2012年芸術の秋ラノベ祭りのようです
秋の夜長のようです



267 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 23:24:27 ID:FN6HLAZc0





           秋の夜長のようです




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269 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 23:26:03 ID:FN6HLAZc0

 爪先の冷たさは、無意識の溜息にかき消された。

('、`*川「はぁーぁー……」

 静まり返ったリビング。
 日に日に寒さを増す霜月の夜、ペニサスはテーブルに頬杖をつきながら、
 一昨日の出来事を思い出す。


―  ―  ―  ―  ―  ―  ―  ―  ―  ―  ―

『ごめん、別れてくれないか。他に好きな人が出来たんだ』

―  ―  ―  ―  ―  ―  ―  ―  ―  ―  ―

270 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 23:27:48 ID:FN6HLAZc0

 最後の授業が終わり、放課後、
 付き合っていた男子生徒に呼び出された先に待っていたのは、
 実にあっさりとした別れの言葉。

 一瞬困惑したペニサスだったが、彼の眉をひそめた顔と低い声に押され、
 つい、「うん」という了承でもって返してしまった。


('、`*川(たった二ヶ月かあ)

 過ごした毎日を思い返して、また溜息を一つ。
 手を繋いでいた日々の終わりが、暮秋の末枯れた景色と重なる。


 向こうから『付き合ってくれないか』と言われたのは、
 まだ僅かに暑さが残る、九月の終わり頃。

 図書室での読書に集中している最中だった事と、
 自分が誰かと付き合う事はないだろうな、と思い続けていた事もあって、
 大いに驚いたのを今でも覚えている。

 ペニサスもその男子生徒の事は嫌いではなかった為、二つ返事で告白にOKを出した。

271 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 23:29:26 ID:FN6HLAZc0

 後で理由をそれとなく聞き出してみると、「物静かな雰囲気が気に入ったから」。

 ならばそのままでいようと、高校生活は今まで通りおとなしく、相手にも嫌われないように努めた。
 休日は誘われるがまま、連れられるがまま、町へ繰り出した。

 最初は向こうからの一方的な思いだったが、次第にペニサス自身の思いも募っていった。

 高校三年に上がる頃には、自他共に認める立派なカップルになっているかも知れない、と夢見ていた――
 が、それはまさしく幻想そのもので、十一月に入った頃から、徐々に関係は疎かなものとなり。

 そしてそのまま尻すぼみとなってしまい、彼氏彼女の関係は終局を迎える。


('、`*川(やっぱり私が原因かなあ……?)

 相手側に非は無いだろう、もしあるとするならばそれは自分だ。
 でも、何がいけなかったんだろう。自分がそのままでいたのが不味かったのか。

272 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 23:31:00 ID:FN6HLAZc0

 疑問は紐解けず、頭に巻きついたま離れない。
 両親と妹も寝静まり、あと三十分で日付も変わってしまうというのに、
 時が過ぎるのも忘れて悩み続けていた。


 秋は太陽の足も速く、夜はすぐに来るが、明けるまでの時間は長い。
 加えて空模様は変わりやすく、抜けるような青空になったと思えば、
 一日足らずで雲に覆い尽くされる。勿論、雨が降る事もある。

 そんな様は、昔からよく人の心にたとえられた。


('、`*川(今夜の空はどうなってるかな)

 椅子から立ち上がり、窓を開いて夜空を見つめる。

 周りに高い建物がほとんどないお陰で、星の粒が散りばめらた空が良く見えた。
 三日月も、都会のビルや電線から解き放たれて、のんびりと浮かんでいる。

273 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 23:32:35 ID:FN6HLAZc0

('、`*川(そういえば……)

 ペニサスは昔読んだ本の中に、月を鏡に見立てた詩があった事を思い出す。
 会いたい人が遠くにいる時は月を鏡にすればいい、というような詩だった筈だ。

 しかし、今夜は三日月。
 欠けた鏡には何が映るのだろうか。


('、`*川(寒い)

