■2012年芸術の秋ラノベ祭りのようです
└( ´_ゝ`)デザート×キャラバンのようです(´<_` )
└そのはち
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611 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/12/06(金) 20:04:59 ID:ttGVJWA.0
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俺と兄者は、二人になりそこねた一人だ。
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612 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 20:06:06 ID:ttGVJWA.0
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まともに産まれなかった、人間のできそこないと、言い換えてもいい。
俺ともう一人の俺――兄者は、つながったまま産まれてきた。
感覚や力を共有しているとでも言えばいいのだろうか。
肉体というイレモノこそ二つあるけれども、俺たち二人は根っこのところでは一つだった。
(´<_` )「なあ、おれ」
片方が怪我をすれば、どれだけ遠くにいたとしてもわかったし、その痛みを引き受けることだってできた。
力が足りないのならば借りればよかったし、貸すことだってたやすくできた。
足りないのならば二人ぶんの力を使い、負担はそれぞれ分けあう。
そうやって俺らはずっと過ごしてきた。
( ´_ゝ`)「どうした、おれ?」
俺たちにとってはそれが普通。
だから、感覚や力を分け合う“もう一人”がいない他の人間がいつも不思議だった。
それは、今だって変わらない。
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613 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 20:08:27 ID:ttGVJWA.0
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俺は兄者で。兄者は俺。
俺の考えることが兄者の考えることであり、兄者の考えることが俺の考えることだった。
十年前……少なくとも、あの日が来るまでは。
(´<_` )「なあ、おれ。探検にいかないか」
今でも、思い出す。
どうやっても、忘れ去ることが出来ない。
――その言葉が、すべての始まりだった。
( ´_ゝ`)「それはよくない。母者におこられる」
+(´<_` )「でも、気になるだろう。おれはそうじゃないのか?」
(;´_ゝ`)「……」
(´<_` )「なあ、おれ。おれはどうなんだ?」
( ´_ゝ`)「……そうだな、おれ。おれもそうだ」
俺は少し考えて、それから小さく頷いた。
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614 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 20:10:27 ID:ttGVJWA.0
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打ち明け話を一つするならば。
――元々、鏡なんてものは大嫌いだったのだ。
誰も彼もが、鏡に写るのは現実とそっくり同じ風景だと言う。
だけど、そんなものは嘘っぱちだ。
物心ついたときからずっと、鏡に写る全ての光景はニセモノだった。
そうでなければ、俺ともう一人の俺がこんなに違って見えるはずがない。
薄水色と、若草色。
青と、緑。空の色と、草の色。
似ているけれど、全く違う毛並みの色。
鏡は、俺と俺が違うものだと突きつけてくる。
兄者と弟者という名前と同じだ。俺は、俺ともう一人が違うものだと突きつけるもの全てが大嫌いだった。
だから、かもしれない。
屋敷の一角。
使われなくなったものをしまうための、一室。
そこにある鏡に、当時の俺は惹きつけられた。
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615 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 20:12:28 ID:ttGVJWA.0
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616 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 20:14:16 ID:ttGVJWA.0
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ありとあらゆる装飾で飾り立てられた、古い鏡。
金属で作られた蔦や鳥の姿。
金剛石や紅玉、青玉などの高価な石たち。
湧き出る泉をそのまま形にしたような、透き通る鏡面。
その鏡に映る、俺と俺の姿は――まるっきり同じ真っ白な毛並みをしていた。
本当の俺。
緑色なんかじゃなくて、本物の俺の色。
それは物心ついてからずっと抱えていた違和感を打ち消す、魔法の鏡だった。
――まだガキだった俺が、その鏡に夢中になるのにさほど時間はかからなかった。
(´<_` )「なあ、おれ。おれはどうなんだ?」
( ´_ゝ`)「……そうだな、おれ。おれもそうだ」
探検という名目で俺は兄者を連れ出し、暇さえあればその鏡を見に行った。
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617 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 20:16:12 ID:ttGVJWA.0
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――馬鹿だったのだ。
俺は屋敷の中に、危ないことがあるなんて思っていなかった。
怪しいものに近づくとどうなるのか、わかっていなかったのだ。
だから、罰を受けたのだ。
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618 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 20:18:36 ID:ttGVJWA.0
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それはいつもと同じ、何でもない一日だった。
あの日も、俺たちは部屋に忍び込んで、鏡を見ていた。
( ´_ゝ`)「なあ、おれ。誰かに、呼ばれてないか」
(´<_` )「……?」
そして、兄者は『何か』の声を聞いたのだ。
兄者に聞こえる声は、他の奴らには聞こえなくても、俺にだけは聞こえる。
――でも、あの日のあの時だけは違っていた。
(´<_` )「……聞こえない。聞こえないぞ、おれ」
( ´_ゝ`)「じゃあ、気のせいか……」
そう言って、兄者が何気なく触れた鏡の表面が、水面のように揺れた。
水に触れたように、その手が鏡に溶けていた。
不思議に思ったのは、ほんの一瞬。
(;゚_ゝ゚)「逃げろ、おれ」
次の瞬間には、俺は兄者のもう片方の手によって突き飛ばされていた。
何が何だかわからないまま兄者へ視線を向けると、そこには――真っ黒な腕がいた。
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619 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 20:20:47 ID:ttGVJWA.0
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そう、腕だ。
鏡の中、水の様に揺れる鏡面から、黒い腕が伸びている。
鋭くとがった爪。
それはまだ子供だった俺たちの胴をあっさりと捕まえられるくらいに大きかった。
(´<_`;)::「……何?」
肌がざわざわと粟立っている。
魔力を感じた時と同じ感じ、それなのに「これは嫌だ」という言葉が頭を駆け巡る。
とても寒かった。
あの黒い腕以外、部屋の中は何も変わらないはずなのに体が震えて止まらない。
赤や青の光がぐるぐると回り、視界を邪魔する。
(♯ _ゝ )「いいから早く、逃げろ!」
――なんなのだ。なんなのだこれは。
もう一人の俺はそう呼びかけるだけで、自分は逃げようとはしない。
(´<_`;)「おれ! おれもいっしょに」
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620 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 20:23:00 ID:ttGVJWA.0
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そして、俺はようやく気づく。
兄者の手は鏡の水面に飲み込まれたままだ。
その鏡面は水のように揺れているのに、兄者がどれだけもがいても腕を引きぬくことが出来ない。
連れ戻さなければと思った瞬間には、俺の体はさらに遠くに突き飛ばされていた。
他ならない、兄者自身の手によって。
俺は、俺から拒絶された。
(;<_; )「おれ!」
(*´_ゝ`)「おれはほんとに、泣き虫だよな。
男だし直さなきゃはずかしいよなぁ、やっぱり」
俺は、こんな状況だというのに笑っていた。
俺がこんなにも泣いているというのに、笑っていたのだ。
わけがわからなくて。
それでも、俺はもう一人を連れだそうとして立ちあがった。
――今でも、その瞬間を覚えている。
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621 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 20:24:10 ID:ttGVJWA.0
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( ´_ゝ`) 《止まれ》
俺の口がはっきりとそう動き、言葉じゃない言葉がその音を響かせた。
魔法。
先生に教わったわけじゃないのに、もう一人のおれは魔法がとても巧かった。
(;<_; )「――っ」
動かそうとした足が、その動きを止める。
抵抗しようとする動きは全て、魔法によって抑えられてしまう。
止まれ
短くて強い、制止の魔法。
その短い言葉が、魔力がどうしても振り払えない。
黒い腕が、動けない兄者の体をがっちりと掴む。
もう一人の俺はどうにかして腕を外そうと、体を動かしていた。
だけど、鏡面と黒い腕の力はそれよりもずっと強かった。
(;´_ゝ`) 《 》
そして、最後の抵抗にとおれが放った魔法は――黒い腕には届かず、
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622 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 20:26:28 ID:ttGVJWA.0
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623 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 20:28:13 ID:ttGVJWA.0
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オ レ
兄者は、俺の目の前で――鏡の中から出た手に引きずられて
鏡の
なかへ
落ち――
……ぽちゃん
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624 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 20:30:06 ID:ttGVJWA.0
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625 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 20:32:42 ID:ttGVJWA.0
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@@@
@#_、_@
( ノ`) 「弟者っ、どうしたんだい弟者っ!!」
( <_ )「――おれがいない!」
@@@
@# 、_@
( ノ ) 「しっかりしなっ、弟者っ!! ちゃんとそこにいるだろう!!」
( <_ )「ちがう、おれがいない!
おれはここにいるのに、おれがいないんだ!!!」
(;<_; )「おれはいるのに、どこにもいない
おれ……返事をしてくれ、おれ!」
彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「ああ、しっかりしろ弟者。兄者はお前じゃない。
兄者のことはちゃんと父さんたちが探すから、弟者はしっかりと気を持ちなさい」
∬´_ゝ`)「……馬鹿みたい」
彡⌒ミ
(#´_ゝ`)「姉者っ!」
(;<_; )「おれ……おれはどこ?
おれがいなきゃ、おれはここにはいないのに……」
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626 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 20:34:32 ID:ttGVJWA.0
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……そこからのことは、思い出したくもない。
誰も信じてくれなかった。
兄者は、鏡の中に落ちたのだと。あの黒い手に引きずり込まれたのだと。
どれだけ言葉を尽くして訴えても、無視された。
誰も、鏡のことなんて調べようとはしなかった。
ξ゚ -゚)ξ「元気出して」
(´<_` )「……」
ξ゚ -゚)ξ「いっしょにさがそ、兄者」
俺の言葉は、誰にも届かない。
母者の周りのヤツラの言葉を借りれば、俺はおかしくなってしまったのだそうだ。
なんでも一緒にしたがるくらい懐いていた兄が失踪し、正気を失ってしまったかわいそうな弟。
――どうでもよかった。
俺にとって大切なのは、どうやったら俺が見つかるのかというその一点だけ。
だけど、俺は見つからなかった。
誰もが見当違いの場所を探した。俺を探して出て行ったヤツラは、誰も俺を見つけられなかった。
(´<_` )「……おれが探さないと」
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627 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 20:37:58 ID:ttGVJWA.0
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兄者は死んだのだというヤツもいた。
――そんなはずがない。
兄者が死ぬときは、俺が死ぬ時だ。
そのくらい俺と、俺の半分はつながっている。
二人のなりそこない。できそこないの一人。
人間として不完全な俺は、片割れなしでは自分の肉体どころか精神さえも保つことさえできない。
(´<_` )「おれが、おれを見つけないと」
ξ;゚ -゚)ξ「どこ行くの、弟者!?」
誰もわかっていない。
わかっているのは、俺と俺だけだ。
( ´ー`)「どうしたかな、坊ちゃん?」
(´<_` )「おれが、おれを探さないと。おれじゃないと、おれを探せない」
俺だけが、俺が生きていることを知っている。
俺だけが、俺のいる先を知っている。だから――、
(´<_`#)「おれに、魔法を教えてください!」
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628 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 20:38:54 ID:ttGVJWA.0
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俺が頼ったのは母者と長い付き合いのある魔法使いだった。
大導師とも呼ばれていた彼――先生は、戸惑いながらも魔法を教えてくれた。
今にして思えば、ツンと先生だけは俺の話を聞いてくれたように思う。
しかし、その時の俺は、俺のことだけで頭がいっぱいだった。
( ; ー )「……魔神に呼ばれたか。これは厄介ダーヨ」
( <_ )「魔神」
――そして、俺は。
俺から俺を奪い取ったのが、人ではないと知った。
魔神
――魔力を振るい好き放題をする、神に等しい存在。
そんなものの気まぐれで、俺は俺を失ったのだ。
( ´―`)「……これは、生半可なことではいかないダーヨ」
(´<_`#)「それでもいい! おれは、おれがもどるなら何でもする」
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629 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 20:40:40 ID:ttGVJWA.0
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それから、二年の月日が過ぎた。
その間に俺の身長は伸び、体重も増えた。
先生について簡単な魔法なら扱えるようになったし、力だってつけたはずだ。
しかし、そんな俺をあざ笑うように、鏡は何を試しても俺を返すどころか何の反応も示さなかった。
@@@
@#_、_@
( ノ`) 「いいから、呪術師でもなんでも連れてきな!!」
.彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「すいませんが、協力をお願いします」
母者や父者も何をしなかったわけではなかった。
その頃になると、ようやく俺の言葉を信じ始めた母者たちは試せる手段はなんでも取るようになった。
旅回りの魔術師や、魔道具を使いなんとか俺を取り戻そうと手を打った。
しかし、その甲斐なく日々は過ぎ――その日。
(´<_` )「……ぁ」
何がきっかけだったのかはわからない。
それこそ、単なる魔神の気まぐれだったのかもしれない。
ただひとつ確かなことはその日、鏡と外との間に道が出来たということだ。
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630 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 20:43:18 ID:ttGVJWA.0
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ほとんど使われない、ガラクタだらけの部屋。
微動だにしなかった鏡面が揺らいだ。
銀色に波打つ水面が、かすかに光を放つ。
そう思った瞬間、鏡の中からあの青や赤に光るとても嫌な魔力がして。
そして、
目が開けられなくなって、
( ´_ゝ`)
土埃が舞うその部屋。
そっと目を見開いた先に、二年前と同じ姿の俺が立っていた。
あの日からまったく成長しない姿で、俺の顔を見上げた俺はぽつりと呟いた。
・ ・
――おれじゃなくて、弟者と。
( ´_ゝ`)「お……弟者、なのか?」
( <_ )「……おれ」
あの時のままの俺と、成長した俺。
――俺と兄者の間では、今でも二年の時がずれたままだ。
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631 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 20:44:45 ID:ttGVJWA.0
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(;´_ゝ`)「ああ、泣くなってば弟者。
ほれ、俺はここにいる。そんな顔するなってば、おい」
( <_ )「……」
俺は――、いや兄者は少しだけ、困った顔をした。
返事ができないでいる俺の顔を見て、少しの間黙りこみ。
そして、あの馬鹿は言ったのだ。
(*´_ゝ`)「……鏡の中ってさ、すっげぇ楽しかったよ」
こっちは泣きそうだったのに。……いや、泣いていたのかもしれない。
それなのに、兄者はへらりと楽しそうに笑って、言ったのだ。
(<_`#)「……」
(;´_ゝ`)>⊂(<_`#)
( ;゚_ゝ゚)「いだいいだいぃぃ!!!! 耳! 耳引っ張るのやめてぇぇぇ!!!」
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632 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 20:46:53 ID:ttGVJWA.0
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なんてことはない。
頭がおかしくなりそうな二年間を過ごした俺とは違い、兄者はどこまでも気楽だった。
そうでなければ、こんなにも陽気に笑えるはずがない。
・ ・
( <_ )「……兄者」
だから、俺は決めた。
(´<_` )「俺が、弟者というなら。俺は、弟者でいい。
だけど、……もう二度と魔法とか、変なものに近づくな」
( ´_ゝ`)「……」
( <_ )「頼む……兄者」
こんな鏡は、いらない。
人ではない生き物はみんな、敵だ。
――魔法だっていらない。使わせたりだって、しない。
嫌いだ。死んでしまえばいい。壊れてしまえばいい。消えてしまえばいい。
俺を、俺から引き離そうとするものは全部全部なくなればいい。
そうすれば、俺は俺でいられる。
できそこないの一人ではなくて、普通の一人のようにしていられる。
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633 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 20:48:45 ID:ttGVJWA.0
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そう。
あの日から俺は――もう二度と”そちら側”に兄者を近づけないと決めたのだ。
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634 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 20:49:26 ID:ttGVJWA.0
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( ´_ゝ`)デザート×キャラバンのようです(´<_` )
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635 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 20:50:07 ID:ttGVJWA.0
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そのはち。 できそこないの一人
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636 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 20:53:15 ID:ttGVJWA.0
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(゚A゚)「兄者、どうした?!
