ξ゚听)ξ幽霊裁判が開廷するようです

case8:神隠し罪/後編

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434 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/17(土) 20:09:33 ID:UlhPGaG2O


 斉藤またんきの祖父母宅は、近いと言う程ではないが、そう離れてもいなかった。
 これといって変わったところのない、普通の住宅街の中にある一軒家。

ξ゚听)ξ「またんき君がいないことに気付いた家族は、真っ先に玄関へ向かったわ。
      またんき君の靴が無くて、鍵も開いてた。
      一方、窓はどこも鍵が閉まったままで──」

( ^ω^)「玄関から外に出たと見ていいわけですね」

ξ゚听)ξ「そういうこと。
      ──またんき君は8時くらいに行方をくらました。
      で、オサム様が目覚めた8時30分までにはカンオケ神社に着いてた筈だから……」

 ツンは、祖父母宅を背にして立った。
 ここをスタートとすると、道は右か左かしかない。

 彼女の指が左方を示した。

ξ゚听)ξ「行くとしたら、あっちね。
      逆の道だと入り組んでるし、遠回りになる」

435 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/17(土) 20:11:02 ID:UlhPGaG2O

( ^ω^)「じゃあ早速歩いてみますかお?」

ξ゚听)ξ「いえ、先に──」

 ──そのときである。

 祖父母宅のドアが開き、男女が現れた。

( ^ν^)

ζ(゚ー゚*ζ「あら」

 振り返ったツンの顔の、嫌そうなこと嫌そうなこと。
 ニュッの方は然程表情を変えなかったが。

( ^ν^)「出待ちが来てるとは俺も人気者になったもんだな」

ξ#゚听)ξ「大変だわ内藤君ストーカーよストーカーがいるわストーカーストーカーストーカー!」

( ^ω^)「僕らの方が後から来てる以上、この言い合いにツンさんの勝機はありませんお」

436 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/17(土) 20:13:09 ID:UlhPGaG2O

ξ#゚听)ξ「何でいるの!!」

ζ(゚ー゚*ζ「次回の証人と、ちょっと証言内容の確認を。もう終わりましたけど」

ξ#゚听)ξ「そっちの証人はまたんき君のお父さんでしょ?
      お父さんはビップラ市の方じゃありませんでした?」

ζ(゚ー゚*ζ「お仕事はお休みして、奥さんと一緒にこっちに泊まってるんですって。色々不安ですから」

( ^ν^)「照屋、行くぞ。その女と長く会話するとアホが伝染る」

ζ(゚ー゚*ζ「たしかにさっきの雪合戦はアホ丸出しでしたよニュッさん」

ξ#゚听)ξ「あんたの陰気が伝染る前にこっちから消えてやるわよ! ばーか!」

 ツンはニュッ達と入れ替わるように、玄関の前に立った。
 彼らの見送りに出ていたらしき老婦が目を丸くしている。

437 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/17(土) 20:15:23 ID:UlhPGaG2O

ξ゚听)ξ「大前ガナーさんですね」

( ‘∀‘)「はあ……」

 60代半ばほどの女性。
 ツンは大前ガナーという名に頷いた彼女へ、自身が弁護士であることを告げた。

( ‘∀‘)「……あの、幽霊裁判? の弁護士さんでしょうか」

ξ゚听)ξ「ご存知なら話が早い。……今、ご家族の方とお話し出来ます?」

( ‘∀‘)「夫と娘は、まだ冷静に話が出来る状態でもなくて……娘の夫も疲れていますし……
       私ならお相手できますが」

ξ゚听)ξ「お願いします」

( ‘∀‘)「分かりました、どうぞ上がってください」

 ツンに手招きされ、内藤も上がることにした。
 ドアが閉まる寸前にツンが外の検事に向かって中指を立てたのには、
 見なかったふりをしておく。あまりに大人げなくて恥ずかしかったので。

.

