■2012年芸術の秋ラノベ祭りのようです
└(・∀ ・)と兄弟のようです
└前編 一
- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2012/11/18(日) 00:43:13.40 ID:EHpwtljV0
- ニュー速地方は、いつもうだるような暑さで支配されている。
そこに住まう者達は、その暑さからいつも鬱憤が溜まっているのか、非常に喧嘩っ早い。
毎日、あちらこちらで怒鳴り声が聞こえている。
路地裏では誰かが死に、表通りには乞食がいる。
真昼間から強盗を働く者も少なくはない。
この地方、治安の悪さならばVIP国で一番に違いない。
しかし、そんな場所だからこそ生きられる者がいるのも確かだ。
罪を犯した者も、この地方であればまるで一般人のような顔をしていられる。
この地方には指名手配書さえない。
警察は、いるにはいるが、問題行動を起こしたような警官ばかり。
どこを見てもまともな者は一人もいない。
いつかこの地を抜けようと思っている者はいるが、極少数であるし、
成り上がる方法は大抵ロクなものではない。
ニュー速ででかい顔をしている方がマシというものだ。
- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 00:48:00.38 ID:EHpwtljV0
- 無法者の集まるこの地方の最大の特徴と言えば、奴隷市場が定期的に開催されていることだ。
金を持つ者、権力を持つ者は奴隷を持つことが当然のような考えがこの国にはある。
けれども、汚らしい奴隷を自分達の住む地域で販売するのは気に障る。
ならば、灯南地方から程近く、奴隷達と変わらぬ者が集まるところで売ればいい。
奴隷が欲しければ使いを出せばいい。
使いの者など捨てるほどいる。そういった者、もしくは、それに足る理由を持った者だけが、奴隷を必要とする。
こうして、ニュー速地方は国内有数の奴隷市場を持つことになった。
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 00:52:15.24 ID:EHpwtljV0
- そこに最も多く並ぶのは、人間ではない。
卑しい獣とよく似た姿をしている耳族だ。
この世界に住まう、知能を持った種族は三種。
人間と、耳族と、精霊だ。
気位が高く、国によって全ての者に権利が認められている精霊が奴隷市場に並ぶことはないが、
闇の世界にどっぷりと浸かりきっている奴隷市場では、彼らにも首輪が付けられているのだという噂もある。
隣国ラウンジ王国との戦いに備え、魔法の技術が日々進歩しているVIP国では、精霊を実験台に使うことすらあるのだ。
通常、誇り高く、ほぼ無限の命を持つ精霊が人間や耳族のような、寿命を持つ者に従うことはありえない。
己の中にある魔力を使いきってしまわない限り生き続けることのできる者としてのプライドが彼らにはあるのだ。
けれども、世の中というのは常識だけで計ることはできない。
闇の中にも世界は続いている。
そして、その闇が光の世界と繋がっている場所。それが、このニュー速だ。
人の口から人の耳へ。
また人の口が噂を紡ぐ。
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 00:55:50.59 ID:EHpwtljV0
- 「さあさあ皆様! 奴隷市場、本日大開催でございます!」
奴隷商人の声が高らかに響いた。
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 00:58:32.38 ID:EHpwtljV0
- ベルが鳴り、人々が集まる。
奴隷を買いにやってきた者、
興味本位の者、
いつかあちら側に行くのだろうかと絶望の眼差しで見ている者。
様々な種族が、様々な目的でそこに立っていた。
\(^o^)/「今回の目玉はこの奴隷!
麗しの耳族、愛らしい眼差し、愛おしい耳!」
奴隷商人が檻にかけられていた布を取り払う。
ボロ布が風に舞い、下に隠されていた冷たい金属の檻が観衆の目に入った。
思わず感嘆の声が上がったのは、彼女にとって幸いだったのだろうか。
(*;≡;)
少なくとも、涙を流し、口を塞がれている姿からは、幸せの感情を読み取ることはできない。
流れる涙など、観衆は見ていない。
見ているのは、彼女の商品としての価値だけだ。
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 01:02:02.78 ID:EHpwtljV0
- 檻の中にいたのは、耳族の愛らしい女だった。
耳族特有の、頭の上に生えた耳。そしてふわふわとした体毛と尻の上から生えている尻尾。
涙を流している瞳は丸く、可愛らしい。
彼女はどれをとっても一流の商品だった。
生まれる場所が違えば、多くの男から求婚されていたに違いない美貌だ。
奴隷として売り出されてしまえば、
異常性癖の男になぶられるか、
見世物として一生を終えるか、
労働力としてこき使われるか。
そのどれかでしかない。
(´<_` )「可哀想に」
遠目で奴隷市場を眺めていた男が呟いた。
彼の頭には、ぴょこんと耳が生えている。
今、値段のつり上げが行われている奴隷と同じ耳族のようだ。
けれど彼の持つ黄緑色の体毛はパサついており、柔らかさを感じない。
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 01:06:01.74 ID:EHpwtljV0
- ( ´_ゝ`)「同情してるのか?」
男の隣に立っていた男が笑う。
彼の頭上にも耳がはえている。三角の耳だ。
黄緑色の男と同じくパサついた体毛をしているが、色は水色だ。
彼らの顔立ちはよく似ていた。
人間であったのならば、見分けがつかなかっただろう。
(´<_` )「まさか。あんな奴は腐るほどいる」
黄緑色の男が肩をすくめる。
鼻から息を出し、呆れた様子を見せている。
(´<_` )「オレは可哀想だという事実を述べただけだ」
( ´_ゝ`)「腐るほどいるんだ。可哀想もクソもないだろ」
水色の男は笑いながら言う。
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 01:10:03.87 ID:EHpwtljV0
-
('A`)「ミンナ、フコウダ」
笑う水色の肩に紫色の生物が座っている。
小さなソレは精霊だ。背中から生えている四枚の羽は半透明で美しい。
ただし、精霊本体は何とも貧相な顔をしている。
彼が背負う負のオーラは、せっかくの羽を色あせて見せる。
( ´_ゝ`)「そうそう。灯南生まれなんて皆あんなもんさ。
それも耳族ともなればな」
(´<_` )「それでも可哀想だろ?