やっぱさっきので、無理がっ!!!」
(; _ゝ )「……」
糸が切れた人形のように、兄者は動かなくなった。
何の前振りもなく崩れ落ちたきり、兄者の体は決して動こうとはしない。
いや、動かそうとはしているのだろう。
兄者は地面に倒れ伏しそうになる体をかろうじて支えながら、かなりの時間をかけて顔だけをかすかに上げた。
(´<_` )
表情を歪めた兄者が睨みつける先は、弟者。
弟者は動かなくなった兄の姿に、少しも表情を変えようとはしない。
まるで、そうなるとわかっていた様だった。
(#´_ゝ`)「弟者ぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」
兄者が、吼える。
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637 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 20:54:11 ID:ttGVJWA.0
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直接、危害を与えられたわけではない。
魔法が発動したような形跡もなかった。
(#´_ゝ`)「やめろ、いいから今すぐに返せ!!」
(´<_` )「――俺が、それを許すとでも?」
しかし、兄者ははっきりとした確信を持って弟者を睨みつけている。
怒りと焦りを隠そうとしない瞳。
それに答える弟者の言葉も、自らが元凶であると認めているかのようだった。
(#´_ゝ)「馬鹿野郎。死ぬつもりかっ!!」
(´<_` )「……死ぬ気はない。俺が死んだら意味が無いからな」
弟者の視線が兄者から外れる。
その瞳が向くのは、岩で作られた人と荷馬車の中間のようなイキモノ。
ゴーレム。魂を持たない、機械のようなまがいものの生命。
(<_` )「……」
弟者が背を向ける。
兄者は弟を止めようと手を伸ばし――その手が動かないことに舌打ちをする。
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638 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 20:56:18 ID:ttGVJWA.0
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(#´_ゝ`)「ドクオ、弟者を止めろっ」
( )「その時は、ドクオを殺す」
(;'A`)「……」
弟者の低い声に、伸ばしかけたドクオの手が止まる。
弟者の表情は見えない。しかし、その声にはっきりとした殺意を感じてドクオはたじろぐ。
(#´_ゝ`)「どうしても行くっていうなら、力づくで止める」
(<_` )「兄者はおとなしく、ここで寝ていろ」
(; _ゝ )「――っ」
その言葉と同時に、兄者の頭がガクリと落ちた。
その表情が苦しげに歪み、荒げられた言葉は途中で止まる。
(; _ゝ )「――ばかやろう」
それでも兄者が辛うじて上げた声は、とても小さかった。
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639 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 20:58:04 ID:ttGVJWA.0
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弟者は兄者の姿を見ようとはしない。
その視線が向かう先は、相も変わらず岩の巨人の姿だ。
( )「知ってる」
自分に言い聞かせるように呟くと――、弟者の足は地を蹴った。
弟者が向かうのは、ゴーレムのいる先。
そこではブーンが魔法を放ち、奮闘を続けている。
(;'A`)「弟者っ!」
今度こそ弟者を制止しようとドクオが動く――が、その手は宙を切った。
弟者の姿はドクオが予想したよりも、はるかに先にある。
弟者の足は早い。ドクオもそれを知っていて、羽を動かし手を伸ばした。
間に合った、と思った。
それなのに――間に合わなかった。
('A`)「……あいつ、あんなに足速かったか?」
伸ばした手を引っ込め。ドクオはごくりと息を呑む。
弟者の動きは――、ドクオが今日一日で見た中で群を抜いて速かった。
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640 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 21:00:59 ID:ttGVJWA.0
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弟者はゴーレムを相手にしてから、ここまで疾走した。
それからろくに休んでいないのに、あの速さ。弟者の動きは落ちるどころかむしろ明らかに上がっている。
――兄者が動けなくなったのとは、ちょうど逆だ。
(-A-)「……」
ドクオは瞳を閉じて考える。
同じような光景を見たことがある、……ような気がする。
……たしか昼、二人組の盗賊に襲われた時だ。
盗賊の男を縛り付け、兄者を人質にした少女を拘束した弟者。
魔法使いである彼女を弟者は殺そうとして――、
ありえないほどに、弟者の動きが鈍った瞬間があった。
(´<_`; )「――な、」
弟者は信じられないという顔をしていた。
弟者の顔に張り付いて妨害していたドクオは、その姿をはっきりと見ている。
(*´_ゝ`)b「ちょっと、持って行かせてもらった」
動きの落ちた弟者。それとは対照的に、魔力封じを持った兄者の動きは別人のように速かった。
まるで、弟者のように。兄者と弟者が、そっくり入れ替わったように。
それこそあの時の動きは、――弟者の素早さが兄者へと『持って行かれた』ようだった。
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641 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 21:04:10 ID:ttGVJWA.0
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思えば、ずっと前から妙だなと感じることはあったのだ。
ニンゲンにしては恐ろしく素早い弟者と、並以下の兄者。
軽々と曲刀を振り回す弟と、弱い兄。
魔力に反応する罠の中で平然としていた弟と、意識を失い操られた兄。
単なる資質や鍛錬による成果だと思っていたそれらの違いが、違うことに起因しているのだとすれば。
弟者の速さや、並外れ体力は――何の上に成り立っていたのか。
「……仕方ないだろう。運動と名のつく能力の大半は弟者が持ってるんだから」
「ちょっと、持って行かせてもらった」
「根性を見せろって言われてもな……お前さんが加減さえしてくれれば、俺ももうちょっと」
「俺の体力が残念なのは、俺のせいじゃないやい! 弟者が悪いんだもん!」
「お前が強いのは知ってる。なにせ二人ぶんだからな。
だけど、それだけでどうにかなる相手じゃないだろうが!」
その答えを、ドクオはとうに知っていたのかもしれない。
兄者はずっと言っていた。それでも、ドクオはありえないのだと、その可能性をずっと却下してきた。
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642 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 21:04:54 ID:ttGVJWA.0
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――二人は同じだと、ブーンは言った。
人を構成する上で最も重要な要素。決して同じであるはずのない魂が、同じなのだと。
「同じだよ。弟者にとっては、な」
「――そうだろう、俺?」
双子。
人のできそこない。
二つの肉体がありながらも、魂を同じくするこの兄弟は――、その腕力を、脚力を、体力を、魔力を、
('A`)「――共有、しているのか」
(; _ゝ )「……そんなに、御大層なものじゃない」
('A`;)「兄者!?」
兄者は俯いたまま、苦しそうに声を上げる。
そこにいつも浮かべている陽気な笑顔の、面影はない。
(; _ゝ )「……考えてることがはっきりわかるわけでもない……性格だって全然違う……」
それでも、歯を食いしばるようにして兄者は声を上げた。
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643 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 21:06:29 ID:ttGVJWA.0
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( ´_ゝ`)「……俺と弟者は、別人だ」
動かない体を抱えて、それでもきっぱりと。
自分と弟者は違う生き物なのだと、兄者は告げた。
まるでそれだけは譲れないと言うように、兄者の言葉は強かった。
(#´_ゝ`)「そもそも……あの馬鹿、自分が死にかねんってわかってない!」
(;'A`)「おい、兄者。大丈夫なのか」
( ´_ゝ`)「もうだいじょ――っ、ぅ」
兄者の声の一旦明るくなるが――すぐに、うめき声に変わる。
ドクオは慌てて兄者の傍らに舞い戻り、「無茶するからだ」と、その肩を叩く。
(; _ゝ )「……あんにゃろ、容赦なく持ってきやがって」
(;'A`)「持って行って――って、やっぱりお前」
額から流れる冷や汗を、兄者は拭う様子すら見せない。
兄者は俯いたまま、苦しそうに顔を歪めて言う。
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644 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 21:08:23 ID:ttGVJWA.0
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(; _ゝ )「……問題ない。認めたくはないが、……概ねドクオの考えている通りだ」
兄者は笑い声を上げるが、それもどこか空々しかった。
体は動かさないまま、瞳を閉じ。兄者は、ぽつりぽつりと語っていく。
(; -_ゝ-)「俺とあいつは、双子だからな。……悔しいけど、こういうのだけは融通が利くんだよ」
('A`)「それじゃあ、」
(;´_ゝ`)「……弟者が言っていただろう、人間のできそこない。
イレモノは二つあるのに、魂は一つ。そのイレモノだって完全に別れているとは言えない欠陥品」
どうしてなんだろうな――と、兄者は呟いたのかもしれない。
しかし、その声は小さくて、本当に聞こえたのか、それとも気のせいだったのかドクオには判断ができなかった。
ドクオは少し考え込んだ末に今、一番確認したいことを尋ねることにした。
('A`)「単刀直入に聞く。
お前が動けないのは、弟者がお前の力を奪ったからなのか?」
(; ´_ゝ`)「……そう言うと、なんかエグいな。
せめて持って行ってるとか、借りてるとかもっとこうさ……」
兄者が少しずつ力を込めて、なんとか座る体勢まで体を引き起こす。
しかし、それで限界だったのか。兄者の口からは言葉が消え、動きも止まる。
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645 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 21:10:22 ID:ttGVJWA.0
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かなり長いこと沈黙した末に、兄者はようやく明るい調子の声を上げた。
(;´_ゝ`)「一つの体でふたりぶん動けるからな。使いようによっては便利なんだー。
できそこない様々。大いに万歳、だ」
(#'A`)「それで片方動けなくなってたら、ざまあねえだろ!」
(; _ゝ )「……まあな」
兄者は、ため息をつく。
反論の言葉が少ないのは、辛いからなのだろう。
どうしてそんな状態で、ペラペラしゃべろうとするかね。と、ドクオは怒りを通り越してもはや呆れにも似た気分になる。
兄者の言葉は、これまでの意見とぜんぜん違う。軽口を叩こうとするなら、せめて意見くらい統一しやがれというのに。
('A`)「さっきの、できそこない万歳っての。本気じゃないだろ」
( ´_ゝ`)「……おまえさんは、人の嫌がってるとこばかりに食いつくな」
('A`;)「うるせー」
兄者は、弟者の走り去った方向と視線を向ける。
弟者は既にゴーレムへと接触し、手にした武器を振るっている。
火花が上がり、風と魔力が渦巻く感覚が部屋には満ちている。
.
