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75 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/26(火) 20:03:11 ID:jVmYTyVs
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真夏と勘違いしたかのように太陽が輝く。
梅雨前特有の湿気と相まって、かなり不快だった。
そんな空気を切り裂くように、白線の向こうまで駆け抜ける。
(;・∀・)「はぁっ……ぶはっ……」
いまのはなかなか速かったんじゃないだろうか。
タイムを確かめるべく、記録係の元へ歩いていく。
その最中で、スタートの合図である火薬の炸裂音が響いた。
(;>∀<)「うわあああああああっ! 目がっ、目があああああああっ!」
聞こえたと思った瞬間、周囲の砂が一斉に舞い上げられた。
僕の目は閉じる暇もなく、砂ぼこりの奇襲をまともに受けてしまう。
痛みで目をこすることもできずにいると、ペニサス先生の怒鳴り声が聞こえてきた。
「素直さん! そのスピードで走られたらタイムが計れないって言ってるでしょう!」
「で、でも思いっきり走ると出ちゃうんですよ!」
(#>∀<)「あんにゃろう……」
季節はもうすぐ梅雨。
高校生活初めての体育祭が迫っていた。
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76 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/26(火) 20:06:05 ID:jVmYTyVs
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o川*゚ー゚)oは残像のようです ―2016 Remastered―
第三話 熱くなれるだけ熱くなればいい
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77 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/26(火) 20:09:13 ID:jVmYTyVs
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( ;∀;)「いたたた……」
かなりの量の砂が入ってしまったらしく、涙が止まらない。
( ;∀;)「先生すいません……目洗ってきます」
( *川「わかったわ、いってらっしゃい」
輪郭しか見えないペニサス先生に了承を得る。
そして、ぼんやりとしか見えない視界で水場へと歩き始めた。
( ;∀;)「えーと……あったあった」
なんとか水場までたどり着き、手探りで見つけた蛇口をひねる。
なんとも微妙な温度の水が、腕にかかるのを感じた。
両手の中にできた水たまりに、顔を浸けてまばたきを数回。
( ・∀:)「ああ……かなり楽になった」
目元を軽く拭い、周りを見てみる。
まだ少しごろごろとした感触はあるけど、視界はかなり鮮明になっていた。
おかげで、
_
( ゚∀゚)「よっ」
(;・∀;)「うおああっ!!」
いつの間にか隣にいたジョルジュの顔も、はっきりと見えた。
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78 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/26(火) 20:12:05 ID:jVmYTyVs
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(;・∀;)「なんでいるんだよ! いつから!?」
_
( ゚∀゚)「お前が水場に歩いていってから、ずっと後ろを尾けていた。
つまり、最初からってことになるな」
要するに、授業をサボって僕を驚かせに来たようだ。
別にジョルジュが怒られるのはどうでもいい。
だけど、いまごろペニサス先生は怒ってるんじゃないだろうか。
(;・∀;)「堂々と授業抜けてくるなよ……」
_
( ゚∀゚)b「いや、モララーくんが危ないのでついていきますって言っといた。
これで授業もサボれるし、ペニサス先生からの評判もアップだ」
(;・∀;)「僕をサボるのに利用しただけじゃん……
でも、びっくりしたよ。てっきりジョルジュまで残像使い始めたかと……」
_
(;゚∀゚)「あれは……無理だろ」
ジョルジュらしからぬ低いテンションで否定する。
例え冗談でも、出来るとは言えないことなのはよく分かっているけど。
_
( ゚∀゚)「そうだ、モララー。キューちゃんのことなんだけどよ……」
( ・∀;)「んー?」
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79 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/26(火) 20:15:19 ID:jVmYTyVs
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蛇口で直接目を洗っていると、ジョルジュが話しかけてきた。
呼びかけに応じて顔を上げると、真剣な表情で僕を見ていた。
そのただならぬ空気に、僕は黙って次の言葉を待つ。
_
( ゚∀゚)「キューちゃんってさ……おっぱいでかくね?」
真面目な顔で、真面目な声で切り出された話題。
それは、この張り詰めた空気を完全に壊すには十分すぎるくらい、馬鹿馬鹿しかった。
(#・∀・)「保健室でバカの治る薬でも貰ってこい」
_
( ゚∀゚)「待て。その言葉、そのまま返させてもらおうか」
出来る限り冷たくあしらって、お引き取りを願う。
しかし、逆にジョルジュは僕に噛みついてきた。
_
( ゚∀゚)「知ってるか? おっぱいには夢が詰まっている。
大きければ大きいほど、夢も大きくなる。
男なら大きな夢を見るだろう? いや、見るんだ。絶対に。
キューちゃんのおっぱいにはそれがはちきれんばかりに詰まっているんだ。
お前はあれを見て何も感じないのか? そんなことはないだろう?
男なら大きな夢に一心不乱に向かって生きていきたいだろう?
男ならキューちゃんのおっぱいを一心不乱にぱふぱふしたいだろう?
