■2012年芸術の秋ラノベ祭りのようです
└川 ゚ -゚)柱時計の街のようです
- 738 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 23:01:38 ID:GdetJi3g0
- 曇り切った空。
川 ゚ -゚) ……。
手に伝わる、冷たいレンガの感触。
肌に伝わる空気は、加湿された部屋のそれによく似ている。
少し高い場所から、少女はそれを見ていた。
川 ゚ -゚)<私は……
この街の人々が歩んできた”これまで”を、整理せずに積み上げただけの街並み。
その中で、場違いにも銀色に輝く『柱時計』を、彼女は見ていた。
川 ゚ -゚)<私は、きっとこの街と同じだ
- 740 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 23:03:46 ID:GdetJi3g0
世界は、
川 ゚ -゚)柱時計の街のようです
今日も、誰かを置いてけぼりにして
進む。
.
- 742 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 23:04:39 ID:GdetJi3g0
- がたんがたん、と音を立てて、緑の電車がどこかに走って行った。
彼女は、それが視界から消えるまで目で追った。
特に感想はなかった。
乗りたいな、とも、早いな、とも、あれはどうやって走っているのだろうとも、考えなかった。
川 ゚ -゚)<古いものから順番に、ずっと積み上げてきただけなんだ。恐らくは
電車から目を離した彼女は―――ああ、この女の子の名前はクーだ。
彼女はクーという。
クーは、自分の眼下に広がる光景を見下ろした。
下に行けば行くほど、建物は古く、歴史あるものに変わっていく。
もともとあった街を、新しく上へ上へと増築していったのだから、それは当然なのだ。
川 ゚ -゚)<一番下にある古いものは上の重みに耐えきれず、悲鳴を上げている。
それでも新しいものを積み上げざるをえないから、
やがて下の方にあるものは潰されてしまうのだろう
実際、つぶれた物件は、眼下にいくつも見られた。
木造の建物に設計を無視した増築を繰り返したのだから、それもまた、当然だった。
川 ゚ -゚)<下が崩れれば、上にある新しいものもまた、その影響を受ける。
だるま落としのように建物は下に落ち、崩れてしまうものもある。
柱時計が、ちく、たく、ちく、たく、と音を立てている。
内部の機構が丸見えなので、どの歯車がどのように動いて時を刻んでいるのかよく分かる。
柱時計の隣にある排水溝から水が流れた。
湯気を上げながら、水は下で崩れた建物の亡骸に降り注いだ。
- 743 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 23:05:32 ID:GdetJi3g0
川 ゚ -゚)<古いものが、新しいものを支えている。だから、過去の私が今の重さに耐えきれず崩れれば、
今の私もまた、壊れてしまうのかもしれない
どこかの居酒屋からだろうか。
ラジオの音が、どこかの野球の中継を伝えている。
ただ、彼女は野球に興味がなかった。
なので、クーの耳に届いたのは、それが野球の試合の中継だ、という事実だけだった。
それは彼女の心に残ることも―――クーに”クー自身として積み重ねられる”こともなく、
すっと、まるで人の体温に触れた雪みたいに、一瞬で、消えた。
川 ゚ -゚)<建物なら、まだ大丈夫だろう。崩れても、また新しいのを建てればいい。
問題は線路や排水溝なんかの、なにかを運搬するラインのほうだ。
ちく、たく、ちく、たく。
時計が建てる音はわずかなもののはずである。
しかし、クーは時計に興味を持っていた。
なので、彼女の耳に届いた音は、そのままクーに、”クー自身として積み上げられて”いる。
一分一秒、絶え間なく。
その重みで何かが崩れてもいいと、彼女が思っていることは明白だった。
川 ゚ -゚)<下のものが崩れれば、線路は歪み、排水溝は途中で割れる。
歪んだ線路では電車は通れないし、割れた排水溝からは、汚水が絶え間なく辺りの建物にこぼれるだろう
きーんこーんかーんこーん、と、学校からベルの音が聞こえた。
そっちのほうを、やはりクーは無視した。
川 ゚ -゚)<どこをどう通れば、どこに辿りつくのか。
その辺りを整理し直すのが、第一の課題になるんだろうな。
そしてそのあと、線路と排水溝を整備し直さなければならない。
