ξ゚听)ξ幽霊裁判が開廷するようです

case8:神隠し罪/前編

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159 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:32:42 ID:o0h64PMoO


( ^ω^)「──そろそろ帰りますお」

 内藤は顔を上げて言った。
 すっかり日が暮れている。

ξ゚听)ξ「ん……そうね、もうこんな時間」

 事務机で作業していたツンが、ペンを置いて頷く。

 この事務所に来て内藤がしたことといえば、掃除と、あとは漫画を読むくらいだった。
 掃除が終わった時点で帰れば良かったかなと少し反省。
 漫画の方に集中しすぎた。

 ダッフルコートを身につける。
 ツンは欠伸を一つして、己のコートを手に取り外出する準備を始めた。

ξ゚听)ξ「一緒に行くわ。中学生1人で暗いとこ歩かせるわけにもいかないし。
      最近、子供の行方不明事件あったでしょ」

 老人達の話を思い出し、内藤は手を止めた。

160 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:33:11 ID:o0h64PMoO

 神隠し──
 訊きたいことがあって口を開いたが、すぐにツンが言葉を続けたため、タイミングを失ってしまった。

ξ゚ -゚)ξ「あの『猫』がまた現れる可能性もあるし」

 猫。猫目の男。
 内藤は、あの男を二度目撃している。一度目は夏休み。二度目は11月。

 二度目の遭遇のとき、彼は内藤達の前からすぐに逃げ出した。
 ということは接触を避けたがっていて、明確に敵意を持っているわけではない。
 不用意に近付いてはこないだろう。

 だが、あまりに間近で顔を見てしまったのだ。
 向こうが、いつ、自分にとって厄介な存在を消そうと考えるか分からない──
 ツンはそんな風に警戒しているようだった。

( ^ω^)「ツンさんも気を付けてくださいお」

ξ゚听)ξ「私は美人だから、そう簡単に危険な目に遭いやしないわ」

( ^ω^)「意味分かんねえ」

161 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:34:06 ID:o0h64PMoO



 ──流石家の玄関の前まで来たところで、ツンは「それじゃあね」と内藤に微笑んだ。

( ^ω^)「女の人が1人で夜道を歩くのも危なくありませんかお?」

ξ゚听)ξ「ご心配ありがとう。まあ大丈夫よ」

( ^ω^)「お気を付けて」

ξ゚ー゚)ξ「ん、どうもね」

 ツンがひらひらと手を振る。
 そのとき、玄関の引き戸が開かれた。
 背後から掛けられる、呑気な声。

∬´_ゝ`)「あ、ブーン君、いま帰り?」

(´<_` )「遅いぞブーン」

( ^ω^)「あ」

 財布を持った姉者、さらにその隣に弟者が立っていた。
 まずい。今この場には最も具合が悪い組み合わせだ。

162 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:34:47 ID:o0h64PMoO

∬´_ゝ`)「あら、誰か一緒に──」

 姉者が一歩出て、内藤の後ろを見遣る。

 そうして、彼女は固まった。

ξ゚听)ξ「……こんばんは。あけましておめでとう。もう半月は経ったけど」

∬;´_ゝ`)

(´<_`;)「──ああ!? あんた何でここにいるんだ!!」

 弟者はツンを睨み、それから内藤を睨んだ。
 よくも連れてきてくれたな、という目。申し開きのしようもない。

163 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:35:19 ID:o0h64PMoO

∬;´_ゝ`)「つつ、つ、ツンちゃ……ツンさん……」

ξ゚听)ξ「この子が暗いなか歩いてたから、送ってあげただけ。じゃあね」

 気まずそうに目を逸らし、ツンは踵を返した。
 彼女の姿が見えなくなると同時に、青ざめきった姉者がへたり込む。

∬;´_ゝ`)「ぶ、ブーン君、知り合い……?」

 どう答えたものか迷った。
 姉者の背後で弟者が首を振っている。

( ^ω^)「や、──そこで会っただけですお」

 そう、と姉者が呟く。
 彼女は、とっくに見えなくなったツンをまだ目で追おうとするかのように、視線を遠くにやっていた。



*****

164 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:35:49 ID:o0h64PMoO


ξ--)ξ ハァ

 家路を辿りつつ、ツンは溜め息をついた。

 ずいぶん久しぶりに、姉者と対面した気がする。
 というか会話──向こうからの答えはなかったが──を交わしたのは、最早、高校以来ではなかろうか。

 そもそもマトモに会話した覚えがあまりない。

ξ゚听)ξ(保育園から高校まで、けっこう長いこと一緒だったけど)

