■2012年芸術の秋ラノベ祭りのようです
└土曜日に会いましょうのようです
- 2 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/24(土) 05:46:18 ID:Pd08e3Ag0
- ぽかぽかとした春の陽気の中、私はひそかな趣味である家庭菜園の土いじりに精を出していた。
都心から離れた狭い土地に建てられたささやかな一戸建ての猫の額ほどの庭の隅。
そこが私だけのスペース。家を建てるさいに夫に懇願してなんとか用意してもらった空間だ。
これから育てる野菜のために土に肥料を混ぜている途中、そこに小さな侵入者を見つけた。
ミミズだ。道端で干からびてたりする、赤っぽくて細長くてぬらぬらしている、あれだ。
ミミズがいる土壌は栄養が豊かな証拠、と昔理科の教科書か何かで見た気がする……家庭科だったかな?
土の上でうにうにと動き回り、土の奥底へ潜っていこうとするミミズを見ていて、ふと過去のとある出来事を思い出す。
それはとても奇妙な出会い、とでも言えばよいのだろうか。
そして連鎖するように過去の出来事を芋づる式に引きずりだされてくる記憶。
――――――――――――
――――――
――
―
私が小学生の頃、まだ土曜日が隔週休みで午前中だけ授業があったころ。いわゆる半ドンと言う奴だ。
お昼直前の腹ペコ加減に耐えつつ、私は友人のリリちゃんと一緒に下校していた。
私とリリちゃんは家が近所なこともあって、何をするにも一緒に行動するのが常で。
小さくて、ちょっと気弱で、可愛らしいリリちゃんが私は大好きだった。
その日は今日のお昼ご飯はなんだろうね、なんて小学生らしい能天気な話題を交わしていたのを覚えている。
帰り道を歩く途中、大きな公園のそばを通りかかった。
この公園を挟んだ反対側に家への道があり、中を通って行く方が近道になる。
- 3 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/24(土) 05:47:15 ID:Pd08e3Ag0
*(‘‘)*「ねぇリリちゃん、公園の中とおっていこうよ。そしたら早く帰ってご飯たべられるよ!」
⌒*リ´・-・リ、「ええ、公園通ったらダメってママがいつも言ってるから……」
リリちゃんの家では、遊ぶならいったん帰ってきてちゃんと母親に報告してからという決まりがあった。
そのため誘惑の多い公園は通ってはいけないということになっている。
でも私はその時とてもお腹がすいていたので、どうしても近道がしたかったのだ。
*(‘‘)*「でもお腹すいたでしょ?」
⌒*リ´・-・リ「う、うん……」
*(‘‘)*「ちゃんとナイショにするから! ね! ね!」
⌒*リ´・-・リ「絶対ナイショ?」
*(‘‘)*「うんうん」
私はランドセルの肩ベルトをぎゅっと握り、首が取れそうなほど頭を上下させる。
リリちゃんはしばらく逡巡していたが、彼女のお腹が小さく「くう〜」と鳴ったのを契機に小さくうなずいた。
二人で手をつないで公園を駆け抜けようとした時、リリちゃんが何かを見つけた。
⌒*リ´・-・リ「ねぇヘリちゃん。あれ」
*(‘‘)*「うん?」
リリちゃんが指さす方を見ると、近くの中学の制服姿の女の人が、ベンチの傍にしゃがみこんでいた。
髪の毛は若干乱れていて、制服も少し汚れている。彼女はうずくまったままじっと動かなかった。
- 4 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/24(土) 05:49:18 ID:Pd08e3Ag0
- ⌒*リ´・-・リ「どうしたのかな? お腹痛いのかな?」
*(‘‘)*「行ってみる?」
⌒*リ´・-・リ「行ってみよ」
困っている人がいたら助けましょう、なんていう大人の教えに従い、私たちは彼女のもとへ駆け寄った。
もし何か起こっていたら大変だと思うと、さっきまでの空腹感など吹きとんでいた。
*(‘‘)*「お姉ちゃん大丈夫?」
「お腹痛いの?」
恐る恐る声をかけてみる。
すると彼女はゆっくりと振り返った。
川 ゚ 々゚)「? くるうを呼ぶのはだあれ? くるうは今ご飯をたべようとしているところなのです」
