■2012年芸術の秋ラノベ祭りのようです
└川 ゚ -゚)ききたいようです
- 1 名前: ◆v9sUzVr/7A[sage] 投稿日:2012/11/19(月) 00:26:35 ID:NFxNXQws0
夢をみた。
( ^ω^)「また書いてるのかお」
「うん」
( ^ω^)「よく飽きないおね」
「飽きる飽きないの問題じゃないし」
月が喋る。
(´・ω・`)「俺ならその行為に厭きるね」
「うっさいな」
(´・ω・`)「ご苦労なことだね、ほんと」
「嫌味しか言えないのかお前ら」
雲が喋る。
( ^ω^)「僕は言ってないお。性格悪いのは雲の野郎だお」
(´・ω・`)「ぶち殺すぞ。今すぐお前を隠してやろうか」
(;^ω^)「おっ、やめてくれおー! お話しできなくなる!」
(´・ω・`)「そのピーチクうるせぇ口を閉ざせるなら、俺は何でもやってやる」
(;^ω^)「殺るって言ったお今ああああ!」
そして。
( )「はーあ」
影が、今日も手紙を書く。
.
- 2 名前: ◆v9sUzVr/7A[sage] 投稿日:2012/11/19(月) 00:27:29 ID:NFxNXQws0
川 ゚ -゚)ききたいようです
.
- 3 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/19(月) 00:28:43 ID:NFxNXQws0
- その夢を見始めたのはいつ頃だったろうか。
確か数年ほど前には、もう見ていた記憶がある。
ξ゚听)ξ「クー、おはよう」
川 ゚ -゚)「おはよう、ツン、デレ」
ζ(゚ー゚*ζ「おはよう!」
どこか広い草原で、喋るお日様とバラと、おはようから始まる夢。
寝ている時間なのだから、当然おはようの時間ではないのだが。
そう指摘しても、彼女達はおはようと言うので、私もおはようから始めることにした。
それに、その日初めて会うのだから、おはようでも問題はないだろう。
……おはようがゲシュタルト崩壊しそうだ。
ζ(゚ー゚*ζ「ねえねえ、今日はどんな日だった?」
川 ゚ -゚)「私自身は特に変わらなかったよ」
ζ(゚ー゚*ζ「お話してよー」
ξ゚听)ξ「喋るの好きね、あんた」
ζ(゚ー゚*ζ「バラだもの。太陽だって聞きたいでしょ?」
ξ゚听)ξ「べっ別に私は聞かなくたっていいもの!」
川 ゚ -゚)「そうだな……そうだ、今日は朝、ペニサス先生が結婚するって聞いたよ」
- 4 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/19(月) 00:29:28 ID:NFxNXQws0
こうしてお日様とバラと話をしたり、二人が喋るのを聞いていたり、楽に過ごせる時間だ。
夢、なのだが、憩いであり癒しでもある。
普通の夢とは違うとはっきり自覚した時には、もう既にこの夢に馴染んでいる自分が居た。
さわさわとバラが笑いながら体を揺らす。
ぴかぴかとお日様が光りながら照れる。
可愛らしい。
私の夢の産物とは思えぬ程だ。
ζ(゚ー゚*ζ「ツンちゃん大分傾いてきたね」
ξ゚听)ξ「そうね……」
ζ(゚ー゚*ζ「ふふっ、寂しそう」
ξ゚听)ξ「あんたはもうまた! デレだってそうでしょう!」
ζ(゚ー゚*ζ「うん、寂しいなぁ。クーちゃん、またお話してね」
川 ゚ -゚)「ああ。ツンもデレも、また会おう」
おはよう、と言った時、真上に居たお日様が、地平線に近くなっていた。
斜陽がバラを照らし、景色が朱く染まっていく。
私は立ち上がると、地平線を見据えた。
- 5 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/19(月) 00:30:16 ID:NFxNXQws0
ξ゚听)ξ「……またするの?」
川 ゚ -゚)「ああ」
ζ(゚ー゚*ζ「飽きないねぇ」
川 ゚ -゚)「どうにも止められない。届くかもしれないと思うと」
ξ゚听)ξ「好きね」
