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872 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 01:54:58 ID:KoL7RGjsO
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ξ゚听)ξ「ここまで来て、まだ嘘をつくの?」
(;A;)「……」
ツンの声は刺々しい。
彼女はドクオを睨みつけて、足元から鞄を持ち上げた。
机に置くなり、どすんと重たい音をたてる。
口を休めないままに、ツンは鞄を開くと中から紙の束を次々に出していった。
ξ゚听)ξ「彼のお母さんを含む、大勢の人々を食い物にしてきた詐欺グループ。
表のリーダーとして主に活動していたのは、高崎美和という女性でした」
ξ゚听)ξ「ドクオさんのお母さんは、まめに日記を書く人で──
詐欺に遭っている間も、日々のことを細かく記録していました」
それらは、ニュッから送られたコピーの数々だった。
いくつも付箋が貼られた束の中から、黄色い付箋のページを選ぶ。
その書面をしぃ達に向けた。
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875 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 01:56:35 ID:KoL7RGjsO
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ξ゚听)ξ「20年前。平成5年に使われていた、高崎美和の手帳。予定がびっしり書き込まれています。
たとえばこれ、4月6日。『鬱田さん 訪問』」
ξ゚听)ξ「で、同日、お母様の日記にはこう書かれています。
『美和様が家に来てくださった。折角いらしてくれたのに、ドクオが追い出してしまった。
後でお詫びしなければ』──」
(;,゚Д゚)「予定通り、ドクオさんの家に行ったってことでしょ?
それ自体はおかしくないじゃない」
ξ゚听)ξ「ええ、これはね。問題は他の日……」
ξ゚听)ξ「予定を入れておいても、何らかの理由で予定が滞れば、二重線で消しています。
たとえば1月8日は『鬱田さん お札』の部分が消されていて、
日記の方には『美和様がいらっしゃる予定が悪天候で叶わず』との表記がありました」
続いて紫色の付箋が貼られたページで手を止めた。
指でなぞり、読み上げる。
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877 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 01:58:49 ID:KoL7RGjsO
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ξ゚听)ξ「8月12日。『鬱田さん 食事』」
次に、日記の方。
ξ゚听)ξ「同じく8月12日……。
『今日は特に何もせず一日家で過ごす。ドクオの帰りが遅く、久しぶりに一人で晩ご飯』──」
(;*゚ー゚)「……1人で」
しぃが眉を顰めた。
──食い違っている。
【+ 】ゞ゚)「高崎美和と食事するどころか、家に一人きりで過ごしていた……」
ξ゚听)ξ「訂正のための二本線もありません。
──こういった食い違いがちょくちょく見られます」
鬱田という苗字はそうあるものではない。
だが、内藤達は、その苗字を持つ者を少なくとも2人は知っている。
1人は日記の持ち主、鬱田カー。
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881 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 02:01:04 ID:KoL7RGjsO
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もう1人は──
ξ゚听)ξ「この『鬱田さん』というのは、所々、ドクオさんを指していたのでしょう」
先程からずっと黙りこくる、鬱田ドクオ。
既に涙は乾いている。
コピーを机に戻して、ツンは訊ねた。
ξ゚听)ξ「お母様を騙す憎い憎い霊能力者と、どんな話をしながらお食事したの?」
('A`)「……」
今度の沈黙は、先程とは打って変わって混迷していた。
目まぐるしく流転する空気。
皆、それにしがみつくのでやっとだ。
そしてまた、渦に飛び込む者がいた。
(*゚−゚)「……一つ、控えていた事実があります」
しぃ。
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884 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 02:05:36 ID:KoL7RGjsO
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(*゚−゚)「恐らく重要なものであろうとは理解していましたが、
これを出すタイミングを見誤れば、下手をすると誤魔化されて終わってしまいかねないだろうとも危惧していました。
──今なら出せる」
父の裁判記録で何か気付きましたか、としぃはツンに訊いた。
内藤には分からない話だ。
ξ゚听)ξ「……いえ、憶測の範囲を出なかった。だからドクオさんに直接訊こうと思ってたんだけど」
「その手間を省いてさしあげます」。
偉そうに言い切るしぃは、すっかり待ち侘びた様子だった。
(*゚ー゚)「鬱田さん、あなたは20年前にも、この町に出張のために来ていましたよね」
('A`)「……ああ」
視線を彷徨わせたドクオは、間をあけてから首肯した。
母の日記に書かれているかもしれないのだ、嘘をついてもバレると判断したのだろう。
(*゚ー゚)「実際の目的は出張ではない。
──僕の父の捜査に協力しに来たんだ」
.