くるうと名乗った女子中学生は、その手になんとミミズを持っていたのだ。
当時の私には衝撃的過ぎてしばらく言葉が出なかった。
*(;‘‘)*「ごはんって……ミミズ食べちゃダメだよ!!」
⌒*リ´・-・リ「そうだよー、生で食べちゃきせいちゅーで危ないよー」
*(;‘‘)*そ「いやそうじゃないでしょリリちゃん! ミミズを食べるのはモグラさんだよ!?」
川 ゚ 々゚)「ミミズはたべちゃいけないのです? とってもおいしそうなのに」
*(;‘‘)*「だめだめだめー! とにかくだめー!」
- 5 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/24(土) 05:50:18 ID:Pd08e3Ag0
- その後しばらく説得をすることにより、彼女はようやくあきらめたのか渋々とミミズを放していた。
そのまま去っていくミミズを恨めしそうにじいっと眺めている姿が印象的だった。
しかしまぁ……せっかく心配して来てみればただお腹を空かせていただけとは。
それにしたってミミズを美味しそうというなんて変わっている。
⌒*リ´・-・リ「お姉ちゃんそんなにお腹すいてるの?」
川 ゚ 々゚)「くるうはお腹ペコなのです」
⌒*リ´・-・リ「じゃあうちにおいでよ。お母さんに頼んでみる」
*(;‘‘)*「えっ、大丈夫なの?」
⌒*リ´・-・リ「お母さん、いつも困った人がいたら助けなさいって言ってるもん。大丈夫だよ」
というわけでそのくるうというお姉さんを家に連れていくことにしたリリちゃん。
リリちゃんのお母さんは快くお姉さんを迎え入れたらしい。
細かい所はしっかりしてるのに、時々豪快なところがあって凄い人だなぁと当時の私は思っていた。
いや、今もかもしれない。
お姉さんはすごい食べっぷりだったと後で聞いた。よほどお腹がすいていたんだろう。
とにかく、それが私たちとくるうお姉ちゃんの初めての出会いだった。
――――
それから土曜日は公園をよく通るようになったのだが、よくくるうお姉ちゃんに会うようになった。
⌒*リ´・-・リ「あ、くるうお姉ちゃんだ!」
川 ゚ 々゚)「おっす、おらくるう!」
- 6 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/24(土) 05:51:08 ID:Pd08e3Ag0
- リリちゃんは目ざとくお姉ちゃんを見つけると笑顔でかけよっていった。私もそれに続く。
くるうお姉ちゃんは公園に備え付けられた4つ並びのブランコの一番端の一つに腰掛けて空をじぃっと見つめていた。
その眼は真っ青な空を映しているけども、どこか違うところを見ているように感じられた。
⌒*リ´・-・リ「お姉ちゃん、何してるの?」
川 ゚ 々゚)「雲を購入したらおいくら万円か計算しているのです。雲のマシンで飛び回るのです」
当たり前のことだけど、雲は買えないし乗れない。
でもその様を想像してみたら何とも楽しそうだ。
羽毛布団よりもふわふわとした雲の上に寝そべって、ポカポカ暖かい太陽の日差しを浴びる。
そっと吹いてくる風に頬を撫でられながら、優雅な空の散歩を心行くまで楽しみたい。
⌒*リ´・-・リ「リリも乗ってみたいなぁ」
*(‘‘)*「私も」
川 ゚ 々゚)「買ったら乗せてあげるのです。5番目に」
*(;‘‘)*「最初にじゃないのかよ!!」
などと言いつつ私たちもブランコに座り、くるうお姉ちゃんと同じように空をゆったりと進んで行く雲たちをしばらく眺めていた。
雲に乗って散歩するほどじゃないけど、のんびりとして穏やかな空気を感じられた。
でもおかげで帰るのが遅くなってお母さんに怒られてしまったっけ……。
――――
ある土曜日にはグローブジャングル(球形のジャングルジムでぐるぐる回すことが出来るアレ)に乗ってぐるぐる回っていた。
女子中学生が一人無表情で回っている姿は、大人が見たら何とも言えない怪しげな空気を感じるだろう。
しかしそこは私たちは小学生なので気にせず近づいていくのだった。
- 7 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/24(土) 05:52:22 ID:Pd08e3Ag0
⌒*リ´・-・リ「お姉ちゃーん」
