■2012年芸術の秋ラノベ祭りのようです
└( ;∀;)死 のようです
- 1 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:20:43 ID:3LEc4/iw0
ある郊外に、たいして広くもない森がありました。くろぐろとした葉っぱばかりの、元気の無い森です。
その森の中、これまたくろぐろとした小屋がひっそりと立っています。
そこには、年中喪服で泣き虫な少年の、モララーが一人で住んでいました。
これもまた、睫毛から瞳から、何から何まで――喪服ですしね――真っ黒でした。
( ;∀;)「ああ、今日もまた死んだ」
手元に深い色をしたコーヒーが、湯気をゆっくりのぼらせています。
モララーはそこに写る自分を眺めながら、涙を零しました。
コーヒーに涙が一滴落ちて、モララーの顔が歪みます。
少年はとても整った顔をしていましたが、しょっちゅう泣くので、あまりそうは見えません。
そこへ、がちゃりと戸が開き、誰かがやって来ました。
- 2 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:23:44 ID:3LEc4/iw0
(,,゚−゚)「また泣いているのかい?」
先程、この小屋にモララーが“一人で”住んでいる、と言いましたが、失敬それは少し違います。
同居者がいるのです。しかし、この同居者も含めて二人、と言うのは、なんだか躊躇われました。
何故ならこの、少年とも少女ともつかない幼い顔立ちを残す同居者は、人間ではないからです。
同居者は死神なのでした。
その証拠に、同居者の目は片方だけが血のように紅く、羽も生えています。
今だって浮いて、モララーの横顔を呆れ顔で眺めています。
死神を一人と数えるのは少しおかしいでしょう?
(,,゚−゚)「コーヒーがしょっぱくなってしまうよ」
( う∀;)「確かにこの前のコーヒーはしょっぱかったなぁ」
(,,- -)「言わんこっちゃないね」
- 3 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:25:41 ID:3LEc4/iw0
モララーは少し笑いました。
死神はふわふわ浮きつつ、気にくわなさそうにモララーの耳をひっぱります。
(。・∀∩)「痛いんだけど」
(,,゚−゚)「痛くしてるのさ。ねぇ、虐殺したいんだけど」
そう言って死神は耳を更に強くひっぱりました。ちぎれないかな、とため息まじりにつぶやきます。
モララーはちぎれてたまるかと思いつつ、その痛みに顔をしかめました。涙はそのままに。
_,
(。・∀∩)「痛いってば。お前にもやってやろうか? どれだけ痛いかわかるから」
(;゚−゚)「け、結構だよ。これは虐殺だよ? 虐殺される側は黙って虐殺されるがいいさ」
(。・∀∩)「黙って虐殺される奴なんかいるもんか。それもマヌケな死神なんかに」
そもそもこんなのは虐殺じゃないという言葉を飲み込んで言い返します。
うぐ、と死神が黙りました。痛いところを突かれたのです。
- 4 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:28:40 ID:3LEc4/iw0
マヌケな死神、という言葉について話すには、まずこの森について話さねばならないでしょう。
この森は、いわゆる「自殺の名所」なのです。毎日毎日、誰かが死にます。
あるときは首を吊って、
あるときは自らの胸を刺して、
あるときは川に飛び込んで、
またあるときは、飲まず食わずで死にました。
どうしてこの森はこうも自殺者が多いのか、モララーは一種の森の主のようなものでしたので、大体分かっていました。
この森のくろぐろとしたさまが、死を連想されるそれだからだろう、と。
自分の森で人が死ぬのは、とても悲しいことでした。
死ぬ、というだけでかなしいのに、弔う人もいないのです。こんな死の気配漂う森に、誰が好き好んで弔いにくるでしょう?
そういうわけで、その悲しみと、代わりに弔うためにモララーは毎日泣いているのでした。
- 5 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:29:41 ID:3LEc4/iw0
そんな森でしたので、自然に死神が住み着くようになりました。
通常、死の気配を感じたらやって来て命を刈り取るのですが、
この森に限っては、いちいちやって来るのが億劫なほど人が死ぬので、ここに住んだほうが合理的なのです。
そう、そこまではモララーにもわかりました。
問題は、その死神がとんだポンコツだったことです。
すぐ転ぶとか、性格が結構子供じみているとか、言いだせばキリがありませんが、
何よりポンコツだったところは、『死神のくせに鎌がうまく扱えない』ことでした。
死神の小さな体に比べて、鎌が大きすぎるのです。
少しでも持ち上げようとしようものなら、ある程度は振り回せるものの、ふらつき転んでしまいます。
どう考えても欠陥品でした。
モララーは仕方なく森の力で死神を手伝ってあげています。
例えば死神がふらつけば、すかさず木の根が伸び、死神を支えます。
最早モララー自ら鎌を使うほうがよっぽど手間が少ないのですが、残念ながら鎌は死神にしか使えません。
- 6 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:31:28 ID:3LEc4/iw0
_,
(,,゚−゚)「ま…間抜けとかねぇ、君……泣き虫に言われたくないよ」
(。・∀∩)「じゃあお互い様だろ?」
_,
(,,゚−゚)「むむ…」
ほらその手を離した離した、と邪魔っけに手を払われて、嫌々耳から手を離します。
ちなみに、死神はモララーを虐殺する虐殺すると、物騒なことを言いますが、
これは死神の本能的なもので、あまり深い意味はありません。
特に恨みがあるわけではなく、ただ死を与えるということに執着しているだけなのです。
死の気配漂う森ではその本能が強くなるし、その森の主ともなれば、
殺したくて仕方がなくなるのはどうしようもないことなのです。
ただ、幸か不幸かこの死神はさっきも言ったように“間抜け”、ポンコツなので、モララーが死ぬことはありませんでした。
- 7 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:33:32 ID:3LEc4/iw0
死神は今まで軽くかわされてきた“虐殺”を思い出して唇を噛みました。
本来死神というものはとても位が高いものです。
こんな小さな森の主なんかに、間抜け呼ばわりされるようなことには通常間違ってもなりえません。
鎌すら扱えないような死神だって、誇り高い気持ちはあるのです。