川 ゚ -゚)「好きかは分からないが、そうだな」
ζ(゚ー゚*ζ「ツンちゃんだって好きなくせにぃ」
ξ///)ξ「わわわ私は別に月のことなんかどうだって会ったことなんてないし別に」
ツンは夕日になったせいで余計に真っ赤になる。
そうやってよく光って感情を表すから、デレにからかわれるのだ。
すぅ、と息を吸い込む。
口の横に手を当てる。
川 ゚ -゚)「なあ、聞こえているかー!」
呼びかける。
会ったこともない、あいつに向かって。
川 ゚ -゚)「訊きたいことがあるんだ。君に訊いてみたいことがあるんだ」
川 ゚ -゚)「だから……おーい!」
少しのこだまを残し、声は吸い込まれていく。
返事も変化もなかった。いつもの通りに。
- 6 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/19(月) 00:31:14 ID:NFxNXQws0
ζ(゚ー゚*ζ「今日も返事ないね」
川 ゚ -゚)「そうだな」
ξ゚听)ξ「諦めないの?」
川 ゚ -゚)「いつか飽きたらな」
そう言いながらも、簡単には止めないだろうと私は確信していた。
だから二人も、これ以上は何も言わない。
ξ゚听)ξ「じゃあまたね」
ζ(゚ー゚*ζ「またねぇ、クーちゃん」
川 ゚ -゚)「またな」
おはようで始まった時間は、またねで終わりを告げる。
お日様が沈むと、景色は暗く、バラの姿ごと溶けていく。
やがて、暗闇の中で一人、私は立っている。
一つ小さく息をつくと、私はその闇の中を歩き出した。
不思議と周囲は「見えて」いる。何もないのだけれど。
水面を歩けたらきっとこんな感じだ。遠い水音を幻聴しながら、私は歩いた。
ぼんやりと光る何かを見つけ、私はそこに向かう。
そこにあるのは、夜の風景。
水面を切り取ったような、窓のような。
決して触れられない、月と雲と、影の居る景色。
- 7 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/19(月) 00:31:57 ID:NFxNXQws0
( ^ω^)「今日も今日とて変わり映えしなさそうだおね」
( )「そう簡単に変わらないって」
(´・ω・`)「さみしーい毎日だな」
( )「うっせ」
(´・ω・`)「反論できねー癖によ」
( )「うっせー!」
月と雲が喋り、丘の上には顔の見えない影が居る。
……ツンとデレが居るあの夢の後、この風景に出会って、どれ程経っただろう。
切り取られた、もしくは霞が一部取れたような、水面の向こうのような。
窓のように、私はそこを覗いている。
- 8 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/19(月) 00:32:56 ID:NFxNXQws0
(´・ω・`)「で、また書いている訳か」
( )「うん」
( ^ω^)「もう溢れかえってるお」
( )「……しょうがないだろ。こうしないとすっきりしないんだ」
影はいつも、手紙を書いている。
いや、手紙なのかは分からない。ただ、薄い赤紫の便箋に何かをずっと書いている。
封筒に入れられたそれは丘を埋め尽くし――やがてほろりと窓を超えて落ちてくる。
今日は久しぶりに落ちてきたな。
その「手紙」を私は拾い上げる。
『何を、そんなに一生懸命なんだろう』
短く。
けれど、想いの籠った手紙。
手紙はどうやら時期がまちまちのようで、時に古いものや新しいものがあった。
『誰だろう』
『ちくしょう辛い』
『嫌いだ。大嫌いだ』
『きれいだ』
古いものでは、辛い寂しいといった感情や、嫌い、憎い、という感情が多かった。
けれど最近は、さっきのように誰かに宛てた手紙が多い。
『会いたい』
私は訊きたい。
彼に(口調とぼんやり見える顔からして多分彼だ)、訊きたい。
一体誰に、そんな想いの籠った手紙を書いているのかと。
- 9 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/19(月) 00:33:59 ID:NFxNXQws0
