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249 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:19:33 ID:mE8wFGdkO
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川 ゚ 々゚)『……』
【+ 】ゞ゚)『……おい。娘』
その娘は、神社の裏手に座ったまま黙りこくっていた。
右手で自身の着物の裾をいじっている。
【+ 】ゞ゚)『用も無いのにずっとそこにいられると、気になって仕方ないんだが』
川 ゚ 々゚)『……』
【+ 】ゞ゚)『おーい』
川 ゚ 々゚)『……』
【+ 】ゞ゚)『……おい』
何度呼び掛けても返事は来ない。
オサムに背を向け、娘は、じっと自分の膝を見つめていた。
【+ 】ゞ゚)『……聞こえるように話しかけてるんだがなあ……』
彼女の前へ回り込み、オサムはしゃがみ込んだ。
顔を覗き込む。
やはり何の反応も無い。
瞳を動かすことすら。
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250 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:20:07 ID:mE8wFGdkO
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──オサムの姿が見えない上に、声も聞こえていないようだ。
平常時ならばそれも普通だろうが、今は、見えるように聞こえるようにと気を遣ってやっているのに。
それでも全く見えていないとなると、この娘、どうやら相当「鈍い」らしい。
【+ 】ゞ゚)『……』
睨むように、オサムは娘を見つめ続ける。
彼女の呼吸がオサムの顔に当たるほど近くで。
川 ゚ 々゚)『……』
ふと、娘が顔を上げた。
ようやく気付いたか、と思ったが、そうでもなかった。
娘はオサムではなく、辺りへ視線を彷徨わせていたので。
彼女の頬が緩む。
川 ゚ 々゚)『いい匂いがする……』
娘は目を瞑り、周囲の匂いを嗅ぐような仕草を見せた。
匂いの発生源を探しているのだろう。
やがて、オサムの胸元辺りで動きを止めた。
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251 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:20:29 ID:mE8wFGdkO
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川*゚ 々゚)『ふふ……いい匂い……』
オサムが身じろぎすれば、彼女もそれを追うように身をよじる。
【+ 】ゞ゚)(──なるほど)
目も耳も「鈍い」代わりに、彼女の鼻はこういったものに敏感なのだろう。
【+ 】ゞ゚)『おい。おい』
呼び掛けには、やはり答えない。
意思の疎通がとれないのなら、されるがまま匂いを嗅がせてやる義理も無い。
本殿の中に引っ込んで一眠りしたい。
だが、彼女があまりに嬉しそうな顔をしているから、ここを去るのも気の毒なような。
オサムが困っていると、突然、娘の顔が険しくなった。
鼻をつまんで視線を滑らせる。
『──くるう! こんなところにいたのか』
川 ゚ 々゚)『……くさい……』
初老の男が近付いてくる。
彼女の呟きは彼へは届かなかっただろう。
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252 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:21:45 ID:mE8wFGdkO
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『仕事を放っぽり出して何やってるんだ! 旦那様がお怒りだぞ』
男は娘の腕を引っ張って立ち上がらせると、説教をしながら歩き出した。
くるうと呼ばれた娘はそれについていく。顔を顰めたまま。
2人が鳥居を潜って去っていくのを見届けて、オサムは本殿へ引っ込んだ。
それ以降、彼女はちょくちょく神社を訪れるようになった。
オサムに気付くことは、やはり、なかったが。
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253 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:22:23 ID:mE8wFGdkO
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case8:神隠し罪/中編
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254 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:23:19 ID:mE8wFGdkO
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(;'A`)「いやあ、驚いた……オサム様がねえ……。何かの間違いじゃねえのか?」
──あれから2日後。
ツンの事務所、ソファの背もたれの上で横になりつつ
鬱田ドクオは未だ信じられないといった顔で言った。
ξ゚听)ξ「前々から疑われてはいたのよ。
っていうのも、ヴィップ町では昔から子供の失踪事件がちょくちょく起きてて……
オサム様の仕業だろうって言われてきてたから」
ξ゚听)ξ「あ、もちろん確固たる証拠があったわけでもないのよ。
『神』隠しって言葉のイメージで、オサム様が連想されてたんだろうと思うけど」
( ^ω^)「何にせよ、警察の方は裁判長をマークしてたわけですおね」
ツンのカップにインスタントコーヒーを注ぎ、ミルクとガムシロップを付けて渡す。
自分のマグカップにはコーヒーと牛乳を3:7の割合で、そこに砂糖を多めに。
ドクオがいるのとは逆のソファに座って、内藤はコーヒー牛乳に口をつけた。
ξ゚听)ξ「ギコみたいに、オサム様と会う機会の多い人は反対してたみたいだけど……
今回の事件が起きて、そこへ子供の持ち物が神社で見付かっちゃったでしょう」
('A`)「前からオサム様を睨んでた奴らは、そら見たことかって感じだったろうな」
ξ゚听)ξ「鬼の首とったよう、ってギコが言ってたわね」
コーヒーにミルクとシロップを注ぎ、ツンは溜め息をついた。
そんなツンを、ドクオがじっと見つめている。
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255 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:24:19 ID:mE8wFGdkO
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('A`)「で、どうなんだ」
ξ゚听)ξ「何が?」
('A`)「オサム様。やったのか?