(。・∀∩)「そう睨むなよ」
モララーが椅子をぎぎ、と鳴らして死神を横目に見ます。
死神はふいと目を反らします。
(,,゚−゚)「睨みたくもなるさ」
(。・∀∩)「心配しなくても、もう少ししたら虐殺されてやるよ」
死神は眉をひそめてこちらを見直します。
- 8 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:36:20 ID:3LEc4/iw0
(,,゚−゚)「君はいつもそう言うけれどね。その“もう少し”っていうのは、いつ来るんだい?」
もうかれこれ何ヶ月さ、と死神はじれったそうに言いました。
うぅん、とモララーは少し考えて。
(。・∀∩)「いや、最近はほんとのほんとにもう少しだよ」
(,,゚−゚)「本当だろうね?」
(。・∀∩)「ほんとほんと」
(,,゚−゚)「なんか信用できないな」
モララーは困ったように頭をかきました。
しかし数ヶ月を共にしたのです、扱い方くらいわかっています。
( ・∀・)「まぁまぁそんなことより、次の死人までちょっと時間あるならさ、コーヒーとクッキーで一休みしようよ」
(,*゚−゚)「クッキー!」
ぱぁっと顔を輝かせた死神は、まるでただの子供のようです。
そう、実態こそ死神ですが、その性格や好みは、驚くほど単純で子供じみていることをモララーは知っていました。
だからごまかすのなんておてのものでした。
- 9 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:37:46 ID:3LEc4/iw0
(,*゚−゚)「人間界は空気汚いし、冷たい建物が多いし、自殺なんてしちゃう狂ったところだけどさ、
このクッキーとやらを生み出したのだけは賞賛に値するよ」
差し出されたクッキーをかじりながら死神が頬をべに色に染めました。
クッキーの温かさと甘さが、ふんわり口に広がります。
( ・∀・)「コーヒーも賞賛してやってくれ。こんな香り高い飲み物も他にないよ」
(,,゚−゚)「あ、僕のコーヒーは、」
( ・∀・)「分かってる、角砂糖をもう五つは放り込んだ」
言いながら、モララーは口をおさえました。
モララーはブラック派なので、こんなに砂糖を入れていると、見ているだけで甘ったるくて気持ち悪くなってくるのです。
(,,゚−゚)「コーヒーも賞賛してやってもいいけどさ、苦いじゃないか。これで砂糖を入れなくても甘かったら完璧なんだけど」
( ・∀・)「お前はガキだな。苦いのがまたいいんだろうが」
_,
(,,゚−゚)「む、ガキじゃないよ。味覚の問題さ」
- 10 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:39:41 ID:3LEc4/iw0
死神の前にコーヒーを置くと、モララーも椅子に座ってクッキーを食べました。
我ながら良い出来です。モララーはこっそり微笑みました。
死神は甘ったるいコーヒーをのんでご満悦です。もうすっかり、虐殺なんて忘れています。
ご満悦、と言っても、紅潮した頬と、雰囲気でそんな気がするだけです。笑ってはいません。
モララーは、ここに死神が住み着くようになってしばらくしてから知ったのですが、笑えないのだそうです。
死神とはそういうものなのです。だって普段は笑う必要がないのですから。
普通、死神はティータイムなんかとりませんし、日常の殆どを死について考えています。
娯楽なんてありません。だから死神には、笑顔など不要なのです。
まぁ、例え笑わなくても、機嫌がいいのにはちがいありませんでした。
(,*゚−゚)「はぁ…クッキーはおいしいし、コーヒーも甘くすればおいしいのに、なんで人間は自殺するんだろうね?」
( ・∀・)「どういう意味?」
(,,゚−゚)「おいしいクッキーとおいしいコーヒーのある世界から、どうして別れることができるんだろうね、っていうことさ」
だってさ、考えてもみてよ、と死神は人差し指を立てます。
(,*゚−゚)「毎日が辛くても、クッキーがあれば幸せな気分になれるだろう?
それくらいで幸せになれるんだからさ、自殺なんてどうして考えられるかい?」
- 11 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:41:19 ID:3LEc4/iw0
クッキーを頬張り、死神は目を細めました。幸せを感じているのです。
単純な死神に少々呆れつつも、モララーも同意しました。
( ・∀・)「確かにね。お前の言ってることはもっともだよ」
(,*゚−゚)「だろう?」
( ・∀・)「だけどな、死神。死には、クッキー以上の魅力があるんだよ」
(,,゚−゚)「…? 扱ってるからこそわかるけどね、自殺で死ぬなんてなんの魅力もないよ?
自殺なんて、残るのは“無”以外の何物でもないじゃないか…」
そこまで言ってから、死神はぴくりと眉を動かすと、唐突に窓の外を睨みました。
何が起こったのかはモララーにも大体わかります。経験上というのもありますが、何より自分の森だからです。
きっと、また誰か、死のうとしているのです。
死神は立ち上がって、窓の外を睨んだまま、モララーに言いました。
(,,゚−゚)「やっぱり僕には自殺が魅力あるものには思えないね。ティータイムを邪魔する死なんてさ」
- 12 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:42:41 ID:3LEc4/iw0
扉から飛んで行く死神の背中を見送ったモララーは、また、コーヒーに映る自分の顔を眺めて、とびっきりに悲しい声音で言いました。
( ・∀・)「その“無”が魅力的なんだよ」
ああ、悲しい。
モララーはまた涙を零し始めました。
また誰か死ぬ。
もう死んで、欲しくない、のに。
どうしたらいい。分からないよ。
ねぇ君達、聴いておくれよ、僕の悲しみを。
窓の外では、森がざわざわ、葉っぱを揺らすばかりでした。
- 13 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:43:55 ID:3LEc4/iw0
たとえこの森を、色とりどりの花で飾ったところで、きっと死の気配は拭えないでしょう。
棺桶に手向けられた花に見えるのが落ちです。むしろ、更に死を彷彿とさせるに違いありません。
僕には何も出来ない。
モララーはまた涙を零します。
でも、そのまま笑いました。
でも君達にはどうにかできるだろう?
もう少しで伝わりきる、きっと。もう少しで。
モララーは思い出したように、ぬるいコーヒーを一気に飲み干しました。
( ;∀;)「…しょっぱくて飲めたもんじゃないね」
苦笑して、舌をぺろりと出しました。
* * *
.
