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284 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 21:45:04 ID:rk55VhTcO
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( ^ν^)「照屋、腹減った」
居間の襖を開け放ちながら、鵜束ニュッは朝食の催促をした。
こっちが吸血鬼に飯を提供してやっているのだから、吸血鬼もこちらに飯を用意すべきである。
从´ヮ`从ト「おはようございます。朝餉の用意は済んでおります」
( ^ν^)「おう」
女が三つ指ついて出迎えた。
ぼりぼりと腹を掻きながら、ニュッは卓袱台の前の座椅子に腰を下ろした。
向かいに座る吸血鬼、照屋デレが沢庵なんぞを齧りながらニュッに微笑みかけてくる。
ζ(゚ー゚*ζ「おはようございますー。ご飯美味しいですよ」
( ^ν^)「はよう」
寝起きのニュッは平素よりは若干素直である。というか頭が働いていない。
和装の女が茶碗に飯を盛りつけ、ニュッに手渡した。
それを受け取り、香りで食欲を刺激してくる煮物に箸をつける。
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285 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 21:46:03 ID:rk55VhTcO
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ζ(゚、゚*ζ「ニュッさん、『いただきます』は?」
( ^ν^)「いただきます……」
从´ヮ`从ト「召し上がれ。お口に合うか分かりませんが」
程よい歯ごたえを残しつつ、よく煮込まれた人参。
じゅわっと溢れる煮汁は、やや塩気が濃いが、おかげで白米と合う。
米の炊き具合も上々。柔らかすぎず硬すぎず。優しい甘味は普段より強い。
ζ(゚ー゚*ζ「土鍋で炊いたご飯ですって。やっぱり安物の炊飯器より、ずっと美味しいですねえ」
( ^ν^)「うん」
味噌汁は少し冷めてしまっているものの、それでも美味い。
玉子と玉ねぎ。すっと溶けるような舌触りの玉ねぎに、ちゅるりと滑らかな溶き玉子。
煮物と反対に塩味は濃すぎず、しかし出汁がしっかり効いているので舌と腹に優しい。
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286 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 21:47:19 ID:rk55VhTcO
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( ^ν^)「お前が普通に飯食ってんの久しぶりに見た」
ζ(゚ー゚*ζ「美味しそうだったので……」
定期的に血さえ吸えれば、この吸血鬼には充分。
せいぜいが菓子類をおやつに食べるくらいで、こういう「食事」は気が向いたときにしかとらない。
たしかにこれなら手が伸びても仕方あるまい。
ニュッもここまでちゃんとした朝食は久しぶりだった。
普段はデレもニュッも忙しいので、手軽に作れるメニューばかりで。
从´ヮ`从ト「いかがでしょうか」
( ^ν^)「美味い」
从´ヮ`*从ト「それは……良かったあ」
頬を控えめに染め、女は微笑んだ。
そっとニュッに身を寄せてくる。
邪魔だったが、どかすのも億劫なのでそのままにした。
彼女が作ったのだろうか。
大層な料理上手だ。
たしか。こいつは。ええと。この女は。
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287 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 21:48:24 ID:rk55VhTcO
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( ^ν^)「おい。こいつ誰だ」
ζ(゚ー゚*ζ「遅っ」
番外編:連れ去り罪
ζ(゚ー゚*ζ「ニュッさんが昨日お持ち帰りしてきたんじゃないですか」
( ^ν^)「は?」
ζ(゚ー゚*ζ「昨日の夜遅く。べろんべろんに酔っ払って帰ってきたんですが
そのときに、この女性も一緒に」
思い出せない。
たしかに昨夜、居酒屋で一杯引っ掛けるつもりが、美味い酒が入っていたのでついつい飲み過ぎてしまい
果てには正体を失うほど酔ってしまったが。
店に入ったときには1人だった筈だ。
まさか店内でナンパでもしたのか。この自分が。有り得ない。
そもそも女が付いてきたところで、どうこう出来るわけでもないのに。悲しいことに。
ニュッが頭を押さえたまま黙り込むと、デレは溜め息をつき、昨夜のことを語り出した。
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288 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 21:49:16 ID:rk55VhTcO
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(*^ν^)『照屋あ。照屋。おい照屋。帰ったぞ。照屋。デレ。デレちゃーん』
ζ(゚、゚;ζ『そんなに呼ばなくてもここにいますよ……うっ、酒臭っ!