*(‘‘)*ノシ「やっほー」
川 ゚ 々゚)「やぁー……ほぉー……」
ぐるぐる回りながらなので音が遠くなったり近くなったりしてなんだか面白い。
*(‘‘)*「今日は何やってるの?」
川 ゚ 々゚)「大人になろうとしているのです」
大人になるのとグローブジャングルで回ることに何の関係があるのだろう。
相変わらずくるうお姉ちゃんの考えてることはさっぱり読めない。
川 ゚ 々゚)「ヘリは1日がどうやったら経過するかわかりますか?」
*(‘‘)*「えっと、地球がぐるっと1回転したら、でしょ?」
川 ゚ 々゚)「そうなのです! 正解したヘリに3000ガバス!」
未だにこのガバスと言うのがなんなのかわからないのは秘密だ。
そういえば結局もらってないなガバス。
川 ゚ 々゚)「つまりいっぱいいっぱい回れば早く時間が過ぎておとなになっちゃうのです! くるうちゃん大発見なのです!!」
⌒*リ´・-・リ「えーそうなんだ! すごーい!」
*(‘‘)*「エーソウナンダスゴーイ」
- 8 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/24(土) 05:53:05 ID:Pd08e3Ag0
- ってそんなわけあるか!!
もし本当にそうなら若手ブレイクダンサーとかくるくる回ってるうちにおじさんになっちゃうよ!
コマだったら軸がよれよれで塗装がボロボロはがれてきちゃうよ!
でもまぁ楽しそうに遊んでるくるうお姉ちゃん達を見てるとそういうこと言うのも無粋かなって気分になって。
*(‘‘)*「私もやるー!!」
と一緒にぐるぐる回り始めたわけで。
しかしまぁなんでただぐるぐる回ってるだけなのにあんなに楽しかったんだろう。
笑いの絶えない空間だった。くるうお姉ちゃんはいつもの真顔だったけど。
そして十数分後。
そこには「まわり過ぎると気持ち悪くなる」という苦い経験をし、ある意味大人へと一歩近づいた私たちがいたのだった。
――――
別の土曜日には数人の小学生の男の子たちと円を組んでしゃがみながら何かを話しているのをみかけた。
うちのクラスの男子も何人かいたと思う。
_
( ゚∀゚)「やっぱさー、しゅぎょーだよしゅぎょー!」
( ・3・)「いやかいぞーしゅじゅつだYO!」
<_プー゚)フ「ふしぎな力でパワーアップだって!!」
( ・∀・)「じんるいかがくりょくで生み出されたパワードスーツだよ!」
川 ゚ 々゚)「どれもあんまりぴったりかっちりと来ないのです」」
なんだか不可思議な言葉が飛び交い、だいぶ白熱しているみたいだ。
私はその群れに近づいていく。リリちゃんは男子が苦手なので、私の後ろに隠れながら後に続く。
- 9 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/24(土) 05:53:47 ID:Pd08e3Ag0
*(‘‘)*「ねぇ、何のお話してるの?」
( ・∀・)「あ、ヘリカル! このお姉ちゃんヒーローになりたいんだってさ!」
<_プー゚)フ「だからみんなでアイディアを出し合ってんの」
なんだそんなことか、とつい思ってしまう。
私はその手のアニメなんかは数年前に卒業していて、昔見ていたものすらあまり覚えてないほどだった。
しかし男の子たちはそんな私を余所に白熱していて熱気すら感じられそうだった。
_
( ゚∀゚)「ヘリカルもなんかアイディア出せよ!」
*(;‘‘)*「えー、そんなこと言われてもなぁ」
私が思案していると、後ろで様子をうかがっていたリリちゃんがポツリとつぶやいた。
⌒*リ´・-・リ「……動物」
*(‘‘)*「えっ?」
⌒*リ´・-・リ「しゃべる動物をさがす、とか」
しゃべる動物……? ああ、たしかにそういえば昔見てたアニメではしゃべる猫とか不思議生物が出てきたっけ。
それで女の子に不思議な力を与えるって言う感じの。などと私が一人物思いにふけっていると……。
( *・3・)「それいいかもしれないNE!」
_
( ゚∀゚)「よし、じゃあ飯食ったら網持ってしゅーごーな!!」
<_プー゚)フ「お前らもすぐ来いよ!!!」
と男子たちは異様に盛り上がり、勝手に約束を取り付けるとあっという間に走り去って行ってしまった。
