ξ゚听)ξ幽霊裁判が開廷するようです

Last case:憑依罪/後編

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734 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 00:01:06 ID:KoL7RGjsO


 ──訥々と、ツンは「追体験」を語った。
 相手によって記憶の感じ方に違いがあることや、毎回できるわけではないこと。
 これまでの裁判でも、何度か被告人や証人の記憶を元にして弁護の仕方を変えていたこと。


【+  】ゞ゚)「……それはまた、珍しい力だな。
        弁護士より監視官に向いていそうな気もするが」

川 ゚ 々゚)「何でずっと黙ってたの?」

(;,゚Д゚)「そうよー、あんた、それじゃあ……。
     あんたが喋って、くるうちゃんに確認してもらえばそれでもう終わり、っての何個もあったでしょ」

ξ゚听)ξ「……そんなの、裁判じゃないわ」

 ツンの声は、悔しさが滲んでいる。

 彼女は、かつて内藤に聞かせたのと同じことをオサム達にも吐き出した。
 自分の匙加減で物事が決まってしまうのが、とても恐ろしいと。

736 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 00:03:24 ID:KoL7RGjsO

ξ゚听)ξ「くるうさん相手なら、私はきっと、言い回しや表情でどうとでも誤魔化せる。
      それはきっと、裁判長が一番よく分かってくださるんじゃないでしょうか」

【+  】ゞ゚)「くるうはそこまで単純じゃない」

ξ゚听)ξ「何も、嘘を真実と思い込ませるだけじゃなくても、
      私がわざと嘘ばかりつくことで、真偽を有耶無耶にすることは出来ます」

【+  】ゞ゚)「……」

 オサムの否定は続かなかった。

 ──検察席から何かを叩くような音が響いた。
 何が何を叩いたか、など、見なくても分かる。
 しぃが机を叩いたのだ。

(*゚−゚)「……僕は、毎回あなたに踊らされていたんですか」

 感情を押し殺すような声が、冷たく落ちた。

739 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 00:05:44 ID:KoL7RGjsO

ξ;゚听)ξ「……検事」

(*゚−゚)「被告人が真に有罪で、それに相応しい判決が下されて、僕がいい気になっているとき
     あなたはいつも心中で舌を出して笑っていたんですか」

ξ;゚听)ξ「違う! 私だけの力でどうにかなったことなんてない!!」

(* − )「あなたはいつも上から見下ろしていたのか」

 違う、とツンは何度も首を振った。
 俯くしぃに、ギコが掛ける言葉を選んでいる。

 しぃはゆっくりと頭を擡げて──



(*゚ー゚)「……と、いう風に思わないでもないが。
     どのみち、やることは変わらないじゃないか」

 毅然として、そう言った。

 以前までの彼女と──何かが、変わっていた。

748 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 00:10:14 ID:KoL7RGjsO

 腕を広げる。
 大仰な仕草で、彼女は朗々と言葉を紡ぐ。

(*-ー-)「記憶を読む! 大いに結構。
     弁護人に都合よく事実を曲げる。可能だというならやってみるがいい」

ξ;゚听)ξ「……」

(*゚ー゚)「前にも言った筈だ。僕はあなたを敵だと思っている。
     あなたがどのような手口を使おうと、どんな戦法で来ようと、
     僕が納得できないのなら叩き潰す。捻り潰す。ぶっ潰す」

 彼女の声に篭るのは、紛うことなき敵意だ。
 鋭く、血の通った敵意。


 右手の人差し指を真っ直ぐツンに向け──叫ぶ。

750 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 00:11:30 ID:KoL7RGjsO


(*゚ー゚)「出連ツン! 僕はあなたの人間性を、一切! これっぽっちも! 信用していないのだから!」


 ──正直なところ、これまで聞いてきた彼女の声の中で、最も自信に溢れたものだった。

 あまりの勢いに、傍聴席も、オサム達も、ドクオも、ロマネスクも呆気にとられていた。
 呆然としたまま、くるうが呟きを落とす。

川 ゚ 々゚)「……くさくない」

756 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 00:13:19 ID:KoL7RGjsO

 ツンから表情が消えた。
 彼女の顔にだけ影が落ちたように見えた。
 小刻みに肩が震え始める。

ξ )ξ「……ふ」

( ^ω^)「ツンさん」

ξ )ξ「ふふふ……」

( ^ω^)「ツンさん?」

 がばと上げた顔に、内藤は声を引っ込めた。
 口角も目尻も吊り上がっていた。

ξ#゚∀゚)ξ「あーっはっはっは!! 上ッ等だわこのジャリ!!
      本当に可愛げないったら!!」

 私の苦労は何だったの──ツンの叫びに、内藤はこっそり共感する。
 自分も病室で同じ気持ちになった。
 己が重大視していたことが、存外に細かな問題だったときの脱力感は言葉にならない。

