o川*゚ー゚)oは残像のようです ―2016 Remastered―

第五話 ふりむいた君の輝き

174 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/08/23(火) 21:05:00 ID:G9CJR.d6

( -∀-)「I feel レモンスカッシュ感覚〜♪」

イヤホンから流れてくる曲に合わせて口ずさむ。
昨日買ってきたお気に入りのバンドのアルバムだ。
真夏の午後の部屋は暑いけど、それを苦に思わないくらい気分は良かった。

( ‐∀‐)「例えばラブ例えばポップ第六感でときめいて〜♪」

ポップとロックの両立したメロディーと青春を感じさせる歌詞。
それを彩るギターのリフと力強いドラムが心地いい。
自然と口ずさむ声も大きくなっていく。

( ‐∀‐)「一生消えぬ感覚〜ふりむいた君の輝き〜♪」

サビの最後のファルセットも完璧に出た。
今度カラオケに行ったら歌ってみよう。
そんな風に思った、まさにそのとき。ふと視線を感じて、目を開いた。

o川*^ー^)o「モララーって結構歌上手いんだねー」

( ・∀・)

(*・∀・)

(* ∀ )「い、い、いつからいたんだああああああ!!!」

いつの間にか部屋のドアの前で、キュートがにやつきながら立っていた。

175 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/08/23(火) 21:08:27 ID:G9CJR.d6
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o川*゚ー゚)oは残像のようです ―2016 Remastered―

第五話 ふりむいた君の輝き













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177 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/08/23(火) 21:15:03 ID:G9CJR.d6

(* ∀ )「ノックぐらいしろよおおおおおお!」

o川*゚ぺ)o「しましたー! でも全然開けてくれませんでしたー!」

(*・∀・)「だからって勝手に部屋に入ってくるなああああああ!」

唇をとがらせて、不満を口にするキュート。
確かに、大音量で音楽に聞き入っていた僕にも非はある。
だからといって、勝手に入ってくるのはいささか非常識じゃないか。

o川*゚ぺ)o「勝手じゃないよ! 居間にいたお母さんに聞いたら
       『あらあら、彼女なんだから遠慮しないで入ればいいじゃない』
       って言ってたもん!」

(* ∀ )「無視か! 僕の意思は完全に無視か!
        ていうか、キュートは彼女じゃないだろ!!」

自分の方が正しいと言わんばかりの主張だけど、とんでもない。
一体、母さんは何を考えてそんなことを言ったんだろう。
母さんの言うことをすんなり聞き入れるキュートもキュートだけど。

o川*゚ー゚)o「どうせ否定しても信じてくれないし、じゃあお言葉に甘えちゃおうかなって」

(* ∀ )「そういう問題じゃないだろおおおお!」

178 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/08/23(火) 21:20:21 ID:G9CJR.d6

テスト勉強での一件以来、どうも調子が狂っていた。
キュートとの仲についての話を、いままでのようにあしらえずにいた。
だけど、そんな僕の苦労を知ってか知らずか、キュートの反応はいままでと変わりない。

o川*^ー^)o「顔赤いよ、もしかして照れてるのー?」

(*・∀・)「あ、暑いからだよ! 何か用があって来たんだろ……早く言えよ」

相変わらずニヤニヤしながら僕を茶化してくる。
このままじゃ暑さと恥ずかしさで身が持たない。
頭をフル回転させて、できるだけ自然に話題を変える。

o川*゚д゚)o「ねえねえ、海行こうよ! 海水浴!」

( ・∀・)「……いつ?」

o川*゚д゚)o「いま!」

実に楽しそうにキュートは提案する。 だけど、荷物は見た限りでは小さな鞄ひとつだけ。
とても海水浴に行く準備が整っているようには思えない。
それよりも、さらに大きな問題が存在する。

