■2012年芸術の秋ラノベ祭りのようです
└ξ゚听)ξこちら妖の便利屋兼退治屋のようです( ^ω^)
- 89 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/22(木) 04:02:19 ID:sc/F0tyI0
風が吹いていた。
金髪の少女の髪を揺らし、黒髪の少年の頭を撫で、過ぎ去っていく。
( ^ω^)「行くお」
ξ゚听)ξ「ええ」
金髪の少女は黒を基調とした、所謂ゴシックロリータの恰好をしている。
冷めた瞳と玲瓏な顔貌、金髪に、よく似合っていてまるで人形のようだった。
一方、ぽっちゃりした少年は、シンプルな黒の学生服に身を包んでいた。
鈍い金色のボタンだけが唯一おしゃれかもしれない。
二人はビルの屋上から飛び降りる。
――たんっ、と軽快な音を立てて、隣の屋上を少年は蹴った。その腕に少女を抱いたまま。
たんっ、たんっ、と音は続く。
幾つか飛び移った後、少年は壊れ物でも扱うかのように、優しく少女を降ろした。
ξ゚听)ξ「ん」
( ^ω^)「んーん」
ここら辺の筈だけど、と少年は呟いて辺りを見回す。
少女が肘で脇腹をつついた。
ξ゚听)ξ「あれ」
( ^ω^)「おっ」
(-@∀@)
キツい眼鏡をかけた、青年が居た。
一見普通に見える。が、普通ではない。
- 90 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/22(木) 04:03:12 ID:sc/F0tyI0
(-@∀@)「……おや、どうしたんです? ここは関係者以外立ち入り禁止ですよ」
だってこの屋上は、鍵がかかっているのだから。
ξ゚听)ξ「見つけたわ。あんたね」
( ^ω^)「観念するお。大人しくするなら痛くないお」
(-@∀@)
(-@∀@)「……なァんだァ。バレてたんだァ。
でもキミたち、誰さァ? 僕がわかるなんてェ」
ξ゚听)ξ「妖(あやかし)の便利屋兼退治屋」
(-@∀@)「ふゥん? かたっぽずつなら聞いたことあるけど、両方? へーえ」
ξ゚听)ξ「何がおかしいのよ」
(-@∀@)「だァってさ。珍しィのに聞いたことないもん。噂にならない、つまりさ、
――そォんな強くないんでしょォ?」
けたけたと眼鏡の男は笑う。
その身体から、黒いもやが湧きだしてきた。
( ^ω^)「乗っ取り系だおね」
ξ゚听)ξ「ブーン、やれるでしょ?」
( ^ω^)「勿論だお」
(-@∀@)「――けきゃきゃきゃきゃ!!」
奇妙な笑い声をあげながら、男が飛びかかる。
ブーンと呼ばれた少年が、それを両腕を交差させて受け止める。
くるくると男は回って距離を取った。
- 91 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/22(木) 04:04:44 ID:sc/F0tyI0
(-@∀@)「なーんだなんだ、意外とやるゥ」
( ^ω^)「最終通告だお。大人しく出てくなら、痛くしないお」
ξ゚听)ξ「……」フゥ
(-@∀@)「はン」
男は鼻で笑って、黒いもやを腕に纏わせる。
(-@∀@)「ばァか」
とん、と意外にも軽い音で男は空中に舞った。
ブーンは両腕を交差させたまま、一歩右足を引いた。
足のついた部分に、煙がかった白い光が発現する。それはブーンを取り巻くように、渦をなしていった。
鋭い風切り音と共に、男が黒を纏った腕を叩き付ける。
両腕で受け止めた。
受け止めたまま、左足をふんばり、右足を振り上げる。
(;-@∀@)「!? な、」
引こうとしても遅い。
光を纏った重い一撃が、脇腹にぶち当たった。
――吹っ飛ぶ。
( ^ω^)「……よっし」
( ∀ )「ぐっ……う」カラン
ξ゚听)ξ「ブーン、これ」
少女がブーンに人形を投げ渡す。顔も何もない、のっぺらとした小さなぬいぐるみだ。
それをブーンが男に近づけると、腕に纏わりついていた黒が、吸い込まれていく。
( ∀ )
( ∵)「!? えっええっえっ!?」
- 92 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/22(木) 04:06:06 ID:sc/F0tyI0
( ^ω^)「ツン、出来たお」
ξ゚听)ξ「ええ。お疲れ様」
ツンと呼ばれた少女がブーンに近づき、手を伸ばす。
ブーンも人形を持った手を伸ばし、二人の手が球のように合わさった。
音もなく、人形は丸い球の中に封じられた。
( ∵)「!! 〜〜〜!!」
人形は何か叫んでいるようだが、口も動かなければ表情も動かない。
というよりも、身体全体が透明なガラスにでも固められたように、動かない。
それはまるで、綺麗な円を描いた琥珀ようでもあった。
ξ゚听)ξ「これを渡せば依頼達成ね」
( ^ω^)「だおね」
- 93 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/22(木) 04:06:49 ID:sc/F0tyI0
ξ゚听)ξ「…………」トン、トン、トン
( ^ω^)「おっ、大丈夫だお、どこも変じゃないお」
ξ゚听)ξ「そんな訳にいかないでしょうが」
( ^ω^)「……んー」
ツンはブーンの関節や可動域に触れていた。
最後に胸元に手を当てる。甲に紋章のようなものが浮かび上がった。
ブーンが纏った光と同じものが溢れ、吸い込まれていった。
大丈夫ね、とツンは小さく呟いた。
ξ゚听)ξ「行きましょ」
( ^ω^)「うん」
彼と彼女は便利屋。
( ^ω^)「あ、そうだ」
( ∀ )「うー……ん。……あれ、ここ……どこ……?」
( ^ω^)「あのう」
( ∀ )そ「うっひゃい!?」
( ^ω^)「コンタクトの方がいいと思いますお。多分」
( ・∀・)「……へっ?」
そして、退治屋。
妖と人をつなぐ、一つの形。
.