残された私たち三人。
- 10 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/24(土) 05:55:24 ID:Pd08e3Ag0
⌒*リ;´・-・リ「ど、どうするの?」
*(;‘‘)*「やるしかない、んじゃないかなぁ……」
川 ゚ 々゚)「がんばるのです。ふぁいとおー」
真顔で言われてもなぁ……。
それから私たちは昼食を済ませた後、公園に集合した。
男子たちはみんな長くて丈夫そうな網をめいめい装備していたが、私たちは特に何もなし。
( ・3・)「なんで網持ってこないんだYO!」
*(‘‘)*「私たちあんまりそういうの得意じゃないから。ジョルジュ君なんかは虫捕り上手いって聞いてるよ?」
_
( *゚∀゚)「へへっ、まーな!」
*(‘‘)*>「だから私たちは聞き込みちょーさをしようと思います! 隊長!」
_
( *゚∀゚)「そ、そうか! わかった! 隊長の俺が許可する!!」
……男子って単純。
実際のところ私はしゃべる不思議動物がいるなんてこれっぽっちも思っていなかった。
だってそうでしょ? あれはお話の中だけの出来事。
男子たちが誰が一番に見つけるか競争だと叫んで公園に散り散りに駆けていく。
その後ろ姿を見送った私たちは形だけの聞き込み調査に出かけることにした。
いや、形だけだと思っているのは私だけで、リリちゃんとくるうお姉ちゃんはやる気まんまんだったけど。
まず私たちは近所の人たちに聞き込みにいった。
まぁ当然と言えば当然ながら、有力な情報を得られるはずもなく。
- 11 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/24(土) 05:56:05 ID:Pd08e3Ag0
('、`*川「まぁまぁ小さい子と一緒に遊んであげるなんてお姉さんえらいわね」
川 ゚ 々゚)「?」
なんてほほえましそうに眺められる始末。
おばさん違うんです。その人がそもそもの発端なんですよ、なんてことは言えずに黙っているしかない私だった。
次に私たちは動物の専門家に聞こうということで近所に唯一あるペットショップ、わんにゃん盛岡へ向かった。
どうでもいいけどセンス無い名前だなとか思ってたな当時。
(´・_ゝ・`)「いらっしゃいませー」
川 ゚ 々゚)「おじさんはしゃべる不思議動物?」
(;´・_ゝ・`)「え? うーん、しゃべる動物ではあるけど不思議ではないかな……」
川 ゚ 々゚)「残念なのです」
くるうお姉ちゃんの方がよっぽど不思議だと思うけど言わないでおこう。
その後しゃべる不思議動物について聞いてみたけどやっぱりこれと言った収穫は無し。
若干2名が残念そうだったのが可愛そうに思えたのか、店長さんは不思議な生き物を色々と見せてくれた。
内容はあまり覚えていないのだが、正直自分もかなり感激した覚えだけはある。
その後現状を打破する案も出ず、一度公園に戻って男子たちの様子を確かめようということになったが……。
<_プー゚)フ「見ろよこのオニヤンマ!! でっけーだろ!?」
( ・3・)「ボルのアゲハチョウもかなりのもんだYO」
- 12 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/24(土) 05:56:53 ID:Pd08e3Ag0
( ・∀・)「俺はトノサマバッタだー!」
_
( *゚∀゚)「俺様はちょーでけーカマキリをゲットしたぜ!」
なんかもう当初の目的を忘れて普通に虫捕り遊びしてた。小学生ってそんなものだね。
虫が苦手な私は叫んで逃げ回ってただけだった。
しゃべる不思議生物は見つけられなかったけどなんだかんだ楽しかったものだ。
――――
他にもなんだかんだと色々とあったかな。
「山賊王に俺はなる」と騒ぎ出したくるう姉ちゃんと一緒に、縄張り見回りと称した公園探索をしたり。
学校の宿題がわからなくて悩んでたら、的確にサポートしてくれてびっくりしたとか。
駄菓子屋さんで20回連続であたりを引いてしばらく出入り禁止になったりとか。
夏に一緒に海に言った時は……。
川 ゚ 々゚)「ひゃっほー海なのでーす」
*(‘‘)*「ねェ、何その金タライ……めっちゃでかい」
