2012年芸術の秋ラノベ祭りのようです
( ´_ゝ`)デザート×キャラバンのようです(´<_` )
  そのいち



2 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 19:47:25 ID:tFLjG.4M0





(*´_ゝ`)「旅に出るぞ!」







――と、兄者は言った。


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3 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 19:48:37 ID:tFLjG.4M0





( ´_ゝ`)デザート×キャラバンのようです(´<_` )





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4 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 19:49:27 ID:tFLjG.4M0




そのいち。 旅に出るぞと、兄者は言った



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5 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 19:50:19 ID:tFLjG.4M0

世界とは、一面に広がる砂の大地だ。


東の果ての大国や、西にあるという国々ではまた違うという話だが、少なくとも彼の知る世界はそうだった。
一部の季節だけを除いて暑く乾燥する大地は、植物が生えることを邪魔し、人々が足を踏み入れることも許さない。
そんな環境の中でも人々は、限られた水場に集落や街を作り、家畜や農作物を育てて暮らしてきた。


( <_  )「――ああ」


彼が今いるのも、そんな街の一つ。
数十年前に彼の母親らによって開拓された、水辺の街。
流れるのは石くらいと言われた不毛の土地は、今では“流石”という名で呼ばれる交易の要となっている。


(´<_` )「平和だな」


そんな流石の街。その中でも一際大きく豪勢な屋敷の一角に、彼は横になっていた。

薄い緑の体に、猫のような獣の耳。丸い尾は衣服の影に隠れてその姿を見ることはできない。
このあたり独特のゆったりとした衣服は、ひと目で金がかかっているとわかる高級なもの。
吹き寄せるかすかな風にあわせて、青年の耳がぴくりと動く。

6 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 19:52:02 ID:tFLjG.4M0

年の頃は十代後半から二十代前半。
細いながらも、がっしりとした体格をしたこの青年の名前は、弟者=流石。
街と同じ名をした彼は、この街を切り開き実質的に支配する女傑、母者=流石の二人目の息子であった。


(´<_`*)「何事も起こらないというのは、いいものだな」


息を吸うのも苦しいくらい乾いた空気も、見渡す限りの砂も、この場所からは感じられない。
そんな場所で横になっていると、ここがどこなのか忘れてしまうようだ。
夕暮れまでここでこのまま一眠りしようか……


l从・∀・ノ!リ人「ちっちゃい兄者、みっけなのじゃ!」

(´<_` ;)「――ぐぇ」


……そんな彼の願いは長続きしなかった。
どこからか現れた彼の小さな妹が、青色の髪をたなびかせながら彼の体へと飛び込んできたからだ。
いくら体を鍛えようとも、人間一人の体重が不意にかけられればたまったものではない。
平静を装おうとするも失敗し、彼がうめき声をあげるのは仕方のない話であった。


l从・∀・*ノ!リ人「兄者ーちっちゃい兄者ー、今日こそはあそぶのじゃー!」

(´<_` ;)「だがしかし、こっちは久々の休日……」

l从・∀・#ノ!リ人「まえもそういって、あそんでくれなかったのじゃー。
         ちっちゃい兄者は妹者にイジワルなのじゃー」

7 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 19:54:04 ID:tFLjG.4M0

小さな妹――妹者の言葉に、弟者は小さくため息をついた。
確かにここ最近は、年に三度の大きな商隊が到着したところで、誰も彼もが忙しそうにしていた。
そんな中で一人取り残された、妹者が寂しい思いをするのは仕方のないことだった。


(´<_` )「……夕方までだぞ」

l从・∀・*ノ!リ人「ちっちゃい兄者だいすきー!!」


一人で取り残された時の寂しさを、弟者は誰よりも知っている。
だから、弟者は年の近い兄弟も、遊んでくれる子供もいないこの小さな妹に、思いの外甘かった。


(´<_` )「どうする?」

l从・∀・ノ!リ人「お庭がみたいのじゃー」


彼らの住む屋敷における庭といえば、屋敷の中心にある中庭一つしかない。
しかし、弟者とその双子の兄――兄者がイタズラに使って以来、彼らの父は子どもたちが庭に立ち入ることを禁止していた。


