ξ゚听)ξ幽霊裁判が開廷するようです

case8:神隠し罪/前編

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194 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 01:02:40 ID:o0h64PMoO


ζ(゚ー゚*ζ「この町では、おばけ法の裁判官はオサム様のみですから。
      悪いことをしたいおばけ達にとっては、彼が一番の脅威なわけでして」

 軽やかな足取りのデレは、にこにこ笑いながら言った。

 彼女から借りたハンカチで鞄を拭いつつ内藤はそれを聞く。
 自分のハンカチは顔や首を拭いた段階で使い物にならなくなってしまった。

ζ(゚ー゚*ζ「余計な騒ぎになるのを防ぐために、彼が逮捕されたことはなるべく広めないようにしてたみたいですが
      まあ、人の口に戸は立てられぬと言いますしね。
      とうとう町中のおばけに知られてしまったようです」

ζ(゚ー゚*ζ「それで、どうも、このごたごたに乗じて
      好き勝手やっちゃおうって思ってる方々がいるみたいですね」

( ^ω^)「さっきの黒いやつみたいな?」

ζ(゚ー゚*ζ「そうですそうです。まあ、今夜の内には収まりますよ」

( ^ω^)「どうして分かるんですかお」

ζ(゚ー゚*ζ「ヴィップ警のおばけ課の人達がパトロールしてますし、
      近い内、他県から裁判官──神様が、裁判を取り仕切るためにいらっしゃいますので」

 あの、フォックスとかいうすぐ泣き出す神様が来るのだろうか。
 彼(彼女?)も、悪ではないのだろうけれど、些か流されやすいところがある。
 果ては不当な判決を下されかけた思い出もあるから、内藤が若干の苦手意識を抱くのも無理はあるまい。

195 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 01:03:49 ID:o0h64PMoO

( ^ω^)「……裁判官をやるだけなら、わざわざ遠くから呼ぶ必要ないんじゃありませんかお?
       この県の他の地域でだって、幽霊裁判やってる神様はいるでしょうし。
       それにどうしてお2人まで──」

( ^ν^)「今回の裁判の担当検察官は俺だ」

 いくらか予想はついていた。
 が、疑問が尽きるわけでもない。

( ^ω^)「しぃさんは」

( ^ν^)「人手が不足してる地域では、裁判官と検察の馴れ合いが間々ある。
       情に絆されて生温い捜査されちゃ堪ったもんじゃねえ」

ζ(゚ー゚*ζ「人間の法なら、この場合は弾劾裁判ってやつになるんでしょうが……。
      おばけ法なのでね。裁判官相手でも、いつも通りの幽霊裁判をするしかありません」

( ^ω^)「……それで、馴染みも情も薄い他県の検事さんや裁判官が呼ばれたってことですかお」

( ^ν^)「本当ならI県に話が行くみたいだったがな。ねじ込んだ」

196 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 01:04:28 ID:o0h64PMoO

( ^ω^)「──弁護士の方はどうなるんですかお? それも他県から?」

ζ(゚ー゚*ζ「いえ、弁護なら、被告人をよく知る人の方がいいでしょう。
      というわけで、出連先生が任命されるかと思います。
      オサム様が他の方を指名しない限りは」

 この町だって、弁護士がツン一人しかいないわけではないという。
 ただ、長続きしている──オサムとの関係も深い──という点で言えばツンが適任なのだそうで。

 出連、と聞いてニュッが肩を震わせた。
 口を押さえているが、笑いを堪え切れていない。
 実に嬉しそうだった。

( ^ν^)「ひっさしぶりだなあ……あのアマ元気か?」

( ^ω^)「お陰様で、変わりなく絶好調ですお」

( ^ν^)「それはそれは。泣かせ甲斐のある」

 こちらも変わりなく性根が腐っている御様子。

197 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 01:05:15 ID:o0h64PMoO

ζ(゚ー゚*ζ「久々に大きな事件を任せられた上、相手が出連先生ですからね……。
      ニュッさん楽しみすぎて昨日あんまり寝られなかったそうですよ」

( ^ω^)「小学生ですかお」

( ^ν^)「何とでも」

 ははは、と今度は不釣り合いに爽やかな笑い声をあげ、
 濃灰色のコートを纏ったニュッが大股で歩いていく。

 先程から笑いっぱなしなところを見るに、たしかに上機嫌ではある。

ζ(^ー^*ζ「ニュッさんが楽しそうだと、ぼろかすに負けて不様に喚くとこが見たくなっちゃっていけません」

( ^ν^)「この地にお前を捨てていくのもいいなと考えればますます楽しい。
       ここで頭の軽い吸血女が悪さしようが何しようが、俺が責任問われる筋合いはねえ」

