ξ゚听)ξ幽霊裁判が開廷するようです

case8:神隠し罪/中編

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305 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:51:48 ID:mE8wFGdkO

( ^ν^)「えー……それから、被告人の人柄に対する評価だが」

ζ(゚ー゚*ζ「人の機微に特別聡いわけでもなく──まあ、これは神様としては仕方ないことなんでしょうけど。
      また、何を考えているか非常に分かりづらいため、
      もし被告人が本当に罪を犯したとしても、『絶対に有り得ない』とは思わない……なんて証言があります」

( ^ν^)「だよな、内藤君?」

( ^ω^)「……そうみたいですね」

川#゚ 々゚)「誰がそんなこと言ったの……!」

 ニュッと内藤のやり取りの意味は理解しなかったらしく、くるうが憎々しげに呟いた。
 内藤が言った、とバレたら首の一つでも絞められるかもしれない。

ξ゚听)ξ「でも、裁判官としてはおかしなところもなかったんでしょう」

ζ(゚、゚*ζ「ええ、そのことなんですがね……。さっき言った通り、
      判決は妥当なものばかりでした。
      ただ、法廷での振る舞いが完璧だったわけでもなくて」

306 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:52:12 ID:mE8wFGdkO

ζ(゚、゚*ζ「『裁判を早く終わらせたい』
      『さっさと切り上げてくるうといちゃつきたい』
      『くるうが好きだよ』──と……まあ……このような発言が何度かあったそうです」

 「ああ……」とか「たしかに」とか、溜め息混じりの声が傍聴席から上がった。
 もはや、ヴィップ町幽霊裁判のあるあるネタ扱いだ。

ζ(゚、゚*ζ「特に、法廷においては裁判官と監視官という立場でありながら、
      審理中に堂々とべたべたするような──
      プライベートな振る舞いが多々見られたとのことで」

▼・ェ・▼「色ボケ」

爪;ー;)「昔はそんな男ではなかったのにな……」

【+  】ゞ゚)「……」

 オサムは眉一つ動かさない。
 精神が強すぎではないか。あるいはただの無恥か。

 嘆かわしい、とニュッが肩を竦めた。

( ^ν^)「このことから、被告人には些か自分本位な側面があると言わざるを得ない。
       特に恋人に関することとなると顕著だ」

ξ;゚听)ξ「ぬうう……」

307 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:52:48 ID:mE8wFGdkO

( ^ν^)「これを裏付けるような話を一つ、紹介しようか。
       その2人の馴れ初めについてだ」

 机に手をつき、やや前のめりになりながら、ニュッはくるうに視線を注いだ。
 ぎし、と机が軋む。その音がいやに耳障りだった。

( ^ν^)「監視官、くるう。
       神に嫁いでしばらく経ったせいで、普通の幽霊でもなくなっちまっているが──
       元は、ヴィップ町に住む人間だったそうだな」

川 ゚ 々゚)「……」

 自分へ話が向けられるとは思っていなかったのだろう。
 くるうは目を逸らし、躊躇いがちに首肯した。

( ^ω^)「そうだったんですかお」

川 ゚ 々゚)「うん……」

( ^ν^)「80年近くも前、彼女は、商家である茂名家の下女として働いていた。
       身寄りがなく困ってたところ、人のいい若旦那に拾われたそうだ」

( ^ω^)「……ツンさん知ってましたかお?」

ξ;゚听)ξ「いえ……」

 2人の馴れ初めなど、神隠しとは何の関係もないように思える。
 ツンもそう考えていたらしく、本当に予想外の方向から切り込まれたことに戸惑っていた。

308 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:53:16 ID:mE8wFGdkO

( ^ν^)「が、少々足りないオツムと生まれつきの『嗅覚』のせいで
       上手く馴染めず、仕事も出来ず……厳しい大旦那や先輩方に辟易し、
       度々職場を抜け出してはカンオケ神社でサボっていたという」

( ^ν^)「神社へ逃げ込んでくる彼女を見ている内、
       被告人は特別な想いを抱くようになり──」

【+  】ゞ-)