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646 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 21:12:42 ID:ttGVJWA.0
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( ´_ゝ`)「……弟者を頼む」
岩と床が起こす鈍い音。剣戟、魔法、草、風――あらゆる音が部屋中に響く。
その中で、兄者の小さな声はドクオにはっきりと届いた。
( ´_ゝ`)「虫のいい頼みだとはわかっている。
それでもあいつは、――俺にとっては弟なんだ」
('A`)「オレはブーンと違って、戦う力なんてないぞ」
ゴーレムが引き起こしたのか、床が震動する。弟者たちと岩の巨人の戦闘の影響はここまできている。
それでも兄者の表情だけは、とても静かだった。
( ´_ゝ`)「何かあったら、大声を上げるだけでいい」
._,
('A`)「それだけなら、」
(; _ゝ )「……少しだけ、休む…そ…間、……任せ……」
そのやりとりで、限界だったのだろう。ドクオの返答に小さく笑みを浮かべると、兄者は瞳を閉じた。
気絶したのか。それとも、眠りに落ちたのか。彼はそれ以上は喋ろうとはしない。
兄者の様子をひとしきり見てから、ドクオは顔をあげる。
視線を向けるその先は――、空気を噴き上げるゴーレムと弟者。そして、ブーンの姿だ。
.
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647 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 21:14:15 ID:ttGVJWA.0
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――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
耳元で風が鳴る。
駆ける足は軽く、体から重さというものが消失したようだった。
軽すぎてかえってふわつく体を、腹に力をいれて支えながら、弟者はまっすぐ前を目指した。
一歩、もう一歩と走りながら、腰からシャムシールを引き抜く。
いつもならばずしりと手にかかる重みも、今の自分にとっては鳥の羽のようだ。
(*^ω^)「――オト、」
d(´<_` )「……」
ブーンの声に、弟者は静かにしろと身振りで告げる。
ゴーレムは背後を向いている。
駆け寄る弟者に気づく気配は、ない。
/◎ ) =| )
見上げるような巨体に向けて、弟者は利き足に力を込めた。
.
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648 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 21:16:36 ID:ttGVJWA.0
-
弟者の足が、地から離れる。
腕を振り大きく勢いをつけて、ゴーレムの体を支える足――、無限軌道へ。
そして、そこからさらに跳躍し、巨人の細い腕を支える部品の一つへと着地する。
(´<_` )「……」
左手で体を支え肩へとよじ登ると、弟者は頭頂部へと駆け上る。
足に岩の硬い感触が伝わり、視界が一気に開けた。
風が、薄紫のフードを揺らす。
慣れ親しんだ、土埃混じりのぼんやりとした世界ではない。
そよぐ草、穏やかな日差し、空気は透き通り、吸った息に砂の味はない。
――ああ。
弟者は目の前に広がる光景に一瞬、言葉を失った。
白い壁に囲まれた、楽園のような箱庭。
心臓が、ひときわ大きな音を立てて動く。
高みから見下ろす世界は、未知であふれていた。
外にはこんな光景があるのか――。
胸に浮かんだ、動揺は一瞬。
憧憬にも似た思いは、足元から伝わるゴーレムの震動によって打ち切られる。
.
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649 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 21:18:52 ID:ttGVJWA.0
-
(´<_` )「行けっ!」
弟者の腕がひらめき、シャムシールが巨人の頭へと突き立てられる。
勢いよく振り下ろされた刀は、それでも岩の肌を貫くことはできなかった。
鋭い音とともに、火花が飛び散る。
ただ、それだけ。
/◎ ) =| ) i...i...gi gi
――しかし、ゴーレムは音を上げ、その体を大きく揺らした。
(´<_` )「――きいた!?」
ゴーレムの腕が頭上の弟者を捉えようと、激しく動き始める。
しかし、弟者がどこにいるのかはっきりとわからないのか、伸びた腕が弟者に届くことはなかった。
一度、二度と、腕は執拗に振るわれる。
効いている。
そう、弟者は確信した。
兄者の言うとおり、頭部が弱点なのだ。
はっきりとした手応えこそ感じられなかったが、確かにゴーレムは頭への攻撃を嫌がっている。
.
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650 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 21:20:41 ID:ttGVJWA.0
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(´<_`#)「存分に、喰らえ!」
弟者は腰に下げたもう一振りの刀を抜き、その頭へと叩きつけた。
大きな衝撃と共に、弟者の腕を攻撃の反動が駆け上る。
まるで自身が攻撃を受けたかのような痛み。しかし、弟者はそれでも手にした刀に力を込め続けた。
刀はやはり、岩の表面に傷をつけることすらかなわない。
それでもゴーレムは体を震わせると、弟者を追い立てるようにその体を右へ左へと大きく傾けた。
/◎ ) =| )
――ぎちり、ぎちりという音とともに、ゴーレムの上半身が回りはじめる。
次第に速度を増し始めた動きに、弟者は膝をつき足に力を込める。
(´<_` ;)「くそっ」
宙へと弾き飛ばされそうになる体を、弟者はかろうじて支える。
しかし、その背後から音を上げて巨人の腕が迫り来る。
弟者は立ち上がり退避をはじめようとするが、その動きは一歩遅かった。
ゴーレムの体の動きと震動に、弟者の体が大きく傾ぐ。
体勢をなんとか整えようと踏み出した足は、何もない宙を踏む。
.
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651 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 21:23:09 ID:ttGVJWA.0
-
( <_ ;)「――あ、」
そのまま、弟者の体は落下をはじめる。
体勢を整えることも出来ない。
胃がせり上がるような不快感と、全身の毛が逆立つ感触。
落ちる。
それでも、弟者は目をしっかりと見開き――、
/◎ ) =| )
(´<_` )つ==|ニニニ二フ
視線が交差する。
その瞬間、弟者の左手が動いた。
無骨な刀が驚くほど正確な動きで、ゴーレムの顔面を捉える。
/◎ ) =| ) ――a a a A a AAAA ! ! !
橙の光をあげ、火花が散る。
背を下にした、不恰好な姿勢で振るわれた刀。
力なんてろくにこもってないはずの一撃は、岩の巨人にこれまでとは比べ物にならないほどの衝撃を与えた。
.
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652 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 21:24:56 ID:ttGVJWA.0
-
攻撃の勢いを利用して、弟者は上半身を、そして下半身をひねる。
そして、どうにか体勢を整えると、獣のように地に着地した。
ざっと地を踏む音とともに弟者の両足が、そして刀を握ったままの両手が地につく。
それと同時に風が止む。
その時、弟者ははじめてブーンが力を貸してくれていたのだと気づく。
(#^ω^)「――オトジャ、いくらなんでもムチャだお!」
(´<_` )「すまん」
必死過ぎてわからなかったが、あの無謀な着地が成功したのもブーンのおかげか。
弟者は心のなかで、感謝を告げる。
(´<_` )「行くぞ」
立ち上がり、動きに支障がないのを確認すると、弟者は再び地を蹴る。
それと同時に、振り下ろされたゴーレムの腕が弟者のいた場所へとめり込む。
(;^ω^)「おおおお、おうだお!」
ゴーレムの目――頭部の装甲に穿たれた溝がじっと弟者の姿を追いかける。
それを見やり、弟者は小さく笑みを浮かべた。
.
-
653 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 21:26:29 ID:ttGVJWA.0
-
/◎ ) =| ) i i a A
弟者が、再びゴーレムへと接近する。
右手がひるがえり、次いで左手に持った青竜刀が唸りをあげる。
シャムシールも青竜刀も本来、片手で振るうための武器だ。
しかし、それを一本ずつ両手に持つとなると話は別だ。
(´<_` )つ==|ニニニ二フ
重みのある刀身を力で強引に振るいながら、弟者はゴーレムを睨みつける。
ギチリと音を立てる無限軌道に、二度シャムシールで刺突を繰り出す。
間髪入れずに、青龍刀の横薙ぎ。
ゴーレムの腕を三歩下がり回避すると同時に、軸足をめいっぱい踏み込み跳躍する。
(´<_` )「……」
高く飛び上がった体は、巨体の腕へと落下する。
着地もそこそこに、弟者はゴーレムの岩の腕を駆け上がると、再度踏み切り二度目の跳躍を遂げる。
勢いを上げて吹く風が、弟者の耳元でうなりをあげる。
しかし、恐れることはない。
今の弟者にとって、風は弟者を守る盾であり、武器だ。
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654 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 21:28:47 ID:ttGVJWA.0
-
そして、二度の跳躍をはたした弟者の眼前にゴーレムの“顔”が迫る。
先ほどの攻撃で一番効果があった、顔の装甲。
後ろに流された弟者の右手が流れるように弧を描いて、シャムシールの刀身をゴーレムへと叩きつける。
一際上がる、大きな火花。
焦げ臭い匂いが鼻をつくと同時に、体勢が崩れ弟者の体は落下を――
(#^ω^)《足場になるお!》
風が、弟者の背と足元を抱きとめるように渦巻く。
柔らかい寝台を踏むかのようなおぼつかない感覚。しかし、体を支えるにはそれで充分だった。
(´<_`#)「いけぇっ!!!」
足を踏み出す。
目に見えない風の足場に、弟者がためらうことはなかった。
左手に携えた青竜刀を、顔面へと突き出す。
銀の刀身は光をあげ、顔にあけられた溝へと吸い込まれていく。
.
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655 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 21:31:03 ID:ttGVJWA.0
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手にかかる鈍い衝撃と、刀身が何かを傷つけた感触。
その瞬間、確かに手応えがあった。
弟者は手にした刀を更に深く、押し込んでいく。
/◎ ) =| ) Ga gi ga GA
ゴーレムが、悲鳴じみた音――声を、上げる。
一際、大きなその声とともに、巨人は体を捻るように動きはじめた。
弟者は右手のシャムシールによる突きを繰り出そうとして、ゴーレムの二本の腕が臨戦態勢となっていることに気づいた。
(´<_`#)「ちっ」
舌打ちとともに、背後へと跳躍する。
ブーンが上手く支えているのか妙な具合に足元が揺れるが、弟者の体が落下することはない。
宙へと逃げた弟者の体をかすめるようにして、岩の腕が振り回される。
そして、巨人の二本の腕はそのまま顔をかばうように、構えられた。
(; ^ω^)「ずるいお! あいつ弱点をかくす気だお!!」
(´<_` ).。oO(……どうする?)
.
-
656 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 21:32:20 ID:ttGVJWA.0
-
あの岩の体で守りの体勢に入られてしまえば、弟者が取れる攻撃手段が無くなる。
頭部の装甲以外の攻撃は、ほとんど効果がない。
それに対してゴーレムは、人間など容易に轢き殺せる足――無限軌道がある。
このままでは、圧倒的に不利だ。
(´<_` ;).。oO(どうすれば……)
(#^ω^)「オトジャ、横っ!」
思い悩む弟者に、ブーンから警告がとぶ。
弟者がはっと顔をあげると、その横を黒い何かが通りすぎて行くところだった。
( _ :::)
弟者は慌てて、通り過ぎたそれを視線で追いかける。
同じくらいの背丈の、男。
――宙を飛ぶ弟者とすれ違った、何かはそう見えた。
しかし、それはおかしい。
人間はそもそも空を飛ばない。
魔法や道具、ブーンたち精霊や竜などといった存在の手助けなしでは不可能だ。
弟者だってブーンの魔法によって、宙に踏みとどまっている。
それにこの最奥の間の唯一の出入り口は封鎖され、誰かが出入りできる状況ではないはずだ。
.
-
657 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 21:34:21 ID:ttGVJWA.0
-
(´<_` ;)「……」
弟者は目をこらすが、その男の顔や服装は判然としない。
猫のようにぴんと立った耳。そして、武器とマントらしきもの――かろうじて、それだけが弟者の目に留まる。
/◎ ) =| )
男らしき姿は、一直線に宙を飛ぶとゴーレムと対峙する。
敵……というわけではない、らしい。
ゴーレムに立ちふさがる男の姿は、ギコではない。しかし、それでも誰かに似ているような気がする。
弟者は呆然と視線を漂わせて、
(:::: _ )
新たに現れたのは、その男一人ではないことに気づいた。
猫のような耳を持った男の姿。その顔はやはり、暗く陰りよく見えない。
そんな男の姿が一人、二人……。
(; ゚ω゚)「人がこっちにもいるお……」
(´<_` ;)「これは……一体、」
.
-
658 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 21:36:22 ID:ttGVJWA.0
-
突如現れた人の姿は、五人。
その誰もが、確かにそこにいるはずなのにはっきりとは見えない。
――人なのか、もっと別の何かなのか。
弟者の額から、汗がつと落ちる。
( _ :::)つ==|ニニニ二フ
五人の男が一斉にゴーレムへと向かう。
音をたてない滑るような動きは、やはり人にできるものではなかった。
(#'A`)「弟者ぁぁぁぁっ、つっこめ攻撃しろぉぉぉっ!!!」
(´<_` )「……ドクオ?」
弟者やブーンの戸惑いを切り裂くように、上がったのはドクオの声だった。
いつの間にか、弟者の間近にあらわれていたドクオは凄まじい勢いで怒鳴りつける。
(#゚A゚)「いいから早くっ!! そのデカブツをぶっ飛ばせ!!」
その声の剣幕に押されて、弟者は駆け出す。
右手にはシャムシール、左手には青龍刀。
二振りの刀を構えた弟者が向かう先は、ゴーレムの顔面。
二本の岩の腕で守られた、巨人の唯一の弱点。
.
