-
542 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 21:03:25 ID:bwAoZRz2O
-
#####
ミセ*゚ー゚)リ『一年ぶりー』
∧ ∧
(#ФωФ) カーッ
ミセ*゚ー゚)リ『会っていきなり威嚇かあ、歪みねえな。
ロマ、ちょっと来て来て』
∧ ∧
( ФωФ)?
ミセ*゚ー゚)リ『やわらかーい』ギュー
∧ ∧
(#ФωФ)『暑い!』
ミセ*゚ー゚)リ『……』ギュー
∧ ∧
( ФωФ)『……あつい』
-
543 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 21:04:13 ID:bwAoZRz2O
-
ミセ*゚ー゚)リ『友達がさあ。死んじゃったんだ、半年前に』
∧ ∧
( ФωФ)『……』
ミセ*゚ー゚)リ『一番仲良くって、すごく好きだったんだけど、死んじゃった』
∧ ∧
( ФωФ)『……』
ミセ* ー )リ『……』
ミセ*;−;)リ『……ロマぁあー』ギュウウウ
∧ ∧
(;ФωФ)『ちょ、待、強』ゲフッゲフッ
-
544 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 21:04:56 ID:bwAoZRz2O
-
ミセ*;−;)リ『就活上手く行かないんだよ、ヤバいよ本当にヤバいよ卒論も進まないんだよお。
もうやだよお、やだやだやだやだ……』
∧ ∧
(;ФωФ)『離……っ』
ミセ*;−;)リ『……トソンがいたら、慰めてくれんのに……
トソンの馬ー鹿……』
∧ ∧
(;ФωФ)『……』
∧ ∧
(;ФωФ)『貴様におうぞ』
ミセ*;−;)リ『えっ、ちょっと何やめてよ、ちゃんとお風呂入ってるよ! 服も洗ってるし!』
∧ ∧
( ФωФ)『そういうことでは……、……貴様、住まいを変えたか』
ミセ*;−;)リ『住まいって、去年から一人暮らし始めたけど』
-
545 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 21:05:50 ID:bwAoZRz2O
-
∧ ∧
( ФωФ)『貴様は家族と一緒の方がいいのではないか』
ミセ*;−;)リ『えー……何だよ、家族とそんなに仲良くなかったもん、もう戻るの無理だよ』
∧ ∧
( ФωФ)『……』
ミセ*;−;)リ グスッ
∧ ∧
( ФωФ)『おい馬鹿。貴様、いつA県に帰る』
ミセ*;−;)リ『ばあちゃんのお墓参りに来ただけだから、もう帰るよ』
∧ ∧
( ФωФ)『なら、我輩も連れていけ』
ミセ*;−;)リ『……ええ?』
#####
-
546 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 21:06:53 ID:bwAoZRz2O
-
(,,゚Д゚)「──これからどうすんの?」
猫田家の門をくぐりながら、ギコが問う。
午後5時。薄暗い。
先程、内藤の病室に行って家出の件を聞いた。
ドクオの証言と食い違う点は無い。
彼は自分の意思で家出し、自分の意思でドクオに憑依を頼んだ。
(*゚ー゚)「鬱田ドクオについて調べよう。
外れくじの調査とも並行して……」
事務所代わりの離れへ向かう。
窓から明かりが漏れているのを見て、しぃの眉間に皺が刻まれた。
ちょくちょく家と神社を往復したが、電気はつけていなかった筈だ。
窓を覗き込み、舌打ちした彼女は、ドアを乱暴に開けた。
-
547 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 21:07:58 ID:bwAoZRz2O
-
ξ゚听)ξ「あ、お邪魔ー」
(#゚ー゚)「不法侵入で逮捕する」
(,,゚Д゚)「さようならツン……」
ξ;゚听)ξ「いやいや、でぃさんが入れてくれたの!」
ソファに座っていたツンは、ギコから逃げるようにソファの後ろに隠れ、両手を挙げた。
しぃが金髪を掴み上げる。
(#゚ー゚)「盗んだものを置いていってくれれば、今回だけは見逃しましょう」
ξ;゚听)ξ「何も盗ってないから! ほら鞄のなか見ていいし何なら服も脱ぐから確認して!」
言われた通りにしぃはツンの鞄をひっくり返し、服の上から彼女の体を叩いた。
たしかに何も盗っていないようだ。
ξ゚听)ξ「こいつマジで確認しやがった……マジで疑いよった……」
(,,゚Д゚)「で、何の用よ」
ξ゚听)ξ「いや、つーさんが昔担当した事件の資料見せてほしくて」
(,,゚Д゚)「叔父様の?」
椅子に座ろうとする姿勢のまま、しぃは動きを止めた。
見定めるようにツンを睨めつける。
-
548 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 21:08:58 ID:bwAoZRz2O
-
(*゚ー゚)「何のために」
ξ゚听)ξ「先日、鵜束検事がたっぷりラブレターを送ってきてくれたんだけど
その中に、つーさんが20年前に受け持った事件の記事が入ってたのよ」
これ、と言って、ツンは新聞記事のコピーを何枚か見せた。
20年前、この町の小さな会社の休憩室で女性が死亡したという事件の記事だった。
体質的に飲んではいけない薬を服用してしまったことによる事故死、として「表では」処理されている。
実際は彼女に恨みを持つ霊の仕業だった。
その霊を起訴し、有罪判決へ導いたのが、しぃの父、つーだ。
(*゚ー゚)「鵜束検事が……」
ξ゚ -゚)ξ「あの人ってつーさんの知り合い?