川 ゚ 々゚)「サーフボード」
*(;‘‘)*「どこがー!?」
それで本当に波乗りしようとしておぼれかけたんだよね。
ライフセーバーの人に助けてもらって、散々謝り倒したっけ。
リリちゃんはしばらくお姉ちゃんに引っ付いて離れなかった。
- 13 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/24(土) 05:57:36 ID:Pd08e3Ag0
⌒*リ;´;-;リ「お〜ね〜え〜ちゃ〜〜ん」
川 ゚ 々゚)「さすがに死を覚悟したのです」
*(;‘‘)*「もー心配させないでよねー!?」
川 ゚ 々゚)「心配してくれたのですか?」
*(;‘‘)*「あたりまえでしょ! 友達だもん!!」
⌒*リ;´;-;リ「そうだよー、大切なお友達だよー」
川 ゚ 々゚)「じゃあ今後はこんなことが減るように努力するのです」
*(;‘‘)*「無いように努力して!!」」
私の家でおとまり会をしたこともあった。
その時には夜、布団を並べて将来何になりたいかって話を遅くまでしていた。
*(‘‘)*「私は公務員かなぁ」
川 ゚ 々゚)「やだこの子現実的なのです」
⌒*リ´・-・リ「リリはお嫁さんが良いなー」
川 ゚ 々゚)「んー、くるうは……宇宙人にスーパーヒーローにドラゴンに山賊王に」
*(;‘‘)*「ファンタジックすぎるわ!!」
- 14 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/24(土) 05:58:45 ID:Pd08e3Ag0
- ⌒*リ´・-・リ「くるうお姉ちゃんはお話を作る人が良いと思うなー」
川 ゚ 々゚)「なにぬねの?」
⌒*リ´・-・リ「だっていつも色んな面白い事思いつくから! きっといろんな人を楽しませられると思うの」
*(‘‘)*「楽しませるというか驚かせるってなりそうだけど」
川 ゚ 々゚)「じゃあ候補の43番目に入れておくのです」
*(;‘‘)*「多いな!?」
とにかくへんてこなことばかりで、退屈しなかったな。
でもそんな日々はある日突然終わりを告げたんだ。
いつものように土曜日の公園に二人で向かうと、ジョルジュが声をかけてきたのだ。
_
( ゚∀゚)「これ。あの変なねーちゃんが渡してくれって。なんかすげー慌ててたな」
その手には、小さな紙切れ。
そこには
今までありがとう
私の大切な友人たち
また会おう
素直くるう
とだけ書かれていた。
- 15 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/24(土) 05:59:54 ID:Pd08e3Ag0
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過去の記憶の旅から戻ると、そこはいつもの私の庭。土いじりの手はいつの間にか止まっていた。
あれからくるうお姉ちゃんには会っていない。それどころかどこで何をしているかすら……。
いけないいけない、暗くなってしまった。
しかしまぁ、色んな事があったなぁ……。でも、何かを忘れている事がある気がする。
もう少しで思い出せそうなのに、出てこない。歯の間に食べたものが挟まったようなしっくりこない感じ。
「ヘリちゃーん! こんにちはー! 来たよー!」
そんな私の元へ来客を告げる声が届く。もうそんな時間か。
庭いじり専用装備を手早く適当に片付けて、玄関へと赴く。
急いでドアを開くとそこには見慣れた人物が立っていた。
从'ー'从「やっほー」
ζ(゚ヮ゚*ζ「いらっしゃいリリちゃん! 上がって上がって!」
リリちゃんとの小学生の頃からの変わらぬ付き合いは今も続いていた。
さすがにお互い成長してそれぞれに家庭を持ったため、昔ほど頻繁に一緒にいるわけじゃないけど。
それでもこうしてお互いに暇な時を見計らってこうして交友を深めているわけである。
- 16 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/24(土) 06:00:57 ID:Pd08e3Ag0
まずはお互いの近況の話が始まり、仕事のこと、家族のこと、近所の友人たちとの噂話。