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659 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 21:38:11 ID:ttGVJWA.0
-
/◎ ) =| )// g
(:::: _ )
突如現れた五人の男の姿に、ゴーレムが弾かれたように腕を振り回し始める。
――そして、その瞬間。弱点である顔面が、はっきりと晒される。
(´<_`#)「くらえっっ!!!」
弟者が繰り出したシャムシールは、巨人の腕をかいくぐり、その顔面を鮮やかに貫いていた。
力を込めその刀身を深く押し込むと、弟者は左手に力を込める。
(´<_` )「もう一撃っ!」
青龍刀が、ゴーレムの“目”を深く突き刺さす。
突き刺さった刀を引き抜き、もう一撃。
弟者の放ったそれは寸分たがわず、同じ場所へと突き刺さった。
/◎ ) =| )// A A AAAA A!!
弟者がゴーレムの顔面を捉えるたび、巨人は声を上げて激しく腕を振るう。
その一振りに、ゴーレムへと向かった黒い男の姿が無残にも千切れ飛ぶ。
.
-
660 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 21:40:14 ID:ttGVJWA.0
-
( _ :::)つ==|ニニニ二フ
しかし、すぐ後ろに現れた別の影が巨人へと向かう。
腕をふるって対抗するゴーレムへ向かって、飛びかかったのは――
(:::: _ )
つい先程、ゴーレムの腕の一振りによってちぎれ飛んだはずの男の姿だった。
男は攻撃を食らったなど嘘のように、再び突撃を始める。
( ^ω^)「……アレは、何なんだお?」
(;'A`)「オレの作った“影”だ」
_,
( ^ω^)「カゲ?」
.
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661 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 21:42:32 ID:ttGVJWA.0
-
五人の男たちはどれも似たり寄ったりの体つきをしている。
よく見ればそれは、――兄者や、弟者そっくりの体つきだ。
はっきりと顔の見えないその姿は薄っぺらで、自由に動き回ること以外は影と言われれば、なるほど納得できる姿だ。
('A`)「オレの力じゃ、目眩まし程度にしかならない。
弟者……がんばってくれよ」
影は手にした武器――青龍刀のような影を振るう。
が、その攻撃はゴーレムに命中した気配はない。
軌道は確かに合っている。避けられた形跡もない。
影の刀は、ゴーレムの体へと影を落とすだけ。
目眩ましという言葉の通り、ドクオの作り出した影たちは攻撃を加えることは出来ないのだろう。
(:::: _ )
五体の影は動き――、あるいは走り、ゴーレムの注意を逸らし続けている。
ゴーレムの腕に霧散し、それでも再び出現する。
影は痛みを感じないような動きで、ひたすら飛び、ゴーレムに接近してまわる。
その間を縫うようにして、弟者の持つ刀の銀の閃きが巨人の顔へと振るわれる。
.
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662 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 21:44:25 ID:ttGVJWA.0
-
(´<_` )「行ける」
弟者は刀を振るい続けながらも、手応えを感じていた。
弟者の振るう刀は、大きな打撃を加える事はできない。
しかし、それでも今の弟者はゴーレムへ着実にダメージを与えていた。
巨人の顔面。この部分の装甲は他よりも柔らかいのだろう。
突き出され、薙ぎ払われる二振りの刀は、巨人の“目”周辺に無数の小さな傷をつけ始めていた。
(´<_` )つ==|ニニニ二フ
ブーンの巻き起こす魔力の風は、弟者の動きに応じてその方向を自在に変える。
上と言えばその体を上空に持ち上げ、下と言えばその体を下降させることだってできる。
突如として現れた五つの影に気を取られ、動きの鈍くなった巨人の腕を上へ下へとかいくぐりながら、弟者は腕を振るい続けていた。
(´<_`#)「――死ね」
/◎ ) =| )//
弟者と、ゴーレムの視線が交錯する。
両者は、再びにらみ合う。
.
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663 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 21:46:53 ID:ttGVJWA.0
-
かちりという――、音がなる。
何だ、と弟者が思ったのはほんの一瞬。
(゚<_゚ ; )「!?」
(; ゚ω゚)「オトジャぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
次の瞬間、ゴーレムは体から莫大な量の蒸気を噴き上げた。
とっさに顔はかばったが、熱と一面の白はオトジャから一気に視界を奪い去った。
目を開けるもの苦しい熱、べたりと体にまとわりつくした不快な湿気――。
(´<_` ;)「――ぅ」
(゚A゚)「……影、が」
白い熱をもった霧に阻まれて、ドクオの作り出した影が一つ。また一つと消えていく。
そして、残ったのはゴーレムの眼前。
ブーンの作り出した風によって支えられた、弟者本人の姿。
(゚<_゚ ♯)「――っ!」
迫り来る岩の腕を、弟者は下方に逃れて回避する。
そして、白くけぶる視界の向こうから迫り来るもう一方の腕を回避しようとして、弟者は息を止める。
.
-
664 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 21:49:44 ID:ttGVJWA.0
-
――ゴーレムの腕は、これまで見てきた姿とはまったく違う形をしていた。
腕の先に取り付けられた、岩の塊。
それが蠢き、細長く伸び――幾つもの針がついた拷問器具のような形へと姿を変えていく。
( <_ ;)「――くっ」
弟者は白い霧によって利かない視界と体を襲う熱に息を呑みながらも、致命的な一撃だけは回避した。
でも、それだけだ。
(;'∀`)「よしっ、避けた!」
(; ゚ω゚)「大丈夫かお!!」
ドクオも、ブーンもまだ気づいてはいない。
腕は二本。
視界を隠す灼熱の霧の向こうから、唸りを上げてもう一方の、岩の塊が迫り来る。
/◎ ) =| )
(´<_` ;).。oO(くっ)
.
-
665 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 21:50:27 ID:ttGVJWA.0
-
射程が読めない。
――どう避ければいいか、判断できない。
つ==|ニニニ二フ
とっさに盾にしたシャムシールに、迫り来る巨石がぶつかる。
痛いとか、重いという余計な感覚は浮かばなかった。
火花が上がり、支えようとする腕ごと引きちぎるかの衝撃が弟者の右腕にかかる。
(´<_`;)「――くっ」
(゚A゚)「なっ」
衝撃に抗いきれず、曲刀を握る手が緩む。
それで、最後。
支えを失ったシャムシールが手から離れ――飛んでいく。
行方はわからない。
それでも、このままではいけない、と弟者は左手の青竜刀をとっさに眼前へと差し出した。
.
-
666 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 21:52:20 ID:ttGVJWA.0
-
――後退する、余裕もなかった。
(゚<_゚ ♯)「チッ」
空中という不安定な足場は、いまいち踏ん張りが利かない。
受け流しきれず、刀が鋭い音を上げる。
手の感覚に違和感を覚えたのはほんの数秒。
一瞬、銀の光が落ちるのが見え、手のなかが一気に軽くなる。
( <_ ;)「――っ」
どうやら、青龍刀はダメになってしまったらしい。
曲がったか折れたか、それを確認している余裕は弟者にはない。
退避も出来ない不安定な体勢。頼りの武器も使いものにならず、敵との距離が近すぎる。
(ii ゚ω゚)「 !!!」
全身を覆っていた、風の魔力が止まる。
落下によってなんとか回避させようということなのだろう。だけど、それも遅い。
巨人の腕は、のっぴきならないところまで迫っている。
.
-
667 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 21:54:37 ID:ttGVJWA.0
-
助からない
時間が、いやに長く感じた。
これだけあれば、離脱することだってできるだろうというくらい長い感覚。
しかし、体はピクリとも動かない。
死を待つための、永遠とも思える時間が続き――、
(ii ゚ω゚)「オトジャぁっ!!!」
(#゚A゚)「兄者ぁぁぁぁぁ!!!! 聞けっ!! 起きろぉおおおおおおお!!!」
ブーンとドクオの大声が聞こえる。
だが、その声も遥かに、遠い。
( <_ ;)「 」
くそったれと――叫んだのかもしれない。
何と言ったのか自分でも自覚することのないまま、弟者の意識は
――それっきり、途絶えた。
.
-
668 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 21:56:46 ID:ttGVJWA.0
-
からんと何かが転がる音をしたのは、その直後。
転がったのは無骨な銀の刃。
弟者が手にしていた青龍刀の一部だった。
頑丈だった刀身は今や真っ二つに折れ、武器としてはもう使えない。
(ii ω )「オトジャ」
しかし、そんなものの姿はブーンの目には入らない。
ブーンが凝視する先は、ゴーレムの腕が振るわれた先。
岩の腕は弟者の体をとらえ、そのまま遠くへと吹き飛ばした。
弟者の体はろくな受け身も取れないまま、弾き飛ばされる。
そして、壁へと叩きつけられその動きが止まる。
鈍い嫌な音とともに、はっきりと赤の色が見えた気がして、ブーンはとっさに瞳を閉じた。
( <_ ;)「――ぐ、あ、」
そして、ブーンの耳は小さな声を拾う。
苦痛にまみれたうめき声。
それでも、声が聞こえたということは弟者は生きているということだ。
.
-
669 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 21:58:42 ID:ttGVJWA.0
-
シュゥという音は、ゴーレムのものか。
ゴーレムの攻撃を再び食らえば、弟者の微かな声は今度こそ完全に止る。
それはダメだ。
(#゚ω゚)《守るお! 全力で吹くお!!》
ブーンの声とともに魔力が吹き上がる。
弟者の体を守ろうと、風が大きく吹き荒れ……
(#゚A゚)「ブーン!!!!」
/◎ ) =| )
(iii ゚ω゚)「――あ」
弟者に気を取られたブーンの視界に入る、岩の腕。
いつの間にと思うよりも早く、腕の巻き起こす猛烈な勢いの風がブーンの体を叩く。
腕が触れたというのはブーンの錯覚なのか、それとも事実か。
ブーンの体は飛ばされ、地面に叩きつけられた。
弟者の体を守るように、吹く風が止まる。
――そして、ブーンの声は途絶えたまま、ドクオから見えなくなった。
.
-
670 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 22:01:16 ID:ttGVJWA.0
-
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
弟者は動かない。
ブーンにいたってはどうなってしまったのか、姿さえも見えない。
(;゚A゚)「おい、弟! しっかりしろ弟!」
気配を消し、ドクオは弟者の元へと駆け寄る。
いつもはふらついてしっかり飛べない羽も、この時ばかりはドクオの思うまましっかりと動いた。
( <_ ;)「――ぐ」
(;'∀`)「よかった、息はある」
弟者の息は、止まってはいなかった。
ドクオは弟者の顔を覗き込みながら、ほっと息を呑む。
予想よりもはるかに軽い怪我だ。これなら、安静にさせておけば、すぐにでも動けるようになりそうだ。
('A`)「……俺の力でできるのは、せいぜい目眩ましだけ。だったら、……」
.
-
671 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 22:03:40 ID:ttGVJWA.0
-
ドクオは、魔力を込めて言葉を放つ。
ゴーレムの目をそらす。それだけの効果しかない、目眩ましの結界。
弟者は激怒するだろうが、死ぬよりはマシだろうとドクオは覚悟を決める。
兄者の言葉じゃないが、羽の一枚の犠牲で、どうにかなるなら万々歳というやつだ。
('A`)「これで……、持ってくれよ……」
弟者から伸びる影に、ドクオは潜り込む。
('A`)「……ここは静かだな」
影という領域に属するものだけが入り込むことのできる暗い世界に、ドクオは降り立つ。
暗い影の世界は、ドクオの領域であり我が家だ。
その温かい安寧の世界の中で、ドクオは小さく息をつく。
.