(;・∀・)「ここから最寄りの海まで電車で二時間かかるんだぞ……
        海水浴場にいたっては三時間だ」

いまは午後三時を回ったところ。
これから海に向かえば着くころには夕方で、帰りは夜になる可能性もある。
いくら日が長いとはいえ、海で泳ぐなんて到底無理だ。

179 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/08/23(火) 21:25:10 ID:G9CJR.d6

o川;゚ー゚)o「ありゃ、そうなの?」

(;・∀・)「そんなことも知らずに誘ってきたのか……?」

o川;゚ー゚)o「だって……あんまりこの辺のこと、知らないし……」

数ヶ月の付き合いで、キュートについて分かったことがいくつかある。
そのうちのひとつが、十代の女の子のわりに、かなり世間知らずだということ。
VIP高校まで通ってきてるくらいだから、地理くらいは分かっていると思っていたのだけど。

o川;゚ー゚)o「うーん……もうお母さんに海行ってくるって言っちゃったし……」

予定変更を余儀なくされ、体育座りで頭を抱えて唸り始めるキュート。
白地のタンクトップと、デニムのショートパンツは海で遊ぶための服装だったんだろう。
それからひとしきり悩んだあと、決心したような表情でキュートは顔を上げた。

o川;゚д゚)o「やっぱり海に行こう!」

(;・∀・)「だから海までは……」

o川;゚ー゚)o「海水浴じゃなくてもいいから、ね!?」

キュートはそう言うと、顔の前で手をパン、と合わせて話を続ける。

180 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/08/23(火) 21:29:53 ID:G9CJR.d6

o川;゚ー゚)o「モララーといっしょに海に行きたいの!」

(;・∀・)「……っ」

そのひと言は、僕の心を大きく揺さぶった。
揺さぶって、いともたやすく崩した。

(;-∀-)「ああ……わかったよ」

o川*゚ー゚)o「ホント!?」

念を入れて確認するように、キュートが僕の目の前まで寄ってくる。
間近に迫ってきた顔があの日の記憶と重なり、思わず視線を逸らす。

(;-∀-)「僕の負けだ……行くよ」

o川*^ー^)o「やったー!!! ありがと!!」

嬉しくて仕方ないといった様子のキュートは、僕の肩を掴んで一層距離を詰めてくる。
気持ちは分かるけど、これじゃいつまでも正面を見れない。
気を紛らわすために、これからどうするか考えてみても、何も思いつかなかった。

181 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/08/23(火) 21:34:59 ID:G9CJR.d6

まあ、何をするかは行く途中でも考えられる。
もしも、何も思いつかなくても、行ってみれば何かあるかもしれない。

o川*^ー^)o「よーっし、それじゃあいますぐいっくぞー!!!
          ほら、モララー早く支度して! 40秒ね!」

(;・∀・)「いろいろ持ってくべきものがあるんです! そんなすぐには無理です!」

それに、キュートといっしょなら、楽しくないはずがないと思えた。

〜〜〜〜〜〜

182 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/08/23(火) 21:40:26 ID:G9CJR.d6

o川;´д`)o「あーつーいー、とーけーちゃーうー……」

(;・∀・)「口に出すなよ、余計暑くなるだろ……」

うだるような暑さの中、僕たちは駅に向かって歩いていた。
正午を過ぎたとはいえ、真夏の日差しは無慈悲なほどに強い。
太陽の眩しさに目を細めながら見つめる景色には、陽炎が立ちのぼっていた。

o川;´д`)o「ねー、駅まだー?」

(;・∀・)「このペースだと……あと五分くらいかな」

駅までの道のりは、まだ半分ほど残っている。
普段なら歩いて行くのも億劫ではないはずの距離。
だけど、いまは何倍にも引き延ばされたように思えるほど、遠い。

o川;´д`)o「もーダメ、限界! ごめんモララー!」

キュートがそう言うと、ぬるい風が吹いてその姿が消えた。
そして、次に僕が彼女を見たのは、陽炎の向こうだった。

(;・∀・)「あっ、ずるいぞ自分だけ!」

暑さのせいなのか、いつもより遅い気がする。
それでも置いていかれるから、早く追いかけようと僕も走りだした。

183 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/08/23(火) 21:45:33 ID:G9CJR.d6

o川;´д`)o「はひー……着いたぁ……冷房……じゃなくて電車どこー?」

(; ∀ )(やばい……死ぬ……)

走りだしたキュートに釣られて走った結果、駅には早く着いた。
だけど、その代償として僕は命の危機に瀕していた。
よくよく考えれば、キュートが疲れ切っているんだから、僕が無事で済むわけがない。

o川;´д`)o「モララー、キューちゃん電車全然乗らないから案内……」

(; ∀ )(それより水分……助け……)