- 94 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/22(木) 04:07:37 ID:sc/F0tyI0
ξ゚听)ξこちら妖の便利屋兼退治屋のようです( ^ω^)
.
- 95 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/22(木) 04:09:19 ID:sc/F0tyI0
- 繁華街の喫茶店の一席にて。
ツンとブーンは並んで座り、依頼人に説明をしていた。
ξ゚听)ξ「――という訳で、これがその妖です」
つ( ∵) シーン
(´・_ゝ・`)「ふむ、確かにそのようですね。では報酬を」
ξ゚听)ξ「ありがとうございます」
琥珀に閉じ込められた人形を渡し、代わりにツンは布製の袋を受け取る。
じゃらりと音がした。最初の予定よりも多いようだ、とツンは見当をつけた。
ξ゚听)ξ「少々多いようですが」
(´・_ゝ・`)「早かったですし、クーさんの紹介ですし。これからも何かあれば是非」
ξ゚听)ξ「そうですか。ではありがたく」
(´・_ゝ・`)「では、お先に」
依頼人が立ち上がり――そうだ、ともう一度座る。
ξ゚听)ξ「はい?」
(´・_ゝ・`)「ここらで人気のない所はありませんかね。
来る時も見つかりやしないかひやひやしてしまって」ヒソ
ξ゚听)ξ「それなら、二丁目の角から少し行った所が……」ヒソヒソ
(´・_ゝ・`)「どうも」
依頼人――妖が出て行って、ツンはテーブルのカフェオレに手をつけた。
まだ温かい。ぬるいのが嫌いなツンは、冷ましもせず一気に飲んだ。
- 96 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/22(木) 04:10:00 ID:sc/F0tyI0
ξ--)ξ=3「ふうっ」
( ^ω^)「お疲れ様だお、ツン。僕、何も言えなくてごめんお……」
ξ゚听)ξ「あんたが何を言うことあるのよ。あんた戦闘員でしょ」
( ^ω^)「そうだけど……あ、そうだツンの肩揉むお」
ξ゚听)ξ「いらない」
( ´ω`)ショブーン
ξ゚听)ξ「それより報酬確認したいわ」
ボックス席だが一応人目を伺い、ツンは報酬の袋を開けた。
青く半透明な石が、幾つかテーブルに零れる。
一つを光に透かし、じっと見詰めたツンは、一つ頷いた。
ξ゚听)ξ「いい石。これならいいもの作れそう」
( ^ω^)「それはよかったお」
にこにこ笑いながらブーンが石に触れる。ことりと音がした。
ξ--)ξ「……ほんと、暢気なんだから」ハァ
.
- 97 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/22(木) 04:12:27 ID:sc/F0tyI0
ツンこと津出・コトーハ・ツンは、ブーンと二人で学生業を全うしながら、便利屋兼退治屋を営んでいる。
その経営は、主に妖からの依頼で成り立っている。
今回は人間にバレたくないのに迷惑をかけまくっている者を捕まえてくれ、とという依頼だった。
妖故に、人の金を持っているものは少ない。
だが、ツンとブーンがこの稼業を営むのに、金銭はあまり関係なかった。
というのも、二人とも、実家は金持ちなのである。
それ以上に、二人には共通の目的があった。
――金だけでは達成できない、目的が。
.
川 ゚ -゚)「やあ」
( ^ω^)「クーじゃないかお」
高校からの帰り道、人気の少ないいつもの道で、二人に声をかける者があった。
クーという名の、小さな妖だ。膝程までの高さで、全体的に水色の身体をしている。
およそ毛と呼べる物はなかったが、ふんわり盛り上がった頭部がちょうど髪のように見えた。
ξ゚听)ξ「この前は紹介ありがとう。また依頼? 配達?」
川 ゚ -゚)「両方だな」
( ^ω^)「お? 僕らに手紙かお?」
クーは妖の運び屋である。
何でも運ぶが、主に配達しているのが手紙であるせいで、配達屋・手紙屋と呼ばれることの方が多い。
今日も身体の割には大きい、肩掛けのかばんを持っている。
川 ゚ -゚)「配達の途中なんだが、君たちを見つけてな。
終わったら話がしたいんだ。雑貨屋にでも来てくれ」
( ^ω^)「ツン、今日の予定は……」
ξ゚听)ξ「大丈夫よ。すぐ来る?」
川 ゚ -゚)「ああ。そんなに時間はかからないさ」
ξ゚听)ξ「じゃあ待ってるわ」
川 ゚ -゚)「頼んだ。じゃあな」
クーがその場で一回転すると、ふっとその姿が掻き消えた。
- 98 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/22(木) 04:14:00 ID:sc/F0tyI0
( ^ω^)「デルタさんの雑貨屋だおね」
ξ゚听)ξ「ついでに買い物するわ。収入もあったことだし」
( ^ω^)「僕も何か買うおー。……何かツンの好きなものとか」
ξ゚听)ξ「必要なものは経費で買うわよ」
( ´ω`)「……ツンのいじわる」
ξ゚听)ξつ< ゚ω゚)「ごめんなさいごめんなさい」
ギリギリ
ξ゚听)ξ「さて、いつもの空き地ね。開けて、ブーン」
( ^ω^)「任せるおー」
通学路を離れ、ビルとビルの隙間にある小さな空き地。
こじんまりとした社があって、何かが祀られていた。
ブーンはポケットから親指大の鍵を取り出す。息を吹きかけると、空中にそれを刺した。
途端、空間が歪み、扉が鍵の部分から揺らめいて現れ始めた。
その扉をくぐり抜けた先。
( "ゞ)「はーいこんにちわ☆皆のデルタお兄さんだよ(はーと」
きゅるん、と擬音付きでおっさんがキラッ☆ミをやっていた。
( ^ω^)「」
ξ゚听)ξ「」
- 99 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/22(木) 04:15:05 ID:sc/F0tyI0
( "ゞ)「今日は皆にお知らせがあるよ! 何と、何と何と! 特別大サービス!