-
672 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 22:04:21 ID:ttGVJWA.0
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――ブーンについていかなければよかった。
盗賊なんて怖いもんは襲ってくるし、挙げ句の果てにはゴーレムなんてデカブツだ。
こんなことなら、いつもみたいにこの暗い影の中でまどろんでいればよかった。
影の中は暗いけれど、静かで――何も起きない。
安心安全安泰な我が家。オレが生まれた源にして、本体。
何もなくたっていいじゃないか。寝ていれば10年や20年なんてすぐに過ぎていく。
なのに。
どうしてオレはこんな事に付き合わされているのだろう。
羽は引きちぎられる。
投げ飛ばされる。
絞め殺されそうになる。
……ほら、ろくなことなんてないじゃないか。
こんなところは嫌だ。
でっかいバケモノと戦うなんてオレには無理だし、消滅したって嫌だ。
立ち向かっていく弟者やブーンの気が知れない。
オレには無理だ。
体が震えるし、痛いのは嫌だ。怖すぎる。
さっきまでのことは忘れて、とっとと寝てしまいたい。
――だけど、
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673 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 22:06:32 ID:ttGVJWA.0
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(#'A`)「ほっとけるかよ、クソッ。ブーンのせいだぞ!!」
ドクオは影の世界から、兄者の影へと移る。
躊躇うように何度か息を呑んだが、それでもドクオは外の世界へと飛び出していった。
('A`)「――おい、兄者!! 弟者のやつが!!!」
そう言って、ドクオは兄者の肩に手をやる。
寝ている様なら叩き起こそうと、ドクオは兄者の顔を覗き見て、その表情が凍りつく。
わけがわからない。理解できないという動揺に体を震わせながら、ドクオは声を上げる。
(;゚A゚)「……お前」
( _ゝ )「……」
兄者の口から血が一筋、首筋へと伝った。
兄者の薄水色の毛並みは血で赤黒く変色し、今やほとんど動かすことのできない手は、腹を強く押さえている。
(;゚A゚)「ずっとここにいたはずだよな
……弟者の武器だって、こっちには飛んでないはずだ……」
.
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674 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 22:09:04 ID:ttGVJWA.0
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兄者は動けなかった。
だから、ゴーレムに接近できたはずもないし、そもそも攻撃を食らう余地なんてなかった。
だけど、現に兄者は今にも死にそうな姿で――。
(;゚A゚)「……どういうことだ?」
( <_ ;)「――ぐ」
呟くドクオの脳裏に、弟者の姿が浮かぶ。
弟者の怪我はゴーレムの攻撃を食らったにしては、軽かった。
いや、軽すぎたのだ。あのバケモノの攻撃を食らって、ただで済むはずがなかったのだ。
(#゚A゚)「まさか、弟者のやつ」
(; _ゝ )「……ちが……う……」
兄者から根こそぎ力を奪ったように、受けたダメージを兄者に押し付けようとしているのか?
そう、口にしようとしたドクオの声を兄者が遮る。
兄者の顔からは血の気が失せ、その息も絶え絶えだ。
兄者が言葉を呟く度に、その口からは血がこぼれ落ちる。
.
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675 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 22:11:50 ID:ttGVJWA.0
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(#'A`)「何が違うだ。現にこうして」
( ´_ゝ`)「……弟者に……は……悟らせるな……」
そこから先は言葉にならなかった。
目を閉じ強く呻くと、大きく息を吐いた。
その言葉で、ドクオは理解した。
――さっきの逆だ。こいつは自分の意志で、弟者の受けた負担を肩代わりしている。
(; _ゝ )「俺たちは二人になりそこねた、できそこないの一人だ。
忌々しいことだが、俺がどれだけ否定した所でその事実は変えられない」
これが兄者の本音なのだろう。
兄者の顔は蒼白で、それでも開いた瞳はまっすぐだった。
( ´_ゝ`)「だけど、そんな産まれぞこないだからこそできることがある」
(#'A`)「それで無茶か。倒れたら、お前が死んだら意味ないだろう」
( ´_ゝ`)「……俺は死なないよ。
俺が死んだら、つながってる弟者が危ないからな」
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676 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 22:13:18 ID:ttGVJWA.0
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そして、兄者はゆっくりと動き始めた。
兄者の腕が時間をかけて、腰へと動く。
そこからさらに時間をかけて取り出されたのは、ナイフだった。
(; _ゝ )「――く」
(;A;)「おい、兄者もうやめろ。これ以上無理をするな」
(;´_ゝ`)「やなこったい」
兄者は手にしたナイフをゆっくりとした動きで振りかぶる。
その拍子に傷口が開いたのか額から血が流れ、顔を濡らしていく。
( ´_ゝ`)「俺は、――お兄ちゃんだからな」
これまでの動きが嘘のように、兄者の腕はなめらかに動いた。
振りかぶられたナイフが、岩の巨人へと向かって放たれる。
その速度は決して早いものではない。しかし、巨人へと向かってまっすぐに飛んでいく。
(;'A`)「お前、今何を……」
ニンゲンのように涙を流していたドクオは、兄者の動きにはっと息を止めた。
兄者は、今何をした? なぜ、身を守る唯一の武器を投げたのだ。
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677 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 22:15:31 ID:ttGVJWA.0
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(iii´_ゝ`)「……」
(#'A`)「兄者、こたえろ!!!」
兄者の力を振り絞った程度では、ナイフは早く飛ばない。
それどころか、それほど飛ばないうちに落下して地面に落ちる。
カランと高い音が響き、地に落ちる。
ただ、それだけ。
/◎ ) =| ) ……g
しかし、巨人の意識を逸らすにはそれだけで十分だった。
魂を持たない巨人は、武器を投げつけた生き物をはっきり敵として判断する。
ぎちりと無限軌道が動き、その体が兄者に向けて動き始める。
最奥の壁。その近くに座り込んだ標的。
動こうとはしない獲物へと向けて、巨人の体は動き始める。
( _ゝ )「……ドクオ、俺が言ったこと覚えてるか?」
(#'A`)「なんかあったら、大声を出せってやつだろ」
( ´_ゝ`)「……そっちじゃない。もっと前の方だ」
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678 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 22:17:51 ID:ttGVJWA.0
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いろいろありすぎて、覚えていない。
いや、今はそんなことを言っている場合じゃないだろう――と、ドクオは叫びかける。
そんなドクオの表情から言いたいことを読み取ったのだろう、兄者の口元が小さく緩む。
( ´_ゝ`)「もし何かあったら、俺は無視して祭壇を壊せ……それでどうにかなるはずだ」
(#゚A゚)「大馬鹿野郎!!! お前まさか」
( ´_ゝ`)「大馬鹿野郎か。よく弟者にも言われるな」
兄者の顔に浮かぶのは飄々とした、表情だ。
さっきまでの、真剣な表情は何処にも見られない。
この、嘘吐き野郎。――ドクオは、そう叫ぼうとして、ぎちりという異音を聞いた。
ぎちり
ぎちり、ぎりぎり、ぎちり
耳障りなそれは、この部屋で幾度となく聞いた音だ。
ゴーレム。岩で作られた、魂をもたないバケモノ。
/◎ ) =| )
その顔面に穿たれた溝は、はっきりと兄者の姿を見据えていた――。
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679 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 22:20:18 ID:ttGVJWA.0
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――――――――――――
( <_ ;)「――ぅ」
体が崩れ落ちる衝撃で、弟者は目を覚ます。
……意識を失っていたらしい。頭がはっきりと働かない。
ゴーレムの気配は間近にはない。しかし、奴がどこにいるのか、ぼんやりと霞む視界ではわからない。
全身が鈍く痛む。頭の中を支配するのは、痛いという言葉だけだ。
( <_ ;)「てき、……は?」
痛みをこらえながら、弟者は目を開く。
霞んではっきりとは見えない視界の中に、ゴーレムの姿は見えない。
助かったと弟者は思い――次の瞬間、頭から血の気が一気に引く。
痛む頭を振り、震える足を無理に支え立ち上がる。
その瞬間、体を覆う魔力が霧散した感触を覚える。
ドクオの結界が消失したためだったが、目覚めたばかりの弟者にはわからなかった。
……ブーンの風だろうか? そう思いながら、弟者は足を踏み出す。
(´<_`; )「……あにじゃ、……ブーン」
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680 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 22:21:33 ID:ttGVJWA.0
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体の至るところが痛みを訴えてくる。
しかし、動けないかと思った体は――意外なほどに自由に動いた。
歪む視界は何度か瞬きをすれば、ようやくまともに像を結んだ。
( ´_ゝ`) (゚A゚#)
最奥の壁に座り込む兄者とドクオの姿が見える。
そして――、そのすぐそばには、間近に迫った岩の巨人の姿。
/◎ ) =| )
熱をはらんだ空気を排出しながら、巨人の腕が大きく動く。
胴体を中心として、円を描くように振るわれた腕が狙う標的は――、
(;´_ゝ`)「――やっぱ、来るか」
兄者。
身体能力の大半を持っていかれた今の兄者は、満足に動くことも出来ないはずだ。
弟者の顔から血の気が引く。しかし、ゴーレムの動きは止まらない。
ぶしゅぅと間の抜けた空気の音が響くと、巨人の腕が縦に向かって振り下ろす動きへ切り替わる。
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681 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 22:28:44 ID:ttGVJWA.0
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兄者は動けない。
そして、弟者も体勢をたてなおすだけで精一杯。
オ レ
( <_ )「――――兄者っ!!!」
巨人は岩と砂でつくられた巨体を震わせて、その腕を兄者に向けて振り下ろし、
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682 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 22:29:31 ID:ttGVJWA.0
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683 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 22:31:24 ID:ttGVJWA.0
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瞬間。
床から黒い何かがゆらりと立ちあがった
黒いうすっぺらな、水のようなそれは、動けない兄者を飲み込みながら天井に向かって伸びる。
(゚<_゚ )「――――兄者っ、兄者兄者ぁっ!!!」
身を裂かんばかりの声を上げ、弟者は黒いそれにむけて突進する。
しかし、遅い。
弟者の動きでは、黒い影にも、巨人の腕にも間に合わない。
そして、弟者の向かうその先。
黒い何かに飲み込まれた兄者の頭上――下に向けて振り下ろされようとしていた巨人の腕が
ぴたりと
止まった。
( A ;)「――どうにか間に合った」
(; _ゝ )「弟者っ、ブーン! 俺は無事だっ!」
黒い影の向こうから声が上がるのを、弟者は聞いた。
その声は反響し、どこから聞こえてくるかわからない。
しかし、それは間違いなく兄者とドクオの声だった。
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684 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 22:33:34 ID:ttGVJWA.0
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――――――――――――――
――――――――――――
( A )「目眩ましの結界を張った、こっちはこれでしばらく持つ」
(; _ゝ )「ちょっ、これ目眩ましだけなのか」
急に暗くなった空間のなかで、兄者は目を見開いた。
兄者とドクオの体は、先ほどの場所から移動していない。
ただ、その周囲は黒く陰り暗い影に覆われている。
少しだけひやりと涼しいが、それ以外は何も変わったことはない。
息苦しくもないし、空気の肌触りも変わらない――、ただ日差しが遮られて暗いだけ。
この黒い影がドクオの言う“目眩ましの結界”というものだろう。
兄者はふむと小さく息をついた。
兄者の位置からはゴーレムや弟者の姿が先ほどまでと変わらず、はっきりと見える。
しかし、不思議なことに弟者やゴーレムからは、兄者とドクオの姿が見えないらしかった。
('A`)「悪いか。どうせオレ程度じゃこれ一つが限界だよ」
(;´_ゝ`)「いや助かった」
.
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685 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 22:35:06 ID:ttGVJWA.0
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首を動かすのも辛いのか、兄者はこの状況だというのに微動だにしなかった。
ただ正面を向いたまま、口と表情だけを微かに動かす。
(#'A`)「そう思っているなら、自分で勝手に納得して先走るのはやめやがれ!
お前がナイフ投げて注意を向けんでも、弟者にはちゃんとこれと同じ結界が張ってあったんだよ!!」
( ; ゚_ゝ゚)「……なんと、な」
ヽ(#'A`)ノ「こっちを守ったせいで、弟者の方の結界はダメになったし、ったく!」
ドクオは声を振り上げながら、ゴーレムの姿を見やる。
巨人は兄者やドクオの姿が見えなくなったことに動揺でもしたのか、上半身を回転させて周囲に目を走らせている。
ゴーレムは目でしか、標的の位置を判断出来ないのだろう。目の前の兄者やドクオに気づく様子はなかった。
('A`)「はぁぁっ、上手くいった。
あとは、ブーンと弟さえどうにかできれば」
( ´_ゝ`)「……」
('A`)「この部屋の結界を解こう。もう、オレたちだけじゃどうにもならん」
この状況を突破するための手段は、もうこれしか残されていない。
兄者だって何かあったら、結界を壊せといったのだ。同じ意見だろう。
ドクオはそう思って、動き出そうとするが――、兄者は首を縦に動かそうとはしなかった。
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686 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 22:37:46 ID:ttGVJWA.0
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(; _ゝ )「……ドクオ。その前に、一つだけ頼めるか?」
('A`)「なんだ。いまさら、結界は解けないなんてワガママはもう聞かないぞ」
兄者はドクオの声には答えず、視線を横に向けた。
その視線が向かう先は、ゴーレムではなくその向こうの草むら。
( ´_ゝ`)「……アレを取ってきてくれ」
('A`)「あれ?」
踏み荒らされた緑の草の中。そこに、投げ捨てられたものがある。
細かな模様や金具によって装飾が施された、大振りの袋。
見覚えのあるそれは、弟者が出かける時からずっと手にしていた鞄だ。
(;'A`)「何をいきなり」
( ´_ゝ`)「……この状況だからな、出来る限りのことはするべきだと思われ。
説明は後でするから、頼む」
そう言い切った兄者の顔に、諦めの色は見えなかった。
頭から血を流した姿のまま、兄者は口元に笑みを浮かべるとそう言い切った。
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687 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 22:40:08 ID:ttGVJWA.0
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――――――――――――
(´<_`#)「――ぁあああ!!!」
弟者は駆けた。
体の痛みはもはやどうでもいいものへと変わっていた。
それよりも、アイツだ。岩でできたバケモノ、あいつは俺――兄者を殺そうとした。
許せない。
アイツだけは、壊さなければ気がすまない。
――弟者の頭を支配するのは、もはや怒りだけだ。
折れた刀を振り、弟者がゴーレムの足へと迫る。
そのまま一閃。
青龍刀の残された短い刀身部分はそれでも、主の命を果たそうと火花を上げる。
戦略だとか弱点をつこうといった考えは、その動きからは欠片もみられない。
弟者の動きは相手に攻撃を加える。それだけしか考えていない動きだ。
(゚<_゚ ♯)「ぁぁああああああ!!!」
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688 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 22:42:12 ID:ttGVJWA.0
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弟者の口から上がるのは、獣のような叫びだけ。
壊れた武器をただひたすらゴーレムに振るい続ける。
一撃、二撃。
折れた刀が悲鳴を上げ、わずかに残された刀身が醜く歪む。
しかし、弟者の動きは止まらない。
( <_ ♯)「――っああああああ!!!!」
攻撃を避けざま、突きを放つ。
短くなった青龍刀は、それでもゴーレムへと届いた。
手首を捻り刀の軌道を、切りつける動きへと変える。
右手に走りこみ、位置を変えてもう一撃。
/◎ ) =| )
( <_ ♯)「ちぃっ!」
ブーンの援護はない。
武器も、壊れた異国の刀が一本だけ。
刀を振るう腕は重く、打ち込むたびに硬い岩の衝撃に腕を持って行かれそうになる。
攻撃の効果は見えず、武器を振るえば振るうほど体力が失われていく。
.