さあ、モララーはキューちゃんのおっぱいを見たら目が離せなくな〜る……
飛び込みたくて仕方なくな〜る……」
(;・∀・)「危ない団体みたいな洗脳しようとするな!」
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81 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/26(火) 20:18:22 ID:jVmYTyVs
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( ゚∀゚)「何が危ないんだ? 俺はただおっぱ」
ジョルジュの熱弁を遮るように、チャイムが学校中に鳴り響いた。
(;・∀・)「あっ、授業終わっちゃったじゃん!」
_
( ゚∀゚)「ちょうどいい、たっぷりおっぱいの魅力について教えてやる」
そんなことはお構いなしと言わんばかりに、話を再開するジョルジュ。
このままじゃ一日中、授業そっちのけで語られそうだ。
どうにかして逃げ出す方法を考えていたときだった。
「おーい、モララー! ジョルくーん!」
_
(*゚∀゚)「こ、この声はっ!!!」
グラウンドから聞こえてきた声に、嬉々としてジョルジュが振り向いた。
その顔は、おもちゃを与えられた子供のように輝いている。
o川*゚ー゚)o「ごめんねジョルくーん、うちのモララーが迷惑かけてー!」
遅れて僕も振り向くと、キュートが小走りでこちらに向かってきていた。
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82 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/26(火) 20:21:03 ID:jVmYTyVs
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(#・∀・)「誰のせいでこんな目にあったと思ってるんだよおおおお!!!」
o川*゚ー゚)o「だからごめんって言ってるじゃーん!!!」
(#・∀・)「ジョルジュじゃなくて僕に謝れええええ!!!」
o川*゚д゚)o「ごーめーんーなーさーいー!!!」
言葉の遠距離キャッチボールをしながら、キュートは徐々に近づいてくる。
やがて、表情もはっきり見えるほどの距離になった、そのときだった。
_
( ゚∀゚)「モララー、よく見るんだ」
( ・∀・)「何をだよ?」
ジョルジュが横から何やら言ってきた。
その視線はキュートを真っ直ぐに見つめている。
_
( ゚∀゚)「胸元を見てみろ。あの柔らかそうに揺れる、たわわに実ったふたつの果実を。
あれを見て、それでもおっぱいの素晴らしさを理解出来ない、なんて言えるのか?」
o川;´д`)o「つ、疲れたぁ……叫びすぎたぁ……遠いよぉ……」
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83 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/26(火) 20:24:15 ID:jVmYTyVs
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死にそうな顔になりながら、ふらふらと歩いてくるキュート。
その胸に抱えられているふたつの膨らみ。
( ・∀・)「……」
大きさはキュートの顔より一回りほど小さいだろうか。
彼女の顔が小さいことを差し引いても、かなりの大きさだ。
o川;´д`)o「も、もうちょい……」
相変わらずキュートは危なっかしい足取りで、右へ左へ揺れながらこちらに向かってくる。
その動きにつられるように、胸も右へ左へ揺れている。
o川;´д`)o「着いたー……水ぅ……」
僕の横をすり抜けて、水場へ真っ直ぐに向かっていく。
横から見た胸は重力に負けることなく、綺麗なお椀の形を保っていた。
o川*>ー<)o「ふいー、生き返ったー!」
いつもの元気を取り戻したキュートは、僕の正面へ歩いてきた。
近くで見るとなかなかの迫力だな、なんて考えが頭をよぎる。
o川*゚ー゚)o「……いつまで胸見てるの?」
(;・∀・)「はっ!?」
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84 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/26(火) 20:27:07 ID:jVmYTyVs
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(;・∀・)「そ、そんなこと……」
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( ゚∀゚)「キューちゃんがこっち来るまでの間、
『キューちゃんのおっぱいちゅっちゅしたいよぉ〜』
って散々言ってたくせに」
(;・∀・)「言ってなあああああああああい!」
ジョルジュがいつか見せた、欠片も似てない僕の物真似をしてみせる。
内容は相変わらず、僕の心の内の捏造だ。
今回は、本当に少しだけ、真実が含まれているけど。
o川*゚д゚)o「あー、モララーったらキューちゃんの胸見てえっちな妄想してたんだー。
いーけないんだーいけないんだー、せーんせーに言っちゃーお」
(;・∀・)「やめろおおおおおおおお!!!」
_
( ゚∀゚)「す、素直さんどうしたんですか!? 急に泣き出したりして!」
o川*;д;)o「ひっぐ……同じクラスのモララーくんが……
モララーくんがわたしの胸をいやらしい目で見てきてあんなことやこんなこと……」
(;・∀・)「胸じろじろ見てごめんなさいいいいいいいいいいい!!
