2012年芸術の秋ラノベ祭りのようです
( ^Д^)影のお前のようです (^Д^ )



73 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 03:43:12 ID:jLb9rTIk0

さっきまで、ネオン煌めく駅前の繁華街を闊歩していたものだとばかり思っていたのに、いつの間にか住宅街に迷い込んでいた。
周りは薄暗く、申し訳程度に備え付けられた電灯がぽつぽつと道を照らしていた。

私は迷子になっていた。



( ^Д^)影のお前のようです (^Д^ )

 ◆No.172

74 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 03:44:34 ID:jLb9rTIk0


見当をつけようと辺りを見回すが、どこかで見た事があるような家が立ち並んでいる。
道を聞こうにも、静まり返ったこの道で歩いているのは私だけだった。


良い年をしてみっともない限りだが、私はしたたかに酔っていた。
歩いているうちに酔いが回ったらしく、足取りは少し覚束ない。
これで妻に手渡す土産の品を提げれば立派な酔っ払いの出来上がりだ。


たしか、仕事帰りに一杯引っ掛けて行こうと思って居酒屋の暖簾をくぐったはずだ。
しかし、手の平にはいつも持ち歩いている皮鞄がどこにもなかった。
まさか店に置いてきてしまったのか、はたまた路上でうっかり居眠りをして忘れてここまで歩いてきてしまったのか。
慌ててポケットを探れば、貴重品の類は持っているらしい。
ならば家に一旦帰って、また街に繰り出したのか。

75 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 03:46:02 ID:jLb9rTIk0


( ^Д^)「俺も若いなぁ。」


そう、独りごちた。

冷たい風が頬を掠め、火照った体を冷やす。
それにしてもどうも先程から記憶が曖昧で居心地が悪い。
歩き続けても住宅街は終わりを見せず、まるで同じ所をぐるぐる回っているような気がした。


そんなまさか――。


考えただけでぞっとした。
この道の端と端をメビウスの輪のように繋げてそこを延々と歩かされる、そんな様子が簡単に想像できた。
私は少しだけ歩調を速め、何か目印になりそうなものを探した。

76 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 03:47:42 ID:jLb9rTIk0



かなりの距離を歩いたはずなのに、景色は一向に変わる気配がなかった。
依然としてブロック塀で囲まれた民家が立ち並ぶ。
家は一様に古かった。
本当に人が住んでいるのだろうか ?耳を澄ましても、衣擦れの音すら聞こえない。
私はほとほと困り果て、歩くのを止めて道の真ん中で立ちつくしていた。

77 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 03:48:41 ID:jLb9rTIk0


( :::;.:. )「あんた、迷子だろう。」


不意に声を掛けられた。
ぎょっとして振り返ってみれば、サラリーマン風の中年の男が私の真後ろに立っていた。
あと少し踏み込んでいれば、私の肘が男の頭にぶつかるところだった。


(;^Д^)そ「わぁ! あんた、一体いつからそこに !?」


明らかに異様ななりをしていた。いや、見た目に変わった所はない。
違和感を感じさせるのはその奇妙な姿勢だ。
頭を下げ、俯いたままこちらに話し掛けている。
顔には暗い影が落ち、よく見えない。
取り立てて身なりに特徴がない分、余計に気味が悪かった

78 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 03:50:04 ID:jLb9rTIk0


( :::;.:. )「なぁ、あんた、迷ったんだろう?」


再度同じ質問をする。
こういう手合いに長く付き合ってはいけない、手っ取り早く言いくるめてこの場を立ち去らねば。


(;^Д^)「あぁ、お気になさらず。もうしばらく歩けば家に着きますので。」


そう答えて早足で歩き出す。
大体アイツは足音もたてずにどうやって俺に近づいた ?


( :::;.:. )「年甲斐もなく、飲むからだよ。だから迷子になったんだ。あんたは酒が弱いのに。」


一定の距離を保って、男がついてくる。
早く――この男から離れなくては。


( :::;.:. )「大人しく家にいれば良かったんだ。早めに布団に入って寝れば良かった。もしくは、家に帰らなければ良かった。」


嘲るような声が後ろから響く。
額に玉のような汗が浮かんでいた。
かなりの距離を取ったのに、声は肩越しから聞こえた。


( :::;.:. )「あんな女のこと、放っておけば良かったのに。」

79 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 03:51:18 ID:jLb9rTIk0


早足だったのが駆け足に変わり、駆け足だったのが全力疾走へ変わる。
コートがはだけるのも構わずがむしゃらに走った。


(;^Д^)「はぁ、はぁ、はぁ。」


どこかに出口はないのか、何かここから抜け出すきっかけのようなものは――。

周りの景色は目紛るしく動き回り、線状の渦を描いていた。
私はめまいにも似た不快感に捕らわれながら走り続けた。


( :::;.:. )「あ、踏切。そっちに行っちゃいけない。危ないんだせ、そっちは。」


アイツの罠かもしれない、だか行かない訳にもいかない。
男の声はすぐ耳元で聞こえていた。

80 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 03:52:10 ID:jLb9rTIk0



カンカンカン――。

         カンカンカン――。

81 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 03:53:07 ID:jLb9rTIk0


私は絶望していた。

確かに踏切はそこにあったが、すんでのところで遮断機が道を閉ざしたのだ。
轟々と音たて、車両が分厚い壁を作り出した。
あと少し、あと少しでくぐり抜けられたのに、私はどうしていつもタイミングが悪いのだ。


早く、早く、開いてくれ。


( :::;.:. )「血がカーテンまで飛び散ってた。」


( :::;.:. )「つい、かっとなったからって灰皿でめった打ちはないよなぁ。」


( :::;.:. )「出掛けて、また帰れば、全部なかった事になると思ったんだろ ?」


男があと数歩のところにいた。

82 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 03:54:57 ID:jLb9rTIk0


(;^Д^)「あんた、一体何なんだ !?ペラペラ喋っているが、俺の何を知っている !?」


( :::;.:. )「俺 ?俺は……。」


男が私に近づくと、素早い動きで私の頬を両手で捕えた。
頭をがっちりと固定され、視線を逸らすことができない。


男がぎくしゃくと不自然に首を震わせながら面を上げた。


ハ,;';::;゚ )「俺はお前だよ。」

83 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 03:56:37 ID:jLb9rTIk0


濁った瞳が私を見つめていた。


((; ゚Д゚))「は……あ、あぁ……おま、えは」


男の太い首筋から一回り小さい女の顔が据え置かれていた。
眼窩はえぐれ、凹んで中からドロドロとした液体が零れ出していた。
前歯は殆ど折れており、腫れ上がった口はただの黒い穴のようだった。


( ^Д^)「お前は俺じゃないよ……」


首を振って答えた。
彼のおかげで私は今まで忘れていたことをすっかり思い出していた。

それは私がついさっき殺したはずの妻だった。

85 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 03:57:29 ID:jLb9rTIk0


【TV】< 八時のニュースをお伝え致します。
昨夜深夜、VIP町の自宅マンションで、28才の主婦が死亡しついるのが発見されました。


【TV】< 同日未明、VIP署に被害者の夫が出頭し、殺人容疑で逮捕されました。


【TV】< なお男性は「妻の夜遊びを咎めた所口論となり、かっとなって殺した。」と供述して……。


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