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689 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 22:44:23 ID:ttGVJWA.0
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――元より、弟者に勝ち目などはない。
それでも戦うのは、完全に意地であった。
弟者は、折れた武器を振るいながら、ゴーレムを睨みつける。
(´<_`#)「俺は――、もう二度と俺を」
失わないと決めたのだ。
そうなるくらいならば、自分が先に死んだほうがマシだ。
それで、結果。兄者が死ぬ形になるとしても、何もしないよりはるかにいい。
と(´<_`#)
ゴーレムの腕に、片手を掛ける。
腕の力で這い上がり、顔面の装甲へと跳躍しようと腰を落とす。
体が揺れる。それでも、ゴーレムの頭に一撃を加えようとしたところに、巨人のもう片方の腕が迫り……
回避は間に合わない。
もとより、回避をできるような場所にはいない。
それでも、避けようと力を込めた足がずるりと滑り――
弟者は、何もない空へと放り出された。
.
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690 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 22:46:34 ID:ttGVJWA.0
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体を捻り、弟者は辛うじて受身の姿勢を取る。
そして、そのまま弟者は地面にたたきつけられた。
( <_ ;)「――くっ」
落下の衝撃に息が詰まるが、動けないほどではない。
痛みがあるが、骨は折れていない。手にも青竜刀の柄が残っている。
まだ、戦える。
(´<_`#)「動け」
弟者は立ち上がろうとして――、その動きを止めた。
見上げた視線の先に、兄者とともにいるはずのドクオの姿がある。
ブーンを助けに来たのかと弟者は思い、すぐにその考えを打ち消した。
弟者の顔を、嫌な汗が伝う。
ドクオの気配を、感じなかった。
この状況だからこそ普段以上に、気を張っているにもかかわらず弟者は気づけなかった。
ドクオは気配を隠していたのだろう。そこまでして、ドクオが向かった先にあるのは――何だ?
(´<_` ;)「何、を……」
.
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691 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 22:49:19 ID:ttGVJWA.0
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弟者は視線をドクオへと向ける。
ドクオが向かう先、そこにあるのは弟者が投げ捨てた鞄だ。ドクオの細くて小さな腕が、鞄へと届く。
(゚<_゚ ; )「……まさか、」
あの鞄には、魔法石板が入っている。
ブーンやドクオたち精霊は、魔法を使うのに石板を必要としない。
魔道具や石板を使って魔法を使うのは、人間だけだ。
――この状況で、石板を必要とする人間は一人しかいない。
(´<_`#)「やめろ、ドクオ!!」
( _ゝ )
兄者だ。
兄者が、魔法を使おうとしている。あの時のように、兄者が――
.
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692 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 22:51:13 ID:ttGVJWA.0
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――今でも、思い出す。
物置代わりの、ガラクタが押し込められた小部屋。
《止まれ》
魔力を込めた、絶対の制止の言葉。
振り払えなかった忌まわしい力。
魔法さえなければ――あの時動けてさえいれば、その後の展開は変わっていたはずだ。
兄者だけが、鏡に落ちることもなかった。
俺が、俺で無くなることだってなかったはずだ。
使わせてなるものか。
それだけは、絶対に避けなければならない。
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693 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 22:53:49 ID:ttGVJWA.0
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(゚<_゚ ♯)「……ドクオぉぉぉ!!!」
弟者の足が土を踏み、その身を立ち上がらせる。
ふらつく体を押さえつけ、ドクオの元へ向かおうと力を込める。
('A`)「……スマン、弟者。兄者の頼みだ」
殺気を込めた弟者の視線が、ドクオを貫く。
弟者はこれまでドクオに対して、攻撃をためらったことはない。
ドクオのもとにたどり着けば、弟者は手にした武器を振るうことだろう。
――しかし、ドクオの表情は静かだった。
('A`)「オレは薄情だが、意地が悪いわけじゃない。だから、お前の命令は聞けない。
このままだと死ぬってわかってる奴を、放っておけるかよ」
弟者に向かって言い放つと、ドクオは背後へ向かって叫んだ。
('A`)/「ブーン!!! こいつを兄者のところに!!!」
.
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694 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 22:55:44 ID:ttGVJWA.0
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ドクオの近く、草むらの中から魔力が湧き上がるのと、弟者が駆け出すのは同時だった。
弟者の位置からでは、魔力の持ち主の姿は見えない。
しかし、ドクオの声がなくとも間違えることなんてヘマはしない。
これは、ブーンだ。
無事だったのかという安堵の気持ちと、ドクオなんかの味方をするのかという思いに、弟者の足が一瞬鈍る。
(#^ω^) 《兄者に飛ぶお!》
(´<_`; )「――くっ」
弟者の戸惑いをつくようにして、ブーンの魔法が放たれた。
一陣の風が、大振りのバックを載せて暗いうすっぺらな影へと飛び去っていく。
(#'A`)「兄者ぁぁぁっ、後は任せたぁぁぁっ!!!」
(;'A`)と( <_ #)
弟者の腕がドクオの首を捕らえる。
しかし、その頃にはもう全てが遅かった。
.
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695 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 22:58:03 ID:ttGVJWA.0
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(´<_`#)「――殺しておけばよかった」
('A`)「そりゃ、勘弁だな」
弟者の射殺すような目に言葉に、ドクオはそう答えた。
その言葉遣いは兄者のようだ。弟者はそう思い、そう思ったこと自体に舌打ちをする。
(;^ω^)「おおおオトジャ! こわいのはやめるお!」
(´<_`#)「……」
弟者はドクオを睨み続けている。
その手に力を込めることはない。そんなことをすれば、兄者を守る結界は消失してしまう。
弟者は力を込めそうになる手を、必死で押さえつけながら、ドクオに――
(# ゚ω゚) 《弟者、飛ぶお!!》
(´<_` ; )
ブーンの巻き起こした風が、ドクオごと弟者の体を押し流す。
そして、次の瞬間、弟者はブーンが起こしたのとは違う風と、震動を感じ取る。
.
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696 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 22:59:27 ID:ttGVJWA.0
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/◎ ) =| )//
高い位置から、振るわれた腕。
それはゴーレムの繰り出す、攻撃だった。
巨人の腕は、先ほどまで弟者がいた場所を寸分違わず押し潰した。
(;゚A゚)「あああ、アブね。死ぬぅ、死ぬからぁぁぁぁ!!!」
(´<_` ;)「――っ」
怒りに、完全に我を失っていた。
ブーンがいなければ、兄者を守るどころか自分の命さえなかった。
弟者の背を、冷たい汗が伝う。
ドクオを掴む手を放す。開放されたドクオは、小さく悪態をつくと羽ばたき始める。
弟者はドクオを睨みつけながらも、唯一残された武器――青竜刀の柄を握る手に力を込める。
(´<_` )「すまなかった」
(*^ω^)「大丈夫だお!!!」
弟者は顔を上げる。
今、向かうべきなのはドクオではなく、ゴーレム。
弟者は倒すべき敵へ向けて、折れた青竜刀を構えた。
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697 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 23:01:24 ID:ttGVJWA.0
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――――――――――――――――
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影の中を、一迅の風が吹き抜ける。
魔力を帯びたその風は、兄者の肌を粟立たせ、ドサリと何かを落とすと掻き消える。
兄者のすぐ正面、落ちたそれは――、兄者が求めていた弟者の鞄だ。
( ´_ゝ`)「……でかした、ブーン」
動かない右腕に力を込める。
だらりと力なく垂れた腕は、どれだけ力を込めても感覚がない。
まるで体に棒がぶら下がっているような、強烈な違和感。
それでも力を込めて動かし続けると、どうにか鞄に届いた。
(;´_ゝ`)「……あと、ちょい」
汗が頬に伝う。
動くたびに傷を刺激して、鋭い痛みが走る。
全身をじくじくと覆う鈍い痛みとは正反対の刺激に小さく呻きながらも、兄者は動きを止めない。
額から流れる血が汗と混ざって、兄者の服を汚していく。
.
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698 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 23:03:16 ID:ttGVJWA.0
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指をひっかけ、鞄を引き倒す。
ごとりと重い音がして出てきたのは、石板が三つ。
(;´_ゝ`)「……届いた」
黒いつややかな、石材。
大市で濃紺色のヴェールの女から買った魔法石板と、遺跡で拾ったただの石板。
文様とともに刻み込まれた魔法は――、今の兄者にとって最後の武器だ。
最後の力を込めて、石板の一つを引き寄せる。
黒の盤面、刻み込まれた魔力は火の色をしている。
( -_ゝ-)「……」
瞳を閉じて、意識を落とす。
自分の下、意識の底――“自分”の内側に手を伸ばして、魔力を汲み上げる。
ゴーレムとの戦闘やドクオに気を取られ、弟者の意識は乱れている。
今ならば――、弟者に持っていかれた魔力を奪い返すのは、それほど難しくないはずだ。
( ´_ゝ`)「……魔力の扱いは、俺のほうが得意なんだ。
長年、俺に魔力を預けたのが仇になったな、弟者よ!」
.
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699 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 23:05:18 ID:ttGVJWA.0
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弟者の抵抗をすり抜けて、魔力を取り戻す。
そして、炎の魔法が組み込まれた石板に、兄者は指を下ろした。
( ´_ゝ`)「……いくぞ」
青い指が、黒の盤面をなぞる。
右から左。
刻み込まれた凹凸を確かめるように。軽やかに、指は動く。
::( ´_ゝ`) ::「…」
体の内側を走る、魔力を指へと集中させる。
初めは弱く、それから徐々に強く。
石板に込められた魔力に、自分の魔力を上乗せし、増幅させていく。
( ´_ゝ`)「ひっさーつ!」
縦に横に。
指がたどる軌跡と、魔力は淡い光を放つ。
――それは、かつて描かれた言葉。ふきこまれた奇跡。
( *´_ゝ`)「なんかスゴイ炎っ!!!」
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700 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 23:07:27 ID:ttGVJWA.0
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兄者の指が最後の軌跡をたどると同時に、石板に刻み込まれた神秘は発動した。
――それは、初め弱々しい光をあげる小さな火だった。
それがイキモノのように動き勢いづくと、赤々と燃える蛇のように大きくなった。
ぐるりと炎が意志を持つように、動く。
(#´_ゝ`)「いけぇぇぇぇぇ!!!」
兄者の視線は、ゴーレムの顔だけを見つめている。
その視線に応えるように、赤へ白へと色を変えながら炎はゴーレムへと向けて走り始める。
駆け抜ける炎は、兄者の魔力と風を取り込みながらうねり、その大きさを増していく。
('A`)「なんだありゃ!!」
(;^ω^)「魔力だお!」
ドクオを越え、ブーンを越え炎は走る。
うねる炎の輝きは、青へと変わり――
(<_` #)「兄者っ」
ゴーレムの顔を、直撃した。
.