もはや声を出すことすら辛く、なんとか口の動きでキュートに伝えようと試みてみる。

o川;´д`)o「おっけぇ……」

気付いてくれたらしく、キュートはふらふらと自販機へ向かっていった。
戻って来たその手には、ふたつのペットボトルが握られている。

o川;´д`)o「開けられる?」

(; ∀ )(なん……とか……)

ペットボトルを受け取って、残された力を振り絞ってふたを開ける。
喉を鳴らして一気に飲み干すと、体の中を冷たさが駆け抜けていくような感覚がした。

184 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/08/23(火) 21:49:55 ID:G9CJR.d6

(;・∀・)「ぶっはあ!!! 死ぬかと思った!!!」

声が出る元気も戻り、天を仰いで思いきり叫んだ。
視線の先では、僕の命を奪おうとした憎き宿敵が燦然と輝いていた。

o川;゚ー゚)o「よかったぁ……」

横でペットボトルに口を付けながら、キュートが安心したように言う。
どうも、傍から見ても相当まずい様子だったらしい。

(#・∀・)「チクショウ太陽め、もうお前なんか知るかっ!! 行くぞキュート!!」

o川;゚д゚)o「なんかさっきとは違う意味で変だよ!?」

地面に置いた鞄を乱暴に掴んで、ずかずかと駅へと向かう。
後ろから聞こえる心配そうなキュートの声も気にも留めなかった。
電車の中で我に帰って、夏の日差しとは違う顔の熱さを覚えたのは、言うまでもない。

〜〜〜〜〜〜

185 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/08/23(火) 21:55:49 ID:G9CJR.d6

電車に揺られて二時間、すっかり僕の顔も冷めたころ。
窓の外の景色から、町並みは消え去った。
その代わりに広がっているのは、

o川*゚ー゚)o「見て見てー! 海だよ、海!」

(;・∀・)「窓から体出すな! 危ないだろ!」

どこまでも続く青空と、淡い橙色を帯び始めた太陽。
そして、空の色をそのまま映した海と、白い砂浜だった。

o川*゚ー゚)o「すごいねー! きれいだねー!」

キュートは小さな子どものように、座席に膝立ちになって窓の外を眺めている。
こんな時間に海へ向かう人なんていないのか、車内は僕たちだけだった。
そうじゃなきゃ首根っこを掴んででもやめさせているところだ。

o川*゚д゚)o「反応薄いぞー、海に失礼だぞー!」

(;・∀・)「どんな礼儀だよ……わー、うみだー」

小さな子どものようなのは、どうやら中身もらしい。
その証拠とでも言わんばかりに、海を見つめる瞳はきらきらと輝いている。
瞳の色と相まって、まるで夜の海に星が浮かんでいるようにも見えた。

186 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/08/23(火) 22:00:13 ID:G9CJR.d6

「次はVIPヶ浜〜、VIPヶ浜〜。お出口は〜左側です」

独特のイントネーションのアナウンスが、もうすぐ駅に着くことを知らせる。
それを聞くなりキュートは席からぴょん、と降りてドアの前へ小走りで駆けていく。
ころころと変わる表情はどれも楽しそうで、見ていて飽きない。

「VIPヶ浜〜、VIPヶ浜〜」

o川*゚ー゚)o「置いてっちゃうよー!」

キュートはドアが開くと、我先に、とホームへ飛び出した。
そして、振り返って僕に早く来いと催促してくる。

( -∀-)「はいはい……よっと」

僕も軽くジャンプしてホームへ降り立つ。
すぐ後ろでドアが閉まる音がして、電車が走り出す。

o川*^ー^)o「れっつごー! 海が待ってるぅー!!」

(;・∀・)「おわっ!?」

187 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/08/23(火) 22:05:21 ID:G9CJR.d6

