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626 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 22:09:45 ID:MrK7fFB.O
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ξ゚听)ξ「──昔……20年前、ヴィップ自然公園でおばけを見ました。
目玉が無くて、穴があいただけみたいな顔で、手足の形がおかしくて……」
ツンの声だけが法廷に響く。
20年前、姉者の前にいたというおばけ。
その特徴は、内藤にも覚えがあった。
ξ゚听)ξ「昨日、そいつをゴミ山でも見かけました。
そいつは7年前に、ここにいる内藤君をゴミ山で襲ったことがありました」
(*゚ー゚)「都村トソンの裁判で出た話ですか」
ξ゚听)ξ「ええ」
この場にいるほとんどの者には伝わらないやり取りだった。
都村トソンの裁判とは、とフォックスが訊ね、しぃが手短に答える。
その間に、内藤は小声で問いかけた。
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628 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 22:11:19 ID:MrK7fFB.O
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( ^ω^)「ツンさん、こっちでは見たことなかったんですかお?」
ξ゚听)ξ「あの道は普段使わないし──トソンさんの『あれ』を見たときも
内藤君以外の情報はぼんやりしてたから……」
「あれ」。トソンの記憶のことだろう。
納得して頷く。
しぃの方の回答も終わったようで、フォックスがツンへ続きを促した。
ξ゚听)ξ「……元々は、カンオケ神社の裏の林に住んでたおばけだったんでしょう」
ξ゚听)ξ「そこで、あいつは──『あいつら』かしら。
あいつらは、子供を食べてたんだと思います」
(;^ν^)「『口減らし』の……」
ξ゚听)ξ「ブーム君はそれを知っていたんじゃないかしら。
だから『こわいやつ』と表現した」
|; ^o^ |" コクコク
(;*゚ー゚)「……まさか」
ブームは尚も震えている。
尋常でない怯えようだ。
しぃと同様に、内藤も「まさか」という念を抱いた。
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629 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 22:13:06 ID:MrK7fFB.O
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(;*゚ー゚)「君も──喰われたのか」
ブームは答えなかった。
しぃの服をぎゅうと握り締め、呻きながら縋りつく。
▼・ェ・▼「その子供、普通の霊とも違うようだが」
(;*゚ー゚)「きっと……昔の、『口減らし』の方の被害者なんでしょう。
長い間うろついている内に魂が変化して──
ああ、そうか、だから君のことを調べても素性が分からなかったのか……」
今時の服装だから分からなかったとしぃが言う。
服装なんて、あまり当てにはならない。
アサピーのような一風変わった格好の者もいるし、くるうだって日によってワンピースが違う。
ξ゚听)ξ「……口減らしの件について、元となった話がありましたね。
母親が、ゴミと一緒に子供を捨て……翌日、子供だけがいなくなっていたっていう」
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630 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 22:15:15 ID:MrK7fFB.O
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ξ゚听)ξ「きっと、あれは事実だったんだわ。
──あいつらは、たまたま林の中で捨てられている子供を見付け、それを食べ……」
ξ゚听)ξ「変なクセがついちゃったんでしょうね。
子供を食べるのを気に入ってしまった」
(;^ν^)「……しかも噂が広まったせいで、
林の中に子供を捨てる親が増えた」
ξ゚听)ξ「ゴミと一緒に、ね」
ブームがついに泣き出していた。
声を殺し、呻いて、しぃへ回した腕に力を込める。
それを宥めていたしぃは、ふと気付いたように瞠目した。
(;*゚−゚)「……! そうか、ゴミか……!」
ツンが頷く。
くるうや、一部の傍聴人は首を傾げた。
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632 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 22:18:20 ID:MrK7fFB.O
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ξ゚听)ξ「奴らは、『ゴミ』と『子供』がセットになったときに
スイッチが入るようになった」
ξ゚听)ξ「たとえば13年前、女児が行方不明になったのは5月。