(´<_` ;)「いくら子どもだったとはいえ、貴重な泉に染料をばらまいたのはまずかったな」

l从・∀・ノ!リ人「?」

8 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 19:56:04 ID:tFLjG.4M0

少し迷った末に弟者は、露台に腰を据えることに決めた。
屋敷の二階にあたるこの場所からならば、中庭を見渡すこともできるし、何よりも風の通り道で涼しい。


l从・∀・*ノ!リ人「お花が咲いてるのじゃー」

(´<_` )「ふむ、あれはなんだろうな。父者ならば知っているのだろうが……」


露台に備え付けられていた椅子に腰を下ろす。
妹者はそんな弟者の様子を見ると、隣にある椅子……ではなく、彼の膝の上にちょこんと座りこんだ。


l从・∀・*ノ!リ人「えへへー」

(´<_` )「少しだけだぞ」

l从^∀^ノ!リ人「はーい」


いくら十に満たないとはいえ、街を背負って立つ家の娘にふさわしい行動ではない。
しかし、弟者は何事もなかったかのように妹者を見つめると、その頭をなではじめる。
堅苦しいのは母や姉に任せておけばいい。流石家の男は基本的にそんな脳天気なところがあった。


l从・∀・ノ!リ人「ちっちゃい兄者ー。もうすぐ何があるか知ってる?」

(´<_` )「ふむ。そうだな……。もうすぐといえば、豊穣祭だな」

9 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 19:58:04 ID:tFLjG.4M0

l从・へ・ノ!リ人「むー、そうじゃないのじゃー」

(´<_` )「そうか?」

l从・∀・ノ!リ人「ヒントは明日なのじゃー」

(´<_` )「明日。明日なら……」


妹者から出された問いに答えようとした瞬間、弟者よりもはるかに脳天気な声が辺りに響き渡った。
弟者によく似た――しかし、それよりもほんの少し高い声。
わざわざ確かめるまでもなく、弟者はその声の主を知っていた。


( ´_ゝ`)「弟者ぁあ、いるかぁぁぁぁあ!!!」

(´<_` )「ふむ、兄者か」


兄の姿を探して、弟者は周囲を見回す。
彼らが今いる露台にも、その奥に続く部屋の暗がりにも人の姿は見えない。
はて、どこにいるのだろう? と、思ったところで、手すりから身を乗り出し地上を覗きこんでいた妹者がうれしそうな声を上げた。


l从・∀・*ノ!リ人「おっきー兄者ぁー! こっちなのじゃー!」

(*´_ゝ`)ノシ「おお、愛しの妹者たんではないか。そっちに、弟者はいるか?」

l从・∀・*ノ!リ人「いるのじゃー」

11 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 19:59:32 ID:tFLjG.4M0

ちっちゃい兄者もはやくはやくーという妹の声に答え、地上を覗きこむ。
そこにあるのは、先程から二人が眺めていた中庭だ。
東方や西方から無節操に集めてきた植物が自由を謳歌し、花が咲き乱れ、中央には大きくはないものの泉がある。


(´<_` ;)「あ、兄者。そこは俺らや妹者は立入禁止……」

(*´_ゝ`)「よく聞こえんなー。どうしたー、弟者ぁー?」


彼らの父が丹精を込めて手入れしているこの庭は、実のところこの街で最高の贅を尽くした空間である。
水が金に勝ることもあるこの一帯で、食うのにもつかえない植物を育てようと思えば、そうなるのは当然のこと。
脳天気な二人の兄は、よりにもよって最高の金のかかった植物たちを踏み潰しそうな位置で堂々と立っていた。


(´<_`#)「そこからとっとと出ろ! この馬鹿兄者!!!」

(; ´_ゝ`)「え?」

(´<_`#)「母者に殺されたいのか!」

(; ´_ゝ`)「ちょ、おま」

( <_ ♯)「いいから、早く!」


弟者の言葉に兄者はきょときょとと辺りを見回す。
しばしの間、腑に落ちないという顔をしていたが、弟者の形相に不穏な事態を感じたのか徐々にその顔が曇り出す。

12 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 20:01:08 ID:tFLjG.4M0

(; ´_ゝ`)「ひょっとして、俺って今やばい?」

(´<_`#)「やばいも何も、お仕置きを覚悟するレベルな件」


うぇぇ、と情けない声を上げて後ずさった瞬間、兄者の足は不運にも白い可憐な花を踏みつけていた。
それに気づくと同時に、今度こそ兄者の顔は真っ青になった。


l从・∀・;ノ!リ人「あぁぁぁあああ」(´<_`; )