438 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/17(土) 20:16:57 ID:UlhPGaG2O


( ‘∀‘)「──またんきは……孫は、帰ってくるでしょうか」

ξ゚听)ξ「……私には分かりません」

 大前家の居間へと通されて。

 お茶の入った湯飲み茶碗がツンと内藤の前に置かれた。
 それと同時に、ガナーは期待混じりの問いを投げ掛ける。
 ツンの答えは素っ気ないようでいて真実でもあった。ガナーが目を伏せる。

ξ゚听)ξ「ご家族も、幽霊裁判のことは聞いているんですか?」

( ‘∀‘)「ええ。私の夫は昨夜の裁判に、傍聴人として行っています。
       ……まるで夢か何かを見ているようだったと……
       色々なショックが強かったみたいです」

( ^ω^)「でしょうね……」

 自分の孫が神隠しに遭った──かもしれない──上に
 疑いをかけられた神様を裁判にかける、など。
 それだけ聞くと、たちの悪い冗談のようである。実際に見れば悪夢のようでもあろう。

439 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/17(土) 20:18:44 ID:UlhPGaG2O

( ‘∀‘)「被告人は、カンオケ神社のオサム様なんですよね」

ξ゚听)ξ「そうです。……犯人だと思いますか?」

( ‘∀‘)「いいえ」

 ガナーの否定は明瞭だ。
 ツンが意外そうな顔をする。

 彼女は暫し正面の老婦を見つめ、鞄からファイルを取り出すと
 ランドセルの写真が印刷されたページを開いた。

ξ゚听)ξ「またんき君のランドセルですが、何か変わったところはあります?」

 またんきが神社にランドセルだけ置いていったからには、
 その理由となるべきものの痕跡がある筈だ──とツンは考えているようだった。

 こんな大事な証拠などとっくに親が確認している筈で、その親が何も言わなかったのなら
 ランドセル自体に異常は無いのだろうと内藤は思うのだが。

 どうやらツンの方が正しかったらしい。
 ガナーが初見のように写真をまじまじと眺め入り、あら、と声をあげたのだ。

( ‘∀‘)「無くなってますね……」



*****

440 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/17(土) 20:20:26 ID:UlhPGaG2O


ξ゚听)ξ「それではよろしくお願いします」

( ‘∀‘)「はい」

 ガナーに一礼し、大前家の玄関から外へ出る。
 ドアを閉じ、門の前に立つ男女を視界に収めると
 ツンが思いきり顔を顰めた。

ζ(゚ー゚*ζ「あ、来ました来ました」

 デレがにこやかに手を振ってくる。
 その隣で寒い寒いとぼやいていたニュッへ、
 ツンはここぞとばかりに指を突きつけた。

ξ゚∀゚)ξ「あーら出待ちだわ内藤君! 私ほどの美人ともなれば当然よねえ!」

( ^ν^)「ずっとファンでしたサインください」

ξ゚∀゚)ξΦ"「ほほほほ人気者は大変だわあ!」サラサラ

( ^ν^)「照屋、至急このサインを貼りつけた藁人形を用意しろ」

ξ;゚∀゚)ξ「あっやだ返して返して」

 本当に、いい歳して何をやっているのだろう、あの2人は。
 ミニコントをするために自分達を待っていたのか、と内藤はデレへ問うた。

441 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/17(土) 20:22:49 ID:UlhPGaG2O

ζ(゚ー゚*ζ「出連先生が証人用意するのか気になったみたいです」

ξ゚听)ξ「お祖母さんが、こっちの証人として来てくれることになったわ」

( ^ν^)「祖母? 他の家族は概ね被告人が犯人だって意見で一致してるようだが」

ξ゚听)ξ「家族だからって必ずしも意見が合うもんでもないでしょ」

( ^ν^)「そりゃそうだろうがよ。……まあいい。面白そうだ」

ξ゚听)ξ「面白いか面白くないかで裁判やられても困るのよね。
      ──行きましょ内藤君」

( ^ω^)「はい」

( ^ν^)「照屋」

ζ(゚ー゚*ζ「はいはい」

 ツンとニュッは互いに顔を背けた。
 そうして、別々の方向に歩き出──

, , , ξ゚听)ξ スタスタ
, , ,( ^ν^) スタスタ

 ──さなかった。

ξ#゚д゚)ξ「ついてくんな!」

( ^ν^)「こっちの台詞なんですけど……」

442 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/17(土) 20:23:48 ID:UlhPGaG2O