桜が散り、ゴールデンウィークも終わった頃」
( ^ω^)「──花見客や、連休中の利用者が散らかしたゴミがあったんでしょうかお」
ξ゚听)ξ「多分ね」
【+ 】ゞ゚)「弁護人が20年前に見掛けたときも春だったのか?」
ξ゚听)ξ「いえ、夏でした。でも、あの時期は公園の広場で花火をする人が増えます。
マナーの悪い人は燃えカスなんかをそのままにしていくので……」
姉者がこの場にいなくて良かった。
おばけに喰われかけていたなどと知ったら、彼女の心臓が止まってしまう。
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635 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 22:21:11 ID:MrK7fFB.O
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ξ゚听)ξ「……昔は黙ってても勝手に子供が捨てられてくるから良かったんでしょうが、
現代になり、『口減らし』は行われなくなった。」
ξ゚听)ξ「奴らの住み処の近くに公園が出来、ゴミや子供が目の前にある機会が増えても、
ひっそりと事を行うことは却って難しくなった」
ξ゚听)ξ「だから──ゴミ山に引っ越したんだわ」
爪;ー;)「……その者達にとって、とにかくゴミは『飯』と密接な関わりがあったと」
(゚A゚* )「そんで、1人でゴミ山に近付いた子供が襲われたんやな」
ξ゚听)ξ「ええ、7年前の内藤君や、8年前に裏山で遊んでいた子供のように。
裏山とゴミ山は近い場所にあるから、
多分、裏山を抜け、あの場所に近付いてしまったんでしょう」
筋は通る。
ささやかな疑問があって、内藤は首を捻った。
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636 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 22:23:23 ID:MrK7fFB.O
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( ^ω^)「でも、あのおばけから悪い気配はしなかったって、照屋刑事が言ってましたお」
ξ゚听)ξ「彼らには悪いことしてる自覚がないのよ。
向こうが来るから食べてるだけ──って感じで、
悪事のつもりはないんだわ」
ξ゚ -゚)ξ「逃げたってことは、法に触れる自覚はあったようだけどね」
(゚A゚* )「たち悪いんよね、そういうの……。
自分は間違ったことしてないんやから罪に問われるんはおかしいやろー、てね、
おばけ法を真っ向から否定してくんのよね……」
分かる、とフォックスとビーグルがしみじみ頷いている。
そこへ、しぃが大きくくしゃみをした。
よく見ると体も細かく震えている。
すっかり忘れていたが、雨に濡れっぱなしだった。そりゃあ体も冷える。
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637 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 22:24:51 ID:MrK7fFB.O
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▼・ェ・▼「……すぐ隣の部屋に、神社の職員が待機している。
暖房もあるし、タオルか何かあるかもしれん」
ビーグルが呟く。
渡辺が証言を終えた後に向かった部屋と同じだろう。
爪;ー;)「うん、そこで休んでいるといい。
ご苦労だった」
(*゚ー゚)「お言葉に甘えさせていただきます」
一礼し、ブームを抱えたしぃが入口へと歩いていく。
彼女が扉を押しやると同時、ツンが呼び止めた。
ξ゚听)ξ「しぃ検事、ブーム君、──来てくれてありがとう」
しぃは立ち止まって、思考するように顔を僅かに持ち上げた。
けれど、彼女からの返事はくしゃみだけで。
振り返ることすらなく、体育館を出ていった。
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638 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 22:26:21 ID:MrK7fFB.O
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静寂。
耐えきれないとばかりに、内藤の隣から消え入りそうな声がした。
(;‘∀‘)「……またんきは……」
ガナーの顔は青白かった。
今にも泣きそうな表情を浮かべ、久しぶりに出した声はか細い。
(;‘∀‘)「またんきは……ゴミ山で巾着を落として……それを拾いに行ったんですか……」
ξ゚听)ξ「恐らく……」
(;‘∀‘)「だとしたら──またんきは。あの子は、どうなって……」
誰も答えられなかった。
事実がまだ証明されきっていないこともそうだが、
何より、ほぼ確定しているであろう「それ」は、彼女に聞かせるにはあまりに辛すぎる。
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639 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 22:27:39 ID:MrK7fFB.O