来てくれたお客さんにはお兄さんのブロマイド!!」
( "ゞ)「新商品も入荷してるからね☆」
( "ゞ)「なーんちゃって。さぁ、今日も一日頑張って――」
( "ゞ)
( ^ω^)
ξ゚听)ξ
( "ゞ)「……いつから」
ξ゚听)ξ「……わりと最初から」
( "ゞ)
( "ゞ)「やあ、こんにちは。皆のデルタお兄さんだよー。いらっしゃい、ツン、ブーン」
( ^ω^)「そうだおね、こういう人だおね、デルタさん」
ξ゚听)ξ「もう何に納得してるのかも分からないわ」
- 136 名前: ◆v9sUzVr/7A[sage] 投稿日:2012/11/22(木) 19:55:53 ID:ruNBfO220
( "ゞ)「それで今日は何にする?」
ξ゚听)ξ「いいのあったら見せて。クーを待ってる間」
( "ゞ)「待ち合わせかー。ここは喫茶店じゃないんだけどなー」イジイジ
ξ゚听)ξ「おっさん止めろ」
( ^ω^)「止めてくれお、デルタさん」
( "ゞ)「おっさん言わない。あとブーンにまでつっこまれると何かショック」
雑貨屋デルタ。人と妖、どちらのものも置いてある、雑多な場所。妖と人の橋渡し的場所でもある。
店主はと言えば、変人(妖)と評判の妖である。
見た目は人だが、本人曰く本気を出すと目が変わるとのこと。
まあいいやとあっさり持ち直したデルタは、次々とカウンターに商品を出していく。
( "ゞ)「サロンのAA葦にー、ラウンジの半月に照らした春の夢、
ソーサク山の極楽鳥のパイロープとか、ショーセツ産の良質な天垂れ水銀もあるよ」
ξ゚听)ξ「うーん……」
- 100 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/22(木) 04:17:08 ID:sc/F0tyI0
ツンが商品を見比べて考えている間、ブーンは店内を歩き回る。
骨董屋のような、それでいて新しいものもあるような、そんな雰囲気がブーンは好きだった。
( ^ω^)「……お?」
ふと、ブーンの足が止まる。
古い木の棚に、細い鎖が掛けてあった。
特別目立っているわけではない。
細工は細かいが少々古いくらいで、木の中に溶け込んですら見える。
( ^ω^)(でも何か、綺麗だお)
( "ゞ)「いい所に目をつけたねー」
( ^ω^)「ふおっ!? いつの間に!」
( "ゞ)「ツン悩んでるんだもん」
( ^ω^)「もんとか止めてくれってば、デルタさん」
( "ゞ)「ショック。再び」
大げさに胸を押さえ、それからすぐにデルタは鎖を指さした。
つくづく立ち直りが早いとブーンは思う。
( "ゞ)「取ってみな。気になってるんだろう?」
( ^ω^)「お……」
言われた通りだった。
鎖を手に取ると、魚提灯の波紋に照らされて、きらりと光る。
- 101 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/22(木) 04:17:57 ID:sc/F0tyI0
( "ゞ)「どーだい、ツン」
ξ゚听)ξ「……ブーンにしては悪くないわ」
( ^ω^)「ふおおおっ!?」
( "ゞ)「じゃお買い上げってことで」
ξ゚听)ξ「は?」
( "ゞ)「手にとったしいいじゃないか」
ξ゚听)ξ「それが目的かおっさん」
( "ゞ)「だからお兄さんて言ってよ」
ξ゚听)ξ「あんたも単純な手に乗せられてんじゃないわよ」
(;^ω^)「ご、ごめんおツン。でも綺麗で」
まあまあ、と宥めるようにデルタが間に入る。
お前が言うなとばかりにツンが睨んだ。
( "ゞ)「でもま、縁てのはあるんだよ。そいつは、ブーンとツンに縁があった。
だからブーンを呼び止めたのさ」
( ^ω^)「縁……」
( "ゞ)「ツンもいいと思うもの、あの中にはなかったんだろう?」
ξ゚听)ξ「……まあ」
( "ゞ)「ものの声、って意味、ツンなら理解できるだろ」
ξ゚听)ξ「…………」
そういうことさ、とデルタは笑う。
( ^ω^)(ものの、声)
確かにツンなら分かるだろう、とブーンは思った。
ツンは、人形師だから。
つくる者だから、分かるのだろう、と。
- 102 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/22(木) 04:19:22 ID:sc/F0tyI0
川 ゚ -゚)「遅くなってすまない」
先日の報酬半分と適当な金で会計し終った時、クーがやって来た。
( ^ω^)「全然待ってないお」
( "ゞ)「そうそう、お陰でお買い物して貰ったしね」
ξ゚听)ξ「この悪徳商人」
川 ゚ -゚)「そうか……デルタに得をさせる気はなかったんだが。すまないな」
( "ゞ)「ねえ何で皆お兄さんに冷たいの?」
( ^ω^)「自業自得じゃないかお?」
( "ゞ)「ショック。三度」
デルタが大げさによろめいている間に、クーがカウンターに乗って荷物を置く。
クーの手が離れた瞬間、それは倍以上の大きさになった。
