ξ゚听)ξ幽霊裁判が開廷するようです

Last case:憑依罪/後編

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972 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 03:19:09 ID:KoL7RGjsO


 静謐が法廷を満たす。
 皆が回復し、混乱を落ち着けた頃、オサムはまた木槌を振った。

【+  】ゞ゚)「真犯人は捕まったわけだが」

 咳き込んだしぃが、それに続く。
 痣に赤みが増し、痛々しい。

(*゚ー゚)「被告人、──ロマネスクに訊くべきことがあります」

【+  】ゞ゚)「そうだな、同意見だ」

 ツンがロマネスクに振り返る。
 ロマネスクは応えようとしなかったが、ミセリに腕を引かれて一歩前へ出た。

( ФωФ)「……」

ξ゚听)ξ「何を話せばいいか、分かってるでしょ」

(ФωФ )

ξ゚听)ξ「おい」

 いい加減にしろよとツンがロマネスクの顔面を引っ掴む。
 ロマネスクが牙を剥いた瞬間、ミセリが間に割って入った。

973 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 03:20:55 ID:KoL7RGjsO

ミセ;゚ー゚)リ「あの、まず私から話させてください」

ξ゚听)ξ「……まあ気になることはあるし」

 深呼吸を何度か。
 ミセリは、ロマネスクの肩を軽く叩いた。

ミセ*゚ー゚)リ「……私、お盆の時期には毎年G県の祖母の家に行ってました。
      お墓は別のお寺さんにあったからラウン寺には行ったことないんですけど……
      よく、ロマが近所で日向ぼっこしてたので──知り合いでした」


 とても懐いているとは言えない素っ気なさだったが、かといって、無視もしないでくれたそうだ。

 ある年、執拗に構っていたら、怒鳴られた。
 驚きはしたものの、可愛がっているロマネスクと話せるのが嬉しかったという。


ミセ*゚ー゚)リ「それで7年前……じゃないか、もう15年前だ。
      15年前にトソンが死んで、嫌なことが色々あって──私、ちょっと不安定になって」

974 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 03:22:56 ID:KoL7RGjsO

ミセ*゚ー゚)リ「G県に行ったとき、ロマに泣きついたら……
      ロマは私についてきて、一緒にヴィップ町に来てくれました。
      たぶん心配してくれたんです」

(#ФωФ)「していない」

(;*゚ー゚)「被告人はこの町に住んでいたんですか?」

 住んでいたのはたしかだが、
 ロマネスクは2年居たか居ないか、といった程度だそうだ。

ミセ*゚ー゚)リ「ロマが傍にいてくれてからは、結構調子良かったんですけど……
      大学卒業してから入った会社が嫌なひと多くて、また色々溜まっていっちゃって」

ミセ*゚ー゚)リ「ある日、ぷっつり切れちゃったんです。
      私、ロマに『私のこと殺して』ってお願いしました。
      今にして思えば、ほんと、頭おかしいんですけど」

975 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 03:25:30 ID:KoL7RGjsO

#####


 この女は本当に馬鹿だ。

 ∧ ∧
( ФωФ)『死にたいなら勝手に死ね』

ミセ*;−;)リ『ロマがいい、やわらかくてあったかいロマに殺されたいの、
      1人でこっそり死んでくなんてやだ、やだ、やだ……』

 ∧ ∧
( ФωФ)『貴様は本当に馬鹿であるな』

ミセ*;−;)リ『馬鹿でいいよ。お願いロマ、今じゃなくて……
      私が普通に生活してるときに、いきなり殺して』

ミセ*;−;)リ『何も分からない内に死ぬのがいい。お願い。お願いロマ……約束して』

 ∧ ∧
( ФωФ)『……』

 ミセリの右手の小指に、2本ある尻尾の内1本を絡ませた。
 人間の子供が約束をする際、小指と小指を合わせるのをよく見かけていたので覚えていた。

 ミセリも意図が分かったのか、ほんの少し笑って、子供達が歌っていたのと同じ歌を唱える。
 とても恐ろしい歌だと思う。

976 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 03:26:57 ID:KoL7RGjsO

ミセ*;−;)リ『約束だよ』

 歌に従うならば、ミセリを殺せなかった場合、針を千本飲まされてしまうらしい。
 死ぬだろう、それは。
 人間というやつは臆病なくせに思い切りが良い。

 ∧ ∧
( ФωФ)(針を千本用意するのも大変であろうに……)