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その辛い役目をツンが引き受けようとした。
だが、それが果たされることはなく。
ξ゚ -゚)ξ「またんき君は多分──」
∬;´_ゝ`)「──つ、連れてきました!!」
軋む音と共に、扉が開かれた。今日は審理中の出入りが激しい。
全身ずぶ濡れの姉者とジョルジュ。姉者が少年を抱えている。
まるで、ブームを連れてきたしぃとギコのような登場だった。
ガナーが椅子を倒す勢いで立ち上がる。
(;‘∀‘)「またんき……!」
(;∀ ;)「あ──ば、ばあちゃ……っ」
涙を流す少年の顔は、写真で見るものより血色が悪い。
けれど、斉藤またんきであることは間違いなかった。
ガナーの表情は歓喜に溢れ──駆け寄ってきた姉者がまたんきを渡した瞬間、
絶望へと塗り替えられた。
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642 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 22:30:02 ID:MrK7fFB.O
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(;‘∀‘)「ああ……どうして! またんき……嫌だ……またんき……」
ガナーが震える。またんきを落としてしまいそうで、
取り急ぎ、内藤が彼を抱え直した。
温度がない。雨のなか姉者に抱えられていたのに、彼からは少しの水気も感じない。
何より、赤ん坊ほどの重みもなかった。
【+ 】ゞ゚)「……どこから見付けてきたんだ」
∬;´_ゝ`)「えっと……」
_
(;゚∀゚)「ゴミ山の中に隠されてました!」
爪;ー;)「ほう。──しかし、何故あんなに突然行ったんだ?」
∬;´_ゝ`)「え、あ、あのう、」
( ^ω^)「姉者さん、小学校の先生ですから、『もしかしたらあそこにいるかも』って思ったら
居ても立ってもいられなかったのかもしれませんお」
恐らくはツンの指示だろう。
問いかけに困っているところを見ると、口止めもされていたのかもしれない。
なので内藤から助け船を出した。
ひとまずフォックスも納得──したかは分からないが、それ以上は何も訊かなかった。
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644 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 22:32:07 ID:MrK7fFB.O
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ガナーへまたんきを返す。
2人は泣きながら抱き締め合い、やがて、またんきの方が先に落ち着いてきた。
検察席のシラネーヨは、息子であるまたんきから目を逸らしている。
(・∀ ・)「……ここは」
涙を拭い、またんきは辺りを見渡した。
状況をよく分かっていないようだ。
ツンはいくらか躊躇ってから、またんきを一旦ガナーの膝から下ろさせた。
裁判について軽く説明する。
ある程度の事情を理解した彼は、オサムを不思議そうに見上げた。
(・∀ ・)「オサム様……?」
▼・ェ・▼「見覚えはあるか?」
(・∀ ・)「ううん」
くるうの頬が、ぱっと赤くなる。
しかし喜んでいい雰囲気でないことは把握しているようで、オサムの手を握るだけに留めていた。
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645 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 22:33:23 ID:MrK7fFB.O
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ξ゚听)ξ「どうしてお正月に、カンオケ神社に行ったの?」
(・∀ ・)「……オサム様は、親に苛められてた子供を助けたんだって……祖母ちゃんから聞いたから」
そこで初めて、またんきはシラネーヨの存在に気付いた。
目を見開き、一歩後退する。
ξ゚听)ξ「あなたも、助けてほしかったのね」
(;´ー`)「──何言ってんだヨ! それじゃあ……まるで俺が……」
シラネーヨはようやく声を発した。
内容は変わらず、自分の潔白を主張せんとするものだ。
ξ゚听)ξ「まるで?」
(;´ー`)「……っ、そいつに、何かしたみてえじゃネーかヨ!」
(゚A゚* )「そう言うからには、何もしてへんのやね?」
シラネーヨが詰まる。
くるうの方を気にしていた。
またんきのことを「そいつ」と粗暴に呼んだ時点で、内藤はもう疑いの余地はないだろうと思うのだけれど。
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647 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 22:37:09 ID:MrK7fFB.O
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(;´ー`)「……だ、大体! 俺ばっかり悪者みてえに言ってるけどヨ!