川 ゚ -゚)「おおい」
だから、私は呼びかける。
川 ゚ -゚)「なあ、誰に手紙を書いているんだ!?」
私に応えてくれない影に。
川 ゚ -゚)「君は――誰なんだ?」
- 10 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/19(月) 00:34:56 ID:NFxNXQws0
月が沈んでいく。
( ^ω^)「おっ、時間だお」
(´・ω・`)「やれやれ、しょうがねえからまた来いよ」
( )「へいへい。ありがとさん」
空が紫紺に明るくなっていき――白く、私の居る場所も染めていく。
- 11 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/19(月) 00:35:41 ID:NFxNXQws0
目が覚めると、ベッドの下だった。
川 ゚ -゚)「……っくしゅ」
幸いタオルケットも落ちていたので、さほど寒くはなかったが、くしゃみが一つ。
この寝相の悪さを勘案すると、布団に変えた方がいいだろうか。
どっちにしろ変わらないか。せいぜい打ち身をしなくなるくらいだ。
……いや、それは意外と大きい気がしてきた。真剣に考えてみることにしよう。
着替えと朝食を済ませると、大学生の姉であるシューが起きてきた。
lw´‐ _‐ノv「お、もう行くの。いってらーマイシスター」
川 ゚ -゚)「いってきます、シュー姉」
ソファにだらけるシュー姉を置いて、私は家を出た。
……今日は一限からじゃなかったんだろうか。まあ高校よりは余裕あるだろうからいいだろう。
- 12 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/19(月) 00:36:35 ID:NFxNXQws0
教室で、薄緑のノートに今日の夢を書く。
通常の夢はすぐに忘れてしまうのに、お日様とバラの、そしてあの夜の風景だけは深く覚えている。
だから、夢だけれど、夢ではないように私は思っている。
あの影。
誰かに、何かに手紙を書いている彼。
――彼は、どこにいるのだろう。
会いたい。
会って、訊きたい。
君は誰に手紙を書いているのかと。
何を、伝えたいのかと。
けれど、夢の中ですら届かないのに。
……そもそも、夢なのだから、現実に会えるなんて思わない方がいいのに。
ため息をついてペンを回す。
(*゚ー゚)「おはよ、クー。何見てるの?」
川 ゚ -゚)「しぃか。何でもない」
ノートを閉じて友人に答える。
流石に夢の話は誰にもしていない。
(*゚ー゚)「そう? ね、それよりこれ見てよ、これ」
ほらトソンも、と近くに居た友人も引っ張り込み、しぃは私の机に雑誌を広げた。
それに載っていたのは『街角で見かけた彼』という記事だった。
- 13 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/19(月) 00:37:26 ID:NFxNXQws0
[ (,,゚Д゚) ]
(*゚ー゚)「ほら、これギコくん載ってるの」
(゚、゚トソン「わ……本当だ。すごい」
川 ゚ -゚)「へえ」
クラスメイトでしぃの彼氏、ギコが少し固い顔で載っていた。
街角で見かけたカッコいい人を撮ろう、という企画らしい。二人で歩いている時に声をかけられたそうだ。
カッコいいでしょ、と臆面もなくのろけるしぃに、トソンは頷き、私は適当に流していた。
[ ( 'A) ]
――ふと、隣の背景に目が留まる。
横顔、というか斜め後ろの角度で、小さく小さく映っている人。
たまたま映り込んだだろう、ガラス越しの姿に――私は、目を離せなかった。
『同じ所で二人もイケメン見つけたよ!』と二人の写真の下に小さく煽りが載っている。
(*゚ー゚)「ん、どしたの、そんなに見詰めちゃって。あ、ようやくギコくんのカッコよさが分かった?