 オサムは目を閉じていた。
 ニュッの声を拒絶しているわけではなく、
 寧ろ、彼の言葉から追想しているようだった。



#####


川#; 々;)

 この世の全てに不満を抱いているような顔をしていることが、多々あった。

【+  】ゞ゚)『今日も来たのか』

 そういうときに近付くと、オサムの匂いを嗅ぎつけるなり、顔を綻ばせるのだ。
 それが愛しく思えるようになったのは、いつからだったか。

309 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:53:39 ID:mE8wFGdkO

川*゚ 々゚)『んー……いい匂い。他で嗅いだことないような匂い……』

【+  】ゞ゚)『また店の奴らに馬鹿にされたのか?』

 オサムが訊ねても、どうせ彼女には聞こえていない。

 ただ、彼女は独り言のように不平不満を漏らすので、
 近況を理解するのは容易かった。

川 ゚ 々゚)『みんな臭い……いっつも嘘ばっかり。
      若旦那様はいい匂いだけど、他のみんなは嘘のにおいがする』

 若旦那、というのは、茂名モナーのことだろう。
 茂名家の跡継ぎ。齢20を過ぎたばかりの青年。

 神社によく足を運ぶので知っている。
 たしかに柔和な顔つきの、心の優しそうな男だった。

 茂名家の中で、くるうは彼にだけ懐いている様子だった。
 他の下男下女や茂名一族の悪口は言っていても、モナーのことだけは悪く言わなかったほど。

【+  】ゞ゚)(モナーに嫁げば幸せだったろうに)

 生憎そうもいかない。
 モナーには既に妻がいる。茂名レモナ。
 夫にくっついて神社へ来ることがあるから、彼女のこともいくらか分かる。

310 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:54:07 ID:mE8wFGdkO

川 ゚ 々゚)『……レモナ様は恐い……』

 くるうの評価はそんなものだった。

 ──レモナは嫉妬深いのだ。
 幾度も聞いてきた、くるうの独り言から察するに。

 だから夫に懐く下女を敵視しているのだろう。
 モナーを奪おうなんて気持ちがくるうになくても。

川 ゚ 々゚)『誰もいないところで、レモナ様はくるうを叱るの……。
      声が大きくて、すごく恐いの。大きい声は嫌い……』

 ──「独り言」、というのも、違うかもしれない。
 時折、こうして明らかに語りかけてくるような口調になる。

 恐らくオサムの存在には気付いているのだ。

 見えなくても、聞こえなくても、匂いで察している。
 それがこの神社の主であるとまで理解しているかはともかく──
 「いい匂いのする何か」が近くに居る、という程度に。

川 ゚ 々゚)『帰りたくない』

 くるうが真正面に座るオサムに擦り寄る。
 擦り寄ると言ったって、触れることも出来ないから、
 ただただ距離が縮まっただけに過ぎないけれど。

311 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:54:36 ID:mE8wFGdkO

 抱き締めて頭を撫でてやりたいと思う。
 慰めの言葉を聞かせてやりたいと思う。
 自分の姿を、その目に映してほしいと思う。

 どれも叶わない。

 もし。
 くるうが人間でなくなったら。
 「こちら」側の存在になったら。

 ──霊にでもなったら。

 触れられるだろうか。
 会話が出来るだろうか。

【+  】ゞ゚)『……くるう』

 抱き締めるような仕草をする。
 触れられないから、形だけ。
 名前を呼ぶ。
 彼女の耳には入らない。

 彼女が幽霊になれば、これら全て、その身に受けてくれるだろうか。
 彼女が死んだら。


【+  】ゞ゚)『……殺したいほど、お前が好きだよ』


#####

312 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:55:07 ID:mE8wFGdkO

( ^ν^)「で、ある日。とうとう茂名モナーの奥方がキレた。
       人の旦那に色目使いやがって淫売が、ってな具合にな。
       まあ勝手に嫉妬して勝手にキレただけなんだが」


#####


 ──くるうが来なくなった。


 気配もしないのに、本殿の裏を見に行っては
 今日も来ていないのかと肩を落とす、というのを日に何度も繰り返した。

 くるうにとってはいいことかもしれない。
 逃げ込む必要がなくなった──つまりは茂名家での諸々が解決した(かもしれない)わけだ。
 あるいは、ここよりもっといい逃げ場が見付かったか。

 ともかく、寂寥と安堵を胸に抱えつつオサムは日々を過ごした。


 様相が変わるのは一月後のことである。


.