あんた、『見える』んだろ? 記憶とか、そういうの」
ξ--)ξ「神様とかのレベルになると無理だわ。全然」
('A`)「ふうん……。──じゃあ、あれだ、被害者の方」
ξ゚听)ξ「見付かってないし。……生きてるか死んでるかも、どうだか」
('A`)「私物は見付かってんだろ。
それに触って、こう、思念を読み取るとか……」
( ^ω^)「あ、知ってますおそれ。サイコなんちゃら」
ξ゚听)ξ「サイコメトリー? 超能力の」
('A`)「それそれ」
内藤も漫画で見たことがある。
物に宿る残留思念──これが内藤にはよく分からないが──とやらを感じられる超能力だ。
たとえばアンティークの時計に触れることで、
その持ち主だった人の記憶や感情を読み取る、とか。そういう。
たしかにツンの「追体験」も似たようなものではある。
「記憶や感情を読み取る」、その一点においては。
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256 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:24:52 ID:mE8wFGdkO
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( ^ω^)「でも超能力とか言っちゃうと、僕らとはジャンルが違う気が」
('A`)「お前らの霊感だって超能力の一種っていう見方もあるんだぞ」
物を介して情報を得るサイコメトリー、相手から直接情報を得るツン、
最終的にやっていることはほぼ同じ。
似たような力であることに変わりはないのだから──とドクオが熱弁する。
(*'A`)「その気になりゃ出来んじゃねえのか?
もし本当に出来りゃ、もうほぼ無敵じゃん。格好いいじゃん」ワクワク
ξ゚З゚)ξ「うーん……。
内藤君、一番お気に入りのものとか、一番大事なものない? ちょっと貸して」
( ^ω^)「一番お気に入りのものをツンさんに触らせたくないんですけど……」
ξ゚听)ξ「てめえの持ち物全部舐めしゃぶって私の唾液まみれにしてやるよ」
さて、一番大事なもの、と言われてすぐには浮かばない。
敢えて言うなら「自分自身」だが、今はそういう答えは求められていないだろう。
少し考えて、学生服の襟に付いている校章を外し、ツンの机へ乗せた。
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257 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:25:32 ID:mE8wFGdkO
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ξ゚З゚)ξ「一番大事なもの?」
( ^ω^)「小学校が碌な思い出無いもんで……。
こっちの──仲のいい弟者がいる中学校に通えるようになったのはすごく嬉しかったですし、
友達できたしクラスメートもいい人ばっかりだし……大事なものっていうか思い入れがあるっていうか」
ξ;;)ξ「良かったわね良かったわね内藤くん私の胸で泣いていいのよ」
(;A;)「まな板に頭押しつけても胸骨当たって痛いだけだろ」
一旦ドクオに鯖折りを決めてから、ツンは改めて校章を手に取った。
むにゃむにゃ唸り、校章を握り締めながら謎の踊りをして、最後に変なポーズを決める。
どうでしたか、と内藤が問うと、彼女は一仕事終えた顔で答えた。
ξ;゚听)ξ「ふう……そうね、ツンさん愛してますという強い念を感じたわ……」
( ^ω^)「出来なかったみたいですお、ドクオさん」
('A`)「なんだ無理か。腰と膝めっちゃ痛い」
無駄な時間を過ごした。
返された校章を付け直した内藤は、ふとあることを思い出して、口を開いた。
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258 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:26:01 ID:mE8wFGdkO
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( ^ω^)「この間、駄菓子屋の前でご老人が会話してたんですけど……」
老人達は、オサムが神隠しをしているだの──オサムは人を喰う神だのと言っていた。
それは事実なのか、とツンに問う。
ξ゚听)ξ「……どうかしらね。私も聞いたことはあるけど……。
ちゃんとした記録は無い筈よ。記録が無いだけなのかもしれないけど、でも──
そんなことするような人にも見えないわよね」
少し、ほっとした。
やはり、見知った者に良からぬ噂が付き纏っているのは気になるものだ。
はっきり否定されたわけでもないけれど、肯定もされなかっただけ、いくらか安心できる。
ξ゚听)ξ「ほんと、分かんないけどね。私にも。
──ねえドクオさん、ちょっといいかしら。