電車と競走でも始めるかのようなタイミングで、キュートが僕の手を掴んで走りだした。
軽く繋いだだけでも、手の小ささと柔らかさが伝わってくる。

o川*゚ー゚)o「改札にとうちゃーく……モララー顔赤いよ、だいじょぶ?」

(*・∀・)「こ、こんな暑さの中で走らせるからだろ……」

尋ねられたけど、とりあえずそういうことにしておいた。
キュートはそれ以上は追及はしてこず、僕たちはそのまま改札をくぐっていった。

o川*゚ー゚)o「これが潮の匂いってやつかー!」

外に出ると、キュートが両手をいっぱいに広げて深呼吸をしてみせた。
駅の前にコンビニが一軒あるだけで、周りに建物はひとつもない。
大多数はもう少し先の海水浴場へ行っているのか、人ひとりすらいなかった。

o川*゚д゚)o「貸切だー! プライベートビーチだー!」

はしゃぐキュートは残像を残し、道路の向こう側へ広がる海へと駆けていった。
と、思いきや道路から砂浜へ降りる階段の前で止まると、普通に降りていく。

( ・∀・)「ぷっ……階段は普通に降りるんだ」

思わず吹き出しながら、僕もキュートの背中を追いかけて海へと向かった。

188 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/08/23(火) 22:09:52 ID:G9CJR.d6

少し遅れて砂浜へと降りると、不思議な光景が目に飛び込んできた。

o川;゚д゚)o「あつっ! あっ! あちっ! 」

キュートが残像を残しながら、砂浜を右往左往していた。
あちこちで砂が宙へ舞い上がっている。

o川;゚д゚)o「あちっ! モラっ! たすっ! けっ! てっ!」

(*;∀;)「はっはははっはっは!!! 何やってんだよ!!!」

その様子がおかしくて、声を張り上げて笑う。
今度は吹き出すなんてレベルじゃない、大爆笑だ。

o川;゚д゚)o「海っ! 入ろうとっ! 思って靴っ! 脱いだらあつっ!」

(*;∀;)「はははっ、さっさと海、ははっ、入れ……はははっはっははは!!!」

海に入れと教えようとして、こらえ切れずに声を上げてまた笑う。
笑いすぎてお腹が痛いし、涙が出てくる。
海にこんな楽しみ方があったなんて驚きだ。

o川;´ー`)o「ふいー……生き返るぅー」

波打ち際でくたびれた顔をしているキュートに感謝しよう。
涙をぬぐって砂浜の真ん中へと歩きながら、そう思った。

189 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/08/23(火) 22:15:04 ID:G9CJR.d6

適当に平らな場所を見繕って、鞄からビニールシートを取り出して敷く。
小さいころに遠足とかに持っていった物だけど、ふたりで使うには問題ない大きさだ。
飛ばないようにそこらの流木を四隅に置くと、鞄をその上へ放り投げた。

( ・∀・)「これでよし……と」

o川*゚ー゚)o「ねー! 早くこっち来なよー!」

呼ばれるがままに振り返ると、キュートが波打ち際でぱちゃぱちゃと水を跳ねあげていた。
手に持ったままの靴や鞄のことなんてお構いなしに、海を満喫している。
とりあえずサンダルに履き替えて、キュートの元まで歩いていく。

( ・∀・)「とりあえず荷物置いてこい。濡れても知らないぞ」

o川;゚ー゚)o「だいじょーぶだy……ひゃっ!?」

そう言った途端、キュートは靴を片方地面に落としてしまった。
拾い上げようとかがんだ目の前で、靴はむなしく波にさらわれてしまう。

o川*;д;)o「あーん、じゃりじゃりのべちゃべちゃ……」

(;・∀・)「何がだいじょーぶ、だよ……」

指先でつまみ上げた靴のつま先からは、海水が止まることなく滴り落ちている。

190 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/08/23(火) 22:20:27 ID:G9CJR.d6

o川*;д;)o「えーい、こうなったらやけくそだー!」

(;・∀・)「ちょっ、おまっ!!」

キュートはそう言って鞄を僕に押し付けると、濡れた靴を履いて海へ入っていく。
そして、ふくらはぎくらいまでの深さのところで、なにやら叫びながら海水を蹴りあげ始めた。

o川*;д;)o「海のばかやろー! あれお気に入りだったのにー!」

(;・∀・)「だったらなんでそんなの履いてきたんだよ……」

シートにキュートの鞄を置きながら、その光景を眺める。
晴れ渡った空に大きな入道雲。夕方の到来を予感させる色で、太陽は海を照らしている。
そして、まっさらなキャンバスのように白い砂浜の向こうで、叫ぶキュート。