313 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:55:31 ID:mE8wFGdkO


( ,'3 )『あの家はもう駄目ですな……』

 ふらっとカンオケ神社を訪れる者がいた。
 珍しい相手だった。

 ──茂名家を代々護り、栄えさせてきた神だ。

 その屋敷神は、心底疲れた様子で首を振った。

【+  】ゞ゚)『何かあったのか』

( ,'3 )『先代や今の跡取りは善人でしたので、見守ってきましたが……。
      跡取りの妻が、家を穢しましたでな……。当代や番頭も荷担しておりましたで、
      もう、ほとほと愛想が尽きました』

【+  】ゞ゚)『穢した?』

( ,'3 )『あの家は見放して、何処ぞ別の土地へ移ろうと思いましてな。
     オサム様に一つ挨拶をしておこうと、こうして参った次第です。
     今まで大変お世話になりました。それでは……』

 去ろうとする屋敷神を引き留める。

 詳しく話せとオサムが詰め寄ると、屋敷神は渋ってみせた。

314 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:56:00 ID:mE8wFGdkO

( ,'3 )『身内の恥ですので……オサム様の御耳を汚してしまいます』

【+  】ゞ゚)『構わん』

( ,'3 )『つまらぬ話でございますから』

【+  】ゞ゚)『いいから言え。何があった』

( ,'3 )『はあ。──下女を一人、殺したのでございますよ』


 ──変わった力を持つ娘でした。人が嘘をつくと悪臭を感じるというのです。
 あれは恐らく、親のどちらかがサトリか何かの血を薄く継いでいたもので、
 その血がいくらか変化して、娘の鼻にだけ色濃く現れたんでしょうな。

 その下女と跡取りが親しいというので、跡取りの妻が悋気を起こしまして。
 下女を騙して、地下の座敷に閉じ込めたのですよ。

 普通に騙そうとしても、においで悟られますから……。
 きつい薫き物で下女の鼻を馬鹿にしましてな、それから嘘をついて、座敷へ。

 酷いものでございましたよ。些細なことをあげつらい、
 何もかもが気に食わぬのだと、仕置きと称して何度も何度も……。

315 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:56:27 ID:mE8wFGdkO

 自分一人の仕打ちでは足りないと思うたのでしょうか、ついには
 当代や番頭、下男下女達まで呼んで、「この女は好きに扱え」と。
 それがまた、残忍といいますか、非道な者ばかりをわざと選ぶものですから。ああ恐ろしい。

 見ていられませんでしたな。人間というのは、どうしてああも醜いことを……。
 ……とうとう下女は亡くなりまして。
 それを誰一人、悪く思うておりません。あの家はもう駄目です。

 唯一まともな跡取りだって、妻の「下女は他所へ奉公に行った」という嘘を信じて
 ついぞ地下の狂態に気付かぬような愚鈍ですから。
 いっそ哀れでございましょう──


( ,'3 )『私はあの家を離れます。
     私がいなければ、あんな家、すぐに滅びてしまうでしょう。
     あの有り様では自ずと不幸を呼び寄せますので。
     仕方のないことです。……仕方のないことです』

 そう繰り返して、屋敷神は去っていった。

 オサムは本殿へ戻り、一眠りして、目が覚めてから茂名家の屋敷へ向かった。

.