つーさんがご存命の頃なら、鵜束検事はまだ子供だったと思うけど。行っても中学生くらいかしら」
(*゚ー゚)「……僕の父を尊敬していると言っていました。記録でしか知らないようですが」
ξ゚听)ξ「へー。鵜束検事にも殊勝なとこあんのね」
しぃはいくつかある段ボール箱の前から、ファイルを一冊取り出した。
経年により劣化はしているが、読むのに支障はない。
(*゚ー゚)「どうぞ」
ξ゚听)ξ「ありがと」
-
549 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 21:10:16 ID:bwAoZRz2O
-
(,,゚Д゚)「ねえツン、あんたちゃんと寝てる? 顔疲れてるわよ」
ξ゚听)ξ「あんたらこそ寝てんの」
(,,゚Д゚)「ノーコメント」
ギコが淹れたハーブティー(なんちゃら言う葉が疲労回復云々と説明されたがしぃの記憶には残らない)の匂いが
室内に満ちていく。癖のある味と香りが、しぃには何というか、難しい。
苦手なわけではないがとにかくよく分からない。
ちびちび飲みながら資料をじっと見つめるツンに、しぃは声をかけた。
(*゚ー゚)「全手さんの部屋の……『ぽぽちゃん』? とかいう霊ですが、
こちらが何を訊いても頷くか首を振るばかりで全く喋らないんですが」
ξ゚听)ξ「照れ屋だからね。明日は私も同席するわ」
(*゚ー゚)「そうしてください。ギコ、神社に監視官の協力許可願いを出しといてくれ」
(,,゚Д゚)「はいはい」
-
550 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 21:11:14 ID:bwAoZRz2O
-
ξ゚听)ξ「えーと、証人リスト……。
検事さん、この事件って他に資料ないの?」
(*゚ー゚)「ありませんよ。それで全部です」
ξ゚ -゚)ξ「そう……裁判記録の方、情報抜けてない?」
(*゚ー゚)「その頃はヴィップ町でおばけ法が施行されてから5年程度ですから、
今以上に大雑把に済ませてるところが多々あります」
コピーは出来るかとツンが訊くので、備え付けのコピー機で書類を複製する。
ありがとうと言いながら受け取るツンの顔には、たしかにギコの言う通り、疲れが見て取れる。
ξ゚听)ξ「ん……こんなとこかな。
じゃあね、また明日。ごちそうさま」
(,,゚Д゚)「送ろうか?」
ξ゚听)ξ「ううん、大丈夫」
足取りはしっかりしている。
彼女が門をくぐって去っていくのを見届けてから、しぃはドアを閉めた。
-
552 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 21:12:21 ID:bwAoZRz2O
-
(,,゚Д゚)「なんでニュッちゃんがツンに20年も前の事件を……」
(*゚ー゚)「さあな」
ファイルを箱に戻しかけ、やめた。
あの女がこのタイミングで求めてきたということは、今回の件に無関係ではなかろう。
箱の前にしゃがみ込む。
しぃが汚れの酷いファイルを拾い上げると、ギコが傷ましげな顔をした。
平成12年。
今から13年前、父が最後に担当した事件。
事故の名残が染みつく血痕に触れ、しぃはファイルを一通り眺めて、閉じた。
ロマネスクの裁判を始めてから、ずっと頭にちらつく疑問がある。
霊能力者達の死。自殺や事故に見せかけた殺人事件。
──父は。
父の死は。
-
553 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 21:13:30 ID:bwAoZRz2O
-
(*゚ー゚)「……休憩は終わりだ、捜査を再開しよう」
ティーカップを持ち上げ、中身を飲み干した。
ヴィップ町の地図を広げる。
どこに人員を向かわせるか考えていると、視線を感じて顔を上げた。
ギコがしぃを見つめている。
何か言いたそうな、しかし躊躇っているような。
なんだ、としぃが訊ねれば、観念したように口を開いた。
(,,゚Д゚)「前の……神隠しの裁判、見たでしょ」
(*゚ー゚)「ああ」
(,,゚Д゚)「ニュッちゃんは結果的には負けたけど、捜査方法に関して言えば間違ってなかったわよ」
──何を言いたいのか理解できぬほど愚鈍ではない。
ぴりぴり、空気が震えた。
-
554 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 21:15:05 ID:bwAoZRz2O