(;,゚Д゚)「……あんたらねえ……」

( ^ω^)「まあ、こんなもんですおね」

【+  】ゞ゚)「これで丁度いいんだろうな」

766 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 00:15:56 ID:KoL7RGjsO

ξ#゚听)ξ「あー腹立つ! でもありがとうね検事!
      そうよね、あなたが私の言うこと手放しで信じるわけないわ!」

(*-ー-)「誤解なきように言っておきますが、あなたの仕事ぶりだけは認めないこともない」

ξ#゚∀゚)ξ「おほほほほナッマイキぃ!!」

 ぷりぷり怒りながら、腕をぐるぐる回すツン。
 仕草や声とは反対に、どこかすっきりしたような顔色だった。

 そして、すっと目を細めると、再度ドクオへ体を向けた。
 ドクオは眉根を寄せている。至極つまらなそうに。

ξ゚听)ξ「改めてお話ししましょ?」

('A`)「大した信頼関係だな」

ξ゚听)ξ「そうね。ここまで嫌われてて光栄だわ。本当にありがたい」

770 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 00:18:32 ID:KoL7RGjsO

('A`)「……でも、まあ、俺も検事を支持する。
    みんながあんたの発言を信じるようになっちまえば、
    あんたは裁判の流れを作ることが出来るわけだからな」

ξ゚听)ξ「いくら何でも自由自在とは行かないけど」

('A`)「どうだか。内藤少年だってこのことを知ってたんだ。
    その気になりゃあ、それとなく少年を促して
    自分の望む方向へ話を動かすことも可能だろう」

 弁護士として事件を俯瞰的に見られる立場にいる以上、
 仮にツンとしぃのバランスが崩れてしまえば、ツンはいくらでも工作し得る。

 ドクオはそれを指摘し、ツンに対する信用性を欠こうとしたのだろう。
 存外に、彼女と対立する壁の頑強さが並ではなかったが。

(*゚ー゚)「諸々踏まえてお聞かせ願いたいんですが、あなたが見た彼女の記憶ってのはどんなものなんです」

 しぃの問いはツンに対してだ。
 この段階に至っても尚、怪訝な顔付きなのが実に彼女らしい。

772 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 00:21:33 ID:KoL7RGjsO

ξ゚听)ξ「……鬱田ドクオさんという男性の霊を知ってるかしらと訊ねたわ。
      そうすることでドクオさんにまつわる記憶を想起させた」


 ツンが得た記憶は、視覚と聴覚。それと一部の感情、思考。

 映像は所々ぼんやりしていたが、声ははっきり再生されたという。
 部屋の霊道、その影響、取り憑くために霊能力者を確保しておけという指示。
 それらは確実にドクオの声だった。