316 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:57:00 ID:mE8wFGdkO


 死体は既に片付けたのか、茂名家の地下は
 どす黒い汚れと血や糞尿の臭いのみが名残を留めていた。
 穢した、という屋敷神の表現に違わず、オサムには居づらくて堪らない。


川 ゚ 々゚)


 死体は無かったが、「くるう」はそこにいた。

 座敷の隅に座り込み、自分の膝をじっと見つめている。
 着物はほとんど布切れに成り下がっていて、青白い肌を碌に隠せていない。

 くるうの気配は稀薄で、あと2、3日も放っておけば跡形もなく消えてしまうだろうと思えた。

【+  】ゞ゚)『くるう』

 呼び掛ける。
 くるうは頭を擡げた。

 ──オサムの声を聞いた。

317 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:58:08 ID:mE8wFGdkO

川 ゚ 々゚)『……』

【+  】ゞ゚)『ここにいても何にもならない。ひとまず出よう』

 羽織を被せて、くるうを抱える。
 オサムの胸元に鼻先を寄せた彼女は、目を見開いた。

川 ゚ 々゚)『カンオケ神社の匂い……』

 うん、とだけ返して、オサムはくるうを抱えたまま茂名家を出た。
 途中、満ち足りた様子のレモナとすれ違う。レモナはオサム達に気付かない。見えていない。
 オサムは少し立ち止まって、結局そのまま歩き出した。

 屋敷神の言葉を信じるならば放っておいても報いはあるし、
 それに何より、今はくるう以外の者などどうでも良かった。



川*゚ 々゚)

 くるうの機嫌はいい。

川*゚ 々゚)『やっと会えた。ずっと会いたかった……』

 オサムの肩に手を回し、くるうは感極まったように囁く。
 レモナ達から酷い仕打ちを受けたのだから、平生ではいられないだろうと思ったのだが
 彼女の振る舞いはこれまで見てきた姿と何ら変わりない。

318 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:59:03 ID:mE8wFGdkO

 機嫌良く微笑みながら、くるうはオサムの首を絞めた。
 表情に反して力は強い。
 それで苦しいということもないが、食い込む爪が少し痛い。

川*゚ 々゚)『ずっと呼んでたのに。
      助けて迎えに来てってずっと呼んでたのに』

【+  】ゞ゚)『すまん』

川*゚ 々゚)『神社ではずっと傍にいてくれたくせに、肝心なときに全然来てくれない。助けてくれない。
      裏切り者。殺してやりたい。……って思ってたの、ふふ、んふふ』

【+  】ゞ゚)『……』

川*゚ 々゚)『でも、私が死んだおかげで会えたんだから、もういいや』

 そう言うくせに、手は一向に緩まない。
 俺が憎いかと問うと、否定が返ってくる。

川*゚ 々゚)『違うの。違うの。
      ……レモナ様は、若旦那様が好きだから私に酷いことしたんでしょう。
      じゃあ、人って、誰かを好きになればなるほど酷いことが出来るんでしょう』

319 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:59:49 ID:mE8wFGdkO

【+  】ゞ゚)『……そういうものでも、ないと思うよ』

川*゚ 々゚)『少なくともレモナ様はそうだったし、私も、ちょっと分かるの』

 ──殺したいくらい好きよ。

 くるうの声が、オサムの耳に吹き込まれる。
 ぞくりと背が震えた。
 浮かんだ感情は愉悦。

 神社に辿り着く。
 本殿へ向かう途中、たった今気が付いたといった顔でくるうは問うた。

川 ゚ 々゚)『あなた、名前は何ていうの。何て呼んだらいいの』

【+  】ゞ゚)『みんなオサムって呼ぶから、オサムでいい』

川 ゚ 々゚)『オサム? オサム様? ──じゃ、神社の神様なんだね』

 今まで全く思い至っていなかったらしい。
 くつくつ、オサムは声を抑えて笑った。



 間もなくして。
 茂名家に強盗が入り、大旦那と若旦那夫婦が殺されたと聞いた。
 主人のいなくなった商家はすぐに潰れ、多くの奉公人が路頭に迷ったという。

 それもやはり、オサムにはどうでも良かったのだ。


#####

320 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 10:01:46 ID:mE8wFGdkO


( ^ν^)「──屋敷に行くと彼女の霊がいたため、これ幸いとばかりに
       被告人は彼女を神社へ連れ帰った。
       こんなもんか」

 ニュッの説明は簡潔だった。

 オサムがくるうに焦がれたこと。
 くるうが主人の妻から手酷い扱いを受けて死んだこと。
 霊となったくるうをオサムが引き取ったこと。

 それだけだ。
 当時のオサムとくるうが、どんな思考と感情で動いていたかの説明はない。

川;゚ 々゚)