ミセ*;−;)リ『……あ、もう一個、約束』

 ∧ ∧
( ФωФ)そ

 場合によっては二千本飲まされかねない。
 確実に死ぬ。

 内心動揺しながらロマネスクが再び尻尾を差し出すと、ミセリは首を振った。
 この約束は「針千本」しないらしい。

 涙を拭って、彼女は弱々しく笑った。

ミセ*゚ー゚)リ『もう本当、こんなの……みっともなくて恥ずかしいから』

977 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 03:27:50 ID:KoL7RGjsO





ミセ*゚ー゚)リ『……誰にも言わないでね』





#####

981 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 03:30:25 ID:KoL7RGjsO


 ロマネスクとの「約束」について語り終える頃には、ミセリの声は震えていた。
 頭突きをするように、ロマネスクの胸に額をぶつける。

ミセ*;ー;)リ「ごめんね、ごめんねロマ……ありがとう、黙っててくれたんだね。
      だから何も言わなかったんだね」

( ФωФ)「……」

ミセ*;ー;)リ「で、でも、ロマだって馬鹿だよ、こういうときは言っていいんだよ。……言わなきゃいけないんだよ」

 ロマネスクが顔を傾ける。
 少し、困ったような表情。
 トソンの姿が内藤の脳裏に浮かんで、溶けた。

( ^ω^)「憑依事件のことは、自分が犯人じゃないって言ったところで
       約束を破ることにはならなかったんじゃありませんかお」

( ФωФ)「……一つ話せば、どこからミセリに繋がるか、分からなかったのである」

 トソンよりも不器用だ。
 ツンが溜め息をついたが、口の端がほんの少し、上がっていた。

983 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 03:32:34 ID:KoL7RGjsO

ミセ*;ー;)リ「もういいよロマ。話していいよ。……ちゃんと、話して」

 ロマネスクはそれでもすぐには口を開かなかった。
 ミセリを見つめ、彼女の涙がなかなか収まらないことに呆れて、それからようやく話し始める。

( ФωФ)「……臭いが……」

【+  】ゞ゚)「におい?」

( ФωФ)「霊的な、と言えばいいのか……
       とにかく、普通ではないモノの『悪意』の臭いが分かる」

(,,゚Д゚)「悪意って……」

( ФωФ)「霊の呪詛や殺意や害意が、臭いとなって我輩の鼻をつくのである」

 つまりは──「祟り」とか、そういうもの。
 寺にいた頃は、よく、そんな臭いを纏った人間と会ったそうだ。

 くるうが鼻を擦る。
 嗅覚で特殊なものを察するというのは、彼女と似ているかもしれない。

984 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 03:36:28 ID:KoL7RGjsO

( ФωФ)「15年前のミセリは、その臭いに塗れていた。
       暗い気持ちがそういったものを寄せつけ──
       ますます悪いことを引き起こし、それでまた良くないものが寄ってくるような、
       たちの悪い状態に陥っていたのである」

(,,゚Д゚)「悪循環ね。微量でも霊感がある人だから、余計に引き寄せやすいのかも」

( ФωФ)「1人にしておくよりはマシかと思い、ついていった。
       ……ただの気まぐれである」

 本当に単なる気まぐれなのかは、敢えて触れないでおく。
 触れずとも分かる。

ξ゚听)ξ「殺してと頼まれた後──実際にミセリさんを殺そうとしたことはあるの?」

( +ω+)「……寝ているときに喉に噛みつこうとしたことは何度かある」

ξ゚听)ξ「でも、出来なかったのね」

 ばつが悪そうにロマネスクは顔を逸らした。
 出来なかったのではなくしなかっただけだ、という言葉に彼の性格が覗く。

( ФωФ)「恐らく、あの夜が一番──精神が酷いときだったのであろう。臭いも酷かった。
       だがそれ以降はまたよく笑うようになったし、
       親類の縁で職を変えてからは改善していった」

(*゚ー゚)「なぜそれから間もなく三森さんから離れたんです?」

( ФωФ)「……臭いがしたからである」

985 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 03:37:14 ID:KoL7RGjsO

#####


ミセ*- -)リ

 ∧ ∧
( ФωФ)