ヾ(; ゚_ゝ゚)ノシ「ひぃぃ、どうしよう。どうしよう、俺」

l从・∀・;ノ!リ人「とりあえず、こっちに来るのじゃー」

(; ゚_ゝ゚))「わ、わかった。そっちだなー」


兄者はそう言った後、不意に後ろを見て何事か呟いた後。
弟者と妹者の姿を見上げ、地面を蹴るとそのまま、


――飛んだ。


.

13 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 20:03:07 ID:tFLjG.4M0

当然の話だが、人は飛べない。


昔はそれが可能な魔法使いが多くいたというが、今では数えるほどしか存在しない。
道具があれば可能だとも言うが、それが可能な道具といえば魔法使い以上に貴重だった。


(; ´_ゝ`)「よし、と」

l从・∀・;ノ!リ人「お、おっきい兄者……」


建物の二階。
その場での跳躍では到底届かないはずの距離を“飛んだ”兄者は、手すりの上に足を置いた。
流れる冷や汗を拭いながら、何事もないかのように露台に降り立つと、兄者はようやくため息を付いた。


l从>∀<*ノ!リ人「すっごいのじゃー! 今のどうやってやったのじゃ?」

( *´_ゝ`)「いや、これか? 実はだなぁ」


( <_  )「……この」

( ´_ゝ`)「んー? 弟者、どうし」



バキッ(゚く_゚(#⊂(´<_`#)「くそ虫がぁぁぁぁ―――!!!」

14 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 20:05:03 ID:tFLjG.4M0

弟者の渾身の拳が、兄者の頬にめり込んだ。
手に伝わる感触に弟者は舌打ちをし――己の拳を避けた、真の相手を睨みつけた。


( ^ω^)


まるまると膨れた東方のまんじゅうのような頭。
兄者の頭と同じくらいか、それよりも少し小さいくらいの体躯。
白い体の背からは、硝子のような透明の羽がきらめいている。


( ^ω^)「……危ないところだったお」


人は空を飛べない。
それでも、人が空を飛ぼうとするならば、空を飛ぶことができる貴重な存在の手を借りるしかない。
そして、その貴重な存在は兄者の服の首元を掴んだまま、にへらと笑った。


(´<_`#)「……」

(#);_ゝ;)「弟者、お兄ちゃんは今とぉーっても痛いのだが」


⊂l从・∀・;ノ!リ人「い、いたいのいたいのとんでけーなのじゃ!」

16 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 20:07:02 ID:tFLjG.4M0

(;^ω^)「アニジャぁー。毎度のことながら、この弟どうにかならないかお?
      ブーンは今、100年くらいごぶさただった命の危険を感じたお」

(#)´_ゝ`)「ああ、それはだなー」

(´<_` )「いいか、兄者。
      人間は普通、 空 を 飛 べ な い」


兄者が口を開き何か言うよりも早く、弟者は兄者に向けて口早に言い放った。
その言葉に兄者は眉をひそめると、自分の首元にいる生物ではなく弟に向けて不満気な声を上げる。