ξ゚听)ξ「彼女は、言うことを聞かないといけないと思っていた。
      ……何故そう思うかまでは読めなかったけれど、
      私は怯えてるように感じた」

(,,゚Д゚)「怯えてる……」

(*゚ー゚)「最後のはあなたの単なる感想でしょう」

ξ--)ξ「そうね、撤回する」

774 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 00:23:08 ID:KoL7RGjsO

【+  】ゞ゚)「実際はどうだったんだ?」

 ぽぽちゃんは少ししてから、自分への質疑だと理解したのか、肩を揺らした。
 ちらりとドクオを見、目を逸らし、何も答えない。

 何でそんな反応するんだよと、ドクオは弱りきった声を出した。

(*゚ー゚)「彼女が明確な返答をしない以上、どうとでも取れる」

ξ゚听)ξ「……うん」

(;'A`)「あーもー、待ってくれ。俺がこいつに会ったのは確かだ。間違いなく。
    霊感持ちの奴を探してたのも──それは、その通りだ」

 ホールドアップするように両手を顔の位置まで上げてドクオが言う。
 心底嫌々といった雰囲気だ。
 が、しぃの返しは「そうでしょう」なんてもの。

775 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 00:25:09 ID:KoL7RGjsO

(*゚ー゚)「憑依対象を探していた理由については、弁護人の方がよく知っている筈ですが」

ξ゚听)ξ「……そうね。お母さんと会うために生きてる人の体を借りたがってた。
      霊感の強い人がいいっていうのも、去年言ってたかしらね」

(;'A`)「その、憑依したい理由については話してなかったんだ。
    だからこいつも物騒な勘違いして怯えちまったんじゃねえか?」

(*‘ω‘ *) …ニャ…

 彼女の「発言」は誰にも理解できない。
 真偽のほどが伝わらない。

( ^ω^)「もう開き直って、もう一回ぽぽちゃんさんの記憶見せてもらったらいかがですかお?」

川 ゚ 々゚)「くるうもちゃんと監視官やるよ!」フンフン

(;‘ω‘ *)、

ξ;゚听)ξ「いや、残念だけど今の彼女の状態じゃ難しいわ」

 緊張してしまっているし、ツンの力を知って、警戒しない筈もなかろう。
 たとえ善良な霊でも、記憶を辿られるなんて歓迎したいものではない。

776 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 00:27:52 ID:KoL7RGjsO

 ──状況を一旦整理しよう、とオサムが提案する。
 傍聴席の方もそうしてもらいたかったらしく、ふっと空気が緩んだ。


【+  】ゞ゚)「17年前から続く憑依事件と、三森ミセリへのつきまとい、殺霊事件、
        内藤ホライゾンへの憑依殺人未遂──話に上がった事件はこんなところか」

【+  】ゞ゚)「検察側の主張は初めの通り、連続憑依事件とつきまといと殺霊事件は被告人ロマネスクの仕業であり、
        憑依殺人未遂はそもそも事件ではなかった──というものだな」

(*゚ー゚)「その通りです」

【+  】ゞ゚)「反対に弁護側は、連続憑依、つきまとい、殺霊全ての真犯人を鬱田ドクオとし、
        故に内藤ホライゾンへの憑依にも殺意があった筈だ、と言いたいわけだ」

ξ゚听)ξ「はい」

(,,゚Д゚)「面倒臭いことになったもんだわー」

( ^ω^)「本当に」

 くるり、木槌を右手で器用に回してオサムは思案する。

779 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 00:30:49 ID:KoL7RGjsO

【+  】ゞ゚)「『殺霊事件の日に三森ミセリの病室に居た』、
        『内藤ホライゾンの学校でのいざこざを知っていた』『家出した彼についていった』、
        『霊能力者に憑依するため他者に命令していた』──」

【+  】ゞ゚)「これまでの話を聞く限り、鬱田ドクオに怪しい点は色々あるが──
        それらは全て、本人の反論内容でも納得できるものばかりだ。
        ……つまり、どうとでも取れる」

川;゚ 々゚) ウーン

【+  】ゞ゚)「弁護人の論調は、『鬱田ドクオが真犯人だった場合』が認められて初めて意味を持つものであり、
        『鬱田ドクオが真犯人だと示す』ものではない」

【+  】ゞ゚)「対して、被告人、ロマネスクが一連の犯人であることを示す証拠や証言は
        はっきり残されている。
        どちらに説得力があるかというのは明白だ」

 顔の右側を覆う面を、左手で撫でる。
 彼の言葉は尤もだ。

 しかし──

780 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 00:33:33 ID:KoL7RGjsO

( ^ω^)(……さっきのは……)

 内藤だけが見たであろう、ドクオの顔が気にかかる。

 彼が一瞬見せた目付きは、あれは──


 何かを「楽しむ」目だった。


 もしも今一度、ドクオを信じるかと問われれば。
 きっと内藤は頷けない。

【+  】ゞ゚)「被告人は、相変わらず何も喋らないつもりか?」

( +ω+)

川 ゚ 々゚)「自分が犯人なのかどうかも言わないよね……」

(*゚ー゚)「罪を認めようが認めまいが、僕は集めた情報からロマネスクが犯人であると判断し起訴しました。
     弁護人も、それを否定する気ならそれなりの何かを提示すべきだ」

