2012年芸術の秋ラノベ祭りのようです
100の季節のようです



2 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 23:11:46 ID:Fb5Bt6xIO




―――俺はとってもとっても幸せな生き物でした。




生まれた時から孤独だった。
父も母も兄弟も、仲間と言う存在も知らなかった。

知っていたのは普通じゃない色の肌と四つの耳。
持っていたのは普通じゃない鋭い爪と尖った角。
何もかもが人と違い過ぎて、悪魔だ化け物だとみんなに忌み嫌われていた。

見つからないように、殴られないように、追われないように。
身を小さくして森の中でこそこそと生きてきた。
ずっと、ずぅっとひとりぼっち。
死に絶えるその瞬間まで自分はひとりなのだと思っていた。

そう、あの日までは。

5 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 23:17:26 ID:Fb5Bt6xIO




『いっしょにおうちにかえるんですっ!』




そんな俺を、幼く優しいあなたが拾って幸せにしてくれたのです。

言葉をあまり知らない俺は、あなたと会話をする時いつも支離滅裂。
けれど、あなたは怒る事なく笑って言葉を教えてくれました。

歩みが覚束ない俺は、あなたと歩く時いつも転んでばかり。
けれど、あなたは呆れる事なく手を繋いでくれました。

暗い、暗い、ひとりぼっちの闇の中で生きてきた俺にとって、あなたは“月”になりました。
いつも俺が迷わないように道筋を照らしてくれたのです。

あなたに与えられるもの、あなたが差し出すもの、何もかもが初めてで、何もかもが新鮮でした。
けれど俺は与えられているばかり。
持っているのは人でない部分ばかり。
化け物の俺は、何年一緒に居ようともあなたをちっとも幸せに出来なかったのです。

7 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 00:35:06 ID:dw5gEafsO




―――悔しい、悲しい、申し訳ない。



日に日に罪悪感が胸の、心の底に降り積もっていきました。



―――ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。



はらはらと、さらさらと、堆く積み重なった後悔はいつしか隙間をなくしていったのです。
ぎちぎちと、ぎゅうぎゅうと、抱えきれなくなった苦しみは内側から心を裂き始めました。
亀裂から溢れ出した感情は濁流になって、簡単に俺を飲み込みました。



だから。



あなたと過ごし始めて99を数えた季節のある日、俺はあなたと別れる事を決めたのです。

8 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 01:02:06 ID:dw5gEafsO
決心から数日後。
月が真上に差し掛かった時間に、俺は住み慣れたあなたの城をそっと出ていきました。


( ;_ゝ;)「………」


ぽろり、ぽろりと涙が零れます。
一生懸命それを堪えながら、どうにか笑顔を作りました。
笑っているのが一番だといつもあなたに言われていたからです。


(  _ゝ )「…っ、……さよ、なら…っ、………ド」


どうにか喉を抉じ開けて別れの台詞を告げて、城を二度と見ないように背を向けました。

11 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 01:46:37 ID:dw5gEafsO
帰る場所などない俺は、昔住んでいた森を目指した。
記憶に残る微かな匂いを頼りにとぼとぼと歩き続けた。

夜を2つ過ごして、山を3つ越えて、ようやく見覚えのある寝床にしていた大きな木の穴にたどり着いた。
多少朽ちていたが、寝るだけなら支障はない。
昔も当たり前のようにそうしていたんだからまったく問題ない。

近くに生えてあった草を適当に集めて穴の奥へ敷き詰めると、歩き疲れた体を横たえた。
ふかふかのベッドも、暖かい毛布も、外気を遮る壁も当然ここにはない。
時折吹く夜風が直に肌に当たる。
背中にごつごつとした木肌が障る。
唯一着ていたローブをぎゅっと抱き締めた。

真っ暗闇の夜の森。
どこか遠くで獣の遠吠えが聞こえるだけで、人っ子一人いやしない。
唯一俺を見ているのは、唯一俺が見てるのは、切なくなるぐらい誰かに似ている真ん丸の白銀の月。
思い出が、蘇る。



今も、昔もやっぱりビロードは“月”だった。

14 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 02:23:19 ID:dw5gEafsO



…………――――

………―――

……――

…―

15 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 02:25:57 ID:dw5gEafsO
こんこんこん。
何かを叩く音がして飛び起きる。
森の獣がたまに迷い混んでくることがあるせいか物音には敏感だった。