(;´_ゝ`)「うぇー、人を殴っといてつっこむのそっち? そっちなの?
      何かお兄ちゃん、イロイロとおどろきだわー」

(´<_` )「俺はそういうのは嫌いなんだ」

(;^ω^)「? そういうの?」


ブーンの問いかけに、弟者は答えなかった。
しまったと表情を歪め。それでも、次の瞬間には、何事もなかったかのようにもとの落ち着いた表情に戻った。


l从・∀・#ノ!リ人「もー、おっきい兄者もちっちゃい兄者もケンカしちゃめーなのじゃ!」


ヾ('A`)ノシ「そうだーそうだー!」

17 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 20:09:02 ID:tFLjG.4M0

(´<_` ;)「――くっ」


ヾ('A`)ノシ「とっとと謝れ、鬼畜弟ー!」

( ^ω^)「えっとおに……ちく……? 弟ー!
      ブーンたちだって生きてるんだおー!!!」

('A`)「このシスコン! ロリコン! ろくでなしぃー!!
   お前の母ちゃんゴリマッチョぉ!!」

(*^ω^)ノシ「そうだそうだぁー!!!」


ここぞとばかりに飛び回る、謎の生き物二匹。
白いほうの名前はブーン。新たに現れた、紫色でブーンよりさらに小柄なのはドクオ。
二匹はとある事情から黙りこむ弟者に向かって、せっせと暴言をあびせはじめた。


( ´_ゝ`)「確かに、母者はゴリマッチョだな」

l从・∀・;ノ!リ人「おっきい兄者……?」


一方、殴られた兄者といえばけろりとした顔で、弟と二匹の攻防を眺めている。
そんな、兄の姿を妹者は首をかしげながら見つめた。

18 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 20:11:02 ID:tFLjG.4M0

(*'A`)「弟者ちゃんの根性悪ぅー!! 冷血ぅー! ひとでなしぃー!!」

(*^ω^)「性格が曲がっていてよー」

(´<_`;)「……っ」


(*'A`)「お前の兄ちゃん〜」


二匹の悪口攻勢は止まらない。
普段からの鬱憤を晴らそうとばかりに、弟者の周りを飛び回りはやしたてる。


(;^ω^)「お?」

(*'∀`)「鏡に落ちやんのぉぉお!!!
     ほんとに人かよぉwwwwwwwww」


( ;゚_ゝ゚)「それ、俺ぇぇぇぇぇぇえええええええええ!!!!」


Σl从・∀・;ノ!リ人「 ! 」

19 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 20:13:02 ID:tFLjG.4M0

「逆鱗に触れる」という言葉を、ご存知だろうか。
東方のことわざなのだが、知らなかったら「堪忍袋の緒が切れる」や、「腹に据えかねる」という言葉に変えてもいい。


(´<_` )


――要するに、弟者は激怒していた。
表情にはこれっぽっちも出ていないが、そういう時の人間とは大概恐ろしいものだ。


(;´_ゝ`)「えーと、弟者さん?」

(´<_` )「……」


弟者の腕が翻ったのが、ほんの一瞬の出来事。
人にできる限界をはるかに超えた速度で拳はうなり、ドクオの背に広がる二対の羽のうち一枚をむしりとった。
バランスを崩したドクオの首らしき箇所を、弟者は渾身の力で握る。


(゚A゚)「ひっ」


(´<_` )「前言を撤回するか、このまま消滅するか。好きな方を選べ。
      忌々しいことだが、お前たちは兄者のお気に入りだからな。猶予くらいは与えてやる」

20 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 20:15:01 ID:tFLjG.4M0


(;´_ゝ`)「ドクオぉぉーー!!! 死ぬなぁぁぁ!!!!」

( ;゚ω゚)「謝るお!!! もうめっちゃ謝るしかないぉおおお!!!」

(;゚A゚)「ごごご、ごめご、ご、ごめんなさ」


弟者の行動により、一気に張り詰めた空気。
誰もが息を呑む、緊迫した一瞬。


(´<_` )「お前らみたいな存在は、全て死ねばいい」


その空気は――



l从・∀・;ノ!リ人「えーと、兄者たちはダレとお話してるのじゃ?」


――わりと、あっさり壊れた。

21 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 20:17:01 ID:tFLjG.4M0

l从・∀・ノ!リ人「えーと、妹者には見えないけど、ここにはせーれいさんってやつがいてー。
        おっきい兄者と、ちっちゃい兄者は、そのせーれいさんとケンカしてるのじゃ?」

(;´_ゝ`)「……はい、そうです」


それからしばらく後。兄者と弟者それに、二匹の精霊だった生き物たちは、妹者の前に正座をさせられていた。
たとえ小さくても妹者はこの街では絶対的な力を持つ母者の娘。脳天気なところのある男二人が叶うはずもない。