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887 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 02:07:37 ID:KoL7RGjsO
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ミ,,゚Д゚彡『でぃ様は、つーの悪口をよく言っていたけど、俺はあいつが嫌いじゃなかった。
非力なのを自覚し、それを隠すことも言い訳にすることもしなかったから。
人間嫌いの妖魔は多いけど、あの男に協力するのは厭わないという奴も多かったよ』
(*゚ー゚)『お前も父さんに協力していたんだな』
ミ,,゚Д゚彡『うん……被害者、容疑者の身辺調査が主だったかな。
あの頃は警察に人材が不足していて、捜査が不十分だったから』
(*゚ー゚)『それで、20年前っていうのは』
ミ,,゚Д゚彡『裁判で薬の知識が必要になった。
薬を扱う会社に打診していて──鬱田ドクオと知り合ったみたいだった』
(*゚ー゚)『……彼は他県の人間だ』
ミ,,゚Д゚彡『打診していた会社の親会社が鬱田ドクオの勤め先だったから』
(;,゚Д゚)『そっか、あのひと製薬会社の人なんだっけ』
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888 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 02:08:46 ID:KoL7RGjsO
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ミ,,゚Д゚彡『それで鬱田ドクオが、前から幽霊裁判に興味があった、ぜひ協力させてくれと──』
(;*゚ー゚)『──彼が言ったのか?』
ミ,,゚Д゚彡『そうらしい、ということしか分からないから。
この町までわざわざ来てくれたもんで、ずいぶん熱心だなとつーが驚いてたよ』
ミ,,゚Д゚彡『それで、自分のことはあまり他言しないでほしいと鬱田ドクオから言われていたらしいから。
俺も詳しくは聞かせてもらえなかったし、書類にも残ってないかもしれない』
#####
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890 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 02:15:57 ID:KoL7RGjsO
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(*゚ー゚)「あなたは生前から幽霊裁判を知っていた。
N県で行われていた詐欺がおばけ法に引っ掛かることも知っていた筈だ」
使役霊から聞いたという話の最後に、しぃはそう付け足した。
もしも高崎美和を憎んでいたのなら──黙っている以外の対処も出来ただろう。
まして、彼が自殺するより前におばけ法はN県で施行されたのだ。
高崎美和が捕まることは予測できた筈。
内藤はツンが俯いているのに気付き、そっと下から覗いた。
ξ;゚听)ξ「……」
見開かれた目。
何事か、彼女はぽかんとしている。
唇が、動いた。
ξ;゚听)ξ「……私、ドクオさんに会ってる……」
【+ 】ゞ゚)「──何?」
ξ;゚听)ξ「20年前に──この町で、ドクオさんに会ってる」
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891 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 02:18:10 ID:KoL7RGjsO
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(*゚∀゚)『悪いおばけがいたら、おじさんに教えてな』
──泣きじゃくるツンに、つーは言った。
20年前、夏の日。自然公園でのこと。
ツンは答えられずにひたすら泣いた。
すると、つーと一緒にいたスーツの男が訊ねてきた。
『おばけが嫌いかい?』
ツンはしばらく考え、答える。
ξ;;)ξ『……怖い』
(*゚∀゚)『おばけだって、みんながみんな意地悪なわけじゃないぞ。
優しいのもたくさんいるんだから。
……でも、意地悪なおばけはやっぱり怖いよなあ』
『おばけ法を知れば、おばけなんか怖くなくなるさ』
男は言った。
にやにやしていた。笑っていた。
最早ぼんやりとしか思い出せない面影に、ある男を重ねる。
微細の狂いもなく、溶け込んだ。
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894 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 02:18:46 ID:KoL7RGjsO
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『それで検事にでもなれば、おばけ達を苛めてやれるぞ』
(;*゚∀゚)『苛めるのが仕事なわけじゃありませんって。人聞き悪いなあ』
あの顔は。
あの声は。
('A`)『この町で弁護士になったって、つーさんには勝てっこないでしょう』
#####
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896 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 02:20:13 ID:KoL7RGjsO
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ξ;゚听)ξ
ツンは自分自身が語った記憶に、絶句していた。
くるうに視線が集まる。
監視官は首を振った。
──ツンは嘘をついていない。
【+ 】ゞ゚)「……どうやら検事と弁護人の話は真実のようだが……」
オサムが木槌を鳴らす。
二度目で俯くドクオの肩が揺れた。
それきり身じろぎもしなくなって──
突如、弾かれたようにドクオが顔を上げた。
('∀`)「はははははは!!」
──笑った。
げらげらと、腹を抱えてドクオは笑ったのだ。
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897 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 02:21:38 ID:KoL7RGjsO
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('∀`)「ああ遅ぇ遅ぇ! ここまで来んのにどんだけかかってんだよ!
