-
157 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 18:54:42 ID:W0iIunUcO
-
ニオイがする。
ニオイがする。
奴はまだ生きている。
-
158 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 18:55:23 ID:W0iIunUcO
-
Last case:憑依罪/中編
.
-
159 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 18:56:57 ID:W0iIunUcO
-
カンオケ神社でロマネスクと話した。これといって収穫なし。
アパートでワカッテマスからロマネスクの話を聞いた。同上。
なので今度は、ヴィップ総合病院へ。
容疑者とその関係者側から情報を得られなかったので、
それなら被害者、三森ミセリの方に何か手掛かりはないだろうか──ということらしい。
ミセ*- -)リ
真っ白なベッド。目を堅く閉じ、弱々しい呼吸を繰り返す女性が1人。
ここはミセリの病室である。
病室の外には警備が2人。人間とおばけ、1人ずつ。
事件が完全に解決するまではまだ警戒を解けないという。
ミセリは相変わらず眠っている。
まだ生きている。
-
160 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 18:58:10 ID:W0iIunUcO
-
( ^ω^)「……ミセリさん。猫、捕まりましたお」
呼び掛けたところで、返事があるはずもない。
けれどもやはり、彼女は生きている。
ξ゚听)ξ「……『真犯人』が捕まって事件が解決すれば、
ミセリさんも目を覚ますような気がするって、トソンさんが言ったわ」
( ^ω^)「あんまり言いたくないですけど、そう何もかも上手くは行きませんお」
ξ゚听)ξ「そうよね。でもね、私も、何だかそういう気がずっとしてたのよ。
何かが一つ片付けば、釣られて他のことも解決に向かうんじゃないかってね。
でも、ミセリさんに変化はない」
ミセリはまだ目覚めない。
寧ろ、以前見たときよりも更に生気を失っているようにさえ思える。
ξ゚ -゚)ξ「……まだ、何一つ解決してないんじゃないかって……
真実に全然近付けていないんじゃないかって、思っちゃうのよ」
彼女の言葉を信じてしまうと、何だか途方に暮れてしまいそうで。
内藤は黙っていた。
ツンが頭を振る。ここにいるだけではどうにもなるまいと結論づけて、2人は病室を出た。
.
-
161 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 18:59:04 ID:W0iIunUcO
-
ξ゚ -゚)ξ「さて、担当医に話でも聞きに行きましょうか」
( ^ω^)「何かあるとも思えませんけど」
ξ゚听)ξ「訊いてみなきゃ分かんないでしょー」
「……あの」
エレベーターを待ちながら会話を交わしていると、背後から声が掛かった。
ナース服。看護師だろう、若い女性がやや怯えた様子でこちらを見ていた。
カウと書かれた名札を付けている。
ξ゚听)ξ「はい?」
||‘‐‘;||レ「あっ。ごめんなさい、警察の方……じゃ、ないですよね、すみません」
ξ゚听)ξ「弁護士です」
おばけ法の、とは勿論言わない。
弁護士と聞き、カウは少し安堵したようだった。
-
162 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:00:30 ID:W0iIunUcO
-
||‘‐‘||レ「弁護士さん……。三森さんについて、何か調べてらっしゃるんですか?」
ξ゚听)ξ「ええ。あ、こっちは──弟です。荷物持ちしてもらってて」
( ^ω^)「こんにちはー」
さすがに、弁護士と中学生が一緒にいる自然な理由は咄嗟に思いつかない。
弟という設定を受け入れ、内藤はにっこり笑った。
||‘‐‘||レ「えっと、三森さんのことでちょっと話したいことがあるんですけど……
こういうのって、警察に話さないと駄目なんでしょうか」
ξ゚听)ξ「内容によりますよ。よろしければ、私にも聞かせてほしいですが」
エレベーターが到着し、扉が開く。
それに乗り込まず、3人は近くにあった長椅子に腰を下ろした。
||‘‐‘||レ「私、三森さんの病室を担当してる内の1人なんです」
ξ゚听)ξ「ここ最近で何か変わった様子などはありました?」