-
(,,゚Д゚)「叔母様にお願いして、『猫田家』の力を借りた。
速さも、正確さも、あんたが自力でやるより上だったでしょう」
(*゚−゚)「……そうだな」
(,,゚Д゚)「……あんたが叔母様を嫌ってるのは分かるけど、
意地だけで何とかなる仕事じゃないのよ」
地図を畳む。
しぃの目はギコを睨んだまま。
(*゚−゚)「僕があの人の力を借りるのを心底嫌うと知ってて、お前はロマネスク逮捕のために
あの人の使役霊であるフサを借りた」
(,,゚Д゚)「あたしが独断でやったことだから、あんたのプライド傷付けちゃいないわ」
(#゚−゚)「あの人が僕の仕事に少しでも関わるのが嫌だと言ってるんだ!!」
机を叩く。
ティーカップが転がり、床に落ちた。
-
555 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 21:16:23 ID:bwAoZRz2O
-
(#゚−゚)「あの人は父さんを蔑ろにした!!
父さんがどれだけ努力しても! 功績を残しても!」
検事という職ごと、母は父を見下した。
しぃの誇りを無下にする。
それが許せない。
父の偉大さを知らぬ女に、介入してほしくない。
父はいつも、「猫田」に頼らず捜査をした。
父は──
(,,゚Д゚)「……叔父様だって叔母様の力を借りてたわ」
畳んだ地図の上に置いた左手が、ぐしゃりと紙を潰した。
-
556 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 21:18:04 ID:bwAoZRz2O
-
(,,゚Д゚)「いくら叔父様でも、あれだけの功績を1人じゃなし得ないわよ。
あんただって薄々勘づいてるでしょ」
(*゚−゚)「……」
(,,゚Д゚)「もちろん叔父様の実力もあったけれど、それだけじゃなくて──
いつだって叔母様の力に頼ったし、警察にも弁護士にも頼ってた。
自分1人で何もかも出来るなんて思ってなかったのよ」
父は。
(,,゚Д゚)「しぃが思うほど、叔父様は高潔な人ではなかったと思うの……打算も欲もあったわ。
叔母様と結婚したのだって、そうすることで
自分が得られる利益を計算してた筈でしょ」
(#゚ー゚)「違う! 父さんは──父さんは、検事として、……自分の正義を……」
父は何故、あの母と結婚したのだろうかと。
考えないことも、なかった。
互いに愛情を抱いている様子はなかった。
猫田家の誰かに言われて仕方なくそうしたのだろうけれど、
想い合わない者同士が婚姻を結ぶことに、父が何も思わぬ筈がない。
婚姻は──父にとって「正しい」ものだったのか。
-
557 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 21:18:51 ID:bwAoZRz2O
-
彼が駄目でも、猫田家には他にも婿となる候補がいた筈だから、断ることは出来ただろう。
なのに母と結婚したというのは、
つまり、「猫田の本家当主」との結婚によって彼に齎されるものがあったから。
それが、父にとっては正義と同等のものだったからだ。
(,,゚Д゚)「ええ、そうよ、正義のために。
高潔ではなくても、出来た人だったわ。紛れもなく善人だった。
人間臭い善人だったから、みんな叔父様のことが好きで、尊敬してたのよ」
唇を噛み締める。
それを咎めるように、ギコの手がしぃの口を開かせた。
その指を噛んでやりたくなったが、ただの八つ当たりでしかないのは分かっていたから、やめた。
(,,゚Д゚)「……しぃはね、叔父様と顔は似てるけど、それ以外のところは全然違うわ」
(# − )「……、うるさい……」
父に近付きたいと願っているしぃにとって、それはどんなものより侮辱となる言葉だ。
けれど、何より腹立たしいのは、その一言を否定できない自分。
-
558 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 21:20:11 ID:bwAoZRz2O
-
(,,゚Д゚)「誰かに頼るのって、悪いことじゃないのよ。汚いことじゃないのよ。情けないことじゃないの。
たとえ相手が嫌いな人だって、役に立つのなら、利用していいのよ。
そういうことが出来たから、叔父様はいつも『真実』に辿り着けてたんだと思う」
(,,゚Д゚)「ブーム君を法廷に連れてったとき、言ったでしょ。全部1人でやらなくていいの。