もっと早い内にケリつくと思ってたのによお、てめえら頭緩すぎだろ!」
ひいひいと呼吸を引きずり、笑い続けるドクオ。
声が──心底楽しそうな声が、内藤の頭を揺さぶる。
ああ。先程の目だ。
オサムは制止を忘れていた。
ひとしきり笑ったドクオは、しゃっくりのように声を跳ね上げながら言う。
('∀`)「こんなもんかあ、だよなあ、みんなそうだもんなあ……
あー馬ッ鹿みてえ……」
('∀`)「はあ……。ずっと言いたかったんだ。
──大きくなったなあ、ツンちゃん」
そうして、我慢しきれぬように、吹き出した。
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902 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 02:25:09 ID:KoL7RGjsO
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気の抜けていたしぃが、はっと口を開ける。
また声が詰まり、しかし今度は、ちゃんと言葉となって飛び出した。
(;*゚−゚)「──13年前に!」
('∀`)「あん?」
(;*゚−゚)「13年前に……僕の父が死んだ! 裁判に行く途中──交通事故で!」
しぃの体が震えている。
それ以上言葉が続かなくても、問い掛けなのは伝わった。
ドクオもそうだったのだろう、ああ、と唸った。
('A`)「あれな。裁判の当日に、事件の決定的な瞬間目撃したんだっつったら喜んで『話聞かせてくれ』って。
目撃者は他にもいたんだから俺になんか構わなきゃ良かったのになあ。
そんで車乗せてもらってー、で取り憑いて事故って。
いや大変だった。殺すまでは楽だったんだが、後始末がよ」
('∀`)「あれ見た? ファイル。血すごかったろ!
俺に繋がるようなこと書いてねえか不安だったからさあ、
全ページ満遍なく汚すの大変だった。警察とか来る前に終わらせなきゃいけねえもんよ」
まるで、功労を自慢するような言い草だ。
かっと顔を赤くし、しぃが目をむいた。
すぐさまギコに抑えられ、彼女は何度も叫ぶように口を大きく開けたが、
結局、泣きそうに顔を歪めて、机に拳を叩きつけた。
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909 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 02:27:48 ID:KoL7RGjsO
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【+ 】ゞ゚)「憑依の──本当の動機は何だったんだ」
('A`)「あ? 動機なあ……ご大層な理由はねえかな。好き勝手やりたかっただけだよ」
ポケットに手を突っ込み、ふてぶてしくドクオは答えた。
わざと挑発するかのようだった。
('A`)「生きたまま何か為し遂げるより、死んでから何かやらかした方が楽しそうだと思ってたんだよ、ずっと。
まあ俺ァ霊感なんかなかったから、死後の世界ってもんがあるんだかすら分かんなくてよ。
ただ無意味に考えるだけだった」
('A`)「そしたら本物が来た。高崎美和だ。
初めは手品か何かかと思ったが、まあ手品で人をぽんぽん殺せやしないわな」
ドクオは、高崎美和に興味を抱いた。
彼女に、ではなく──彼女の持つ知識に、だ。
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913 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 02:29:59 ID:KoL7RGjsO
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('A`)「訴えたりしない代わりに色々教えてくれって近付いた」
(;,゚Д゚)「お母さんを騙してた詐欺師よ」
('A`)「うん、まあ……騙されんのはカーチャンの責任だろう」
ぽんと返された答えに、内藤の理解が遅れた。
──8月に見せた態度は。あの涙は。
母のために怒り、泣いた彼の姿は。
どこに。
ξ゚听)ξ「あなただって必死に止めてたんじゃなかったの?