 ふいに入り込んだ木枯らしに身を震わせ、思わず窓を閉める。
 夜風のそよぐ音も、乾いた葉音も聞こえなくなった。
 身を翻し、月影に背を向ける。


 月の船には、二人は乗れない。船に乗った者は、真下にある深い淵を見る事は出来ない。
 手の届かない遠くへ行ってしまうのを、ただ見送るしかないのだ。


 また椅子に座り、左手で頬杖をつく。
 すると、がちゃん、と扉が開き、一人の少女が入ってきた。

275 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 23:34:48 ID:FN6HLAZc0

*(‘‘)*「……まだ起きてるの?」

('、`*川「うん、ちょっとね? ヘリカルは?」

*(‘‘)*「ふぁー……」

 入ってきたのは、妹のヘリカル。ペニサスと目を合わせた後、寝惚け眼で欠伸をし、目を擦った。
 流石に深夜は眠たいらしく、しきりに瞬きをしている。

('、`*川「どうしたの? またコーヒー?」

*(‘‘)*「コーヒー……ブルーマウンテンのニュークロップってやつ飲んでみたい……」

('、`*川「眠れなくなっても知らないよ、あとそんなものが家にある訳ないでしょ」

 ヘリカルは、はぁーい、と蚊が鳴くような声で返事をし、薬缶に水を注ぐ。
 そしてクッキングヒーターで温め始めると、
 棚からドリップパックを二つ取り出して、白いカップに乗せた。

276 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 23:36:06 ID:FN6HLAZc0

('、`*川「二つ?」

*(‘‘)*「あ……えっと、お姉ちゃんはいらない?」

('、`*川「じゃあ貰おうかな」

*(‘‘)*「分かった」

 普段はしっかりしているが、ときおり抜けた所を見せる。
 この事で良くからかっていた小学生時代の記憶が、にわかに蘇ってきた。


('、`*川「はぁー……」

*(‘‘)*「どうしたの?」

('、`*川「ちょっとね……」

277 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 23:38:23 ID:FN6HLAZc0

*(‘‘)*「もしかして振られた……?」

('、`*川「またストレートに来たね」

 オブラートに包めないものなのか。
 そう思いながら重い息を吐き、頬杖を右手に替える。

*(‘‘)*「やっぱりそうなんだ」

('、`*川「何で分かったの」

*(‘‘)*「勘……そんなに落ち込んでるって事は、そうかも知れないな、って……思っただけ……」

('、`*川「そう」

*(‘‘)*「うん……」

 妹に相談してみるのも良いかも知れない、と思い立ち、
 ペニサスは事の顛末をゆっくりと、包み隠さず話す。
 ヘリカルは椅子に座りながら、まだ冴えない頭のまま、話に耳を傾けていた。