謝ったんでやめてくださいお願いしますうううう!!」
ジョルジュが先生のような口調でキュートに話しかける。
それにキュートは泣き真似をしながら答える。
事実を若干どころじゃなく、これでもかと誇張するおまけ付きだ。
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85 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/26(火) 20:30:03 ID:jVmYTyVs
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o川*゚ー゚)o「許すっ! ただしジュース一本でっ!」
(;・∀・)「ぐっ……分かった……」
ビシッ、と人差し指を僕の眼前に突き付けてくる。
仮に、ここで要求を飲まないで、変な噂が流れたとしよう。
その相手はいまやクラス内ならず、学校内でも人気者になりつつあるキュートだ。
(;・∀・)(本当に刺されたりしそうだもんな……)
慎重に慎重を重ねて、間違いはないだろう。
_
( ゚∀゚)「俺アクロリアスがいいわ」
(;・∀・)「なんでお前の分まで……」
_
( ゚∀゚)「えー!? クラスのアイドルの素直キュートさんがモララーに視姦され」
(;・∀・)「分かりましたジョルジュにもおごりますうううう!」
o川*゚д゚)o「キューちゃんズ大勝利ー!」
_
( ゚∀゚)「勝利の祝杯だー! イエーイ!」
僕に見せつけるかのようにハイタッチをかわすふたり。
少なくとも今日いっぱいは、このネタで脅されそうな気がした。
〜〜〜〜〜〜
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86 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/26(火) 20:33:13 ID:jVmYTyVs
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着替え終わった僕らは、自販機の前に集まっていた。
500円玉を渡したら、ふたりしてペットボトルの飲み物を買った。
あまりの図々しさに、もはやため息しか出てこない。
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( ゚∀゚)「いやー、他人の金で飲むアクロリは最高にうまいな!」
(;・∀・)「お前に遠慮というものを教えてくれる大人はいなかったのか……?」
o川*^ー^)o「いやー、モララーのお金で飲むポコリ最高!」
(;・∀・)「……キュートにも同じ言葉を贈ってやるよ」
余った200円で買ったレモンスカッシュを、乾いた喉へ流し込む。
それからふたりの方へ向き直ったとき、その光景に何故か違和感を覚えた。
二、三回視線を往復させてから、しばし考え込んでその正体に気付く。
( ・∀・)「なあ、キュート」
o川*゚ー゚)o「なあに? キューちゃんのポコリ飲んで間接キッスしたいの?」
(;・∀・)「はあ……一回くらい頭の中を覗いてみたいもんだな。
ところで、なんでお前疲れてるんだ?」
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87 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/26(火) 20:36:02 ID:jVmYTyVs
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以前、僕と何十分も追いかけ合いをしたときは、息ひとつあがっていなかった。
しかし、いまは頬を朱色に染めて、前髪は額に張りつくほどの汗をかいている。
o川*゚ー゚)o「んー、ちょっと張り切りすぎちゃってねー」
( ・∀・)「たかが体育の授業で?」
o川*゚ー゚)o「もうすぐうちの高校、、体育祭でしょ?
実はこういう学校行事って、初めてなんだ」
(;・∀・)「高校一年生にもなって、学校行事が初めて?」
o川;゚ー゚)o「恥ずかしながら家の手伝いしてるんでねぇ……」
そう言ってキュートは、ばつが悪そうに笑った。
知らなかったとはいえ、無神経だったかもしれない。
(;・∀・)「あの……ごめん」
o川;゚д゚)o「い、いいよ! 別に全然重い話じゃないし!」
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( ゚∀゚)「キューちゃんがそう言ってるんだ、いいじゃねえか」
( ・∀・)「そう、かな……」
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88 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/26(火) 20:39:26 ID:jVmYTyVs
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ジョルジュはああ言ってるけど、もやもやする。
学校行事にも出れないような家の手伝いなんて、想像もつかない。
しかし、それを考える時間を奪うように、チャイムが鳴った。
o川;゚д゚)o「やばっ、次の授業トソン先生じゃん! 急がないと!」
そう言うと、真っ直ぐ伸びた髪がふわりと揺れた瞬間、キュートは消えていた。
(;・∀・)「って、お前だけずるいぞおおおおお!」
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(;゚∀゚)「畜生! 文句言いたいけどもういねえ!」
仲良く遅刻した僕らは、みっちりと先生に怒られて、ようやく席に着くことが出来た。
ぶりっ子しながらごめんね、とキュートが言ってきたので頭を教科書で叩いてやった。
それを見た先生にまた怒られたのは、言うまでもない。
〜〜〜〜〜〜
(゚、゚トソン「今日から体育祭の練習が始まります。
特に用事がない人はなるべく参加するよう心がけてください。
それではこれでHRを終わります」
みんな一斉に席を立って、ぞろぞろと廊下にあるロッカーに向かう。
僕も例に漏れず、体育着を取りにいこうとした。
o川;゚ー゚)o
そのとき、気まずそうに鞄を胸に抱えたキュートが目に入った。
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89 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/26(火) 20:42:03 ID:jVmYTyVs
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(;・∀・)「どうしたんだよ、キュート。早く行くぞ」
o川;゚ー゚)o「ん、いや……今日は、ちょっと出れなくて……」
声をかけると、廊下から聞こえる喧騒に負けそうな声で、ぽつりと呟いた。
「えええええええ! キューちゃん出れないの!?」
「キューちゃん全員リレーのアンカーなのに!」
「組織と戦いに行くんですね! 連れてってください!」
それなのに、廊下にいたクラスメイトがここぞとばかりに集まってきた。