 眠るミセリの顔を眺める。
 「約束」してからというもの、こうすることが増えた。

 殺すのは簡単だ。喉を噛みちぎれば済む。
 こんな普通の猫ではなく、もっと巨大な姿にもなれるから、そうすれば更に容易い。

 しかし最近はミセリも持ち直している。
 彼の嫌いな、あの臭いも消えた。

 前の職場にいたときより忙しそうだし仕事の愚痴も増えたが、仲間への文句は減った。
 忙しいおかげで余計なことを考える暇がないのだろう。

 猫も人間も気紛れだ。
 殺せという約束など、忘れているのではないか。

 尻尾の先でミセリの鼻の頭を擽ると、呻いて寝返りした。

986 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 03:37:46 ID:KoL7RGjsO

 瞬間。

 ∧ ∧
(;ФωФ)『──!?』

 頭をがつんと殴られるような衝撃に襲われた。
 鼻が痺れる。


 ──臭いだ。
 強烈な悪意。
 凶悪で、全身を食い破られそうな。


 外から臭っている。
 ロマネスクは窓をすり抜けた。

 臭いは、先程よりは若干弱まっていた。
 発生源を辿る。

987 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 03:39:28 ID:KoL7RGjsO

 人だかりが出来ていた。
 壊れた車から運び出された血まみれの男が、それより大きく白い、赤い灯りのついた車に乗せられていった。

 騒ぎに引き寄せられたのか、おばけ達も大勢いたが
 どのおばけからも臭いの名残は感じなかった。

 ∧ ∧
(;ФωФ)

 思い返し、震える。

 あれは悪意そのものではなく、それを発した者が強大なのだ。

 現場とミセリの家が遠く離れていることと、
 ここがミセリの普段通らない方向であるのを確認してから、ロマネスクは走り出した。

 ──恐ろしかった。

 本能が、町を離れろと叫んでいた。



 走りながら自問する。

 ──良かったとは思っていまいか。

 ミセリの傍を離れることを。
 彼女の命を狙わなくていい口実が出来たことを、喜んではいまいか──


#####

988 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 03:41:34 ID:KoL7RGjsO

(;,゚Д゚)「ミセリさんのとこに行ってから2年後ってことは──
     今から13年前よね」

(;*゚−゚)「……父さんの事故のときか」

( ФωФ)「何年も放浪していた。様々な県を巡った。
       稀に、ヴィップ町で嗅いだのと同じ臭いを嗅ぐこともあった。
       その度に我輩は遠くへ逃げたのである」

 「しかし」。
 逆接が、不穏な響きを孕む。

( ФωФ)「ある年、G県へと戻ったときのことである。
       例の臭いを感じた。ラウン寺がある方角だった。
       胸騒ぎがして寺に駆けつけ、まだ色濃く残る臭いを辿ってみれば──」


 住職が死んでいた。
 死んで間もない様子なのに、魂が欠片も残っていなかった。

 ロマネスクを最も可愛がってくれた僧侶だった。

989 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 03:42:43 ID:KoL7RGjsO

( ФωФ)「それから我輩は逃げるのをやめたのである。
       臭いの元を追った。
       ──だが、それを感じるのはいつも事件が発生した瞬間である。
       我輩はいつも出遅れる」

ξ゚听)ξ「……それで、現場にあなたの痕跡が」


 ところが、2年前から、ぱったりと臭いを感じなくなった。

 ドクオがこの町に居着いた頃だ。


( ФωФ)「何もないまま一年が過ぎ去り、去年の夏になって──
       ふと、ミセリはどうしているだろうかと気になったのである」


 ミセリはアパートにも実家にいなかった。
 彼女を探し──入院しているのを知る。

 病室に行くと、眠っているミセリから臭いがした。
 自分の追っていた臭いが、微かに、ミセリの体に残っていたのだ。

 トソンが来たのは、その直後。
 間が悪かった。

7 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 03:57:10 ID:KoL7RGjsO

( ФωФ)「もう分かるであろう。
       次に病室へ行ったときにあの男と鉢合わせ──
       正にミセリを手にかけるところだったのか、男から臭いが滲み出ていたのである」


 そうしてロマネスクは、この町に留まらざるを得なくなった。
 自身が疑われていることを知っても──ドクオを捕まえなくてはならなかったのだ。


 それで、彼の話は終わった。

 木槌の音が高く響く。

【+  】ゞ゚)「……もう、聞くこともないな」

 ツンやしぃの顔を見渡し、確認。
 皆と頷き合い──彼は、言った。



【+  】ゞ゚)「被告人、ロマネスクを──無罪とする」


.