そいつが死んだのは、結局、向こうのせいだろうが!」
「向こう」──シラネーヨはガナーを指差した。
泣き崩れていたガナーが息を吸い込み、ひゅう、と喉から風が吹くような音が聞こえた。
(;´ー`)「婆さんが巾着なんてもん作るから、それ拾うためにゴミ山に行ったんじゃネーか!
それで死んだんなら──悪いのは婆さんだろ!
そもそも神社の話なんかするから、余計な興味持って夜中に家出なんざしたわけだしヨ!」
ξ;゚听)ξ「なっ……!」
_
(;゚∀゚)「はあ!? 何だそれ、責任転嫁じゃねえか!」
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650 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 22:40:04 ID:MrK7fFB.O
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(#´ー`)「俺が何したってんだ!!
1人で家出たのはあいつだし、あいつ殺したのも──神様だかおばけだかシラネーが、
俺は関係ねえだろうが!!」
▼・ェ・▼「……」
爪;ー;)「斉藤証人!」
ビーグルが口を動かした拍子に、牙が覗いた。
フォックスは咎めるように叫び、のーは頭を押さえている。
オサムは右手を持ち上げ、木槌がないのに気付いて下ろした。癖になっているのだろうか。
嫌な空気だなと思った。
何人も傷付けるような発言が響き渡る度、いびつに引き攣るようで。
姉者がガナーの肩を支えるように持つ。
内藤も何か言ってやりたかった。けれど相応しいものが思いつかない。
(#´ー`)「俺は、──何もしてネーヨ!!」
くるうは首を振るが──シラネーヨの怒声に怯んでしまっているのか、
嘘を指摘するための言葉が出ない様子である。
指摘する必要もなさそうだけど。
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652 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 22:41:35 ID:MrK7fFB.O
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木槌が振り上げられる。
しかし、直後に落とされたのは硬質な音ではなく──
少年の、叫びだった。
(#・∀ ・)「俺のランドセル壊したくせに!!」
大声の余韻は、存外あっさりと消える。
けれど空気は、シラネーヨの怒気を弱まらせていた。
ランドセル──内藤は、先日の公判を思い出す。
前に使っていたランドセルが壊れたから、新しく買ったものを大事にしていた、という話。
「壊れた」のではなく、正しくは「壊された」ということか。
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653 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 22:43:33 ID:MrK7fFB.O
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(#・∀ ・)「俺のこと殴ったくせに!