テレビのニュースやバラエティの話題などあれこれといろんなことを、止まる間もなく話し続けた。
間にリリちゃんが持ってきてくれた美味しいおやつをつまむのがこれまた楽しい。
そっちのも食べさせてなんて交換したり。
そんなやりとりもひと段落した頃。
从'ー'从「あ、そういえば。ちょっとテレビ見ても良いかな?」
ζ(゚ー゚*ζ「ん、良いけど。何かあるの?」
从'ー'从「今日は文啓賞の発表日なんだよね」
ζ(゚ヮ゚*ζ「ああー、リリちゃん昔から本好きだもんね」
勝手知ったる人の家。ささっとテレビのスイッチを入れるリリちゃん。
適当にチャンネルを回すと午後のニュースで丁度その話題が取り上げられているところだった。
撮影スタジオの半円状のテーブルに並んだキャスターやコメンテーターたちがやんややんやと言葉を交わしている。
と、どうやら受賞作家へのインタビューの流れになったようだ。
画面が切り替わり、私みたいなタイプには縁のなさそうな、落ち着いた雰囲気の受賞会場らしき場所が映し出された。
マイクを持ったリポーターの隣には、理知的でクールと言った表現が似合いそうな女性が立っている。
年の頃は私たちより少し上くらいだろうか? 若くして受賞とは驚くばかりだ。
背筋をぴしっ伸ばした姿はとても落ち着いていて、才覚のある人間という雰囲気を醸し出していた。
(-@∀@)「はい、ではさっそく今回の文啓賞受賞作家の鬱田くるうさんにインタビューしたいと思います」
从;'ー'从「「!?」」ζ(゚ー゚;ζ
- 17 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/24(土) 06:01:43 ID:Pd08e3Ag0
- 今、たしかにくるうと、画面の中のリポーターが。
そう、言った。
(-@∀@)「鬱田さん! この旅は文啓賞受賞おめでとうございます!」
川 ゚ -゚)「ありがとうございます。私のような若輩者には身に余る光栄、大変ありがたく思っております」
彼女が、くるうお姉ちゃん?
从;'ー'从「ね、ねぇ! お姉ちゃん、だよね!?」
ζ(゚ー゚;ζ「そ、そうみたいだけど……」
俄かには信じがたい話だ。
そんな私たちの驚きを放って、リポーターのトークは進んで行く。
(-@∀@)「今回の受賞作、『踏み出したシンデレラ』はどういった経緯で書かれたものなのでしょうか?」
川 ゚ -゚)「はい、これは私の過去の体験を元に書いた作品です」
(-@∀@)「なるほど。鬱田さんは幼ない頃、大変なご苦労をされたとお聞きしております」
川 ゚ -゚)「そうですね、物心ついたころには母はおらず、酒とギャンブルに没頭した父との暮らしは大変でした」
川 ゚ -゚)「私はまさしく「灰かぶり」でした。いつまで経っても魔法使いの現れない……」
灰かぶり……魔法使い。
そのキーワードが私の頭に飛び込んできたとき、強烈に脳が回転を始め、忘れていた出来事を思い出していた。
- 18 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/24(土) 06:03:01 ID:Pd08e3Ag0
――――――――――――
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――
―
その日。リリちゃんは委員会の用事があって、珍しく私が一人で下校している平日のある日。
たまにはいつもと違う遠回りのルートを通って帰ろうと、なんとなく思い立ち実行に移した日だ。
河川敷の土手を、当時流行っていた歌を歌いながらとことこと歩いていると、河原にうずくまって座っている人影を見つけた。
よくよく見てみると、その人影は見知った後姿で、私はこんな所で会うとは思わなかったな、なんて考えつつ近づいて行った。
*(‘‘)*「くるうお姉ちゃん!」
後姿に声をかけると……。
川メ゚ 々゚)「……ヘリ」
振り返った彼女は体のあちこちが傷だらけのあざだらけだった。
*(;‘‘)*「ど、どうしたのお姉ちゃん!」
川メ゚ 々゚)「ありさんとありさんがごっつこんこの交通事故に巻き込まれただけなのです。大したことないのです」
*(;‘‘)*「それは、うん……? 大したことない、のかな? ううん?」