 証拠を出せ、とは初めから言われている。
 しかしツンはそれを出さない。あれだけ堂々と告発をしたからには、根拠がある筈なのに。

 両手をつかね、机を見下ろすツン。
 彼女の唇が動く。声はない。
 瞳に迷いの色が灯る。

783 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 00:35:45 ID:KoL7RGjsO

( ^ω^)「どうかしましたかお」

ξ゚听)ξ「……」

( ^ω^)「何かあるなら、言った方がいいですお。みんな聞いてくれますし」

ξ゚ -゚)ξ「……」

ξ゚ー゚)ξ「そうね」

 大したことを言ったつもりはなかったけれど、ツンの迷いが薄れた。
 視線を上げる。


ξ゚听)ξ「……トソンさんの記憶も見ました。殺霊事件の日、当日の」


 また「追体験」を元にした話だ。
 皆はまず、そう認識して、それから首を捻った。

【+  】ゞ゚)「弁護人のそれは、霊と相対しなければ出来ないんじゃなかったか」

ξ゚听)ξ「そうです」

784 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 00:37:54 ID:KoL7RGjsO

(;,゚Д゚)「トソンさんは病室で消えたんだから、ツンと会ってる暇はなかったでしょ」

ξ゚听)ξ「憑依契約書にトソンさんの記憶が残ってたの」

( ^ω^)「いや、『残ってた』ってあんた」

 どういうことだというオサムの問い掛けに対し、
 説明が難しい、とツンの答え。
 もう投げやりだ。

 一応形式として、くるうは「臭わない」と補足した。

(;'A`)「あんたサイコメトリーじゃねえっつったじゃねえか」

ξ゚听)ξ「ええ、それとは違うわよ。
      ……そっか。私の力がどこまで及ぶか確かめたかったから、
      あの日あんなことを言い出したのね、あなた」

 サイコメトリー。
 物質から思念を読み取れれば、もう無敵だろうとドクオは言っていた。
 ──もしも仮にツンの力がそれだったら、ドクオはあの後どうしたのだろう。

786 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 00:39:13 ID:KoL7RGjsO

(*゚ー゚)「……都合が良すぎやしないか」

ξ;゚听)ξ「だから言うの迷ったのよ……」

 話の流れは当然、どんな記憶を見たのかという方向へ定まる。
 しぃは既に胡散臭さしか感じていない顔である。

 ツンは頭を掻き、ぽつりぽつりと語った。

ξ゚听)ξ「床に倒れてるトソンさんの視点から始まったわ。
      そこはミセリさんの病室で、ドクオさんとロマネスクさんが争っていて……」

ξ゚听)ξ「それで──ロマネスクさんがナースコールを押したの」

(,,゚Д゚)「ロマネスクさんが?」

 きゅっと引っ張られるように、空気が締まった。

 ──ドクオは、自分がナースコールを押したと言っていたではないか。

787 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 00:41:18 ID:KoL7RGjsO

ξ゚听)ξ「それでドクオさんが逃げ出し、ロマネスクさんもそれを追って、
      病室には倒れるトソンさんとベッドに眠るミセリさんが残された」

 トソンの意識は薄れていき──それで終わり。

ξ゚听)ξ「……追いかける間際に、ロマネスクさんは何か拾ってミセリさんの手に持たせた。
      あれが外れくじだとするなら、ロマネスクさんはドクオさんの手掛かりを残そうとしてくれたのね」

( ^ω^)「……それって……」


 ──とても、重要な話である。
 それ故に皆、その話を信じられなかった。

 誰がナースコールを押したかは大事な点だ。
 ミセリを殺そうとした者がそんなことをする筈がない。
 誰かが駆けつけるなんて、その状況では邪魔にしかならないからだ。

 ナースコールを押した者は──

 ミセリを助ける意思を持っていたことになる。

790 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 00:45:02 ID:KoL7RGjsO

(;ФωФ)

 全員がツンを訝る中、ロマネスクだけが目を丸くし、

('A`)

 ドクオだけが、足元を見ていた。

ξ゚听)ξ「……これが、私がロマネスクさんを無罪だと信じ、ドクオさんを疑う最大の理由です。
      ──さすがに、これを信じてくれなんて無茶は言えないわ」

 ツンにとっては一番の拠り所だ。
 しかしツン以外の者には、とてもじゃないが簡単に受け入れられるものではない。

(*゚−゚)「……僕は信じない」

ξ゚听)ξ「うん、そうして。これが通ったら駄目だと思うし、
      ……見間違いの可能性だって、ゼロじゃないもの」

 くるうが口を動かした。
 それを、オサムの手が止める。

791 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 00:46:42 ID:KoL7RGjsO

【+  】ゞ゚)「見間違いの可能性は確かにあるのか」

ξ゚听)ξ「はい」

【+  】ゞ゚)「被告人、今の話は事実か?」

( ФωФ)