ζ(゚ー゚*ζ「そうですねえ、ニュッさんのクッソ不味い血を吸い尽くして死体を山中に埋めてから
      私は身をくらまし、内藤君や内藤君のお友達みたいな
      ぴちぴちの男の子たちの血を吸いつつ海外逃亡といきましょうかね」

( ^ν^)「てめえ一週間メシ抜きな」

ζ(゚ー゚;ζ「あっ、やだやだ、冗談ですよお。私は世間様の平和のためにN県警に身を捧げ骨を埋める所存で」

 検事様と刑事様の大変仲のよろしい会話を聞き流しつつ、
 内藤は覚えのある道に出たことに気付いた。

198 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 01:05:45 ID:o0h64PMoO

( ^ω^)「──どこに行く気ですかお」

( ^ν^)「カンオケ神社に決まってんだろ。……ん、何だ、道間違ってるか?」

( ^ω^)「……いえ」

 ここからでも行けないことはないだろう。
 けれど。進みたくはない道だ。

( ^ω^)「別の道にしませんか。僕、案内しますから」

 そんな内藤の様子に、立ち止まったニュッは無表情で思案し、顔面にべたりと笑みを貼りつけた。

 しまった、と思う。
 仔細は分からないまでも、内藤が何かしらを嫌がっていることは察したようだ。

( ^ν^)「このまま行こう」

ζ(゚、゚*ζ「何ですか、よく分かんないけど内藤君、困ってるでしょ。行くならニュッさん1人でどうぞ。
      内藤君は私と別の道行きましょうか」

( ^ω^)「……。いいですお、この道で」

 そもそも、絶対に嫌、と言うほど拒絶しているわけでもない。

 あれは──何年も前のことだし。今更。
 それにこの2人がいる以上、片一方が内藤に敵意を持っているとしても、まさか危ないことにもならないだろう。

199 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 01:06:37 ID:o0h64PMoO

 歩く。進む。
 車一台しか通れないような道。

 左手には木々が並んでいる。山──ヴィップ小学校の裏山だ。
 山の向こうに小学校がある。ここからでは内藤達には見えないけれど。

 右手には家がぽつぽつとあって、やがて、それが途切れた。

 そうしてしばらく行った先に、それが見えた。

( ^ω^)「……」

 空き地に積まれたガラクタを、雨が打つ。昔に見たときより、さらに増えている気がする。
 上の方は雪を被っていて、どこか適当な場所を軽く押しただけで雪崩が起きそうな危うさだ。

 幼き日の内藤がトソンに助けられた、「宝の山」。

 そこに座る2人組を見付けて、ざわざわ、肌が粟立った。


( ∵)( ∴)


 穴ぼこしかないような顔に、異様に細長い腕。
 薄い手に付いた指は4本だけで、指の股がやたら深い。

200 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 01:07:37 ID:o0h64PMoO

 頭と胴体がアンバランスなおばけは、
 空き地の前を通る内藤達を見つめて──目は無いけれど、顔を向けて──いた。
 雨は奴らを素通りする。

 昔、内藤をここで捕まえようとしたおばけ達の内の2体だ。
 顔などの様相は覚えていないが、あの腕は見覚えがある。

 向こうは、内藤を認識しているだろうか。
 ともかく、空き地を通り過ぎるまでの間、ずっと視線を向けられていた。


ζ(゚、゚;ζ「……あれ、何でしょうね。
      あそこにいた2人組……悪い感じはしなかったですけど」

 振り返っても空き地が見えないような場所まで来たところで
 詰めていた息を吐き出し、デレが言った。

( ^ν^)「長いことゴミ溜めにされて土地が汚れて、雑霊が寄ってきてんだろう。
       害を加えようって感じはなかったから、まあ気にする必要は無いんじゃねえか」