(;'A`)「なあ、ブーン。ちゃんと羽ひっついてるか?」

( ^ω^)「おー、もう大丈夫だお!」

(;'A`)「なんかもう、50年ぶりくらいにこれは死ぬって思ったわ」

(;^ω^)「本当にヒヤヒヤするおねー。
      これ精霊じゃなきゃ死んでたわー的なアレだお」


ちなみにこれは余談だが、精霊――ジンとも呼ばれるこの生き物たちは、人や動物とは異なる超自然的な生き物たちのことだ。
兄者や弟者のように見える人もいるし、妹者のように見えない人もいる。そんな魔法や、神秘に近い存在である。


l从・∀・ノ!リ人「ちっちゃい兄者はせーれいさんにごめんなさいするのじゃー」

(´<_` )「やだ」

22 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 20:19:19 ID:tFLjG.4M0

l从・∀・;ノ!リ人「えーと、じゃあせーれいさんがゴメンナサイしたなら、ちっちゃい兄者もあやまるのじゃ」

(´<_` )「謝罪をする必要が微塵も感じられない」

l从・〜・;ノ!リ人「むー!」


一方、妹者は二人の兄を正座させたところまではよかったものの、ケンカの仲裁に苦心していた。
それというのもこの下の兄が、かたくなに精霊たちに謝罪することを拒否していたからだ。
実際に何があったかは見えなかったけれど、下の兄は「しょーめつ」とか「ころす」とかひどいことを言っていたのだから、謝ったほうがいいのではないか。
彼女は幼いなりに真剣に考え、一生懸命事態に収拾をつけようと頑張っていた。


( ;´_ゝ`)「あー、ごめんなさい! そもそも不用意にブーンの力を借りた俺が、悪かった。
       ……ほら、俺が謝ったから妹者も、弟者も、ドクオも、ブーンも、もういいだろ?
       っていうか、もういいってことにしてください、お願いします!」


そんな状況に流石にいたたまれなくなったのか、口を挟んだのは兄者だった。
年長者だからしっかりしようということらしいが、口調や態度に威厳がないことだけが少々残念だった。


l从・へ・ノ!リ人「……」(´<_`#)


( ´_ゝ`)「ほれー、そんな顔しないー」

(´<_` )「……」


( ´_ゝ`)「弟者」


(´<_` )「……すまなかった、兄者。それに、妹者も」

23 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 20:21:45 ID:tFLjG.4M0

( ´_ゝ`)「はい。よくできました〜」


弟者が一応謝罪の姿勢を見せたことで、場の空気が少し和らかくなる。
とはいえ、事態をややこしくしないために黙ってはいるものの兄者の内心は複雑ではあった。


(;´_ゝ`).。oO(肝心のドクオたちにこれっぽっちも謝ってないのガナー。
        まあ、そもそもやりすぎてたのはアイツらだったんだけどなー)


l从・−・ノ!リ人「みんなは、本当にそれでいいのじゃ?」

(;'A`)「正直やりすぎたと思ってるので、これで勘弁してほしい。スマンカッタ」

(;^ω^)「う〜、ブーンも調子にのりすぎてたお。ごめんなさい」


一方、妹者は弟者の言葉に「むむむ」と眉を寄せていた。
なんだか納得行かないが、下の兄は謝っているらしい。では、「せーれいさん」はどうなのだろうか?
怒っている? それとも、泣いている? いろいろと妹者は考えるが、精霊を見ることが出来ない彼女にはよくわからない。


( ´_ゝ`)「二人ともそれでいいとさ。あいつらも謝ってる」

l从・∀・ノ!リ人「なら、それでいいのじゃー」


――妹者の言葉によって、弟者と精霊たちの小競り合いはなんとか幕を下ろした。
というよりも、無理やり幕を下ろすことにした。
彼らにとって平和というものは何よりも大切なものである。

24 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 20:24:00 ID:tFLjG.4M0

――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
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流石の街では、建物の中のほうが過ごしやすい。
それは、一歩でも外に出れば、とてもではないがやっていけないほど暑いという意味でもある。
というわけで、彼ら一同は移動するわけでもなく、ダラダラと過ごしていた。

