ξ゚听)ξ幽霊裁判が開廷するようです

Last case:憑依罪/中編

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190 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:33:58 ID:W0iIunUcO


l从・∀・ノ!リ人「ジョルジュ先生ばいばーい」

⌒*リ´・-・リ「さようなら」
  _
( ゚∀゚)「また明日なー。寄り道するなよ、知らない人に付いてくなよー」

 流石妹者は担任に手を振り、凛々島リリと共に学校を出た。
 遊ぶ約束をしていたので、まずはリリの家へ行き彼女の荷物を置いて、
 それから2人で妹者の家へ──というルート。

 寒さで鼻と頬を真っ赤にしながら、2人は歩く。

191 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:36:01 ID:W0iIunUcO

l从・∀・ノ!リ人「──でのう、妹者と姉者で、ブーン達にチョコ作ったのじゃ」

⌒*リ´・-・リ「妹者ちゃん学校にいっぱいチョコ持ってきてたけど、あれは手作りじゃなかったね」

l从・∀・ノ!リ人「あれは媚びと恩を売る用じゃ。10円で買えるチョコだろうと、可愛い子からもらえば嬉しいもんなのじゃ。
       どんなに冴えない男子でも末は社長かもしれんのじゃから、
       最低限の出費で出来る最大限の投資と言えよう」

⌒*リ;´・-・リ「妹者ちゃんの言うこと、たまに難しい」

l从・∀・ノ!リ人「実は妹者もよく分かっとらん。──む?」

 横断歩道の白い部分だけを渡っていた妹者は、反対側の道に立つ男を見付けて首を捻った。

 どこかで見たような。はて、どこで。
 美形や金持ちならば、一度会っただけでもちゃんと顔も名前も覚えていられるのだが。
 あの男は美形ではないしどことなく野暮ったい。

l从・∀・ノ!リ人「えーと……」

⌒*リ;´・-・リ「! アサピー!」

l从・∀・ノ!リ人「おお、それじゃそれじゃ」

(-@∀@)「おンやァ?」

 そうだ、アサピー。
 幽霊裁判で見たのだった。
 白衣ではなく真っ白いトレンチコートを着ているので、すぐにはぴんと来なかった。

192 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:36:50 ID:W0iIunUcO

(-@∀@)「オジョーサン、妹者サン、お久しぶりです」

⌒*リ´・-・リ「何してるの?」

(-@∀@)「センセイに頼まれて色々調べてるんデス。
      モー参っちゃう、実体化すると寒くて寒くて……」

l从・∀・ノ!リ人「じったいか、とやらをしなければいいじゃろう」

(-@∀@)「人間様相手にも聞き込みしろとセンセイが仰るもんでェ……」

ξ゚听)ξ「おーい、アサピー」

l从・∀・ノ!リ人「おお、出連さん」

 噂をすれば。
 黒いコートと黒いマフラー、黒い手袋で完全防備のツンが歩いてくる。
 妹者とリリは、ぺこりと頭を下げた。

193 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:38:16 ID:W0iIunUcO

ξ゚听)ξ「あら、お2人さんお揃いで。この間はごちそうさま、妹者ちゃん」

l从・∀・ノ!リ人「姉者が、またご飯食べに来てねって」

ξ゚听)ξ「今抱えてる案件が諸々終わったらまた行くわ。いいお米もらったから持ってくわね。
      アサピー、今度はあっち」

(-@∀@)「ハイハイ、お供シマスヨどこまでも」

 2人が連れ立って進んでいく。
 ちょうど妹者達の進路と同じ方向なので、付いていくような形になってしまった。

(-@∀@)「オジョーサン調子はいかがデス? 日々は楽しいデスカ?」

⌒*リ´・-・リ「ん、楽しい……妹者ちゃんのおかげで友達増えた」

l从・∀・ノ!リ人「妹者は天使じゃのう……」シミジミ

ξ゚听)ξ「私に負けず劣らずといった具合ね」

(-@∀@)「アッハッハ、センセイ、アッハッハ」

⌒*リ´・-・リ「お母さんも仕事落ち着いて、前よりは帰ってくるの遅くない」

(-@∀@)「それはそれは。ナラ、もう、誰かを呪うよーなこともありませんネ」

ξ゚听)ξ「おっと、こんなとこに妖怪無神経眼鏡が」

 ツンが肘鉄を食らわせる。
 ありがとうございますと答え、アサピーは脇腹を摩った。

194 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:40:39 ID:W0iIunUcO

⌒*リ;´・-・リ「……去年、ごめんなさい……」

l从・∀・ノ!リ人「いいのじゃ。妹者は女神じゃからの」

(-@∀@)「ワーオどんどん図々しく。
      ……人間様は普通に暮らしてるつもりでも色んな人を呪い、呪われてしまうものデス。
      オジョーサンの言霊がいい例デスナ」