 幼馴染みという括りにはなるのだろうか。
 馴染み、と言えるほど馴染んだ覚えも、やはり無いけれど。

ξ゚听)ξ「……」

 保育園の辺りまで記憶を遡らせて、ツンは顔を顰めた。
 嫌な「思い出」が浮かび上がる。

 頭を振って思考を遠ざけようとしたが、こういう記憶は一度掘り返すと
 得てしてねっとりと絡みついて離れないもので。

 勝手に、耳の奥で声が蘇った。

165 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:36:17 ID:o0h64PMoO

#####


『先生、ツンちゃんがおばけがいるって言うの』
『また姉者ちゃんのこと泣かしてるよ』

 保育園の中では、毎日のようにそんな言葉が飛び交った。
 酷いときには、うそつき、と他の園児に物を投げられてしまう。

ξ;;)ξ『……』

 園庭の隅っこで、ツンはギコにしがみついて泣いていた。
 いつもの光景。

(,,゚Д゚)『あのなツン、おばけを見ても、言っちゃダメなんだって。誰も信じてくれないし、
     おばけが喜んでもっと近付いてくるってでぃ叔母さんが言ってた』

ξ;;)ξ『だって……』

 おばけは突然現れて脅かしてくるし、彼らが真正面に立つと、
 よく分からないもの──おばけの記憶か何かだろうか──が見えたり聞こえたりする。

166 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:37:05 ID:o0h64PMoO

 驚いて逃げたり悲鳴をあげたりすれば、先生や園児が「どうしたの」と問うてくるから、
 上手く誤魔化す術を知らないツンは、正直に体験したことを全て答えるしかない。
 そうすれば結局、先生は困った顔をするし、子供は怖がるか嘘と決めつけてくる。

 どうしようもないのだ。
 ギコは「猫田家」の人だから、おばけもちょっかいを出しづらいけど
 ツンは何の後ろ盾もないので、ますます。

∬;_ゝ;) エグエグ

从'ー'从『ツンちゃん、大丈夫?』

 泣きじゃくる姉者を抱えて、渡辺先生が近付いてきた。
 渡辺先生は優しくて、ツンの言うことを否定しないから好きだった。

 姉者もツンのことは信じてくれているようだったけれど、
 だからこそ怯えて泣いてしまうのでツンは彼女が苦手だった。

 まず、ツンがおばけに脅かされて反応すると、真っ先に姉者が駆け寄ってくるのだ。
 「大丈夫?」「何があったの?」なんて訊ねてくるから、やはり正直に答えれば、
 姉者は怖がって他の子や先生に泣きついて、それで騒ぎが大きくなる。

 怖いなら、どうして放っておいてくれないのだろう。

167 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:37:55 ID:o0h64PMoO

从'ー'从『転んじゃったんでしょう? 怪我は?』

ξ;;)ξ『……』

(,,゚Д゚)『ひざ!』

 ギコがツンの膝を指差す。
 先程、おばけから逃げた拍子に転んで擦りむいたのだ。

从'ー'从『あらあら。絆創膏貼ろうね。歩ける?』

 姉者を抱えたまま、渡辺先生は園庭から教室へ上がった。
 ギコがツンの手を引き、後に続く。
 他の園児や先生は園庭で遊びつつ、ツン達をじろじろ眺めていた。

 救急箱を持ってきた渡辺先生が、部屋の真ん中に座る。
 ツンとギコは彼女の向かいに座った。姉者は渡辺先生の膝の上に。
 渡辺先生が傷の消毒をする間に、ギコが絆創膏の準備をした。

从'ー'从『ギコ君、いい子だねえ』

(*,゚Д゚)『へへ……』

 渡辺先生が好きなんだ、と、いつだかは忘れたがギコが言っていた。
 ギコだけではなく、渡辺先生に憧れる男の子は園内にたくさんいる。
 渡辺先生はもう結婚しているのだけれど。