278 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 23:39:44 ID:FN6HLAZc0

('、`*川「……で、こうなって……」

 丁度話が終わる頃にお湯が湧き、コーヒーが淹れられる。
 ヘリカルは湯気が立ち昇るカップをペニサスの前に置いて、自身も座った。

('、`*川「好きだねー、コーヒー」

*(‘‘)*「ジュースなんて、子供の飲み物だからー……」

('、`*川「あんたもまだまだ子供でしょーが」

*(‘‘)*「そうかもー……」

 やはり十分に頭が回ってないらしい。
 ミルクと砂糖を入れ、スプーンでかき混ぜる手の動きも、緩慢そのものだ。

 ペニサスはというと、コーヒーに手もつけず、どこか遠くを見るような目でぼうっとしていた。
 このまま夜の闇に溶け込んでしまえたら楽なのに、と感じながら。

279 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 23:41:21 ID:FN6HLAZc0



('、`*川「なんで振られたんだろ……」

*(‘‘)*「うーん」

 ヘリカルは軽く唸り、コーヒーをごくりと飲み込む。

('、`*川「分からない?」

*(‘‘)*「分かんない、けど」

('、`*川「けど?」

*(‘‘)*「……お姉ちゃんが消極的だからっていうのも、あるんじゃない?」

 痛い所を突かれ、言葉に詰まる。
 確かに今まで、ペニサスが自分から相手に対して何かを働きかけた事は、ほとんど無かった。

280 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 23:43:48 ID:FN6HLAZc0

('、`*川「それは……」

*(‘‘)*「当たってる?」

('、`*川「……かも」

*(‘‘)*「的中ー」

 ヘリカルがコーヒーを一口飲み、ふぅ、と息を吐く。

*(‘‘)*「でもさーその男子も、自分から付き合ってくれって言った癖に、
    消極的だからって理由で振っちゃうなんて、随分と自分勝手だよね」

('、`;川「うーん……」

 適当な言葉が見つからない。
 コーヒーを飲んで多少なりとも覚めてきたのか、ヘリカルは本来の調子で話し始める。
 効能だとしても少々早い気がしないでもないが。

281 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 23:45:19 ID:FN6HLAZc0

*(‘‘)*「お姉ちゃんはその人の事、どう思ってたの? 好きだったんだよね?」

('、`*川「最初はそうでもなかったけど……好き、だったと思う」

 頼もしい人で、いつも自分を引っ張ってくれる。自分を好いてくれている。
 いつしか好意だけではなく、羨望の眼差しすら向けるようになっていた。


*(‘‘)*「ふーん」

('、`*川「でもまあ、別れちゃった事は仕方ないのかな……」

*(‘‘)*「その男子もお姉ちゃんを手放すなんてもったいない事するよね」

('、`*川「そう? そうでもない気もするけど……」

*(‘‘)*「ほらもっと自分に自信を持とうよ! 次があるって!
    今日の淵は明日の瀬って言うし! ね?」

282 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 23:47:04 ID:FN6HLAZc0

 過ぎた事はしょうがない。次へ進もう。
 実にありふれた言葉だが、今の傷心には良い薬になるだろうな、とペニサスは思う。

('、`*川「何だかヘリカルの方がお姉ちゃんみたい」

*(‘‘)*「じゃあ今日一日は私がお姉ちゃんって事で」

('、`*川「もう十五分足らずで終わるけど」

*(‘‘)*「あ」

 気付けば、日が変わるまであと七分程度しかない。

*(‘‘)*「……もう寝る! じゃ、おやすみ!」

('、`*川「おやすみー……あと」

('、`*川(「今日の淵は明日の瀬」、じゃなくて「昨日の淵は今日の瀬」、の方が正しいからねー)

 心の中で訂正。

283 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 23:49:09 ID:FN6HLAZc0

 目の前のカップに手を当て、以前を振り返る。

('、`*川(コーヒー、ね)

 先月、付き合っていた男子生徒と一緒に、喫茶店でコーヒーを飲んだ事を思い出した。
 砂糖を多めに入れ、ミルクも入った、甘く暖かいコーヒーを。

 二人で一緒に飲んでいるだけで、身だけではなく心も温まっていた。


('、`*川(やっぱり……)

 誰かと二人で道を歩く為には、変わらないといけないのか。
 今まではありのままでいればいい、と思っていたが、そうでは駄目なのか。

 カップから昇る湯気を眺め、また思索にふける。

284 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 23:50:32 ID:FN6HLAZc0

 誰かと道を共にするのならば、必ず歩幅を意識しなければならない。
 自分が動かずにいれば取り残され、
 自分が先に進み過ぎれば相手を置き去りにしてしまうからだ。

 相手が、もしくは自分が止まっている事に気付けば、引っ張る事もあるかも知れない。
 しかし、それも長く続くとは限らない。

 連理の枝と言えるほど仲睦まじくはないのであれば、繋ぐ想いはいつしか枯れ、
 その場で朽ちていく。


('、`*川(じゃあ、これからどうすれば良いんだろう)


 積極的になれない事に、大した理由はなかった。

 自分から動くが故に、相手に鬱陶しく思われるのが怖い。
 相手に嫌われる事が怖い。でも、一人でいるのは嫌だ。

285 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 23:52:23 ID:FN6HLAZc0

 それだけだった。

 小さな温もりを求めてはいても、胸の奥に根付いた意味のない不安に蝕まれ、
 上手く足を動かせず。
 相手に嫌われる事で、自分の心にも傷が付く事を恐れていた。

 深さの分からない水面に足を踏み入れるには、相当な勇気を必要とするものだ。


 強さが欲しいな、と、ペニサスは思った。
 痛みを受け入れる強さが。
 自分の行動に自信を持てるようになる心が。

 自分一人で出来ないのならば、誰かの手を借りてでも。


('、`*川「……寒っ」

 夜が更けると共に、部屋も冷え込みもそれなりのものとなった。肌も粟立ち始める。
 ふと、目の前に置かれたカップを手に取ると、コーヒーの香りが鼻をくすぐった。

286 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 23:53:51 ID:FN6HLAZc0

 一口、飲み込む。
 ミルクも砂糖も入れていないが、今はこのままで飲みたい気分だった。

('、`*川(ふぅ)

 ほろ苦さと温かみが口に広がり、仄かなぬくもりが体に沁み渡る。
 何故だか、胸の奥に沈み込んでいたものも、溶けて消えていく気がした。

 時計テーブルの真ん中に置かれた、時計に目をやる。
 明日はもう目と鼻の先だ。


('、`*川(明日は……)

287 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 23:55:30 ID:FN6HLAZc0

 これからの私は、どうなっていくんだろう。
 明日の空は、どうなっているんだろう。

 今日とどこか変わっている所があるかな。
 もし変わっているのなら、それを受け入れていけるかな。

 いられると、良いな。


 根拠のない、安心感と期待感が入り混じった気持ちのまま、
 ペニサスはまた、コーヒーに口を付けた。





           秋の夜長のようです

               おわり




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支援イラスト 同スレ>>610より


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