うわー、ちょっと、うわー』
(*^ν^)『おう照屋。照屋。いい子だなあお前はなあ、お前の捜査のおかげでなあ、今回も裁判で圧勝してなあ、照屋あ』
ζ(゚、゚;ζ『泥酔したニュッさん気持ち悪いんだから一人で飲んだら駄目って言ったじゃないですか。
あと今回の事件は、私あんまり関わってないんですが』
(*^ν^)『褒美をやって遣わす。ほら飲め飲め』
ζ(゚、゚;ζ『あーあー、もー脱がないでくださいよ。ニュッさんの血は不味いからご褒美になりませんし。
お風呂入ってきてください、それから晩ご飯もらいますからね』
(*^ν^)『じゃあ俺が飲むわ』
ζ(゚、゚;ζ『痛い痛い痛い! 手噛まないでくださいったああああい!』
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289 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 21:51:20 ID:rk55VhTcO
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(*^ν^)『照屋あ、客。客』
ζ(゚、゚;ζ『は? 何ですかもう、いい加減にしないと耳ちぎりますよ』
从´ヮ`从ト『……あのう……』
ζ(゚、゚;ζ『……え?』
(*^ν^)『風呂入る。寝る』
ζ(゚、゚;ζ『っえ? あの!? ニュッさん!?
誰ですか、どうしたんですか、どうしたらいいんですか!』
(*^ν^)『あと任せた』
ζ(゚、゚;ζ『だからどうしたら……あーっ、何なの!!』
从´ヮ`从ト『えっと』
ζ(゚、゚;ζ『……ニュッさんのお知り合いですか?』
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290 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 21:52:19 ID:rk55VhTcO
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从´ヮ`*从ト『……あの、先程、そこでお会いしたばかりで……』
ζ(゚、゚;ζ『はあー!? いっちょまえにお持ち帰りですかあの朴念仁!
ていうか連れてきといて放置!? 本当どうしようもねえですね!』
从´ヮ`*从ト『い、いいんです、私……どうされたって……』
ζ(゚、゚;ζ(おおっ……と……。ニュッさんったら一体どんな風に騙したの)
ζ(゚、゚;ζ『ひ、ひとまず、こんな時間ですし……泊まっていきますか?
客間にお布団敷きますから……』
#####
ζ(゚、゚*ζ「──ということがありまして。
ニュッさんシャワー浴びたら本当にすぐ寝ちゃうし、困りましたよ」
( ^ν^)「そうか。頼むから泥酔時の台詞を忠実に再現しないでくれ」
しばらく禁酒しよう。
本題とは別のところで決意を固めつつ、ニュッは振り返った。
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291 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 21:53:40 ID:rk55VhTcO
-
从´ヮ`从ト
女はもじもじと膝の上で両手をこねている。
頭に獣の耳が付いていて、彼女の感情に連動するようにぴょこぴょこ跳ねていた。
( ^ν^)「……」
从´ヮ`;从ト「あっ痛いっ」
とりあえず無言で耳を引っ張ってみる。取れない。
温かい。柔らかい。どうやら本物だ。
丸みのある耳。やや濃いめの灰色の毛。耳の後ろは白い。
( ^ν^)「おまえ人間じゃねえな」
从´ヮ`从ト「はい……」
ζ(゚、゚*ζ「そういえばタイミング逃して訊きそびれたんですが、お名前は……」
从´ヮ`从ト「リコです」
ζ(゚、゚*ζ「リコさん」
リコと名乗った女は、懐から和紙を取り出した。
変色した紙は古臭く、達筆で「狸娘」と記されている。
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292 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 21:54:45 ID:rk55VhTcO
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ζ(゚、゚*ζ「たぬき……むすめ?」
从´ヮ`从ト「私の名前です。昔、山を訪れた法師様が名付けてくださいました。
読み方を変えて『リコ』と名乗らせていただいています。
そちらの方が呼びやすいですから……」
ζ(゚、゚*ζ「はあ、なるほど。ということはリコさんは、狸さんなんですね」
从´ヮ`从ト「はい」
( ^ν^)「『たぬきむすめ』から『リコ』とは、また不相応にハイカラになったもんだな」