- 14 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:45:05 ID:3LEc4/iw0
死神が帰ってきたのは次の日の朝でした。
( ・∀・)「おかえり。遅かったね」
_,
(,,゚−゚)「自殺者多過ぎだろう、まったく…最近更に増えてきてないかい?」
死神は肩で息をしながら言いました。ついさっきまで命を刈っていたのでしょう。
( ・∀・)「確かに増えてきてるね。ここの不名誉な知名度も高くなったし、ますます人がくるようになったんだよ」
(,,゚−゚)「それでますます死んで知名度はうなぎ登りだね。あーあ忙しい」
ある程度有名になってしまえば、更に有名になるのは結構簡単なことです。
もうこの森は有名になってしまいました。だから、これからもどんどん自殺者は増えるでしょう。
時間が無い、とモララーは溜息を落としました。
これ以上死人を出さないためにも、より早くしないと。
(,*゚−゚)「ねぇモララー、僕のクッキーはどこだい?」
場違いな死神の声に、モララーは椅子からずり落ちそうになりました。
- 15 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:47:51 ID:3LEc4/iw0
(;・∀・)「…前のクッキーはもう無いけど、ココアクッキーなら今焼いてる。待ってて」
(,*゚−゚)「やった」
死神は頭のヴェールを外すと、床に放り投げて、椅子に座りました。
(;‐∀・)「ちょっと、粗末に扱わないでくれよ」
(,,゚−゚)「そうは言われても、そもそも僕はこの服あんまり好きじゃないし。知ってるだろう?」
元々、死神はぼろきれを身にまとっていましたが、色々擦り切れていて目に毒だったのと、
死には敬意を払うべきという理念に基づいて、モララーがあげたのが今の喪服です。
しかし死神にとっては窮屈なようで、身をよじりました。
_,
(,,゚−゚)「そもそもなんでこんなひらひらしてるのさ」
(;・∀・)「そりゃ女物だし…つーかぼろきれはもっとひらひらしてたろうが」
(,,゚−゚)「モララーみたいな喪服がいい」
(;・∀・)「サイズがあわないんだよ。ちなみにそれは拾い物。
ていうか、女かと思ってたんだけどそもそもがさ…お前男なの? 女なの?」
(,,゚−゚)「そこはノーコメントにさせてもらうよ。元スレの関係でね」
(;・∀・)「何の話だ」
- 16 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:49:19 ID:3LEc4/iw0
死神が少しメタネタを使ったところで、ココアクッキーが焼き上がりました。
死神はすぐに手を伸ばします。しかし、いきなり口に入れたので、死神は「熱い!」とちょっと叫んでしまいました。
慌てて咀嚼してから、モララーを睨みます。
_,
(;゚−゚)「き…君…謀ったね…!?」
( ・∀・)「お前じゃあるまいし」
(;゚−゚)「卑怯だよモララー、クッキーはおいしいからすぐ手を出さざるを得ないっていうのに…!」
(;‐∀‐)「うん、お前が間抜けだってことを今再確認した」
呆れながらモララーは火傷しないよう、クッキーを慎重にかじりました。
目の前に良い失敗例があるので、慎重にもなるでしょう。
(,*゚−゚)モグモグ
その後は死神も学習したようで、黙ってクッキーを食べていました。うれしそうです。
朝っぱらから死のうとする人は少ないので、二人にとって、朝は絶好の休息時でした。
窓の外では相変わらず、木々がざわめいています。山のふもとに近いので、風の通り道になっているのです。
そのさまが「おいでおいで」としているように見えると、自殺志願者が言っているのを聞いたことがあります。
そうやって、この森は死へといざなっているのだと。
- 17 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:50:40 ID:3LEc4/iw0
窓一面に広がる揺れる黒色を、モララーはぼんやり眺めます。
(,,゚−゚)「…そういえば」
そんなモララーの横顔を見ながら、死神が思い出したように言いました。
いつのまにか、クッキーの皿は空でした。
( ・∀・)「何?」
(,,゚−゚)「あのさ、この森って黒ばっかりだろう?」
( ・∀・)「…そうだね」
(,,゚−゚)「それにしては、結構珍しいものを昨日見つけたよ」
なんだと思うかい、と、死神は戯れに聞きました。
モララーはきょとんと眉尻を下げます。
( ・∀・)「いや、全然予想がつかないな。なんだろう?」
笑いだしそうな顔をして死神は答えました。
(,*゚−゚)「聞いて驚くがいいよ――薔薇さ。薔薇が一輪、森の中に咲いていたんだ」
- 18 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:51:43 ID:3LEc4/iw0
( ・∀・)「へえ!」
モララーは大袈裟なくらい驚いて目を丸くして、ぱちぱち、瞬きをしました。
( ・∀・)「全然知らなかったなぁ。なんで森は教えてくれなかったんだ?」
(,*゚−゚)「さぁね。しかし中々見事な薔薇だったよ。すごく紅くてさ」
モララーは目を輝かせました。毎日自殺だの死だの、暗い話ばかり聴いていたので無理もないことでしょう。
(*・∀・)「そりゃいいね。見てみたいな」
(,,゚−゚)「んー…じゃあ見に行くかい? しばらくは死にそうな気配がないし」
(*・∀・)「本当か!?」
モララーはガタリと椅子から立ち上がり、身を乗り出しました。
予想以上に乗り気なモララーに、死神が怯むように、若干体を固くしました。
(;゚−゚)「う、うん。ここからはちょっとだけ遠いけどそれでもいいなら」
(*・∀・)「全く問題無いよ。行こうか!」
- 19 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:52:58 ID:3LEc4/iw0
二人は外へ出ました。死神は頻繁に外へ出ますが、モララーはあまり出ないので、久々の外出に体を縮めました。
もう随分と寒くなってきています。いつも中にいると気づかないものです。
( ・∀・)「もう秋…なのかな?」
(,,゚−゚)「もう冬近いよ。君どんだけ季節感狂ってるんだい?」
( ・∀・)「いやぁ、雪でも降らないと景色変わらないからなぁ。なんか、季節感感じるような生き物もいないしね、ここ」
そういうのも自殺しちゃうのかな?とモララーがふざけて言いました。
(,,゚−゚)「…笑えない冗談だね」
( ・∀・)「元よりお前は笑えないじゃないか」
(,,゚−゚)「それもそうだった」
淡泊に返す死神は目尻をぴくりとも動かしません。
モララーはつまらない奴だなぁ、と思わないわけではありませんでしたが、どうにもならないのだから仕方ありません。
- 20 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:54:40 ID:3LEc4/iw0
そこらそこらに骸骨や死体が落ちています。広い森ではないので、死体があまり間隔を開けずに横たわっているのは当然と言えましょう。
どこを見てもそれらが目に入ります。モララーは俯きました。
モララーが外に出ないのは、こういう光景をじかに見たくないのが1番の理由なのでした。
自分の森なので、森の中が一体どうなっているのかは見なくても大体わかります。
ですが、目で見るよりはぼやけているのです。文字通り現実を直視するのは、つらいことでした。