168 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:39:02 ID:o0h64PMoO

∬ぅ_ゝ;) グシグシ

 姉者は何度か目を擦り、それから、渡辺先生の膝の上で眠ってしまった。
 泣き疲れてしまったのだろう。
 ちょうど昼寝の時間だったし、元から眠かったのかもしれない。

从'ー'从『ごめんねギコ君、姉者ちゃんのお布団、準備しておいてくれるかな』

(*,゚Д゚)『はーい』

 みんなの布団がしまってある押し入れへ駆け寄り、ギコは敷き布団を部屋の隅に敷いた。

 渡辺先生が絆創膏の包装を剥がし、ツンの膝に貼る。

从'ー'从『はい、おしまい』

ξ゚ -゚)ξ

 泣き止んだツンは俯き、何度も絆創膏を撫でた。
 渡辺先生の膝で眠る姉者が羨ましかったけれど、言えなかった。

169 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:39:42 ID:o0h64PMoO

(*,゚Д゚)『できた!』

从'ー'从『ありがとう、ギコ君。えらいねえ』

 ギコの頭を撫でてから、渡辺先生は立ち上がり、姉者を布団に寝かせた。

 その布団の隣に腰を下ろして渡辺先生がツンに手招きする。
 ツンが首を傾げて近付くと、ふわりと抱え上げられた。
 渡辺先生の膝に座らされる。

从'ー'从『おばけ、怖かったの?』

ξ゚ -゚)ξ" コクン

从'ー'从『先生がツンちゃんのこと抱っこしてるからね、大丈夫だよ』

ξ*゚ -゚)ξ" コクン

 ツンをしっかりと抱いて、渡辺先生は優しく体を揺らした。
 心地よくて瞼が重たくなってくる。

 眠りに落ちる間際、なんとか「ありがとう」と呟いた。
 渡辺先生がくすくす笑う声を聞きながら、ツンは夢の世界へと飛び込んでいった。



 ツンが怯え、姉者が泣き、ギコが慰め、渡辺先生が収拾をつける。
 これがほぼ日常と化していた。

170 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:46:23 ID:o0h64PMoO

 けれども。
 今より20年前、夏の暑さが厳しくなってきた日のこと。


 保育園を出て、近くの自然公園へ行く日だった。
 先生達の先導に従い、子供は列をなして歩いていく。
 その道のりには、特に何もなかった。

 公園が問題だったのだ。
 そもそも人が集まる場所は霊も寄ってきやすい。
 夏という季節も関係あったのか、ともかく、公園にはおばけがうようよいた。

(,,゚Д゚)『ツン、俺といっしょにいろよ』

 ギコがツンの手を握って言う。
 ツンは頷いた。元からそのつもりだった。

171 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:47:18 ID:o0h64PMoO

(,,゚Д゚)『あっちのみんなとボール遊びしよう』

 賑やかな一角を指差し、ギコが提案した。

 彼はツンと違って、おばけが見えることをツン以外の園児や先生には言っていなかったし、
 明るく溌剌とした子だったので人気があった。
 彼が言えば、みんな、ツンも遊びの仲間に入れてくれるだろう。

 しかし、ツンの意識は全く違う方向に釘付けになっていた。


∬*´_ゝ`)


 姉者が、みんなから少し離れた場所へ1人向かっていた。

 彼女の目線からして、そこに咲く綺麗な花に興味を引かれたのだろう。

 そのすぐ傍。
 人間──に似た何かが立っていた。
 大きな穴が3つあいているだけのような顔で、手足も歪だったので、本物の人間でないことは一目で分かった。

 じっと姉者へ顔を向けている。
 何を考えているかは分からないが──姉者に何かをしようとしている、というのは感じ取れた。

172 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:48:03 ID:o0h64PMoO

 姉者がそいつに気付ける筈もない。
 2人の距離が縮まる。

ξ;゚听)ξ『……っ』

(;,゚Д゚)『ツン?』

 ツンはギコから手を離して駆け出した。
 姉者、と名前を呼ぶ。
 姉者は笑顔でツンに振り返った。

 彼女に向かって、「あいつ」が手を伸ばしている。

∬;´_ゝ`)『きゃあっ!』

 ツンは、姉者を突き飛ばした。

 手や膝を擦りむいたらしく、じわじわと姉者の目に涙が滲み、
 やがてわあわあ泣き出してしまった。

 その声に「あいつ」は手を引っ込めると、後退りをして姿を消した。

173 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:48:43 ID:o0h64PMoO

(;,゚Д゚)『姉者!』

 ギコが泣きじゃくる姉者を起こした。

 男の先生が1人走ってきて、姉者を抱える。

『どうして姉者ちゃんを押したんだ』

 先生はツンに、責めるような目を向けてきた。
 ツンやギコ以外の者には、ツンが突然姉者を突き飛ばして転ばせただけにしか見えなかったろう。

(;,゚Д゚)『ちがうよ、ちがうよ先生、ツンは……』

ξ゚听)ξ『……おばけ、いたから……』

(;,゚Д゚)『ツン!』

 他に、何と説明すればいいのかツンには分からない。
 だって本当のことなのだから。

 先生が溜め息をつき、他の先生達のところに姉者を連れていく。
 ギコはツンと姉者を何度も交互に見て、ツンの頭を一度撫でてから
 姉者の様子を見るためか、そちらへ駆けていった。