( ^ω^)「……僕、あれに危害加えられたことありますけど」

 足を掴まれ引きずられたときの恐怖は、いま思い出しても肌がざわつく。

 幼少期の「恐怖体験」を2人に聞かせると、ニュッからは、まあ予想通りのリアクション。

201 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 01:08:20 ID:o0h64PMoO

( ^ν^)「ちびって泣き喚く内藤ホライゾン──さぞ楽しい光景だったろうな」

( ^ω^)「ちびっちゃいませんお」

ζ(゚、゚*ζ「ニュッさんはクズですねえ……。
      ……でも、内藤君の話とさっきの実物を比べると……
      違和感があります。そんな危険なおばけには見えませんでしたが」

( ^ω^)「僕が小さかったから、必要以上に怖がってしまっただけでしょうかお」

 そんなところかもしれない。
 奴らは、ただ内藤をからかっただけで。
 あるいは、当時、本当に内藤へ危害を加えようとしていたのは
 先程の2体の他にいた、別のおばけだったのかも。

 ──考えても、分かりはしない。
 内藤は首を振った。



*****

202 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 01:09:05 ID:o0h64PMoO


 カンオケ神社の周りは、何だか凄かった。

 幽霊妖怪の人だかり──「おばけだかり」が出来ていたのだ。

 鳥居の向こうにまで入っていく者はいないのだけれど、
 その前に大量のおばけが屯して、覗き込むように神社の様子を窺っている。

( ^ω^)(野次馬か……)

ζ(゚ー゚*ζ「はいはーい、警察と検察が通りますよー、通らせてくださーい」

( ^ν^)「どかねえと公務執行妨害罪適用すんぞ」

ζ(゚ー゚*ζ「通行の邪魔程度じゃ罪には当たりませんから皆さん御安心を」

 素直に、おばけ達が道をあける。

 内藤はコートに付いているフードを深く被った。傘も心持ち前へ傾ける。
 不特定多数のおばけに顔を知られたくない。

 鳥居を潜り、手水舎で手を清め、拝殿の前に立つ。
 何本か立て掛けられた傘。雨に濡れない位置に並べられた靴。間違いなく客がいる。
 ニュッは閉じた傘を同様の位置に立て、拝殿の格子戸を手の甲でがんがん叩いた。

203 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 01:09:56 ID:o0h64PMoO

( ^ν^)「失礼」

 中からの返答は待たずに格子戸を開ける。
 ニュッさん、と咎めるように名前を呼んでから、デレは拝殿内へ敬礼してみせた。

ζ(゚、゚*ζ「N県警おばけ課所属、照屋デレ、到着いたしました!」

( ^ω^)「……失礼しますお」

 中にいるのは、想像と違わぬ顔触れ。

ξ゚听)ξ「──内藤君。どうして……ってかコートすごい濡れてるわよ」

 その内の1人、ツンが目を丸くしている。
 内藤は会釈し、次いで隣へ意識を向けた。
 ツンの瞳もそちらへ移動する。

( ^ν^)「……よお、よお、出連ツン。5ヵ月ぶりか」

 急ぎつつもしっかり靴を脱いで拝殿に上がるニュッの顔は、
 それはもう楽しそうで、そして声から憎悪が滲み出ていて。

 他の誰にも目をくれず真っ直ぐ歩いていき、座り込んでいるツンを見下ろした。

204 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 01:10:32 ID:o0h64PMoO

( ^ν^)「内藤もそうだったが、久々に見ると懐かしさより腹立って仕方ねえな。しっかし何だその阿呆面。俺が来るの聞いてなかったか? まあそりゃビビるか」

ξ゚听)ξ「あなた──」

 ツンは眉根を寄せる。
 そうして、沈黙。

 ニュッの顔を睨み上げつつ、口を開いた。

ξ゚听)ξ「……誰だったかしら……」

( ^ν^)

 内藤とデレも取り急ぎ靴を脱いで、小走りでニュッに近付いた。
 両脇からニュッの顔を覗き込む。
 ねえ今どんな気持ち? そんな感じで。

 ニュッは頬をひくひくと痙攣させていた。額に青筋。

ζ(^ヮ^*ζ

 デレはとても嬉しそうだった。

205 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 01:11:48 ID:o0h64PMoO

(#^ν^)「……ユーモアのセンス最低レベルだな……。
       それとも体付きだけじゃなく脳味噌まで貧相な造りしてんのか?」

ξ゚听)ξ「ごめんなさい……無害な浮遊霊と中学生をドヤ顔で起訴した挙句に大敗するような恥ずかしい人、
      私の知り合いにはちょっといなくて……。
      大丈夫? 男性機能が元気なさそうな顔してるわよ?」