誰に買われるか知らんが、ろくな人生にはならない」
研究材料に使われるか、無茶な労働をさせられるか。
彼女ほどの美貌を持つのならば、変態男の性奴隷にされる可能性も高い。
どれにしても、彼女には死を望むような未来が待っている。
それを可哀想だと言わずに何とする。
( ´_ゝ`)「確かにな。
あの子を幸せな奴と可哀想な奴に分けるなら、間違いなく可哀想の部類ではある」
同じ状況の者が他にもいるからと言って、「可哀想」でなくなるわけではない。
世界中にいる全ての者が飢饉に陥れば、全ての人間が「可哀想」になるだけだ。
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 01:14:07.06 ID:EHpwtljV0
-
( ´_ゝ`)「状況を打破したいなら、相応のリスクを負うしかない」
( ^ω^)「わるいことはしちゃだめだお」
水色に反論したのは、黄緑色の肩に乗っていた白い精霊だ。
ドクオと比べると横に大きく、さわり心地が良い。
全身から朗らかな雰囲気に溢れており、見る者を安心させる。
( ´_ゝ`)「おっと。そいつは言いっこなしだぜ」
白色の頬を青色が突つく。
マシュマロのような頬が青い指を包む。
(´<_` )「兄者の言う通りだぞ」
白色を水色、兄者の指から救い出しながら黄緑色が言う。
(´<_` )「何せ、オレ達は犯罪者なんだからな」
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 01:18:13.50 ID:EHpwtljV0
-
周りは彼らの言葉など聞いていない。
麗しい耳族の女が、どのような金持ちに買われるのかだけが観衆の興味を引く。
けれど、周囲が四人の言葉を聞いていたとしても、何ら問題はない。
ニュー速において犯罪者など珍しくも何ともない。
人は、外に石が落ちていたとしても驚かない。それと同じだ。
彼らは双子の盗賊。
流石兄弟。その名と姿を知っていたとしても、やはり反応は変わらないに違いない。
( ^ω^)「でも……あにじゃもおとじゃも、いいことをしてるお」
弟者の手の中で守られながら白色が言った。
少し不安げな声だ。
( ´_ゝ`)「そうかぁ?」
兄者が大げさな動作をしながら尋ねる。
その表情は楽しそうだ。
弟者は小さくため息をついた。
双子の兄である彼が、白色をからかうのは今に始まったことではない。
それこそ、二人の精霊と初めて出会ったときからだ。
( ´_ゝ`)「盗むのが良いこと? そりゃどこの法律で常識だ?」
ニヤニヤとした顔が憎たらしい。
- 31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 01:22:05.07 ID:EHpwtljV0
-
(;^ω^)「ぬすむのはわるいことだお。
でも、ふたりはただぬすんでいるんじゃないお!」
( ´_ゝ`)「盗んでるだけさ。
オレは欲しいモノを手に入れるだけ。
ブーン。お前も、オレが欲しかったから盗み出しただけだ」
水色の指がブーンを指差す。
悲しげな顔をしているのに気づき、兄者は指差した指でブーンの頭を軽く撫でる。
( ´_ゝ`)「必要とあれば殺しもする。
傷つけもする。
いいか? これは正真正銘、犯罪さ」
兄者は自身が着ている服を軽く持ち上げる。
じゃらじゃらと装飾がなる。
ニュー速生まれ、ニュー速育ち、耳族の彼がこのような豪華な服を着れるはずがない。
ならば答えは簡単。
盗んだのだ。
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 01:26:06.38 ID:EHpwtljV0
-
( ^ω^)「でも……」
(´<_` )「オレ達のしていることは犯罪だ。
でも、それが悪かどうか判断するのはブーン自身だ。それでいい」
( ^ω^)「おっ」
(´<_` )「正しいか、正しくないかなんて、どうでもいいんだ」
(;^ω^)「それはよくないとおもうお……」
('A`)「イインダヨ。ドウセ、マトモニイキレルヤツナンテ、ホトンドイナインダカラ」
( ´_ゝ`)「そうそう。ドクオの言うとーり!」
兄者がくるくると回る。
同時に歓声が上がった。
どうやら、奴隷の買い手が決まったらしい。
( ´_ゝ`)「おお、決まったか」
楽しげな声を上げ、兄者は観衆に近づき軽く跳躍する。
元々、身体能力の高い耳族の中でも、彼は群を抜いている。
軽い跳躍で周囲よりも頭一つ分の高さを得る。
- 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 01:30:05.18 ID:EHpwtljV0
- ( ´_ゝ`)「あー。ありゃ、すぐ死んじまうな」
(´<_` )「加虐趣味のあるフォックスか」
( ´_ゝ`)「あぁ。あいつはすーぐ奴隷を壊しちまうからなぁ」
買い手を確認した兄者は三人のもとに戻る。
( ´_ゝ`)「耳族の子供でもすぐ死ぬからな。
よっぽど酷い扱いなんだろうよ」
耳族は身体能力が高く、体が丈夫で成長も早い。
そのため、奴隷としての値段は人間よりも幾分か高い。
使用用途は労働から性奴隷まで幅広くこなす。
彼らの欠点といえば、高い身体能力や丈夫な体の代償とばかりに、寿命が人間の半分もないことだ。
頻繁に買い替えを必要としているため、コストがかかってしまう。
(´<_` )「先月も耳族の女買ってたよな?」
( ´_ゝ`)「金が有り余ってるんだろ」
二人はそれを羨ましいとは思わない。
金など盗めばそれですむし、必要なときに必要なだけあればいい。
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 01:33:02.88 ID:EHpwtljV0
-
( ´_ゝ`)「オレが欲しいのは金じゃない」
兄者は笑う。
孤児として生きてきた彼が盗みを覚えたのは必然だったが、
それを続けたのは盗みの快感とスリルに魅せられたからだ。
(´<_` )「次の獲物はもう決めてあるんだろ?
そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか?」
先日まではニュー速を離れて宋咲にいたのだが、
何らかの情報を得たらしい兄者に引きずられて、生まれ故郷であるニュー速に帰ってきたのだ。
( ´_ゝ`)「そうだな。そろそろ教えてやってもいいか」
悪戯を成功させた子供のような顔で言う。
いつも余裕を持っている弟者を焦らすのが楽しいようだ。
( ´_ゝ`)「――あ」
人差し指を立て、今まさに次の目的を口にしようとしていた兄者の目が、何かを捉えた。
彼の視線を弟者達はたどる。
目線は空へと続いていた。
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 01:37:00.32 ID:EHpwtljV0
-
(´<_` )「空察か」
空域警察。通称空察。
魔法大国であるVIP国では珍しい、機械仕掛けの飛行船が使われている。
少人数精鋭で構成されており、他の部隊を持たない唯一無二の空の管理人達だ。
( *´_ゝ`)「挨拶しに行こうぜ!」
青空に飛ぶそれを目に映していた兄者が叫ぶように言った。
それに対して弟者が返事をする前に、兄者は走り出していた。
(´<_`;)「こら! 待て!」
( ^ω^)「あにじゃはとまらないお」
(´<_`;)「知ってる! クソッ!」
町の端へ向かう兄者の後を急いで追う。
身体能力が非常に優れている兄者に対し、弟者は耳族の中でも鈍臭い方だった。
そんな彼が兄者に追いつき、止めるなどできるはずがない。
すぐに兄者の背中を見失うが、彼が向かっている場所はわかる。
息を荒くしながらも弟者は走った。