何度も喧嘩したんでしょう?」
('A`)「近所の目があるし、そもそも俺の金まで使われるのが嫌だったからな」
内藤は一歩、後ろへ退いた。
自分とは比べ物にならない豹変ぶりが、恐ろしかった。
.
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915 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 02:31:30 ID:KoL7RGjsO
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('A`)『霊が見えるってなァどんなもんなんだ』
料亭など、初めて入った。元より外食自体が縁遠い。
不馴れな感覚に落ち着かないながらも、物珍しさが少し楽しかった。
大して舌に合わない天ぷらを口に運びながら、ドクオは正面の女に訊ねる。
<(' _'<人ノ『どんな、と言われましても……』
高崎美和は黙り込んだ。
ようやくまとめたらしい答えを口にしたが、いまいち分からない。
('A`)『あー、もういい。じゃあ霊はどんな感じで生活してんだ?』
<(' _'<人ノ『私は幽霊になったことがありませんから、ぴんと来ないです。
ただ……生きていた頃より出来ることが増えたり減ったりしていて、
便利なところも不便なところもあるように思います』
('A`)『増えたり減ったり、なあ……』
霊は存在している。
たしかに、この世で日々を送っている。
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916 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 02:33:30 ID:KoL7RGjsO
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('A`)『ならやっぱり、生きてる奴と幽霊ってのは、ただ単に別々の生き物ってだけだよなあ』
<(' _'<人ノ『はあ、生き物……。亡くなっているのに?』
('A`)『脱皮したようなもんじゃねえの。体から魂が抜けて』
<(' _'<人ノ『たしかにそう表現する方もいらっしゃいますが』
('A`)『な。つまり死んでもまた生きられるってことだろ』
<(' _'<人ノ『……死にたいのだか、生きたいのだか、よく分からない物言いですね』
首を捻る高崎は興味深そうな顔色をしていたが、実際のところドクオに興味などないのだろう。
そういう女だ。外面がいいから人に好かれるし、
だからこそ様々な人間と関わりを持っていて、大抵の相手にはもう飽きている。
('A`)『ろくな人生じゃねえや。
母親からして、あんたみてえな胡散臭ェのに引っ掛かりやがる』
<(' _'<人ノ『ですね』
('A`)『仕事も性に合っちゃいねえし。大して稼げねえ。いい女も寄ってこねえ。欲しい物も碌にない。
かといって職変えんのも面倒くせえし何かを努力すんのも怠い』
スーツの上から、腹、胸、肩を叩いていく。
体が最も煩わしい。腹が減る。維持するために金がかかる。
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919 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 02:39:03 ID:KoL7RGjsO
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('A`)『今のままの俺じゃ、満足に出来ることも少ねえんだろう。
ああ待った、努力すりゃ何でも出来るみてえな根性論は今いらねえからな。
そもそも俺だってただ楽がしたいわけじゃねえんだから勘違いすんなよ』
<(' _'<人ノ『はあ……』
('A`)『要は自分の肌に合ったやり方さえ見付けられれば、いくらでも頑張れるし上手く行くんじゃねえかって話。
で、人間として生きてる限りは、「肌に合ったやり方」も見付けられそうにねえなと』
<(' _'<人ノ『鬱田さんにとっては、幽霊の方が可能性が広がると?』
('A`)『いやー、分っかんね。でもまあ試してみたいじゃん。
どうせ今の状態にゃ愛想尽かしてるし、つまんねえし』
<(' _'<人ノ『どんな風に生きたいんです?』
海老の尻尾を噛み潰し、漠然とした考えをまとめる。
考えれば考えるほど、無価値で無意味で底が浅い。
我ながら、あまりにもしょうもない願いだ。
('A`)『──誰も逆らえねえぐらいの力つけて、そんで、ムチャやってみてえな』
本当に、その程度の。
#####
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922 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 02:41:49 ID:KoL7RGjsO
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('A`)「んで18年前な。おばけ法が施行されて、詐欺グループがそろそろヤベェかもってことになった。
訊きてえことは大体聞き出して用済みだったし、
この機に俺もこの世からオサラバ──って感じで」
( ^ω^)「……会社のことやお母さんのことがあって自殺したんじゃ」
('A`)「っていう体な。自殺する理由は欲しかった。