オサム様についての印象を訊きたいんだけど」
('A`)「あん? 裁判で使うのか」
ξ゚听)ξ「使えそうならね。無理に褒めたり、良く言ったりしなくていいわ。正直にお願い」
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259 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:26:47 ID:mE8wFGdkO
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('A`)「急に言われてもな……。
節度はあると思うぞ。悪いことと、いいことの区別はついてるひとだろう」
( ^ω^)「僕もそう思いますお」
これまでの裁判を通し、悪事を行った者に対しオサムは厳しい対応をしていた。
やはり神様ということで、何を考えているのか分からないところはあるけれども
しかし良識はそれなりに備わっている筈だ。
('A`)「ただ、やっぱり……神様だからな。俺らとは考え方が違うとこもあるだろ。
もし本当にオサム様が犯人だとしても、俺は──納得するかもしれねえ。
個人的な感情としては、そんなこと、あってほしくはないが」
それもまた、内藤は同意する。
人間の幽霊ならまだしも、妖怪や神様となると、もはや内藤達とは根本からして違うものだ。
善悪の基準など、どこまで人間と一致していてどこから食い違っているのか、こちらでは判断しかねる。
ξ゚听)ξ「内藤君が検事達に話したのと、ほぼ同じ内容ね」
('A`)「マジかよ。今回の検事ってニューソクのあいつだろ。容赦ねえな、少年」
( ^ω^)「ありのままを話そうとすると、やっぱりああなっちゃいますお」
今頃、彼らは証拠や証言を固めているところだろうか。
内藤は窓の外、ちらちらと雪の散る空を見た。
*****
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260 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:27:16 ID:mE8wFGdkO
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(;*゚ー゚)「だから、彼は事件に関する何かしらを目撃しているようで──」
( ^ν^)「何を?」
(;*゚ー゚)「いや……それを聞き出すのが我々の仕事では」
( ^ν^)「聞き出せたのか? この2日で」
──ヴィップ警察署の一室。
長机を挟んでニュッと向かい合うしぃは、言葉に詰まって視線を逸らした。
| ^o^ |
しぃの隣に座った少年が、紙パックのストローをくわえたまま、足をぶらぶらさせている。
「ブーム」。
2日もかけてしぃが彼について理解できたのは、この名前だけだ。
-
261 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:28:06 ID:mE8wFGdkO
-
(;*゚ー゚)「……ブーム君の中では何か明確に思い描ける像があるんだ。
もう少し時間をかければ……」
( ^ν^)「しぃちゃんよお」
左手で頬杖をついたニュッは、冷淡な瞳でしぃを見た。
そこには嘲りもいくらか混ざっている。
彼はループタイの留め具をいじっていた右手を持ち上げ、
人差し指で自身のこめかみをとんとんと叩いた。
( ^ν^)「分かるだろ。このガキ、知能に問題がある。
見たとこ7歳8歳、行っても9歳──まあ、おばけにゃ外見年齢なんかほぼ関係ないが
何にせよ見た目の割に言葉が覚束ない。
知恵遅れだ。低能とも言う」
(;*゚ー゚)「……」
| ^o^ |
豆乳──ニュッからもらったもの──を飲み終えたのか、
ずず、とストローが音を立てた。
普通に量が減ったとなると、浮遊霊等の一般霊ではなく、
それなりに実体を持つ妖怪か何かであるらしい。
ブームという名前を聞き出した時点でしぃも色々調べてみたが、
彼の来歴を窺わせるものが何も引っ掛からなかったため、
やはり人間の霊などではない、何かしらのおばけなのだろう。
-
262 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:28:31 ID:mE8wFGdkO
-
(,,゚Д゚)「最後の一言二言は余計なんじゃないの〜ニュッちゃん」
ζ(゚、゚*ζ「そうですよ。低能って何です。ニュッさんなんか不能のくせに」
( ^ν^)「そういう悪口はいいんですかあー」
ζ(゚、゚*ζ「ニュッさんに対してはいいんですうー」
入口脇に立つデレとニュッの間で睨み合いが勃発したが、
ニュッの後ろに回り込んだギコが彼の肩に両手を置いたことで、すぐに治まった。
(,,゚Д゚)「どうどう。はいリラックスリラックス。肩揉んであげる」
( ^ν^)「おい。何か昨日今日と接触多いぞお前」
(*,゚Д゚)「気のせいよお。ぐほほほ!