時計の下にある、銀色の扉が、赤い空の光を受けて、鈍く、輝いた。
- 744 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 23:06:13 ID:GdetJi3g0
川 ゚ -゚)<全てが元通りの機能を取り戻すまで、どれくらい時間がかかるのか。
そして、それまでにどのくらいのものが被害を受けるのか……
ちく、たく、ちく、たく。
居酒屋から、人々の笑い声が聞こえた。
クーは、少しだけそちらの方へ眼をやったが、すぐに目線を時計へと戻した。
川 ゚ -゚)<……すまないな、弱音ばかり吐いている
クーは、目の前の”それ”に謝った。
目の前にそびえる、巨大な銀色の柱時計に謝罪した。
そう、彼女は独り言を延々と言っていたわけではないのだ。
彼女は、ずっと目の前の柱時計に話しかけていたのだった。
川 ゚ -゚)<結局のところ、私は怖くてしかたがないんだよ。この先にそういう面倒くさいことが起って、
自分がいろいろと対処しなければならないのが、怖いんだ。
柱時計に意志はない。
時計は時計であり、人間の話を聞くために造られたわけではないので、それは当然だった。
それでも、時計は彼女の話を聞いていた。
彼女は他の誰でもなく、時計に話しかけていたのだから、それはきっと間違いない。
川 ゚ -゚)<残念なことに、私はキミみたいに『未来』ではなくてね。
私はきっと、この街と同じだ。
積み上げるだけ積み上げて、気付けば、自分自身の重みで壊れるギリギリのラインに立っている。
- 745 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 23:08:13 ID:GdetJi3g0
- 銀色の柱時計は、計画的に造られた。
どういう動きをするのかも、どういう機能をもつのかも、
すべて計算されて、設計されて、その通りになっているし、これからもそうなる予定だ。
無計画に、予定せずに積み上げられただけの、この街とは真逆。
だからこの時計は『未来』も、同じように動くように、修理されて整備されて、
きっと今と同じ姿で、今と同じ働きを見せてくれるだろう。
柱時計は、『今』のままの姿と機能が、『未来』なのだと、クーは思っていた。
川 ゚ -゚)<うらやましいんだよ。『今』を―――崩れそうなこの瞬間を繰り返すしかない私は、
街の中心で、どっしりと安定して構えていられるキミが、
とてもうらやましくて……そうだな、妬ましくすらあるかもしれない
時計は、黙っている。
喋るような機能は彼にはないので、当然だ。
川 ゚ -゚)<すまない。愚痴ばかり言っているな、私は。
また会いに来るよ。そのときは、すまないがこりずに私の話を聞いて欲しい。
柱時計に軽く会釈をすると、クーはそれに背を向けた。
- 747 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 23:08:59 ID:GdetJi3g0
- 高低差のあるレンガの道を歩きながら、少女は赤く染まった空を見上げる。
この街の空が赤いのは、工場からでる煙が空を覆い尽くしていて、
それに下の街明かりが反射しているから赤いのだ。
自分もいずれ、こうなるのだろうな、とクーは思った。
自らが成長するために出した煙で、本当の空さえ隠してしまって、
やがてもっと上にある太陽の光のことなど忘れて、
自分自身が出した光で、自分で照らした、自分自身の姿しか見る事ができなくなるのだ。
川 ゚ -゚)(しかし、それも悪いだけではないかもな)
クーは、後ろに目をやった。
巨大な柱時計は、当たり前にどっしりと、街の中心に立っている。
自分は、この街と同じだ。
それなら、自分の中心にこの銀色の柱時計がいなければおかしいことになる。
銀色で、未来で、住人たちに整備され続け、佇むそれ。
もし、それが自分の中心にあるのなら―――
川 ゚ -゚)
川 ゚ -゚)
川 ゚ー゚)
それは、少しだけ心強いかもしれない。
そう、少女は思った。
- 749 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/20(火) 23:10:49 ID:GdetJi3g0
閉じられたままの、
川 ゚ -゚)柱時計の街のようです
時計の扉の向こうにあるのは、きっと
ゆるぎない、未来。
おしまい
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