よく見ると同じクラスじゃない人間まで混ざっている。
もはや学校内では芸能人レベルの人気と言っても大げさじゃないかもしれない。
o川;゚ー゚)o「えーっと、今日は家の手伝いしなきゃいけなくて……」
僕とジョルジュに言ったのと同じようにキュートは説明する。
体育祭をすごく楽しみにしているキュートが、それより優先すること。
話を聞いただけじゃピンとこなかったけど、彼女の中では相当重要なことらしい。
「なんとかならないかな? アンカーいないのはさすがにちょっと困るかも」
「ピンチになったら隠された力が目覚めるから! 連れてって!」
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( ゚∀゚)「走るキューちゃんの揺れるおっぱい! おっぱい!」
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90 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/26(火) 20:45:03 ID:jVmYTyVs
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o川;゚ー゚)o「あー……」
(;・∀・)「み、みんなキュートが困ってるだろ!」
困惑するキュートを見ていられず、思わず間に割って入る。
(;・∀・)「とりあえずさ、キュートの言いたいことを聞いてやろうよ。
あと、どさくさに紛れて何言ってんだジョルジュこの野郎」
o川;゚ー゚)o「あの……今日はどうしても手伝わないといけない日で……
家に帰ったら母さんに頼んでみるから、ごめん……」
「そっか……じゃあみんな、仕方ないけど今日はキューちゃんなしで」
「俺たちを巻き込まないために……惚れ直しました!」
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(;゚∀゚)「ちょっ、変なこと言って悪かった! 謝るから助けぎゃああああああ!!!」
何か変な声もちらほら聞こえてくるけど、みんな理解してくれたようだった。
数分前と同じように、みんな廊下へと出ていく。
教室に残ったのは僕と、キュートと、何故かボロボロになったジョルジュだ。
( ・∀・)「ふう……一件落着」
o川*゚ー゚)o「あ、モララー……」
( ・∀・)「ん?」
後ろからの呼びかけに、振り向いて答える。
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91 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/26(火) 20:48:38 ID:jVmYTyVs
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o川*^ー^)o「ありがと」
( ・∀・)「……お安いご用さ」
面と向かって感謝されると、なんだかくすぐったい。
それをごまかすかのように、頭を掻きながら返事をした。
o川*゚ー゚)o「んじゃあ、お母さんと交渉してくるねっ」
( ・∀・)「大丈夫なのか?」
o川*゚ー゚)o「108の言葉を持つキューちゃんに敵はないっ! じゃあねー!」
肩まで真っ直ぐ伸びた髪を翻して、キュートはドアの方へ向き直る。
108ってボキャブラリー少なくないか、と思った時にはその姿は残像になっていた。
_
( ゚∀゚)「なあ、もう死んだふりやめていいか?」
(;・∀・)「うおっ!!」
このあと、ひたすらジョルジュの愚痴に付き合わされた。
そして、今日二回目の遅刻をしてがっつり怒られたのは、やはり言うまでもない。
〜〜〜〜〜〜
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92 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/26(火) 20:51:04 ID:jVmYTyVs
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次の日の放課後。
o川*゚ー゚)o「キューちゃんが〜」
o川*゚ー゚)o「お母さんの許可をもらって〜」
o川*>д<)o「キタ――――――!!!!!」
「うおおおおおおおおおおおおお!!!」
「いやっほおおおおおおおおう!!」
「「「キューちゃん!! キューちゃん!! キューちゃん!!」」」
(;・∀・)「……なんだこれ」
教室はこれでもかというほど盛り上がっていた。
キュートが放課後の練習に参加できることになったからだ。
どこからかコールも聞こえてくる。まるでワールドカップでも開催しているかのようだ。
( ・∀・)「とりあえずよかったな、キュート」
o川*゚ー゚)o「なんかね、お母さんに頼んだら……」
o川*゚ -゚)o『なんでもっと早く言わなかったんだ。
こっちはいいから明日から参加してきなさい』
o川*゚ー゚)o「っていう感じであっさりオッケーもらえたの」
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93 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/26(火) 20:54:21 ID:jVmYTyVs
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誰かを真似た澄まし顔で、落ち着いた声色で説明する。
きっとキュートのお母さんの真似なんだろう。
性格は娘に一片も受け継がれなかったらしいけど。
o川*゚ー゚)o「よーしっ! 走るぞー!」
(;・∀・)「あっ! おい、キュー……」
そう言うなり、キュートは残像を残してその場から消えた。
( ・∀・)(今日はリレーじゃなくて、大縄の練習なんだけどな……)
そのあと、校庭で出会ったキュートはこの世の終わりのような顔をしていた。
そして僕を見つけるなり、どうして教えてくれなかったのか、と理不尽に怒られた。
反論して喧嘩になったところで、ふたりして先生に怒られたのはもはや言うまでもない。
というか、最近怒られてばかりだと感じるのは、気のせいじゃないはずだ。
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94 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/26(火) 20:57:09 ID:jVmYTyVs
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〜〜〜〜〜〜
校庭に自分の椅子を運び出し、クラスごとに割り当てられたスペースに置く。
見上げると、五月最後の週末の空は、青く澄み渡っていた。
今日は、まさに絶好の体育祭日和と言えるだろう。
( ・∀・)「ついにこの日が来たな……」
o川*゚ー゚)o「あるときはリレーで残像が残るほどのスピードで走ってしまい。
あるときは大縄で引っかかりまくってテンション最低になって。
またあるときはむかで競走で先頭なのに全力で走ってみんなを引きずって。