174 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:49:30 ID:o0h64PMoO

从'ー'从『ツンちゃん』

 彼らと何か話していた渡辺先生が、ツンの名を呼び、走ってくる。

 ツンはほのかに顔色を明るくさせた。
 渡辺先生なら、ツンの話をちゃんと聞いてくれる。
 ツンが意地悪したのではないと理解してくれる。

 渡辺先生は、ツンの目の前でしゃがんだ。

从'ー'从『どうしてあんなことしたの?』

ξ゚听)ξ『おばけが、姉者のこと捕まえようとしてたの』

 おばけの見た目や、そいつがどれだけ怖かったか、ツンはありのまま──闇雲に──話した。
 渡辺先生は優しい表情で、じっと聞いている。

175 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:50:18 ID:o0h64PMoO

 何とか自分の正当性を未熟な言葉で説いた。
 全て聞き終えた渡辺先生の手が、ツンの頭をそっと撫でる。
 ツンはすっかり安心して頬を緩め、

从'ー'从『あのね、ツンちゃん──』



从'ー'从『──どうしていつもそんな嘘つくの?
     先生、いい加減にしてほしいな』



ξ゚听)ξ

 息が止まるような感覚をおぼえた。
 言葉の意味を理解すればするほど、息苦しくなった。


 渡辺先生は、ひどく困り果てたような顔をしていた。
 声はどこまでも優しい。

 だから、分かってしまった。
 幼心にぼんやりと。

 今までもずっと、彼女はそう思っていたのだ、と。

176 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:51:02 ID:o0h64PMoO

 ツンの言葉を心から信じていたわけではなくて。
 けれど否定はしないようにと、気遣いながら宥めてくれていただけだったのだ。

 ずっと、ずっと、困っていたのだろう。
 今のような表情を、言葉を、ツンの知らないところでは覗かせていたのだろう。


(;,゚Д゚)『虫……蜂が、姉者の近くにいたから! 危なくって、だからツンは──』

 ギコが、男の先生に必死に説明する声が聞こえた。
 渡辺先生はそれに気をやったのか、視線をギコ達の方へ向けた。


 何でもかんでも自分が悪いような気分になったツンは、
 ギコに嘘をつかせてしまったことまでもが申し訳なくて。

 気付けば足を動かしていた。
 脇目も振らずに走る。走る。
 どこへと決めたわけでもないけれど、逃げ出したくて堪らなかった。

 分かっている。
 渡辺先生の発言は、ツンを傷付けようとしたのでもなく、
 思わず──疲れて、ぽろりと零してしまっただけに過ぎない。


 それでも、裏切られたような気持ちを抱いてしまう少女を、誰が責められようか。


#####

177 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:51:51 ID:o0h64PMoO


 ──携帯電話の着信音で、ツンは我に返った。

 胸の奥が重たい。

ξ゚听)ξ「……」

 携帯電話の画面を見る。
 発信者は埴谷ギコ。

 ツンは歩を進めながら電話に出た。

ξ゚听)ξ「もっしー」

『ツン! ちょっと大変なことになってんのよ!』

ξ゚听)ξ「私だって今けっこうメンタルが大変なことに……。
      ……んで、何? まさか、しぃ検事に恋人でも出来たとか? 男と女どっち?」

『冗談言ってる場合じゃないわよ!』


 ──次いで発されたギコの言葉に、ツンはしばし声を失った。



*****

179 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:52:42 ID:o0h64PMoO


 数日後。
 この日は、朝から町の空気がおかしかった。

 とはいっても、それを感じ取ることが出来たのは内藤を始めとした一部の者だろう。

( ^ω^)(何なんだお……?)