- 19 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/24(土) 06:03:51 ID:Pd08e3Ag0
- 私が悩んでいると、くるうお姉ちゃんは自分の隣の地面を手で何度か叩いた。
どうやらそこに座れと言うことらしいので素直に座る。
しばらく何も言わないまま二人並んで川の流れを眺めていた。
なんだか居心地が悪いなぁなんて思い始めたころ、くるうお姉ちゃんはぽつりとつぶやいた。
川メ゚ 々゚)「魔法使いの現れない灰かぶりは、どうしたら良いと思うです?」
また何か唐突に良い出したなー。
灰かぶりってなんだったかな。確か白雪姫……じゃなくてシンデレラか。
シンデレラかぁ、小さい頃に読んだきりだけど。
なんてまぁ私は真剣に考え始めちゃったわけだった。
そしてあれやこれやと考えてるうちに1つ思いついたことがあった。
*(‘‘)*「その灰かぶりさんは、「魔法使いさん助けてー」って言ったりした?」
川メ゚ 々゚)「え?」
*(‘‘)*「いやだってほら、魔法使いさん気づいてなのかもしれないし。助けたいと思っていても見つけられないのかもしれないし」
*(‘‘)*「だから魔法使いさんに助けてほしかったら自分からもなんとかしたらいいんだよ! 多分!」
川メ゚ 々゚)「自分、から……」
*(‘‘)*「ダメかなぁ?」
しばし沈黙。
そして。
川メ゚ 々゚)「そんなことないのです。今後の活動の参考になったのです」
- 20 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/24(土) 06:06:03 ID:Pd08e3Ag0
- そういうとくるうお姉ちゃんはすっと立ち上がって。
川メ^ 々^)「ありがとう」
初めて見せる笑顔でそう言ったのだ。
お姉ちゃんが姿を見せなくなったのはそれからしばらくしてだった。
―
――
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――――――――――――
そうだ。あったんだ、そういうことが。
そしてさっきのの彼女の発言。
つまりはあれはくるうお姉ちゃんが遠まわしに自分の悩みを吐露していたんだ。
川 ゚ -゚)「父にはたびたび暴力を振るわれ、まともな生活が出来ず、学校でも阻害され……」
川 ゚ -゚)「どこか遠くへ行きたい。私じゃない別人になりたい。そうすれば逃げられるのにっていつもいつも思ってました」
川 ゚ -゚)「でもですね、そんな私を大切な友達だって言ってくれるネズミさんたちがいたんですよ」
川 ゚ -゚)「本当に嬉しかった。こんな私でも良いんだって……救われた気持ちでした」
- 21 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/24(土) 06:06:49 ID:Pd08e3Ag0
- それはきっと、あの頃の私たちのことだ。
知らなかった。くるうお姉ちゃんにそんなつらい過去があったなんて。
あの頃言っていた突飛な言動にはそんな意味があったなんて。
川 ゚ -゚)「そしてネズミさんが教えてくれたんです。待っているだけじゃダメだって」
テレビの中の鬱田くるうに、記憶の中のくるうお姉ちゃんが重なった。
川 ゚ -゚)「だから私は助けを求めました。その相手が当時の担任教師で今の夫です」
(-@∀@)「なるほど、魔法使いは同時に王子様でもあったわけですね」
川 ゚ ー゚)「上手い事言いますね。まさしくその通りです」
川 ゚ -゚)「それからは色々とドタバタがありまして……友人たちに何も言えずにお別れすることになったのが心残りです」
コホンと間を取るための咳を一つ。
川 ゚ -゚)「そんな私の半生を元に書きあげたのが『踏み出したシンデレラ』です」
(-@∀@)「そして作品が評価され、ハッピーエンドとなったわけですね! 素晴らしい!」
川 ゚ -゚)「たしかにハッピーですが……私の物語はまだまだ終わりません」
川 ゚ -゚)「これからもたくさんの方に私の紡いだ物語を読んでいただければ幸いです」
(-@∀@)「はい、というわけで文啓賞受賞作家の鬱田くるうさんでした! 本当におめでとうございます!」