いろんな困難を乗り越えてここまできたね、モララー!」
僕の隣に椅子を置いたキュートが、やる気満々な顔で語る。
(;・∀・)「いま言ったの、全部キュートがやらかしたことだろうが……」
o川*゚ー゚)o「ありゃ、ばれた?」
(;-∀-)「あれだけやらかせば忘れられないよ……」
o川*゚ー゚)o「あのとき見たキューちゃんの体が忘れられないなんて……」
(#・∀・)「怪我して体育祭出れなくなっていいなら、その先を言うんだな」
o川;゚д゚)o「あわわわ、冗談だからそんなマジな顔しないでぇ……」
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95 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/26(火) 21:00:17 ID:jVmYTyVs
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『これより、開会式を始めます。生徒は校庭に整列してください』
スピーカーからノイズ混じりの放送が流れてきた。
ぞろぞろと周りの生徒たちが、校庭の中央に向かっていく。
( ・∀・)「ほら、行くぞ」
o川;´д`)o「えー、面倒くさいからやだー。早くリレーやりたいー」
さっきまでとは打って変わって、残念な顔になっているキュート。
どうやらリレーが待ち遠しくて仕方ないらしい。
しかし、もう個人競技にも登録されているので、出てもらわないと困る。
(;・∀・)「最初っからクライマックスでどうすんだよ!」
o川;´д`)o「いーじゃーん、そんなのどっかで聞いたもーん」
(;・∀・)「いいから行くぞ!」
o川;´д`)o「モララーのいじわるぅ……」
強引に腕を引っ張ってクラスの列に向かう。
僕の高校初の体育祭は、駄々をこねる子供の世話から始まった。
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96 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/26(火) 21:03:20 ID:jVmYTyVs
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――――
o川*゚ー゚)o『ほらっ、もっとはきはき体動かすっ! 怪我するよっ!』
(;・∀・)『さっきまでくたびれてたやつが偉そうに言うな!』
o川*゚д゚)o『そーれっ、いっちに! いっちに!』
(;・∀・)『いっちに! いっちに!』
o川;゚д゚)o『じゅーご、じゅーろっ、ああっ!!!』
(;・∀・)『あっちゃー、ドンマイ! もう一回いこう!』
o川*゚д゚)o『ふははははっ! キューちゃん100m走一位!
これがキューちゃん最速伝説の幕開けだっ!』
( ・∀・)(とっくに世界最速だと思うんだけどな……)
――――
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97 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/26(火) 21:06:03 ID:jVmYTyVs
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( ・∀・)「もう僕らは最後の種目か……」
楽しい時間ほど早く流れる、というのはどうやら本当らしい。
いまだに和らぐ気配のない日射しは、残り少ない体力を容赦なく奪っていく。
それでも、疲れたと口に出す人間はひとりもいない。
o川*゚ー゚)o「リレーまで、長かった。あまりにも、長すぎた」
隣で太陽にも負けないほど目を輝かせるキュートは、その代表格だ。
どこかで聞いたような台詞を呟きながら、入場の合図を待っている。
その横顔を見つめていると、キュートもこちらを向いた。
o川*゚д゚)o「勝とうね! ぜっっっったい勝とうね!」
現在僕らのクラスは学年二位。一位との差も、三位との差もわずかだ。
つまり、優勝はこのリレーの結果次第で決まる。
神様はなんてドラマチックな舞台を用意してくれたのだろう。
( -∀-)「……ああ、勝とう。絶対に」
ここまで来たら勝敗を分けるものは、ただひとつ。
熱くなれるだけ熱くなれた方が勝つ、というやつだ。
先生が生徒たちに、起立するように指示を送った。
『それではプログラム24、「全員リレー」の選手の入場です』
アナウンスの声に背中を押され、手作りの入場ゲートをくぐる。
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98 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/26(火) 21:09:24 ID:jVmYTyVs
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校庭の中央で、偶数組と奇数組に列は分かれていく。
四十番目、つまりアンカーのキュートと、三番目を走る僕は別々になった。
中途半端に足の速いやつの宿命で、僕は二十六番目も走ることになっている。
o川*゚ー゚)o「キューちゃんの見せ場のために最下位でよろしく!」
(;・∀・)「それがさっきまで絶対勝とう、って言ってた味方に言う台詞か!?」
親指をグッと立てながらキュートは反対側へと歩いていった。
彼女の言うことを聞く気はない。絶対に上位でバトンを繋いでやろう。
( -∀-)「……」
( ・∀・)「……よしっ」
少しの間、目を閉じて深呼吸をする。緊張を吐息とともに吐き出す。
胸を締め付けていた何かが、すうっと消えていく。
目を開くと、すでに第一走者がスタートの姿勢をとっていた。
「用意……」
審判の先生の声が途切れて、火薬の破裂音が響いた。
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99 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/26(火) 21:12:25 ID:jVmYTyVs
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第一走者がカーブに入っていくのを横目で見ながら、バトンゾーンへ向かう。
軽く屈伸をしているうちに、バトンは第二走者へと渡った。
いまの順位は7クラス中、3〜4位あたりだろうか。
頭ひとつ抜け出した1位のクラスが、いち早くバトンを受け渡した。
それから少し遅れて、僕のクラスを含めた3つのクラスが、一気になだれ込んできた。
「いけっ!」
第二走者の声を合図に、振り向かず全力で走りだす。
真っ直ぐ後ろに突き出した右手に、バトンが押し付けられる。
それを落とさないようにしっかり握りしめると、腕を大きく振って加速した。
(;・∀・)「くっ……」
最悪なことに、バトンで差を付けられて内側に入られた。
さすがに第三走者だけあって、簡単には抜かせてくれない。
なんとか離されずに次の走者へバトンを渡すだけで精いっぱいだった。
(;・∀・)「くそっ……」
痛む心臓に鞭を打ちながら、次の順番のため列に向かう。
その途中、僕を見つめるキュートに気付いた。