ニュッちゃんもっと鍛えなきゃ駄目よう、これじゃ簡単に捩じ伏せられそう」
心持ち青くなったニュッがギコの手を叩き落とした。
咳払いをし、しぃとの話に戻る。
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263 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:29:29 ID:mE8wFGdkO
-
( ^ν^)「ともかく。こいつに『まとも』な証言は期待できねえ。
もし仮に、根気強く粘って通訳に成功したとしても
今度はその証言の信頼性に大きな疑問が生じる」
(;*゚ー゚)「……ぐう……」
ぐうの音も出ない。出たけど。
たしかに、この少年は──健常な同年代の子供達と比べると
動きや反応が鈍いし、言葉も、意味の通る文章としての形は紡げていない。
| ^o^ |
ブームは不安げにしぃを見上げた。
視線を返し、しぃは額に手を当て唸る。
| ^o^ |『みました…… おさむさま…… きらきら きらきら……』
2日前の彼の言葉。
「オサムを見た」と言いたいのは分かる。
だが、いつ、どこで、オサムのどういった姿を見たのかという肝心な部分がさっぱり分からない。
何故だかしぃとギコに懐いてしまったらしく、あれ以来しぃ達の周りをうろちょろしては
上記の言葉と更にわけの分からない言葉を繰り返しているので、どうしても伝えたいことであるようだけれども。
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264 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:30:09 ID:mE8wFGdkO
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(;*゚ー゚)「……タイミングから考えて……彼は今回の事件に関する何かしらの情報を持っていて、
それを我々に提供しようとしてくれているのは間違いないと思うんだが」
( ^ν^)「被疑者の逮捕によって落ち着きのなくなった町の雰囲気に刺激され、
幼さゆえの自己顕示欲から──あるいはただ構ってほしいがために
いかにも意味深な発言をして検事と刑事に付き纏っているだけの可能性は?」
(;*゚ー゚)「それは……」
| ^o^ |「みました」
少年が口を開いた。
ニュッの冷眼を受けて若干肩を竦ませたが、負けじと続ける。
| ^o^ |「みた…… か かば…… ぺたぺた……」
( ^ν^)「カバ?」
(;*゚ー゚)「ブーム君、それも何度も聞いた……。もっと何か、他の言い方は出来ないだろうか」
少年は困ったようにしぃを見て、黙ってしまった。
こちらから「他の言い方は」だの「それ以外の情報は」と訊くと、
決まってこんな顔をして考え込むかのように沈黙する。
そして、
| ^o^ |「えんぴつ…… はこ ほん……」
こうやって、更に難解になってしまうのだ。
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265 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:30:41 ID:mE8wFGdkO
-
しぃは溜め息をつく。
対し、ニュッは再び左手で頬杖をついた。退屈そうな顔。
( ^ν^)「あんまり、がっかりさせてくれるなよ」
(*゚ー゚)「……何がでしょうか」
( ^ν^)「あの猫田つーの娘だっていうから、さぞ優秀だろうと思ったんだがな。
つまんねえ」
(*゚−゚)「……」
( ^ν^)「俺はな、自覚できてるくらいにはクズだが
お前の父親に対しては、ガラじゃねえが尊敬なんかもしてるんだ。
俺が検事になるより前に死んじまってるから、もちろん話でしか知らねえが……」
──しぃの父、猫田つーは、しぃが幼い頃に亡くなっている。
夜、幽霊裁判が行われる法廷に車で向かう途中
運転を誤って、真正面から壁にぶつかってしまったのだという。
事件の捜査が立て込み、疲れていたから居眠りしてしまったのだろう、と警察は言っていた。
惜しい人を亡くした──
おばけ法の関係者達は、みな口々にそう言う。
実際に会ったことのない人すら、話は知っているようで。
父が死して何年も経っても、未だに。
それほど有名だったのだ。