(;・∀・)「ものすごいシュールだな……」

キュートさえいなければ、一枚の絵画のような風景だ。
いるにしても、せめて笑顔で真ん中にでも立っていればいいのに。

(;・∀・)「人はいないけど……一応止めてくるか」

ジーパンの裾を膝までまくり上げて、再びキュートの元へと向かった。

191 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/08/23(火) 22:24:54 ID:G9CJR.d6

o川;゚ー゚)o「はあ……はあ……まいったか」

(;・∀・)「誰がどうみてもキュートの負けだろ……」

疲れたのか気が済んだか、キュートはやつあたりをやめた。
頬をつたう玉のような汗が、日差しできらりと光っている。

o川*゚ー゚)o「今日はこれくらいで勘弁してあげるっ!」

( ・∀・)「まあ、そこまでして頭冷やせ。それっ」

o川;゚д゚)o「んにゃあっ!」

海水を少しだけすくって、キュートの腕にかけた。
突然の刺激に、派手に水しぶきをあげてキュートは飛び上がる。

o川*゚ー゚)o「やったなー! このっこの!」

(;・∀・)「ちょっ、そこまでやってないだろ! こんのっ!」

o川*゚ー゚)o「キューちゃんの服を透けさせようとした罪は重いのっ!」

(;-∀・)「いって! 目に入った!」

キュートは海水を思いきり蹴り上げて、何倍返しとも分からない反撃をしてきた。
サンダルが脱げてしまう可能性のある僕は、手で少しずつかけるしかない。戦力の差は歴然だ。

192 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/08/23(火) 22:30:10 ID:G9CJR.d6

o川*^ー^)o「やーいやーい、ジャッジメントだー!」

(;・∀・)「似たようなこと出来るからって……こんにゃろ!」

多少濡れるのを覚悟で、僕は渾身の反撃に出た。
その場でかがみ込んで、腕を深く海の中へ突っ込む。
そして、いっぱいに海水をすくい上げ、キュートめがけて腕を振り抜いた。

o川;゚д゚)o「なにぃっ!?」

完全に調子に乗っていたキュートは、避けるタイミングを逃した。
服が透けるほどじゃないけど、海水でべとべとにはなるだろう。いい気味だ。
しかし、僕のそんな思考を読んだかのようにキュートは言い放った。

o川*゚ー゚)o「モララーは、いつからキューちゃんが海じゃ速く動けないと思ってたの?」

(;・∀・)「なん……だと……?」

海水のカーテンが、淡いオレンジ色にきらめいてキュートを覆う。
それが取り払われた瞬間、キュートの姿ははるか彼方にあった。
はるか彼方の、ここよりもずっと深いところに。

193 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/08/23(火) 22:33:04 ID:G9CJR.d6

o川*゚д゚)o「ふははは! 見誤ったなモラr」

その言葉を最後に水しぶきが上がって、キュートの姿は見えなくなった。

(;-∀-)「どうみても見誤ったのはお前だろ……」

平泳ぎで懸命に戻ってくる光景は、滑稽を通り越してもはや哀れだ。
岸に泳ぎ着いたキュートは、息を切らして僕の元へ歩いてくる。
体力自慢のキュートといえど、さすがに着衣水泳はきついものがあるらしい。

o川*;д;)o「あぇぇ……」

(;・∀・)「聞くけど、着替えは……?」

o川*;д;)o「水着だけぇぇぇ……」

(;-∀-)「だろうね……」

海水浴に、普通の服の着替えを持っていく人はそうそういないだろう。
どうするか考えながら、とりあえずシートのところまでキュートを連れていく。

194 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/08/23(火) 22:36:19 ID:G9CJR.d6

(;・∀・)「一応、体拭けよ。服はあきらめろ」

o川*;д;)o「あぅぅ……」

タオルを放り投げて渡しても、放心状態なのか反応がない。
いつまでも幽霊のように手を前に突き出して、半泣きでよわよわしい声を出すばかりだ。
ふたつ結びの髪と、指の先からぽたぽたと雫が垂れていく。

(;-∀-)「……ったく、いくら夏でも風邪ひくぞ」

o川;゚ー゚)o「!!!???」

頭にかかったままのタオルで、キュートの頭を拭いてやる。
どうやって拭けばいいのか分からないので、優しく押し当てて水気を取っていく。
キュートは驚いたような顔をして手を頭に伸ばしかけたけど、すぐに下ろした。

o川* д )o「あっ……」

( ・∀・)「動くなよ、すぐ終わるから」

ほんの少し、キュートの頭がうなだれて体が離れていく。
それを追いかけるように動き、今度は離されないよう少しだけ手に力を込める。

195 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/08/23(火) 22:39:20 ID:G9CJR.d6