||‘‐‘||レ「三森さん自体には、これといって……。でも、その──」
2月の始めに──囁くような声で言って、カウは口籠る。
発言の続きを躊躇うように。
-
163 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:02:13 ID:W0iIunUcO
-
ξ゚听)ξ「何でも言ってください。何でも聞くし何でも信じますから」
||‘‐‘||レ「……ナースコールが鳴ったんです。
2月1日の夜中に……えっと、それが、三森さんの病室からでした」
( ^ω^)「病室に誰か来てたんですかお?」
||‘‐‘||レ「いいえ。三森さんしかいませんでした。
あの日は、警察の方もいらっしゃいませんでしたし」
ξ゚听)ξ「……ナースコールを押すような人は、いなかったわけですね」
||‘‐‘||レ「はい。──よくあること、とまでは言いませんが……たまに、あるんです。
誰もいない病室とか、動けない筈の患者さんの部屋のナースコールが鳴るのって」
ξ゚听)ξ「病院ではよく聞く話です」
ツンが頷くと、カウはほっと息をついた。
人によっては一笑に付されてしまうような話だ。
||‘‐‘||レ「そういうときは、機械の誤作動ということにしてるんです」
ξ゚听)ξ「ミセリさんの病室で鳴ったときも?」
||‘‐‘||レ「はい。
あの日、私は凖夜勤──夕方の4時から12時まで勤務する日でした。
ナースコールが鳴ったのは、そろそろ帰れるって思ってた頃だから……午後11時から12時の間くらいですね」
-
164 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:05:04 ID:W0iIunUcO
-
丁度そのとき、ナースステーションにいたのはカウだけだった。
もしかしてミセリが目を覚ましたのではと思い、急いで病室に向かったという。
しかし。
||‘‐‘||レ「三森さんは変わらず眠っていました。
とはいえ万が一ってこともあるので、当直の医師を連れてきて、診てもらったんです」
やはり起きた様子はないし、まだ起きる気配もない、という結論に至った。
繋がっている機械の記録を見ても変化はなかったため、
ナースコールの件は誤作動ということで処理をした。
そのことは他の看護師にも話したが、誰にも言っていないことが一つあるそうだ。
カウは、また不安げな表情を浮かべた。
||‘‐‘||レ「そのとき私、ベッドの上で変なもの見付けたんです」
ξ゚听)ξ「変なものというと」
-
165 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:07:12 ID:W0iIunUcO
-
カウがポケットに手を入れ、一枚の紙を取り出した。
然ほど大きくなく、何も書かれていない。白紙。
ξ゚听)ξ「これは……何かしら」
||‘‐‘||レ「ミセリさんの手の下からはみ出てたんです」
( ^ω^)「手の下、ですかお」
ミセリは動かない。目覚めてもいない。
ならば──誰かが差し込んだとしか。
||‘‐‘;||レ「私、消灯前に病室の掃除や、三森さんの身の回りのお手入れをしてました。
そのときは、そんな物なかったのに」
ξ゚听)ξ「……」
( ^ω^)「……姉さん」
ξ゚听)ξ「どういうことなのかしらね」
消灯前となれば面会時間も過ぎている。
それから12時前にナースコールが鳴るまで──恐らくは誰も病室を訪れていない筈。
-
166 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:08:56 ID:W0iIunUcO
-
ξ゚听)ξ「……分かりました、預かってもよろしいかしら」
||‘‐‘||レ「はい、捨てるわけにもいかなくて、ずっと持ってたんです。
お昼前に警察の方が病室に来ていたらしいんですが、私はさっき出勤してきたので
渡しそびれてしまって」
( ^ω^)「警備の人に渡せば良かったのに」
||‘‐‘*;||レ「あっ。やだ、本当……私って抜けてて。恥ずかしい……」
ξ゚ー゚)ξ「お話聞かせてくださってありがとうございます。
他に何か変わったこと、ありました?」
ツンから手の仕草のみで指示を受け、内藤は鞄に白紙をしまった。
何の紙なのだろう。
彼女の問い掛けを反芻してから、カウは答えた。
||‘‐‘||レ「さっきも言いましたが、私は凖夜勤だったので、12時過ぎに帰宅したんです。
だから詳しくはよく知らないんですけど」
-