穴の入り口を注意深く見つめていると、小さな影が近寄ってきた。
月明かりに照らされた姿は、小さな身体に、丈の合っていないローブを着て、布をかけたバスケットを下げていた。

それは、人間の子供だった。
少し長めの銀色の髪をふわふわと揺らして、赤い双眼でじぃっとこっちを見ている。

何で人がここにいる?
誰にも見つからないよう里からはだいぶ離れて暮らしていたのに。
得体の知れない子供に恐怖を抱きながらじりじりと後退した。
怯えている俺を知ってか知らずか、子供はいきなりこう言った。


(* ><)『僕はビロードっていうんです!』


――これからぼくといっしょにくらしてほしいんです!

16 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 02:37:59 ID:dw5gEafsO
当然意味を理解出来るはずがなかった。
忌み嫌われ、森に住むしかなかった俺と一緒に暮らしたいだなんて馬鹿げてる。

きっと、これは罠だ。
人々が新しく考えた迫害の仕方なんだと思った。
乗った瞬間に、何をされるかわからない。
逃げろ、逃げろと脳が身体に信号を送り続けていた。


( ∩_ゝ∩)『いやだ、にんげん、おれ、ばけもの、くるなって、ぶつ、やだ…やだ!』


ありったけの拒絶の言葉を並べた。
稚拙で、ただ単語の羅列で必死に抵抗した。
木の壁が背中に当たる。
それなりに広くても所詮木に空いた穴蔵だ、逃げ場所なんて限られているに決まってる。


(; ><)『ぼくはそんなひどいことしないんです!』


嘘だ。
どうせあいつらと同じで俺をいじめるんだ。
怖い、俺が何をしたっていうんだ。
化け物、だから。
それだけ。
それだけで。
ずっと、ずっと。


( ∩_ゝ∩)『……おれ、ずっとひとり……あっちいけって、する、みんな、おまえも、やだ…やだぁ…!』

(; ><)『だからそんなことしないんです…。君を迎えにきたんです。ええっと……』


がさごそと何かを漁る音がして。






(* ><)『これ、あげるんです!“りんご”おいしいですよ』


差し出されたのはつるりと赤い実。
それは初めて見た“りんご”という食べ物だった。

17 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 03:07:55 ID:dw5gEafsO
( ∩_ゝ;)『……?』


物を誰かにもらうのも初めてだった。
優しくされるのだって、初めてだった。

何だか胸の中心がぽかぽかした。
それが怖い人間相手からでも、やっぱり嬉しかったんだ。


(* ><)『これをたべるんです!ぼくはきみのともだちになりにきたんです!あんしんするんです!』


ともだちって友達?
あの、仲良くするやつのこと?
さっきから情報が多すぎて頭がパンクしそうだった。

そんなことはお構いなしに、ビロードは先にりんごを一口食べて見せた。
毒なんて入っていないから食べろと、無理矢理俺に手渡してくる。

見知らぬ実をまじまじと眺める。
美味しそうな甘い匂いに、口の中が唾液でいっぱいになった。
しばらく思案して、食欲に負けた俺は恐る恐るりんごなる実を頬張った。


( ´_ゝ`)『……っ!?』


初めて食べたりんごは、しゃりしゃりとしていて、とっても甘くて世界一美味しくて優しい味がした。

21 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 22:51:11 ID:dw5gEafsO
一心不乱にがぶりがぶり、気付けば丸ごとぺろりと平らげてしまった。


(* ><)『きにいってもらえてうれしいんです!』

(; ´_ゝ`)『…あっ!?…ぁ、あう…』

(* ><)『いいんです。きみにたべてほしくて、いっぱいもってきたんですから』


もっとあるからどうぞと、バスケットごとみっしり詰まったのりんごを差し出してきた。
さっき体験したばかりの美味しさが忘れられずにおずおずと手を伸ばす。

1つのつもりが3つ、3つのつもりが5つ。
ぱくりぱくりと咀嚼する内に、いつしかバスケットは空っぽになってしまった。

全部食べるつもりがなかったのに、どうしよう。
いっぱい食べていいとは言われたけれど、全部なんて言われてない。
ちゃんといくつかは残さないといけなかったのに。
あまりにもりんごが美味しかったからといって、やっていいことじゃない。
怒られる、殴られる、追われて、また棲み家を変えなきゃいけない。
痛い、悲しい、苦しい。