ちなみに、先ほど兄者が踏みつけた花の件については、皆あえて考えないことにしている。


l从・∀・ノ!リ人「そういえば、おっきい兄者は何でちっちゃい兄者をさがしてたのじゃー?」


そんな一時の中で、妹者はふと気づいた。
先ほどまでいろいろありすぎて忘れていたが、そもそも上の兄は、下の兄に話したいことがあったのではないかと。


(´<_` )「そういえば、そうだな」

(*´_ゝ`)「おお、そうだったそうだった」


兄者は妹者のその言葉に、もったいぶった様子で腕を組み、うんうんと頷いた。
それから、妹者、ブーン、ドクオの姿を見回し、弟者の顔をじっと見つめる。
困惑の表情を浮かべはじめた弟者に向かって、指を突きつけ――


(*´_ゝ`)「旅に出るぞ!」



――と、兄者は言った。

.

25 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 20:27:32 ID:tFLjG.4M0

(´<_` )「は?」

ヽ(*´_ゝ`)ノ「だーかーらー、旅に出るぞぉー弟者ぁー」


兄者の唐突な発言に、弟者は一瞬言葉を失った。
街の中ならいいが、周囲は一面の砂が広がる世界。
砂漠をこえようとするならばそれなりの準備が必要だというのに、近所に買い物に出かけるような気楽さで兄者は言い切った。


l从・∀・*ノ!リ人「たのしそうなのじゃ。妹者もいっしょにいくのじゃ!」

( ´_ゝ`)「これはだな男同士の危険な旅。
      妹者たんを危険に晒すことなど俺には出来ないっ……というわけで、妹者はお留守番なー」


( ^ω^)タビ デスッテヨ、オクサン   マア、ステキ('A`)


l从・д・ノ!リ人「じゃあ、ダメなのじゃー。
        ちっちゃい兄者は夕方まで妹者と遊ぶって言ってくれたのじゃ!」

( ´_ゝ`)「明日、俺と弟者で遊んでやるから、今日は我慢してくれ」


その言葉に、妹者は少しの間首をかしげた。
それから「むー」と小さく唸り声を上げ、その後ぱっと笑顔を浮かべた。


l从・∀・*ノ!リ人「ほんとなのじゃ? 約束はぜったいやぶっちゃダメなのじゃよ!」

( *´_ゝ`)「この兄に任せろ」


l从^ー^ノ!リ人「じゃあ、今日はガマンするのじゃ」


.

26 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 20:29:01 ID:tFLjG.4M0

(´<_`; )「おい。時に兄者よ落ち着け」


兄者と妹者の話はまとまった。
そうなると、焦り出すのが弟者である。
そもそも旅に出るというのが唐突だし、それに兄者の話では翌日には屋敷に帰り着いていることになっている。


(´<_` )「旅に出るとは、そもそもどこにだ?」

(*´_ゝ`)「よくぞ聞いてくれたな、弟者たん。
       我らが向かうのはここから西、神秘あふれるソーサク遺跡だ!」


兄者が告げたのは、流石の街から西へと向かった先にある遺跡の名前である。
街からも見る事のできるこの遺跡は、よほど天候が悪くない限り半日もあれば確かに行き来できる場所にあった。


(´<_` )「ふむ、なるほど。それで、その遺跡には何をしに?」


(;´_ゝ`)「――えっ?」

(´<_`;)「――えっ?」

l从・∀・;ノ!リ人「――えっ?」

.

27 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 20:31:11 ID:tFLjG.4M0

('A`)「なんていうか兄妹だな。反応が全員同じだ」

( ^ω^)「うーん、遺跡かぁ。ドクオは暇かお?」

(;'A`)「――えっ?」


同じ反応で驚きを示す一同の中で、一番最初に我に返ったのは弟者だった。
自分とほぼ同じ顔の兄の顔を見上げ、やがて何を言っても無駄だと思ったのか小さくため息をついた。


(´<_`;)「……流石だな、兄者」

(;´_ゝ`)て「ちょ、おま、今すごく俺のこと馬鹿にしただろ。
       それは俺がかっこいいことした時にだけ使っていい言葉で、馬鹿にする時には使うなとあれほど」

(´<_` )「だがしかし、あれだけ旅に出るとはしゃいでいて、何も考えてないとは」

(;´_ゝ`)「いや、ちゃんと考えてるぞ!」

(´<_` )「……」


弟者の疑わしげな視線に、兄者は視線をさまよわせる。
それを妹者は興味津々といった様子で眺め、弟者は冷たい表情で兄を見つめた。


(;´_ゝ`)「そうだ、魔法石板だ!
      あそこの遺跡には魔法石板にぴったりの材質の石が転がっていると、ギコ者が言っていたぞ!」

.

