2012年芸術の秋ラノベ祭りのようです
星を、食べる



89 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 04:08:17 ID:HtPnMyH.0












                           星を、食べる












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90 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 04:09:02 ID:HtPnMyH.0


男は口を開いた。

( ・∀・)「プラネタリウムで星を探す程度には、僕たちは星を忘れてしまったのかも知れない」

静まり返ったプラネタリウムに、男の声は小さく響く。
女はその響きに対してこう答えた。

o川*゚ー゚)o「なんで忘れてしまったの?」

暫く時間をおいて、再び男は口を開く。

( ・∀・)「生きてるから」

o川*゚ー゚)o「……そう」

二人の頭上には狭い夜空が永遠に広がっていた。


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91 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 04:11:11 ID:HtPnMyH.0
その晩、女は夏草の茂る草原で星を仰いだ。

o川*゚ー゚)o「……見えない」

街の明りは星々の命を殺していた。
女の目の前から星々が次第に消えていく。

o川*゚ー゚)o「ん……」

女は星に手を伸ばす。
すると、右手に柔らかな温かみを感じた。

掌の上には星が一つ、ふわりと浮かんでいた。

小さな輝きを見つめ、女はこう言った。

o川*゚ー゚)o「あの人が言ったの。私たちは星を忘れてしまったって」

星は黙って聞いている。何か考えているようだった。
女は、再び言葉を発する。

o川*゚ー゚)o「悲しい?」

女の問いに対して、星は一言だけ答えた。

「それは君たちが決める事だよ」

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92 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 04:12:40 ID:HtPnMyH.0
夏草が風に揺れる。潮の匂いに交じって星々の残り香がふわりと舞った。

o川*゚ー゚)o「そう」

「何故そんな事を聞くの?」

o川*゚ー゚)o「君達が消えてしまいそうだから」

女の言葉を聞いて星は笑う。

「消えないさ。この星ではなく、また宇宙に生きるだけ」

o川*゚ー゚)o「それって寂しい?」

「それは君たちが決める事だよ」

そう。と女が一言添えた。続けて、瞬きをすると星の姿は消えた。

女の掌から、温もりも何もかもが消えた。
そして、風は秋の足音をさせた。


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93 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 04:13:33 ID:HtPnMyH.0
秋になってもプラネタリウムは美しかった。

( ・∀・)「あれはアンドロメダ」

o川*゚ー゚)o「うん」

( ・∀・)「古代エチオピアの王家は偽物の宇宙で今も輝いているんだ」

女は男の顔をじっと見ていた。頭上には星々が輝いている。

男は狭い宇宙を覗いた。空は裂け、月が顔を覗かせた。
偽りの宇宙は喜びを表現した。

( ・∀・)「二匹の魚は永遠に離れる事は出来ない。幸せ者だ」

女はかぶせる様にして言った。

o川*゚ー゚)o「どうして?」

すると男は、すこしだけ微笑んでこう答えた。

( ・∀・)「だって、みんな一人じゃないか」

o川*゚ー゚)o「そっか」

この日、これ以上二人が会話を交わす事は無かった。

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94 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 04:14:39 ID:HtPnMyH.0
ある日の晩、女は星を見に行った。

o川*゚ー゚)o「おいで」

固く結んだ拳を解くと、そこには星があった。
星は何も言う事無く、女の顔を見つめている。
女も星を見つめ、しばらくは喋る事が無かった。

o川*゚ー゚)o「アンドロメダはカシオペアの兄弟」

突然、女が消えた声で呟いた。
声は消えていたにもかかわらず、星に伝わる。

「そう。ペルセウスとケフェウスも」

星も消えた声で呟いた。

o川*゚ー゚)o「君は誰の兄弟?」

女の問いに対して、星は二、三秒考えたふりをして口を開いた。

「君たちの兄弟だよ」

星の声に誘われたように風がなびいた。女の髪が、さらりとたなびく。秋の声がこだまする。

95 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 04:15:31 ID:HtPnMyH.0
o川*゚ー゚)o「だとしたら、君はお兄さん? それとも弟?」

星は、またしても二、三秒考えたふりをして口を開いた。

「弟さ」

女は訊ねる。

o川*゚ー゚)o「私より後に生まれたから?」

「そうじゃない」

o川*゚ー゚)o「なら、どうして?」

「それは、僕が星だからに決まってるじゃないか」

その答えに、頭上の星々が声を立てて笑い始める。
風は止み始めた。

女は風が止むのを見計らった様に口を開く。

o川*゚ー゚)o「宇宙から生まれたから?」

星は自慢げに、こう答えた。

「そうだよ」

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96 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 04:16:13 ID:HtPnMyH.0
o川*゚ー゚)o「なら、私は何から生まれたの?」

笑っていた星々が顔を見合わせる。
再び風が吹き、木々がざわめいた。星の残り香はしない。

「簡単な事じゃないか」

星は呆れた風に俯いた。

o川*゚ー゚)o「え?」

「人さ」

女が瞬きをすると星は消えていた。
頭上の星々の声も聞こえなくなった。

o川*゚ー゚)o「変なの」

静かになった星空にオリオン座の声が響いた。


    「もうそろそろだね」


風が冷たくなり、冬がのしかかった。

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97 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 04:17:09 ID:HtPnMyH.0
プラネタリウムは冬の寒さを感じる事は無い。
何故なら、宇宙だから。