【+  】ゞ゚)

 本人も否定する素振りは見せなかった。
 要約すればそんなものだろう、と。

ζ(゚ー゚*ζ「これらの成り行きは、被告人本人、そして古くからこの町に住むおばけ達から聞いたもので、
      大体は一致していましたから間違いないかと」

321 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 10:02:16 ID:mE8wFGdkO

ξ゚听)ξ「……しぃ検事のお母さんに協力してもらってるわね、あれは……」

 小さな声でツンが呟く。
 感心したような声色だった。

( ^ω^)「しぃさんの?」

ξ゚听)ξ「この町に来て、たかだか一週間と少し程度で
      古株のおばけ達から話を聞き出すなんて簡単に出来ることじゃないわ」

ξ゚听)ξ「でも『猫田家』のツテを使えば可能でしょう。
      ──手っ取り早く的確な情報を得られる手段をちゃんと理解してるんだわ、鵜束検事」

 ニュッには出来て、しぃには出来ない点だ──とツンは続けた。

 しぃは母を嫌っている。
 プライドの高い彼女のこと、嫌いな相手に協力してほしいなどとは絶対に言わないだろう。
 そう考えると、地道に自分(とギコや警察)の手で証拠証言を集めているしぃは、なかなか努力家というか。

爪;ー;) グスッグスッ

(゚A゚* )「ほんで、その話がどないしたん」

( ^ν^)「非業の死を遂げた思い人を、その機に乗じてあっさり連れ帰り
       成仏もさせず、自分の傍に置いておくあたり──
       自分の欲に素直すぎるところがある」

 くるうへの恋慕はひとまず置いておいて、
 オサムの「自分本位」で「欲に素直」な点に注目してほしいのだ、とニュッは声を強くした。

322 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 10:02:53 ID:mE8wFGdkO

ζ(゚ー゚*ζ「もし、人を食べたくて堪らなくなったら……。
      拐ってしまうことも、厭わないのではないでしょうか」

爪;ー;)「そうかもなあ」

ξ;゚听)ξ「ちょっ、待っ、飛躍してるわ!!
      くるうさんがオサム様の傍にいるのは、彼女が自分の意思でしてることよ!」

 慌ててツンが立ち上がる。
 必要なときにちゃんと反論しておかないと、フォックスの心証は検察側に傾きっぱなしになってしまう。

ξ;゚听)ξ「第一、……検察の『喰った』っていう憶測は何なのよ!
      たしかにまたんき君は見付かってないけれど、
      だからって、丸ごと食べましたってのは──短絡的じゃないの」

( ^ν^)「まあ残念なことに、丸ごと食べましたって証明できる物証は無いな。
       が、根拠が全く無いわけでもない。
       カンオケ神社の神様は人を喰う、という噂がある」

ξ;゚听)ξ「噂でしょう? 記録なんてどこにもないわ」

( ^ν^)「重要なのは、『噂がある』、それそのものだろう。
       火のないところに煙は立たねえもんだ」

 ヴィップ町には他にも神社があり、神様もいる。
 それでも人喰いの噂は「カンオケ神社のオサム様」に終始しているのだ。

 それはつまり、オサムが人を喰うということに何かしらの根拠があるわけで。

323 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 10:03:15 ID:mE8wFGdkO

( ^ν^)「今はとっくに廃れたがな、昔、この町では『口減らし』が行われていた。
       まあ昔はどこでもあったろうが、ここでは方法が少し変わっていた」

( ^ω^)「口減らしって?」

ζ(゚、゚*ζ「家計にかかる負担を軽くするために、子供や老人などを減らすことです。
      奉公に出すとか他所の家にやるとか、……捨てるとか」

( ^ω^)「捨てる……」

( ^ν^)「子供をカンオケ神社の裏の林に置いていくんだ。
       その際、不要な物も一緒に置く。そうすることで、子供も『いらないもの』ですよと証明するわけだ。
       すると一日もすれば、子供は消えるという」