その眼差しには、何故かさっきまでのやる気は見て取れない。
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100 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/26(火) 21:15:23 ID:jVmYTyVs
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( ・∀・)「どうしたんだよ……そんな顔して」
ただならぬ気配を感じて、近づいて話しかける。
o川; ー )o「いや、なんか……あんなこと言って悪かったな、って」
( ・∀・)「なんで?」
体育座りのまま視線を落として、ぼそぼそと喋るキュート。
やる気どころか、普段の元気すらなりを潜めてしまっている。
o川; ー )o「モララーだって、みんなだって頑張ってるのに……
他の学年の人も一生懸命応援してくれてるのに……
みんなで走るものなのに……わたし、最下位でいいとか――」
( ・∀・)「……」
( ・∀・)「ていっ」
o川;゚ー゚)o「んむぅっ!?」
言い終わる前に、両手で頬を挟み込んでやった。
キュートは目を丸くして、呆然と僕を見つめてくる。
( ・∀・)「らしくないな、キュート。そんなこと気にするようなやつだったか?」
o川;゚ー゚)o「で、でも……」
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101 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/26(火) 21:18:11 ID:jVmYTyVs
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キュートの柔らかい頬をこねくり回しながら、話を続ける。
( -∀-)「そうだな、確かに気にしないのもどうかと思うな」
o川;゚ー゚)o「でしょ!? だから……」
( ・∀・)「だったら絶対1位になってこい、それで許してやる。
あと、いつものキュートに戻れ。お前が元気じゃないと調子が狂う」
o川*゚ー゚)o「……」
言いたいことを全部言い終わると、ちょうど僕の順番がまわってきた。
一走目と同じように閉じて深呼吸をする。体力も問題なさそうだ。
バトンゾーンへ向かう途中、後ろから聞き慣れた、あの元気な声が聞こえてきた。
「かっこいいとこ見せてこいっ、モララー!」
僕は振り向かず、言葉にもせず、ただ右手を高く掲げた。
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102 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/26(火) 21:21:05 ID:jVmYTyVs
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いつの間にか僕のクラスは、最下位争いを繰り広げていた。
1位との差は半周近く開いてしまっている。
( ・∀・)(ここで差を詰めておきたいな……)
幸い、僕といっしょに走る他のクラスの走者は、練習のときから速くはなかった。
あわよくば、順位を上げてから次の走者にバトンを渡したいところだ。
「頼むっ!」
( ・∀・)「おうっ!!!」
絶好のタイミングでバトンパスに成功し、すぐ後ろの走者を引き離すことができた。
前には抜けそうな走者があとふたり。一気に順位を上げるのも夢じゃない。
(#・∀・)「……っ!!」
差を詰めて、カーブで外からひとり抜くことに成功する。
その勢いのまま、直線の入り口でもうひとりを射程圏内に捉えた。
(#・∀・)「いけええええええっ!」
バトンゾーンへと入るころには、ついに横一線の状態になる。
次の走者にはっきり聞こえるように、大きな声で合図を送る。
大きすぎたのか、少し驚いた表情を浮かべたがすぐに走りだしてくれた。
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103 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/26(火) 21:24:08 ID:jVmYTyVs
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ふと視界の隅に、競っていたクラスの走者が映る。
タイミングを誤ったのか、バトンの受け渡しにもたついていた。
(#・∀・)(チャンスッ!)
差し出された右手にバトンをしっかりと押しつける。
握りしめられたのを確認してから、手を離す。
走り出した次の走者は、すでに隣のクラスより体ひとつ分抜けだしていた。
(;・∀・)「はあっ……はあっ……んぐっ……」
よろよろとトラックの内側に戻ると、足の力が抜けてしまい、その場に座り込んだ。
心臓が誰かに鷲掴みにされてるかのように、ずきずきと痛む。
(;・∀・)「っ……はあっ……」
喉に絡みつくつばを吐いて、空を仰いでいた視線をトラックへ向ける。
4位をキープしたまま、向かい側でバトンが渡されるのが見えた。
あとは応援しながら見守ることしか出来ない。みんなを信じるしかない。
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( ゚∀゚)「お疲れさん、大活躍じゃねえか」
(;・∀・)「どうも……」
早々に出番を終えたジョルジュが声をかけてきた。
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104 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/26(火) 21:27:03 ID:jVmYTyVs
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( ゚∀゚)「よっと」
ジョルジュは隣に座ってきて、リレーの行方をいっしょに見つめる。
女子の羨望と妬みの混じった視線を、ぴりぴりと背中に感じた。
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(#゚∀゚)「行けえ! そのままそのまま!」
(#・∀・)「頑張れええええ!」
舞い上がる土煙、飛び交う声援。夏の始まりのような日射しで、校庭を照らす太陽。
いつかフラッシュバックしたとき、思わず笑顔になりそうな、青春の1ページが刻まれていく。
そして、最後の1ページを刻むべく――
o川*゚ー゚)o「……」
( ・∀・)「……」
キュートがゆっくりとバトンゾーンへ向かっていった。
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105 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/26(火) 21:30:12 ID:jVmYTyVs
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( ゚∀゚)「おっ、ついにキューちゃん登場だ!