理由なく自殺したら、ちょっと目立つからな」
「無事に」幽霊となったドクオは、さっそく計画を立てた。
憑依する相手。時。場所。
まずは隣県のG県で、拝み屋に狙いをつける。
('A`)「霊的に成長すんなら、霊能力者の魂を喰えば手っ取り早く力が付くと教えてもらった。
単純なもんだわ」
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923 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 02:42:53 ID:KoL7RGjsO
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('A`)「方法に関しては──まあ、どうせ先週の審理でもう触れたろ。
難しいこっちゃねえし、あんたらの考えた通りだろうよ。
意外とすんなり行くもんだよな」
憑依し、自殺や事故で死亡させ、体から離れた魂を喰らう。
あるいは憑依したまま長時間を過ごし、じわじわ吸収する──
('A`)「8年前は失敗しちまったが」
ミセ;゚ー゚)リ「っ」
ずっとロマネスクに寄り添い気配を殺していたミセリが、肩を跳ねさせる。
ロマネスクは彼女の前に出て、ドクオからミセリを隠した。
ドクオは嘲笑のみを返した。
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926 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 02:44:43 ID:KoL7RGjsO
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ξ゚听)ξ「……どうして8年前だけは失敗したの」
('A`)「色んな死因を試してきたが、人に殺されるってのはやったことなかったから興味があった。
あちこち喧嘩売って回ったが、まあ上手く行かねえな。アホそうなの選んで絡んだんだがなあ」
(#ФωФ)「……貴様!!」
('A`)「怒んなよ恐えなあ。
──そうこうしてる内に本人の気配が無くなったからよ、
死ぬ前に全部吸収し終えちまったかと思って離れたんだが」
単に、削られた魂が気配を感じ取れぬほどに弱っていただけだった。
それに気付かずドクオはミセリの体を置いて、ヴィップ町を離れた。
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928 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 02:47:09 ID:KoL7RGjsO
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そして2年前、生前も含めると四度目のヴィップ町。
そこでミセリが生きていることを知ったが、それはどうでも良かった。
何年も放ったらかされているようだったから、危険視はしていなかったのだ。
それよりもドクオは、ツンに興味があった。
昔会った子供が立派に成長し、おばけ法の弁護士になっていたからだ。
前にこの町で検事を喰ったのだから、次は弁護士を喰おう──と。
深い意味はなかった。
しかしなかなか隙がない。
一年が経ち、面倒になった彼は、ツンでなくていいから誰か1人を喰ったら町を出ようと決めた。
色々探したが、これまでと違って手こずる。
そして──彼はようやく、内藤に目をつけた。
('A`)「だが、そうやって長居してる内に去年の都村の裁判だ。
また捜査が活発になりやがって。
内藤少年を喰う以外にも、三森ミセリを仕留めなきゃいけなくなっちまった」
そこからは予想外の連続だった。
ミセリの殺害を邪魔され、病室に近付けなくなり、
内藤に憑依する最大のチャンスだと思った8月には別の輩が企てた事件に巻き込まれ──
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930 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 02:50:39 ID:KoL7RGjsO
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('A`)「……笑った笑った。
すれすれで、俺に都合のいいことになっていきやがる」
何故だか、知らないおばけが真犯人になっていた。
何故だか、どんどん周りから信頼されていった。
何故だか、トソンから礼を言われた。
楽しくて堪らなくなった。
どこまで騙せるか、弁護士や警察に関わりながらどこまで出来るか、試したくなった。
( ^ω^)「……」
('A`)「なあ少年。演技が得意なのが、自分だけだと思ってたか?」
声も表情も、小馬鹿にするのを隠そうともしていない。
手のひらが痛み、知らず拳を握りしめていたのに気付いた。
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932 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 02:52:32 ID:KoL7RGjsO
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('A`)「警戒してたつもりだろうが、ちょろいもんだよ少年。