- 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 01:41:00.01 ID:EHpwtljV0
-
( *´_ゝ`)「弟者ー!」
(´<_`;)「うわ! 馬鹿!」
人通りの少ない道を走っている最中、兄者の声が聞こえた。
見れば、前方から兄者が迫ってきているのが確認できる。
ただし、兄者はピンク色をしたドラゴンの背中に乗っていた。
( *´_ゝ`)「捕まれー!」
(∩<_`;)「あーもう!」
片手で額を抑えながらも、伸ばされた手に弟者も返す。
身体能力が劣っていようとも、弟者は兄者の手を取れることを疑っていなかった。
兄者もまた、弟者が己の手を掴めることを疑わない。
弟者の上をドラゴンが通ると同時に、二人の手が重なる。
その瞬間を逃すことなく、二人は互いの手に力をこめた。
( *´_ゝ`)「よし」
ドラゴンはさらに高く飛び、空を目指す。
宙にぶら下がっている状態だった弟者も、体に反動をつけてドラゴンの背に飛び乗る。
無論、兄者の引き上げる力もあるからこそできる芸当だ。
- 48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 01:44:13.07 ID:EHpwtljV0
-
( *´_ゝ`)「流石だな!」
(´<_` )「はいはい。流石だな。オレら」
(;'A`)「キュウニ、ハシルナヨ……」
( ´_ゝ`)「すまんな。すぐに追いつきたくて」
(´<_`;)「大丈夫かドクオ」
(;'A`)「ウーン。ツカレタ……」
( ^ω^)「どくおはちからがないから、どらごんにつかまるのもたいへんだお」
('A`)「セメテ、オマエクライ、トブノガハヤケレバナァ」
ドクオは弟者の肩に座らせてもらい、その周りをブーンが飛ぶ。
すばしっこい動きは、蝿を連想させるのだが、
それを言えばブーンが傷つくことはわかりきっているので誰もが口を閉ざしている。
- 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 01:48:08.67 ID:EHpwtljV0
-
( ´_ゝ`)「いやー。ジョルジュ達に会うのも久々かー?」
(´<_` )「一週間ぶりくらいか」
一週間を長く感じるか、短く感じるかは種族によって違う。
流石兄弟のような耳族は、一週間を長く感じる。
対して、ブーン達のような精霊にとって、一週間はほんのわずかな時間だ。
( ^ω^)「ひんぱんにあってるきがするお」
('A`)「……イキルジカンガ、チガウンダナ」
弟者の上でドクオが頭を下げる。
何事に対しても悲観的な精霊である彼は、耳族と精霊の生きる時間が違うことを嘆く。
精霊の感覚からしてみれば、耳族の流石兄弟は明日にも死んでしまうような存在だ。
( ´_ゝ`)「それはしょうがないだろ?」
悲しげなドクオに、兄者はいつも笑いかける。
(´<_` )「生まれは誰にも決められない。
寿命は変えられない」
( ´_ゝ`)「そうだ! だからこそ、オレは好きなことをする。
欲しいモノを全て手に入れる!
楽しいことを山のようにする!」
- 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 01:51:20.04 ID:EHpwtljV0
-
(´<_`;)「わっ! 馬鹿! 立つな!」
ドラゴンから手を離し、立ち上がった兄者の腰を掴む。
いくら身体能力が高くとも、上空から地上に落下すれば死に至る。
盗みに失敗して殺されるのならばともかく、こんなつまらない死にかたは御免だ。
( ´_ゝ`)「なーに。大丈夫。大丈夫」
('A`)「ソウイッタヤツカラ、シンデイクンダ……」
(;^ω^)「ふきつなことをいうなお」
('A`)「オレタチハ、オイテイカレルンダ……」
( ´_ゝ`)「はいはい。そんな暗い顔するなって。
ほら。座ったぞ。これで安心だろ?」
(´<_` )「頼むからいつも大人しくしていてもらえませんかねぇ」
( ´_ゝ`)「無茶を言うな」
(´<_`# )「何が無茶なのか教えてもらいたいものですねぇ」
(;^ω^)「ここであばれたらあぶないお」
- 54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 01:54:13.66 ID:EHpwtljV0
-
( ´_ゝ`)「おっ。もうすぐだな」
兄者の言葉に反応してドラゴンが甲高い声を上げる。
空に浮かぶ機会仕掛けの船はそれなりの大きさを持っている。
(´<_` )「丁度ギコさん達が外にいるな」
( ´_ゝ`)「本当だ」
兄者と弟者を乗せて、まだ少し余裕を持っている大きさのドラゴンも、
空察の飛行船と比べれば小さな生物にしかなれない。
( ´_ゝ`)ノシ「おーい!」
(´<_`;)「おいっ!」
甲板の上をドラゴンが通過する。
そのタイミングにあわせて、兄者が背中から飛び降りた。
慌てて弟者が手を伸ばすが、当の兄者は下にいる面々に手を振るばかり。
弟者の手は兄者を掴むことができなかった。
- 56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 01:57:59.23 ID:EHpwtljV0
-
( ´_ゝ`)「おっひさー」
(,,゚Д゚)「……お前は、もう少し静かに来れんのか」
甲板で空を見ていた耳族の男が言う。
呆れたように半目で兄者を睨んでいた。
( ´_ゝ`)「別に爆竹を使ったわけでもあるまいし」
(,,゚Д゚)「使ってたら、ここから放り出すところだった」
( ´_ゝ`)「すんません。しません」
身軽な兄者とは対照的に、その男は腕力がある。
制服の上からでもわかる筋肉は、兄者程度の者ならば甲板から放り投げることもできると予想させる。
(´・ω・`)「大体から、キミが堂々とボクらの前に現れるってのもどうかと思うよ」
二人の様子を眺めていた、これまた耳族の男が口を挟む。垂れた眉毛が特徴的だ。
先の男ほどではないが、彼の体も見事な筋肉がついている。
大人しそうな顔に騙される者もいるに違いない。
- 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 02:00:46.75 ID:EHpwtljV0
-
(´<_`;)「ギコさん! ショボンさん! ジョルジュさん!
うちの馬鹿が迷惑かけて――ますよね! すみません!」
旋回したドラゴンが甲板に足を着ける。
ほぼ同時に駆けだした弟者はそこにいた三人に声をかけた。
_
( ゚∀゚)「お前も大変だねぇ」
兄者と耳族達の様子を眺めていた男、ジョルジュが煙草の煙を吐き出す。
人間でもなく、耳族でもないその姿は、彼が精霊であることを示している。
ドクオ達のような羽根は見えないが、それは制服の下に隠されているだけだ。
(´<_`;)「ええ。もう少し落ち着いた行動をして欲しいです」
(,,゚Д゚)「言われてんぞ。馬鹿」
( #´_ゝ`)「馬鹿じゃないぞ!」
(´・ω・`)「大丈夫だよ。馬鹿兄貴はいつも通りだから」
(´<_`;)「それって駄目じゃないですか……」
- 60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 02:03:37.44 ID:EHpwtljV0
-
( ^ω^)「じょるじゅさん、このあいだぶりですお」
_
( ゚∀゚)「おー。チビ。お前らの主人は相変わらずだなぁ」
('A`)「チビ……」
精霊の能力は大きさに比例する。
兄者や弟者の肩に乗る程度のドクオ達の能力は、高がしれている。
対して、今も煙草を吹かしているジョルジュの体は大きい。
長身の兄者達に比べると小さいが、それでも普通の人間と比べれば少し大きい。
その大きさは、そのまま彼の能力の強さを表している。
_
( ゚∀゚)「ははは。しゃーねぇだろ?