( ・∀・)「ほら、終わったぞ。さすがに体は自分で拭いてくれよ」

o川*゚ー゚)o「あ……うん」

あとはキュートに任せて、鞄の中からもう一枚タオルを取り出す。
キュートほどではないけど、僕の体も拭かないといけない程度に濡れていた。

(;・∀・)「まいったな、この時間で乾くかな……」

僕を背後から照らす太陽は、青かった空を、橙と薄紫に染め始めている。
あとどのくらいで沈んでしまうのだろう。そう思い、再び海の方へ振り向いた。

o川* д )o「……」

太陽よりも、タオルを頭にかけて呆けているキュートが先に目に入った。
なぜかさっきまで僕がしていたように、手を頭に置いている。

(;・∀・)「……何やってんの?」

o川;゚ー゚)o「ふぇっ!? い、いやっ、別になんでもない!」

はっとしたように、慌ててタオルで体を拭き始める。
夕日のせいか、その顔はほんのり赤く染まって見えた。

197 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/08/23(火) 22:42:08 ID:G9CJR.d6

( ・∀・)「変なやつ……そうだ、服のことなんだけど」

o川;゚ー゚)o「う、うんっ!」

( ・∀・)「この時間じゃ乾きそうもないし、体も冷えるから着替えよう」

o川;゚ー゚)o「え……でもキューちゃん着替えなんて……」

がしがしと体をこすっていた手がぴたり、と止まる。
ひと息ついて、キュートの疑問の答えを口にした。

( ・∀・)「僕の着替えだよ。大きいだろうけど、ベルト貸せばなんとか着られるだろ。
      その下に水着を着ればなんとかなりそうだし」

o川*゚ー゚)o「……モララーだって濡れてるのに?」

( ・∀・)「僕はいいって。だいたい、そんな格好で……」

言いながらキュートのいまの有様を見てみる。
胸元に透けて見える水色に自然と目が行ってしまい、慌てて目を逸らした。

(* ∀ )「そ、そんな格好でいられても……」

o川*゚ー゚)o「ん、どうしたの?」

キュートはさっきまでの僕の視線を追うように胸元を見る。
そこでようやく気付いたらしく、慌てて胸を覆い隠した。

198 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/08/23(火) 22:45:00 ID:G9CJR.d6

o川* д )o「ごっ、ごっご、ごごごごごめん!!!」

(* ∀ )「いやっ、その、そんな反応されると、か、かえって恥ずかしい……」

o川* д )o「すっ、すぐ着替えるから!」

そう言うなり、キュートは僕の目の前でタンクトップを脱ごうとする。
裾を掴んだ手をほとんど反射的に握りしめて、制止させた。

(* ∀ )「バカバカバカッ!!! こんなとこで脱ぐな!」

o川* д )o「どどっどっどどどこで脱げばいい!?」

(* ∀ )「道路の横で僕がシートで囲って見えないようにするから!
        そこに行くまで頼むから脱がないでくれ!」

o川* д )o「わ、わかった!」

真っ赤な顔をしたまま錯乱しているキュートは、言うなり砂塵を舞い上げて消えた。
着替えと敷いていたシートを持って、僕も彼女のいるであろう道路の方へ走りだした。

199 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/08/23(火) 22:48:11 ID:G9CJR.d6

腕を胸の前で組んで、キュートは壁に寄りかかって僕を待っていた。
駆け寄って僕の服と、腰から引き抜いたベルトを渡す。

(*・∀・)「ほら、これ着替え」

o川*゚ー゚)o「うん、ありがと」

心なしかまだ顔が赤いように見えたけど、態度は普段のキュートに戻っていた。
一連の出来事のせいか、走ったせいか。僕の顔はまだ熱を帯びている。

o川*゚ー゚)o「このまま立ってればいい?」

この海岸は、道路より低い場所に広がっている。
海岸に降りるには、等間隔に設置されている階段を使うしかない。
つまり、道路のすぐ横は海岸から見ると、壁のようになっている。