28 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 20:33:16 ID:tFLjG.4M0

石板魔法と言うものがある。
それは今より魔法がはるかに発達していた時代に作られた、石板を媒介とした魔法の一種のことである。
この魔法が優れているのは、魔法が使えない人間でも石板に刻まれた文字列をなぞるだけで効果を発揮できるという点である。
魔力を込められた石板は魔法石板と呼ばれ、便利な道具として日常生活にも使われることも多かった。


(´<_` )「魔法……石板……」

(;´_ゝ`)「そ、そう! 人によってはかなりの高値で買ってくれるんだぞ。
      決して、俺が興味津々というわけではなくてだな……」

(´<_`#)「兄者は、俺が……」


l从・∀・*ノ!リ人「わー、妹者も見たいのじゃ!
         それをつかえば新しいまほーせきばんとかも作れちゃうのじゃ?」


弟者が言おうとした言葉を遮って、妹者がはしゃいだ声を上げる。
魔法に触れることがほとんどない彼女にとって、魔法という言葉や不思議な現象は興味を惹かれるものだった。
一方、話を邪魔された弟者は顔をしかめ、不機嫌な表情になっている。


(;´_ゝ`)「そそそ、そう。魔法使いにお願いすれば、なんかすっごーい魔法とかも刻んでもらえるぞ。
      でも、あくまでも売るんだからな。魔法石板にぴったりっていっても、魔力こめなきゃただの石だし」

(´<_` )「その言葉は確かか?」

(;´_ゝ`)「……はい」


兄者の言葉に、弟者は黙り込んだ。
その場にいた妹者が飽きてあくびをはじめるほど長い時間沈黙した後で、弟者はようやく口を開く。

.

29 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 20:35:07 ID:tFLjG.4M0

(´<_` )「まったく。兄者のことだから、俺が行かないって言っても一人で行くだろう。
      それなら、俺がついていったほうがまだマシということじゃないか」

( ´_ゝ`)「……ということは」


これ以上ないくらいに眉をしかめて、弟者はうなずく。
その反応に、兄者と妹者と、なぜかブーンが歓声をあげた。


l从・∀・*ノ!リ人「兄者、やったのじゃ!」

(*^ω^)「おめでとうだお、アニジャ!」


(*´_ゝ`)「よーし、弟者も妹者もブーンもみんな愛してる!
       そういうことなら、お兄ちゃんはりきっちゃうぞー!」


兄者はその場でくるくると回り彼なりに喜びを表現すると、露台の石造りの手すりによいしょっとよじ登った。
そこから、屋敷の壁に囲まれ、四角く見える空を見上げた。


( ´_ゝ`)∩「よーし、ちょっと待ってろよぉ」


そう言うないなや、兄者は指を口元に当てる。
そのままおもいっきり息を吸うと、指笛を吹き鳴らした。

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30 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 20:37:01 ID:tFLjG.4M0


甲高い音が空へと流れていく。
音は辺りに響き、そして消えるだけの――はずだった。


(*^ω^)「おお、ひさびさに見たお」

('A`;)「でもなー、あれって人に懐くもんか?」


はじめに反応したのは、人とは感覚の違う精霊二匹。
これから起こる何かをすっかり理解した様子で、二匹は空を眺めてはじめた。


( ´_ゝ`)「ふむ。来たようだな」

(´<_`; )「――おい、ちょっと待て」


次に反応したのは双子の兄弟。
二人の見上げる空には何者かの影が落ち、その影の姿はだんだんと近づきはじめた。
やがて、唸るような羽音が聞こえるようになり、その影の姿がはっきりと見て取れるようになる。


l从・∀・ノ!リ人「わー」


l从・∀・*ノ!リ人「――竜なのじゃ!」


彼らの前に降り立った巨大な影。
それは神話の時代から存在するといわれる巨大な生物。竜――ドラゴンであった。


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31 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 20:39:34 ID:tFLjG.4M0