( ・∀・)「まったく嫌な森だね」
(,,゚−゚)「君の森だろう」
( ・∀・)「…もはや僕のではないと思うよ」
所有者の席には、“死”がどっかりと腰をおろしているから。
何か言いたげなオッドアイが、ちらりとこちらを見ました。けれどすぐに反らされます。
- 21 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:56:36 ID:3LEc4/iw0
ざくりざくりと、ちくちくした草が足の下で鳴ります。
きっとこの草を育てた水は赤色をしていたにちがいないと、モララーは眉間にしわをよせました。
でも、この草を育てた奴とは僕も同類だ。
――ネガティブなことばかり思い出してしまいます。この森の雰囲気のせいなのか、それとも自分のせいなのか。
モララーは少し頭を振りました。考えを吹き飛ばすように。
今から見に行くのは一輪の薔薇です。きっとそれは“生”そのもののはずです。
だから、今はそんなことを考えずに。
(,,゚−゚)「そういえば君さ…昨日、死が魅力あるものとして語っていたよね」
(;・∀・)「…………お前って奴は、今それを聞く?」
わざわざ今断ち切ろうとした思考を突っ込まれてしまいました。
死神はきょとんとしています。悪気はちっともないようです。
- 22 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 22:58:53 ID:3LEc4/iw0
(,,゚−゚)「何かいけなかったかい?」
(;‐∀・)「いや、別に。それがどうかしたの?」
(,,゚−゚)「あぁ、えっとね、昨日しばらく考えたんだけどやっぱりわからなくてさ。君の考えを聞きたくてね」
死神は歩みをとめ、ふわり、とモララーに近寄って言いました。付けなおしたヴェールの向こうから、まっすぐこちらを見てきます。
意抜くようなそれに、モララーの息が詰まりました。モララーはできれば言いたくはありませんでしたが、
あまりに強い瞳だったので、これは言わないわけにはいかないだろうと思いました。
そして少しだけ息を吸って、小さな声で呟くように言いました。
( ‐∀・)「それは、“死”が無だからだよ――あくまで自分の考えだけど」
(,,゚−゚)「…つまり?」
( ‐∀‐)「…こういう言い方はあれだけどね。無条件で嫌なことを消せるからさ」
- 23 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 23:00:12 ID:3LEc4/iw0
(,,゚−゚)「…消せる」
( ・∀・)「そう。消せる」
モララーは木の根に横たわる死体から目を反らしながら言いました。
( ・∀・)「自分から死ぬなんてさ、絶望していなけりゃしようと思わないよ。
だから、その 絶望 を断ち切るために、消すために」
(,,゚−゚)「…自殺なんかで消せるかな」
( ・∀・)「少なくとも自分には干渉できなくなるよ。だってもう自分はいないんだから。
それって絶望が消えたのと同義だと思わない?」
ざわざわざわ。
強い風が吹いて、黒い葉っぱがぐらぐらと揺れます。
あまりに不安定なその様子に、死神は揺り動かされそうになりましたが、軽く唇を噛んで耐えました。
(,,゚−゚)「随分と…実感が篭っているね?」
目の前のモララーは、今にも吹き飛ばされそうです。
薄く浮かべた笑みさえ、何だか火の消えそうな蝋燭を見ている気分になります。
( ・∀・)「ばれた?」
- 24 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 23:01:50 ID:3LEc4/iw0
(,,゚−゚)「君、まさか」
( ・∀・)「うん…これはあまり思い出したくなかったんだけど…まぁいいか。
自殺しようとしたんだよ、僕も。なんとか生きながらえたけどね」
モララーの目が、死神を通り越して遠くを見ていました。
ざわざわざわ。まだ森は揺れています。
( ・∀・)「この森がこんななのはなにもかも僕のせいななのかもしれないって、考えてしまったんだ。
だって他の森はこんなのないだろう? おかしいだろう?」
死神はじっと、黙って聞いていました。けして聞き逃さないように。
( ・∀・)「いっそみんなみたいに、強制終了してしまいたいと思った。けどね――」
モララーはふと、目を現在に戻しました。やっと風も止まります。
( ・∀・)「僕にとって消えたとしても、森は変わらないからね。他の人はまだまだ死ぬ。
そんな死なんて意味がない。悲しみしか生まない」
- 25 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 23:03:17 ID:3LEc4/iw0
でも、今考えると意味はあったよ、とモララーは続けます。死にゆく人の気持ちが少しだけ解ったから。
死神は話が終わるまでずっと黙っていました。が、終わってから、首を傾げます。
それから、きょとんとした顔で死神はただ一言問いました。
(,,゚−゚)「それで?」
( ・∀・)「へ?」
(,,゚−゚)「それで、君は何をしたんだい?」
( ・∀・)「何って」
モララーもきょとんとします。
死神は露骨に眉をひそめました。
(,,゚−゚)「弔いと悲しみを伝えるために一々泣いてるのは知ってるけど。それ以外に、何か。
この森をどうにかするためにさ。まさか自殺未遂までしてそれだけってことはないだろう?」
( ・∀・)「それは」
モララーが言葉に詰まります。
- 26 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 23:04:22 ID:3LEc4/iw0
死神の言っていることは至極真っ当なことでした。自殺する人の気持ちがわかっただとか言って、
ただめそめそ泣いているだけならば、それはまさに意味のない行為なのですから。
(;・∀・)「いや…あの泣いているのはさ、こいつらに意志を伝えてるのもあって…。
僕に出来ないこともこいつらにはできるから」
こいつら、と言って、モララーは木の幹をぽんぽんと叩きました。
こいつら、というのは森のことなのだろう、と死神は思いました。
森の力を借りるには、主の意志を伝える必要があるのです。
つまり、森の力を使って、どうにか自殺者を止めたいと。
(,,゚−゚)「……」
死神はスッと目を細めました。相変わらず無表情ですが、どんな感情が篭っているかは、モララーには解ります。
少々の呆れと、それから苛立ち。
(,,゚−゚)「話にならん、白菜漬けにされたいか」
( ・∀・)「…はい?」
- 27 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 23:05:26 ID:3LEc4/iw0
死神がわかる人にしか分からないような台詞を吐いてから、鎌をどこからか出してふりかざしました。
(;・∀・)「ちょ…おまっ」
:(;゚−゚):「ぎ虐殺すするよ!」
(;・∀・)「無理だろ! 超プルプルしてるし!」
今は森の補助無しなので、腕が鎌の重量に耐え切れていません。
けれど、プルプルしつつもなんとか持ち上げてはいます。
森以上に不安定に揺れる鎌が、こちらを狙ってきます。
もちろん大きく外れましたが、不安定すぎてどこに鎌が落ちるか分からず、逆に不安です。
モララーはなぜ、いきなり白菜漬けだとか、虐殺だとか言い出したのか解りませんでした。
…いいえ、虐殺とか言い出すのはいつも唐突です。
けれど、なんでそんな、苛立ちと呆れのこもった顔で?