ζ(゚ー゚*ζ「お2人はどちらへ?」

( ^ω^)「この家からカンオケ神社へ向かう道を確認したいんですお」

ζ(゚ー゚*ζ「あらー、私達も今そうするとこだったんです。奇遇ですね」

 うふふ、とデレが手を合わせて微笑む。
 弁護士と検事は同時に舌打ちしていた。


.

444 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/17(土) 20:25:09 ID:UlhPGaG2O


( ^ν^)「──防寒具を身につけ、靴を履きランドセルまで持って玄関から出たとなると、
       被告人が強引に連れ去ったわけではない」

 歩きながらニュッは言う。
 彼が声を吐き出す度、白い息が漂い溶けていく。

( ^ν^)「だから、まあ、カンオケ神社までの移動はまたんき自身の足で行われた筈だ。
       もちろん被告人が誘導してはいたんだろうが」

 それに対してツンが反論した。
 肌が白いので、鼻や耳の赤みが目立つ。

ξ゚听)ξ「その時点でオサム様が疑われる謂れは無くなるでしょ。
      もし本当にオサム様がまたんき君を手に掛けるとするなら
      わざわざ歩かせる必要なんか無い。誰かに見られるリスクもあるし」

445 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/17(土) 20:28:24 ID:UlhPGaG2O

( ^ν^)「被告人は新年の行事で疲れてたんだろ?
       だから異界へまたんきを隠すだけの余力がなかった。
       さらに言えば、疲れていたからこそ子供の1人でも喰って精をつけたかったのかもな」

ξ#゚皿゚)ξ「子供なんか食べなくたって、年末年始の豪華なお供えがたくさんあったわよ!」

( ^ν^)「神饌を食うのと人間を喰うのは全然違うだろ」

( ^ω^)「外で裁判の続きをやってるようですお」

ζ(゚、゚*ζ「今回はお互いに決定的な物証がありませんからね。
      推論のぶつけ合いですから、2人だけでいくら話しても決着つきません。
      最終的には裁判官の心証次第です」

 内藤とデレが並んで歩き、その前をツンとニュッが行く。
 少々ちぐはぐなように感じた。

446 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/17(土) 20:30:33 ID:UlhPGaG2O

ξ゚听)ξ「……またんき君、どうしてカンオケ神社に行ったのかしら」

( ^ν^)「被告人に誘われたからだろ」

ξ#゚听)ξ「検事は勝手にそう思ってればいいわよ」

 それからしばらく、2人の言い合いがまた続いた。
 内藤とデレは後をついていきながら世間話なんかをして。

 ──すると、見覚えのある道に出た。

( ^ω^)「……ここに出ますかお」

ζ(゚、゚*ζ「ここです」

 ヴィップ小学校の裏山と住宅に挟まれた道。
 あのゴミ山の前を通る道である。

( ^ν^)「さあて、内藤君のトラウマロードだ」

ξ゚听)ξ「トラウマ?」

( ^ω^)「いや、トラウマってほどじゃありませんので」

 ツンは一度首を傾げ、合点がいったか頷いた。
 トソンの裁判での話を思い出したのだろう。

447 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/17(土) 20:32:10 ID:UlhPGaG2O

ζ(゚、゚*ζ「ゴミの山って、いつからあるんです?」

ξ゚听)ξ「10年くらい前からだったかしらね。元はただの空き地だったんだけど、
      土地の持ち主が壊れた電化製品とか置きっぱなしにしてたら、
      他の人達も勝手にゴミ捨てていっちゃって」