……まさか惚れちゃった? そ、それはダメだからね!」
(゚、゚トソン「違うと思います……見てるの隣の写真です」
川 ゚ -゚)「…………」
似てる。
気がする。
不鮮明な映りの、その面影が。
あの、彼に。
川 ゚ -゚)「……なあ、しぃ」
(*゚ー゚)「違うんだ、よかったー、って何?」
川 ゚ -゚)「これ、どこで撮ったんだ?」
- 14 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/19(月) 00:38:24 ID:NFxNXQws0
放課後、しぃから情報を貰い、私はその街角に来ていた。
近場の繁華街、ゲーセンの近く。映画館やデパート、本屋など、まさにデートにはうってつけの場所だ。
私たちの高校も近いが、他にも二つ程高校が近い。その内一つはブレザー。もう一つと私たちの高校は学生服だ。
映っていたのは学生服のようだった。
つまり、うちか、もう一つか。その可能性が高い。
うちの高校の写真を調べるか、映った場所を調べるか。
私は後者を選んだ。
三学年合わせての写真チェックより、こっちの方が可能性があると思ったのだ。
……いや。
それよりも、会えるかもしれない。
その気持ちが強すぎた。
まだ彼だと決まっていない。
夢は所詮夢じゃないか。
向こうは知らない筈だ。
こんな所で会えるわけがない。
沢山の不安が交差する。
それでも、来てしまった。
写真の場所に立つ。放課後の遊び場は、騒がしい。
カラオケに行くだろう集団や、ブレザーの集団、うちの高校の生徒も居る。
その中に――彼は居るだろうか。
ざわざわしている。
横断歩道の、青信号の音楽が鳴っている。
人が多い。風がぬるい。
探す。
探す。
さがす。
祈るように。名も知らぬ彼を、さがす。
.
- 15 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/19(月) 00:40:30 ID:NFxNXQws0
結論から言うと、見つかりはしなかった。
目を皿のようにして探したけれど、それだけで見つかれば奇跡ではないだろうか。
ζ(゚ー゚*ζ「どうしたの、元気ないね」
また今日もお日様とバラの夢。
この所、よくこの夢を見る。以前はぽつぽつと、という感じだっただのが。
彼女らや影たちに会うのは楽しいから問題はない。ともあれ、今日の出来事を二人に話す。
ξ゚听)ξ「ふうん。例の影にね」
川 ゚ -゚)「信じてくれるのか?」
ζ(゚ー゚*ζ「うん! だってクーちゃんがそう感じたならきっとそうだよ」
ξ゚听)ξ「そうね」
川 ゚ -゚)「珍しく素直だな」
ξ゚听)ξ「だってきっとそうだもの」
ζ(゚ー゚*ζ「私たちにも分かるもの、夢だから」
信じてくれて素直に嬉しかった。
……夢。そう、夢だ。
でも、現実かもしれなくて、そして、それを夢の存在に肯定された。
これはただの夢じゃない。
だからきっと、彼にも――
ξ゚听)ξ「……もうこんな時間だわ」
それから二人と話し、二人が話すのを聞き、気付けば景色が朱くなっていた。
また今日も叫ぶ。君に会いたいと。訊きたいと。
ξ゚听)ξ「またね。きっと見つかるわ」
ζ(゚ー゚*ζ「クーちゃん。きっと繋がるよ」
二人の言葉に頷き、私は夕から夜になるのを待った。
水音がする。瞬きをすると、そこはもう夜だった。
窓からまた月と雲と影を覗く。
- 16 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/19(月) 00:41:31 ID:NFxNXQws0
( ^ω^)「お? 何か今日はいつにも増して暗い顔してるお」
( )「……かもな」
(´・ω・`)「まっずい顔が余計見れなくなるぜ」
( )「……うるせーな」
(´・ω・`)「……マジで落ち込んでやがるとかよぉ」
( ^ω^)「おお……久々だお」
どうしたのだろう。
いつもは月や雲の軽口など、叩き返している位なのに。
顔は見えない。見えないけど、落ち込んでいるのは伝わってきた。
( ^ω^)「…………」(´・ω・`)
( )