リポーターの締めくくりとともに画面は先ほどのスタジオへと戻って行く。
私とリリちゃんの間には唖然とした空気が流れていた。
- 22 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/24(土) 06:07:57 ID:Pd08e3Ag0
从;'ー'从「ねぇ、あのネズミさんって」
ζ(゚ー゚;ζ「私たちのこと、だよねぇ」
从'ー'从「はー……なんだかビックリしすぎちゃって逆に落ち着いちゃったかも」
ζ(゚ー゚*ζ「うんうん」
手元のぬるくなったミルクティーを一口、流し込む。
ζ(゚ー゚*ζ「そっかぁ……元気にしてるんだね。良かったぁ」
从'ー'从「うん……」
本当に、本当に良かった。
あれからずっと、最悪の事態も含めて色々考えていたから。
それら全部が杞憂に終わって、元気な姿を見せてくれて、本当に良かった。
ζ(゚ー゚*ζ「いやぁ、でもなんだかんだ言って変わってなかったねくるうお姉ちゃん」
从'ー'从「えーそうかなー、別人みたいでビックリしちゃったよー」
ζ(゚ー゚*ζ「それはまぁそうなんだけど、根っこのところがそのままって言うか……」
从'ー'从「あー、確かにそうかも」
ζ(゚ー゚*ζ「作家になってたのはビックリだね! 昔リリちゃんが言ったこと覚えてたのかな?」
从'ー'从「おとまり会の時の!」
ζ(゚ー゚*ζ「そーそー!」
- 23 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/24(土) 06:09:20 ID:Pd08e3Ag0
それからしばらくは昔話に花が咲いた。
でも、そこに物足りなさを感じている自分がいることに気付く。
リリちゃんも同じみたいだ。
そう、この場にいるべき人間が足りないのだ。
ζ(゚ー゚*ζ「ねぇ」
从'ー'从「なーに?」
ζ(゚ー゚*ζ「会いに行こうよ、くるうお姉ちゃんに!」
从'ー'从「……私も今同じこと思ってたの。でも、会えるかな?」
ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫、きっとなんとかなるって!」
よくわからない、根拠のない自信が湧いてきていた。
でもそれは勘違いなんかじゃなく、確かな予感があったのだ。
――――
あれから3か月経って、やっとくるうお姉ちゃんとの再会の日がやってきた。
まず最初に私たちという存在を認知してもらうのに時間がかかった。
たちの悪いいたずらか何かだと思われたのだろう。
彼女のマネージャーからは何度も何度もノーをつきつけられた。
まぁ当たり前のことだろう。
が、とにかく私たちはなんとかかんとか食い下がり続けた。
それがどういう経緯かわからないが、私たちのことがくるうお姉ちゃんの耳に入ったらしい。
やっとのことで再会の約束を取り付けた。
- 24 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/11/24(土) 06:10:44 ID:Pd08e3Ag0
- しかしそこからがまた大変だった。
それぞれが家庭を持っているうえ、くるうお姉ちゃんは今を時めく有名作家。
タイミングを合わせるのはとてもとても手間がかかった。
さらに言えば、私たち3人の希望で「土曜日」を選んだこともそれに拍車をかけたと言えるだろう。
マネージャーさんには先のことも合わせて、お手数をかけすぎて頭が上がらない思いだ。
とにかく。
そう言った困難を乗り越え、ついに時はきたのだ。
待ち合わせのホテルへ向かうタクシーの車中。
从'ー'从「なんだか緊張するねぇ」
ζ(゚ー゚*ζ「うん……ちゃんと話せるかな」
私の胸中は不安と緊張が入り混じり穏やかではなかった。
でも同時に期待と安堵感もある。
またくるうお姉ちゃんに会える、あの頃みたいな楽しい時間が待っているんだ。
くるうお姉ちゃんが突飛なことを言って。
それにリリちゃんが乗っかって。
私はツッコミを入れつつも最後には一緒になって楽しむんだ。
そんな、なんでもない、優しい時間が。
END
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