お前達とオレじゃ、どうしたって違う。
生まれは誰にも決められない。しかたないことさ」
( ´_ゝ`)「よっ! 大将! 言うことが違うね!」
_
( ゚∀゚)「うちの隊長はそこのギコだがな」
(,,゚Д゚)「創始者にして初代隊長が何を言っているんですか……」
- 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 02:06:36.73 ID:EHpwtljV0
-
ギコはため息をついた。
耳族である彼は、精霊であるジョルジュの半分も生きていないし、生きられない。
そんな自分が隊長を務めていることは、一生解決されない疑問としてギコの中にある。
( ^ω^)「でも、ぼくは、あそこでうまれてよかったお」
_
( ゚∀゚)「そうかい」
('A`)「……クルシカッタシ、シニタカッタケドナ」
( ^ω^)「それでも、あそこでうまれたから、ぼくらはあにじゃとおとじゃにであえたんだお」
(´<_` )「ブーン……」
弟者は思わずブーンを撫でた。
これが庇護欲とでもいうのだろうか。
_
( ゚∀゚)「お前さんらは何でも拾うからなぁ。
そっちのドラゴンも拾ったんだろ?」
( ´_ゝ`)「ちーがーうー。
盗んだんだ! 欲しかったから!」
(´・ω・`)「ボクら、一応警察なんだけど……」
- 64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 02:09:29.56 ID:EHpwtljV0
- _
( ゚∀゚)「こいつらの能力じゃ大したことできねーだろ?」
ショボンの言葉を無視して、ジョルジュはドクオとブーンを指差しながら言う。
(´<_` )「目くらましくらいはできますよ」
能力の弱いブーン達にも役目はある。
精霊使いである弟者と契約していることだ。
兄者ほど身体能力の高くない弟者は、代わりとばかりに精霊使いになった。
精霊と契約し、その能力を借りる。
契約を交わした精霊との距離が近ければ近いほど、
その精霊が強ければ強いほど、弟者が使うことのできる魔法の威力は上がる。
( ^ω^)「ぼくがもっとおおきければよかったんだけどお……」
('A`)「イウナ。オレガミジメニナル」
小さな彼らではあるが、遠く離れた地方にいる精霊の力を借りた魔法と比べるならば遜色はない。
国中を窃盗して回ったついでに、弟者は様々な属性の精霊と契約している。
けれども、やはり使う魔法は光と闇が多い。
(´<_` )「そう言うな。
珍しい属性だから、相手の意表をつくこともできるんだ」
- 66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 02:12:08.66 ID:EHpwtljV0
-
五大属性とは違う属性をブーンとドクオは持っている。
ほがらかなブーンは光の属性を、
重い空気を持つドクオは闇の属性を持つ。
珍しい属性なので、対策を打てる人間も少ない。
盗みをする上で、相手の意表をつくことは大切だ。
( *^ω^)「そうかお? ぼくら、やくにたってるかお?」
(´<_` )「勿論だ」
( *^ω^)「おっおっ!」
ブーンは嬉しそうに弟者の周りと飛び回る。
活発ではないドクオは、照れながらその場でふわふわしていた。
(´・ω・`)「……そういうことをするから、捕まえられないんだよねぇ」
困ったような口調。
しかし、その表情は嬉しげだ。
- 67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 02:15:28.00 ID:EHpwtljV0
- _
( ゚∀゚)「いいじゃないか。どうせここはニュー速地方。
犯罪者を捕まえる奴なんていない」
持ち歩いている携帯灰皿に煙草を放りこみながら笑う。
本当はショボンも兄者達の行動を楽しみにしている節があることを彼は知っている。
_
( ゚∀゚)「第一、オレ達の仕事は国の治安を守るためっつーよりも、
ラウンジが飛行船で押しかけてこないかを見張るって役割の方が強ぇし」
(,,゚Д゚)「職務はまっとうしなければなりません」
お堅い顔をしてギコが言う。
真面目な彼らしい言動ではあるが、その口から出る全てが真実だとは限らない。
_
( ゚∀゚)「またまたー。
お前さんは納得できなきゃしない男だよ。
だからこそ、隊長に選んだんだ」
- 72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 02:18:39.73 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「ギコは良い奴だもんな」
(,*゚Д゚)「なっ……!」
(´・ω・`)「『奴隷制度は廃止するべきだ!』って、隊長に昇格したときにお上に言ったよね。
普通に却下されてたけど」
_
( ゚∀゚)「真面目ー」
(,*゚Д゚)「あー! みんなでニヤニヤするのはやめろ!
オレは奴隷なんてものが許せないだけだ!」
(´<_` )「正義感が強いんだよな」
( ^ω^)「いいひとだお!」
('A`)「ソレハミトメル」
_
( ゚∀゚)「いやー。隊長が良い奴でオレも鼻が高いよ」
(,*゚Д゚)「ジョルジュさん! いい加減にからかうのはやめてください!」
- 74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 02:21:45.39 ID:EHpwtljV0
-
全員でギコを撫で回そうとして、彼に一本背負いをかけられていく。
弟者達よりも少し年上の彼は、人間で言えばそろそろ中年に差しかかっている。
流石に撫で回されるのは恥ずかしい。
(;´・ω・`)「痛いよー」
(,,゚Д゚)「反省」
(´・ω・`)ゝ「イエス。サー」
(,;゚Д゚)「敬礼はいらん」
( ´_ゝ`)ゝ「イエス。サー」
(,,゚Д゚)「お前、強制的に空察へ入隊させてやろうか」
( ^ω^)「やめておいたほうがいいお。
すきかってして、ひこうせんをぼろぼろにするお」
('A`)「ヤリカネナイ」
(;´_ゝ`)「あれっ! オレって信用ない?!」
- 77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 02:24:16.98 ID:EHpwtljV0
- _
( ゚∀゚)「いやー。本当に大変だな」
(´<_` )「まあ、そうですね」
楽しげな面々を横目に、ジョルジュと弟者は並んで立っている。
騒ぎの中、いち早く抜け出した二人だ。
新しい煙草にライターで火をつける。
体に悪いとはいえ、精霊である彼にしてみれば大したものではない。
元より寿命の短い弟者にも関係ない。
(´<_` )「古いライターですね」
_
( ゚∀゚)「そうだな。もう、数十年は使ってる」
(´<_` )「修理の跡が見えますよ」
_
( ゚∀゚)「馬鹿。このくらい使い込んでるほうが、格好良いだろ?」
そういうが、使い慣れたものを手放したくないだけだ。
手に馴染んでいるそれを手放すつもりはない。
- 79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 02:27:28.06 ID:EHpwtljV0
- _
( ゚∀゚)「……いつか言おうと思ってたんだけどよ」
ジョルジュは煙草を吸い、煙を吐く。
煙草は間を言い出しにく話をするときには最適だ。
自分の背中を押す一瞬を、違和感なく作ることができる。
_
( ゚∀゚)「お前、辛くねぇか?」
(´<_` )「え?」
予想外の質問に、弟者はジョルジュを見た。
ジョルジュとしては、予想通りの表情が返ってきただけだ。
騒がしい声をBGMに、ジョルジュがまた口を開く。
_
( ゚∀゚)「兄者は、盗みとかスリルとか、好きだろ。
でも、お前は違うんじゃねぇか?」
(´<_` )「……」
- 81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 02:30:04.18 ID:EHpwtljV0
-
弟者は沈黙した。
それは肯定を示している。
_
( ゚∀゚)「静かに暮らしたいんだろ?