- 18 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/19(月) 00:42:28 ID:NFxNXQws0
そして彼は、今日も手紙を書いた。
いつもはそのまま手紙の丘に紛れるそれを、彼は折りたたむ。
出来上がった紙飛行機が、つい、と飛んだ。
それはこちらへと近づき、私の足元に零れた。
『俺なんて、』
川 ゚ -゚)
書きかけの一言。
強い筆跡と文字を消したぐちゃぐちゃの線。
伝わる。
まるで、この夢を見始めた時のようだ。
下手をすると、その時よりもずっと。
川 - )
何故だ。
( )
ぎゅっと手紙を握りしめる。
何故、私は伝えられない。
伝えたいのに。
- 19 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/19(月) 00:43:18 ID:NFxNXQws0
川 ゚ -゚)「私は」
いつものように手を口にやろうとすると、拡声器があることに気付いた。
そのまま口に持っていく。
私はこんなにも。
こんなにも君に、会いたい、訊きたい――
川 ゚ -゚)「――届けたいんだ!!」
ぱりぃん、と。
――――窓が、われた。
- 20 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/19(月) 00:44:07 ID:NFxNXQws0
(;´・ω・`)「んっ!?」
(;^ω^)「おっ!?」
( )
川 ゚ -゚)
影が振り返る。
( 'A)
川 ゚ -゚)
私は手を伸ばす。
( A )「――――」
景色が白む。
どんどん目の前の光景が溶けていき――
そして私は、目を覚ました。
.
- 21 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/19(月) 00:45:03 ID:NFxNXQws0
+ + + + +
俺がその夢を初めて見たのは、何年も前になる。
喋くる月と雲。夜の風景。
普通の夢じゃなかったのは、それをいつもはっきり覚えていたから。
でも別に普通かそうじゃないかはどうでもよかった。
大切だったのは、あいつらと話して、そして、書くこと。
( ^ω^)「何書いてるんだお」
('A`)「……今日思ったこと」
( ^ω^)「お? そんなの言えばいいお」
(´・ω・`)「聞いてやらなくもねーのによ」
('A`)「だって、言えないから」
ブーンやショボンは聞いてくれるだろう。
でも、現実では言えない。
だから、書く。
昔から言葉にするのが苦手で、こんな夢でしか喋れない俺の、心の洗濯。
- 22 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/19(月) 00:45:44 ID:NFxNXQws0
『こんな俺、嫌いだ』
『あいつら嫌。嫌いなら話しかけんな』
『なのに寂しい』
言えない言葉を、薄い赤紫の紙に綴る。
それをそっと夢の中に置くことで、俺は色んな物を吐き出していた。
内容はあいつらも知らないが、俺の気持ちは何となく分かってるようだった。
( ^ω^)「根暗だお」
(´・ω・`)「暗すぎんだろ」
('A`)「はっきり言うな」
嫌味や軽口を交えながら、俺はそれが好きだった。
素直に口に出す月のブーンと、捻くれて口の悪い雲のショボン。
悪意がないのが分かったから。
現実なんかより、ずっと。
- 23 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/19(月) 00:46:33 ID:NFxNXQws0
ある時から、あいつらに会う前に、太陽と薔薇と、黒髪の少女の夢を見るようになった。
ξ゚听)ξ
ζ(゚ー゚*ζ
川 ゚ -゚)
声は聞こえない。
ただ、喋っているのは分かった。
彼女らは、主に太陽と薔薇が喋って、少女が相槌を打っているようだった。
ξ#゚听)ξ
ζ(゚ー゚*ζ〜♪
川 ゚ー゚)
時折見せる笑顔や、普段は動かない怜悧な表情が、綺麗だと思った。
そう思った時は、その感情をそっと記した。
川 ゚ -゚)「――」
その内に彼女は、夕方になり夜になる直前、何事か言うようになった。