クーの大きさで運び屋をやっているのは、自分の大きさに物を変換できる、この能力の為だった。
川 ゚ -゚)「デルタ、受け取りにサイン」
( "ゞ)「はーい」
川 ゚ -゚)「では便利屋の二人。本題に入ろう」
ξ゚听)ξ「何かしら」
川 ゚ -゚)「最近、配達先で襲撃の話をよく聞く」
( ^ω^)「襲撃……?」
ξ゚听)ξ「物騒な話ね」
川 ゚ -゚)「そこで」
川 ゚ -゚)つ□「依頼書だ」
相変わらず端的すぎる、とツンは思いつつも、小さなサイズの手紙を受け取った。
しゅんと大きさを戻した手紙を開いて、ツンは眉を寄せる。
- 103 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/22(木) 04:20:17 ID:sc/F0tyI0
_,
ξ゚听)ξ「……高いわね、報酬」
( ^ω^)「……てことは、危ないのかお」
川 ゚ -゚)「だろうな。君たちならいけるだろう」
ξ゚听)ξ「簡単に言ってくれるわね。
どの被害者も切り裂かれて血を抜かれてる、なんて」
( "ゞ)「妖関連じゃわりと普通じゃないか?」
川 ゚ -゚)「だが飲んでるわけでもなく、儀式的なものも見つかってない。愉快犯なら尚、大変だ」
ξ゚听)ξ「……何で私たちなわけ?」
川 ゚ -゚)「君たちが優秀だからじゃないのか?」
ξ゚听)ξ「そんなに知れ渡ってるとは光栄ね?」
川 ゚ -゚)「ふむ。これは他の奴が零したことだが、……ああ、隠してたわけじゃないから睨むな」
クーは軽く肩を竦めると、二人を見上げて言った。
川 ゚ -゚)「妖力を感じない、んだとさ」
.
- 104 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/22(木) 04:22:19 ID:sc/F0tyI0
結局二人は、依頼を受けることにした。
依頼書を受け取った時点で契約は成立したようなものだし、報酬もよかった。
質のいい報酬――例えば妖力の塊だとか、その地方の妖の作る名産とか――があれば、
ツンの作る人形の材料になる。そして――二人の目的にも、通じるかもしれない。
ξ゚听)ξ「場所は街外れ、手口は食事に出かけた所を襲撃、ワンパターン。
なら網を張るわ。いいわね」
( ^ω^)「オッケーだお」
そんな会話がなされて数日後。
妖力が溜まると噂の廃工場で、獲物は掛かった。
.
- 105 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/22(木) 04:23:20 ID:sc/F0tyI0
「うわあああああ!!?」
ξ゚听)ξ「!」
( ^ω^)「ツン、先行くお!!」
ξ゚听)ξ「あ、ちょっと! ……もう!」
ブーンがやや太い体に似合わず、素早く走って行く。
あの猪突猛進は、とツンは呟いて後を追った。
今までの手口からして、被害者は一撃では殺されない。
……様子をみるべきではないか、とツンは思ったのだが、ブーンはそう言ってられないようだ。
(;’e’)「なな、何だよ! 何もしてないのに何で……!」
ブーンが廃工場に飛び込んだ瞬間、風を裂く音と動揺する男の声が聞こえた。
瓜゚∀゚)「何にも? ふふ、ふふ、なあんにも、ね」
(;’e’)「う、うあ、わわ」
( ^ω^)「やめるお!!」
瓜゚∀゚)「……あら?」
居たのは、妖と見える男と、妖力を感じない――人間の、女だった。
(;’e’)「ひっ、また……!」
( ^ω^)「逃げるお!」
(;’e’)「え、え?」
ξ゚听)ξ「いいから早く行きなさい」
巻き込まれても知らないんだから。
追いついたツンの言葉を聞いた途端、弾けるように男は逃げ出した。
入口まで行った所で、姿が消えた。この場は結界でも張られているようだ。
- 106 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/22(木) 04:24:00 ID:sc/F0tyI0
瓜゚∀゚)「……なに? 貴方たち、邪魔するの?」
( ^ω^)「そうだお。こんな酷いこと、もうさせないお」
瓜゚∀゚)「酷くなんてないでしょお? 妖相手だもの。貴方たちには関係ないこと」
( ^ω^)「なっ」
ξ゚听)ξ「便利屋なのよね、私たち。依頼だから関係あるの」
瓜゚∀゚)「……便利屋?」
女は首を傾げたかと思うと、表情を一気に硬くした。
瓜゚ー゚)「……人間の癖に? 妖を助けるっていうの? しかも便利屋?」
瓜゚∀゚)「ふざけないでよね!!」
ごう、と風が唸ってとぐろを巻いた。
――次の瞬間、風がブーンに向かう。
ブーンは腕に光を纏わせ、振り払った。
( ^ω^)「いっ……切れた!?」
ξ゚听)ξ「かまいたち。厄介な能力ね。ていうか気づきなさい」
(;^ω^)「うっ……面目ない」
瓜゚∀゚)「かまいたちなんて妖の名前で呼ばないでくれるう!?