从´ヮ`*从ト
耳がぴんと立った。喜んでいるらしい。
嫌味のつもりで言ったのだが。
( ^ν^)「……んで、狸。お前は何で俺に付いてきたんだ。つかどこで会った」
ζ(゚、゚;ζ「リコさんって呼んであげてくださいよ」
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293 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 21:55:37 ID:rk55VhTcO
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从´ヮ`从ト「あのう、幽霊裁判について御相談したいことがあったんです。
どなたに話を持っていけば良いのか分からず悩んでいたところ、
鵜束様の評判を伺いました」
ζ(゚、゚*ζ「あー、なるほど。ですよね、そうでもなきゃニュッさんなんかに付いてきませんよね」
( ^ν^)「そういうときはまず署の方に行けよ」
从´ヮ`从ト「ごめんなさい、山のお外のこと、よく分からなくて」
ζ(゚、゚*ζ「あまり街へは下りてこないんですね」
从´ヮ`从ト「はい。──それで、盛り場から出られたところへ
僭越ながら声をかけましたらば、」
从´ヮ`*从ト「話は家で聞くと仰って、私の手をお掴みになられると、そのまま2人で家路を……」
──殿方とあんなに長く触れ合ったのは初めてでした。
ほのかに染まる頬に手を添えて呟く狸娘は、ニュッを一度見て、恥ずかしそうに目を閉じた。
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294 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 21:56:35 ID:rk55VhTcO
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( ^ν^)「……」
ζ(゚ー゚*ζ「良かったですねニュッさん、三十路手前にして最初で最後のお嫁さん候補」
デレの目が笑っていない。「どうするんですかこれ」と視線で訴えてくる。
どうしたらいいのか、こちらこそ教えてほしい。
ひとまずニュッは箸を下ろし、食べかけの料理をそのまま置いた。
狸娘が悲しげな目で見つめてくる。耳は伏せた状態で。
妖怪の作ったものを不用意に食べれば、何があるか分かったものではない。
いい思いをさせた後に見返りを求めるのは彼らの常套手段。
人間と妖怪の価値観は必ずしも一致しない。
僅かな報酬でとんでもない見返りを要求されることもある。
無論、今のご時世、そういう事態になろうものなら法に則って対処することも可能だが。
( ^ν^)「裁判の相談ってのは?」
从´ヮ`从ト「聞いていただけるんですか?」
( ^ν^)「まあここまで来たら、話ぐらいはな」
狸娘は、「えっと」だの「あの」だのと繰り返し、
しばらくしてから整理がついたのか、ようやく話し出した。
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295 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 21:57:34 ID:rk55VhTcO
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从´ヮ`从ト「今、人間の男性が幽霊裁判にかけられている筈なんですが……」
( ^ν^)「人間?」
ζ(゚ー゚*ζ「ああ、あれですよ。連れ去り罪の。自首してきた方」
( ^ν^)「あの、つまんなそうな事件か」
ζ(゚、゚*ζ「面白いか面白くないかで分けるのやめなさいって言ってるじゃないですか」
──おばけの子供を誘拐してしまった。
元の場所に帰してやりたい──
数日前、そう言って警察にやって来た男がいた。らしい。
ニュッは話でしか知らない。
ζ(゚、゚*ζ「男性が言うことには……一ヶ月前に、会社の飲み会に参加したそうなんですね。
酔っ払って一人で帰宅してる途中、山沿いの道を歩いてたら
山の中から鼓笛の音がしたらしいです」
( ^ν^)「鼓笛だあ?」
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296 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 21:58:16 ID:rk55VhTcO
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ζ(゚、゚*ζ「アルコールで気が大きくなってたらしくて、音の正体を見てやるぞってなノリで山に入ったそうです。
それで音を頼りに山道を歩いてたらですね、