何なら、研究でもしながらさ」
(´<_` )「……したい、ですね」
魔法が使えるとはいえ、身体能力の低い弟者が兄者に着いて行くのは難しい。
足を引っ張ることもある。その度に、弟者は悔しい思いをすることになる。
本当に手を掴みたいとき、弟者の手は兄者を逃がす。
_
( ゚∀゚)「お前ならできるさ。
頭も良い。性根も真っ直ぐだ。お前には、お前の生き方があるだろ?
兄貴に言ってみろよ。受け入れてくれるさ」
おそらく、兄者は今の生活を変えることはできない。
スリルにとり憑かれている。平和な日常など許容できないに違いない。
それならば離れて暮らせばいい。
ずっと一緒にいなければならないわけではない。
(;´_ゝ`)「ぎゃー! マッチョ共に潰されるぅぅぅ!」
兄者の叫び声が聞こえる。
見れば、ギコとショボンに左右から圧迫されていた。
また余計なことを言ったに違いない。
- 83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 02:33:32.83 ID:EHpwtljV0
-
(´<_`;)「何やってんだ……」
_
( ゚∀゚)「弟者、お前が望むなら、研究者に口を利いてやってもいい。
これでもそれなりに生きてる。コネくらいならあるぞ」
兄者の方へ足を踏み出した弟者へ言う。
押し付けがましいわけでもなく、ただ単純に弟者のことを思ってくれているのがわかる。
(´<_` )「……」
咄嗟に言葉がでない。
胸の内にある思いの形は見えているはずなのに、表に出すのは難しい。
(;´_ゝ`)「弟者ああああ! ヘルプミィィィ!」
(´<_`;)「おお。兄者、が見えなくなる!」
一度足を止めたものの、弟者は答えることなく床を蹴った。
彼の目に映る兄者は、筋肉に呑まれていっているようにさえ見える。
何が起こっているのかはともかく、助けを求められていることに違いはない。
- 85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 02:36:22.48 ID:EHpwtljV0
-
(;'A`)「アニジャ、ツブサレル!」
(´<_` )「むしろ取り込まれているようにも見える……。
お二方、その馬鹿は何をしでかしたんですか?」
一先ずは現状の把握が必要だろう。
何とも言えぬ状況の一塊に声をかける。
(´・ω・`)「操縦できる! とか言って操縦室に行こうとするから……」
(;´_ゝ`)「一人でできるもん!」
(,,゚Д゚)「歯磨きまでにしとけ」
二人の間に挟まれて兄者は呻いている。
せめて左右の二人が女性ならば幸福だっただろうに。
(´<_` )「兄者、反省しろよ」
(;^ω^)「たすけてあげてほしいお!」
ブーンの叫び声が甲板に響いた。
- 86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 02:39:03.36 ID:EHpwtljV0
-
( ´_ゝ`)「あー。死ぬかと思った」
(´・ω・`)「私刑は許されてないからねぇ」
(;´_ゝ`)「許されてたら殺られてたの?」
_
( ゚∀゚)「まあまあ、仲良きことは美しきかなってことで」
(,,゚Д゚)「何が『ってことで』なんですか……」
ジョルジュ達は警察だ。しかし、他の警察とは一味も二味も違う。
その役割から積極的に犯罪者を捕まえようとはしない。
空を守っているとは言っているが、VIP国の者で空を飛べる者は精霊くらいだ。
_
( ゚∀゚)「オレらも似た者同士だしぃ?」
(,,゚Д゚)「こいつらと違ってちゃんと働いてますよ……」
( ´_ゝ`)「オレだって働いてるよ」
(´<_` )「おそらく盗みは仕事ではないと思われ」
(´・ω・`)「そういうことだよね。それがお仕事ならボクもするよ」
(,,゚Д゚)「お前は更生したんだろうが」
ギコがショボンの頭を殴る。
それほど力は入っていなかったようだが、打撃音は鈍く響いていた。
- 88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 02:42:06.45 ID:EHpwtljV0
-
この空察にいる者は、殆どが孤児か元犯罪者、国に合わぬ思想を強く持った者達ばかりだ。
ニュー速に流れ着くこともできなかったような、外れ者達ばかり。
_
( ゚∀゚)「お前達は相変わらずだなぁ」
彼らを拾ったのが、この隊の創始者であるジョルジュだ。
飛行船に乗っている者は皆、彼に拾われ、ここで働いている。
(,,゚Д゚)「お前は少し不真面目が過ぎる」
(´・ω・`)「じゃあ、真面目に流石兄弟を逮捕します」
( ´_ゝ`)「だが断る」
(´<_` )「同意」
彼らは顔をあわせる度に、このような茶番を繰り広げている。
空察は彼らを捕まえる気など毛頭ない。
_
( ゚∀゚)「善人を捕まえるわけにはいかねーしな」
( ´_ゝ`)「オレ達が善人?」
兄者はまたまたー。と、手を振る。
( ´_ゝ`)「オレ達は盗賊ですよ。っと」
- 89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 02:45:39.09 ID:EHpwtljV0
-
腰に下げていたククリを抜く。
軽い調子でその切先をジョルジュに向けた。
無論、それでどうにかしようというわけではない。
_
( ゚∀゚)「お前がどういう考えで動いていても、助かってる奴は大勢いるってことだよ」
( ´_ゝ`)「ふーん」
ククリを軽く投げ、また柄を握る。
まるで大道芸のような仕草だ。
( ´_ゝ`)「オレは好きに生きているだけだよ。
耳族の寿命は短いんだから、好きなことを好きなだけするのさ」
('A`)「イキイソイデル……」
( ´_ゝ`)「そうでもないさ。
ヤバイことはしない。オレだって長く生きていたいからな」
_
( ゚∀゚)「ま、好きにした結果、そいつらやドラゴンは助かってるわけだ。
お前はいらない金はそこいらにバラ撒く癖があるし」
(´<_` )「兄者は宵越しの金は持たない主義なんだよな」
( ´_ゝ`)「おうともさ!