(#^ν^)「覚えてんじゃねえか!!
       っつうか余計な情報くっついてんぞ誰だバラしたの!」

( ^ω^)「裁判の後、雑談してるときについ……」

 ニュッは三度ほど舌打ちし、コートを脱いでデレに投げつけてから、どっかと腰を下ろした。
 ニュッと自分のコートを丸めて置いて、デレが静かに正座する。
 内藤はツンの隣へ。

ξ゚听)ξ「コートと鞄、そこに積んである新聞の上で乾かしときなさい。
      私が持ってきたものだから汚していいわ」

( ^ω^)「お言葉に甘えますお」

 ほんの数秒、沈黙が生まれた。
 デレが、正面に座る相手へ向けて、口を開く。

206 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 01:12:26 ID:o0h64PMoO

ζ(゚、゚*ζ「……お初にお目にかかります、改めて自己紹介をば。
      N県警、おばけ課に勤めております、照屋デレです。
      こちらはN地検の鵜束ニュッさん」

( ^ν^)「どうも」

 2人は深く礼をする。
 それを受けた相手は、うん、と返答なのか何なのか、呻くような声を漏らした。

【+  】ゞ゚)「話は聞いている。よろしく頼む」

 オサムは──これから「被告人」となる神様は、特別、普段と変わりあるようには見えなかった。
 怒るでもなく、恥じるでもなく。
 彼自身に何かしらの変化は一つもない。

 あるとすれば、彼の周囲。
 オサムを囲むように立てられた杭。それにぐるりと縄が張られている。
 誰も説明してくれなかったが、オサムを閉じ込めるための処置であることは内藤にも察しがつく。

 挨拶と幾許かのやり取りが済むと、ひとまず区切りをつけたのか、ニュッが顔の向きを変えた。

207 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 01:13:49 ID:o0h64PMoO

( ^ν^)「おう、猫田のお嬢ちゃん。『お坊ちゃん』の方がいいか?」

(*゚−゚)「……」

 少し離れたところに座る、猫田しぃ。
 隣には埴谷ギコも。

(,,゚Д゚)「しぃ、ちゃんと挨拶なさい」

(*゚−゚)「……」

( ^ν^)「いい、いい。どうでも。
       とりあえず、さっさと起訴しといてくれ。後は俺が引き継ぐ」

 しぃは機嫌が悪いのか、顰めっ面。
 だがニュッ自体に不満があるというわけでもなさそうだ。
 恐らくは──他所者が、この地の神様を裁こうというのを快く思っていないのだろう。

( ^ν^)「ああそうだ。お付きのカマ刑事、しばらく借りるぞ。
       ヴィップ警の奴らも」

(*゚ー゚)「……ご自由にどうぞ」

(*,゚Д゚)「優しくしてね」

 しぃは分厚いファイルを2冊ほどニュッに差し出した。
 事件の資料であろう。

208 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 01:14:17 ID:o0h64PMoO

( ^ν^)「これに目を通す時間を少し──5分ほど。それからいくつか話でも」

【+  】ゞ゚)「うむ。しかし、こちらに来て早々忙しいな。
        いくらか休んでからでも構わんが」

ζ(゚、゚;ζ「ありがたいお言葉ですが、神様を捕まえたままゆっくりもしていられませんので……」

 しぃは何か言いたげにしていたが、目を伏せた。
 そうして自分の出番は終わったとばかりに腰を上げ、オサムやツンに黙礼してから
 さっさと拝殿を出ていってしまったのであった。