- 28 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 23:07:21 ID:3LEc4/iw0
(;・∀・)「お、おまっ、なんでいきなり」
(;゚−゚)「ど、どうやらね…ハァ…君は…とんだ馬鹿だからさ…ゼェ…虐殺、されてしかるべき、さ」
( ・∀・)「もう息切れてるし…って、何、馬鹿って」
(;- -)「馬鹿さ。君は大馬鹿さ。ゼェ…ハァ。都合の良い理由をつけて…“死”に…無礼を働く、お、大馬鹿さ」ゼーゼー
死神は肩を揺らして、モララーを睨みました。鎌はもうどこかへ消えています。
(;・∀・)「“死”に無礼って、そんな、僕は」
(;゚−゚)「違う、て、言うのかい?」ハァハァ
( ・∀・)「…違うよ」
ちょっと迷ってからモララーは言いました。そうです、“死”に敬意を払うべきと、前から言っていたはずです。
泣いてるのだって、けして無礼にはならないはずです。モララーは揺らぐ心を押さえ付けました。
そんなモララーに、死神はより呆れた顔をして言いました。
(;゚−゚)「そう言うんなら、そこらの死体をきちんと見てごらんよ!」
- 29 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 23:10:51 ID:3LEc4/iw0
モララーは虚を突かれたように、目を瞠りました。
(,,゚−゚)「見れないだろう? …君が森へ出ないのは、“死”を遠ざけたいからだ、違うかい?」
( ・∀・)「……」
無言は肯定の証でした。
自分の中で適当に流してきたものを、ダイレクトに攻められたのです。
(,,゚−゚)「死っていうのは、都合の良い消去ボタンじゃないんだよ。自分の人生そのものを壊すことなんだ。
これからあったかもしれない幸せもね。泣く程度でおさまることじゃないんだ」
(,,゚−゚)「だからこそこんな森はいけないんだ。君はわかっていると思っていたんだけどね?」
モララーは痛いところをつかれたように、胸を押さえました。
――モララーは森に悲しみを伝えていましたが、伝わるまでにいつもより時間がかかっているのを思い出しました。
しかも、いまだに伝わりきっていません。死神の虐殺を長期間避けているのも、そのためでした。
死神を補助してやってほしいという意志はすぐ伝わったのに。
- 30 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 23:12:24 ID:3LEc4/iw0
単純に、悲しみが足りないからだとか、生死に関わることだからとか、なんとなく考えていましたが、
もう数ヶ月も伝わらないのは中々のことです。
( ∀ )「あ……」
ひょっとして。
死神の指摘に、モララーはハッとします。
ひょっとして――
モララーが何かに気づきはじめたとき、死神が進みはじめました。
モララーは思考を中断して、死神にあわててついていきます。
(;・∀・)「し、死神…」
(,,゚−゚)「さっさと見に行くよ。もう朝が終わっちゃうからね」
モララーは頭上を見上げました。
黒い葉っぱの間から、眩しいくらいの白い光が漏れています。
もう皆が起きはじめる頃でした。
-
- 2 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2012/12/02(日) 19:35:38 ID:I9FOjxLs0
ちくちくした葉っぱが、相変わらず足の裏をくすぐります。
モララーの少し前を、黙って死神が飛んでいます。
モララーはしばらく思考にふけっていました――なんだかもう一つ、足りないのです。
(,,゚−゚)「――モララー。モララー」
モララーは呼び掛けに気づかず俯いて考えています。
(,,゚−゚)「モララーってば」
どすり、とモララーの右肩が急に重くなりました。
モララーはおどろいて右肩を見ると、波打つ黒が見えました。
顔を上げると、冷たい顔で見下ろす死神が大分上のほうに見えます。
どっかりと肩に腰掛けられていました。
(;・∀・)「え、何?」
(,,゚−゚)「呼び掛けても気づかなかったもんだからね。
虐殺者の前で気を抜くなんて、虐殺してほしいのかい?」
( ・∀・)「そりゃあ悪かったけどなぜに肩に乗る」
(,,゚−゚)+「君の肩を破壊するためさ」
- 2 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2012/12/02(日) 19:35:38 ID:I9FOjxLs0
死神は得意げに言いました。しかし、確かに肩のみに圧力がかかっているので重いのは重いのですが、
死神は元々あまり重くないので、肩を破壊するには到底至りません。
いつもの“虐殺”か、とモララーは呆れて思いました。それから思い切り横に移動します。
支えを失った死神は落ちてしまいます、が、さすが死神、地面上の数センチで羽ばたいて、なんとか尻餅は避けました。
(;゚−゚)「危ないなぁ! 何するんだい!」
( ・∀・)「1番物騒なことを言う奴が何をおっしゃる。
で、何だったの?」
(,,゚−゚)「…あぁ、薔薇のところにもうつくよって言いたかったんだよ」
ほら、こっち、と、茂みの上のほうに浮きました。
当然モララーは茂みをかき分けねばならず、死神より歩みが遅れました。
遅いだの言っている死神の声が少し遠くに聞こえます。
茂みを掻き分け掻き分け、喪服に草がつき、髪にからまり、悪戦苦闘しながら茂みを出ました。
- 3 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2012/12/02(日) 19:36:30 ID:I9FOjxLs0
まず、目に入ったのは鮮血のような赤でした。
次に見たのは茨の生えた、なにものも寄せ付けないという装いの茎でした。
それから、茨に負けず劣らず、刺々しい葉っぱも見えました。
(,,゚−゚)+ ドヤー
最後に見たのは、死神の、おそらく笑えるなら“ドヤ顔”をキメているだろう雰囲気を醸し出している姿でした。
( ・∀・)「…すごいや。ほんとに薔薇だ」
(,,゚−゚)+「だろう?」
( ・∀・)「だけど君のその誇らしげな感じはなんなの?」
(,,゚−゚)+「発見者だからさ」
( ・∀・)「ガキっぽいなぁ」
(,,゚−゚)そ
- 4 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2012/12/02(日) 19:37:46 ID:I9FOjxLs0
何か言い返そうとする死神を軽く小突き、モララーはしげしげと薔薇を眺めました。
綺麗な薔薇でした。それはそれは綺麗な、花弁のふっくらとした、お高くとまる堂々たる薔薇でした。
しかし、モララーの想像していたそれとは少し様子が違います。
死の森に咲く一輪の薔薇。シチュエーションとしては、生の息吹を感じさせるようなものに感じます。
けれど、この薔薇を見ていると、生よりも死を感じさせました。
なんだか、綺麗なのにスプラッタで、グロテスクなのです。
( ・∀・)「んー…?」
(,,゚−゚)「どうしたんだい?」
( ・∀・)「いや、なんかこの薔薇、」
ここでモララーが急に口をつぐみました。ぞくりと背筋が粟立ちます。
死神も気づいたようで、薔薇からふわりと遠ざかりました。
ついに自殺者がやって来たようです。
(,,゚−゚)「…時間切れみたいだね。君、見たいなら一人で見てて」
( ;∀・)「うん、そうする」
もはや条件反射のように涙が流れました。
- 5 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2012/12/02(日) 19:39:23 ID:I9FOjxLs0
死神が去ると、急に静かになったような気がしました。
薔薇と二人、向かい合わせで、黒い世界にぽつんと取り残されたような気分です。
モララーはあぐらをかいて、薔薇の前に座りました。
こうして近くで見ると、より鮮やかな赤が司会に広がります。
どうにも生気のない薔薇でした。
息が詰まりそうなほどに。
( ;∀;)「それなら、いつも通りなんだけどな?」
そうです、そうなのです。
みな息絶えるこの森で、その薔薇は唯一違うその色をもってしても、まったく目だっていませんでした。
なぜなら、この森で死の気配をぷんぷんさせることは、なんら変わったことではありませんから。
だからいつも通りです。
しかし、それならおかしいのです。
いつも通りなら尚更、なぜ森はこの薔薇を教えてくれなかったのでしょう?