( ・∀・)「うん、……よっと」

だから、僕が正面からキュートを隠すようにシートで囲えば、即席の着替え部屋の完成だ。
上は僕がなんとしても死守するし、横は誰もいない。とりあえず問題はないだろう。

「それじゃ、ちょっとだけ頑張っててね」

シートの向こうからは、その声を最後にかすかな物音しか聞こえなくなった。

200 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/08/23(火) 22:52:08 ID:G9CJR.d6

(#・∀・)「ふんぬぬぬぬ……」

両腕と両足を目いっぱい広げて壁に付ける。
自分の体より大きいシートを押さえるのは、思った以上にきつかった。
しかし、こうしないとキュートが着替えるスペースが確保できない。

(#・∀・)(早くしてくれ……)

幸い、キュートはさほど体が大きいわけじゃない。身長は僕の肩より少し大きいくらいだ。
その小さな体がもぞもぞ動くのを、シート越しに感じる。
よく考えればシート一枚隔てただけで、僕とキュートの距離はかなり近い。

(#・∀・)「……」

脳裏に浮かんだのは、目の前で僕を見つめるキュートの顔。
そこから先程の光景、さらには部屋での一件がスライドショーのように頭をかすめた。

(;・∀・)「……いや、待て待て待て。キュートだぞ?
        あのキュー……」

一瞬よぎった思考に、思わず言葉を飲んだ。
そんな風に考えたことが、自分でも信じられなかった。

201 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/08/23(火) 22:53:59 ID:G9CJR.d6
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他ならぬキュートだから、そう思うんじゃないか。

そんなことを考えた自分が、信じられなかった。














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202 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/08/23(火) 22:56:56 ID:G9CJR.d6

( ・∀・)「……」

「着替え終わったよモララー……モララー?」

(;・∀・)「っ! ごめんごめん」

キュートの声で我に返って、シートを取り払う。

o川;^ー^)o「たはは……すっごいだぼだぼ」

シャツの襟を軽く摘まんで、キュートは困ったように笑った。
まるでクラブにいるラッパーの格好のようで、かなりアンバランスだ。

(;・∀・)「ははは、ぜっんぜん似合ってないな。下は大丈夫か?」

o川*゚ー゚)o「ベルトぎゅーって絞めたから大丈夫!」

そう言って両手を胸の前でグッと握って見せる。
ヘアゴムの飾りが少し揺れて、夕日できらりと光った。

( ・∀・)「よかったよかった。んじゃ、脱いだやつ鞄に入れてきな」

o川*゚ー゚)o「うん!」

走りづらいのか、普通の速度で荷物のところへ走っていく。

203 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/08/23(火) 23:00:13 ID:G9CJR.d6

o川;゚ー゚)o「あっ!」

鞄に服を閉まっていたキュートが、急に大きな声を出した。

( ・∀・)「どうした?」

僕も荷物の場所までたどり着き、後ろから声をかける。

o川;゚ー゚)o「え、えーと……そのー、うん」

( ・∀・)「気になるじゃんか、早く言えよ」

o川;゚ー゚)o「こ、こんなものが……」

キュートが広げて見せたのは、檸檬色のビキニだった。
なんでこんなものを見せてくるのか、しばし考え込む。
そして、さっきまでの自分の発言を思い返して、合点がいった。



( ・∀・)『僕の着替えだよ。大きいだろうけど、ベルト貸せばなんとか着られるだろ。
      その下に水着を着ればなんとかなりそうだし』



(;・∀・)「しまった……服の下に何も着てないのか」

o川;゚ー゚)o「よ、よろしければもう一回頑張っていただきたいなー、なんて……」

204 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/08/23(火) 23:02:54 ID:G9CJR.d6

(;・∀・)「このまま帰らせるわけにもいかないよな……」

o川;゚ー゚)o「大丈夫なの……?」

(;-∀-)「やれるかやれないかじゃない……やるんだ」

砂浜に置いたシーツを再び持って、道路の方へ歩いて行く。
正直腕はかなりきついけど、やれないこともない。

「ありがと……でも、ごめん」

うしろからキュートの申し訳なさそうな声が聞こえた。
らしくないな、そう思いながら振り返って話しかける。

( ・∀・)「お前、そんなやつだったか? いつもみたいに
      『キューちゃんの悩殺バディを守るためによろしく! 覗いちゃダメだぞ?』
      とか言ってればいいんだよ」

o川;゚ー゚)o「ん……でも……」

それっきり、キュートは何も言わなかった。
そして再び壁にたどり着いて、僕はキュートの体をシートで囲んだ。

205 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/08/23(火) 23:05:51 ID:G9CJR.d6

