■2012年芸術の秋ラノベ祭りのようです
└ξ゚听)ξ秋風のようです
- 238 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 11:52:06 ID:u/2Xswb20
今から話すのは、私とブーンの出会いの話。
懐かしくて、少しだけ恥ずかしい昔話。
秋の終わり頃のこと。
その日はなんとなく、本当になんとなく寝付けなかった。
どうしようかな、そう思って寝室を見に行ったのだけれど、
お母さんもお父さんもすうすうと寝息をたてていて。
仕方なくもう一度布団に入ろうとして、けれど、目はすっかり覚めてしまって。
だから、上着を羽織って星を見に行くことにしたんだ。
ξ゚听)ξ「いってきます」
二人を起こさないよう小さくそう言って、静かにドアを閉める。
夜の町はいつもと少しだけ違って見えて、まるで初めて訪れた地を探検するような、そんな心地。
上を見上げると星がきらきらと光って見えた。
どこへいこう。
少し外に出たくらいで家に戻る気はさらさらない。
もっと近くであの星に手を伸ばしたい。
そう思って、家から少しだけ離れた丘へ向かうことに決めた。
- 239 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 11:52:46 ID:u/2Xswb20
誰もいない町を歩く。
街灯に照らされ、踏切を渡り、並木道のゆるやかな坂を上って。
街灯は並木のあたりから少なくなって、
いつのまにか月と星の明かりだけが頼りになっていた。
ふう、と一つ。
息をついたらもうそこは、丘の上。
ξ゚听)ξ「あら?」
( ^ω^)
先客を見つけた。
私と同い年くらいの、星のような、男の子。
膝を立て、後ろに回した両手を地面に突っ張るようにして、夜空を見上げている。
厚手のグレーコート。
その隙間から見える、透き通るように白い肌。
夜風に揺れるさらさらな白髪。
思わず見入ってしまうその容姿に目を離せないでいると、
ふいに男の子が振り返って。
私ははっと息を呑んだ。
( ^ω^)「…お」
男の子の両の瞳は、淡い青色をしていた。
- 240 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 11:54:05 ID:u/2Xswb20
ξ゚听)ξ「綺麗な瞳ね。隣、いいかしら?」
こくりと頷いたのがわかったので、静かに腰を降ろした。
男の子と同じようにして、上を見上げる。
星は家の前で見たときよりもずっと輝いて見える。
どれくらい経っただろうか。
ふいに夜空に吸い込まれてしまいそうな気がして、気が付く。
一瞬だったかもしれないし、30分はそうしていたような気もする。
星のような男の子は、変わらず私の隣にいた。
ξ゚听)ξ「あの星、とても強く光ってるわ」
なんていうのかしら、小さく呟く。
( ^ω^)「フォーマルハウト」
じっと黙って星を見つめていた男の子が、口を開いた。
ξ゚听)ξ「フォーマルハウト……」
( ^ω^)「だお」
どうやら、そういう名前らしい。
初めて聞く言葉だ。
男の子の言葉は、止まらない。
( ^ω^)「秋の一つ星。地球から見て、16番目に明るい恒星だお」
ξ゚听)ξ「恒星?」
( ^ω^)「太陽みたいに、自分で光を出して輝く星のこと」
やっぱり、星みたいな男の子だ。
ξ゚听)ξ「詳しいのね」
男の子はその白髪をふるふると振った。
( ^ω^)「お父さんの受け売り。僕は、星が好きなだけだお」
ξ゚听)ξ「そうなんだ」
だから、こんな時間に(といっても時計を確認してないから
何時かはわからないんだけど)外に出ていたんだ。
- 241 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 11:56:34 ID:u/2Xswb20
そんなことを考えて、そろそろ帰らないとなぁ、なんて思う。
本当は、もう少しこの男の子と、話をしていたい。
でもお母さんとお父さんには心配をかけたくない。
ξ゚听)ξ「私、そろそろ帰らなくちゃ」
立ち上がる。
( ^ω^)「……お」
男の子は視線を星から私に移して、何か言いたそうに口をぱくぱくさせた。
( ^ω^)「おー…」
なかなか言葉にならない。
だから、私から先に言わせてもらうことにした。
ξ゚听)ξ「ねぇ、名前を教えて頂戴?」
( ^ω^)「……!」
男の子は驚いたように細い目を真ん丸く開いて、私をじっと見つめた。
ちょっと、恥ずかしい。
( ^ω^)「ブーン」