(-@∀@)「しかし妹者サンみたいな方は、そういうコトが滅多にない。イヤハヤ自信過剰な博愛主義とは無敵だ。
      オジョーサンもネ、妹者サンともっと仲良くなって、もっと自分に自信をつければ、
      更に良い影響を受けられマスヨ」

 「いい人と友達になれましたな、それもオジョーサンの素敵な運のお導きです」。
 そう締めたアサピーの言葉の全ては理解出来なかったが、
 ともかく自分が褒められたのは確実に把握したので、妹者は満面の笑みを浮かべた。

l从・∀・ノ!リ人「そうそう、そうなのじゃ。
       リリちゃんはもっと妹者を利用していいのじゃ」

⌒*リ;´・-・リ「利用って、そんなので妹者ちゃんと仲良くしてるんじゃないもん」

l从・∀・ノ!リ人「それはいいことじゃのう、ならもっと仲良くなろう」

ξ;゚听)ξ「……いい性格してるわ、本当に」

 自分でもそう思う。
 足元の雪を掬い上げ、無意味に丸めながら黒いコートと白いコートの後ろを歩く。

 リリが、躊躇いがちに口を開いた。

195 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:42:27 ID:W0iIunUcO

⌒*リ´・-・リ「……ねえアサピー、普通に暮らしてても人を呪うって、どういうこと?」

(-@∀@)「ンー? そのままデスヨ。オジョーサンは、
      『普通に』妹者サンに嫉妬して、『普通に』悪口を言って呪ってしまったデショウ。
      ソーイウ、そこら辺にありふれてる行いが呪詛に繋がってしまうんデス」

⌒*リ´・-・リ「そっか……じゃあ、呪われる、っていうのは?」

(-@∀@)「どうしましたオジョーサン、呪術に興味がおありで? 僕に弟子入りします?」

ξ;゚听)ξ「だめよリリちゃん、こいつみたいな人格破綻者になってしまうわ」

⌒*リ;´・-・リ「アサピーみたいになりたいわけじゃなくて、ただ気になるだけです」

l从・∀・ノ!リ人「妹者も面白い話だと思うのじゃ」

 おばけとか呪いとか、そういうおどろおどろしい、不思議な話が子供は結構好きだ。
 アサピーは「んん」と唸り、歩みを止めずに左手の人差し指を立てた。

196 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:43:10 ID:W0iIunUcO

(-@∀@)「──呪詛ってのはイロイロありますが、一番多くて、一番手軽で、一番確実な方法があります」

⌒*リ´・-・リ「……言霊?」

(-@∀@)「イイエ。──いや、それも含むのかな。ただ、そういうわけではなく。
      誰にでも……老若男女、この世にいる人すべてが『作り出せる』呪いがあるんデスヨ」

l从・∀・ノ!リ人「どんなのじゃ?」

(-@∀@)「──思い込み、です」



*****

197 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:44:40 ID:W0iIunUcO


「──せんせー、怪我人! 湿布くださーい」

「はいはい、そこ座って。これにクラスと名前書いてね。何やったの?」

「部活のトレーニングで、校内の走り込み……痛い痛い! 先生優しく!」

「こいつ足滑らせて転んだんです」

「捻挫ね。歩けるならそう酷いもんじゃないだろうけど、一応病院で診てもらった方がいいかも。
 ──あれ、ハサミは……あ、職員室か。ごめんね、ちょっと待ってて」

「はーい」

「……」

「……いてえなあ」

「なあ、校内ランニングなんて今まで何回もやってたじゃん」

「ん? うん」

「何で転んだんだよ」

「何でって言われても、なんか足が上手く動かなくて……」

198 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:45:02 ID:W0iIunUcO

「……お前さ、朝、ブーンのこと馬鹿にしたじゃん」

「馬鹿にって──からかっただけだろ」

「でもブーンは嫌そうだったし」

「……」

「……祟り」

「──やめろよ、あるわけないじゃん。……違うよ」



*****

200 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:46:30 ID:W0iIunUcO

(-@∀@)「たとえば嫌いな相手にネ、『お前に呪いをかけたぞ。これからお前に良くないことが起きるぞ』と、
      こう言ってやるンです。するとどうなると思いマス?」