金なんて、必要なときにあればいい!」
- 91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 02:48:32.97 ID:EHpwtljV0
- _
( ゚∀゚)「はは。そういうところ、好きだぜ」
( ´_ゝ`)「ヤダ。ホモ?」
(,,゚Д゚)「てめぇ、殺されたいのか」
(´・ω・`)「ジョルコン……」
(,#゚Д゚)「あ?」
(´・ω・`)「ジョルコン」
(,#゚Д゚)「尊敬して何が悪い!」
ギコがショボンの胸倉を掴み上げる。
それなりの体格をしている男が取っ組み合い間近という様子は何とも恐ろしい。
(´<_`;)「喧嘩が勃発してますけど」
_
( ゚∀゚)「えー。放っておけよ」
( ^ω^)「けがしちゃうお」
_
( ゚∀゚)「バーカ。んな柔じゃねーよ」
- 92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 02:51:19.12 ID:EHpwtljV0
- _
( ゚∀゚)「で、お前ら次はどこ行くんだ?」
とうとう取っ組み合いを始めた二人を無視して問いかける。
武器を使い始めたら止める気ではあるが、二人共そこまで馬鹿ではないはずだ。
(´<_` )「そういえば、オレもまだ聞いてないぞ」
( ^ω^)「きになるお」
('A`)「ドウセ、マタヘンナモンダロ」
基本的に兄者は興味の惹かれるモノしか盗まない。
必要があれば金を盗むこともあるが、今回はわざわざニュー速に来ているところを見る限り、
何かしらの曰くつきか、違法のもとに生み出されたナニカなのだろう。
( ´_ゝ`)「ふふふ! それは、ドラゴンの上で教えてやろう!」
_
( ゚∀゚)「何だ。オレには教えてくれないのか?」
( ´_ゝ`)「ちゃんと盗んだら紹介してやるよ」
(´<_` )「一応、盗みの情報だしな」
( ´_ゝ`)「そうそう」
('A`)「ゼッタイニ、アニジャハ、ソコマデカンガエテナイ」
( ^ω^)「だお」
- 97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 02:54:37.06 ID:EHpwtljV0
-
( ´_ゝ`)「じゃあ、そろそろ行くか!
いい感じに日も暮れてきたし」
( ^ω^)「空から見る夕日は綺麗だお」
_
( ゚∀゚)「羨ましいだろー」
未だに喧嘩をしている二人を除いた全員が夕日を見る。
オレンジ色の太陽が沈んでいく様子は圧巻だ。
(´<_` )「ま、そろそろお暇いたします」
_
( ゚∀゚)「おう。頑張れよ」
('A`)「ソレモオカシナハナシダロ」
( ´_ゝ`)「オレの辞書に失敗の二文字はない!」
兄者がドラゴンの背中に飛び乗る。
その後に弟者が続く。
- 99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 02:57:21.28 ID:EHpwtljV0
-
沈む日にあわせてドラゴンが降下していく。
場所はずれたが、まだニュー速地方の中だ。
(´<_` )「で、今回の目標は?」
( ´_ゝ`)「ハーフだ」
(´<_` )「ハーフ?」
思わず鸚鵡返しになる。
異種族が恋に落ちることがないとは言わない。
しかし、所詮は違う種族。
子を成せたという話は聞いたことがない。
それどころか、まともな夫婦生活を送れたなど、物語の中でもお目にかからない。
( ´_ゝ`)「そうだ。それも、すごいぞ!」
('A`)「イヤナヨカン」
ドクオが沈んだ声を出す。
彼が沈んでいるのは今に始まったことではないが、彼の嫌な予感というのは中々の確率で当たる。
- 100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 03:00:14.21 ID:EHpwtljV0
-
( ´_ゝ`)「精霊と人間のハーフだっていうんだ」
( ^ω^)「せいれいと……?!」
精霊の相手が耳族でなかっただけ、マシだったと言うことしかできない。
ブーンは驚愕の声を上げた。
他の二人など声を出すこともできず、呆然としている。
(´<_`;)「待て待て。精霊が、他の種族と?
それも、子を成したと?」
極一部を除けば、精霊は他の種族を見下している。
彼らが人間と色恋に発展するとは思えない。
さらにいえば、自然界から生まれるとされている精霊に、生殖機能があるのかという疑問もわく。
('A`)「オレハナイノニ……」
ドクオが己の股間を眺める。
彼が精霊だからか、特殊な生まれのためか、そこに生殖機能を持ったブツはない。
ジョルジュにでも聞けば、その辺りの疑問は解決するのだろうけれど、
たった今、手を振ったばかりの相手に聞きに行くことは憚られる。
- 103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 03:03:30.47 ID:EHpwtljV0
-
(´<_` )「場所は?」
( ´_ゝ`)「おっ。やる気か?」
(´<_` )「オレのやる気に関わらず、決行するんだろ?
なら、最善を尽くすだけさ。お兄様」
( ´_ゝ`)「最高の弟を持ててオレは世界一幸せだよ。
場所はニュー速、dat町の外れ。イカレタ研究者の家さ」
dat町は、ニュー速の中でもおどろおどろしさの強い町だ。
活気はなく、いつも静かで、それでいて一度気を抜けば、一瞬で丸裸。
最悪でなくとも、命を落としてしまうような場所だ。
ただ、頭のわいた人間には丁度いい町でもある。
( ^ω^)「けんきゅうしゃ、かお」
ブーンの眉間にしわが寄る。
不服そうな、悲しそうな。そんなしわだ。
( ´_ゝ`)「あぁ、可哀想な子供だと。
望まれて生まれたわけではないと言われ、奴隷として売り出されたらしい」
(´<_` )「奴隷闇市場か」
- 106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 03:07:02.32 ID:EHpwtljV0
-
奴隷市場の中でも、さらなる闇の部分。
どこかで開催されているらしい。と、いう情報しか兄者達も知らない。
厳重に鍵をかけられている情報だ。そして、然したる興味もない。
('A`)「ソイツヲ、ヌスムノカ?」
( ´_ゝ`)「そうだ。面白そうだろ?」
兄者の顔は赤く染まり始めていた。
夕日は沈みきったというのに、頬に浮かぶ赤さは変わらない。
( *´_ゝ`)「ハーフなんて始めて見る。
本当にハーフなんだろうか。人間と、耳族と、精霊と。それのどれとも違うんだろうな!