立ち上がり、どこかを見据え、叫ぶように。
懸命になっていることは聞こえなくても分かった。
いったい何を、叫んでいるのだろう。
何を、そんなに一生懸命になってるんだろう。
気付くと、俺の書くことは彼女のことばかりになっていた。
- 24 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/19(月) 00:47:40 ID:NFxNXQws0
( ´ー`)「お前、その本好きなの?」
('A`)「あ、うん……あ、の、読む?」
( ´ー`)「いや、持ってるから。これ好きな奴中々いネーヨな」
( ・∀・)「ん、何それ。面白いの?」
( ´ー`)「おう。お前つまんネーつった本」
('A`)「おもしろい……よ」
( ´ー`)「だよなー!」
( ・∀・)「よく読めるなぁ、そんな難しいの」
夢の中であいつらと軽口を叩き、汚い感情を書いて吐き出していると、やがて現実でも少し喋れるようになった。
彼女への気持ちを書いているうちに、現実はそんなに嫌ではなくなっていた。不思議なことに。
川 ゚ -゚)「――――」
彼女は、どんな人なんだろう。
どんな声をしているんだろう。
知りたい。
聴きたい。
- 25 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/19(月) 00:48:46 ID:NFxNXQws0
( ´ー`)「なあドクオ、あのシリーズの新刊出たよな」
('A`)「ああ、そうだった」
( ´ー`)「今日さ、着替えたら駅前の本屋いかネー?」
( ・∀・)「僕は漫画コーナー! 明日発売日なんだけどフライングゲットできるかなぁ」
( ´ー`)「シラネーヨ」
('A`)「俺……お前らん家より遠いし、このまま行く」
(*・∀・)「んー。僕は着替えてくよ。ねぇねぇ、写真とか撮られたらどうする?」
( ´ー`)「「シラネーヨ」」('A`)
中学で仲良くなったネーヨと同じ高校に行く為、少し遠くの高校に進学した。
モララーも頑張って成績をあげ、今ではすっかり安定している。
この日はモララーが本当に写真を頼まれ、ネーヨが「残念なイケメンめが」と罵るのを聞きながらこっそり同意した。
- 26 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/19(月) 00:49:29 ID:NFxNXQws0
そんな日々の、別の放課後だった。
(*゚ー゚)「私たち、人を待ってて……」
(゚、゚;トソン オロオロ
( ^Д^)「まーまー、いーじゃん、女の子待たせる奴なんてほっといて遊ぼうぜー。
あ、それとも女の子? それなら待ってるよ!」
(*゚ー゚)「困りますから」
制服の女子二人が、馬鹿に絡まれていた。
カッコよく着崩した風の、だらしない恰好。……こいつ、小中と嫌いだった奴だ。
だがそれよりも――女子の制服に、目が行った。
一人はセーラーで、一人はその下だけであろう、シャツ。
彼女と同じだった。
そう認識した瞬間、衝撃だった。
実在するなんて。
そしたら、もしかしたら、彼女が居るかもしれないなんて。
探したことはなかった。でもどうやら近所の高校らしい。
女子なんて彼女以外興味なかったから、今まで目につかなかったのだろうか。
……ああ。
やっぱりあれはただの夢じゃない。
- 27 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/19(月) 00:50:13 ID:NFxNXQws0
( ^Д^)「オレ面白いトコ知ってんだー。なぁ、行こうぜ、絶対気に入るって」
(*゚ー゚)「あの、本当に結構ですから」
( ^Д^)「そんなこと言わないでさぁ。ねー、そっちの彼女も説得してよ」
(゚、゚トソン「えっ? いえ……その、私たちは……」
( ^Д^)「ほらほら、行こうよ」
(゚、゚;トソン「きゃっ」
(;゚ー゚)「放して下さい!」
俺が衝撃を受けている間に、話はどんどん進んでいた。
プギャーの奴、女子の手を取って無理やり歩こうとしている。
……やっぱり最低な奴だ。
…………。
見過ごす、のか?