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701 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 23:11:04 ID:ttGVJWA.0
-
/◎ ) =| ) G AAAAaaA G
炎が巨人の体を焼く。
鈍色の岩石には炎に焼かれても、大きな変化は見られない。
しかし、ゴーレムの上げる、悲鳴じみた音はこれまで以上に大きい。
巨人の腕が苦しむように、蠢く。
体をよじるように、上半身が右へ左へと振られる。
炎を纏ったままゴーレムはその身をよじり続け、その動きがある一点で止まる。
/◎ ) =| )
顔面にあけられた二筋の溝。
目のように穿たれた淵が向いたその先は――弟者の向こうに広がる、影の結界。
兄者のいるはずの、その空間。
結界に守られた兄者の姿は、弟者と同様にゴーレムからは見えないはずだ。
しかし、その目に当たる部分の空洞はじっと兄者のいる先を向いている。
――見えているのか。それとも見えていないのか。
わからない。
それでも、ゴーレムは兄者のいる方向から目をそらす気配はない。
.
-
702 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 23:13:23 ID:ttGVJWA.0
-
青かった炎は色を失い、巨人の腕の一振りを最後に掻き消えた。
そこにはもう炎の名残はない、辛うじて白く変色した一部の色だけが熱の激しさを伝えてくるだけだ。
ゴーレムの体が揺れ、ぎちりとその無限軌道が動き始める。
――向かう先は、不自然に漂う影の霧。
ドクオの影によって編まれた結界、その中。
/◎ ) =| ) gi t
巨人は、結界に守られた兄者を最大の脅威と捉えたらしい。
すぐ傍らにいる弟者のことなどもう、目に止めずにその足にあたる機関を動かし移動をはじめる。
(´<_`#)「やめろぉぉおおお!!!!」
弟者は大声を上げる。
しかし、敵は止まる気配をみせない。
まるで、あの時の再現のようだ。
現れたバケモノ、おそらくは俺を守ろうとして魔法を放った兄者。
そして、バケモノは兄者へと標的を変え……
――今でも、思い出す。
泣くことしか出来なかった幼い自分。最後に笑って、鏡へと引きずり込まれた兄者。
.
-
703 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 23:15:35 ID:ttGVJWA.0
-
違う。
自分には力があって、自由に動く手足がある。
腕はまだちぎれてはいない、足はまだ潰れてはいない。
そして、手にはまだ振るえる武器がある。
ならば、まだできるではないか――。
(´<_` )
弟者の目が、ゴーレムの顔を見据える。
そして、その足が地を踏む。
辛うじて手放さなかった、青龍刀の柄を握り締める。
武器は、もうこれしかない。
しかし、今は幼いあの時とは違う。
lニニ|==と(´<_`#)
それを、ゴーレムの脚部。
体を支える無限軌道の起動部へ、渾身の力を込めて突き立てた。
.
-
704 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 23:18:13 ID:ttGVJWA.0
-
/◎ ) =| ) g?
一際、耳障りな音とともに、ゴーレムの動きが止まる。
体を支える駆動部に突き立てられた柄が、足を動かすのに必要な要の機関の動きを止める。
ゴーレムが動こうとするたびに、折れた刃からは火花があがり。耳を潰さんとするほどの怪音が轟いた。
/◎ ) =| ) g u?
ほんの一瞬できた隙を、弟者は見逃さなかった。
走りだそうとする視界の中に、かすかに光るものを弟者は見つける。
――それは兄者がゴーレムの注意をそらそうとして投げた、ナイフ。
( <_ )「うぉぉおおおお!!!」
転がっているナイフを手に取る。
そして、そのまま動きを止めた巨体へと向けて突っ込んでいく。
大きく踏み込み、一度目の跳躍。
無限軌道を支える岩と砂と何かの材質で形作られた、帯状の機関の上に着地する。
さらに跳躍、向かう先は動かない体に動揺するその腕。
.
-
705 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 23:20:58 ID:ttGVJWA.0
-
/◎ ) =| ) g
弟者を振り払おうと、ゴーレムの腕が動く。
しかし、弟者の跳躍はそれよりも早かった。
踏み込んだ足が解き放たれ、弟者の体は宙を舞う。
(<_゚ ♯)「死ね!」
三度目の跳躍で弟者の体は、その頭部へと行き着いた。
顔に穿たれた隙間。
そこに向けて、弟者はためらいもなくナイフの刃をねじ込む。
/◎ ) =| ) aaaaaaaaaa
(<_゚ ♯)「死ね! 死んでしまぇぇぇ!!!」
片腕をゴーレムの顔面の隙間にかけ、落下を始めようとする体を押しとどめる。
炎の魔法で熱せられた岩が弟者の手を焼くが、弟者はそれでも怯もうとはしない。
もう片方の手に握った、ナイフをさらに押し込んでいく。
隙間の向こうにあるものを貫くようにして、ナイフは深く突き刺さっていく。
ゴーレムの体が大きく揺れる。
弟者は腕と足で不安定な体を支えながら、ナイフを持つ手に力を込める。
.
-
706 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 23:24:22 ID:ttGVJWA.0
-
このまま死ね。死んでしまえ。
弟者の口からあふれるのは、殺意をこめた呪詛の言葉だ。
(<_゚ ♯)
弟者の声に思いに反応するように、ナイフは突き刺さり。
そして、とうとう
――ピシッ
頭部に異変が起こる。
かすかな音が断続的に走ったと思うと同時に、薄い線がその装甲に浮かび上がる。
ナイフの突き刺さったすぐ近くの場所から始まったそれは、瞬く間に頭部を貫くひび割れとなる。
弟者はさらに装甲を割ろうと、ナイフに力を込める。
/◎ ) =| ) aaaaaaaaaa!!! ag! aaaaaaaalgia
その衝撃に弟者の手が、とうとうゴーレムの顔面から外れる。
支えを失った体は地面に向けて落下を始める。
(´<_`#)「――ちっ」
.
-
707 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 23:25:44 ID:ttGVJWA.0
-
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
ゴーレムの装甲に、致命的な一撃が与えられたのに兄者は気づいた。
はっきりと目で捉えたわけではない。
しかし、ゴーレムの悲鳴が、頭部のその傷から漏れだした魔力が、はっきりと伝えてくる。
――やつを倒すには、今しかないと。
弟者はきっちりと役割をこなした。
ならば、兄である自分もやらなければならない。
(; ´_ゝ`)つ「もういっちょう!」
力のこもらない腕を引き上げ、もうひとつの石板を引き寄せる。
刻まれているのは先程とは違う文様。それは、《水》を司る魔力を込めた文字だ。
魔力を込めながら、兄者はそこに刻み込まれた文字を指でたどっていく。
.
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708 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 23:28:21 ID:ttGVJWA.0
-
兄者の魔力が石板に流し込まれるたびに、石板にこめられた魔法が。その力が強くなる。
( -_ゝ-)
石板は蒼く輝く。
指で辿られた部分が光をあげ、石板に込められた魔法を発動させる最後の鍵となる。
ぽたりと、しみだした水滴が地を濡らす。
石板から流れだした水は溢れ続け、勢いを増すとやがて水の柱となった。
そして、――
( ´_ゝ`)「お水さんお水さん、ヤツをやっつけろぉぉぉ!!!!」
兄者の言葉とともに、巨大な水の柱がゴーレムへと襲いかかる。
影の中でも透き通り勢いを失わない水の流れの向かう先は、巨人の頭部。
熱せられて変色し、ひびが走るその目に水の柱は直撃した。
/◎ ) `=,/、 ) AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
濁流のような水の流れに、体の至るところから蒸気が吹き上がる。
音を上げてひびは広がり、細かな破片が飛び散る。
.
-
709 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 23:29:02 ID:ttGVJWA.0
-
が、それまでだ。
水の流れはゴーレムの体を大きく揺らすも、装甲を完全に砕くことも、体を倒すことのできないまま消える。
打撃を与えることは出来た。
巨人は、確実にその体力を失っている。
しかし、その体が巨大すぎて倒すことまではできない。
(; ´_ゝ`)「――くっ、無駄に頑丈」
.
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710 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 23:30:26 ID:ttGVJWA.0
-
――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
(#^ω^) ≪受け止めるお!!≫
(´<_` )「――!」
――空に放り投げられた弟者の体が、地面に叩きつけられることはなかった。
ブーンが引き起こした風が弟者の体を受け止め、その体を無事に地面に下ろす。
そして、それと同時に水の柱がゴーレムの頭を捉えるのを、弟者は見た。
/◎ ) `=,/、 ) AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
.
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711 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 23:32:46 ID:ttGVJWA.0
-
蒸気が、弟者の視界を埋め尽くしていく。
その向こうがどうなっているのかは、はっきりと見えない。
しかし、弟者は体勢を立て直すやいなや地を蹴った。
(´<_`#)「……」
その手には、もう武器はない。
シャムシールはどこかに飛び去り、青龍刀の柄はゴーレムの足を支える機関を貫いている。
唯一、手に入れたナイフも今はゴーレムの頭部へと突き刺さったまま。
弟者は地へと目を走らせる、そこに武器は見えない。
.
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712 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 23:34:37 ID:ttGVJWA.0
-
(#'A`)「ナイフだ! あそこなら攻撃が通る」
(;^ω^)「でも、どうするんだお!」
ドクオの声に、弟者は視線をゴーレムの頭部へと向ける。
白い蒸気の向こうにそびえる巨体の姿は、はっきりとは見えない。
しかし、そこに武器はある。まだ、打つべき手はある。
(´<_`#)「そんなもの、後で考える」
ゴーレムの腕が向かってくる弟者を妨害しようと、無秩序に振るわれる。
それに対して、武器を持たない弟者の手が、もぞりと動いた。
その手が懐へと入り、何かをつかむ。
(´<_`#)「――クソが!」
紫のマントが翻り、中から取り出したそれを弟者は投げつける。
放たれたのは小さな何か。
それがいくつも、ゴーレムの腕に向かって飛来する。
/◎ ) `=,/、 ) !
.
-
713 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 23:38:41 ID:ttGVJWA.0
-
飛んできたそれから、身を守ろうとゴーレムの腕が一瞬止まる。
弟者は敵だという認識が取らせた、行動と判断。
それはゴーレムに、決定的な間を生んだ。
/◎ ) `=,/、 ) …
動きの止まったゴーレムの腕に、べたりとした何かが張り付き、あるいは跳ね返り飛んでいく。
投げつけられたそれは、武器でも、脅威でも、罠でもなかった。
しぃが調査隊本部で出した茶菓子。それから、硬貨がいくつか。
子供だまし以下の抵抗ともいえない抵抗。
しかし、それは目眩ましとしての役目を十分に果たした。
(#'A`)「そのままよじ登れぇぇぇ!!!」
止まった腕の間をすり抜けて、弟者は巨人の足元へと飛び上がる。
動きの止まった腕の上を走ると、その肩へとよじ登る。
そして、跳躍をはたすと、弟者はひび割れ変わり果てた巨人の頭部へと、たどり着く。
ナイフはゴーレムの動きにも、水の奔流にも負けずに巨人の“目”に突き立っていた。
(´<_`#)「死にさらせぇっ!!!」
.
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714 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 23:40:07 ID:ttGVJWA.0
-
振り上げられた弟者の足が、小さなナイフをさらに押しこむように蹴りつける。
゛(´<_` )「――っ」
( ^ω^)「手伝うお!」
それと同時に、弟者の体を守るように吹いていた風がその流れを変えた。
ブーンの号令とともに、風が鎌鼬へと形を変え、ゴーレムの頭部へと襲いかかる。
物理的な衝動と、魔力による風。
/◎ ) `=,/、 )// W A A G A A
弟者とブーンの全力を込めた攻撃は、ナイフごとゴーレムの装甲の奥を貫いた。
その衝撃で、装甲の欠片がいくつか剥がれ落ちる。
しかし、そこまで。
装甲を破壊するには、まだ届かない。
(#'A`)「――まだ、ダメなのかよっ!?」
限界まで押し込まれたナイフは、それ以上は動かせない。
弟者の手に、もはや武器はない。
あと一歩というところまで迫りながら、弟者にはこれ以上は打つ手が無い。
.
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715 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 23:42:17 ID:ttGVJWA.0
-
(´<_`#)「――ちっ」
( `ω´)「オトジャ、いったん下がるお!」
弟者の周囲に魔力混じりの風が吹き、その体を受け止める。
敵を捉えようと伸びたゴーレムの手を交わし、弟者の体は空中に逃れる。
(;'A`)「……どうする?」
このままでは、ゴーレムは倒せない。
兄者の魔法に期待するか、なんとかして結界を破壊し脱出するか。
どうする。どうすればいい――?
('A`)「何か手は……」
答えを出せないまま見回したドクオの視線が、銀色に光る何かを見つけた。
銀にひらめくそれは、折れた青龍刀の切っ先。間違いなく武器になり得るものだ。
これを弟者に手渡すことができれば――。
('∀`)「見つけたっ!!」
ドクオは青龍刀の欠片に、必死で手を伸ばした。
.
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716 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 23:44:13 ID:ttGVJWA.0
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――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――
ゴーレムの頭部を覆う装甲は、あと少しで壊れる。
しかし、完全に破壊しきるには、まだ足りない。
( ´_ゝ`) 《砕
とっさに、叫びかけた言葉を兄者は慌てて切る。
無意識のうちに巡らせていた魔力を根性でねじ伏せて、魔法の発動を力づくで止める。
出口を失った魔力が体じゅうを暴れまわるが、それもやがては沈静化する。
(;´_ゝ`)「……くっ」
無意識のうちに魔法を放ちかけていた自分に、兄者は舌打ちをする。
この十年間、決して魔法を使わないように気をつけてきたのに、一度魔力を使えばすぐにこのザマだ。
.
