)「うえをとんだら、すごさがわかるお」

(・∀ ・)「そうなのか?」

港町から見える海も広い。
しかし、船や建物に邪魔され、偉大な広大さの全てを知ることはできない。
それを知りたいのならば、上空から眺めるのが一番だ。

566 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 12:43:32.58 ID:EHpwtljV0
   
(´<_` )「お楽しみは明日。
      昨日は野宿だったし、ベッドが恋しいだろ?」

(・∀ ・)「そうでもないぞー」

( ´_ゝ`)「なら、暖かいスープと柔らかいパンはどうだ?」

( *^ω^)「こいしいおー!」

( ´_ゝ`)「素直でよろしい!」

兄者は盗った財布から札だけを抜き取り、用なしになった空を捨てる。
札は己の懐へしまう。

(´<_` )「ここは美味い飯と宿屋がそろってるぞ」

どこに入っても、それなりの飯とベッドが用意されている。
その代わり、他の宿屋などとは比べ物にならないくらいに高い。

弟者は兄者に財布を投げる。
やはりそれも見覚えのない財布だ。

( ´_ゝ`)「だが、あまり金持ち臭いところは嫌だな」

先ほどと同じように札だけを抜き、残りは捨てる。

568 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 12:46:46.49 ID:EHpwtljV0
   
( ´_ゝ`)「仕事で行くのはいいが、泊まるとなれば、臭いが染み付く」

(´<_` )「なら、町の外れに行くか」

町の中心部や、港の近くには金持ち用の宿屋が多い。
逆に、町の中心から離れれば、端へ淘汰されてしまった安宿がある。

(・∀ ・)「またおこさまランチを食べるのかー」

(´<_` )「いや、せっかくの港町だ。
      魚介類を食べよう」

(・∀ ・)「ぎょかいるい?」

( ^ω^)「おさかなやかいのことだお」

('A`)「ウマイゾー」

(・∀ ・)「たのしみだぞー」

( ´_ゝ`)「じゃあ、競争するか!」

(´<_`;)「ゴールが決まってない競争などあるものか。
      第一、兄者が有利すぎるだろ」

570 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 12:49:54.77 ID:EHpwtljV0
   
五人は町の外へ向かって足を進めていく。
人が減り始めたときだ。背後から音がした。

(・∀ ・)「何だ?」

小さなまたんきが背伸びをして、音のもとを見ようとする。
彼よりも背の高い流石兄弟と、空を飛ぶことができるブーンとドクオは、音が何から発せられているのかを見ることができた。

( ^ω^)「おりだお」

暖かさのない声で零す。
彼らの視線の先には、幾つにも連なった鉄の檻がある。
中にいる者まで正確には見えないが、生き物が入っていることだけはわかる。

(・∀ ・)「おりかー」

檻の中に何がいるのか知らないまたんきは、興味なさ気に返す。
乱暴に運ばれている鉄の檻は、時々隣の檻とぶつかって酷い音をたてる。

( ´_ゝ`)「早く宿を取ろう」

(´<_` )「そうだな」

流石兄弟は踵を返した。
哀れだとは思うが、助けようなどとは思わない。
彼らにとって、檻の中にいる奴隷は金持ちや浮浪者と変わらぬ、その他一般人の枠組だ。

571 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 12:52:25.78 ID:EHpwtljV0
    
( ´_ゝ`)「今日は色々食べさせてやるぞ」

(´<_` )「好き嫌いは駄目だからな」

(・∀ ・)「いたいのはいやだぞー」

( ´_ゝ`)「食べるのに痛いとか……あるか」

('A`)「アニジャハ、カライノガキライダカラナ」

好き嫌いはよくわかっていないまたんきだが、ギコから貰った服は旅道具と一緒にしまってある。
概念の理解には遠いようだが、表面上にはしっかりと現れていた。
この調子で好きなものが増えれば、痛いこと以外の嫌いなものも増えるだろう。

誰もがそれを願っている。
生きているのだから、好きなことがあって、嫌いなことがある。
笑いもすれば、泣きもする。

( ´_ゝ`)「じゃあ、辛いものを口に詰め込めば泣くんじゃね!」

(´<_` )「生理的な涙であって、兄者の求める涙はでないだろうな」

本当に実行した場合は、兄者にも同じことをしてやろうと決心しつつ言う。
辛さを痛みととらえたらしいまたんきは怯えている。

575 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 12:59:32.30 ID:EHpwtljV0
   
五人は町外れの宿屋を無事にとることができた。
民宿といった風で、家庭的な汚れが目立つが、野宿と比べれば天国だ。

(・∀ ・)「あしたはうみだぞー」

(´<_` )「その言い方だと遊びに行くみたいだな」

( ´_ゝ`)「あながち間違いでもあるまい」

国を一周するなど、ただの道楽だ。
彼らにとっての仕事は盗みであるが、半分趣味のようなところがある。
つまるところ、何をしていても、遊びに行くのと変わりはない。

( ^ω^)「たのしいのはいいことだお」

('A`)「ドウセ、スグシンデシマウンダ……」

暗い顔をしたドクオが床に座り込む。
小さな体で床に座られると、踏んでしまいそうで恐ろしい。

(;^ω^)「どうしてそうなるんだお」

( ´_ゝ`)「死ぬのは真実だが、あまり連呼されたくないものでもあるぞ」

傷つきはしないが、気にはなる。
長い時間を生きるドクオが、流石兄弟の死を恐れているのは知っているが、
こうも落ち込まれると、おちおち死ぬこともできない。

579 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 13:05:25.48 ID:EHpwtljV0
   