(,,゚Д゚)「しぃのこと送ってきますわね」

 言って、ギコも気まずそうに退散する。

 残ったのは内藤とツン、オサム、そしてニュッとデレ。

( ^ω^)「──くるうさんは?」

 内藤は拝殿内を見渡した。
 いつもオサムの傍にいる彼女が、今はいない。

209 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 01:15:11 ID:o0h64PMoO

【+  】ゞ゚)「泣いて暴れるんでな、本殿の方でショボンに相手をさせている」

ξ;゚听)ξ「さっきまでここにいたんだけどね、
      オサム様はそんなことしない何も悪くないってギコ達に怒り狂うもんで大変だったわよ」

ξ;゚听)ξ「そもそも逮捕したのギコじゃないし、しぃ検事もあんまり起訴に乗り気じゃないから
      あいつらに当たったところで仕方ないんだけどねえ……」

 然もありなん。
 彼女のオサムに対する陶酔ぶりからして、この事態は理解の範疇を越えているだろう。
 怒り、暴れる姿も容易に思い浮かべられる。

 内藤は、黙してファイルをめくるニュッを一瞥した。

( ^ω^)「……どうして、裁判長が逮捕されたんですかお?
       何か証拠があったわけでしょう」

ξ゚听)ξ「ええ……まあ」

ζ(゚、゚*ζ「この拝殿から、行方不明だった児童の持ち物が見付かったんです」

( ^ω^)「え、ここ現場?」

ξ゚听)ξ「どうかしらね。私からは何とも」

210 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 01:15:52 ID:o0h64PMoO

( ^ω^)「子供──……その子本人は」

ζ(゚、゚*ζ「残念ですが、どこにもいないらしいんですよ」

 内藤はオサムを見る。
 オサムは反応もせずに黙っている。

ξ゚听)ξ「……で、私、席外すべき?
      これからあなたたち取り調べするんでしょう?」

ζ(゚、゚*ζ「あのう、内藤君もですけど、出連先生にも聞き込みしたいんです。
      とはいっても、出連先生の場合は法廷での弁護材料と被る可能性もあるでしょうから
      二度手間になってしまうところもあるかもですが……」

( ^ν^)「たっぷりお話ししようぜツンちゃん。積もる話もあるしよ」

ξ゚听)ξ「内藤くん助けて! 私が美人すぎるばかりにモテて困っちゃうの!」

( ^ν^)「くたばれ」

 くるうを呼べるか、とデレが問う。
 くるうのような「監視官」はN県にはいないというので、諸々を確かめたい気持ちもあるのだろう。

 難しいでしょうね、とはツンの言。
 オサムを犯人だとしている彼らに、くるうが協力するとは思えない。
 デレは諦めたようで、溜め息をついた。

211 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 01:17:06 ID:o0h64PMoO

( ^ν^)「……一部否認」

 書類の文字をなぞり、ニュッが呟く。
 面白そうだとでも言わんばかりの表情。

( ^ω^)(──『一部』?)

 一部否認。
 ということは、どこかは認めている。誰が。オサムが、だ。

 神隠しの容疑で逮捕され──「一部」否認し、また一部は認めている?
 内藤はオサムへ顔を向けた。
 尚も、彼は平素通りのまま微動だにしない。

 そこへ、ニュッの声が耳に入った。

( ^ν^)「渡辺アヤカ……証人に使えそうだな」

 内藤の隣で、ツンの体が揺れる。

ξ゚ -゚)ξ

 彼女は不意を突かれたような顔をしていた。


 雨音が強くなっている。



*****

212 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 01:18:13 ID:o0h64PMoO


(#゚ー゚)「散れ! 悪さはするなよ!」

 神社の前に群がるおばけに怒鳴り、しぃが手を振り回す。
 彼女が不機嫌であるのを知るや、おばけ達はさっさと退散していった。

(;,゚Д゚)「やめなさいって。
     あんた、検事ってだけで白眼視してくるおばけもいるんだから。
     嫌われるのは損よ」

(#゚ー゚)「ふん」

 ──鵜束ニュッ。N県ニューソクの検事。
 彼の不遜な態度はさして気にしていない。
 そこは、自分も人のことを言えないからだ。

 ただ、ヴィップ町と何ら馴染みの無い彼らが捜査するというのが気に入らない。
 慣れない土地ゆえに不備が出るのではないかと思うと焦れったい。

 まあ、しぃが一番腹を立てているのは、己が今回の件に不要であると判断されたことなのだが。

213 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 01:19:01 ID:o0h64PMoO

 他県の検察に任せると決まった際、協力くらいはさせろと申し出たのに
 いいから大人しくしていろと両断された。
 オサムに対して手心を加えられても困る──と。

(#゚ー゚)(この僕が! 面識があるからって贔屓するような人間だと思ってるのか!
     というかそれ以前の問題だ! まだ充分な捜査を行えていないじゃないか!)