大きな門と屋敷が目の前に現れたとか」
( ^ν^)「……ふうん」
ζ(゚、゚*ζ「既に鼓笛の音は消えてたんですが……屋敷の窓からは煌々と明かりが漏れてまして、
ふらふらっと、引かれるように中に入ってしまったそうです」
ζ(゚、゚*ζ「お屋敷は広くってですね。高そうな壺やら漆器やらが並んでまして、いかにもお金持ちのお家。
ただ──住人らしき姿は全く見られない」
( ^ν^)「……」
ζ(゚、゚*ζ「だんだん恐くなってきたので、男性は引き返しました。
でも門を出る直前、子犬がいるのに気付いたんですね」
ζ(゚、゚*ζ「きゃんきゃん鳴いてて、何だか弱っているようだったので、
見かねて思わず連れ帰ってしまったとか」
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297 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 21:59:24 ID:rk55VhTcO
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しかし犬を飼い始めて一週間経った頃、違和感を覚えた。
顔付きが微妙に変わっている。
さらに数日して気付く。
獣の目ではなくなっているのだ。
まるで人間のような瞳。気味が悪くなった。
さらに数日。
前足の指の形がおかしい。
また──人間に近付いている。
ζ(゚、゚*ζ「一ヶ月経過すると、鼻筋が低くなって、口の形も獣らしくなくなってきて……
『あの屋敷は化け物の家だったんだ、その家の子供を連れ帰ってしまったんだ』と考えた男性は、
吉津根神社の神主さんに相談しに行ったんですって」
ζ(゚、゚*ζ「そしたら神主さんが、おばけ法のことを教えてくれたので
警察に行って自首した、と。そういうことらしいです」
( ^ν^)「あー、その、何だ。ガキの話はひとまず置いといて。
山中の無人屋敷って、そりゃ迷い家じゃねえのか」
ζ(゚、゚*ζ「ですよねえ」
迷い家。伝承の一つだ。
山の奥にある無人の屋敷に迷い込んだ人間は、
その屋敷の中から何か品物を持ち帰ると、富を得て幸せになれる──という話。
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298 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 22:00:32 ID:rk55VhTcO
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( ^ν^)「もし迷い家なら、そのガキは幸福をもたらしてくれんじゃねえの」
ζ(゚、゚*ζ「ええ、実際、子犬を飼い始めてからというもの
宝くじに当たったり昇給したりと、小金が舞い込むようになってたみたいです」
ζ(゚、゚*ζ「ただ、あの山……。迷い家があるなんて話、今まで一度もなかったらしいんですよね。
昔はどうだか分かりませんが、今は神様がちゃんと管理してるような場所でもないし……」
デレが首を傾げる。
それに合わせてニュッも顔を傾けた。
ζ(゚、゚*ζ「まあ正直、いまいち分かってないんですよ。諸々。
あんまりちゃんと捜査できてませんからね、まだ。
ほら梅雨ですから。ここんとこ雨続きで、山の中を動き回るにはちょっと危険でしょう」
言って、デレはテレビのスイッチを入れた。
ちょうど天気予報の時間。一週間分の予報が表示されている。
今日からは晴れが続くようだ。
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299 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 22:01:35 ID:rk55VhTcO
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ζ(゚ー゚*ζ「天気回復しますねー。これで捜査進みますかね」
( ^ν^)「その犬ガキからは何も情報ねえのか」
ζ(゚、゚*ζ「言葉喋れないし、本人……本犬? も、状況よく理解してないっぽいです。
ほんとに小さくて幼いみたいで」
( ^ν^)「あっそう。──そんで?」
从´ヮ`从ト
( ^ν^)「狸」
从´ヮ`从ト
( ^ν^)「狸。おい。おい」
テレビの画面を見つめていた狸娘は、幾度目かの呼び掛けでようやく反応した。
少しぽかんとしてから、はい、と気の抜けた声で返事をする。
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300 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 22:02:58 ID:rk55VhTcO