ξ゚听)ξ「えっと、それ…名前?」
ブーンはふるふると頭を振って、ニックネームだと言った。
( ^ω^)「本当は、内藤文哉。文章の文に哉で、ふみやって書くお」
( ^ω^)「弟が、僕の漢字を見てブンと読んで…
それからずっとブーンだお」
- 243 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 11:57:30 ID:u/2Xswb20
私はそれを聞いて、首を傾げた。
それじゃあブーンは、
ξ゚听)ξ「日本人なの?」
( ^ω^)「生粋の日本人だお」
驚いた。
てっきり、私と同じかと思っていたから。
そうなんだ、そう言って私も名前を言う。
ξ゚听)ξ「私は、ツン。そのまま片仮名で、ツン・エイリー」
ブーンはやっぱり、という顔で私を見ていた。
( ^ω^)「外人さんなんだお?」
ξ゚听)ξ「ええ、生まれは日本だけどね。父も母も、もちろん私もイギリス人」
私はくるくるに巻いてある髪を指で触りながら、答えた。
金色の柔らかい髪は、自分でも気に入っている。
ξ゚听)ξ「ブーンは、違うのね」
- 244 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 11:58:21 ID:u/2Xswb20
( ^ω^)「ツンは、アルビノって知ってるかお?」
ξ゚听)ξ「アルビノ…ホワイトライオンなら、聞いたことあるわ」
( ^ω^)「僕はそれの、人間版」
そう言うと、にっこりとした細い目が少しだけ悲しそうに垂れた。
ドキッとしたけれど、何も言えずに、ほんの少しの沈黙が流れて。
ぽつりと、アルビノがどんなものか教えてくれた。
ブーンの話はときどき難しい言葉が出てきて半分もよくわからなかった。
だけどきっと要するに、ブーンのような人のことだと思う。
そう、星のような人。
私にはそれで十分。
ξ゚听)ξ「楽しかったわ、ブーン。それじゃあ私は今度こそ帰らないと」
( ^ω^)「おやすみなさいだお、ツン」
ξ゚听)ξ「ええ、おやすみ」
くるり、背を向けて歩き出す。
ξ゚听)ξ(…あ)
大事なことを聞き忘れた。
二、三歩進んだところで足を止め、声をかける。
ξ゚听)ξ「明日もここにいるかしら?」
ブーンはまだこちらを見ていた。
( ^ω^)「いるおー」
それじゃあと駆け寄って、小指を差し出した。
ξ゚听)ξ「明日もまた、会いましょう?ほら、指切り」
( ^ω^)「おっおっ、約束だお」
その答えに満足して、それじゃあまた明日、と一言残し。
今度の今度こそ、その場を去った。
- 245 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 11:59:18 ID:u/2Xswb20
翌日。
ξ゚听)ξ「ツイてないわねぇ…」
昨日の真夜中のお散歩はなんともあっけなく、両親にばれた。
朝に玄関の鍵が開けっ放しだったこと、私の靴が脱いでそのままだったこと。
一番の失敗は、
ξ--)ξ「…まさかこんなに寝坊するなんて」
私が大寝坊をやらかしたことだった。
今日は日曜日。
本来なら7時に起きて家族全員で朝ごはんを食べる。
昼はお出かけし、夜は明日の支度をして、眠る。
そして私が起きたのは11時。
うわぁ、と思ってリビングへ行くと見つけたのは一枚の置き手紙で。
内容といえば昨日の夜何をしていたのかを問い詰める文、
起きてこないからお母さんとお父さんだけで出かけるという文、
そして。
ξ゚听)ξ『今日はお出かけ禁止。家でしっかり反省していなさい』
ξ゚听)ξ「…あーぁ」
これじゃあまた夜、あの丘に行くのは不可能だろう。
かといって、昨日の今日で約束を破るのも…。
考える。
少し、意地の悪い思考が、広がる。
ξ゚听)ξ(お父さんもお母さんもいないし、夕方までに帰れば大丈夫よね)
ブーンは多分、あの丘のすぐ近くに住んでいるはずだ。
昨日の口振りからしてたまたま居たというわけではないと思う。
探せば、今の時間でも見つかるはず。
ちらり、と時計に目をやる。
時刻は12時と少し。
お昼は遅い朝ごはんで済ませた。
ξ゚听)ξ「よし」
あの丘へ、行こう。
- 247 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 12:01:16 ID:u/2Xswb20
明るい町を進む。
まだ光っていない外灯は太陽に遠慮しているかのようで、面白い。
並木道を歩いていると日が差して、葉と葉の間がきらきらと光って見えた。