ていうか、ほんと腹立つ! 人間の癖に!!」
風刃が二人を襲う。ブーンはツンを抱えて飛びずさった。
- 107 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/22(木) 04:25:06 ID:sc/F0tyI0
- かまいたち。妖の名でなければ、風による刃。
ツンが人形を作るように――それは、一種の能力だった。
( ^ω^)「何で妖を襲うんだお。何にもしてない妖まで!」
先ほどの男の言葉を思い出し、ブーンは叫ぶ。
ツンは実の所、興味はなかったが、動きが止まったのを見てそのままにした。
瓜゚ー゚)「妖なんてどいつもこいつも同じよ。
あたしの大切な人だって、何にもしてなかったのに、殺された。全身、血を抜かれてね」
瓜゚∀゚)「だから殺してやる。皆血を流せばいい」
( ^ω^)「それは八つ当たりだお。関係ない妖まで殺すのはおかしいお!」
瓜゚∀゚)「うるさいのよ」
風が女の身体を取り巻く。
ごうごうと音が鳴り――それは大きな竜巻を形作った。
ξ゚听)ξ(まずい、避けられない。問答なんかするんじゃなかった……!)
瓜゚∀゚)「おらああああ!!」
( ^ω^)「ツン!!」
女の叫びとブーンの叫びが重なる。
パイプや廃材が崩れる轟音と土煙。
.
- 108 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/22(木) 04:26:06 ID:sc/F0tyI0
瓜゚∀゚)「あー……殺しちゃったかな。人殺すのは初めてかあ。
……ん?」
女の目前に居たのは。
血を流しながら、ツンを抱えたブーン。
その腕は、作り物の骨格が露わになっていた。
( ^ω^)「ツンは、僕が守る」
そしてこれは正しく、血を吐くような心の叫びだった。
.
- 109 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/22(木) 04:27:32 ID:sc/F0tyI0
- 瓜゚∀゚)「……あんた、何それ」
だが女はそんなもの理解しない。しようとしない。
瓜゚∀゚)「何その腕。……はは、はははは、そう、そういうこと!」
ξ゚听)ξ「……何がおかしいのよ」
冷たくツンが問いかける。
女は激しく笑い続けた。
瓜゚∀゚)「あんた、人間じゃないんだ! 人間のふりした作り物なんだ!
――妖の仲間なんだ!!」
だから邪魔するんでしょ、と金切声が響く。
瓜゚∀゚)「化け物!!」
ξ )ξ
(;^ω^)「っ……ツ、」
ξ )ξ「ブーンは、ブーンよ」
僅かに声が震えているのを分かったのは、ブーンだけだった。
瓜゚∀゚)「はははははは!! じゃあ殺してもいいや!!
死になよ!! しになよ!!」
三度、風が渦巻く。
風を纏った腕が、真っ直ぐ向けられた。それは恐ろしい速度で二人に襲いかかるだろう。
( ^ω^)(絶対守る)
――思った瞬間には、もう、放たれていた。
.
- 110 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/22(木) 04:28:32 ID:sc/F0tyI0
* * * * *
全ての始まりは、あの幼い日だった。
.
- 111 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/22(木) 04:29:36 ID:sc/F0tyI0
小学校に上がる前のことだった。
私の父、津出・コトーハ・ワカッテマスに連れられて、大きな日本家屋に私はやって来た。
ハーフの父はこの国で結婚し、帰化していた。
父の家系は代々続く人形師であり、時に妖の依代となったりもしていた。
そして父はこの国である人物に出会い――その人形作りの技術を、より妖方面に特化させていた。
その人物の屋敷こそがここであった。
( <●><●>)「……つまり、ただのガラス玉こそが力を持つと」
( ФωФ)「そういうこともある、ということであるな」
この時の私は幼く、そんな事情も知らず、ただ退屈していた。
そして一人、当時も珍しかった和風の屋敷を探検し――疲れて、居眠りをした。
「……誰だお?」
そこで、出会ったのだ。
( ^ω^)A`)
ブーンと、ドクオに。
.
- 112 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/22(木) 04:30:39 ID:sc/F0tyI0
ξ゚听)ξ「……だれ?」
(;^ω^)「えっ!? ぶ、ブーンはブーンだお」
ξ゚听)ξ「その小っちゃいのは?」
Σ('A`)
( ^ω^)「こっちはドクオだお。妖だお」
ξ゚听)ξ「あやかし……」
ドクオは、紫の身体に細い手足――そういえば、クーの身体と似ていた。
父から妖の話は聞いていたが、ドクオは私が初めて出会った妖だった。
( ^ω^)「それで……きみは?」
ξ゚听)ξ「あ……わたし、ツン」
(*^ω^)「ツン……か、かわいい……名前、だお」
ξ*゚听)ξ「えっ……」
そしてブーンは、初めてそんなことを言った人だった。
.