しおらしくしてみせりゃあ簡単に憑依させてさあ」
( ^ω^)「……お母さんに、会うって」
('A`)「嘘に決まってんだろう。
……あんときゃ、上手く行ったと思ったんだがなあ……邪魔が入っちまった」
ξ;゚听)ξ「内藤君の学校のことは……」
('A`)「あー……あんたが疑った通りだ。
少年のクラスメートんとこ回ってみりゃ、何か面白いことになってたから
階段から突き落として……」
('A`)「そしたら簡単に憑依の機会が来やがった。本当にちょろいよ。
……あーあ、少年くらい強い霊感持ちの魂喰えれば、
もうこの町にも未練はねえし、出ていこうと思ってたんだがなあ」
──まあ、今日のこれも楽しかった。
ドクオはそう言った。
やはり楽しんでいたのだ。
結果がどうなろうが、良かったのだ。
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937 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 02:57:39 ID:KoL7RGjsO
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ξ゚听)ξ「トソンさんと猫田家の使役霊もあなたが……」
('A`)「そうだってば。都村と猫は、ほんとタイミング悪いわ……同時に来やがって。
いや、それにしても何で猫が捕まった時点で何も言わなかったのか不思議だったな。
もうどうでもいいけどよ」
ミセ;゚−゚)リ「……っトソン……」
【+ 】ゞ゚)「──本当に罪を認めるんだな」
('A`)「訊く必要あるか?」
【+ 】ゞ゚)「……刑事」
(,,゚Д゚)「ええ……」
ギコが拘束札を持ち、ドクオに歩み寄っていく。
ドクオは大人しくそれを待っていた。
( ^ω^)「……?」
内藤は、首を傾げた。
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938 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 02:59:02 ID:KoL7RGjsO
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ドクオは楽しんでいた。それは確かだ。
本性を現したときの台詞から考えると、いずれ真相を暴かれるのを察していた。
──その後は、どうするつもりだったのだろう。
真相が明らかになれば当然ドクオは捕まる。裁かれる。
しかし、いざ法廷に呼び出されるまでは必死に逃げ、嘘をつき、嫌疑を避けようとしていた男が
そんなにあっさりと諦めるだろうか。
嫌な予感がする。
ギコが、ドクオの眼前に立つ。
そして拘束札をドクオに近付け──
(;,゚Д゚)「っあ゙、っ!?」
ギコの体が、吹っ飛んだ。
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941 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 03:00:22 ID:KoL7RGjsO
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ξ;゚听)ξ「ギコ!」
(;, Д )「ぐうっ!!」
(;*゚ー゚)「う、──わっ!」
検察席の机を巻き込んで、ギコはしぃに衝突した。
書類が舞う。2人が転がる。ギコと机の両方を身に受けたしぃは呻き、幾度も咳き込んだ。
ギコが起き上がろうと床に手をつき、そのままの体勢で固まった。
ξ;゚听)ξ「ギコ! 検──」
(;^ω^)「っ」
ツンが、はくはくと口を動かす。
内藤も同様に。
──声が出ない。
体が動かない。
全身を鋼鉄の糸で絡み取られ、足を杭で打ちつけられ、喉を巨大な手で潰されているかのように。
それら圧迫感は、人間以外にも作用しているらしかった。
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944 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 03:02:18 ID:KoL7RGjsO
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【+ 】ゞ゚)
川;゚ 々゚)「……っ、……っ!」
常に一定の位置に浮かんでいたオサムとくるうが、床に落ちた。
片膝を立てて固まるオサムに、尻餅をついたような体勢のくるうは助けを求めるように視線を送っている。
何か言いたげな口は、引き絞るような唸りを時おり漏らすのが精々だった。
傍聴席も、人間おばけ関係なく、ついには僅かな身動きも呻きさえも出来なくなっていた。
笑い声が、工場の中に反響する。
('∀`)「ああ──最高だクソッタレ!! やっぱ俺の人生死んでからが本番だ!!」
照明がちかちかと激しく点滅し、目眩がした。
外に放り出されたかのように、冷気が肌を突き刺していく。
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946 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 03:04:07 ID:KoL7RGjsO
-
('∀`)「てめえら今まで俺に生かさせてもらってたんだって実感しろ!