何ができて、何ができないんだろうな!」
ある意味では、兄者も研究者達と変わらないのかもしれない。
純然たる興味を持って、彼は対象を見る。
相手がそれによって不快感を持つことなど欠片も考えてはいない。
( ^ω^)「いじめられてないといいけどお……」
それでも、兄者は非道なことはしていない。
痛めつけることも、傷つけることもしない。
そのことは、ブーンとドクオが誰よりも知っていた。
- 107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 03:10:20.26 ID:EHpwtljV0
-
(´<_` )「いつ決行する?」
( ´_ゝ`)「今日がいいけどなー」
もう空も暗い。
dat町は近いので、今すぐに向かえば丁度良い頃合に着くだろう。
何より、兄者の心はハーフに向いてしかたがない。
誕生日を心待ちにする子供のように、胸のうずきが止まらない。
('A`)「ジャア、イク?」
(´<_` )「だな」
兄者のことをよくわかっている面々は、すぐに答えを出した。
光の中、堂々とモノを頂くのも悪くはない。
しかし、やはり盗賊は闇の中、華麗に、気づかれぬうちに盗み出すのが美しい。
時には強盗といっても差し支えのないこともするが、本意ではないのだ。
( ´_ゝ`)「じゃあ決定!」
( ^ω^)「ぼくもがんばるお!」
( ´_ゝ`)「期待してるぞ!」
- 109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 03:13:15.30 ID:EHpwtljV0
-
彼らの意思に従う意思を見せようとしたのか、ドラゴンも喉を鳴らす。
得物を狙うときのような音は、彼の昂揚を示しているようにも思えた。
(´<_` )「お前も楽しいか」
真面目で、安定した生活を望んでいる弟者でも、仕事の前は胸が高鳴る。
どうしたって気分か高まり、脳が熱くなる。
耳族よりもずっと単純で、本能だけで生きているドラゴンならば、その高まりはなおさらに強い。
彼自身が仕事をすることはあまりない。
奇襲、陽動、逃げる足。それくらいのものだ。
( ^ω^)「どらごんもたのしみにしてるといいお!」
( ´_ゝ`)「絶対に、すげーからさ」
ドラゴンも仲間だ。
道具ではない。
だからこそ、同じような気持ちになる。
('A`)「アニジャ、ソロソロdatマチダゾ」
下には何も見えない。
明かりの一つもない町。dat町。
- 112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 03:16:34.15 ID:EHpwtljV0
-
( ´_ゝ`)「よし。一度地上に降りるぞ」
よりいっそ、静かで暗い時間を狙ってきているのだ。
ドラゴンの背に乗って突撃するわけにはいかない。
兄者の指示にしたがい、ドラゴンは町から少しだけ離れたところに着陸した。
派手な色をしているドラゴンだが、月明かりしかないような場所ならば、隠れることは容易い。
弟者は動くことのないようにしっかりと言い含め、兄者の後を追う。
dat町には何度か来たことがあるが、腕がたつ者でも、一人でいることはオススメできない。
見境なしに絡まれるため、進むのに時間がかかってしかたがない。
何人かが固まっていれば、絡まれる確率はそれなりに下がる。
( ^ω^)「いつものおとじゃとあにじゃだお」
('A`)「ミスボラシイ?」
(´<_` )「うるさい。そこまでみすぼらしくはないだろ」
豪華な装飾を着けてあるくなどもっての他だ。
余計なものを取っ払ったシンプルな服を着ている二人は、奴隷市場を見ていた時とは雲泥の差だ。
- 114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 03:19:48.36 ID:EHpwtljV0
-
( ´_ゝ`)「イケメンはどんな姿でもイケメンだろ?」
('A`)「……?」
(;´_ゝ`)「黙って首を傾げるな」
飛ぶことが得意でないドクオは、先頭を歩く兄者の肩に乗っている。
軽く傾げられた首は、兄者の心を痛めつけるには十分過ぎる威力を持っていた。
(´<_` )「あまり遊ぶな。
どの家だ?」
ドクオと戯れている兄者に尋ねる。
家とはいっても、この辺りの建物は廃墟といった方がしっくりくるモノが多い。
下手に普通の家を建てようものならば、すぐに襲われて一家惨殺がオチだ。
そのため、この町で非合法な行いをする者達も廃墟を使用する。
しかし、廃墟はフェイクで、実際はどこかに隠し通路が用意されていることが殆どだ。
一つ一つの廃墟を探していくなど、不可能に近い。
ここで仕事をするということは、ターゲットの場所を明確にしていて当然なのだ。
( ^ω^)「ひかり、いるかお?」
( ´_ゝ`)b「いーや。大丈夫。しっかり調査済みだ」
- 116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 03:22:39.49 ID:EHpwtljV0
-
四六時中一緒にいるはずなのだが、弟者にはそのような気配を微塵も見せていない。
そもそも、今回の盗みに関する情報の元とて、弟者は知っていない。
教えてくれてもいいではないかと思わずにはいられなかった。
( ´_ゝ`)「えっとだな……」
兄者が細い目をさらに細める。
暗闇の中で、廃墟の判別をつけているその目はせわしなく動いていた。
( ´_ゝ`)「あの廃墟だ」
( ^ω^)「みぎからにばんめかお?」
( ´_ゝ`)「そうだ。
あそこの一番奥の部屋に、地下へ続く扉がある」
(´<_` )「そこにいるのか」
('A`)「ケンキュウシャハ、スンデルノカ?」
( ´_ゝ`)「いいや。お目当てはあそこで飼われているだけらしい。
お偉い研究者様は、廃墟の地下なんぞで暮らしやしない」
(´<_` )「中々のご身分ですことで」
- 119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 03:25:24.79 ID:EHpwtljV0
-
カラカラと笑う。
生まれも育ちも底辺の彼らとしては、もはや嫉妬の気持ちもわきあがらない。
( ´_ゝ`)「右よし」
(´<_` )「左よし」
( ^ω^)「いくお!」
(;'A`)「ウオッ」
走りだした兄者に、ドクオの態勢がブレる。
しっかりと掴まってはいるが、大した力ではないのだ。
素早く、けれども足音はたてない。
盗賊特有の走り方だ。
兄者は当然のこと、弟者もマスターしている。
( ´_ゝ`)「よし、いよいよ一歩踏み出すぞ……!」
(´<_` )「オレが開ける」
地下への扉に手をかけようとしていた兄者を制した。
こんなところに隠しているとはいえ、何らかの罠がないとも限らない。
念を入れるに越したことはない。
- 121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 03:28:14.47 ID:EHpwtljV0
-
(´<_` )「ドクオ。やるぞ」
('A`)「ドーゾ」
弟者は扉に手をかざす。
触れぬように気をつけながら、ギリギリのラインまで手を伸ばす。
(´<_` )「闇の精霊、ドクオと契約せし我が命ず。
光を宿さぬ内側の闇よ、外に溢れる闇よ。
この扉を我に伝えよ」
詠唱が始まると、扉の向こう側にある闇が蠢く。
弟者が使っている魔法の源はドクオだが、彼自身に影響は何らない。
あるのは弟者への負担だけだ。
隙間も痛みも重さもない闇が扉を隅々まで調べていく。
その情報は弟者の頭へ直接叩きこまれていく。
( ´_ゝ`)「相変わらず、すげーなぁ」
その様子を兄者はじっと眺めている。
扉や宝箱を開けるとき、弟者はいつもこの魔法を使う。
頭の中に直接情報を叩きこまれている状況なので、他の魔法以上に集中力を必要としている。
そのため、兄者の言葉は、現在弟者に届いていない。
- 123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 03:31:27.93 ID:EHpwtljV0
-
弟者のおかげで、罠に引っかからずに済んだことは、両手の指を使っても数えられない。
そもそもが、行き当たりばったりな兄者だ。
罠のことなど頭にないことが多い。
扉を丹念に調べている弟者ほどの集中力は、殺気渦巻く中の戦いの中か、金庫を開けるときくらいのものだ。
( ^ω^)「あにじゃもみならうお」
( ´_ゝ`)「馬鹿だなぁ。
弟者ができるんだから、オレはできなくてもいいの」