- 113 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/22(木) 04:31:29 ID:sc/F0tyI0
ブーンの本名は内藤ホライゾンと言った。
だがそれを聞く頃には、すっかりブーンはブーンで馴染んでいた。
ブーンの両親は早くに亡くなっており、祖父である杉浦ロマネスクに引き取られたそうだ。
ロマネスクさんは人や物の魂を見たり、移動させたりする力を持っていた。
そのロマネクスさんこそが、父が教えを乞うた相手の一人であり、この屋敷の持ち主だと、後に知った。
('A( ^ω^)「ツン、どうしてここに居るんだお?」
ξ゚听)ξ「おとうさんが、連れてきたの。でも退屈だったから探検してたの」
('A( ^ω^)「探検! ブーンもまだ探検しきれてないお、一緒にいかないかお?」
ξ*゚听)ξ「いっしょ? ……うん、いいよ。ドクオは?」
Σ('A( ^ω^)「もう隠れなくったっていいじゃないかお……」
ξ゚听)ξ「……ドクオはわたしが嫌いなの?」
('A( ^ω^)「違うお、ドクオは怖がりなんだお」
('A`( ^ω^)
('A`)( ^ω^)
('A`)「……びっくりしたんだ。オレ、ドクオ。よろしく、ツン」
ξ゚ー゚)ξ「うん、よろしく」
ドクオはブーンの家に憑いている妖で、随分長いこと居るそうだ。
これも後に知ったこと。
私が、人形作りを父に教えて貰うようになってからのことだ。
――ドクオはその外見に似合わず、ブーンの家系に色々なことを教えてきたのだ。
魂を移動させる――今のブーンが使っているような、生命力を使う力も、ドクオの教えをアレンジした結果だった。
- 114 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/22(木) 04:32:09 ID:sc/F0tyI0
ξ゚听)ξ「あっ、池」
( ^ω^)「こいがいるんだお」
ξ゚听)ξ「ほんとだ!」
('A`)「ブーン、餌の時間じゃないの?」
( ^ω^)「あ、そうだったお! その為に来たんだったお!」
ξ゚ー゚)ξ「ブーンは、忘れっぽいね」
(;^ω^)「そっそれはツンに会ったから……!」
ξ゚ -゚)ξ「……わたしのせいなの?」
(;^ω^)「ち……ちがっう、お……」
ξ*゚听)ξ「よかった」
('A`)「……ブーン、もうそんな年になるんだね」
ξ゚听)ξ
( ^ω^)そ
(;'A`)
ξ*゚听)ξ
(*^ω^)
('∀`)
その日、私とブーンとドクオは、友達になった。
.
- 115 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/22(木) 04:33:17 ID:sc/F0tyI0
この頃のブーンは、小さかった。私より一つ下だったけど、それでもやっぱり小さかったと思う。
大きくなりだしたのは、小学校の中学年頃からだっただろうか。
ブーンの身体が大きくなってきた頃、私は既に、父から少しずつ教えを受けていた。
ブーンもドクオとロマネスクさんから教えを受け、私もまたそれを聞き、人形作りの練習をしていた。
妖を視たり、父の人形で迷う人の話を聞いて助けたり、そういったことにも触れていた。
ブーンも殆ど変らなかったようだ。
楽しかった。
優しいブーンは、成長しても変わらなかった。いつも、誰かを思い、私にも優しかった。
ドクオは、時々教えをくれて、普段は楽しそうに私たちと喋っていた。
やがてクーやデルタたちとも少しずつ親交をもつようになり――私の中で、妖は全く怖いものではなかった。
そしてそれが起こったのは、中学生になる直前だった。
.
- 116 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/22(木) 04:34:27 ID:sc/F0tyI0
( ω )
ξ;凵G)ξ「ブーン! ブーン!!」
(;'A`)「しっかりして、ブーン! ツン、落ち着いて!」
ξ;凵G)ξ「やだよ、ブーン、死なないで、やだ、やだあああ」
妖に、ブーンは大怪我を負わされた。
屋敷から帰る途中、困った振りをした妖に。
私を送ってくれていた、ブーンが。
私たちを喰らおうとしていた妖に。
私が、不用意に近づいたせいで。私をかばって。
(;'A`)「!! 危ない!」
ξ;凵G)ξ「!? ど……」
屋敷から、異変に気付いたドクオが来て、妖に致命傷を負わせた。
その最後の、仕返しの一撃。
またしても私は、かばわれた。
('A`;)「……二人とも、無事、だよね」
ξ;凵G)ξ「ドクオ……そんな……身体が!」
('∀`;)「大丈夫……オレは、簡単に消えたり出来ないから。
心配、しないで」
ξ;凵G)ξ「ドクオ……ブーン……やだよ!」
('∀`;)「……大丈夫。眠るだけ。
ツン、ブーンのこと……何とか、助けてやって、な……」
私の頭を撫でると――粒子状に、ドクオは消えていった。
残された私は、動揺した頭で必死に考えた。
ブーンを助けなきゃ。
私のせいだ。
助けなきゃ、助けなきゃ。
死なないで、お願い居なくならないで。
.