⌒*リ´・-・リ「……わかんない」

l从・∀・ノ!リ人「なーんか子供の負け惜しみみたいで、妹者だったら鼻で笑ってしまうかもしれん」

ξ;゚听)ξ(小3に『子供の負け惜しみ』と言われるって、相当よね)

(-@∀@)「ええ、誰だってそう感じるデショウ。
      馬鹿らしい、呪いなんてあるわけない──と」

(-@∀@)「けれど、そこで何か不幸が起きたらどうなりマス?
      怪我や、失敗や、思わぬ災難」

l从・∀・ノ!リ人「……呪いのせいかなって、たぶん考えるのじゃ」

(-@∀@)「そうなんデス。──ちょっと転んだだけ。ちょっと手元が狂っただけ。
      そういう、日常的な……。いつでも起こり得る、そして今までにも何度も経験したような小さな不幸であっても、
      人は『呪いの効果だ』と──思い込んでしまう」

201 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:47:36 ID:W0iIunUcO

l从・∀・ノ!リ人「それ、『呪い』って言えるのじゃ? 本当はただの偶然なのに」

(-@∀@)「呪いをかけられた側が『これは呪いなんだ』と信じて怯えれば、成功したも同然デショウ。
      本来ならば感じる必要のなかった恐怖や不安を与えられたんですカラ」

 呪いのせいで不幸が起きたわけではないが──
 呪われたせいだ、と思わせ恐怖させた「結果」そのものは、たしかに呪詛によるものなのだ。

⌒*リ;´・-・リ「そんなのでいいんだ……」

(-@∀@)「はい。人間ってそんなものデス」

(-@∀@)「この呪いの厄介なトコロは、終わりが見えないことです。
      身の回りの不幸を全て呪いのせいにしていくカラ、どんどん広がっていく」



*****

202 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:51:42 ID:W0iIunUcO

『題:Re:
 本文:じゃー明日持ってくねー ところでさ、なんか変なことなかった?』

『題:Re:Re:
 本文:よろ。変なことって??』

『悪いこと』

『さっきおばーちゃんが喘息の発作で病院行ったよ。入院するみたい』

『うわーヤバイね まじでタタリかも』

『なにそれ。朝言ってたやつ?』

『内藤くんのことからかった人、みんな何かあったらしいよ 部活で足ケガした奴もいるって』

『えー・・・あたしちょっと笑っただけじゃん。祟りとかウソでしょ』

『でも本当にみんなケガとかしてるよ 次あたしかも どーしよ』

『下校中に車とぶつかりかけたじゃん、あれかもよ。もうちょっとで死んでたりして』



*****

203 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:52:35 ID:W0iIunUcO

(-@∀@)「呪術師というダケで、皆サンは僕のことを凶悪な陰険者と決めつけますが──
      マァ事実ですけど、でもネ、何も僕ら呪術師だけが持つ技術というワケじゃナイんですよ、呪詛って」

(-@∀@)「いま僕が言った方法なら、誰にだって出来る。
      ま、完璧とは言えませんがね、当然」

l从・∀・ノ!リ人「一番恐いものは人間、ってやつじゃのう」

 あまり深く考えずに、分かった風な口をきく。
 すると、アサピーがくつくつ笑った。

(-@∀@)「馬鹿言っちゃいけない。人間ってやつァ、そうやってすぐ驕ってしまう。
      驕り高ぶるから勝手な呪いを生み出し自滅する」

 くるり、アサピーが身を翻して立ち止まる。
 すぐ後ろを歩いていた妹者とリリも足を止めた。

 彼はにやにや笑いながらしゃがみ込み、真っ正面に立つリリの鼻先へ人差し指を向ける。

204 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:55:07 ID:W0iIunUcO

(-@∀@)「おばけと関わる機会が少なく、生きた人間とばかり接しているカラ
      目の前の人間への応対に必死で、相手が恐ろしく見えてしまうだけ。
      どんな極悪人でも、神仏に簡単に捻り殺され得るくせにね。おかしな話デス」