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从´ヮ`从ト「えっと……?」
( ^ν^)「その事件について話しに来たってことは、何か知ってんだろ。
どんな『ご相談』だ?」
从´ヮ`*从ト「あ……まあ……。鵜束様、鋭いんですのね……すごいです」
ζ(゚ー゚*ζ ウェー
生温い目をしたデレが、半笑いの口元から舌を垂らしてちろちろと揺らす。
狸娘はといえば、またニュッに身を寄せてきた。
肩に頭を乗せ、ニュッのシャツの裾を控えめに掴む。いいからさっさと話せと思う。
从´ヮ`*从ト「そうなんです。……あのう、その子供を引き取りたいのです。
そして男性を解放していただけませんでしょうか」
ζ(゚、゚*ζ「えっ、何でです何でです」
从´ヮ`从ト「彼が見たというお屋敷は、私が見せた幻なんです……」
( ^ν^)「まぼろし」
最初にニュッに芽生えたのは、なるほど──という得心。
狸は狐同様、人を化かす。
寧ろ狐よりもよく化かすと言われるほどで、
化かし方は多岐に渡り、洞穴を屋敷に見せた狸の話もある。
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301 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 22:04:05 ID:rk55VhTcO
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从´ヮ`从ト「あのときは山の動物たち──あ、とはいっても、ただの動物ではなくて、
私のような化け狸や化け狐といった類です。
みんなで集まって、化かし合いをして遊んでいました」
もう話が読めた。
ちんたら聞いてやる時間もないので、ニュッの方から先へ進めることにした。
( ^ν^)「そこに居合わせたのが、その男か。
連れ帰ったのは参加者の子供ってわけだな」
从´ヮ`*从ト「ご明察です鵜束様」
ζ(゚、゚*ζ「子供の姿が人間に近付いてるのは、化け物としての力が発現してきてるからですか」
从´ヮ`从ト「ええ。恐らくは、人間様のお傍にいるから、そちらに体を似せ始めているのでしょう」
ζ(゚、゚*ζ「お屋敷は、迷い家じゃなかったんですね……。
その子供の親御さんはどうしてるんですか?」
狸娘は頬に手を当て、困ったように眉尻を下げた。
从´ヮ`从ト「子供を連れ去られてしまって、悲しみに暮れ寝込んでいます。
他の者たちで手分けをして探していましたら、裁判のことを耳にしまして……。
私が代表して、お話をしに参った次第です」
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302 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 22:04:45 ID:rk55VhTcO
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从´ヮ`从ト「全ては私達の不手際によるもの。
けれど私達も、もちろん彼も、悪気があったのではありません。
まことに勝手ながら、これで手打ちとしていただけませんでしょうか」
ニュッから離れ、狸娘は深々と頭を下げた。
これなら、警察様のお手を煩わせることもございません──
最後に、そう付け足して。
ζ(゚ー゚*ζ「そういうことなら、円満解決で何も問題ありません」
从´ヮ`*从ト「本当ですか?」
ζ(゚ー゚*ζ「ただ、私もニュッさんも、その事件の担当じゃないんですよね。
もう出勤の時間ですし、まずは私と一緒に署の方へ──」
( ^ν^)「いや、俺が引き受ける」
ζ(゚ー゚*ζ「──え?」
デレと狸娘の目が、ニュッに向けられた。
箸を取る。ほとんど冷めてしまっているものの、味は然程落ちていない。
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303 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 22:05:25 ID:rk55VhTcO
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ζ(゚ー゚*ζ「何です?」
( ^ν^)「今は手が空いてるし、俺が一通り面倒見とく。お前はお前の仕事してろ」
ζ(゚ー゚*ζ「何言ってるんです……ニュッさんのくせに……」
( ^ν^)「俺のくせにって何だよ」
ζ(゚ー゚*ζ「特に事件性もなく、このまま終わる話ですよ。
そんな案件をニュッさんが引き受けるって──嘘でしょう。
ニュッさんの大嫌いな、面倒でつまらないお話じゃないですか」
( ^ν^)「美味い飯まで食わせてもらったからな、多少は報いねえと」
ζ(゚ー゚;ζ「はあ!? は!? はあああ!?