- 117 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/22(木) 04:35:38 ID:sc/F0tyI0
ξ;凵G)ξ「――っ!」
その時思い出した。
ξ*゚听)ξ『見て、初めて作ったの!!』
(*^ω^)『おお! 凄いお、これでツンは誰かを助けるんだおね!』
( )
私が作った『人形』が、ある。
ブーンに見せる為に持ってきた、人形。
( ^ω^)
(;^ω^)
(*^ω^)
ブーン。
大切な、大切な、ブーン。
大好きな、ブーン。
ξ )ξ
ξ 听)ξ「ブーン」
散歩から帰ってきたロマネスクさんが来た時には、もう終わっていた。
.
- 118 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/22(木) 04:36:23 ID:sc/F0tyI0
それから、ブーンは私を主人とした『人形』になった。
私がやったことは、死にかけのブーンの身体から魂を人形に移したこと。
人形は魂に合わせて性質を変える。姿も変える。
だから、見た目には何も変わらない。魂の、ブーンの年の認識によって年々成長すらする。
人格だって、勿論変わらない。
ただ、主従関係が、出来てしまった。
――そして彼には、魂の力を表に出す、戦闘力がついてしまった。
起動時、「ブーン」と呼びかけたが為に、彼はそれからずっと『ブーン』だ。
次に内藤ホライゾンに戻るのは、彼の本当の身体が癒え、戻った時だ。
( ^ω^)「ツン。助けてくれて、ありがとうだお」
私にそんなこと言って貰える資格はない。
( ^ω^)「ドクオのことは……お祖父ちゃんに聞いたお。
ドクオの性質に合った強い妖力を見つければ、目が覚めるかもしれないって」
じゃあ何としても見つけなきゃ。私のせいだ。
( ^ω^)「それに……ドクオなら、僕もどうにかできるかもしれないって」
ほんとう?
本当、なの?
それなら、必ず。
ドクオもブーンも、今度こそ本当に、私が助ける。
.
- 119 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/22(木) 04:37:04 ID:sc/F0tyI0
そう思っていても、現実はそうじゃなかった。
.
- 120 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/22(木) 04:37:54 ID:sc/F0tyI0
ブーンの本当の身体を維持する為の術式を維持する為の施設、お金、物品。
それらは大半を彼の祖父が出し、私の父が出してくれた。
そしてブーンと出来てしまった主従関係。
戦闘力のない私。
妖と交渉すれば危険は増える。必然的に、ブーンが戦うことになった。
私を守るとブーンは言う。
それは、主従関係のせいなんだろう。
彼の、優しさのせいなんだろう。
……私に出来るのは、彼のエネルギー源となり、メンテナンスをし――
便利屋兼退治屋として、人形に封じたりするだけ。
身体も人並み以上に動けるようになったし、少しの退魔くらいは何とかできる。
それでも、ブーンの力に頼らざるを得なかった。
ドクオの為に。
誰よりもブーンの為に、ブーンの力を、使う。
ξ゚听)ξ
涙は、あの瞬間までに搾り尽した。
私はそうして、進むしかない。
.
- 121 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/22(木) 04:38:42 ID:sc/F0tyI0
* * * * *
ツンは、初めて会った時から可愛い人だった。
ξ゚听)ξ
赤い可愛いワンピース。
金色の髪。
ぱっちりとした目。
ξ*゚听)ξ
一目惚れだったと思う。
でも、一緒に過ごす内、どんどんその内面に惹かれていった。
見た目以上に可愛らしくて、一生懸命で。
ちょっぴりわがままだけど、それすら可愛い。
盲目かなと一時期悩んだ程に、僕は彼女が好きだ。
.
- 122 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/22(木) 04:39:58 ID:sc/F0tyI0
ξ )ξ
僕が人形の身体で目覚めた時、ツンの表情は抜け落ちていた。
ξ )ξ「ごめんなさい。ごめんなさい、ブーン」
そして、謝った。
僕を助けてくれたのに。
どうしてだろうと思って、そしてすぐに辿り着いた。
彼女は、自分がドクオと僕を傷つけたと思っているのだ。
……確かにツンは妖に近づいた。
でもそれは、妖が困っているように見えたからだ。
優しい心からの出来事で、僕だって気付かなかった。
僕がこうなったのは、力もないのにツンを助けようとしたからだ。その結果だ。
だから感謝している。
ツンを助けられたこと。僕を助けてくれたこと。僕にたたかう力をくれたこと。
ツンはそれから、あまり笑わなくなった。
僕は前と変わらない態度でいた。そうすることで昔のように笑い合いたかった。
余計にツンを傷つけているのではと思い当った時、既に僕は態度を変えるなんて出来なかった。
そもそも、ツンに対する感情が変化していないのに、そんな真似が出来る程、僕は器用じゃない。
.
- 123 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/22(木) 04:40:38 ID:sc/F0tyI0
ξ゚听)ξ「……私、便利屋をやろうと思うの」
ドクオを戻す可能性を、全て試したい。
ツンはそう言った。
昔から思っていた。もしかしてツンは、ドクオのことが好きなんじゃないか、と。
それが証明されたようで、僕は少し辛かった。
でも僕だって、ドクオにもう一度会いたい。
元の身体にだって、出来るなら戻りたい。何よりも、それがツンを笑わせることになってくれるなら。
そして、僕は嬉しかった。
ツンを守れる。
ツンの力を借りなければならないから、どうしてもツンを危険にさらしてしまうけど。
危険からは、僕が守る。
必ず、守る。
大切な、大好きな女の子を、守る。
.