167 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:10:40 ID:W0iIunUcO
-
||‘‐‘||レ「朝、別の担当看護師が三森さんの病室に行ったときに──
ベッドの下からメモ用紙を見付けたそうなんです。
変なことが書いてあって、気味が悪いと言ってました」
どんなメモですか、とツンが余所行きの笑顔で問う。
カウが「変なこと」を思い出すまで、しばらくかかった。
ようやく、あ、と声をあげてツンに視線を向け直す。
||‘‐‘||レ「えっと、たしか、体を貸すとか何とか──」
*****
-
168 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:11:33 ID:W0iIunUcO
-
《本日午前11時50分から午後12時10分まで都村トソンに体を貸します。 H17/08/20 三森ミセリ》
その文面を、ツンは何度も何度も読み返していた。
コピーでなら内藤も見たことがある。実物は初めて見た。
トソンの裁判で、証拠の一つとして提出された「憑依許可書」だ。
ビニールの小袋に入っている。
(*゚ー゚)「……一応証拠なんで、そろそろ返してもらえます?」
しぃが手を伸ばす。
それを避け、ツンは彼女を睨みつけた。
ξ#゚听)ξ「何で教えてくれなかったの!」
(*゚ー゚)「緊急性を感じなかったので」
ξ#゚听)ξ「すごく大事なことじゃない! どうして──」
(;,゚Д゚)「ツン、あんまりここで騒がないでちょうだい」
──ヴィップ警察署、おばけ課。
しぃとギコがここにいるというので、ツンと共に乗り込んだのが15分前のこと。
こちらをちらちら見てくる職員達に、内藤は会釈を返した。
-
169 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:12:32 ID:W0iIunUcO
-
ξ#゚听)ξ「ギコ! 検事はともかく、あんたまでこのこと隠してたのが信じらんないわ!」
(;,´Д`)「あーん、だって、それはあ……」
(*゚ー゚)「僕は僕の仕事があるので失礼します。その証拠はちゃんとギコに返しておいてくださいね」
ξ#゚听)ξ「ちょっと……!」
ツンの横を過ぎ、しぃが早足で歩いていく。
おばけ課を後にする背中を睨みつけていたツンは、溜め息を吐き出すと
近くにあった椅子に勝手に腰を下ろした。
ギコの机の上、証拠の入った大小様々な袋(証拠品袋というらしい。そのままだ)を持ち上げる。
その内の一つに、茶色い、やや太めの毛が見られた。
-
171 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:13:40 ID:W0iIunUcO
-
ξ#゚听)ξ「2月2日の朝、ミセリさんの病室でトソンさんの『誓約書』が見付かった。
病室の警備についてたおばけ2体が消えていた。
同日に病室から『猫』の毛が採取された。
──これで緊急性がないって、あんたんとこの検事はどうなってんの」
(;,゚Д゚)「だからあ……」
どうも、今し方しぃ達から聞き出した情報を組み合わせると
そういうことになるらしい。
それらの事実を2週間も前に知っていながら、しぃもギコもツンに話していなかった。
そのことをツンは怒っている。
( ^ω^)「……結局のところ、トソンさんは今どこにいるんですかお?」
率直な疑問をぶつけると、ツンが口を結んだ。
顔から怒りの色が抜け、眉尻が下がる。
ξ゚ -゚)ξ「……トソンさん、ずっと私のところに顔を出してないの」
内藤の問いへの答えにはなっていないが、それに近いものではあった。
-
172 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:15:00 ID:W0iIunUcO
-
痕跡からして、ほぼ間違いなく、トソンとロマネスクは病室で遭遇している。
だとしたら──トソンは。ロマネスクは。
そのときどうしたのだろう。
(,,゚Д゚)「おばけ課のみんなでトソンさんを探してるわ。まだ見付かってないけど……」
2週間探して、まだ見付からないのか。
彼女のことだから、何かあれば、すぐにツンのもとに来る筈だ。
なのにツンはしばらく会っていない。
警察が捜索しても見付からない。
それらが示すのは──
(,,゚Д゚)「……しぃがね、トソンさんを見付けるまではツンに話さないでいようって言ったの。