- 6 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2012/12/02(日) 19:40:02 ID:I9FOjxLs0
( ;∀;)「うーん…?」
森は――というかそもそもが自然は、非常に合理的に出来ているものです。無駄なことはしません。
だから、何かしら意味があるのでしょう。モララーは考えます。
こんな、茂みを掻き分けてまで奥にいかないと見つからない薔薇。
自殺者に踏まれないようにするためでしょうか。
それが1番可能性は高そうですが、どうなんだろうとモララーは首を捻ります。
そもそもがなぜ薔薇を咲かせたのでしょう?
こんなの、見つからなくてはまるで無意味ではないですか――。
( う∀;)(そうだよ。こんなの無意味だ。無駄だ。変だ)
( う∀;)(死神が見つけなきゃ誰もこんなの、)
( う∀;)ピタ…
( う∀;)(死神が見つけなきゃ?)
- 7 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2012/12/02(日) 19:40:35 ID:I9FOjxLs0
モララーはここに来るまでのやり取りを、頭の中で反芻しました。
死神が向けた苛立ちと呆れ。
死神に言われなくては、無視し続けていたもの。
(。・∀∩)(ひょっとして…死神に見つけてもらうために? じゃあ何故?)
(。・∀∩)(僕のおかしな考えを…打ち砕いてもらうため?)
(。・∀∩)(そしてその上で…この薔薇を…僕に、)
するりするりと、こんがらがった思考の糸がほどけていくような気がしました。
最後のパーツがそろったような気分でもあります。
すっかり森の意図を理解したときには、条件反射の涙は止まっていました。
- 8 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2012/12/02(日) 19:42:02 ID:I9FOjxLs0
( ・∀・)「…全部解ったよ君達。ありがとうね」
森は返事をするように、ざわざわざわ、揺れました。
( ・∀・)「さぁ、始めておくれ。これ以上、馬鹿馬鹿しい知名度を上げないためにも、僕のためにも」
モララーはにっこりわらって、花をひと撫でしました。
( ・∀・)「なにより、みんなのために」
その瞬間、赤色がぶわりと広がりました。
* * *
.
- 9 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2012/12/02(日) 19:42:35 ID:I9FOjxLs0
さて、死神はモララーと離れたあと、森の入口付近で、自殺者が死ぬのを待っていました。
('A`)「俺はダメだ…ダメなんだ…」
('A`)「ニートだし…中卒だし…親友は彼女つくるし…二次元の嫁すら結婚したし…」
('A`)「ウツダシノウ」
(,,゚−゚)(これはひどい)
木にロープをかけ、いわゆる首吊り自殺をしようとしているようでした。
死の気配が濃いのを感じます。きっと間もなく死ぬのでしょう。
(,,゚−゚)(随分簡単に死ぬんだなぁ。
借金まみれで、糞まみれで、毎日痛めつけられて、内臓もあらかた売った奴ならわかるけどさぁ。
まぁ…この森の促進効果もあるんだろうね)
揺らぐ黒は相変わらず四方八方を埋めつくしていました。
- 10 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2012/12/02(日) 19:43:14 ID:I9FOjxLs0
死ぬ準備をしている人間は中々滑稽です。作業じみた、気の抜けた時間に思えます。
この自殺者ももちろん滑稽ですが、目が虚ろで、明らかに健常者でない雰囲気ですので、笑えはしません。
否、元から死神は笑えませんが。気分の問題です。
いよいよ、自殺者が手頃な岩の上に乗りました。目の前にはロープ。
死神が鎌を掴みました。
('A`)「…ん?」
今にもロープに首を通そうとした自殺者が、ふと森の奥へ目をやりました。
死神も何だろうと、つられて目を向けました。
(,,゚−゚)(…何だろこの音)
目には何も映りませんでしたが、耳が音を捉えました。
ざざざざざ、と海の波音のような、そんな音が、広範囲から聞こえてきます。
その音が
だんだん
大きくなって
近づいて 来て
次の瞬間目にしたのは、ぶわりと森の木々に絡み付く、赤色
(;'A`)「!?」
.
- 11 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2012/12/02(日) 19:43:50 ID:I9FOjxLs0
木の葉っぱの間の空を埋めるように、赤色が木に絡み付きます。
しゅるしゅるしゅると、とんでもないスピードで茨の茎を伸ばして。
(,,゚−゚)(ば、ら?)