 道端で見かける幽霊や妖怪が、どことなくそわそわしているのだ。
 人間はごく普通に、いつも通りの日常を送っている。
 おばけだけが何やら騒がしかった。



( ・∀・)「──うちでゲームやろうぜ」

 放課後、お年玉で新作のゲームを購入したと自慢げに語っていたモララーは
 内藤達にそんな提案をした。

(*^ω^)「行くお!」

( ・∀・)「弟者とヒッキーは?」

(-_-)「お邪魔しようかな」

(´<_` )「行く」

180 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:53:14 ID:o0h64PMoO

( ・∀・)「んじゃ行こうぜ。ついでにジュースとか買ってこう」

 話がまとまり、皆コートを着込んだ。
 寒がりのヒッキーは更にマフラー、手袋と完全防備。

 内藤は窓から外を見下ろした。
 冬は、日が落ちるのが早い。
 さらに今日は雲が多くて、一時間ほど前から雨が降り続いている。

 雨が激しくなる前にモララーの家に着けばいいのだが。



( ^ω^)(──やっぱり、何か変だお)

 コンビニから出て、内藤は傘を開きつつ辺りを窺った。

 霊の行き来が多い。
 普段であれば、彼らはどことなくひっそりとしているのに
 今日は町中のあちこちにふらふらふわふわと。

 こんなに彼ら全体に落ち着きがなくなるなんて、盆や年末年始ぐらいなものなのだが。
 もう1月も下旬で、正月気分など抜け切っている時期だろうに。

181 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:53:38 ID:o0h64PMoO

(;・∀・)「なあ、さっきのコンビニ寒くなかった?」

(-_-)「普通に暖房きいてたと思うけど……」

(;・∀・)「やけに視線も感じたしさあ」

(´<_`;)「……変なこと言うなよ」

( ^ω^)「ジュース売り場の前でずっと悩んでるから体が冷えただけじゃないかおー?」

( ^ω^)(……コンビニの中も、おばけで溢れてたお)

 早くモララーの家に行こう、と言って、内藤は足を速めた。
 嫌な予感がする。
 ぱたぱたと傘を叩く雨の音がそれを助長した。

( ・∀・)「あ、急ぐんなら近道通ろうぜ」

 モララーが右へ曲がった。彼が片手に提げたコンビニの袋が、がさりと鳴る。

 アパートの壁、それと空き地の高い塀に挟まれた路地があった。
 いやに薄暗い。

182 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:54:08 ID:o0h64PMoO

(;-_-)「ここ? 蜘蛛の巣とかあるよ」

( ・∀・)「避けりゃいいだろ」

(;^ω^)「ぼ、僕はここ、何か嫌だお」

 ──右の壁にくっつくようにして、黒い人型の何かが立っている。
 人の影がそのまま立体的になって立ち上がったような、不気味な姿。
 異様に細い手で手招きしていた。

 内藤は弟者を見上げると、モララー達には見えないように表情を消して、無言で首を振った。
 弟者の方はそれで理解してくれたようだ。一気に青ざめる。

(´<_`;)「……モララー、普通の道行こう。
       路地は雪が積もったままだし、転びそうで危ないじゃないか」

( ・∀・)「こんなん余裕だって」

 モララーが鞄と袋の持ち手を傘の柄に掛けた。
 そうして、空いた手で内藤の右腕を掴む。
 止める間もない。内藤を連れ、路地をずんずん進んでいく。

(;^ω^)「おっ!?」

(´<_`;)「モララー!」

183 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:54:40 ID:o0h64PMoO

(;^ω^)「も、モララー、左! 左のほう歩くお! そっちの方が──ええと、雪が少ないから!」

( ・∀・)「はいはい」

 左の塀に寄る形で路地を進む。
 黒い影の前を通り過ぎる際、じっと見つめられている気配を感じたが、
 こちらに手を出してはこなかった。

(;-_-)「待って、2人とも!」

(´<_`;)「……左な」

 少し遅れて、弟者が諦めたように路地に入った。
 続いてヒッキーも。
 壁に傘を引っ掛けないよう気を付けながら。

( ・∀・)「ブーンって、こういう細い道とか嫌いだよなー」

( ^ω^)「……夕方の、人がいない暗い道にはおばけが出るってよく言うお」

( ・∀・)「お前も結構ビビりだなあ」


「──うわあ!?」


 後方から悲鳴があがった。
 内藤とモララーは同時に振り返る。

184 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:55:28 ID:o0h64PMoO

(´<_`;)「何だ何だ」

(;-_-)「ま、マフラー、何か、変な風に引っ掛かっ……!」

(;・∀・)「どうしたー!?」

 傘も鞄も手放して、ヒッキーがマフラーを引っ掴んでいた。
 踵を返して彼のもとに向かう。

 ヒッキーが巻いているマフラーの両端が、壁に縫い止められたようにくっついている──
 弟者とモララーには、「そう」見えているだろう。

 内藤の目だけが、違う光景を捉えていた。

(;^ω^)(こいつ……!)