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717 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 23:46:39 ID:ttGVJWA.0
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魔法は使えない。少なくとも、弟者の前でだけは使いたくない。
(;´_ゝ`)「……どうする?」
弟者が魔法を受け入れられなくなった原因は自分だ。
10年前のあの日、とっさに放った《止まれ》という魔法が、今も弟者を縛っている。
魔法がなければ、俺に魔法を使わせなければ……弟者は今もそう思っているはずだ
( ´_ゝ`)「……」
今でもあの時の決断は、後悔していない。
しかし、今は違う。今はまだ取るべき選択の余地がある。
だから、俺はあいつが平気になるまでは、あの時のような魔法は使えない。
それがあいつの兄貴としての精一杯の矜持だ。
だから――、
.
-
718 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 23:48:07 ID:ttGVJWA.0
-
兄者の視界に、それが映る。
火と水の石板。そして、その横。鞄に収められていた、黒いつややかな傷一つない石板。
まだ何の魔法も込められていない、まっさらな板。
媒介や魔道具を使っているから大丈夫だというのは、詭弁だ。
言葉を使って発する魔法と、本質的に何ら変わりがないのはわかっている。
それでもこれが、今考えうる限りで最良の選択肢だ。
(;´_ゝ`)「……ええい、面倒なことはあとで考える」
振るえる指を動かして、石板に手を伸ばす。
思うように動かない腕と、体に走る痛みに舌打ちをしながらも、どうにか石板を引き寄せる。
兄者は口元から流れる血を指で拭う。
(; _ゝ )「――間に合えっ!」
そして、その指を漆黒の石の表面に乗せた。
そこには、辿られるべき文字の刻は刻まれていない。
代わりに指を濡らす血が、赤の線を残した。
自分の内側にある、魔力をあつめる。
井戸から水を汲み上げるイメージ。
汲み上げた魔力を全身へと巡らせ、組み上げていく。
.
-
719 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 23:50:42 ID:ttGVJWA.0
-
(; ´_ゝ`)「――上手くいってくれよ」
ありったけの魔力を込めて魔法を刻む。
要になる文字はわかる。――体をめぐる魔力が、感覚が告げている。
組み上げた魔力を纏めあげる。そして、火と水の石板にあった魔法を増幅させるための文句と共に、血で刻みこむ。
一度もてば十分なほど雑に作られた、石板。
それに向けて兄者は全身の魔力を流し込み、血で描き上げた文字をなぞりあげていく。
黒い石板に浮かぶ、血で書かれた文様の一つ一つが兄者の魔力を受け白に、青に輝く。
(♯゚_ゝ゚)「いけぇぇぇぇっっ!!!」
刻み込まれた魔法は、《凍結》。
そして、それは瞬時に発動した。
――熱せられた巨人の体に染み込んだ水が、周囲に漂う白い蒸気の霧が、石板に呼応するように一斉に凍り出す。
岩で作られた装甲の、至るところから氷柱が突き出していく。
/◎ ) `-i=,/、 )
装甲が大きな音を上げ、ひび割れていく。
今や巨人の頭部の装甲は、薄くひび割れ無事なところは何処にもない。
しかし、決定的なダメージには一歩及ばない。
.
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720 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 23:52:24 ID:ttGVJWA.0
-
――攻撃しなければいけないのは、装甲ではなく、その向こうにある核。
そのためにはまず、邪魔な装甲を完全に崩さなければならない。
魔力をかき集め、練り上げる。
体の中を駆け巡り勢いをました魔力は、熱くて内側から体が焼かれるようだ。
それでも、まだアイツを倒すには足りない。
あのゴーレムを打ち砕くには、もっと魔力が必要だ。
――昔から、普通、人が見えなかったり使えなかったりするものの扱いだけは得意だった。
だから、今回もきっとどうにかなる。どうにかならなくても、してみせる。
(♯゚_ゝ゚)「――まだだっ!!」
(;'A`) !
そして、兄者は手を伸ばす。
伸ばすのは肉体そのものではなくて、イメージの手。魔力を操るその感覚の手を周囲に巡らせる。
兄者の回りを取り囲む影の結界。
それを支える魔力に手を伸ばす、結界を支える術をバラバラにして、魔力を飲み込む。
結界は霧散し、兄者の頭上には一気に青空が開ける。
(;゚A゚)「結界が……。まさか、兄者のやつ」
.
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721 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 23:54:34 ID:ttGVJWA.0
-
(♯゚_ゝ゚)「まだ、足りないっっ!!!」
ドクオの戸惑いには気づかずに、兄者は声を張り上げる。
はっきりと見えるようになった視界。
宙に逃れた弟者と、ブーン。草陰の中でドクオが、信じられないものを見る表情を浮かべている。
……あいつらを守らなければならない。
そのためには魔力を。もっと集めなければ――。
兄者は大気に目を凝らし、その中にある魔力を感じ取る。
土の中にも、風の中にも、草にも魔力はある。
それをできうる限り引っ張って集め、取り込む。
(♯゚_ゝ゚)「――っ、く」
――全身が、炉になったようだ。
魔力を取り込み、回し、増幅させ、形を整える。
それだけの機関、それだけの機能。
そうして練り上げたありったけの魔力を、片っ端から石板に叩きこんでいく。
(♯ ゚_ゝ゚)「――っぁぁぁああああああ!!!」
兄者は吼える。ありったけの声と魔力をあげて吠え続ける。
そして、その声に応じるように、表中はより鋭く、大きく、力を増していく。
.
-
722 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 23:56:25 ID:ttGVJWA.0
-
/◎ ) `-i=,/、 ) gi
ピシリと音がする。
急激にその大きさを増していく氷の柱、広がる亀裂。
ピシ
そして、
ピシ
それがついに、
ゴーレムの体を、頭を貫いた。
.
-
723 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/06(金) 23:58:13 ID:ttGVJWA.0
-
しかし、装甲はまだ崩れない。
兄者の息はつまり、目が霞むが、それでも兄者は魔力を操るのを止めない。
まだ、足りない――。
だから、
(♯゚_ゝ゚)「弟者ぁっ、全部借りていく!!!」
(´<_` )「いくらでも持っていけ!!!」
弟者の体から、ありったけの魔力をもっていく。
息を吸うよりも自然に、腕を伸ばすよりもはるかに簡単に、魔力は兄者の体へと流れる。
その魔力の感覚は、どこからかき集めた魔力よりも馴染む。
あたりまえだ。
これは、弟者の魔力であると同時に自分の魔力だ。
――できそこないの、一人。
不吉な存在、本来ならば殺されなければならなかった命。
不安定でいびつな命と引き換えに得た力が、まっすぐとゴーレムを貫き壊していく。
そして、
ありったけの魔力をこめた氷の柱が
.
-
724 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/07(土) 00:00:29 ID:yZraviHw0
-
岩の巨人の装甲を粉々に打ち砕いた――。
.
-
725 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/07(土) 00:02:28 ID:yZraviHw0
-
そして、崩れ落ちた装甲のその向こう。
――埋め込まれていた、核がついに姿を現す。
古びた粘土板。
いつのものかすらわからない、その板には――今では失われた言葉が刻まれている。
(;^ω^)「あそこだけなんか違うお!」
(#'A`)「それが、奴の本体だ!」
粘土板に刻まれたその言葉。
それこそが、巨人を動かす魔法そのものであった。
古の伝承曰く、ゴーレム。
はるかに魔法が発達した時代に作られた。石板を触媒とした魔法の祖にして頂点。
疲れることを知らず、痛みを知らず、命令のままに従う、岩の巨人を作り出す秘術。
創りだされた巨人に命はなく、核に記された文字がある限り――無限に再生する。
(#'A`)「あの核をぶち壊せ! そうでないと、いくらでも再生するぞ」
(;´_ゝ`)「……なん、とぉ」
先ほどの攻撃で全ての力を使い果たしたのか、兄者は力なくへたり込む。
その視線こそ装甲による守りを失ったゴーレムへと向けているが、兄者の口からはそれ以上の言葉は出てこなかった。
.
-
726 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/07(土) 00:04:23 ID:yZraviHw0
-
兄者は、動けない。
弟者にはもう、攻撃の手段がない。
/◎ ) 、/、; )
(#^ω^)≪切り裂くお!!!≫
その硬直した状況を、ブーンの魔法が打ち砕いた。
魔力を帯びた鋭い風の刃が、粘土板を襲う。
(;^ω^)「なんで?!」
――が、その風は粘土板に直撃する前に霧散した。
まるで粘土板自体が、魔法の力を拒否したかのようだった。
(´<_` ;)「魔法が、きかないのか?!」
(;´_ゝ`)「……なん……だと」
兄者と、弟者が言葉を失う。
最後の最後まで追い詰めたと思った。――しかし、それもここまでというのか?
誰もが言葉を失いかけた、その時。
.
-
727 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/07(土) 00:06:13 ID:yZraviHw0
-
(;'A`)「……」
ドクオはふと、手元に目を落とす。
……そこにあるのは、弟者に渡そうとしてそのままになっていた刃。
輝くそれは、最後に残った武器だ。
('A`)「――弟者っ、受け取れ!!」
そして、ドクオは声を上げる。
必死の力で刃を持ち上げると、弟者に向けて掲げてみせた。
兄者以上に非力なドクオが必死に持ち上げたそれは、――へし折れた青龍刀の切っ先。
弟者は宙から降りると、その刃をひったくるようにして奪い取った。
(´<_` )「恩に着る」
(*'A`)「お、おう!」
ドクオの返事を聞くよりも先に、弟者の体が弾丸のような速度で動きはじめる。
.
-
728 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/07(土) 00:08:36 ID:yZraviHw0
-
(#´_ゝ`)「弟者っ、やれっ!!!」
(´<_` )「把握した」
兄者の声が響く。
オレ
――兄者がやれといったのだから、それは弟者にとって絶対だ。
二人分の力を込めた渾身の速度。
巨人の顔から落ちた瓦礫の山を駆け上がりながら、ゴーレムの核を目指す。
(´<_`#)「今度こそ終わりだ!!!」
.
-
729 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/07(土) 00:10:09 ID:yZraviHw0
-
崩壊した体を抱えたゴーレムが、最後の抵抗といわんばかりに蒸気を噴き上げた。
周囲をすっぽりと覆う、熱く白い霧。
体の守りの大半を失いながら、それでも岩の巨人は腕を伸ばす。
( < ::)
そして、ゴーレムの腕は人影を見つける。
振るわれる腕は、その人影をはっきりと捉えなぎ払う。
ゴーレムは歓喜の音を上げ、
(#゚A゚)「オレの影をなめるなぁぁぁぁ!!!」
はじけ飛んだのは、ドクオの創りだした影だった。
ゴーレムの創りだした白い蒸気の幕に、黒い影がいくつも動く。
蠢く影の群れ。
その影の間を縫って、走り出たのは。
(´<_`#)「砕けろぉおおおお!!!!」
――弟者。
.
-
730 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/07(土) 00:12:33 ID:yZraviHw0
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折れた刃ごと、弟者の手が粘土板へ振るわれる。
しかし、握りのない刃では上手く力を込めることが出来ない。
弟者の手から血が流れ、粘土板を濡らしていく。
(´<_`#)「――くっ」
渾身の力を込めた一撃は、粘土板に浅い傷を作る。
しかし、そこまで。
粘土板は未だ健在で、砕かれるまでには至らない。
(;'A`)「くっ、あと少しなのにっ!」
(#゚ω゚)「まだだお!!!」
立ちあがった、ブーンの体から魔力が湧き起こる。
風がうなり、小石が舞い上がり、草が倒れ、千切れ飛んでいく。
その光景の中で、ブーンはとうとうそれを見つけた。
逆転のための最後の一手。
残された希望。
(#゚ω゚)「オトジャっ、手を伸ばすお!!!」
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731 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/07(土) 00:14:45 ID:yZraviHw0
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(´<_` )つ
弟者は返事の代わりに、腕を伸ばす。
(#゚ω゚)≪飛ぶお!!!≫
ブーンの魔法が起こした強い風が、それを舞い上げる。
舞い上げられたそれが向かったのは弟者が伸ばした腕のその先。
(´<_` )つ==|ニニニ二フ
弟者の手がそれを掴む。
目で確認するまでもなく、握り慣れた感触がそれが何かを伝えてくる。
愛用の刀、シャムシール。
銀の軌跡が翻り、その手は一直線にひらめく。
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732 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/07(土) 00:18:10 ID:yZraviHw0
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(´<_`#)「――トドメだぁぁぁぁぁっ!!!」
“獅子の尾”の名を持つ刀は、軽やかに翻り――主の命を完遂した。
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733 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/12/07(土) 00:19:09 ID:yZraviHw0
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そのはち。 できそこないの一人
おしまい
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そのはち
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