 妹者の手にある雪玉を取り上げる。
 ふ、とアサピーが息を吹き掛けると、雪玉はどろりと溶け、指の間から地面へ零れていった。

(-@∀@)「だからねオジョーサン、妹者サン。
      おばけを見付けたからって、それが知り合いだからって、
      話し掛けちゃァいけません。見て見ぬふりコレ大事」

⌒*リ;´・-・リ「……」

(-@∀@)「人間はたしかに恐いデスヨ。だから、その相手をすることだけに必死になればイイ。
      もっと恐い相手となんて、関わらない方がイイに決まってるんデスから」

(-@∀@)「特に僕みたいな輩からは、嫌われても気に入られても良くないンだ」

ξ゚听)ξ「アサピー」

(-@∀@)「ハイハイ」

 数メートル先からツンが呼び掛ける。
 ちょうど分かれ道で、彼女達とこちらの行き先は別々だった。

 立ち上がったアサピーはコートの裾についた雪を払い、向こうで待っているツンを見遣る。

205 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:56:50 ID:W0iIunUcO

(-@∀@)「おばけと関わらざるを得ない人達は、どんなに日常が恐ろしいんデショウねェ。──バイバイ、お2人」

 妹者はアサピーに挨拶を返し、それから大きな声でツンにも別れを告げた。リリも同じように。

 2人が角を曲がる。
 妹者は腕を組んだ。

l从・∀・ノ!リ人「……ふうむ」

 見透かされたような気がして、そしてその上で釘を刺されたようで、少し悔しい。
 まあ呪術師なのだから「釘を刺す」のはお得意だろうが。

 おばけ。呪い。幽霊裁判。
 クラスの子達が知らないであろう世界を自分は知っている、その関係者と知り合っている──と
 いくらか優越感に浸っていたかもしれない。

 たしかに、今後も関わり続けるには、妹者もリリも不相応だ。
 触らぬ神に祟りなし。神も幽霊も妖怪もみんな。

 アサピーの言うことは正しい。
 妹者は何よりも自分の身が一番可愛いので、自身に有益な忠告は素直に受け入れる。

l从・∀・ノ!リ人「アサピーさんはいい人じゃのう」

⌒*リ;´・-・リ「……それ、本人の前で言ったら怒るよ、多分」

 先の2人とは別方向へ曲がり、これまでのことなどなかったかのように
 学校に関する話題へ切り替えた。

206 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:57:26 ID:W0iIunUcO


   (-@∀@)『おばけと関わらざるを得ない人達は、どんなに日常が恐ろしいんデショウねェ』


l从・∀・ノ!リ人(……ブーンは……)

 同居人の姿が浮かぶ。

 彼自身の目から見た彼の日常とはどんなものだろう。
 ツン達と進んで関わる彼は。



*****

208 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:59:09 ID:W0iIunUcO


 ワカッテマスは携帯電話を下ろした。
 手元のメモ帳に目を落とす。

 今週土曜日、夜9時から。場所は廃工場。

( ><)「どうだったんです?」

( <●><●>)「今週の土曜日に、裁判だそうです。丁度バイトも入ってないし、行こうかと思ってます」

( ><)「あの子も裁判見てみたいって言ってたんです! 連れていってあげてくれますか?」

 「あの子」。
 最近この部屋に遊びに来る少女の霊だろう。

( <●><●>)「それは構いませんが。ビロードはどうするんです?」

( ><)「僕はいいんです、難しい話は分かんないですから……」

 たぶん寝ちゃいそうで、とビロードが苦笑する。
 幽霊裁判などというものを前にして居眠り出来るのも、それはそれで凄かろう。

209 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:59:44 ID:W0iIunUcO

( ><)「ぽぽちゃんは?」

"(*‘ω‘ *)" ポッ

 ぽぽちゃんも行かないらしい。
 そもそも彼女はこの部屋から出られるのだろうか。
 地縛霊、とツンは言っていたけれど。

( <●><●>)「じゃあ夜は留守番よろしくお願いします」

( ><)「いつものことなんです」

 それもそうか。

 一緒に留守番しましょうね、とビロードがぽぽちゃんに笑いかける。
 あまり構ってやれなかったので、仕方ないと言えば仕方ないが、
 兄である自分よりぽぽちゃんの方にばかり懐いている気がする。

 ──しかし、それにしても。
 法廷が廃工場とは。

( <●><●>)(僕、騙されてませんよね)