( ∩_ゝ∩)『…ぶ、たべ、たべた…ごめん、なさい…ごめ…なさ…』


昔を思い出してカタカタ震え縮こまる。
拙く謝る俺を、ビロードは笑って頭を撫でてくれた。

22 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 22:53:31 ID:dw5gEafsO
殴られなかったことにひどく驚いた。


(* ><)『きみはほんとうになきむしさんなんです!』


それだけじゃなく、そっと頬を撫でて涙を拭いてくれた。
別にいいんだと、大丈夫だと、粗相をした俺を許してくれた。
泣き止むまでずっと抱き締めていてくれた。
温かく、優しい、小さな身体で目一杯俺を包んでくれた。
その頃になるともう、ビロードが全く怖くなくなっていた。

23 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 22:55:34 ID:dw5gEafsO
ぴたりと涙が止まった頃を見計らってビロードの口が動いた。


( ><)『…あの…さっきのはなしなんですけど』


申し訳なさそうに話題を振るビロードにこっちが申し訳なくなった。


( ><)『…どうしても…きみといっしょにかえりたいんです』


化け物でもいいと、そう言ってくれている。


(; ><)『だめ、ですか?』


まだ、どうして俺を連れていきたいのか詳しい理由を聞いていない。
本当はいつもの人間みたいにひどい奴なのかもしれない。
騙されているかもしれない。

24 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 22:56:55 ID:dw5gEafsO



けれど。



初めて、化け物の俺にりんごをくれた。


初めて、化け物の俺の頭を撫でてくれた。


初めて、化け物の俺に温もりをくれた。


初めて、化け物の俺と“友達”になりたいと言ってくれた。



今まで誰もしてくれなかったのに。



ビロードだけが。



ビロードに、ついていきたい。



ビロードと、いたい。



俺は人じゃないのに。



そう強く想ってしまったんだ。

25 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 22:58:59 ID:dw5gEafsO



( ´_ゝ`)’


ぎこちなく頷いた俺を見て、ビロードが一瞬赤い目をきょとんと丸くした。


(* ><)『ほん…とに?ほんとなんです?』

( ´_ゝ`)”


再度、今度はさっきよりも力強く頷く。


( ´_ゝ`)『おれ…ともだち、なる?…ともだち…いいの?』


すると急にビロードが立ち上がり、俺を中心してぴょんぴょんと跳び跳ね始めた。


(* ><)『もちろんなんです!おねがいしますなんです!』


嬉しい、嬉しいと満面の笑みで。

26 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:00:40 ID:dw5gEafsO



(* ><)『あ!ぼくとしたことが、すっかりわすれちゃってたんです…』

( ´_ゝ`)?

(; ><)『きみのなまえ、きくのわすれてました…』


そんなことが大事だなんて変わってる。


( ´_ゝ`)『おれ…アニジャ…』

(* ><)『アニジャ!アニジャですか。ふふ、もうぜったいわすれないんです』


名前を呼ばれてまた、あのぽかぽかで胸いっぱいになる。
生まれて初めて、満たされていた。


(* ><)っ『アニジャ!さぁ、いっしょにおうちにかえるんですっ!』


差し出された右手、掴まれた左手。
誰かと手を繋いだのも、その時が初めてだった。
直に肌に触れた体温は、今までビロードがくれた中で一番温かかった。

27 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:03:59 ID:dw5gEafsO
一緒に歩き始めて、数歩。
一つ忘れていたことに気付く。


( ´_ゝ`)『……』

( ><)『どうしたんです?』


寝蔵にしていた大木を振り振り返る。


( ´_ゝ`)ノシ『……さよ、なら』

空いた右手を振る。


―――今までで、ありがとう。


大木に背を向け歩き始める。
風がふわりと吹いて、枝がゆっくりと揺れる音がした。
生い茂る葉っぱのその向こう、空に浮かぶ満月が淡く二つの影をくっつける。


それは、ビロードの髪のように綺麗な銀色の月だった。

28 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:06:40 ID:dw5gEafsO

…………――――

………―――

……――

…―

29 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:08:24 ID:dw5gEafsO



思い出さなければよかった。



幸せの欠片が、血だらけの心にまた傷を作る。
止めたはずの涙が、またぽたりぽたりとローブに染みていった。
99の季節を一緒にいたから。
片時も離れず一緒にいたから。