俺のこと馬鹿にしたくせに!!」
(;´ー`)「っ……」
シラネーヨは目を白黒させている。
彼による糾弾が、あまりに予想外だったのだろう。
またんきが一度俯く。
顔を上げたとき、彼の瞳には涙が張っていた。
(#;∀ ;)「……お、俺のこと、いらないって……言ったくせに……」
(;´ー`)「てめえ! それ以上──」
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654 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 22:44:53 ID:MrK7fFB.O
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(#;∀ ;)「母ちゃんに子供が出来たから! その子供が産まれたら、
俺なんか捨ててやるって、あいつが、言、言った……」
(;^ν^)「──もういい」
腕を組み項垂れていたニュッが、低く唸るような声を出した。
(;^ν^)「分かったから。……そんな死にそうな声で喋らなくていい」
またんきが唇を噛み締める。
涙はますます激しくなって。
声を張り上げ、少年は泣いた。
ガナーがきつく抱き締める。
雷が鳴った。
その音はずっと遠くて、ふと、雨も遠ざかっているのに気付いた。
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655 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 22:46:19 ID:MrK7fFB.O
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#####
( ´ー`)『みんな嬉しそうだなあ』
居間でシラネーヨと2人きりになった。
またんきの前でしか見せない下卑た笑みを浮かべたシラネーヨは、
わざわざ距離を詰め、低めた声で囁きかけてきた。
( ´ー`)『新しい子供のことばっかりだな、みんなの話題。
すげえ楽しみなんだろうなあ……』
(・∀ ・)『……』
( ´ー`)『お前なんか、もういらネーのかもヨ。可哀想だなあ。
子供産まれたら、おまえ捨てちまおうか。
俺の「家族」じゃネーもんな、お前……』
気にしないふりをしたかった。
けれども、泣くのを堪えるので精一杯だった。
シラネーヨは声を抑えて笑い、煙草をくわえると
ベランダへ向かうためか、居間を出て2階に上がった。
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656 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 22:47:37 ID:MrK7fFB.O
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(ぅ∀ ;)
滲んだ涙を拭う。止まらない。
またんきはコートとマフラーを身につけた。
ランドセルを背負う。
──オサム様。
苛められる子供を助けてくれる神様。
母も祖母も祖父も、シラネーヨの本性を知らない。
誰かに話したら殺す、とシラネーヨに脅されているので、誰にも言えなかった。
まさか本当に殺すわけがないだろうと考えつつも、もしかしたら、という気持ちが働くのだ。
音を立てないように気を遣いながら、玄関から外へ出る。
外の空気は痛いくらいに冷たい。
正月の、どこかのんびりした気配が自分の心境と食い違っていて、
世間からも除け者にされた気がしてひどく悲しかった。
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657 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 22:48:35 ID:MrK7fFB.O
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過去数年、正月にこの町を訪れる度にカンオケ神社へお参りに行っていたので
道順は知っていた。
ガラクタの山の前を過ぎる。
飛び出していた棒切れにランドセルのストラップ部分が引っ掛かり、些か乱暴に外した。
(;∀ ;)(……着いた)
神社に到着する。
職員などは見当たらない。
左手、小さな建物に明かりがついている。
神社の職員が使っているらしい。
見付かったら帰らされてしまう。
またんきは腰を屈め、ゆっくり拝殿に近付いた。
ここに神様がいるのだろう、とまたんきはぼんやり考えていた。
奥にある本殿の存在を知らない彼にとっては、神様がいるとしたらここしかないという認識だったのだ。
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658 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 22:49:39 ID:MrK7fFB.O
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拝殿の中は暗かった。
闇に目が慣れても、ほとんど物が無かった。
(ぅ∀ ;)(……オサム様、来るかな……)
もしオサム様が来てくれたら、少しだけ匿ってもらおう。
シラネーヨがいる家にはいたくないし──母のお腹を見ると、
まだ会ってもいない弟か妹に嫉妬してしまって、辛い。
。
ほんの少し、ほんの少しの間だけ、別の世界へ行きたい。
大丈夫。昔の新聞によれば、帰りたいと言えばオサム様はすぐに帰してくれる。
ほんの少しの間だけ。
オサム様が来ないなら来ないで、別にいい。
その場合は一晩だけここに身を隠して、母や祖父母がどんな反応をするのか確かめたい。
心配してくれたらいい。
そしたら、シラネーヨの、「またんきなんかいらない」という言葉を否定できる。
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660 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 22:51:17 ID:MrK7fFB.O
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(・∀ ・)『……あ……』
拝殿の隅に、お菓子のパッケージを見付けた。
ぐう、と腹が鳴る。
シラネーヨがいると食欲が湧かなくて、それと母に心配されたい──気を引きたいがため、
あまりご飯を食べていなかった。
散々迷って、またんきはお菓子の袋に手を出した。
ごめんなさい、と誰にでもなく謝る。強いて言うならオサム様に。
ビスケット菓子を一つ食べる。
美味い。
(・∀ ・)(……ちょっと分けてください……)
今度ははっきりオサム様に向けて言って、お菓子をいくつか取ると
後で食べるときのために、ひとまずランドセルにしまった。
(・∀ ・)(──あれ?)