 ──噂の元になった話がある、とデレが人差し指を立てた。

 その昔。ある女性が、カンオケ神社の裏の林に、使い物にならなくなった調理器具や裁縫道具を捨てに行った。
 その際、口減らしのため子供を樹にくくりつけ、置き去りにした。

 翌日、やはり子供を惜しんだ母親は林へ戻った。
 調理器具と裁縫道具はそのまま残っていたが、子供だけがいなくなっていた。

324 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 10:03:47 ID:mE8wFGdkO

 見ると、道具には歯形が付いている。

 道具は硬くて、とても食べられたものではなかったが、
 子供の方はそうではなかったのだろう。

 そんな風に考えが及び、母親はむせび泣いた──という話。


ζ(゚、゚*ζ「きっとオサム様に食べられてしまったんだろう……って感じで締めくくられます」

ξ;゚听)ξ「創作怪談でしょ、そんなの」

( ^ν^)「この話自体の真偽は知らんが。これを種にして噂が広がったのは確かなことで、
       同様の手段で子供を捨てる輩は実際にいたし、
       その結果子供がいなくなったってのも、事実としてあったことだ。
       先も言った古株達からの証言にもある」

ξ;゚听)ξ「で、でも、絶対にオサム様が食べたんだって証拠もないんでしょう!?」

ζ(゚、゚*ζ「そりゃあ無いですけど」

▼・ェ・▼「しかし神社の裏の林に捨てたのが居なくなるわけだろう。
     限りなく被告人が怪しいじゃねえか」

ξ;゚З゚)ξ「うー、うー、うー……」

( ^ω^)(ツンさんが使い物にならなくなった)

325 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 10:05:16 ID:mE8wFGdkO

【+  】ゞ゚)「俺はそんな噂が流れてるのは知らなかったし、人を喰ってもいないんだが……」

川#゚ 々゚)) コクコクコク

 傍聴席がざわつく。
 内藤は一番近い席を横目で見た。
 ドクオの気勢は削がれ、一方、アサピーは追い詰められるツンを堪能している。

( ^ν^)「被告人は昔から神隠しを行っていたし、子供を喰うこともあった。
       ……それが、今回の件にだけ関わっていないとは、到底言い難い」

 以上ですと言って、ニュッとデレは座った。

 次はツンの番だ。
 反論の際に腰を上げたままだったので、そのまま続行。

爪;ー;)「弁護側の冒頭陳述だな」

ξ;゚听)ξ「……はい」

 フォックスが木槌を打ったことで、傍聴席はにわかに静まった。
 物凄い数の視線がツンに注がれている。
 頑張ってください、と内藤は小声で声援を送った。

 深呼吸。書類をめくり、彼女は口を開いた。

326 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 10:05:40 ID:mE8wFGdkO

ξ゚听)ξ「検察側の主張する事実は、ないものと見ています」

 ニュッが舌舐めずり。
 そう来なくては──なんて声が聞こえてきそうだ。

ξ゚听)ξ「事件当日、1月1日。
      元日ということもあり、オサム様はずっと忙しかったそうです」


 日が暮れて、ようやくその日の人足が絶えた頃、休息をとるため
 オサムは禰宜の八ノ字ショボンへ声をかけてから、くるうと共に本殿へ戻って眠った。
 それが午後7時50分頃。声をかけられた際にショボンが時計を確認したというので確かだろう。

 8時頃、ショボンや他の職員が一旦社務所に入る。
 それから8時30分までの間、誰も、参道や拝殿には近付いていない。


( ^ν^)「『子供がこっそり忍び込んだのに気付かなくてもおかしくない』、か?」

 先回りをして、ニュッが言う。
 眉間に皺を寄せたツンは、そうです、と冷たく返した。

ξ゚听)ξ「ランドセルに入っていたお供え物のお菓子についてですが、
      当時、供えられたお菓子やお酒は拝殿に置いて保管していたといいます。
      つまり拝殿に入りさえすれば、誰だってお菓子に手をつけられました」