(´<_` )「ほら、重い話は止めて、美味い飯でも喰おう」

( ^ω^)「そうだお。おいしいぎょかいるいだお」

(・∀ ・)「おお、さかなか!」

またんきは弟者を見上げる。

(´<_` )「魚だ。あと、貝とか海草とか」

(・∀ ・)「よくわらかんが、うまいんだろ?」

( ´_ゝ`)「それは食べてから判断してくれ。
      ほら、行くぞドクオ」

('A`)「オウ……」

四枚の羽根が開き、小さく動く。
兄者達と同じ目線まで飛び上がったドクオは、当たり前のように弟者の肩に座る。

( ^ω^)「はやくいくおー」

(´<_` )「速さだけなら兄者以上かもな」

( ´_ゝ`)「ブーンは飛んでるし、障害物があまりないもんなー」

羨ましい。と、呟く。
弟者としては、あれだけの速さで走れる兄者も十二分に羨ましい。

582 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 13:09:43.80 ID:EHpwtljV0
   
宿屋で出された食事は満足できるものだった。
特に、港で取れた魚をすぐに捌いたという刺身は、五人の舌を楽しませた。
またんきは前日の夜から硬いパンや干し肉ばかりを食べていたので、噛みやすく美味しい食事に喜びを示す。

まだ違和感の残るぎこちない笑みではあったが、少しずつ本当の笑みに近づいていることを思わせる。
ブーンを始めに、四人はそれぞれまたんきの変化を歓迎していた。

(・∀ ・)「きょうはべつべつにねるのかー」

(´<_` )「せっかく三つベッドがあるからな」

(・∀ ・)「そうかー」

( ´_ゝ`)「……一緒に寝たいのか?」

(・∀ ・)「そんなことはないぞー」

否定を口にしたまたんきはさっさとベッドにもぐりこむ。

(・∀ ・)「おやすみー」

( ´_ゝ`)「おやすみ」

584 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 13:13:08.49 ID:EHpwtljV0
    

暗くなった室内で、またんきは目を閉じる。
ベッドはまだ小さなまたんきが一人で寝るには十分な広さがあった。

(;・∀ ・)「何だ?」

掛け布団に誰かが触れた。
驚きの声を上げ、布団を掴む。
研究所のことを思い出してしまう。

突然起こされて、痛い思いをする。
喚けば殴られ、泣けば蹴られる。
痛いのは嫌いだった。

またんきは早まる心臓の音に、涙が出そうになった。


( ´_ゝ`)「よお」

声がした。
同時に、布団に誰かが触れていた感覚がなくなる。
どうやら、布団に触れていたのは兄者で、彼が隣にもぐりこんできたことで、感覚が消えたようだ。

(・∀ ・)「あにじゃ……?」

(´<_` )「オレもいたりする」

(・∀ ・)そ「おとじゃ!」

587 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 13:17:55.32 ID:EHpwtljV0
    
( ´_ゝ`)「精霊のお前は寒さを感じないだろうがな」

(´<_` )「オレ達には港の寒さが身に染みる」

気づけば、またんきは左右を流石兄弟で挟まれてしまっていた。
一つのベッドに三人が入っているので、密着率だけで言えば昨日以上のものだ。

( ´_ゝ`)「そこでだ。
      お前と同じベッドに寝れば、湯たんぽ効果でウマーなわけだ」

(・∀ ・)「よくわからんが、いっしょにねたいのか?」

(´<_` )「そういうことだ」

(・∀ ・)「……しかたないなー」

またんきは一緒に寝ることを許可する。

( ´_ゝ`)「だがな、またんき」

(・∀ ・)「何だ?」

兄者の方へ顔を向ける。
狭いので動きにくいが、どうにか位置を変えた。

590 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 13:20:37.34 ID:EHpwtljV0
     
( ´_ゝ`)「オレ達はもう寒くならないだろう。
      だから、寒いときはお前から言ってくるんだぞ」

自前の毛皮を持つ耳族は寒さに強い。
兄者は耳を立てて真剣な顔つきで言う。

( ´_ゝ`)「今回、お前が入れてくれたように、オレ達もお前と寝ることを歓迎する」

(・∀ ・)「……そんなきかいがあったらなー」

(´<_` )「あったらでいいさ」

弟者はまたんきの頭を一度撫でてから目を閉じる。

( ´_ゝ`)「明日は海を見るんだろ?」

(・∀ ・)「そうだぞ。だから、はやくねるんだ」

またんきが目を閉じる。
それを見てから兄者も目を閉じた。



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