あんたがその通りにしたから、裁判は正しい方向に行ったじゃない」
突如、違和感。
しぃは怪訝な顔をした。
その表情をどう受け取ったのか、ギコが焦れたように続ける。
(;,゚Д゚)「しぃ、あたし、あんたには本当に頑張ってほしいの。
法廷でのあんたは好きだけど、捜査のときのあんたは何ていうか独りよがりが過ぎるっていうか……」
(*゚−゚)「……」
苛立ちが収まった。
──ギコは一部、思い違いをしている。
途端に、真剣な顔で自分を説得しようとしているギコが可笑しくなった。少しだけ。
そうして僅かに余裕が出来たことで、煮えたぎっていた色々な事柄が胸の中で落ち着き出した。
-
559 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 21:21:39 ID:bwAoZRz2O
-
(*゚ー゚)「何を言ってるんだお前は」
(;,゚Д゚)「な、なによ、なに笑ってんのよ。言っとくけど今あたしは真面目に……」
たしかに自分は度々思い上がる。慢心する。傲慢だ。
だからといって、全能感など持ってはいない。
寧ろ何度も叩き潰された。
高みに登ろうとする度に蹴落とされた。
ξ゚听)ξ
出連ツン。
あの女に負ける度、思い知る。
自分はまだまだ出来ちゃいない。
あの女に勝つ度、思い知る。
自分はまだまだ独り立ちには程遠い。
-
560 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 21:25:13 ID:bwAoZRz2O
-
(*゚ー゚)「……頼ってるだろ。昔からお前には頼りっぱなしだ。
僕1人きりで何か出来たことなんてないじゃないか。
そもそもお前がいないと霊も見えない身だぞ」
ツンのことを考えると、不思議としぃの胸に風が吹く。
屈辱と自尊を繰り返されて、長年凝り固まってきたあれこれを、次々にひっくり返されていく。
一番強く風が吹いたのは、神隠し罪の裁判だった。
ξ゚听)ξ『しぃ検事、ブーム君、──来てくれてありがとう』
あのとき、しぃは、「良かった」と思った。
自分がブームを連れてきて良かったと。
呪詛罪のときにツンはリリを連れてくることでしぃの過ちを暴いた。
神隠し罪で、それへの返礼を出来たと──何故だか、思ったのだ。
共通点など、子供を連れてきた、ただそれだけだったのに。
あの瞬間に、報われた気がしたのだ。
(*゚ー゚)「……けど、母にだけは頼らない。
僕が頼るのは、僕が信じられる人と物だけだ」
-
561 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 21:26:50 ID:bwAoZRz2O
-
(*゚ー゚)「それが父さんのやり方と違うというのなら──僕は父を目指すのをやめてやる」
(,,゚Д゚)「──しぃ」
(*゚ー゚)「たいへん今更なことに思うが、僕にしか出来ない方法を模索しようじゃないか。
今までよりも最善の、もぶっ」
頬を両側から押し潰された。
ギコの手を払い除ける。ギコは笑っていた。
(,,゚Д゚)「あんたのね、そういうところが面倒臭くて……一番好きだわ」
(*゚ー゚)「そう言いながら付いてきてくれるところが面倒で一番好きだな」
ティーカップを拾い上げる。
ゆっくりはしていられない。
しかし焦ってがむしゃらに動くだけなのもいけない。
-
562 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 21:28:18 ID:bwAoZRz2O
-
(,,゚Д゚)「何か考えはある?」
(*゚ー゚)「僕は誇らしいことに猫田つーの娘で、残念なことに猫田でぃの娘だ。
つまり猫田家の娘だ。
僕は母を信用しちゃいないが、『猫田家』の持つ力そのものは信用している」
少しでも母に関わるのが嫌だった。
けれど、使役霊達の有用性も分かっていた。
母に関わらずに使役霊の力を借りるには──
(*゚ー゚)「僕が家を使えばいい」
(,,゚Д゚)「でも猫田家は目下、叔母様のものだわ。
この家にいる使役霊は全部叔母様のものだし、借りるにしても叔母様に許可をとらないと」
(;,゚Д゚)「まさか今から代替わりする気でもないでしょ?」
(*゚ー゚)「いくら何でも無茶だな。──もっと楽な方法がある」
手で「ついてこい」と指示を出す。
外へ出るためのドアではなく、母屋と繋がる渡り廊下へ出るための扉を開けた。
.