優秀さと人柄のおかげで。
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266 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:31:04 ID:mE8wFGdkO
-
( ^ν^)「まだガキだな」
ニュッはしぃに向かってそう言い捨てた。
父を引き合いに出されると──反論も浮かばない。
しぃは唇を噛んだ。
瞬間、ニュッが飛び上がる。
(;^ν^)「──ってえ!!」
(,,゚Д゚)「あらごめんなさいねえ」
いつの間にやら肩揉みを再開させていたギコが、思いきり力を入れたようだ。
謝罪の言葉はわざとらしい。
それでいくらか、しぃの気が晴れた。
(*゚ー゚)「……裁判は、いつになりますか」
( ^ν^)「来週。どうなるもんかね」
あいつが相手だからな、とニュッは呟く。
この男は、決してツンを見くびりはしていない。
少し意外に思えた。
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267 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:31:56 ID:mE8wFGdkO
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( ^ν^)「というわけで俺は準備に忙しい。女子高生の妄言には付き合ってらんねえ。
そのガキを証人にしたいなら、きっちり裏付け取れた上でちゃんとした証言持ってこい」
逆に、しぃのことは完全に見下し始めた模様。
あの人より僕の方が下だというのか、と内心で憤慨しつつ、
しぃはおとなしく部屋を出た。
そのまま警察署を後にする。
──ギコから離れたせいで、ブームの姿が見えなくなってしまった。
けれども服の裾を軽く引っ張られている感覚があるので、一応、ついてきてはいるのだろう。
(*゚ー゚)(……裏付けの取れた証言……どうしろっていうんだ)
ギコは今、ニュッの方を手伝わされているため
しぃと一緒にいられる時間は減る。
そうなると、しぃには幽霊達が見えない。まともに会話も出来ない。
いや──相手をブームに限定すれば、元より「まともな会話」ができた試しもないが。
ギコが帰ってきてから、改めてブームと話してみよう。
しかし、自分にちゃんと聞き出せるだろうか。果たして。
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268 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:32:36 ID:mE8wFGdkO
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(*゚ー゚)(……子供を相手にするのは苦手だ)
去年の夏、アサピーを訴えた裁判。
子供相手の聞き込みでしぃは失敗した。
──反省はしているつもりだ。
自分のやり方を非難されたのは腹が立ったが、
しぃのミスだというツンの指摘も正しかった(それがまた頭に来るのだけれど)。
それで今度の相手は、かつての凛々島リリより更に扱いづらそうな少年である。
ありのままを彼に語らせ、また、それをそのまま受け取れるだろうか。
しぃは、深い深い溜め息をついた。
*****
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269 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:33:11 ID:mE8wFGdkO
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──それから一週間後。
1月30日、早朝。
∬´_ゝ`)「あら?」
雪かき当番のため、普段より早く出勤した姉者は
旧校舎の近くに見慣れぬ集団を見付けて首を傾げた。
_
( *゚∀゚)「おはようございます姉者先生!」
∬´_ゝ`)「あ、ジョルジュ先生おはようございます」
同じく当番であるジョルジュがスコップ片手に近付いてくる。
体の芯まで染みるような寒さの中でも、彼はいつも通り活発だ。
∬´_ゝ`)「職員室に荷物置いてきますね」
_
( *゚∀゚)「どうぞそのまま職員室でお休みになって!