( ^ω^)「そういうもんかお?」
( ´_ゝ`)「そういうもんさ。
ドクオはお前ほど早く飛べなくてもいいし、お前はドクオほど慎重じゃなくていい」
同じようなことができる者が集まっていてもしかたがない。
適度に違うことができる者が必要なのだ。
(´<_` )「二、三の罠があったが、何とか解除したぞ」
弟者が顔を上げる。
ドクオは飛ぶことにつかれたのか、弟者の頭の上だ。
- 125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 03:34:31.63 ID:EHpwtljV0
-
( ´_ゝ`)「よくやった!」
弟者の背中を軽く叩く。
簡単な罠ならば兄者にも解除はできる。
けれど、それはあくまでも、普通の罠だった場合の話だ。
精霊と人間のハーフなんぞを飼っている研究者が張る罠が、縄や刃物を使った普通の罠のはずがない。
しかけられていたのは、精霊の力を利用した魔法の罠だ。
細かい種類は、解除した弟者にしかわからないが、単純明快なものではなかっただろう。
(´<_` )「まだ盗みが終わったわけじゃないんだぞ」
そう言いつつも、弟者は嬉しそうだった。
( ´_ゝ`)「確かにな。よし。ならば、先へ進もう」
扉を開ける。
重たい音を響かせて開いたソレは、下へ下へと続く階段の存在を明らかにする。
明かりのない階段はどこまでも暗く、底どころか二段下さえ見えない。
- 130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 03:49:43.39 ID:EHpwtljV0
-
( ^ω^)「じゃあ、つぎはぼくのばんだお?」
ブーンが期待を胸に尋ねる。
暗い中、明かりを使えば、誰かに見つかってしまう可能性がある。
その辺りを考えれば、明かりを使うことはあまり褒められた行為ではない。
しかし、地下に入るのならば外に明かりが漏れることもないだろう。
何より、先が見えないというのはどうにも不安だ。
まだ罠があるかもしれない。
弟者も常に気を張っているわけにはいかない。流石に集中力にも限界がある。
(´<_` )「そうだな。ブーン、力を貸してくれるか?」
( *^ω^)「もちろんだお!」
('A`)「マブシクナル……」
( ´_ゝ`)「昼の光ほどじゃないだろ」
('A`)「ソーイウモンダイジャナイ」
- 133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 03:52:34.99 ID:EHpwtljV0
-
闇の精霊であるドクオは、ブーンの光が苦手だった。
無論、ドクオがブーンのことを嫌っているわけではない。
ただ、本能として苦手意識がどうにも拭い切れないだけだ。
( ´_ゝ`)「ま、気になるならオレの懐にでも入っていればいいさ」
兄者が服を少しはだけさせると、ドクオはそこに潜り込む。
硬い毛並みは、けっして心地良いとはいえないが、少しばかり高い体温は何故か心地良い。
( ^ω^)「ごめんだお……」
('A`)「イヤ、ソレハオレノセリフ」
二人はどちらかといえば仲が良い方だ。
だからこそ、互いに謝罪の言葉を投げあう。
(´<_` )「よし。じゃあ少しだけ降りてから使うぞ」
弟者が階段を降りる。
兄者がそれに続く。
暗い階段を降りれば、世界全体が闇に包まれてしまったかのように思える。
頭上にあるはずの外の世界とて、それほど明るいわけでもないので、
どこまでも暗いトンネルが続いているような錯覚さえしてくるというものだ。
- 135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 03:55:18.31 ID:EHpwtljV0
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(´<_` )「光の精霊、ブーンと契約せし我が命ず。
彼が作り出す光よ、常闇の世界をまばゆく照らせ。
闇に呑まれた我らを救え」
途端、弟者の手のひらに光の球体が現れる。
( ´_ゝ`)「おー。見える、見えるぞ!」
( ^ω^)「すすむおー」
光の球体によって階段の先が見えるようになる。
特に罠もなさ気な、至って普通の階段だ。
それでも、できるだけ慎重に進むのは、先頭を歩く弟者の性格故だ。
( ´_ゝ`)「夜が明けちまうぞー」
(´<_` )「朝日を浴びないうちに死んだらどうするんだ」
兄者の野次にも屈せず、己のペースで進んでいく。
下へ向かうほど、空気が薄くなっているような気がして、胸がしぼむ。
- 137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 03:58:23.59 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「しかし、ブーンもドクオも便利だな!」
ゆっくりとしたペースには飽き飽きしているのか、兄者は声を上げる。
構っても疲れるだけだとわかっている弟者はその声を無視した。
( ^ω^)「ぼくらだけじゃ、どうにもならないお。
おとじゃがいるからだお」
代わりにブーンが答える。
飛んでいる彼に疲れは見えない。
( ´_ゝ`)「精霊使いってすごいよなー」
精霊だけで能力が使えないわけではない。
彼らの持つ能力に優劣が存在しているとしても、元々は火を灯すことや、コップ一杯の水を出現させることくらいのもの。
けれど、精霊使いが使う魔法は強力だ。
時にはうねりを上げる炎を使い、空から豪雨を降らせることさえある。
( ^ω^)「おとじゃがせいれいつかいでよかったお!
あにじゃだけじゃ、ぼくらはやくわりをもらえなかったお」
精霊使いは、精霊の体と互いに交わされた契約を通して、精霊の属性の力を引き上げることができるのだ。
弟者の力を持ってしても、大したことができるわけではないブーンとドクオなど、
自身の能力を存分に使ったとしても、何もおこっていないのと変わらない。
- 139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 04:01:34.91 ID:EHpwtljV0
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しばらく下り続けて、一行は最下層と思われる場所にたどり着いた。
特に何か起こるわけでもなく、ひたすらに兄者が喋っていただけだった。
最下層では、もはや外の空気など微塵も感じられない。
彼らの目の前には一枚の扉がある。金属でできたそれは、重く、冷たい。
何をされているのかは知らないが、こんなところで飼われているハーフも、ろくな目にはあっていないだろう。
( ^ω^)「ずいぶんとおりてきたお」
(´<_` )「思ったよりも深かったな」
( ´_ゝ`)「隠し財宝ってのは、深い、深いところにあるもんさ」
('A`)「オレモ、オタカラミタイ……」
兄者の懐に隠れていたドクオが顔を出す。
光が眩しいのか、細い腕で何とか影を作ろうとしている。
( ^ω^)「だいじょうぶかお?」
('A`)「ダイジョウブ。ダイジョウブ」
一回り体の大きいブーンが影になろうとドクオのもとへやってくる。
彼自身は発光していないので、丁度良い光避けだ。
- 142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2012/11/18(日) 04:04:24.71 ID:EHpwtljV0
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( ´_ゝ`)「よし。全員……ドラゴンはいないが、しかたないか。
まあ、おおよそ揃ったところで、ご対面といこうじゃないか」
(´<_` )「その前に、ドクオ、もう一度力を貸してくれ」
('A`)「ワカッタ」
最後にとてつもない罠がないとも限らない。
すぐにでも扉を開けたい気持ちはあったが、弟者の言うことは間違いではない。
忘れて駆け出すことも多々あるが、扉を見つけた時は極力、弟者を待つつもりではいる。
弟者が口を開き、兄者は一歩下がる。
失敗するか否かなどは心配していない。
一刻も早く中に入りたいという気持ちだけが胸の内に溢れている。
(´<_` )「闇の精霊、ドクオと契約せし我が命ず――」
途端、バチンッと、激しい音が響いた。
● 支援イラスト『冒頭のシーン・漫画化』 専用スレ>>170より
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