寂しさを誤魔化す術を忘れてしまった。
直接寂しさに踏みにじられて、ばらばらになってしまいそうになる。
誰も助けてくれない。
たったひとりぼっち。
これからは、ずぅっとひとりぼっちのままだ。


歪んだ視界の先、月がにっこりと微笑んだ気がした。


―――誰も聞いてないよ。



―――誰も見ていないよ。



そう、唆された気がした。

30 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:11:29 ID:dw5gEafsO



だから、誰にも聞かれないようにそっと呟いた。


( ;_ゝ;)「……ずっ、…ずっと、…一緒にいたい」


けれど、違う。
こんな軽い言葉ではない。
こんな当たり前の言葉ではない。
本当は、違う。
もっと言いたくてたまらなかった言葉がある。

胸に閉じ込めておけるほど小さな想いではなく。
頭の中でいつまでもまとわりついて離れなかった言葉。
飲み込んで無視したかった言葉。
臆病だったから、99の季節の内で一度も言えなかった言葉。


( ;_ゝ;)「…死ぬ、俺が死ぬその日まで……ビロードの側にいさせてもらいたい……」


重い、重い、想い。


一生、出ていきたくなかった。
一生、離れたくなかった。

温かな手を、柔らかな気持ちを、差し伸べてくれた人。
大好きで、愛しくて、かけがえのない人。

何も返せないとわかっていたけれど。
側にいれば困らせてしまうと知っていたけれど。
身勝手な我儘だと自覚していたけれど。
化け物なのに、一生側に寄り添いたい。


そう望んでいた。

31 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:12:41 ID:dw5gEafsO
苦しい想いが溢れていくのを、鋭い爪は受け止められず。
卑しい心があなたを必要として叫ぶのを、4つの耳はただ聴いていた。

何も出来ない、怪物。
欲しがってばかりの、盗人。
誰かを幸せするになんて到底無理な、出来損ない。


( ∩_ゝ∩)「ほんとは、ビロードの、…そばで、死にたい…死んでいきたかった……」


溜まって、落ちて、流れて、止めどなく嗚咽が零れた。
身体を震わせ、膝を抱えてだだっ子のように泣きじゃくった。
誰もいない静かな森に俺の無様な泣き声だけが響いていく。
見ているのはビロードのような月だけ。



優しく、残酷な、月だけだった。

32 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:14:37 ID:dw5gEafsO
一日、二日、時が立つに連れてじわじわと心が締め付けられてくる。
吐き出した言葉は辺りに散らばり、闇となって襲ってきた。
何度も月と目が合うたび、焦燥が募る。
薄汚れたローブは乾く暇がなくいつもの涙で濡れていた。
帰ることばかり考えてばかりの頭を抱えて蹲り、駆け出しそうな足を突っ張って、どうにか日々を耐え忍ぶ。



側にいたい。
あなたに似てるけど欠けてる、違う。


会いたい。
似てきた、少し丸くなってきた。


帰れない。
まあるい、まあるい、お月様。
あなただ。


捨ててきただろう。
あなたに手が届かない。


会いたい。


帰りたい。


どうしたら。



全部、忘れられる?

33 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:17:42 ID:dw5gEafsO



(∩ _ゝ )「…………」



―どくん。


――どくん。


―――どくん。



伏せた4つの耳に聞こえたのは。



命の巡る音。

34 名前:この次微グロ注意です[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:19:34 ID:dw5gEafsO



(∩ _ゝ゚)「…………?」



この音を止めたら。



ビロードを。


幸せだった季節を。


忘れられる?




――――どくん!