 色々話しながら歩いている内、ゴミ山が視界に入った。
 内藤達が一歩進む度に近付いていく。

 油や鉄の臭いが漂い、デレは不快そうに鼻をつまんだ。
 前回は雨が降っていたため、臭いがいくらか誤魔化されていたのだろう。


( ∵)( ∴)


 例のおばけ2人組も、やはりそこに居た。
 こちらに気付いたようで、一瞥し──目らしき部分に穴しかないので、見た、と言えるか分からないが──、
 のそのそと立ち上がると、ガラクタの陰へ引っ込んでいった。

 先日は内藤達が通りかかってもじっとしていたのに、今日は少し反応が違う。

448 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/17(土) 20:32:43 ID:UlhPGaG2O

 ゴミ山の前を通り過ぎる。
 ニュッは大して興味を示さないままずんずんと進んでいく。

 ツンが足のスピードを緩め、反対にデレがゴミの臭いから逃れるため早足になったので
 2人の位置が入れ替わった。
 デレはニュッの隣に、ツンは内藤の隣に。

ξ゚听)ξ

 ツンが怪訝な顔をして振り返る。
 どうしました、と内藤が小声で問うても、何でもない、と返事。

 釈然としないまま歩き続ける。
 不意に、胸の内に引っ掛かるものを感じた。その正体も掴めず疑問は募るばかりだ。



*****

449 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/17(土) 20:33:39 ID:UlhPGaG2O


(;*゚ー゚)「うーん……」

 夕方。猫田家の離れ。
 しぃは、机の上のメモを見下ろしながら頭を掻いた。

 「オサム様」「きらきら」「見た」「カバ」「ぺたぺた」
 「えんぴつ」「はこ」「ほん」「ぶらぶら」「おちた」
 「こわい」「こわいやつ」──その他色々。

 ブームが口にする単語を書き取ったものだ。
 意味は、未だ一つとして分からない。

(;*゚ー゚)「日に日に単語は増えるが……」

(;,゚Д゚)「増えれば増えるだけ、それぞれの関連性が分かんなくなるわね」

450 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/17(土) 20:35:01 ID:UlhPGaG2O

|  ^o^ |「……こわい……」

 昨夜の裁判以降、この『こわい』という単語が出る頻度が上がった。
 ただ、それ一つだけを繰り返すので、ますますもって理解が及ばない。

 しぃはひとまずそれを置き、棚から適当な本を一冊持ち出した。

(*゚ー゚)「ブーム君、たとえば『ほん』というのは──こういう、『本』のことだろうか」

|  ^o^ |「……」

 ブームは頷いた。
 頷いてから、首を横に振る。
 肯定と否定だ。

(;*゚−゚)「……何だそれは」

(,,゚Д゚)「本は本だけど、種類が違うんじゃないかしら」

 ギコの推理に納得し、しぃは辞書や文庫や漫画、図鑑、専門書、雑誌を机に並べた。
 ブームはそれらを眺め、また首を振る。

451 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/17(土) 20:36:09 ID:UlhPGaG2O

(;*゚−゚)「ああっ、何なんだ! もう!」

 わけが分からない。
 頭を抱えたしぃの叫びに、ブームは肩を竦めて俯いた。
 大きな声出すんじゃないの、とギコに窘められる。

 大声に畏縮したのか拗ねたのか、ブームはひとしきり黙って、
 そして──

|  ;o; |

 ぽろぽろ、声もなく涙を零した。

452 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/17(土) 20:38:02 ID:UlhPGaG2O

(;*゚−゚)「!? な、何だ、何で泣くんだ!」

(;,゚Д゚)「あらやだ! もう、しぃが怒鳴るから!」

(;*゚−゚)「僕は別に怒ったわけじゃ……」

 何だか、ブームには困らされてばかりいる気がする。
 おろおろするしぃを放置し、ギコはブームを抱え上げた。
 背中をぽんぽん叩いてあやしても、彼は泣き止まない。

(;,゚Д゚)「しぃ、あんたも何とかしなさいよ」

(;*゚ー゚)「え、ええっ、いや、どうすれば……」

 子供は何をすれば機嫌を直すのだろうか。
 しぃが小さい頃は、よくギコに本を読んでもらったものだが。
 生憎、絵本の類はここにはない。

 しぃはひとまずギコからブームを受け取り、膝の上に座らせた。
 悩み、背後の棚からファイルを取り出して、ブームに見せるように開く。

453 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/17(土) 20:39:51 ID:UlhPGaG2O