いらない心配かけさせても、ツンの邪魔になるだけだろうからって」
ξ゚ -゚)ξ「……」
(,,゚Д゚)「あの子なりに気を遣ってたのよ」
(,,゚Д゚)「来週の水曜まで探して──それでも見つからなかったら
それなりの結論を出すことになるから、
どのみち、あんたに話すつもりではあったんだけど」
ツンはもう一度溜め息をつき、ギコに証拠を返して立ち上がった。
わかった。ありがとう。帰る。その三つを口にして、踵を返す。
内藤はツンとギコを見比べ、ギコに一礼してからツンを追った。
-
173 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:15:51 ID:W0iIunUcO
-
エレベーターを待つ。
足元を見下ろすツンの顔は硬い。
ξ゚ -゚)ξ「……トソンさん……」
( ^ω^)「……」
ξ゚ -゚)ξ「……どこに、いるのかしら……」
内藤に分かる筈もない。
ロマネスクに訊いたとて、あの様子では喋ってくれると思えない。
浮かぶ推測はあれど、それを信じたくはなかった。
( ^ω^)(……お礼を)
トソンへどうやって礼をしようか、悩んだのだ。
数年前のあの日、結果的に命を救われたのだから、
言葉だけでなく何か別の礼もするべきだと。
ツンの事務所に出入りしていれば、いずれ会えるだろうと考えていた。
ロマネスクが捕まったことが広まれば、すぐに事務所に来るだろうと考えていた。
-
174 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:16:30 ID:W0iIunUcO
-
ξ゚听)ξ「……落とした許可書を探してるんだわ。ね、そうよね。早く渡してあげないと」
( ^ω^)「……ですお、きっと」
来る筈だ。
今頃、いつものように町の中をうろうろしている筈だ。
きっと、その内ひょっこり顔を出す。きっと。きっと。
*****
-
175 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:19:17 ID:W0iIunUcO
-
あちこち回って疲れ果て、翌日の日曜日はごろごろして過ごし。
2月18日、月曜日。
登校し、教室に入ったと同時に、内藤は思い出した。
──土曜日の「町案内」。
ロマネスクのあれやこれやで忘れていた。
(-_-)「おはよう」
(´<_` )「はよ」
( ^ω^)「おはようおー」
変わった様子は特にない。
本日も反応は良好。
( ^Д^)「──……でさあ」
プギャーが、ちらり、こちらを一瞥した。しかしすぐに前へ向き直る。
彼と楽しげに話していた2人のクラスメートも内藤を見てきた。内藤が仕草で挨拶すると、返してくれる。
その2人は、町案内に参加した生徒の筈。
何も話していないのだろうか。
良かった。やはりプギャーだって、中学生にもなって、あんなことを繰り返す気はないのだろう。
-
176 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:19:53 ID:W0iIunUcO
-
5分、10分、と経つにつれ教室内に生徒が増えていく。
笑顔で交わされる挨拶。眠たげな生徒。いつも通りの光景。
ばたばた、階段を駆けのぼる慌ただしい足音が近付いてくる。
その音にヒッキーが顔を上げた。
(-_-)「何か課題出てたっけ」
(´<_` )「数学。授業中にプリント終わらなかったら宿題になる」
( ^ω^)「あー、モララー居眠りしてたから……」
直後、足音の主が教室に飛び込んでくるなり叫んだ。
(;・∀・)「ヒッキー! 数学のプリント写させてくれ!」
( ^ω^)(-_-)(´<_` )「ビンゴー」
(;・∀・)「へ?」
けらけら笑う3人に、モララーは息を整えながら首を傾げる。
しばらく笑っていると、順番に小突かれた。
クリアファイルからプリントを取り出すヒッキーの笑顔には呆れが混じっている。
-
177 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:20:49 ID:W0iIunUcO
-
(-_-)「挨拶も無しにいきなりそれ?」
(;・∀・)「ああ、おはよう。……ありがとう! ありがとうヒッキー、代わりに給食の牛蒡サラダやるから!」
(´<_` )「お前が食べたくないだけだろ」
(*^ω^)「おっおっお、この成長期に一品欠くのは気の毒だお、モララーに僕の分のサラダをあげよう」
(;・∀・)「プラマイゼロ!