 件の人影が、ヒッキーのマフラーを掴んで締め上げているのだ。

185 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:55:55 ID:o0h64PMoO

(;-_-)「……っ、……っ!」

(;・∀・)「ヒッキー、おい大丈夫か!?」

(´<_`;)「何だこれ……マフラー取れないぞ!」

(;^ω^)「ヒッキー!」

 自身も荷物を放り、マフラーを壁から離そうとする弟者とモララー。
 内藤は人影を蹴飛ばそうとしたが、感触はあるものの、びくともしない。

 ヒッキーがもがけばもがくほど、首が締まっていく。
 徐々にヒッキーの顔が苦悶の表情へ変わり、弟者達の焦りも激しくなった。
 降り注ぐ雨の不快さが更にそれを煽る。

(;^ω^)「──ハサミ! 誰かハサミ持ってないかお!? それでマフラー切るんだお!」

(´<_`;)「持ってないよ、そんなもん!」

(;・∀・)「お、俺、誰か呼んでくる!」

186 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:56:30 ID:o0h64PMoO

 モララーが駆け出そうとし、弟者が僅かに手の力を緩め、そして内藤が顔を上げた、その一瞬。

 内藤の顔の真横を何かが通った。
 華奢な──女の手。

 その手が触れた瞬間、黒い人影が消えた。

 いや、違う。
 手が触れたからではない。その手に持った、札が触れたから消えたのだ。

(;-_-)「──っはあ……っ!」

 ヒッキーが地べたにへたり込んだ。
 空気を吸い込んではすぐに吐き出して──と荒々しく呼吸を繰り返す。

(;・∀・)「ひ、ヒッキー、良かった……。……ていうか誰?」

(´<_`;)「あ……」

 モララーと弟者は内藤の真横を見て、きょとんとしている。
 内藤もまた、そちらへゆっくりと視線を送った。

187 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:57:38 ID:o0h64PMoO

 白いブラウス。襟の下を通って結ばれたスカーフ。クリーム色のコート。赤い傘。
 微笑む口元には、ただの犬歯と言うにはあまりに鋭い牙。


ζ(゚ー゚*ζ「こんなとこ、通っちゃ駄目ですよ」


 ──照屋デレ、その人だった。

 吸血鬼にして、N県警のおばけ課職員。
 去年の夏、内藤とドクオを散々追い詰めてくれた2人組の片割れ。

 内藤は戸惑う。
 彼女は、こんなところにいる筈のない人(『人』ではないが)だ。

 混乱したままデレを凝視していると、突然、背後から顔を鷲掴みにされた。
 そのまま、ぐいと後ろに逸らされる。

 空を仰ぐ内藤の顔を、男が上から覗き込んだ。

188 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:58:19 ID:o0h64PMoO

( ^ν^)「ないとーくーん。お礼はー?」

( ^ω^)「……」

 デレがいるなら、やはり、こいつもいるだろう。
 鵜束ニュッ──N県の、おばけ法専門の検事。

 にやにやと笑うニュッの顔に唾を吐きかけてやりたくなったが耐えた。
 手を引っぺがし、デレの方へ視線をずらして早口に呟く。

( ^ω^)「……助かりましたありがとうございます」

ζ(゚ー゚*ζ「どういたしまして。皆さんお怪我は? 特にそこの君、大丈夫ですか?
      いやー飛び出した釘にマフラーが物凄く引っ掛かってたみたいですねー、はっはっは」

(;-_-)「も、もう大丈夫です……ありがとうございました……」

(;・∀・)「誰? ブーンの知り合い? 弟者も知ってんの?」

(´<_`;)「ま、まあ……」

ζ(゚ー゚*ζ「以前、ちょっとね」

 拘束札──おばけを捕まえるための札──をしまいながら、デレが弟者に微笑みかける。
 弟者はびくりと身を竦ませ、モララーの後ろに隠れた。

189 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:59:18 ID:o0h64PMoO

ζ(゚、゚*ζ「ありゃ。嫌われちゃいました?」

( ^ω^)(吸血鬼だってバラしちゃったからなあ)