- 124 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/22(木) 04:41:26 ID:sc/F0tyI0
( ^ω^)「――守る!!」
.
- 125 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/22(木) 04:42:35 ID:sc/F0tyI0
ツンを後ろに押しやって、手を前にかざした。
.
- 126 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/22(木) 04:43:16 ID:sc/F0tyI0
ξ;゚听)ξ「ブーン!!」
ツンの叫びを聞いた瞬間。
――目の前に、青い壁が出来た。
.
- 127 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/22(木) 04:44:25 ID:sc/F0tyI0
瓜゚∀゚)「……は?」
( ^ω^)「……これは……」
胸元が光っている。ツンとの関係を示す、ブースターでもある紋章と――あの青い石。
ξ゚听)ξ『はい』
( ^ω^)『お? これ、この前の報酬と鎖?』
ξ゚听)ξ『ええ。加工してみたの』
(*^ω^)『おー。カッコいいお。ありがとだお、ツン』
ξ゚听)ξ『あんたが余計な物手にとるからよ』
( ^ω^)『すまんお。……あれ、ツンその腕輪もしかして』
ξ ゚)ξ『……余っただけ』
思い当った瞬間、僕は引きちぎるように石のペンダントを外し、前方にかざす。
細い鎖が石の周りに弧を描き、青い光を柔らかく纏う。
瓜;゚∀゚)「なっ……何よそれっ!」
女の人が次々に風刃を放って来る。
力を込めると、青い光が全てそれを防いでくれた。
.
- 128 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/22(木) 04:45:28 ID:sc/F0tyI0
瓜#゚∀゚)「何よ……何よ何よ何よ! あんたたちばっかり!!
化け物のくせに!! 死ねよ!!」
ξ )ξ「化け物じゃない」
ツンが、後ろから僕を抱えるようにだきついて来た。
腕輪と紋章が、光っている。
僕の胸元の紋章も、ペンダントも光っている。
青い光が溢れ出す。身体に力が満ちていく。
ξ )ξ「ブーンの命も好きにさせない」
ツンの腕輪が僕のペンダントの隣に浮く。
僕は前を見据えた。
ξ#゚听)ξ「あんたなんかに、私のブーンをくれてやるもんですか!!」
女の人の全力の風刃を、青い光が薙ぎ払った。
.
- 129 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/22(木) 04:47:05 ID:sc/F0tyI0
(*^ω^)♪
ξ゚听)ξ「苦労しただけあって、報酬はよかったわね。
……何にやついてるのよ」
(*^ω^)「んーん」
僕はここしばらく、最高に機嫌がいい。
ツンが言ってくれた。
『私のブーン』って。『私の』って!
……いや分かってる。多分、主従関係的な意味だ。
でも嬉しい。
ツンが、こういう形でわがままを発言するのは、本当に久しぶりだったから。
独占されているような気がして、もう堪らない。
ξ゚听)ξ「……まあいいけど」
あの後、気絶した女の人を拘束し、デルタさんに後処理を任せた。
正直、僕らにはこれ以上どうしようもない。
殺されないようにはしてあげるよ、とデルタさんは言ってくれた。料金は請求された。
きっと彼女は、何かの償いはすることになるんだろう。妖の規律に従って。
通学路の帰り道。
ふとツンが立ち止まった。
ξ゚听)ξ「ねぇ、ブーン」
( ^ω^)「ん?」
ξ゚听)ξ「……」
ξ--)ξ「……ううん、何でもない」
僕は、後ろを向いた。
ツンが今、何を考えているかは分からない。
でも、ツンが意地っ張りなことは知っている。
- 130 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/22(木) 04:48:42 ID:sc/F0tyI0
あれから、ツンは笑わなくなっただけじゃない。
泣きもしなくなった。
昔は僕の前では泣いてくれていた。
でも、今はきっと、誰の前でも泣いていない。一人でも。
ツンはきっと、泣いちゃうと、辛くなるから。
……それは多分に、僕のせいでもある。
知っているけど、僕にできることは、ツンを守ることだけ。
ツンは今、どんな顔をしてるだろう。
別に今、泣きたいわけじゃないと思う。
ただ。
ただ、何かを言おうとしている。
それを、待つ。
「ブーン」
静かな声だった。
「守ってくれてありがとう」
( ^ω^)「……僕はいつだって、ツンを守るお」
「…………」
( ^ω^)「僕は、ツンが、……ツンを、守りたいんだお」
好きだとは、言えない。
……今は、困らせる。
ツンが振り返った。いつもの顔だ。
ξ゚听)ξ「……じゃ、もっと強くなってよね」
( ^ω^)「ん。任せとけお」
.
- 131 名前: ◆v9sUzVr/7A[] 投稿日:2012/11/22(木) 04:49:34 ID:sc/F0tyI0
少し寒い、冬の昼下がり。
僕らは、並んで家まで帰る。
いつか、昔のような日々を取り戻そう。
いつか。
例え砕けても、想いを伝えられる日を、掴み取ろう。
大切な人を隣に、僕はそう、思う。
終
.
● 支援イラスト『ロリツン』 同スレ>>139より
● 支援イラスト『>>107・漫画化』 同スレ>>139より
● 支援イラスト 同スレ>>141より
長編化されました。→『ξ゚听)ξこちら妖の便利屋兼退治屋のようです( ^ω^)』
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