俺が姉者先生の分まで働きますとも!」
∬;´_ゝ`)「それは流石に……。
──あの、旧校舎のところの人達って」
-
270 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:33:33 ID:mE8wFGdkO
-
_
( ゚∀゚)「ああ、あれですか? 警察とカンオケ神社の人達みたいですよ」
∬;´_ゝ`)「警察と神社?」
どういう組み合わせだろう。
姉者が振り返るのと同時に、旧校舎の昇降口から見知った男が出てきた。
∬´_ゝ`)「──ギコ君!」
男へ手を振ると、彼も姉者に気付いた様子で
微笑みながら歩み寄ってくる。
(,,゚Д゚)「あらま、姉者。早いのね。おはよう」
∬´_ゝ`)「おはよう。ね、どうしたの? 旧校舎で何かあった?」
コートに付いた埃を払い、ギコは「ちょっとね」と返した。
(,,゚Д゚)「体育館を使わせてもらうことになって。色々準備してたの」
∬´_ゝ`)「どうして旧校舎なんか……。それに、神社の人まで呼んで──」
∬;´_ゝ`)「……ま、まさか、おばけのお祓い……!?」
-
271 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:33:56 ID:mE8wFGdkO
-
(;,゚Д゚)「そうじゃないそうじゃない。
寧ろ、お呼びするために色々……あ、いや、違うのよ、おばけとか関係ないから」
∬;´_ゝ`)「そ……そう……」
震えそうになる姉者の肩をギコが押さえる。
──旧校舎は苦手だ。
姉者がここの生徒だった頃から、旧校舎には霊が出るだの何だの言われていた。
それに当時、ツンが時おり何かに呼ばれるようにあそこに行っていたから。
_
(;゚∀゚)「……あ、あのー、姉者先生?」
過去の記憶に潜っていた姉者の意識は、ジョルジュの声によって現在に引き戻された。
早く雪かきを手伝わないと。
∬´_ゝ`)「ごめんなさい、すぐ準備してきます」
_
(;゚∀゚)「いや、それより──その男性はどちら様で……」
ジョルジュはギコと姉者を何度も見比べている。
やがて彼の目は、姉者の肩を掴むギコの手に固定された。
∬´_ゝ`)「この人、昔から仲良くさせてもらってる方で……警察の人なんです」
(*,゚Д゚)「埴谷ですう、よろしくお願いしますねえ。
ちょっとちょっと姉者、このひと先生? 素敵な方じゃないの!」
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272 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:34:33 ID:mE8wFGdkO
-
∬´_ゝ`)「ジョルジュ先生っていうの。いつも何かと助けてもらってて……」
(*,゚Д゚)「あらー、いいわあ、いいわ本当に」
∬*´_ゝ`)「ギコ君ったら」
きゃっきゃと笑い合う姉者とギコ。
仲睦まじい2人の様子に、ジョルジュの顔が強張っていく。
姉者は気付かない。
_
(;゚∀゚)「……姉者先生! ほら、ちゃっちゃと雪かきしないと! 登校時間に間に合いませんて!」
∬;´_ゝ`)「あ、そ、そうですね。じゃあねギコ君。
今度また家にご飯食べに来てね」
_
(;゚∀゚)「ご飯んんん!?」
(*,゚Д゚)「雪かき手伝いましょうか?」
_
(;゚∀゚)「結構です!!」
ギコの女言葉にも構う余裕のないジョルジュは、
姉者の右手を掴んで、ざくざくと雪を踏みつけながらギコから離れた。
姉者も姉者で、別のことが気になって、ジョルジュの様子にまで気を払っていなかった。
∬´_ゝ`)(……結局、何のために旧校舎使うのか聞けなかったなあ)
.
-
273 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:34:57 ID:mE8wFGdkO
-
∬´_ゝ`)「──ってことがあってね」
その日の夜。
夕飯を食べ終えた卓袱台を拭きながら、姉者は早朝の出来事を家族に語っていた。
l从・∀・ノ!リ人「ははあ、それで今日一日、ジョルジュ先生が落ち着いてなかったわけじゃの。
いきなりギコさんのことを訊いてくるから、
ついにストーカー容疑で警察に目を付けられたのかと思ったが……」
(´<_` )「おい妹者、そのジョルジュ先生って何だ。どういう奴なんだ。おい」
( ´_ゝ`)「妹者、弟者が面倒臭いからその話やめよう」
∬´_ゝ`)「警察と神社の人が、旧校舎で何するのかしら……」
( ^ω^)「現場検証とか、そういうのじゃありませんかお。
ほら、子供が行方不明になった事件で、神社の中から子供の持ち物が見付かったっていうし。
旧校舎にも何か痕跡あったのかもしれませんお」
テレビを見ながら、内藤が興味なさげに答えた。
道理が通っているように思えた。
たしかに先週、カンオケ神社で行方不明事件の子供に関する何かしらが発見されたというニュースがあったし。
∬´_ゝ`)「そっか。そうよね」
──わずか一瞬、内藤と弟者が目配せしたことに姉者は気付いた。
ただ、その真意までは思考が至らなかったけれど。
.