そしてまた、書くのか?
あいつは最低だと。
俺はそれで――いいのか。
- 28 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/19(月) 00:50:57 ID:NFxNXQws0
('A`)「よ……よせよ」
( ^Д^)「ああ?」
(*゚ー゚)「……!」(゚、゚トソン
睨まれて竦む。いやがってるだろ、と蚊の鳴くような声で言う。
( ^Д^)「関係ねーだろ! ……ん? お前……もしかして」
('A`)「…………」
( ^Д^)「wwww何だよ、根暗くんじゃねーかよww」
無視して女子にかかってる手を掴んだ。
よせよ、という声は震えていた。
( ^Д^)「触んじゃねーよ!!」
ふり払われる。道端に転がった。
( ^Д^)「何だよお前wwヒーローにでもなったつもり?wwばーかwwww」
背中が痛い。息が一瞬止まった。キツい。
ヒーローなんて、つもりじゃ。
ああ。ちくしょう。痛い。
('A;)
囃し立てられた過去が蘇る。
背中を打ったせいか息がし辛い。涙が滲む。
プギャーの嘲笑が響いた時。
- 29 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/19(月) 00:51:59 ID:NFxNXQws0
(,,゚Д゚)「やめろ」
( ^Д^)「あ? ……ぐあっ!?」
(,,゚Д゚)「ツレに手出すな。とっとと行けよ」
( ^Д^)「っち、ちくしょう、何だよ! けっ、そんなブスこっちから願い下げだっつの!!」
捨て台詞を吐いて、プギャーは早足に立ち去った。腹が痛そうだった。
(,,゚Д゚)「大丈夫か、二人とも」
(*゚ー゚)「うん、ありがとうギコくん!」
(゚、゚トソン「ありがとう……あの、あの人……」
(*゚ー゚)「あっ、大丈夫ですか!?」
三人が座り込んでる俺の傍にやってくる。
女子二人はハンカチやティッシュを出して汚れを落としてくれた。
男子は俺の腕を持って立ち上がらせてくれた。
('A`)「……あ、ありが、」
(゚、゚トソン「ありがとう、ございました」
(*゚ー゚)「うん、ありがとうございます」
(,,゚Д゚)「ありがとうな、助けようとしてくれて」
お礼の言葉が突き刺さる。
俺は、助けられなかった。みっともなく転がっただけだ。
ありがとう、と何とか絞り出して、俺はその場を逃げ出した。
- 30 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/19(月) 00:52:59 ID:NFxNXQws0
( ^ω^)「お? 何か今日はいつにも増して暗い顔してるお」
('A`)「……かもな」
(´・ω・`)「まっずい顔が余計見れなくなるぜ」
('A`)「……うるせーな」
(´・ω・`)「……マジで落ち込んでやがるとかよぉ」
( ^ω^)「おお……久々だお」
今日も夢を見た。喋る太陽と薔薇、叫ぶ彼女の夢の後、気付いた事実に俺はどん底まで落ちていた。
俺はヒーローになりたかったわけじゃない。
ただ助けたかったわけでもない。
確率は少なくとも、もしかして彼女に俺のことが伝わりはしないかという、下心からだった。
そうまでして彼女に会う可能性に賭けたくて、その癖、助けることができなかった。
あの女子二人が無事だったのは、待ち人の男子が来てくれたからだ。
俺がいなくたって問題なかった。
プギャーに、一言も言い返せなかった。
紙に書きなぐる。
『俺なんか、』
……情けなさと自己嫌悪が大きすぎて、続きは書けなかった。
いつもは紙の山に置くそれを、今日は紙飛行機にする。
こんな気持ちから逃げたい。
……俺は、結局、変わっていない。
紙飛行機は、山の向こうに落ちて紛れた。
珍しく月も雲も何も言わない。
よかった。
今は何を言われても返せる気がしない。
.