(;*゚ー゚)「そ、そうだ、僕が今までやってきた裁判の話をしようじゃないか。
     あれは一昨年、僕が初めて担当した事件で……被告人はとある地縛霊、罪状は道連れ罪……」

(;,゚Д゚)「何なのよその血生臭い読み聞かせは!」

(;*゚ー゚)「僕はこうやって父さんから裁判の話を聞くのが好きだったんだ!」

(;,゚Д゚)「叔父さんはちゃんと緩い事件だけ選んでたでしょ!
     あんた今話そうとしたやつドロッドロのやつよ! 2、3人死んでるわよ!」



*****

454 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/17(土) 20:41:58 ID:UlhPGaG2O

(;´・ω・`)「ここで締め切らせてもらいます! それでは順番にクジを引いていってください!」

 ──翌日、2月1日。午後8時30分。
 旧校舎、体育館。

 まだ弁護人も検察官も入っていない法廷にて、抽選が行われていた。
 何の抽選かといえば、傍聴席の。

(;'A`)「ぐあっ! 外れた……!」

(-@∀@)「アラー、僕もハズレ」

 ドクオは外れクジを畳み、溜め息をついた。
 辺りを見てもゴミ箱が見付からないので、どこか適当なところで捨てよう、とポケットにしまう。

 メモ紙にでもしましょうかねと言いながら、同様に白衣のポケットへしまうアサピー。
 彼はドクオほど悔しがる素振りを見せない。

455 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/17(土) 20:43:43 ID:UlhPGaG2O

(;'A`)「あー、裁判気になるな畜生……誰か当たりクジくれねえかな」

(-@∀@)「みんな傍聴したくて来てるンですカラ、そりゃ無理デショウ」

 正論である。

 前回以上に多くの傍聴希望者が出たため、こうしてクジ引きに至ったのだ。
 それだけ注目度が高い裁判なのだから、皆の熱意も相応に強い。

 当選したおばけや人間達の喜びようからしても、譲ってもらえる確率はかなり低いだろう。

456 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/17(土) 20:46:20 ID:UlhPGaG2O

('A`)「けっ。あんたは気にならねえのかよ」

(-@∀@)「判決はショージキ、ドーデモイーんですけど、
      追い詰められて追い詰められて最後に逆転するセンセイをナマで見られないのがヒジョーに悔しい」

('A`)「勝つの確定かよ」

(-@∀@)「僕のセンセイがタダでやられるわけがナイ。
      ──オヤ、刑事サンと検事サン。オ揃いで」

(#'A`)「何っ!?」

(,,゚Д゚)「あら、どうもー」

(*゚ー゚)「あなた達も来てましたか」

('A`)「何だ、こっちの検事刑事か」

 咄嗟に構えたファイティングポーズを解く。
 しぃが胡散臭げな目をドクオとアサピーに向け、片手に持った紙を揺らした。
 ドクオと同じ、真っ白な外れクジ。

457 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/17(土) 20:49:56 ID:UlhPGaG2O