8 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 03:59:10 ID:KoL7RGjsO

ξ゚ー゚)ξ

 ずっと立ちっぱなしだったツンが、ようやくパイプ椅子に腰を落とした。

( ФωФ)「……ありがとう。助かった」

 小さな小さな声でロマネスクが礼を言う。
 ツンはひらひらと右手を振った。

( ^ω^)「お疲れ様でしたお」

ξ゚ー゚)ξ「うん。内藤君も」

 ひどく疲れた。
 内藤も椅子を引き、座り込む。

 傍聴席が騒がしい。
 先ほど彼らも事件に巻き込まれかけたのだから当然か。

9 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 04:01:12 ID:KoL7RGjsO

(*゚ー゚)「──また負けた!」

 向かいの方で、しぃもどっかと椅子に腰を下ろしていた。
 痣が変色し、目立ち始めている。

(;,゚Д゚)「ってやだちょっとあんた! 顔腫れてきてるわよ! 冷やさなきゃ!」

(*゚ー゚)「後でいい」

(;,゚Д゚)「今すぐ! ……なに笑ってんのよあんたはもう!」

(*゚ー゚)「また負けた、また僕が間違えた」

(,,゚Д゚)「……今回の起訴は、しょうがないとこもあったと思うわよ。
     あんただけの責任でもないんじゃないの」

10 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 04:03:39 ID:KoL7RGjsO

(*゚ー゚)「でも負けは負けだ。──なのに何でだろうな、すっきりした。体が軽い。
     ……父さんのことを思うと、やっぱり苦しいが」

 内藤としぃの目が合う。
 かと思えばしぃの視線が横にずれ、呆れが浮かんだ。
 何だろうと思い、辿ってみれば。


ξ--)ξ スピュルルルル


( ^ω^)「うわ」

 ツンが思いきり寝ていた。
 涎まで垂らしている。

川 ゚ 々゚)「疲れてたんだねえ」

【+  】ゞ゚)「どうする、刑事に運ばせるか」

( ^ω^)「いや、喜んで運んでくれそうな白衣の人が多分その辺にいるので」

 言って、内藤は顔を横向けた。
 ミセリとロマネスクが向かい合って床に座っている。

13 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 04:07:26 ID:KoL7RGjsO

ミセ*;ー;)リ

( ФωФ)「いつまで泣いてるのであるか」

 しくしく泣いているミセリ。
 対するロマネスクは、げんなりした様子で頭を掻いた。

( ФωФ)「貴様、2月頭に病室で見たときに生気がなかったから、
       魂が抜けていたのは薄々分かっていたが……
       先週法廷で見付けたときは驚いたぞ」

( ФωФ)「あの男から身を隠すために子供の姿になって、もう幽霊として暮らすのかと……。
       それが貴様、記憶喪失とは貴様、馬鹿か貴様」

ミセ*;ー;)リ「ろ、ロマ深読みしすぎだろ……。
      ほんとに気付いたら外にいて、記憶なくなってたんだからしょうがないじゃん……」

 猫が好きなことくらいしか覚えていなかったため、猫を追いかけていたら
 いつの間にかワカッテマスのアパートに辿り着いた──らしい。
 ミセリが泣きながら語ることには。

 ロマネスクも近くに寄っていたのだから、タイミングによっては
 ばったり会えていたのかもしれない。

14 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 04:09:00 ID:KoL7RGjsO

 溜め息をつき──ロマネスクが消える。
 いや、消えたように見えただけだ。

 ふてぶてしい面の猫が、そこにいた。

 ∧ ∧
( ФωФ)「……ミセリ。まだ、死にたいと思っているであるか?」

ミセ*;ー;)リ「ううん。……ううん、思ってない、思ってないよ」

 ミセリは手を伸ばした。
 ロマネスクを膝に乗せ、その背を優しく撫でる。

16 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 04:10:44 ID:KoL7RGjsO

ミセ*;ー;)リ「トソンがいてくれたもん。ロマが守ってくれたもん。
      ……生きたいな。私、もっと生きてたい」

 ∧ ∧
( ФωФ)

 ∧ ∧
( +ω+) …ニャァオン


 満足げに一鳴きし、ロマネスクがミセリの膝の上で丸くなる。


 それから程なくして、閉廷が告げられた。





Last case:終わり

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