( +ω+)「……」

【+  】ゞ゚)「……これでは、今の弁護人の話を容易に信じることは出来ない。
        参考にはするが、信憑性にはやや欠ける」

 そうした方が、きっとツンのためにもいい。

 彼女にとってその記憶は弁護をする上での武器ではなく、
 弁護をするための基盤なのだ。

 トソンが残したそれを、信じているからこそ。

792 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 00:49:20 ID:KoL7RGjsO

 ──「なあ」。
 声がした。

 ドクオからだった。
 未だ傍聴席との境界に立ち、ぽぽちゃんの前にいる。

('A`)「なあ、裁判の結果によっちゃ、こいつ逮捕されんだろ?
    俺が有罪なら──こいつも、故意的犯罪協力罪になる。未遂、って付くだろうけど」

(;‘ω‘ *) ミァ…

('A`)「逆に俺が無罪ならこいつも無罪だ。
    ……もちろん俺は悪いことしちゃいねえ。
    弁護士、冷静に考えろよ。俺だけならまだしも、こういう善良なおばけまで巻き込むことになんだぞ」

 その発言に真っ先に反応したのはビロードだ。
 反射的に立ち上がり、希望を宿した瞳でツンを見る。

794 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 00:51:18 ID:KoL7RGjsO

(;><)「ぽ、ぽぽちゃん、許してもらえるんですか!?」

(;‘ω‘ *) …

('A`)「ほら見ろ弁護士、こんなに心配してんのに可哀想だろ」

(;<●><●>)「ビロード!」

 ワカッテマスが咎め、ビロードを座らせた。
 彼は、弟の眼差しがツンの妨げになることをよく理解してくれている。

 しかし座らせたところで瞳を隠せるわけでもない。
 いっそ暴力的な期待が、ツンへ降り注がれる。
 こういうのが、ツンには一番の毒だ。

796 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 00:55:05 ID:KoL7RGjsO

 けれどもツンは──揺らがなかった。

ξ゚听)ξ「……あなたが凶悪な霊で、彼女がそれを知っていたのなら、
      彼女は言うことを聞かざるを得なかったのだから
      罪の適用がされたとしても、極々軽い刑で済む」

 彼女はあくまでも、ドクオが真犯人であると信じている。

 過去、彼女は他者を思いやり、そのために犯人を逃そうとしたことをひどく悔いていた。
 きっと、もう、同じことはしない。


 そしてそれは恐らく、ドクオの予想図から大きく外れた反応であった。

 一瞬、ドクオの顔から色が消えた。
 かと思えばまるで反動のように、青白い顔に赤みが差す。

 歯を食い縛り、彼は咆哮するかのように怒鳴った。

(#'A`)「だから──言い掛かりじゃねえかよ、全部!!」

川;゚ 々゚)「ひゃうっ」

800 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 00:58:01 ID:KoL7RGjsO

(#'A`)「俺が怪しく思えたからって、何もかも俺におっ被せようってなァ短慮すぎやしねえか!?
    そもそもあんたが勝手に信じてる『根拠』の正確さはどう証明する!!」

 くるうがオサムにしがみつく。
 オサムはくるうの背を撫でながら、黙ってドクオの怒りを聞いていた。

(;,゚Д゚)「ねえ、ツン、あたしもちょっと──告発っていうのは突飛だったんじゃないかと思うの。
     あんたが言うことも分かるっちゃ分かるけど、ドクオさんの反論でも充分に筋は通ってるし、
     トソンさんの記憶だって確かなもんじゃないんでしょ?」

(*゚ー゚)「殺霊はまだしも、憑依事件まで彼の犯行だというのは言い過ぎに思います。
     これまでの事件現場には、被告人の痕跡は見付かっているが
     証人が関与した証拠はないんですよ」