夕暮れ時の雲のように桃色に色づく鱗。
その体躯は蜥蜴に似ているが、背に広がる翼と、どっしりとした下半身が違う生物であることを告げている。
強く猛々しい体の中で、黄金色の瞳はだけは大きく愛嬌のあるものであった。


( *´_ゝ`)「よしよーし、ピンクたんはかわいいでちゅねー」


(Σ*Οw)⊂(´く_`* )ナデナデ


災いをもたらす凶暴な生き物とも、神に近い神聖な生き物とも言われる竜。
そんな生物に対し、兄者は慣れた様子で話しかけると、鱗におおわれた頭をなで回す。


(*^ω^)「すっげーお」

(;'∀`)「竜相手でも平然としてるとかw あいつ、ホント人間かよ」



(Σ Οw)   ⊂l从・∀・;ノ!リ人 ソー


(Σ*Οw)⊂l从・∀・*ノ!リ人カワイイ ノジャー


妹者も兄に続いて、竜におそるおそる手を触れた。
ゴツゴツとした鱗の感触に、彼女は顔を赤く染めて笑顔を見せた。

 _,
(´<_`;)「……」


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32 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 20:41:18 ID:tFLjG.4M0

( ´_ゝ`)「よし、じゃあ頼むわ。妹者もお留守番よろしくなー」

(Σ Οw))コクコク


Σl从・∀・;ノ!リ人「わ、わかったのじゃー!」


妹者が竜を撫でるのをしばし見守った後、兄者はその巨大な生物の背に「よっ」と掛け声をかけ、乗り移った。
人間が一生のうちに一度見れるかどうかといわれる竜。そして、その上にのり笑う兄の姿。
弟者は体が震えが走るのを必死で隠しながら、じっと兄の姿を見上げる。


(*^ω^)「せっかくだから、ブーンたちもついてくお!」

(;'A`)「ちょw オレも強制参加かよ」


兄者を乗せて今にも羽ばたこうとする竜。ついでにブンブンと飛び回る精霊二匹。
目の前に広がるのは、これ以上ないくらいの非日常。


( ´_ゝ`)「弟者、お前もはやく来い」


( <_ ; )「俺は……」

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33 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 20:43:29 ID:tFLjG.4M0


( <_ ; )「……」

( ´_ゝ`)「――母者曰く、『人よ旅に出よ。まずはそれからだ』とさ」

( ^ω^)「お?」


黙りこみ微動だにしなくなった弟に向けて、兄者は言った。
その言葉に弟者は顔をあげ、しばしの沈黙のあとにようやく口を開いた。


(´<_`; )「……正確には、『ゴロゴロするくらいならどっか行ってこい。そこにいたら邪魔だよ!』だ」

l从・∀・ノ!リ人「あー! おっきい兄者、まちがってるのじゃー」

(;´_ゝ`)「あるぇー?!」


おかしいなーと、首をひねる兄者。その姿は、なんてことはない、いつもの兄者だ。
それを見ているうちに、弟者は自然に笑い出していた。

(´<_` )「まったく、兄者は」

(*´_ゝ`)「ふっふっふっ。流石だろ?」

(´<_` )「どこがだ、ド阿呆」

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34 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 20:45:29 ID:tFLjG.4M0


夏の出歩くことすら出来ない季節も過ぎ去り、それでも暑さを失わない秋。
天気は土埃がわずかに舞っているものの、晴天。
穏やかな風が吹くこの日――。


( ´_ゝ`)「まあ、いろいろあったが……」


砂漠の一角。
オアシスの麓にひろがる、流れる石の名を持つ街。
夕焼け雲色の竜の上には一人の青年と、精霊二匹の姿。



(*´_ゝ`)つ 「さあ、行こう」


そして、兄者は双子の片割れに向かって、手を差し伸べた――。



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35 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 20:46:19 ID:tFLjG.4M0







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36 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/23(金) 20:47:03 ID:tFLjG.4M0


そのいち。 旅に出るぞと、兄者は言った




        おしまい

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