-
563 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 21:29:18 ID:bwAoZRz2O
-
──母屋の奥、さらに奥。
障子の木枠をノックすると、間延びした声で返事があった。
(*゚ー゚)「フサ」
ミ*,゚Д゚彡「どうしたの、お嬢さん」
6畳の和室いっぱいに収まる体躯を横たえた獣、フサは、
その身に相応しい大きな尻尾を振っていた。
(,,゚Д゚)「機嫌いいのね」
ミ*,゚Д゚彡「だってお嬢さんがわざわざ俺のところに来るなんて珍しいから。
ああお嬢さんの匂いだ、昔はよく一緒に遊んだなあ。
あ、ギコ、『猫』はあの後おとなしくしてた?」
しぃにぐいぐい頭を押しつけてくるフサの姿は、本当に、大きな犬といった感じだ。
何代も前から猫田家に仕えている古株で、現当主でぃの一番のお気に入り──の割には
威厳とは縁遠そうな、柔らかな話し方をする。
-
565 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 21:30:43 ID:bwAoZRz2O
-
ギコが頷くと、「そうかあ」とのんびりした声で言って、欠伸をした。
老体のせいか、最近ますますのたりのたりとしている。
(*゚ー゚)「なあフサ、鬱田ドクオという男の浮遊霊を知ってるか」
問うた瞬間、フサはしぃから頭を離した。
目を眇めてしぃの顔を窺う。
ミ,,゚Д-彡「まあ知らなくもない」
(*゚ー゚)「その男の情報を集めたい」
ミ,,゚Д-彡「……それは、検事として?」
(*゚ー゚)「そうなる」
ミ,,゚Д゚彡「捜査の一環?」
(*゚ー゚)「ああ」
ミ,,-Д-彡「じゃあ駄目。俺を使うならでぃ様に話を通してもらわないといけないから」
(#゚ー゚)「ええい、何でもかんでも事務所第一のアイドルかお前は!」
(,,゚Д゚)「その例えはちょっとよく分からない」
フサは再び身を横たえて、すっかり寝る体勢に入ってしまった。
また欠伸。
-
567 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 21:32:18 ID:bwAoZRz2O
-
(*゚−゚)「……お前の所有者の許可がないと、お前は検事や警察に協力できないってことだな」
ミ,,-Д-彡「んー。でぃ様との契約があるから」
(*゚−゚)「いずれは、母さんの持つ使役霊たちも僕のものになる。
その予定が少し早まるだけだろ、いま僕と契約しろ」
ミ,,-Д-彡「その『いずれ』が来るまで待てば、
お嬢さんは大した対価も無く俺の使用権を引き継げるから」
(*゚−゚)「今すぐでなければならないんだよ。お前だって分かってるだろうに」
ミ,,゚Д゚彡「引き継ぎじゃなく、いま俺と新しく契約するってこと?