そんなキャラじゃないでしょニュッさん!!」
从´ヮ`*从ト「鵜束様……」
ζ(゚ー゚;ζ「なん──何ですか──まさか──絆されましたか!? ニュッさんが!?
女に擦り寄られて情が湧きましたか!!」
( ^ν^)「どうだっていいだろ、別に」
ζ(゚ー゚;ζ「だ、だって……ニュッさん……ニュッさんのくせに……」
( ^ν^)「だから俺のくせにって何だよ」
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304 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 22:05:59 ID:rk55VhTcO
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ζ(゚ー゚;ζ「リコさん駄目ですよ、この男はクズゴミクソ野郎ですよ!!
悪いことは言いませんから、私と一緒に行きましょう! この人とはこの場でオサラバ! ねっ!」
从´ヮ`从ト「鵜束様にそんな酷いことを仰らないでください」
ζ(゚ー゚;ζ「鵜束様ってのもやめましょうよ、この人を調子に乗らさないでください!」
从´ヮ`*从ト「それに私は、この方に付いていくと決めましたもの……」
ζ(゚ー゚;ζ「……、……ちょっ……ニュッさん……何ですか……
まさか本当に、こんなので、いい気になって、鼻の下伸ばしてんじゃ、……」
( ^ν^)「お前は無関係のくせに何を必死になってんだ」
ζ(゚ー゚*ζ
間。
ばん、と音をたてて卓袱台に手をつき、デレが立ち上がった。
廊下に通じる襖を開け放す。
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305 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 22:06:31 ID:rk55VhTcO
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ζ(゚、゚#ζ「分かりましたよ、どうぞご勝手に!」
部屋を出て、怒鳴る。
勢いよく引かれた襖は、ぴしゃりと悲鳴を上げ、
叩きつけられた反動で僅かに隙間をあけて止まった。
どすどす、足音を立てながらデレが去っていく。
( ^ν^)「……面倒くせえ女だな……」
从´ヮ`*从ト「鵜束様」
余韻の残る居間。
ニュッが呆れたように呟き、狸娘は甘えるように囁いた。
*****
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306 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 22:07:46 ID:rk55VhTcO
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ζ(゚、゚#ζ(男の人ってのは何でああいうのに弱いかな……
あんな明らかに面倒臭そうな……)
曇天の下、デレは折り畳み傘を片手で弄びながら歩いていく。
晴れるのか降るのかはっきりしろ、と空にまで苛立つ始末。
腹が減った。
いや、胃袋は先程の朝食でいくらか満たされているが──「食欲」は募る一方だ。
どちらかというと、そのせいで苛々している気もする。
ζ(゚、゚#ζ(考えてみりゃ3日近く血を飲んでない!
しばらくお互いの在宅時間が合わなかったし、今朝もこの騒ぎで飲めてないし!
私のご飯としての自覚が足りませんよあの野郎!)