ζ(゚、゚*ζ「すいませーん」

(,,゚Д゚)「あら」

 拝殿の方からデレが駆けてくる。
 どうしたのとギコが訊ねた。

ζ(゚、゚*ζ「ニュッさんが、資料抜けてるんじゃないかって……」

 口の端に牙が覗く。吸血鬼だというのは事前に聞いている。
 前科者である、とも。それがまた気に食わない。
 聞けばニュッはデレの監視役でもあるそうではないか。それで事件に集中できるのか。

 まあ──あまり不満を示すのも失礼だとは分かっている。
 言っても彼らはN県ではいくつも功績を残しているというし。

 しぃは頭を振り、片手で鞄を探った。クリアファイルの感触。

214 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 01:19:54 ID:o0h64PMoO

(*゚ー゚)「申し訳ない、一つ渡し損ねていました」

ζ(゚ー゚*ζ「あ、いえいえ。ありがとうございます。
      ごめんなさいね、いきなり来た他所者が偉そうに……。
      ニュッさんああいう人で」

(*,゚Д゚)「あたしは割と嫌いじゃないわあ。好みってわけでもないけど悪くはないの」

 うふふ、とギコが笑う。
 あらニュッさんが喜びますね、とデレ。絶対に嘘だ。

 浮かぶ不満を少しばかり言葉に織り交ぜ、吐き出す。

(*゚ー゚)「……どうして他県の、それも若手の検事がこんな大きな事件を任されたんだろう」

ζ(゚、゚*ζ「癪に障る事実なんですが、一応ニュッさんは優秀でしてね。
      夏の裁判でやらかしたので少々お灸を据えられましたが、
      今回の件も、まあ、チャンスということでお話を頂けまして」

 頂けたとはいっても、それとなく持ち掛けたのはニュッさんですけど──と付け足される。
 他県の検察へ協力が仰がれるとの話を聞きつけたニュッの行動は早かったという。

 動機はどう考えてもツンだ。
 些か私怨じみた因縁であるようだが、まあ彼の気持ちは分からないでもない。
 しぃだって、あの女の鼻を明かしてやりたいと常々考えているし。

215 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 01:20:28 ID:o0h64PMoO

ζ(゚、゚*ζ「それじゃあ──何かありましたら、また」

 クリアファイルを抱えたデレが頭を下げ、馳せ戻っていく。

 しぃは体の向きを変え──

(*゚ー゚)「……ん」

 道端に立つ子供に気付いた。


|  ^o^ |


 小学校低学年ほどの少年。
 季節外れのTシャツに短パン。傘も差さず、ぼんやりとした顔でしぃを見つめている。
 けれど雨に濡れた様子はない。

 子供ということで今回の事件の「被害者」が脳裏を過ぎったが、資料にあった写真と顔が違う。
 別人か。

216 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 01:20:59 ID:o0h64PMoO

(,,゚Д゚)「あら……どうしたのかしら」

(*゚ー゚)「……放っておけ。そこら辺の浮遊霊だろう」

 少年に背を向け歩き出す。
 ギコは気遣わしげに少年を見ていたが、やがてしぃに並んだ。

 ──が。

(*゚ー゚) ガクンッ

 後ろからコートを引っ張られた。
 振り向く。

|  ^o^ |

 少年が、コートの裾を引っ張っていた。

217 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 01:21:45 ID:o0h64PMoO

(*゚ー゚)「……何かな」

|  ^o^ |

 答えようとしているのか、口をもごもご動かしている。
 ギコがしゃがみ込み、少年の頭上へ傘を翳した。
 別にそうする必要もないのだが、気分というやつだろう。

(,,゚Д゚)「何かご用事?」

|  ^o^ |「…… あ う」

 ようやく声を出す。
 もたつく舌が、ゆっくりと言葉を紡いでいく。

|  ^o^ |「お おさむさま おさむさま……」

(*゚ー゚)「オサム様がどうした。君も野次馬か?」

|  ^o^ |「おさむさま…… み みました みた……」

(*゚ー゚)「何を」

 苛立つ。声に険が滲んだ。
 怯えた少年がギコの影に隠れる。
 ギコがしぃを咎めた。

218 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 01:22:35 ID:o0h64PMoO

 しばらく、しぃが少年を睨み、ギコが少年の頭を撫で、少年がしぃにびくびくする光景が続いた。

|  ^o^ |「ぼく」

 ようやく少年が再び口を開く。
 そうして彼は、言ったのだ。


|  ^o^ |「みました…… おさむさま…… きらきら きらきら……」


 ──それから、少年は全てを語り終えたような顔で口を閉じた。

 しぃから苛立ちは消えていた。
 代わりに生まれたのは困惑。

 この少年が何を言いたいのか、まったく分からない。

 しぃは弱り果ててギコを見た。
 ギコも似たような表情をしていた。



 雨は一層強く。遠くで雷が鳴っている。



case8:続く

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