その様子はまるで、昼の星空のようで。
風が吹いた。
ξ*゚听)ξ「わ……」
橙や黄色に染まった葉が、目の前を舞う、舞う、舞う。
飛んでくる砂粒に目を閉じるのも忘れてしまうほど、それは、迫力があった。
ふいに、目の前が暗くなる。
「だーれだ」
聞き覚えのある声。
目隠しされた手は、冷たい。
そうか、今、探していた。
ξ゚听)ξ「ブーン!」
手を振り払って、そのまま後ろを振り向く。
( ^ω^)「おっおっ、正解だお」
昨日と同じ厚手のグレーコート。
同じぐらいの身長。
そこには、まだ夜じゃないお、と笑う白髪の男の子がいた。
- 248 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 12:02:00 ID:u/2Xswb20
ξ゚听)ξ「手、冷たいのね」
急に目隠しされたことに、ちょっぴり腹がたって意地悪く言う。
ブーンはそんなことを少しも気にしてない風に、笑う。
( ^ω^)「手が冷たいのは心が暖かいからなんだお?」
ξ゚听)ξ「そんなの、聞いたことないわ」
( ^ω^)「それじゃあまた一つ賢くなったおね」
そう言ってまた楽しそうに笑うブーンに、
なんとなく丸め込まれたような気がして、納得いかない。
けれど、それよりも気になるものがある。
ブーンの足元。
ξ゚听)ξ「それは何?」
( ^ω^)「ほうきと袋だお」
また一枚、桜の葉が舞う。
ブーンは私との間に来たその葉を片手で優しく掴む。
( ^ω^)「こうやって散った葉の、お掃除をするんだお」
掴んだ葉を袋にいれて、ほうきを持ち上げて見せた。
- 249 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 12:02:44 ID:u/2Xswb20
10分もしない内に、ブーンが持ってきた袋はいっぱいになっていた。
ξ゚听)ξ「全然減らないのね」
袋はいっぱいになったけれど、目の前の落ち葉に変化は見られない。
( ^ω^)「そういうもんだお」
そのいっぱいになった袋を担いで、ブーンは笑った。
( ^ω^)「さてと」
そう言って、歩き出す。
私はよくわからなくて、とりあえずその後ろへ着いていく。
( ^ω^)「本当は、」
道からそれて、並木の間へ。
がさりと音をたてつつ、伸び放題になった雑草をかきわける。
そこには、平らな石が並んで階段のようになっていた。
( ^ω^)「今日の夜に持っていこうと」
ふらふらしながら降りる私に、振り向いて手を差し出す。
( ^ω^)「思ってたんだけど、おっ」
降りた先にあったのは、それなりの広さがある空き地。
端にはいくつもの枝と、丸まった新聞紙、他にも色々置いてある。
ブーンはその枝を真ん中に集めて、ポケットから四角いライターを取り出した。
ξ゚听)ξ「…もしかして」
ぱっと駆け寄る。
( ^ω^)「そのもしか、だお」
丸まった新聞紙を開けた。
ころころとしたさつまいもが、二つ。
ブーンはそれをアルミでくるんで、集めた枝と葉の中へ埋め、そのライターで火を付けた。
火はあっというまに燃え上がって。
出来た焼き芋を手に、少し、話をした。
- 250 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 12:03:24 ID:u/2Xswb20
私はそこで、ブーンについて少しだけ知った。
弟くんの名前とか。
朝よりも、夜に外にいることの方が多いだとか。
その容姿が原因で、ブーンは友達がいないと思っていること、とか。
だから、私は、ずっと貼り付けた笑顔を浮かべるブーンに。
ただ、笑って言ったんだ。
「ブーンと私はもう、友達でしょう?」
- 251 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 12:04:06 ID:u/2Xswb20
銀杏が舞う空き地で。
ぱちぱちと音を立てる小枝と。
両手の中の焼き芋は。
しばらくの間。
確かに、私たちを、暖めていた。
- 252 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/24(土) 12:05:37 ID:u/2Xswb20
私の話は、これでおしまい。
これから何年経った今でも、ブーンは私の隣にいる。
心からの笑顔を、浮かべて。
ξ゚听)ξ秋風のようです
● 支援イラスト 同スレ>>676より
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