傍聴席のおばけども全員喰って、生きてる奴らぶち殺して喰って、
悠然と俺がこの場を去るのを想像してみろよ! 10秒後の現実だ!」
('∀`)「神様が何だよ! 俺に跪いてるあいつが何だってんだ!!」
(;ФωФ)「……!!」
ミセ; − )リ「っ、……っ!」
息が出来ない。
視界が霞む。
全身がぎりぎりと痛む。
倒れたいのに依然として足は縫い留められていて、
急速に増していく疲労感が思考を奪う。
ドクオの笑い声が耳から潜り込み、脳内を掻き乱していく。
-
953 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 03:07:34 ID:KoL7RGjsO
-
('∀`)「すっげえよ! ここにいる奴ら全員喰ったら俺どうなっちまうんだ!
なあ──なあ少年!! 三度目の正直だ!! 絶対にお前を最初に──」
大股で内藤へ向かってくるドクオの足が、止まった。
──こつ。こつ。
硬い音が響いている。
('A`)「……何してんだよ」
【+ 】ゞ゚)
こつん。
木槌を打つオサムの手が止まった。
ドクオと目が合うなり、彼はゆっくり立ち上がる。
ぱたぱたと着物の裾を叩く動作は、ひどく軽い。
('A`)「……おい」
【+ 】ゞ゚)「俺も訊きたいんだが……くるうに何をしてくれているんだ」
川;゚ 々゚)「っ……ぉ、……」
ドクオが後退る。
オサムが一歩出る。
ドクオは身を翻し、駆け出した。
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957 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 03:09:47 ID:KoL7RGjsO
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ごおん、と響いたのが何の音なのか、初め、内藤には分からなかった。
音と共に、ドクオがくずおれる。
ξ;゚听)ξ「──っはあっ……!」
ツンが勢いよく息を吸い込み、机に手をついた。
内藤も呼吸が楽になり、気が抜けた瞬間に倒れ込みそうになって、机で身を支えた。
ごおん、ごおん。
巨大な鐘のような音は、オサムの手元から轟いている。
木槌の音。聞くだけで背筋が寒くなるような。
検察席に散らばる紙の中から拘束札を拾い上げ、オサムはドクオに歩み寄る。
【+ 】ゞ゚)「10秒後が何だって?」
(; A )「ぎ──……ぃいいっ!!」
【+ 】ゞ゚)「10秒ほどしか粋がれなかった人間霊ごときが、何を言っている」
音が鳴る度、ドクオは頭を掻き毟って見悶えた。
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965 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 03:14:52 ID:KoL7RGjsO
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【+ 】ゞ゚)「数十人喰ったから何だと言うんだ。
数百人喰ったから何だと言うんだ」
(; A )「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ!!」
【+ 】ゞ゚)「それで屈するようでは、神として、裁判官として、立ち行かない」
呪詛を吐き出すような苦痛の叫びは、オサムが拘束札を叩きつけた途端に弱まり──
(; ∀ )「……あ゙あっ、くそ、ほんとに……」
──面白かった。
小さな囁きを残して、ドクオごと消えた。
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967 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 03:17:17 ID:KoL7RGjsO
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あまりに呆気ない終わりだった。
わんわんと反響する悲鳴が、うすら寒く内藤の頭を揺らす。
【+ 】ゞ゚)「……話は後で改めて聞くとしようか」
(;,゚Д゚)「オサムちゃん……」
【+ 】ゞ゚)「検事は大丈夫か」
(;,゚Д゚)「あっ……しぃ!」
(;*゚ー゚)「平気です……」
拘束札をしまい、オサムは定位置に戻る。
くるうを支えると、彼は左手にくるうを抱え、右手で木槌を振った。
こん、と、いつもの軽い音。
ギコが机を戻し書類を拾い上げる間に、しぃも回復したようだった。
腹を摩りながら立ち上がる。
顔に痣が出来ていた。
誰からともなく、溜め息が落ちた。