女はプラネタリウムを羨ましく思った。

( ・∀・)「君は星を食べた事があるかい」

男は女に問う。

o川*゚ー゚)o「無いよ」

女は満天の偽物を見上げながら続ける。

o川*゚ー゚)o「アナタはあるの?」

( ・∀・)「もちろんさ」

男の声にプラネタリウムは身を震わせた。
次第に空が落ちてくる。ゆっくりと降りてくる星々は、まるでくしゃくしゃにしたティシューのようだった。

( ・∀・)「ほら、食べてごらん」

男は燻った星を女に手渡す。

98 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 04:17:58 ID:HtPnMyH.0
o川*゚ー゚)o「うん」

女は星を口に含んだ。
降りてきた星々は、ゆっくりと宇宙へ帰っていく。
宇宙が、おかえり、と言った。星々は、偽物の癖に、と笑った。

( ・∀・)「おいしいかい?」

女はその問いかけに答えない。
しかし、それに構うことなく男は続ける。

( ・∀・)「今君が食べたのは木星」

o川*゚ー゚)o「違う。これはリゲル」

女は否定する。

( ・∀・)「何故そう思うんだい?」

男の問いかけに女は、こう答えた。

o川*゚ー゚)o「私はとても双子になれそうもないから」

99 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 04:19:22 ID:HtPnMyH.0
( ・∀・)「でも、僕たちは皆双子だ」

男の言葉に星々は頷く。

o川*゚ー゚)o「だとしても、私は星と双子になりたい」

頷いていた星々が驚き、今度はざわめく。

( ・∀・)「星は弟でしかないんだよ」

そうだそうだ、と言った風に星々は再び頷いた。

o川*゚ー゚)o「それでも一緒にありたい」

女はそういうと、口を大きく開け星を戻した。
ぽろん、と音を立てて落ちる星に男は視線を移す。


プラネタリウムに風が吹いた。
風の匂いに、生えているはずの無い夏草を感じた。

男はただ一言、

( ・∀・)「星を忘れたくないんだね」

と漏らした。

100 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 04:20:21 ID:HtPnMyH.0
その夜、女は星を見に行った。
雪の混じる大地は、星々の輝きを受けて青白く光っている。

冬になっても人の灯りは暖かく星々を殺していた。

o川*゚ー゚)o「……ん!」

女が星空に手を伸ばすと、一筋の光が指先に落ちる。
次第にそれは球体となり、喋り始めた。

「今日も来たんだね」

o川*゚ー゚)o「うん」

ついに、星は常々疑問に思ったことを聞いた。

「夏も秋も冬も君は来る。何故?」

女は答える。

o川*゚ー゚)o「消えてしまうような気がするから」

星は再び口を開いた。

「消えないよ。宇宙で生きるだけ」

101 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 04:21:13 ID:HtPnMyH.0
冷たい風が吹く。

o川*゚ー゚)o「夏に言ったこと覚えてる?」

その風は星々を巻き上げてゆく。

「それは君たちが決める、って事?」

巻き上げられた星々は、レエスのカァテンの様に薄く伸びて行った。

o川*゚ー゚)o「うん。だから、決めるね」

カァテンは色鮮やかに染まり、オーロラとなる。

「そうか。決めちゃうんだ」

ゼウスがオーロラを纏い始めた。

o川*゚ー゚)o「ちょっと怖い」

そして、ゼウスは口を開く。おお、ベテルギウス。こっちへ来なさい。

「聞かせてよ、決めた事」

君たちはもう、この星には居られないよ。

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102 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 04:22:05 ID:HtPnMyH.0
o川*゚ー゚)o「それは……」

女が真実を言いだそうとした時、猫になった男が女の隣に座った。

  ∧∧
( -∀-)

o川*゚ー゚)o「君も聞きたいの?」

  ∧∧
( ・∀・)”

女の問いに対して、猫になった男は大きく頷いた。


その時。     びゅう、と冬の風が星の声を

o川*゚ー゚)o「じゃあ、言うね」


  運んで  いって


「うん。聞くよ」



        その        こえは





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103 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 04:22:49 ID:HtPnMyH.0



      しだいに





                   まんてんのほしぞらを





                          あらたな        うちゅうへ




                  だれもしらない



      うちゅう      
                        へ




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104 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 04:23:50 ID:HtPnMyH.0
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可愛キュートは買って間もない缶コーヒーを開けた。
缶から上っていく湯気は、冬の澄んだ空気に色を染める。

  ∧∧
( ・∀・)

その湯気に覆いかぶさるように野良猫が頭の上から顔を覗かせた。

o川*゚ー゚)o「まだ飲めないよ。熱いもん」

可愛は、早く冷めろと言わんばかりに飲み口に息を吹きかける。
時間は経てど、着ているコートから電話の着信音が鳴りやむ事は無い。

o川*゚ー゚)o「あ」

ふと気が付いた様に、可愛が空を仰ぐ。
そこには満点の星空が広がっていた。

o川*゚ー゚)o「……綺麗」

缶コーヒーから伸びていた湯気は消えてしまった。
野良猫は、飲み口から少しだけ除く星々をじっと見ていた。


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105 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 04:24:44 ID:HtPnMyH.0


      「食べていいよ」

o川*゚ー゚)o「え?」

         「星」

o川*゚ー゚)o「本物の星を?」

         「うん」


 ほしは ゆっくりと おりてきました

 おんなは おりてきた ほしを つかみとります

  ∧∧
( ・∀・)

 ねこになったおとこは そのようすを みていました

 ただ、そこには

 ほしの においだけが ただよっていました



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106 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 04:25:48 ID:HtPnMyH.0












                        女が星を見る事は、二度と無かった。












                               星を、食べる

                                ―了―



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支援イラスト 同スレ>>309より


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