327 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 10:06:03 ID:mE8wFGdkO

ξ゚听)ξ「オサム様もくるうさんも翌日になるまでお供え物には触れていないそうですから、
      またんき君が少しばかり失敬したんでしょう」

(゚A゚* )「まあ、子供やからね……。ついつい手も伸びる、かなあ?」

ξ゚听)ξ「8時30分頃。目を覚ましたオサム様は、拝殿の方に違和感を覚え、そちらへ向かいました。
      そこで見知らぬランドセルを発見します。
      けれど、持ち主らしき人はどこにもいませんでした」


 ランドセルを持って外に出て、辺りを回ってみたが、やはり持ち主は見付からない。
 仕方なく神社へ持ち帰り、後で職員に訊こうと思ったオサムは
 拝殿の隅にそれを置いて、再び本殿に戻ったという。

 そうして、すっかりそのことを忘れてしまったのだ。

 ──ランドセルを置いたのは、お祓いを依頼され神社が預かった品々の近く。
 年越し前の駆け込みが多かったため、職員も、ランドセルがそこにある違和感に気付きにくかったらしい。

328 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 10:06:48 ID:mE8wFGdkO

ξ゚听)ξ「またんき君は何らかの目的で拝殿に忍び込み、ランドセルを置いて外に出て、
      そのまま行方不明になったのでしょう。
      オサム様の関与する余地はありません」

( ^ν^)「子供が夜の拝殿に侵入する目的って何だよ」

ξ゚ -゚)ξ「それはどうだか……。
      ──またんき君のコートやマフラーも無くなっていた、と家族が証言しています」

ξ゚听)ξ「彼はしっかり防寒具を身につけて……ちゃんと準備した上で外出したわけだから、
      明確な意思を持って行動していることになる。
      衝動的に飛び出したとか、むりやり拐われたのとは違う。
      またんき君なりに考えがあって外出し、カンオケ神社に来たんでしょう」

( ^ν^)「ああ、そこはこっちも同じだ。
       被害者は自分の意思で外に出た。
       お菓子っつう餌が欲しくてな」

 ツンがひっそりと舌打ちする。
 ニュッは大っぴらに笑った。

329 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 10:07:26 ID:mE8wFGdkO

 そこへ口を挟む者がいた。
 ビーグル。人間の手で犬の頭を掻きながら、小首を傾げる。

▼・ェ・▼「カンオケ神社の拝殿は俺も写真で見たが──
     あそこは、逮捕された容疑者や裁判待ちの被告人達の保管場所でもあるだろう。
     そいつらは、事件について何か見ちゃいねえのか?」

爪'ー`)「拘束札に閉じ込められていれば外の様子など分からないだろう。バカ犬」

▼#・ェ・▼「誰がバカだ! そりゃ全員に拘束札使ってりゃそうだろうが、
      人形や骨董に魂を固定しただけのもあったんだ。
      そっちは普通に意識もある筈だから、拝殿の中は見えただろ」

(゚A゚* )「そうやねえ……」

ζ(゚ー゚*ζ「カンオケ神社では、暴れん坊ですとか、ちょっと危険な被告人には拘束札を用いますが
      そうでない方々は、ビーグル様が仰ったように
      何かしらの『物』に魂を固定するだけにしているそうです」

ζ(゚ー゚*ζ「ただ、年末年始は人が多くてばたばたするので、間違いが起こらないようにと
      みんな拘束札に移してから社務所の金庫にしまっていたそうなんですよ。
      お正月明けにまた元通りにして、拝殿に戻したらしいですが」

( ^ν^)「というわけで事件当日の拝殿にそいつらは居なかった。誰の目もなかった。
       ──被告人には丁度いいタイミングだったろう」

::川#゚ 々゚):: ムギーッ

【+  】ゞ゚)「くるう、どうどう」

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