ランドセルを見下ろし、違和感に首を傾げる。
何かが足りない。何かが。
考え、思い至った。
祖母からもらった巾着がない。
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662 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 22:52:11 ID:MrK7fFB.O
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(;・∀ ・)(あ……どうしよ……)
落としてしまったようだ。
祖母に対して申し訳ない気持ちも勿論あったが、それより、
このことを祖母に知られてしまったらどうしよう、という不安の方が大きかった。
せっかくあげた物を失くすなんて──と思われたら。
可愛くない、いらない子だと思われたら。
嫌だ。
どこで落としたのだろう。
ただ歩いているだけで落ちてしまうほど、緩い結び方はしなかった筈だ。
だとすると──
(;・∀ ・)(あそこだ!)
ゴミ山。
棒切れを振りほどくときに外れてしまったのだ。
すぐ戻るつもりだったので、ランドセルを置いたままにして拝殿を出た。
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663 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 22:53:42 ID:MrK7fFB.O
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急ぎ足でゴミ山へ戻る。
足元へ目を向けるが、見当たらない。
──かちゃ、と、金属の擦れる音がした。
顔を上げる。
またんきの頭より高い位置に、小さな巾着が置かれていた。
何故そんな場所に、という疑問はすぐには浮かばなかった。
手を伸ばす。
その腕を、歪な形の手が掴んだ。
(・∀ ・)『え……』
( ∵)" ( ∴)"
ガラクタの間から、人──に似た何かが這い出してくる。
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664 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 22:55:12 ID:MrK7fFB.O
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(・∀ ・)『あ』
引っ張られる。
持ち上げられる。
空洞に落とされる。
そいつらが、またんきにのし掛かってきた。
──久しぶりだ。久しぶりの子供だ。
──まずは一月かけて体を喰って、魂は二月だ。
──じっくり味わおう。
声を出しているわけでもないのに、化け物の会話が聞こえる。
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665 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 22:56:12 ID:MrK7fFB.O
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ああ。
こんなつもりじゃなかったのに。
少しの間だけ、他所へ行きたいだけだったのに。
どうしてこうなるんだろう。
やっぱり自分は、いらない子なのかな。
オサム様にも、いらないって言われたのかな。
化け物の顔が自身の右手に近付くのを眺めながら、またんきはそんなことを考えていた。
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668 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 22:59:45 ID:MrK7fFB.O
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──ニュッの手元から、着信音が鳴り響いた。
この法廷で彼がそれを操作するのは既に3度目。
どことなく虚ろな表情で電話をとる。
彼は一言ぽつりと答え、携帯電話を置いた。
▼・ェ・▼「どうなった」
( ^ν^)「捕まえて──今、埴谷刑事と一緒にここへ向かっていると」
分かった、とフォックスが頷く。
彼は静かに、オサムへ体ごと向き直った。
爪;ー;)「……これから先の諸々は、オサムの仕事だろう」
(゚A゚* )「せやね」
▼・ェ・▼「俺らはこれのために来ただけだからな」
ξ゚听)ξ「──ということは」
爪;ー;)「ああ」
タオルはもう使い物にならない。
着物の袖に涙を吸わせ、フォックスは木槌を振り上げた。
爪'ー`)「判決を言い渡そう」
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669 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 23:00:27 ID:MrK7fFB.O
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かあん、と響く音は、高く強く。
爪'ー`)「──被告人を、無罪とする」
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