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274 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:35:29 ID:mE8wFGdkO
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それから約一時間後。
居間で妹者の宿題を見てやっていた姉者は、ふと、内藤への用を思い出した。
大したものでもないけれど、忘れない内に言っておこう。
男衆3人は、既に2階の自室へ戻っている。
姉者は2階へ上がり、一番奥、内藤の部屋へ向かった。
「──行くのか」
「まあ、どうなるか気になるし……」
「そりゃ俺だって気になるけどさ」
「弟者も行くかお?」
「まさか。後で結果だけ教えてくれ」
内藤の名を呼ぼうとしたとき、室内から、弟者と内藤の声がした。
どうやら2人で話しているらしい。
∬´_ゝ`)(邪魔しちゃ悪いわね)
用事はまた後にしよう。
踵を返しかけた姉者は、次いで弟者が発した言葉に動きを止めた。
「しかし、何でまた旧校舎なんだ……。去年も一回あったけど」
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275 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:36:04 ID:mE8wFGdkO
-
∬;´_ゝ`)(──旧校舎?)
迷った。
躊躇し、後込みして、そして姉者は襖に耳をつけた。
「今回は傍聴人もたくさん来るだろうから、
分かりやすい場所で広いところをってことで旧校舎の体育館にしたらしいお」
「傍聴人って……N県のときみたいに?」
「多分そうなるお」
∬;´_ゝ`)(傍聴? ……N県が何なの?)
「何時からなんだ」
「9時から──そろそろ出ないと間に合わないお」
「……気を付けてな」
「途中でツンさんと合流するし、多分大丈夫。
一応バレないように行くけど、姉者さんや兄者さんには上手くやっといてほしいお」
「分かったよ」
「今度、何か奢るお」
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276 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:37:01 ID:mE8wFGdkO
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∬;´_ゝ`)「っ」
立ち上がったのか、衣擦れの音がした。
姉者は慌ててそこから離れ、斜向かいの自分の部屋に飛び込んだ。
襖をそっと開け、細い隙間から廊下を覗く。
内藤の部屋から彼と弟者が現れる。
弟者は隣の自室へ入り、コートを着込んだ内藤は用心深く周囲を見渡して、
(ω^ ) , , ,
そして足音を立てぬように廊下を進むと階段を下りていった。
∬;´_ゝ`)「……」
様々な単語が脳裏を巡る。
旧校舎。傍聴人。9時。──ツン。
葛藤が胸の内で暴れ回る。
姉者には隠したがっているようだった。
けれども、いったい何をするのか気になる。
そっと廊下に出た。
そろり、四つん這いで進み寄る。
階段の上から階下を窺う。
内藤は左右を見て、玄関の方へ向かった。
静かに靴を履き、玄関の引き戸がゆっくり開かれる音──こうして耳を澄まさねば聞こえないほどの。
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277 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:37:25 ID:mE8wFGdkO
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∬;´_ゝ`)(こんな時間にどこへ……)
疑問を口の中で言葉にし、その馬鹿馬鹿しさに眉根を寄せる。
どこへ、なんて。決まっている。
今し方、彼が言ったばかりではないか。
姉者もまた内藤に倣い、そろそろと階段を下りて、玄関で靴を履き、外に出た。
門に隠れて向こうを見遣る。
内藤はもうこそこそするのをやめて、普通の足取りで歩いていた。
夜道は恐い。
けれど──内藤はまだ中学生だ。
夜に1人で出歩くのを見過ごすことは出来ない。
∬;´_ゝ`)(あ、でも、旧校舎に行くのよね……。なら心配いらないかも……)
旧校舎なら、ギコも何かしら関わっている。
ちょっとしたイベントでもあるのかもしれない。
内藤が居間で言った「現場検証」などではなく。
しかし、「傍聴人」とはどういうことだろう?
裁判? 旧校舎で。こんな時間に。まさか。きっと、聞き間違いだったのでは。
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278 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/01(木) 09:37:46 ID:mE8wFGdkO
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──内藤が角を曲がった。
姉者の選択肢は二つ。家に戻るか、内藤を追うか。
彼はしっかり者だから、そうそう危険なことには首を突っ込まない筈。
でもやっぱり不安はある。もしかしたら。万が一。
∬;´_ゝ`)「……」
姉者は、一歩踏み出した。
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