 あの弁護士、夜中の廃工場へ自分を誘き出し、既成事実でも作ろうとしているのでは。
 半ば本気でワカッテマスはそう思った。



*****

211 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 20:03:00 ID:W0iIunUcO

 ──木曜日。

 月曜日に霊感や「祟り」に触れられはしたが、火曜水曜は特に何もなかった。

 本当に──何もなかった。
 ただ、内藤をちらちら見る視線がやけに多かった、気がする。
 気がするだけで、本当はそんなことないのかもしれないが。

 内藤は手の甲を見下ろした。昨日、転んで擦り傷を作ってしまったのだ。

(´<_` )「みんな気にしてないんだろ。あんなの、そうそう信じる奴もいないし」

( ^ω^)「……だおね」

 通学の道を行く。
 寒さのためか鼻を赤くした弟者の言葉は、呆れたような色合いだった。

(´<_` )「とりあえず、出連さんのとこ行くのはなるべく控えた方がいいかもな。
       あんな話が出た後で、あの人と一緒にいるとこ見られたら面倒だ」

( ^ω^)「分かってるお」

 ここ数日は事務所へ寄っていない。
 内藤がいなくてもアサピーなりドクオなり、ツンには助手となり得る者がいるし。
 とりあえず、空いた時間は素直キュート探しに費やしている。

212 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 20:06:13 ID:W0iIunUcO

( ^ω^)(……トソンさんは、見付かったんだろうかお)

('A`)「おおーい、少年ー」

( ^ω^)(うわー)

 何か来た。
 どうせ霊と会うならトソンかキュートがいいのだが。

 思えば、ツンよりもこの浮遊霊との付き合いの方が長い。
 何なら、こいつとさえ関わらなければ、ツンの事務所に出入りするレベルにはならなかった気さえする。

('A`)「お前、最近事務所来てないんだって? 事務所が片付かないって弁護士が嘆いてたぞ」

( ^ω^)「自分で掃除しろとお伝えください」

(´<_`;)「独り言も禁止!!」ゾワワァ

 冷たいな、とドクオが鼻白んだ。

 事務所に寄らないとはいっても、気になることは山ほどある。
 トソン。日記と手帳のコピー。ロマネスク。キュート。

('A`)「まーだ悩み事の解決できてねえのか? なに悩んでんだよ。
    あ、妹探しの件? 手伝ってやろうか」

( ^ω^)「手伝ってくれるならありがたいですけど」

(´<_`;)「何もないところを見るな! 何もないところに喋るな!」

213 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 20:07:49 ID:W0iIunUcO


 学校に着く。
 靴を履き替えていると、少し遅れてヒッキーがやって来た。

(;-_-)「……あ……」

(´<_` )「おはようヒッキー」

( ^ω^)「おはようおー」

(;-_-)「う、うん。……おはよ」

 さっさと内履きに替えて、ヒッキーはそそくさと教室に向かっていった。
 2人は顔を見合わせる。

(´<_` )「……どうしたんだ?」

( ^ω^)「さあ……」

('A`)「何だ、友達と喧嘩したのか?」

 まだ付いてこようとするドクオをこっそり蹴飛ばし、内藤と弟者も歩き出した。



*****

214 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 20:09:34 ID:W0iIunUcO



 日は過ぎる。

 何一つ、事が進まぬまま。

 ならば、無理にでも進めるしかなかろう。



ξ゚听)ξ「……うっし、やるか」

 2月23日、土曜日。午後8時。

 廃工場。

 相対する長机。向かって右にある机、弁護人席に立ち、ツンは両手で頬を叩いた。
 反対側の机には、とっくに見慣れた学ランと女装。

215 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 20:11:26 ID:W0iIunUcO

(*゚ー゚)「何を急に顔なんか叩いてるんです」

(,,゚Д゚)「あんた顔だけは綺麗なんだから大事にしなきゃ駄目よ」

ξ゚听)ξ「私は全ての生き物に好かれてしまうからね、季節外れの蚊が2匹いっぺんに寄ってきただけよ」

川 ゚ 々゚)「くさい」

【+  】ゞ゚)「意味なく嘘をつかないでくれるか」

 前回は弁護人席に座っていたオサムとくるう。
 今日はいつもの位置だ。だが、前よりますますくっついている気がする。

 くるうがオサムの首に頬を擦りつけながら「オサムはいい匂い」などと。オサムはオサムでくるうの腰を抱いて。
 神隠し罪の裁判で、そういった振る舞いを指摘されたのではなかったか。反省はしないのか。
 いい匂いって、見た目の年齢で言えば加齢臭のしそうなオッサン神に向かって何を言っているのか。