「モララー……いる?」

しばらく経って、キュートの動きが止まる。
そして、ぽつりと僕の名前を呼んだ。

(;・∀・)「いないわけないだろ……」

「そっか、そうだよね」

( ・∀・)「どうした? もう着替え終わったのか?」

「うん。それより、聞いて」

いつもと変わらない声で放たれた、言葉に込められた真意を僕は汲み取れなかった。
お構いなしと言わんばかりに、キュートは話を続けた。

「今日、楽しかった?」

( -∀-)「そうじゃなきゃ途中で帰ってるよ」

「あはははは、モララー楽しかったんだ……よかったぁ」

206 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/08/23(火) 23:08:54 ID:G9CJR.d6

「わたしもね、楽しかった。モララーと海に来れて、すっごい楽しかったよ。
 だからこそ、少しでもいいからもっと楽しんで欲しくて、迷惑かけたくなくて。
 申し訳なくて……いつもみたいになんてできないよ」

カラフルだったシートは、いつの間にかオレンジ一色に染め上げられていた。
それをキュートの顔を見るために、降ろそうとする。

「ダメ……恥ずかしいから、ダメ」

( ・∀・)「……」

僕を制する、恥じらいを含んだ声に、手を止めて答えた。
沈黙を話を続けることへの肯定と受け取ったのか、キュートは話を再開する。

「たまには……真面目なこと、言ってみようかな」

深く息を吸い込んで、吐き出す音が、波の音に混じって聞こえてくる。
よし、と小さく呟く声がして、シートの上からキュートの手が出てきた。

(;・∀・)「うわっ!」

シートを取り払って、中からキュートが飛び出してきた。
真っ直ぐと海の方へ小走りで駆けていく。
そして、キュートは沈み始めた太陽を背負うように、こちらを振り向いた。

207 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/08/23(火) 23:11:56 ID:G9CJR.d6
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o川*^ー^)o「いつもありがと! モララーといっしょにいれて楽しいです!
        ずっといっしょにいたいです! これからもよろしくお願いします!」













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208 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/08/23(火) 23:15:04 ID:G9CJR.d6

夕日よりも赤く耳を染めて、そう叫んだキュートが見せた、満面の笑みが。
振り向いた瞬間に夕日に透けて、きらきらと輝いたキュートの髪が。
僕がいままで見たどんなものよりも、綺麗に見えた。

(* ∀ )「え……あ……」

別に激しく動いたわけでもないのに、鼓動が一気に高鳴る。
そして、収まるどころかますます強くなっていく。
その原因から目が離せないまま、僕はその場で立ち尽くす。

o川* ー )o「あー、はずかし……」

キュートは手で顔を扇ぎながら、荷物の置いてあるところへ歩いていく。
相変わらず耳は真っ赤だけど、逆光でその表情はうかがい知れない。

o川* д )o「もー、恥ずかしいからしゃきっとして! 帰ろ!」

自分の鞄を持って、キュートは僕にそう促す。
僕が近付くと、こちらも見ようともせずに、さっさと先に行ってしまった。
その背中を、すでに強く脈打つ心臓を抱えて、走って追いかけた。

209 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/08/23(火) 23:17:55 ID:G9CJR.d6

「……なんで置いていくんだよ」

「だって顔見れないもん! 恥ずかしいよ!」

「僕だって恥ずかしいよ!」

「んー! そういうこと言われるともっと恥ずかしい!」

「あっ……消えやがった」

「……なんだよ、いっしょにいたいって言ったくせに」

「いつも僕のこと振り回してばっかで、あきれるようなことばかりして」

「そのくせ……ときどき、すごい女の子らしいとこ見せて」

「ずるいんだよ……まったく」

「……」

210 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/08/23(火) 23:20:55 ID:G9CJR.d6
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「好き……なのかな」




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211 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/08/23(火) 23:21:55 ID:G9CJR.d6
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o川*゚ー゚)oは残像のようです ―2016 Remastered―

第五話 ふりむいた君の輝き

おわり












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