気づいた時には己の牙を手首の一番太い血管に当てていた。

35 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:21:14 ID:dw5gEafsO
痛みはまったくない。
あったところでやめるつもりはないのだけれど。
とにかくいなくなりたかった。

牙を引き抜くのと同時、びちゃりと溢れ出た鮮紅。
噴き出した血でローブがみるみる赤黒く汚れていく。
傷が浅い気がしてまた咬み付き、薄い皮膚ごと肉を千切る。
ずるりとはみ出した柔らかな白と桃色のものを毟り取る。
一層深く牙を押し込めると、ごりごりと硬い骨が削れる音した。

何度も、何度も、何度も、何度も繰り返す。
感覚が消えて、手首らしきものがぼろぼろになるまで死を求めた。
辺り一面に生臭い匂いが立ち込める。
地面に出来た異様な色の水溜まりに、ぴちゃんとまた一滴赤い雫が落ちた。
口いっぱいに鉄の味。
それは死にたがりの味だった。

36 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:21:58 ID:dw5gEafsO



狂っている。



もっと狂いたい。



だってほら。



( ;_ゝ;)「……ビロード…に、会いたい……」


結局何も変わらない。
忘れられていない。
これくらいじゃ足りない。
もっと壊さないと忘れるなんて大業は果たせないんだ。
一際強く、まだ無傷の腕に咬み付こうと口を開けた。
瞬間。





―――やめるんです!!!!!






空気を震わせるほどの大きな怒鳴り声がした。

37 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:24:17 ID:dw5gEafsO
開いた口をそのままに、声がした方を慌てて見れば、入り口の穴付近に黒い影が立っていた。
逆光で顔が見えない。
誰だろう。
この森には人っ子一人いやしないはずなのに。
俺以外に誰もいるはずがないのに。

恐怖と混乱で呆然としていた俺は、近づいてくる影が誰なのかすぐには理解出来なかった。
理解が及ぶ前に、強い力で手首と顎が捕らえられて身動きが出来なくなった。

それは、よく知っている小さな小さな手のひらだった。
懐かしい、優しい体温が血で滑る皮膚の上を撫でる。
さらさらと白銀の糸が頬にかかって。
見上げたその先にあったのは。



( ><)「……やっと、見つけたんです」



渇望していた光でした。

38 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:27:53 ID:dw5gEafsO



(; ´_ゝ`)「……び、ろーど?」

(# ><)「…アニジャ…ずっと…探してたんです」


激しい怒気を孕ませたビロードがそこにいました。
いつもとは違う地を這うような低い声で俺を呼びます。
手のひらを血に染めて、白い頬を真っ赤に上気させて、ふるふると華奢な肩が震えていました。
彼が俺に怒った事など一度もなくて、混乱がより一層強くなりました。
皮膚に食い込む指が怒りの印。

ビロードがその気になればこの辺り一帯が簡単に消し飛ぶことを知っています。
国一つを消したことも知っています。
俺も消される、そう思いました。



―――怖い、怒らせてしまった、嫌われてしまった。



( ´_ゝ;)「……び、ろ」



―――大好きなビロードに、嫌われてしまった。



( ;_ゝ;)「………ご、ごめ…っ…」


消されることは構わないのです。
さっきまで自ら消えようとしていたのだから抵抗する気はありません。
ただ、ビロードに嫌われてしまったことが怖かったのです。

39 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:29:25 ID:dw5gEafsO
たった一人、化け物の俺を認めてくれた人。
嫌われたくなくて逃げたのに。
突き放されたくなくていなくなったのに。
間違っていなかったはずなのに。

どうして探していたの?
どうして怒っているの?
存在していること自体が、ビロードの怒りになっているんだろうか?

考えても悩んでもちっとも答えは出ませんでした。
聞きたくとも、口を開くだけで嫌悪を加速させてしまいそうでこれ以上何も言えないのです。
身じろぎ一つ出来ずに、ただただビロードを見つめていました。


(# ><)「ごめん、じゃないんです!バカアニジャ!」



どんっ、と少し重い衝撃。
抱き締められ、一層近くなった焦り声が四つの耳を揺らしました。

どうして俺は抱き締めてられているんだろう。
小さな、小さな、腕の中。
閉じ込められた檻は、酷く柔らかくて。
痛いくらいの幸福感に満ち溢れていた。

40 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:32:13 ID:dw5gEafsO



( ><)「勝手にいなくなるなんて、許さないんです!」



怒っているはずのその声はとても優しくて、耳がおかしくなったんだと思いました。


( 。><)「…勝手にこんな大怪我までして、許さないんです!」


背中を叩かれているはずなのにさすり宥められているみたいで、身体がおかしくなったんだと思いました。



ねぇ、ビロード。



これは、きっと幻なんでしょう?