('A`)「あんたらも外れたのか」

(;,´Д`)「そう、全員はずれー。3人もいりゃ1人くらいは当たるかと思ったんだけど」

 そう言うギコは、見知らぬ少年を肩車している。
 誰だとドクオが問えば、ちょっとね、と曖昧な返事のみ。
 まあいい。ドクオに関係あることでもなかろう。

('A`)「すげえ数だよな、希望者」

(,,゚Д゚)「神様を裁くわけだからねえ……。
     もう、あちこち大騒ぎよ。警察も地検も」

(;,-Д-)「特に警察がごちゃごちゃ。おばけ課の職員なんて、そう多くはないでしょ。
     他の事件の方が手薄になっちゃって」

(;'A`)「おいおい、大丈夫なのかよ」

(;,゚Д゚)「これが一段落しないことにはねえ……」

(;´・ω・`)「すみません、抽選に外れた方は外へお願いします! 当選した方はこちらへ並んで──」

 青ネギがいつものしょぼくれ顔に汗を滲ませながら誘導している。
 彼も大変だろう。色々と。
 何しろ彼が仕える神様の裁判なのだから。

 ドクオ達は大人しく体育館を出た。
 ギコとしぃ、そして少年はさっさと帰っていく。

458 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/17(土) 20:53:39 ID:UlhPGaG2O

 雨が降りそうだ、と思った。
 そんな匂いがする。気がする。

ξ゚听)ξ「グッドイーブニーン」

('A`)「お」

(-@∀@)「センセイ」

 黒いコートを纏ったツンが、内藤と──証人だろうか、老婦を連れてやって来た。

 アサピーがツンにまとわりつく。
 白衣と黒ずくめが並ぶと、何だかオセロっぽい。

ξ゚听)ξ「体育館入らないの?」

('A`)「くじ引きがあってな、外れた。あんたと仲いい刑事達も」

ξ;゚听)ξ「くじ。そんなのやるの、ヴィップ町の幽霊裁判じゃ滅多にないわね」

459 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/17(土) 20:55:06 ID:UlhPGaG2O

(-@∀@)「僕がいないとセンセイ心細いデショウ」

ξ゚听)ξ「そりゃ残念だわあ。帰って寝ろ」

( ^ω^)「アサピーさんって帰る場所あるんですかお?」

 これから裁判に臨む割に、ツンも内藤も普段通り。
 彼らは時計を確認すると、旧校舎へ入っていった。
 その背中に「頑張って」というアサピーの声援を投げ掛けられながら。

 このままここにいても外れクジが当たりクジになるわけでもないので、
 ドクオはその場を後にした。

 明日にでもツンの事務所へ寄って、裁判の結果を聞こう。



*****

460 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/17(土) 20:56:44 ID:UlhPGaG2O


 それからあまり時間も経たず、9時が迫った頃。

∬;´_ゝ`)「ご、ごめんなさいジョルジュ先生、呼び出してしまって……」
  _
( *゚∀゚)「姉者先生からの要請とあらば、いつどこへども!」

 旧校舎の前で、姉者は何度もジョルジュへ頭を下げた。

 ──内藤が堂々と姉者へ外出の旨を告げ、家を後にしたのが数十分前。
 もうこそこそする必要もなかろうと完全に開き直ったらしい。

 それからずっとそわそわしていた姉者が、ついに辛抱たまらず旧校舎へ赴いたのは数分前。
 ジョルジュも呼んだのは、怖いから。単純に。
 常ならばギコを頼るところだが、幽霊裁判に関わることとなれば、ジョルジュの方が立場としては身近だったのだ。

462 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/17(土) 20:59:14 ID:UlhPGaG2O
  _
( ゚∀゚)「それにしても姉者先生、怖いんじゃなかったんですか?
     傍聴したいなんて意外だ」

∬;´_ゝ`)「ええ……」

 そろそろ始まる。
 幽霊裁判。神隠し罪。
 先日の法廷を思い返し、姉者は頬に手を当てた。

∬;´_ゝ`)(おばけって、本当にいるんだわ)

 記憶が蘇る度に血の気が引く。

 けれど──奇妙なのは、自分の中で彼らの存在が確固たるものになったというのに、
 これまで以上に恐ろしくなる、といった変化が無かったことだ。

 彼らにも法がある。
 ならば無闇に悪いことはしない筈だろうと。
 さらに言えば、

∬;´_ゝ`)(弟者や妹者も知ってるし、参加したことあるのよね……。
      ブーン君に至っては何回も)