──あ、そうだ、そうだ、ブーン! お前に訊きたいことあったんだ!」
この季節に不釣り合いな汗を拭って、モララーは内藤に顔を向けた。
瞳いっぱいに、好奇心を詰めて。
-
178 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:21:33 ID:W0iIunUcO
-
(*・∀・)「お前、幽霊見えるってマジ!?」
──心臓が、喉元まで持ち上がったような気分だった。
呼吸の仕方を一瞬、忘れた。
モララーの声は大きくて、教室内の会話が止んだ。
(;-_-)「何言ってんの急に……」
( ・∀・)「いや、プギャーが一昨日……」
「俺も聞いた聞いた」
「私もー」
他のクラスメートも同調する。
内藤は懸命に、引き攣りそうな顔を笑顔に留めた。
-
180 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:22:16 ID:W0iIunUcO
-
(´<_`;)「な──何だよ、何聞いたんだ!」
( ・∀・)「何って、別に、それだけ。
ブーン、小学生のときは霊感少年で有名だったらしいじゃん。
なあなあ、今は何か見えねえの!?」
( ^ω^)「……小学生のときは空想癖で。そういうこと言って遊んでただけだおー」
なんだ、とモララーが残念そうに言う。
皆も、中断させていた会話を再開した。
が。
( ^Д^)「──でもさ」
先程のモララーほどではなかったが、室内に響くには充分な声量。
また周囲は会話を途切れさせ、プギャーの方へ視線をやった。
-
181 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:24:16 ID:W0iIunUcO
-
( ^Д^)「結構『それっぽい』ことはあったんだぜー。
誰も触ってないのにブーンの筆箱が落ちるとか、何もないとこに声かけるとか、
あと、あれだ、──祟り」
( ・∀・)「祟り?」
( ^Д^)「ブーンと喧嘩したり、からかったりするとさ、
相手の身に必ず悪いことが起きんだ。怪我するとか物なくすとか」
喧嘩、とは。どういった行為を指すのだろうか。互いに争うことではないのか。
一方的に暴力を振られ、笑われた記憶しかないが。
プギャーは笑顔で語る。
ただの「思い出話」のように。
( ^Д^)「俺もブーンと喧嘩して『ちょっと』叩いたことあるんだけど
そしたら親父が仕事中に怪我してさあ、しかもそれが、
ちょうど俺とブーンが喧嘩してたのと同じくらいの時間だったりすんの」
(´<_`;)「──んなこと、偶然だろ」
( ^ω^)「……」
咄嗟に言葉が出なかった。
それがいけなかった。
空気が動かない。停滞する。明るい話題ではないと皆が察知する。
-
182 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:26:03 ID:W0iIunUcO
-
「──こえー! 前にブーンから借りた漫画汚しちまったことあるけど、俺も何か祟られんのかな」
1人の男子生徒が言った。
取り繕うような、明るい口調だった。
それに合わせて何人かが笑う。
( ^ω^)「しないお、そんなの。出来ない出来ない」
(;-_-)「……だ、だよね。そんなこと出来るならモララーとかとっくに死んでそうだよね」
(;・∀・)「ひでえ言い草!」
ヒッキーは冗談のつもりで言ったのではなかっただろうが、おかげで、今度こそみんな笑った。
空気が動く。まだ少しぎこちないけれど、いつもの教室。
「内藤君ほんとに幽霊見えないのー?」
(;^ω^)「だから見えないってば、もー」
何人かから冷やかしは受けたが、それも、担任がやって来てホームルームが始まると
完全に流れは消えて、続くことはなかった。
.
-
183 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:26:52 ID:W0iIunUcO
-
( ・∀・)「なあなあブーン、実は霊感あったりしない? 嫌いなやつ呪えたりとか」
(;^ω^)「モララーしつこいお」
(;-_-)「ほんと、そういう話好きだねモララーは……」
(´<_`#)「何が祟りだ、下らない!」
(;-_-)「弟者は弟者で、相変わらずそういう話大嫌いなんだね」
放課後。
昇降口で今朝のことを話しながら靴を履き替える。
モララーはすごい、と思う。
普通、霊感があるなどという話を証拠も無しにすんなり信じる者はそうそういない。
だからこそ内藤も小学校で苛められたのだ。
なのにモララーときたら。
良くも悪くも素直。その認識を改めて深めさせられる。
-
184 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:27:37 ID:W0iIunUcO
-
(´<_`#)「プギャーの奴、みんなに聞こえるようにあんなこと言うなんて酷いんじゃないのか!」
( ^ω^)「……悪気があったわけじゃないと思うお」
いや──悪気は、多分、あった。
しかしプギャーは、あくまでも「こんなことがあった」と語っただけだ。
昔のように、化け物だ祟りだ排除しろ、と言ったわけではない。