死にかけが見る最後の幸せな夢。



今際の際まで醒めて欲しくないと願いました。
まぶたをぎゅっと閉じてしまう。
耳をぎゅっと伏せてしまう。
密着するビロードの身体を必死に押しました。

41 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:33:05 ID:dw5gEafsO



早く離して。



―――ビロード、離して。



あまり強く抱き締められたら世界が割れてしまう。
決心が鈍ってしまう。
もう、困らせたくない。
幸せにしてあげられない。



―――離して、ビロード。



あの時みたいに、無知を利用して優しさに縋りついてしまいそうになってしまうから。
初めてあった時のように。



―――ともだち…いいの?



そう愚かにも縋ってしまいそうなるから。
嫌だ、ビロード、お願いだから。


( 。><)「そんなの、許さないんです」


なのに心からの懇願は、強い拒絶の言葉に遮られてしまうのです。

43 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:34:43 ID:dw5gEafsO
抱き締める腕の力が尚更強くなりました。
薄い布越しにビロードの鼓動が心地よく響いて。
身動ぎする隙間もないほど、俺はビロードは側にいました。


( 。> ;)「…僕から離れるなんて、絶対許さないんです」


掠れた声が鼓膜に絡みいて。
落ちた涙が毛皮を濡らして。


( ; ;)「アニジャはずっと友達なんです!」


バキバキと奥底の闇に大きなひびが入る音が、ビロードの言葉に合わせてしていました。







( ;Д;)「僕が死ぬ日までは側から離れちゃダメなんです!!!」







それはまるで獣の咆哮でした。

44 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:37:06 ID:dw5gEafsO
ビロードの嗚咽に共鳴して、ひびだらけの壁は崩壊しました。
止めようとした想いが音を立ててどこまでも溢れていきます。
もう些末な抵抗で止めるなんて、押さえるなんて出来そうもありませんでした。

大人しくビロードの胸に身体を預けて、初めて出会ったの時のように泣きじゃくりました。
99の季節をくるり巡って、ずっと溜め込んできた想いの欠片を底から全て運び流すように。


( ∩_ゝ;)「…うち、にぃ…帰りたいよ…ビロード…」


少しでもビロードに知ってほしいくて。


( ∩_ゝ∩)「…ビロードと、い、たい!…ずっといっしょに、いっ、しょにいたいよ…っ!」


出会ってからずっとずっと抱えていたのは、ビロードが叫んでくれた想いと同じなんだとわかってほしくて。


( ∩_ゝ∩)「し、…ぬまでっ、っ…いたい…いた、い!…びろ、と……いっしょがい、いい……んだっ…」


しがみついてがむしゃらに泣き喚きました。
ビロードはいつものように、ふわりと優しい手のひらで頭と頬を撫でてくれました。
ビロードの温かい手を取ったあの日から、何もかもが決まっていたんだと思います。




(* ><)っ『いっしょにおうちにかえるんですっ!』




俺の運命は、常に月と一緒にあったのですから。

45 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:42:08 ID:dw5gEafsO



…………――――

………―――

……――

…―

53 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/27(火) 01:10:19 ID:UUkf6emAO
あれから俺はまたビロードの城で暮らし始めました。
傷付けた手は、ビロードが普段人に秘密にしている不思議な呪文で跡ひとつなく元通りになりました。
二度とするなと念を押しされたけれど、もうそんな機会は生涯くるはずがないのです。

出ていく前と変わらず、ビロードの側に俺がいました。
変化があったと言えば、自分が化け物だからと卑下しない努力を始めました。
少しずつではあるけれど“信じること”が出来るようになりました。
ビロードが楽しいと思うこと、したいこと、幸せになれること。
今までと同じにしていても、きちんとビロードの言葉を真実だと思えるようになったのです。



(* ><)「おーい、アニジャー!」



今日も。



(* ><)「美味しいりんごが取れたんです!おやつにするんです!」



明日も。



(* ´_ゝ`)「りんご!?本当か!?」



明後日も。



(* ´_ゝ`)「わかった!今いく!」



これからもずっと。



この幸せが尽きることはないのでしょう。





もうすぐ、ビロードと出会ってから100回目の季節が訪れます。

47 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/26(月) 23:44:13 ID:dw5gEafsO






100の季節のようです





おしまい



支援イラスト 同スレ>>57より


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