死神は呆気にとられていました。あの赤い薔薇が、頭上を飛ぶように木々に絡み付いていくのです。
まんまるくしたオッドアイの紅色と、赤色が混じります。
みるまに薔薇の大群はそのへんの木に絡み付きつくし、自分たちの後ろの木へとその茎を伸ばして通り過ぎていきました。
たった一瞬の出来事でした。
点々と頭上に散る薔薇を、死神は自殺者と二人、しばらく呆然と見ていました。
自殺者は腰を抜かして、岩から落ちています。
森の木々は赤い薔薇を纏っても、死の気配をなおもぷんぷんさせていました。
むしろ、死の気配が格段に強くなっています。
死神が身じろぐほどに。
- 12 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2012/12/02(日) 19:44:31 ID:I9FOjxLs0
黒色に散った赤はさながら血のようで。
自殺者も目を零れそうに丸くしながら、ずり、と尻で地面を擦り、後ずさります。
( A )「ぁ、」
掠れた声をあげながら、またもう少しずり下がって。
( A )「ぁあ…ああああああああああああ!」
這うようにして、走り去って行きました。
走り去った方向は町のほうです。きっと家に帰ったのでしょう。
死神は自殺者が途中で自殺を放り投げたのなんて、初めて見たので驚きに目をぱちくりさせました。
(;゚−゚)「一体何が起こってるんだい?」
一人呟きます。わけがわかりません。
「それはね、死神」
(;゚−゚)「!」
( ・∀・)「死を真正面から見たからさ」
- 13 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2012/12/02(日) 19:45:51 ID:I9FOjxLs0
ひょっこり、死神の背後からモララーが顔を出しました。
(;゚−゚)「び、びっくりした…おどかさないでよ」
( ・∀・)「ごめんごめん。叫び声が聞こえたからさ」
幾分すっきりとした面持ちで、軽く頭を下げたモララーの鼻先に何か見えます。
(,,゚−゚)「あ、それ…」
( ・∀・)「あぁ、うん、薔薇。いっぱいあるから花束つくってみた。とりあえず十束」
(,,゚−゚)「多いね」
( ・∀・)「いやいや、少ないくらいさ」
死神は首を傾げました。モララーはそれを見て、「まぁ、とりあえず話を聞いてよ」となだめます。
- 14 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2012/12/02(日) 19:46:48 ID:I9FOjxLs0
( ・∀・)「あの後ね、薔薇――あ、もちろん最初の一輪の薔薇ね――の前にしばらくいたんだけど…」
モララーの話はこうでした。
薔薇が咲いていたのはモララーの“意志”がある程度、あらかじめ森に届いていたからでした。
しかし、まだ森はモララーの中途半端な意志には納得していなかったのです。
だから、死神に薔薇を見つけさせた。
そしてモララーに足りないものを自分達――森のかわりに、伝えさせたかったのです。
(,,゚−゚)「でも僕は、思ったことを聞いただけで…」
( ・∀・)「“あいつら”は、森で起こったことはなんでも知ってるんだよ。
死神がそういう質問をするまで待ってたんだろうね」
(,,゚−゚)「…そうかい。で、その結果がこれなのかい?」
死神は上空を指しました。
- 15 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2012/12/02(日) 19:48:52 ID:I9FOjxLs0
( ・∀・)「うん、まぁそうだよ」
(,,゚−゚)「…むしろ死をよりリアルに彷彿とさせる見た目になってるけど。本末転倒じゃないのかい」
( ・∀・)「いいや、それが狙いだよ」
モララーが森をぐるりと見渡しました。
薔薇の絡み付いた木々、その辺に転がる死体、黒々とした見た目。グロテスクな森でした。
( ・∀・)「僕に足りなかったのは、死を、真正面から受け止める覚悟だ。
泣いて遠ざけるのではなく、受け入れた上で嘆き弔うことだ。
この森は、そういう覚悟がない奴も引き寄せて死なせてしまうから」
ここまで言われれば、死神にも意味は解りました。さっきの自殺(未遂)者が逃げていったのも解りました。
死がなんたるかを、思い切りこの森で表現したのです。死神ですら身じろぐほどなら、逃げ出すのは当然のことでした。
今までこの森は、死へと誘っていました。いわば死のいいところだけを見せていたのです。
しかし、今はいいところも悪いところも、全部ぶちまけたようになっています。
- 16 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2012/12/02(日) 19:51:03 ID:I9FOjxLs0
(,,゚−゚)「なるほどね…」
( ・∀・)「そういうことさ。――ありがとうね死神」
(,,゚−゚)「…へ?」
( ・∀・)「僕に何が足りないか教えてくれたのはお前だよ。
ありがとう」
(,,゚−゚)「は」
死神は飛び退さりました。ものすごく不本意そうな顔です。
_,
(,,゚−゚)「…だから僕は思ったことを聞いただけだってば感謝とかねえ君馬鹿じゃないの?」
( ・∀・)「やだ超早口。まぁ君が例え不本意だとしても、僕は有り難かったんだよ。
勝手な僕が勝手なこと言ってるだけ」
_,
(,,゚−゚)「ほんとに勝手だよ」
( ‐∀・)「感謝は素直に受け取っておくものだよ、死神」
- 17 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2012/12/02(日) 19:51:43 ID:I9FOjxLs0
死神はぷいと横を向きました。
虐殺者がどうのこうの、ともにょもにょ言う声が聞こえたので、
多分また、くだらないことを言っているのだろうな、とモララーは少し笑いました。
何故笑ったかって、モララーはそれが照れ隠しだということを知っているからです。
そうとは知らない死神は、笑われたことにさらに不本意そうにしました。
(,,゚−゚)「…そんなことよりその大量の花束はなんなんだい」
死神は顔を前に戻して半ば無理矢理に話題を変えます。
モララーはその様子にまた笑いそうになりましたが、堪えました。ここで笑えば、今度こそ死神はへそを曲げてしまうでしょうから。
( ・∀・)「ああ、これ? それもお前が教えてくれたことの副産物だよ。
死体に花を手向けにいくんだ。そんでその前で、ちゃんと泣く」
(,,゚−゚)「…自己満足な気もするけどね?」
( ・∀・)「なんでもいいんだ。ただ、僕は、」
(,,゚−゚)「いい。それ以上言わないで」
死神はモララーの隣に並びました。着いていく、という意志表示でしょう。
(,,゚−゚)「大体わかるからさ」
- 18 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2012/12/02(日) 19:52:41 ID:I9FOjxLs0
モララーは一人ずつ、近場にあった死体を回りました。
花を手向けて、手を組んで。ほろりほろりと泣くのです。
やはりそうすぐには直るものではないのでしょう、死体に目を向けるのは、少々辛そうでした。
死神は鎌をしまうのもわすれて、ぼうっとその光景を見ていました。
特に、モララーの横顔を。
今まではただメソメソという感じだったのに、今はかすかに笑っているその横顔を。
モララーは最初に持っていた花束をすべておくと、また花束を作り始めました。
まさか今日中に全部回るつもりなのか、と死神が問うと、「そのつもり」と途方もない返答。
死神は少し気が遠くなりましたが、それでもモララーとならんで、ずっと着いて行きました。