 それは、幽霊裁判やおばけが必ずしも危険なものではない、という証明にもなり得た。

463 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/17(土) 21:01:03 ID:UlhPGaG2O

 何よりあの法廷を見た限り、おばけにも、
 怒りや悲しみや喜びを人間のように表現できる者がいるようで。

 これらの事実を知ったために、
 「得体が知れないもの」への漠然とした不安は除かれた。
 もちろん枠に収められないおばけもたくさんいるだろうけど、それは人間だって同じこと。

 まあ怖いものは怖いのだけれど。

 しかも正直に言うと、本当は、来たくて来たわけでもないのだけれど。
 ならば何故来たのかといえば──

 _
(;゚∀゚)「──っと、雨だ。入りましょう姉者先生。今日はちゃんと傍聴席に座りましょうか」

∬;´_ゝ`)「! は、はい」

 頭に落ちる雫の感触で我に返る。
 ジョルジュに手を引かれ、姉者は一層青ざめながら旧校舎の体育館へ向かった。


.

464 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/17(土) 21:03:34 ID:UlhPGaG2O


ξ゚听)ξ「……どういうつもりなの、あんた……」

∬;´_ゝ`)「……」

 体育館に入った途端、近付いてきたツンに怒られた。
 というより呆れられた。

 顛末が気になるなら傍聴に来いと言ったのはそっちだろう、とジョルジュが答える。

ξ゚听)ξ「言いましたけど──あんたはこういうの嫌なんじゃないの、姉者」

∬;´_ゝ`)「こ、怖いけど……でも……」

( ^ω^)「姉者さん、また来たんですかお?」

 弁護人席に座っていた内藤もやって来た。
 ツン同様、呆れた顔つきで。

 どちらに何を答えればいいのか。パニックに陥った姉者の頬を軽く抓ったツンは、
 続いて傍聴席へ目をやり、頭を掻いた。

465 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/17(土) 21:04:34 ID:UlhPGaG2O

ξ゚听)ξ「……まあそれはどうでもいいけど。
      残念ながら、席はもう全部埋まってるわよ」

∬;´_ゝ`)「う」

 それは体育館に入った時点で薄々わかっていた。
 傍聴席には、姉者達の座る場所など隙間ほどもなさそうなのだ。

 あまりおばけが密集しているのも見たくないので、顔を逸らす。

ξ゚听)ξ「さっき、くじ引きやったらしいのよ。
      今更2人分の席なんか空けられないわ。
      ギコ達だってクジ外して帰ってったらしいし」

( ^ω^)「ドクオさんとアサピーさんも外れてましたおね」

 ドクオさんとアサピーさんというのが何者かは知らないが、
 ともかくツンやギコの関係者である「こちら寄り」の人がいないとあっては、
 たとえ席が空いていたとしても、おばけの群れに混じる勇気は出ないだろう。

466 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/17(土) 21:05:58 ID:UlhPGaG2O
 _
(;゚∀゚)「どうします? 諦めて帰りましょうか」

∬;´_ゝ`)「そうするしかないですよね……」

 とは言いつつ、姉者は立ち尽くしていた。
 帰りたいという気持ちは勿論ある。
 同時に、気がかりなことがあって、ここに残りたいとも思う。

 やがてツンが長く息を吐き出した。
 親指で弁護人席を示す。

ξ゚听)ξ「……騒いだり気絶したりしないなら、傍聴席以外の場所、用意するけど」


.

467 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/17(土) 21:08:13 ID:UlhPGaG2O


爪'ー`)「今日の弁護人席は大所帯だなあ」

ξ゚听)ξ「助手達です」

∬;´_ゝ`)
 _
(;゚∀゚)

 弁護人席。ツンや内藤の後ろに置かれたパイプ椅子が2つ。
 そこに腰掛けた姉者とジョルジュは、痛いくらいに浴びせられるおばけ達の視線から少しでも逃れるため、
 精一杯、己の身を縮めようと悪戦苦闘していた。

 やっぱり帰っておけば良かったかなと思いつつ。



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