(*゚ー゚)「ツンさん、声に出てますよ」

ξ゚<)ξ⌒☆「カレーって美味しいわよねっ」

(,,゚Д゚)「ええ、まあ、加齢は加齢で美味しそうだとは思うわ、あたし」

【+  】ゞ゚)「鰈はたしかに美味い」

川 ゚ 々゚)(華麗臭……オサムの匂い……)

ξ゚<)ξ「……」

(*゚ー゚)「……」

(,,゚Д゚)「……」

ξ゚听)ξ「ねえ。ツッコミ係がいないんだけど」

(*゚ー゚)「何ですかその精神の磨耗が激しそうな係は」

(,,゚Д゚)「ブーンちゃんどうしたの?」

216 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 20:13:12 ID:W0iIunUcO

【+  】ゞ゚)「内藤ホライゾンのことだから、この裁判には絶対に顔を出すと思っていたが」

 ──開廷1分前。内藤が、まだ来ていない。
 昨日、裁判の日取りも法廷の場所も教えたのだが(わざわざ流石家へ赴いて)、
 「分かりました」としか返ってこなかった。

 内藤は表情を読みづらい。
 ぶりっ子をしているときは喜怒哀楽のいずれも巧みに表すが、
 まるで反動のように、素の状態ではなかなか感情を顔に出さない。

 「素」──穏やかな笑みに見える顔付きのまま、彼は様々なことを考えている。
 せいぜい、驚いたときに少しだけ目を見開いたり、不快さを眉間の皺で表したりする程度。
 よほど追い詰められていなければ。

 だからツンはたまに彼が心配になる。
 彼は所詮、子供なので。
 表情の動かし方は達者でも、自身の本心、感情の処理は上手くないように見えるのだ。

217 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 20:14:32 ID:W0iIunUcO

ξ゚听)ξ「……ま、あの子も中学生ですしね。そうそう夜に出歩いてらんないのかも」

(*゚ー゚)「ツンさんのくせにマトモなことを」

ξ#゚∀゚)ξ「『くせに』?」

 10近くも年下の少女の無礼な言い様に、ツンは片眉と口角を吊り上げる。
 売り言葉に買い言葉、となりかけたところを、他方の声が阻害した。


「いいから早く始めろよ」
「もう開廷の時間だぞ!」
「今回も期待してるよ弁護士さん──」


 ──囃し立てるのは、幾人かの人間と、何体もの幽霊、妖怪、その他異形の者。
 ツンは横目に、それらが座る「傍聴席」を見た。

218 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 20:17:06 ID:W0iIunUcO

【+  】ゞ゚)「今回も満員御礼だな」

 木槌で手のひらを打ち、オサムが呟く。

 化け猫の事件は、被害者の多さと発生地域の広さから注目度が高い。
 故に傍聴希望者もかなりの数があった。

 とはいえ逮捕から裁判に至るまでの流れがやや急だった上、地方の片田舎で裁判が開かれるということもあり、
 捌ききれぬほどの人数──というほどもなかった。
 神隠し罪のときには及ばない。あれは神様の裁判という物珍しさがあったから。

 これで審理が数回に分けられれば、傍聴人もどんどん増えていくだろうが。

【+  】ゞ゚)「準備はいいか?」

(*゚ー゚)「もちろん」

ξ゚听)ξ「大丈夫です」

 緊張しないわけがない。
 普段は傍聴人など内藤くらいしかいないのだ。
 N県での裁判も、前回の裁判も、正直に言うと、普段よりよっぽど恐かった。

 オサムが木槌を振り上げる。
 傍聴席を背にして立ち、オサムと真正面から向かい合う男をツンの瞳が捉えた。

219 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 20:18:38 ID:W0iIunUcO


( ФωФ)


 ロマネスク。人間の姿。
 ずっと、ずっと、沈黙を保っている。
 どうするべきか──自分は、未だに分からない。

【+  】ゞ゚)「これより化け猫事件の裁判を開廷する」

 かあん。
 高らかな宣言。残響。

ξ--)ξ(……始まったもんはしょうがないわ)

 やれることをやろう。
 黙ってたって事が進まないのだから、むりやり進めねば。



*****

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