――数時間後。
(,,゚−゚)「…これで最後?」
( ;∀;)「うん」
- 19 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2012/12/02(日) 19:53:28 ID:I9FOjxLs0
モララーはひざまずいて手を組み、涙を落としました。
何十回――いえ、百回をこえているにちがいないその行為には、一回目と変わらない真面目さがありました。
( う∀;)「…ん、終わり。死神、付き合ってくれてありがとうね」
(,,゚−゚)「別に…」
(。・∀∩)「……」
(,,゚−゚)「何だい?」
(。・∀∩)「手」
(,,゚−゚)「て?」
手がどうした、と死神は自分の手を見て仰天しました。
鎌をしまいわすれていたのを今更思い出したのです。
- 20 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2012/12/02(日) 19:54:09 ID:I9FOjxLs0
しかも片手で持てています。プルプルしていません。
死神の力を、うまく使って補えています。
(。・∀∩)「お前それ、」
(;゚−゚)「うん…な、なんか使えるようになってる…!」
(。・∀∩)「ええぇ…なぜにこのタイミング…」
もうそんなに自殺しなくなるだろうタイミングです。一足どころか二足も三足もおそいタイミングです。
死神は落胆しました。つくづく自分は間抜けだと、認めざるを得ません。
(。・∀∩)「なに落ち込んでんの」
(;゚−゚)「だってこんなさ…こんなのってさぁ…」
(。・∀∩)「いや…」
(。‐∀∩)「むしろ絶好のタイミングだと思うけどね、僕は」
(;゚−゚)「え?」
- 21 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2012/12/02(日) 19:55:01 ID:I9FOjxLs0
死神が聞き返したその直後、モララーはぱたりと地面に倒れました。
死神がおどろいてしゃがみ込み、顔を覗きますが、顔色は悪くありません。
はっきりと意識を持った目が見返してきているので、自分で倒れたのだとわかりました。
(;゚−゚)「…何してるんだい?」
(。・∀・)「…あのね」
流し忘れた涙が一滴、頬をながれ落ちました。
( ・∀・)「いまなら、いいよ。虐殺しても」
(;゚−゚)「!」
一瞬、死神はわが耳を疑いました。
( ・∀・)「言ってただろ。今が“もう少し”さ」
――心配しなくても、もう少ししたら虐殺されてやるよ。
その“もう少し”とはいつ来るんだと、自分がじれったく返したのを死神は思い出しました。
でも。
そんな急に。
.
- 22 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2012/12/02(日) 19:56:56 ID:I9FOjxLs0
( ・∀・)「僕を虐殺したいんだろ?
僕はやるべきことはもうやった。もう自分の生に執着する理由はないよ。
死がどういうものかはわかるけど、約束は約束だからね」
(,,゚−゚)「…っ」
死神は固まりました。声も出ません。
その間も本能は、殺せと囁いてきます。前よりいっそう声高に。
そうなのです。森がいっそう死の気配漂う装いなのですから、高ぶって当然なのです。
(,,゚−゚)(…何を、何を戸惑う必要があるっていうんだ)
(,,゚−゚)(モララーは僕のことを間抜け呼ばわりする泣き虫の馬鹿なんだ、無礼者だ)
(,,゚−゚)(急だろうがなんだろうがいいじゃないか、千載一遇のチャンスだろう)
(,,゚−゚)(……)
死神は呆けるように黙りこくりました。鎌を掴む手が、ぎしりと軋むように強張ります。
- 23 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2012/12/02(日) 19:57:53 ID:I9FOjxLs0
( ・∀・)
(,,゚−゚)
二人はしばらく、黙っていました。
モララーは完全に力を抜いています。隙だらけでした。
今なら、鎌も扱える死神なら殺すのなんて朝飯前でしょう。
(,, − )
ぐ、と手に力を入れて。
鎌を振り上げました。
モララーはあくまで穏やかな顔でそれを見ていました。
そして死神は、モララーの頭めがけて、鎌を一思いに振るいました――
( ‐∀‐)
- 24 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2012/12/02(日) 19:58:31 ID:I9FOjxLs0
( ‐∀‐)ザクッ
( ‐∀‐)
( ‐∀‐)
( ‐∀・)「…?」
鎌の先はモララーの頭から外れて、すぐ横の地面に刺さっていました。
まさか外したのか、とモララーは思いましたが、それにしてはあまりにきわきわの位置で。
わざと外したのだとモララーは直感しました。
( ・∀・)「……なん、」
(,, − )「君はつくづく馬鹿だね」
( ・∀・)
(,,゚−゚)「君が…言ったんじゃないか!」
- 25 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2012/12/02(日) 19:59:21 ID:I9FOjxLs0
間近に浮く死神の顔。燃えて揺らぐ紅い目が、モララーの目に映ります。
(,,゚−゚)「黙って虐殺される奴なんかいないんだろう?」
( ・∀・)「いやそれは」
(,,゚−゚)「僕のプライドをそうやって傷つけようったって、そうはいかないよ!」
(;・∀・)「そんなつもりは」
_,
(,,゚−゚)「うるさいね」
(;・∀・)「痛い! 耳を掴むなってば!」
手を払おうとするモララーに、死神は満足そうに頷きました。
(,*゚−゚)「そう、そういう反抗をしてくれないと意味ないだろう?」
耳から手を離すと、死神はひょいとモララーのそばからどきました。
いつの間にか、鎌はしまわれています。虐殺する気はもうないようでした。
(,,゚−゚)「今の君を虐殺しても意味がない。
…だから僕は死神として、君がまた生に執着するまで待つよ」
(;・∀・)「でも、そんないつ来るともわからないようなさぁ…」
(,,゚−゚)「それとね」
- 26 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2012/12/02(日) 20:00:06 ID:I9FOjxLs0
死神はふわりと地面に降り立つと、頬を少しだけべに色に染めました。
(,*゚−゚)「君のコーヒーとクッキーが、とてもおいしいからね。
…ねぇモララー、まだ何か理由がいるのかい?」
笑えないはずの死神が、笑ったような気がしました。
さぁ、と死神が手を差し出します。
――帰ろうよ、モララー。
――…うん。
.
- 27 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2012/12/02(日) 20:00:45 ID:I9FOjxLs0
ある郊外に、たいして広くもない森がありました。
くろぐろとした葉っぱに血痕のような薔薇が絡み付く、おどろおどろしい森です。
その森の中、これまたくろぐろとした小屋がひっそりと建っています。
そこには、泣き虫な少年とオッドアイの死神が、今でも住んでいて、仲良く――
(;・∀・)「グハァッ!? なにこのコーヒー辛っ! 死神お前何入れやがった!」
(,,゚−゚)「タバスコ」
――仲良くティータイムをしているということです。
おしまい。
.
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