いくぜ、みんな! せーn」
(#・∀・)「キュートおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
_
( ゚∀゚)「」
ジョルジュの合図を待たずに、自然と声が出ていた。
o川;゚д゚)o「!?」
相当驚いたのか、慌てて僕の方へ振り向くキュート。
(#・∀・)「全員抜いてこおおおおおおおおおおおおおおい!!!!!」
o川;゚ー゚)o
o川*゚ー゚)o
o川*^ー^)o
キュートはただ笑って、右腕を高く突き上げた。
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106 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/26(火) 21:33:31 ID:jVmYTyVs
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(#゚∀゚)「いよっしゃあああ! みんなモララーに負けんなよおお! せーのっ!」
仕切り直して発せられたジョルジュの合図。
せきを切ったかのように大きな、様々な声援が僕を飲み込む。
「キューちゃん頑張れええええええええええ!!!」
「全部キューちゃんに託したぜえええええええええ!!」
「残像拳じゃああああああああああああああい!!!!」
そして、みんなの思いが詰まったバトンを、
o川#゚ー゚)o「っ!!!」
キュートはその手にしっかり握りしめて、最後の一周を走りだした。
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107 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/26(火) 21:36:02 ID:jVmYTyVs
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現在の順位は変わらずに4位のまま。
だけど、1位との差は確実に詰まっていた。
o川#゚ー゚)o「っ!!」
バトンゾーン内で競っていた3位のクラスを、あっという間に置き去りにする。
当たり前だけど、他のクラスのアンカーは全員、運動部に所属する男子だ。
しかしキュートの速さは、自分より頭ひとつほど大きい相手を完全に圧倒していた。
o川#゚ー゚)o「〜〜〜〜!!」
カーブに差し掛かっても、2位のクラスにぐんぐんと迫っていく。
カーブが終わり、直線に向いたところで外から並びかけ、一気にかわした。
「きゅううううううううちゃあああああああああああああん!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
目の前で繰り広げられるごぼう抜きに、クラスのボルテージは最高潮に達する。
応援しているつもりだろうけど、言葉にすらなっていない応援がほとんどだ。
(#・∀・)「きゅううううううえええええああああああああ!!!」
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(#゚∀゚)「おっぱああああああああああああああああ!!!」
それは、もちろん僕らだってそうだった。
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108 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/26(火) 21:39:41 ID:jVmYTyVs
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前に残るのは総合得点1位のクラスに属する、陸上部期待のホープの男子のみ。
しかし、アンカーは丸一周走ることもあり、疲れる後半は抜かすのも難しくなってくる。
o川#゚ー゚)o「っ!! っ!!」
それでも、キュートは差をみるみる縮めていく。
そしてついに、カーブの中ほどで追い付き、外からかわしにかかる。
これなら抜ける、そう思った瞬間だった。
o川;゚д゚)o「!?」
(;・∀・)「ああっ!?」
全力で振られる腕と腕が、ぶつかった。
体格で劣るキュートがバランスを崩して、大きく外に膨らんでしまい、再び差が開く。
o川#゚ー゚)o「〜〜〜〜!!」
体勢を立て直し、必死で差を詰めるキュート。
すさまじい速度で、あと体ひとつ分というところまで迫る。
しかし、無情にも、キュートから体ひとつ分先で、ゴールテープは切られた。
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109 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/26(火) 21:42:08 ID:jVmYTyVs
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o川; д )o「……」
一瞬遅れて、キュートがゴールテープのあった場所を通り過ぎた。
勢いで数メートル先まで走った彼女は、ゆっくりとトラックの外へ出てから力なく座り込んだ。
(;・∀・)「……っ」
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( ゚∀゚)「やめとけ、モララー。お前はここから動けない。
動けても……いまのキューちゃんにしてやれることなんて、ねえだろ」
立ちあがろうとした僕の肩を押さえつけて、ジョルジュは言う。
競技が終わるまで、自由に歩いてはいけない決まりになっている。
だから、僕は見ていることしか出来なかった。
体を丸めて、遠くから見ても分かるほど震えている、キュートの背中を。
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110 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/26(火) 21:45:04 ID:jVmYTyVs
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キュートを心配したのか、近くにいた先生が近付いていく。
しばらくしてふらりと立ちあがったキュートは、先生といっしょに校庭の外へ消えていった。
「ううっ……ひぐっ」
「くそ……くそっ……」
はしゃぐ1位のクラスの幸せそうな喧騒。
それに飲み込まれる、すすり泣く声。
その対比が喜びを、悲しみを、残酷なほど際立たせていた。
_
( ∀ )「行くぞ……集合だ」
悔しさを噛み殺すかのような、ジョルジュの声。
その声に反応して、さらに男女問わずに泣き声が広がる。
それでも、整列するために歩いていかなければならなかった。
( ∀ )「……ああ」
キュートをたったひとり残して、歩いていかなければならなかった。
〜〜〜〜〜〜
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111 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/26(火) 21:49:45 ID:jVmYTyVs
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『それでは、結果発表です』
やたら丁寧な口調で放送委員が言った。
行儀よく敗北宣言を突き付けられる身にもなってほしい。
『最初に、失格になったクラスがあることを報告します』
突然の知らせに、にわかに周囲がざわつき始める。
うつむいていた誰もが、はっと顔を上げた。
『全員リレーで7組はバトンゾーンをオーバーしたことにより、失格となります。
これにより、2位に入った2組が繰り上がりで1位となりました』
( ・∀・)「……え?」
1位のクラスが失格になり、僕たちのクラスが、繰り上がりで全員リレー1位。
聞き間違いでないのなら、確かにそう聞こえた。
それはつまり、総合優勝も僕たちのクラスということで。
(*・∀・)「やっ……」
_
( ;∀;)「やったあああああああああああああああ!!!」
「マジで!? マジでか!?」
「うわああああああああん!! うわあああああああああん!」
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112 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/26(火) 21:52:00 ID:jVmYTyVs
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僕がすべてを理解するより早く、クラスメイトが一斉に歓声をあげた。
さっきは泣いていなかったジョルジュも、ぼろぼろと涙をこぼしている。
_
( ;∀;)「勝ったんだよ! 俺たち勝ったんだよ!」
(*・∀・)「ああ、勝ったんだ! 優勝したんだ!」
泣きながら抱きついてきたジョルジュと、肩を組みながら跳ねて喜ぶ。
_
( ;∀;)「みんなでバトンを最後まで繋いだから!