それが厄介なのである。
分かりやすく敵意と悪意をばらまいてくれれば、不穏な言動に出てくれれば、
周囲も抵抗感を持つ。プギャーに不信感を抱く。
けれども彼はそうしなかった。
故に内藤も何も出来ない。
むきになって否定すれば怪しまれる。
苛められていましたプギャーは悪い奴でしたと言えば、向こうも色々言い触らすだろう。
後手に回った時点で内藤が不利だ。
ともかく、みんな大して気に留めていないようなのが救いだった。
-
185 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:28:13 ID:W0iIunUcO
-
( ・∀・)「ホラーゲームやりたくなってきたなあ。そういやシリーズ物の新作出たんだっけ。
お年玉まだ残ってるしさ、今からそのゲーム買って、家でやろうぜ」
(´<_` )「断固拒否」
(;-_-)「僕もやだなあ」
( ・∀・)「かーっ、ノリ悪いな! じゃあこの前の格ゲーやるか」
(´<_` )「それなら構わない」
( ・∀・)「ブーンは?」
( ^ω^)「僕も──」
内藤君、と呼び掛けられた。
振り返る。
lw´‐ _‐ノv「やあ。あの件、どうなったかな」
眠たそうな顔。シュールだ。
ああ、そうだった。これも、ロマネスクの件に隠れてしまっていた。
-
186 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:29:07 ID:W0iIunUcO
-
(;・∀・)「あ! バレンタインの!」
まさか──とあらぬ疑いをかけるモララーへ、手で追い払う仕草をする。
( ^ω^)「そういうのじゃないから。
後で追うから、先に行っててくれお」
(;・∀・)「裏切り者ー! お前だけ彼女作るなんて許さねえぞー! 俺にも可愛い子紹介しろー!」
(-_-)「はいはい邪魔しない」
(;^ω^)「だからそういうのじゃないってば!」
(´<_` )「じゃあ後でな、ブーン」
弟者とヒッキーがモララーを引きずっていく。
弟者にはシュールの「依頼」について軽く話してあったので、
これから甘酸っぱい話をするわけもないと理解してくれているようだ。
シュールと共に昇降口の隅へ移動する。
-
187 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:31:43 ID:W0iIunUcO
-
( ´ω`)「あの……ごめんなさいお。まだ、全然……」
しょんぼりした表情を作った。
これで大体は許される。
( ´ω`)「実は、前々から騒がれてた事件の犯人が捕まって──
そのおばけの弁護をすることになって、ツンさん忙しいんだお」
lw´‐ _‐ノv「あー……そっか。しょうがないよね、弁護士なんだし」
lw´‐ _‐ノv「後回しになっても、とにかく見付けてくれればいいや。
もし見付からなくても──それはそれで、しょうがないのかなあ……」
( ^ω^)「見付からなかったら、お米返すようにツンさんに言うお。
あの人も、ちゃんと解決するまではお米に手をつけないだろうし」
lw´‐ _‐ノv「いや、いいよ。あれは依頼を受けてくれたことへのお礼であって、結果は関係ないんだから」
内藤も大概だが、彼女も同年代とは思えない落ち着きぶりだ。
ますますもって、涎を垂らし米にしがみつくツンの姿の駄目さが際立ってくる。
-
188 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:32:25 ID:W0iIunUcO
-
lw´‐ _‐ノv「あ、そういや、内藤君にもお礼するって言ったんだったな……どうしよう、米は先生にあげちゃったし」
(;^ω^)「いやいや、僕は何もしてないんだお! だからそんな気にせず……」
lw´‐ _‐ノv「私が納得いかん」
(;^ω^)「んー、じゃあ今度、何か手伝ってほしいことがあるときにでも声かけるお」
lw´‐ _‐ノv「おう、よく米俵とか担ぐから力仕事は得意だよ」
( ^ω^)「おっお、頼もしいお。──じゃあ、また今度」
lw´‐ _‐ノv「ん、またね」
( ^ω^)「ツンさんはまだ忙しそうだし、しばらくは僕が探してみるお」
lw´‐ _‐ノv「ごめんね、よろしく。私も頑張る」
昇降口を出て、校門の前で別れる。
2人の方向は反対。
数歩進み、あ、というシュールの声に足を止める。
振り向いてみると、シュールもこちらへ振り返っていた。
-
189 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/29(金) 19:32:57 ID:W0iIunUcO
-
lw´‐ _‐ノv「内藤君、何か無理して笑ってるように見えるね。嫌なことあった?」
困ったことがあるなら相談には乗るよ。
そう付け足し、シュールは前へ向き直って歩き出した。
再び振り返ることもなく、そのまま角を曲がる。
一方の内藤は立ち止まったままで、彼女が視界から消えても、なかなか動けなかった。
頬を両手でぴしゃりと打つ。
しっかりしないと。
演技をして上手く立ち回ることが、自分の処世術なのだ。
*****