- 31 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/19(月) 00:53:40 ID:NFxNXQws0
――ぴん、と何かが響いた気がした。
('A`)「……?」
ぱりぃん。
(;´・ω・`)「んっ!?」
(;^ω^)「おっ!?」
('A`)「え……?」
唐突に響いたその音は、何だかとても澄んでいた。
振り返る。
目線の先に、誰かが。
川 )
あの、女の子、が。
川 - )
('A`)「あ――」
風景が、一気に白くなって、俺は意識を失った。
.
- 32 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/19(月) 00:54:24 ID:NFxNXQws0
気付くと目を覚ましていた。
('A`)「……どう、して」
どうして彼女が。
伝わった? そんな馬鹿な。
何が、どうして、いつもは夜になると居なくなるのに。
学校でも彼女のことを考えながら過ごした。
何だか怒っているような、悲しんでいるような表情が気にかかった。
彼女に何があったんだろう。
川 ゚ -゚)「――――」
それから、彼女は一言だけ言う日が続いた。それもおそらく同じ言葉を言い、夜に溶けていく。
現実では彼女と同じ制服を探し、夢ではそれを見続ける生活を続けた。
- 33 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/19(月) 00:55:09 ID:NFxNXQws0
そうして数日後の雨の日だった。
今日も駅前の繁華街に来て、制服を探す。
何人か見つかったが、彼女と思しき人は居なかった。
何をやっているんだろう。
夢だ。ただの夢じゃないと思っていたって、やはり夢なのだ。
('A`)「…………」
帰ろう。雨も強くなってきた。傘も忘れてきた。
.
- 34 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/19(月) 00:55:59 ID:NFxNXQws0
「見つけた」
.
- 36 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/19(月) 00:56:42 ID:NFxNXQws0
――声と、背中に細いものが当たる感覚がした。
「手を挙げろ」
いたずらめかした声。
みつけた、と言った時の嬉しそうな声。
ゆっくりと、半身を振り返る。
川 ゚ -゚)
彼女が、居た。
川 ゚ -゚)「ようやく、会えたな」
――ああ。
聴きたかった、声だ。
('A`)「……ああ……」
声が震える。
降りしきる雨の中、横断歩道の明るいメロディが響く中、彼女の声しか耳に入らない。
たくさんの傘が行き来するけど、彼女しか目に入らない。
ようやく、聴けた。
――会えた。
- 37 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/19(月) 00:57:34 ID:NFxNXQws0
川 ゚ -゚)「おっと、点滅してる」
('A`)「ぅぉ、とあぶねっ」
彼女と並んで横断歩道を渡りきる。
知らぬ間にとっていた手に気付き、慌てて解いた。
川 ゚ -゚)
('A`)
じっと互いを見詰める。
川 ゚ -゚)「とりあえず喫茶店にでも入ろうか」
('A`)「あ、そ、そうだな、濡れてるから風邪ひいちゃうよ」
川 ゚ -゚)「君もずぶぬれだ」
小さく笑って、彼女は薄い赤紫の傘を開いた。
川 ゚ -゚)「ん」
彼女が傘をこちらに寄せる。
意図を察して少し迷ったが、素直に入ることにした。
- 38 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/19(月) 00:58:19 ID:NFxNXQws0
二人で傘を差し、歩き出す。
川 ゚ -゚)「さて、何から喋ろうか」
楽しそうに、彼女は言う。
俺も少しだけ笑って答えた。
('A`)「喋る月と雲と、太陽と薔薇の話」
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- 40 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/19(月) 00:59:05 ID:NFxNXQws0
ききたいようです('A`)
終
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● 支援イラスト 同スレ>>196より
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