 かつてはデレを見て顔を赤らめていたというのに。
 あれも最早、弟者にとってはほぼ黒歴史とかいうやつか。

 内藤は2人から離れ、先程の騒ぎの際に手放していた荷物を拾った。
 混乱しつつ、モララー達も倣う。

(;・∀・)「早く行こう。うちのタオル貸すから」

 コンビニの袋が内藤の目に入る。勿論それも拾い上げた。
 スナック菓子がジュースのペットボトルに押しつぶされてしまっている。
 中身がいくらか砕けたかもしれない。

 咳払いを一つして、内藤は検事と刑事に振り返った。

(*^ω^)「ありがとうございましたお!
       とっっっっっっっっても優しいお2人が来てくれて良かった!!
       それじゃあさようなら」

 目一杯の嫌味を込めて言い切り、背を向ける。
 彼らが何故ここにいるのか──という疑問は残るが、
 わざわざそれを探るために彼らと会話を交わすのも億劫だ。

190 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:59:56 ID:o0h64PMoO

 立ち上がったヒッキー達もデレに礼を言い、路地を抜けるために歩き出した。

 慌てた声が飛んでくる。

ζ(゚、゚;ζ「あっ、ちょ、ちょっと! 内藤君に用があって尾行してたんですけどお!」

(;・∀・)「え!? 尾行!? どういうこと!?」

( ^ν^) ☆))>、゚;ζ「すみません口が滑りましたっ!」
   ⊂彡

 内藤は足を止めた。
 誰に対して何をどう言えば良いのか、頭を押さえて考え込む。

( ^ν^)「ひとまず内藤以外のガキは散れ。お前らには何の用も無い」

(;-_-)「ひゃいっ」

(;・∀・)「え……でも」

191 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 01:00:32 ID:o0h64PMoO

ζ(゚ー゚*ζ「あ、私、警察の者です。お正月の行方不明事件について調べてて、
      内藤君にちょっと訊きたいことがあるんですよ。ほら警察手帳」

(;・∀・)「警察!? 何だよ、何これ、どういうこと!?」

 ──行方不明。「神隠し」。
 内藤は溜め息をついた。
 どういうわけで彼らが出動したのかは分からないが、おばけ課が関わる類の事件ではあるようだ。

(;^ω^)「ごめんおー……みんな、先に行っててくれお」

 言って、踵を返す。
 ニュッが一睨みすると、モララーとヒッキーは怯えた様子で行ってしまった。

(´<_`;)「……またブーンに変な疑いかけてるんじゃないだろうな」

ζ(゚ー゚*ζ「いえいえ。ただ、内藤君は容疑者といくらか関係を持っているので
      お話ししたいことが色々あるんです」

( ^ω^)「──容疑者と?」

 検事の方へ視線をやる。
 それを受け、ニュッはわざとらしく腹を押さえて笑った。

192 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 01:01:06 ID:o0h64PMoO

( ^ν^)「冷てえ目。さっきの可愛げはどこ行ったよ」

ζ(゚、゚*ζ「いいから本題進めましょうよ。
      ──とにかく用があるのは本当に内藤君だけだし、
      内藤君に不利益なこともないと思うので、弟者君は安心してお友達のところへどうぞ」

( ^ω^)「……その話って、どれくらいで終わります?」

ζ(゚、゚*ζ「さあ……とりあえず、今日はお友達と遊ぶのは諦めていただくしか」

( ^ω^)「さっそく不利益じゃありませんかお。……弟者、これ持ってってくれお」

(´<_`;)「あ、ああ。何かあったら電話くれよ」

 コンビニの袋を弟者に差し出す。
 手を伸ばしつつ、弟者は訊ねた。

(´<_` )「……その容疑者って、誰なんですか」

 もしかして聞いてないんですか? 首を傾げ、デレは問い返す。
 何も知らない。内藤が表情で示すと、彼女は勿体ぶるように、ゆったり微笑んだ。

193 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 01:01:45 ID:o0h64PMoO


ζ(゚ー゚*ζ「カンオケ神社の神様、オサム様ですよ。神隠しの罪で逮捕されました」


 内藤は渡し損ねた。弟者も受け取り損ねた。
 袋が地面へ落ちる。
 ばきばき、スナック菓子がジュースの重みで粉々に砕ける音が響いた。



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