 オサムはまだ何も言わない。
 様子を窺っている。
 判断を下すために、因子を集めている。

( ^ω^)「……ドクオさんが、ツンさんに記憶を見せれば済むんじゃありませんかお。
       それで無罪が証明されれば、ツンさんだって諦めますお」

(#'A`)「馬鹿の一つ覚えみてえに俺を犯人だ悪霊だって騒いでる奴を、どう信用すりゃいいんだ!
    言いかた次第で誤魔化せるって本人が言ってたじゃねえか!」

804 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 00:59:50 ID:KoL7RGjsO

(#'A`)「ああ、畜生! あんたがそんな奴だと思ってなかったよ俺は! がっかりだ!!」

川;゚ 々゚)「お、オサム、こわい……」

 くるうが顔を伏せ、ようやくオサムの右手が動いた。

【+  】ゞ゚)「証人。落ち着け」

(#'A`)「落ち着いてられっか! どう責任とってくれんだよ!
    こんだけの騒ぎにしといて、ごめんなさいで済むと思ってんのか! おい弁護士!!
    ふざけんなよ!! クソッ……クソッ!!」

(;,゚Д゚)「お、オサムちゃん、今日はもう裁判続けられる状態じゃないんじゃないかしら……」

 ドクオの剣幕にすっかり萎縮した様子のギコが、オサムに訴えかける。
 ツンはにわかに焦りを見せ、右手を挙げた。

ξ;゚听)ξ「ま、待っ……!」

【+  】ゞ゚)「そうだな。弁護人、証人が犯人だと示す証拠がないのなら、
        これ以上この場で証人から話を聞くことは認められない」

808 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 01:02:13 ID:KoL7RGjsO

ξ;゚听)ξ「は、犯人と言える証拠──は」

 言いにくそうにするその態度が、何よりの答えだ。

【+  】ゞ゚)「ないんだな」

ξ;゚听)ξ「……でも、事件に関与している……かもしれない、証拠は」

【+  】ゞ゚)「『かもしれない』じゃない。断言出来るだけの説得力を持つ証拠だ」

ξ;゚听)ξ「……」

【+  】ゞ゚)「殺霊事件、内藤ホライゾンへの憑依、さっきの件──
        それらも結局明白な証拠はなく、たしかに言い掛かりとされても仕方ないとは思わないか」

ξ;゚ -゚)ξ「……」

【+  】ゞ゚)「これ以上続けても、告発するに足る決定的な証拠や証言がないのならば
        同じことを繰り返すだけではないのか」

 ツンの顔がどんどん下がる。
 こん、と木槌が鳴ったのが、最後の合図。

【+  】ゞ゚)「……場が荒れた。
        今日はこれで閉廷として、検事達は改めて証人から──」

ξ;゚听)ξ「駄目です!!」

 ──オサムの冷眼が、ツンを射抜いた。

809 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 01:04:01 ID:KoL7RGjsO

ξ;゚听)ξ「閉廷は、閉廷は駄目です!」

 怯みながらも彼女は叫ぶ。
 傍聴席も、裁判長ですらも、うんざりした様子を隠しもしない。
 それにもめげずに声を吐き出す彼女の姿は、滑稽で、痛ましくて──

ξ;゚听)ξ「ドクオさんが無関係だっていう証明も出来てない!
      でも今の段階じゃ彼を強く拘束することも出来ない!
      ……閉廷なんてしたら、逃げる隙を与えかねません!」

(#'A`)「この期に及んでまだ俺を犯人扱いかよ!? 大した自信だなあオイ!!」

(;,゚Д゚)「ツン、もう無理よ!」

 くるうがまた怯え出す。
 そろそろオサムも限界だ。
 このままだと、黙っても喚いても閉廷となるだろう。

( ^ω^)「──裁判長」

 恐慌状態が、ほんの少し収まった。

812 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/20(土) 01:06:11 ID:KoL7RGjsO

( ^ω^)「ツンさんに、もうちょっとだけ、時間あげてくださいお」

 辺りに集まっていた熱が、すっと冷えた。

 まだ終わらせるわけにはいかない。
 まだ真実の一端も掴めていない。

(#'A`)「……少年……」

 あの笑みの意味を、内藤はまだ知らされていない。


 オサムは廷内を見渡す。
 最後にツンへ目を留め、薄く吐息。溜め息かもしれなかった。

 がん、と。
 強く強く、木槌が打ちつけられる。

【+  】ゞ゚)「休廷だ! ──10分……15分やる。弁護人はその間に
        証人をここに留まらせる理由を考えろ。
        相応の理由が見付からなければ、先の決定通り今日は閉廷とする」


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