面倒だよ、それなりの取り引きをする必要が出てきちゃうから」
(*゚−゚)「お前は何が欲しい?」
フサが身じろぎする。
取り引き──つまりは対価を払わねばならない。
よほど物好きな霊でない限り、無報酬で人間の言いなりになどならないからだ。
しぃの母は自分の体を「対価」にしておばけ達と契約していたが、
フサは何代か前の当主と契約した身であり、母は形式に則ってフサを引き継いだだけ。
この巨大な獣が何を対価として求めるのか、想像がつかない。
-
569 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 21:34:12 ID:bwAoZRz2O
-
ミ,,゚Д゚彡「……そうだなあ……」
フサの瞳に、爛々と鋭い光が灯った。
先程までの穏やかさは消えていた。
起き上がり、のそのそと近付いてくる。
未だ部屋の内側まで入っていなかったしぃの眼前に鼻を寄せ、匂いを嗅いだ。
ミ,,゚Д゚彡「……若い女の血が飲みたいなあ。
契約のときは聞き入れてもらえずに野鳥の血で済まされてしまって
それが未だに心残りだから」
ギコが絶句する。
他に選択肢はないのと問えば、「ない」ときっぱり返事。
-
572 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 21:36:07 ID:bwAoZRz2O
-
(*゚ー゚)「血が飲めれば僕と契約するのか?」
ミ,,゚Д゚彡「する」
(*゚ー゚)「分かった。約束だぞ」
(;,゚Д゚)「ちょっとしぃ……!」
踵を返し、離れの部屋からカッターナイフを回収した。
再度フサの部屋へ向かうしぃに、ギコが狼狽を顕わに騒ぎ立てる。
(;,゚Д゚)「しぃ! 駄目よ、どうしても契約しないといけないんなら、あたしの血を……!」
(*゚ー゚)「フサが望んでるのは若い女の血だろ」
(;,゚Д゚)「若い女よ!?」
(*゚ー゚)「女じゃない」
(;,゚Д゚)「女よ!?」
(*゚ー゚)「女じゃない」
-
582 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 21:39:20 ID:bwAoZRz2O
-
フサは大人しく待っていた。
しぃが握るカッターを見て、尻尾をゆるりと揺らす。
そういうところは、なるほど化け物らしい。
フサの前に立ち、袖を捲る。
尚も止めようとするギコを押し留めてカッターの刃を適当な長さまで調節し、
楽しそうに舌舐めずりするフサに見せつけるように翳した。
──そこから先は、一瞬。
(*゚ー゚)「はい」
ミ,,゚Д゚彡「んぐ」
本当に一瞬だった。
人差し指の先を軽く裂き、口の端に垂れていたフサの大きく薄い舌に押し当てる。
反射だろうか、フサは舐め擦るように舌を動かし、口の中にしまった。
-
584 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 21:41:43 ID:bwAoZRz2O
-
(;,゚Д゚)
(*゚ー゚)「飲んだな」
ミ,,゚Д゚彡「は」
ハンカチで傷を拭う。
浅く切っただけのつもりだが、予想外に出血が多かった。
ぽかんとしているギコとフサに口元を緩ませ、フサの額を手のひらで押しやった。
(*-ー-)「契約成立」
ミ,,゚Д゚彡「……これだけの量で?」
(*゚ー゚)「量の指定をしなかったじゃないか。
ご希望通り、若い女の血を飲ませてやったんだから取り引きは成立している。
納得いかないなら裁判で争うか?」
(;,゚Д゚)「せこい」
ミ,,゚Д゚彡「せこい」
せこい。
-
590 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 21:43:48 ID:bwAoZRz2O
-
間があって。
フサは目を細めると、声をあげて笑った。
彼は母親のお気に入り。そうなるだけの理由がある。
物わかりの良さは折り紙付きだ。
ミ*,゚Д゚彡「うん、分かった、分かった。その図太さは父親じゃなく母親譲りだから」
(*゚ー゚)「次また同じこと言ったらお前の依り代削るぞ」
はたと、ギコが慌ただしく踵を返した。
救急箱を抱えて戻ってくる。
人差し指の手当てを済ませた後、改めて契約書等の始末をつける。
これでフサは、でぃとしぃが共有する使役霊となった。
共有というのが少々癪だが、その程度ならば目を瞑れる。
障子を開け放したまま廊下に座り、しぃは書類の中からドクオの写真を取り出した。
生前撮られたものなのでやや古い。とはいえ今の彼と見た目に違いがあるわけでもなかろう。
-
591 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/19(金) 21:45:19 ID:bwAoZRz2O
-
(*゚ー゚)「改めて訊く。鬱田ドクオという霊を知ってるか?
あるいは詳しく知ってそうな奴はいるかな」
ミ,,゚Д゚彡「俺はそれほど知らないなあ。後でみんなにも訊いてみるけど……。
……ただ、名前は一度聞いた」
(,,゚Д゚)「一度?」
ミ,,゚Д゚彡「20年前に一度。霊じゃなくて、そのときは生きてる人間だった」
20年前──しぃが口の中で復唱する。
フサは記憶を整理するようにしばらく沈黙した後、ようやく語り出した。
──彼の話が進むにつれ、しぃとギコは唖然としていった。
*****