それでキューちゃんが頑張ってくれたから!
だから勝った! 優勝できたんだよ!」
組んだ肩をほどいて、みんなへ語りかけるジョルジュ。
しかし、その中にキュートの姿はなかった。
( ・∀・)「そうだ、キュート……」
キュートはこの結果をどこかで聞いているだろうか。
そう思い、消えていった方へ体を向けた、まさしくそのときだった。
o川*^ー^)o「モララーっ!!!」
(;・∀・)「うおおおおおおおおっ!!」
満面の笑みを浮かべたキュートが、胸の中に飛び込んできた。
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113 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/26(火) 21:54:05 ID:jVmYTyVs
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リレーでは見せなかった全速力でぶつかられ、僕の体は宙を舞う。
しばらく鳥になったあと、したたかに地面に背中を打ちつけた。
(;・∀・)「いってええええ! 超いってえええええええ!」
o川*゚д゚)o「勝ったんだよね!? わたしたちが勝ったんだよね!?」
(;・∀・)「ああ……誰かさんが頑張ってくれたおかげでね」
仰向けになった僕の上で、キュートは目を輝かせながら聞いてくる。
荒くなった吐息がかかるほど近付いた砂まみれの頬には、ふたつの筋が残っていた。
o川;゚ー゚)o「ごめんね……全員抜けなかった」
( ・∀・)「いいんだよ、1位になれば全部許すって言ったろ?」
o川*゚ー゚)o「でも……」
o川* д )o「モララーはちゃんとかっこいいとこ見せてくれたのにさ……」
(;・∀・)「え? ごめん、いまなんて――」
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114 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/26(火) 21:57:39 ID:jVmYTyVs
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( ゚∀゚)「いきなり公衆の面前でなーにやってんだか」
(;・∀・)「うわっ!?」
ジョルジュの声で我に返ると、クラスメイトが僕らを囲んでいた。
_
( ゚∀゚)「いきなりキューちゃんはモララーに抱きつくし。
抱きついたかと思ったら今度はいちゃいちゃし始めるし。
あーあ、モララーだけ死ねばいいのに」
「俺ちょっと黒魔術かじってるんだ。試してみようか?」
「あ、それ名案だな。とびきりひどいの頼むわ」
「キューちゃんどいて! モララーくん殺せない!」
さっきまで同じ目標に向かって頑張ってた仲間が手のひらを返しだす。
返しすぎて、もはや関節を無視して何回転もしてそうな勢いだ。
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( ゚∀゚)「ま、モララーはあとで体育館裏として……
みんな! キューちゃんを胴上げだ!」
o川;゚д゚)o「う、うぇぇっ!?」
僕から引きはがされて、人混みの中へ消えていくキュート。
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115 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/26(火) 22:00:47 ID:jVmYTyVs
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「よーっし、いくぞ! せーの……わーっしょい!わーっしょい!」
「うわあっ、高いよぉっ! ちょっ……こわっ!」
「こらー! 何やってるんですか!」
「よかった……先生! これやめさせないと邪魔に……」
「私も混ぜなさい!」
「ええええ!? 先生ちょっとおおおおお!」
「教え子がこんなときに黙って見ていられますか!」
「こんな場面じゃなきゃいい言葉だったのにいいいい!」
「それじゃあ先生もいっしょに! わーっしょい! わーっしょい!」
「わーっしょい! わーっしょい!」
「だああああああ! もうめちゃくちゃだああああああ!」
o川*^ー^)o「あはは、もうっ! みんなぁー! こわいよぉー!」
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116 名前: ◆LemonEhoag[] 投稿日:2016/07/26(火) 22:01:32 ID:jVmYTyVs
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o川*゚ー゚)oは残像のようです ―2016 Remastered―
第三話 熱くなれるだけ熱くなればいい
おわり
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