決して、ニュッの血を進んで飲みたいわけではない。不味いし。
しかし飲まなければ弱る。気力も失せる。飲まねば生きていけない。
昔は、若くて健康そうな人間を好きに選んで、殺さない程度に噛みついて血を吸って、それで良かった。
今ではあの男の血しか飲めない。
あんな不味い血に頼って生きる己が情けない。
何でよりによって。せめてもっとマシな血なら、デレの精神面も良好に保たれ──
ζ(゚、゚*ζ(……待てよ……)
ふと浮かんだ考え。
足を止め、思考を深める。
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307 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 22:08:50 ID:rk55VhTcO
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ζ(゚、゚*ζ(私とニュッさんは異性同士……そして独り身……)
ζ(゚、゚*ζ(でもニュッさんが妻帯者だったらどうでしょう……
奥様からしたら、自分の旦那の血を他の女がちゅうちゅう吸って、
しかも監視のために同居までしてるなんて嫌に決まってます。
夫婦関係にヒビを入れかねない事態です)
ζ(゚、゚*ζ(みんなもそれを分かってくれるはず。
そしたら──そしたら! 私の監視係兼ご飯担当者も交代になるのでは!?
しかもその理由が異性間の問題という点にあるのだから、次は女性が抜擢されるのでは!?)
ζ(゚、゚*ζ(血液の状態なんかニュッさんよりよっぽどマシなはず!
あのマッズイ血に馴らされてしまった今の私には、
きっと、とても美味なことでしょう!)
ζ(゚ー゚*ζ
ζ(゚ー゚*ζ(応援しましょう。祝福しましょう。
頑張れリコさんおめでとうニュッさん! お幸せに!
そしてよろしく新たなるパートナー!!)
10秒ほどの思考を終え、デレは拳を振り上げた。
狸娘は「ステキなトノガタ(笑)」と結ばれるしニュッは人生最初で最後の嫁を得られるしデレは不味い餌と別れられるし、
全方位幸せ満載の格安ハッピーセットだ。
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308 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 22:09:48 ID:rk55VhTcO
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ζ(゚ー゚*ζ「そのためにもニュッさんのニュッさんを何とかしなければ……
円滑な夫婦の営みも大切な要素ですからね……
知り合いのサキュバスくずれにでも頼んでみましょうか」
忍び笑いをするデレの足取りは軽い。
爪先の向きを変え、警察署とは別の方角へ一歩踏み出した。
*****
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309 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 22:12:05 ID:rk55VhTcO
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地方検察庁の片隅に、おばけ法検察官の出入りする棟がある。
その廊下を、細身の男が歩いていた。
{´ウ`}「今日も頑張るぞ!」
ニューソ。
朗らかな顔と振る舞いが特徴的な検察官。
印象に違わず人がいいのだが、それ故、被疑者達に甘いきらいがある。
その男のふくらはぎを、後ろから近付いたニュッが蹴飛ばした。
( ^ν^)「おいコラ」
{;´ウ`}「痛っ! え、何っ、何? ……あ、やっぱりニュッ君か!
後ろから蹴るのやめてって言ってるだろ、何でこんなことするかな!」
( ^ν^)「『頑張るぞ!』とか無邪気ぶった独り言やめろや。どこに何アピールしてんだ。
お前みたいな奴が心の底から気に食わねえ」
{;´ウ`}「い、いいでしょ別に……いちいち突っ掛からないでよ……」
ぶちぶち言いながら、ニューソは前へ向き直る。
そのまま立ち去ろうとするニューソの襟を、ニュッの右手が思いきり引っ張った。
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310 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/10/15(水) 22:12:53 ID:rk55VhTcO
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{;´ウ`}「ぐえっ!!」
( ^ν^)「誰が行っていいっつった」
{;´ウ`}「え? 何か用あるの?」
( ^ν^)「お前、連れ去り罪の案件持ってるだろ」
{´ウ`}「うん、まだ起訴してないけど」
( ^ν^)「被疑者に会わせろ」
{´ウ`}「え?」
ニュッが後ろに振り返る。
おずおずと顔を覗かせた狸娘が、深く頭を下げた。
ようやくニューソも彼女の存在に気付いたらしい。数秒固まり、「誰?」と首を傾げた。
*****