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131 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:15:04 ID:o0h64PMoO
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給食当番の仕事を終え、教室に戻ると、ランドセルが無くなっていた。
壁際の棚の、「出連ツン」と名札の貼られた場所だけが空っぽだった。
ξ゚听)ξ『ランドセル……』
近くにいたクラスメートに訊ねても、気味悪そうに離れられるだけで、
ランドセルの所在は分からない。
5時間目の算数で提出する宿題が、ランドセルに入ったままだ。
先生は怒ると恐いし、最近、毎回のように宿題を提出できていないので、余計に怒られてしまう。
どうしよう。
顔を上げた。窓からは隣の旧校舎が見える。
古臭い木造建築。今や足を踏み入れる者はいない。
その旧校舎の窓に、一瞬、ちらりと赤いランドセルが浮かんだ。
ああ。まただ。
ツンは教室を出て、昇降口へ向かった。
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132 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:15:38 ID:o0h64PMoO
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ξ;;)ξ グスッ、グスッ
壁に手をつき、そろそろと足を進める。
床が腐っているのか、ぎしりと大きな音が鳴った。
ξ;;)ξ『返して……返してよう……』
ランドセルが、暗い廊下の先で揺れる。
笑い声。
からかわれている。
ずっと追い掛けているのに、追いつけない。
ξ;;)ξ『もうやめてよ……』
空気が冷たい。
壁から生えてきた半透明の腕に突き飛ばされる。
ツンが床に倒れ込むと、どっと大勢の笑い声が響いた。
異様に大きな右目と異様に小さな左目の子供が顔を覗き込み、腹を抱えて笑う。
頭部の無い男がツンの髪を引っ張る。
立ち上がろうとすると、狐目の和服の女に転ばされた。
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133 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:16:14 ID:o0h64PMoO
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ξ;;)ξ『やめて、おねがい、おねがい……』
ツンが泣けば、向こうは更に喜んだ。
ランドセルを抱えた少年が近付いてきて、ツンには届かない距離で立ち止まると、
抱えていたランドセルを放り投げて踏みつけ始めた。
ξ;;)ξ『返して……』
──不意に、周りが静かになった。
皆が一斉に遠ざかる。
不思議に思っていると、
(-@∀@)『オジョーサン』
後ろから肩を叩かれた。
(-@∀@)『まァた、こんなところに来て。どうしたんデス。
今日も苛められたんデスカ?』
ξ;;)ξ『アサピー』
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134 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:16:56 ID:o0h64PMoO
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振り返り、視線を合わせるようにしゃがんでいる白衣の男に抱き着く。
ランドセルをとられた、返してと言ったのに意地悪された、と泣きながら訴える。
アサピーは左腕をツンの背中に回し、右手で頭を撫でた。
(-@∀@)『オジョーサン、そうやって泣くから、みんなマスマス面白がるんデスよ』
ξ;;)ξ『だって、だって、意地悪するんだもん、まいにち、宿題ぐしゃぐしゃにして、
それで先生に怒られるの、私、ちゃんと宿題、したのに、出せなくて、私、』
(-@∀@)『ヨシヨシ、可哀想にね。
でもね、ソレですよう。そんなに可愛く泣くから、みんなイジワルしたくなるンですヨ。
めそめそするオジョーサンがあんまり美味しそうだから、』
べろり。
アサピーの獣じみた、やや長い舌が、ツンの頬を舐め上げた。
ひ、と悲鳴が喉の奥でつっかえる。
(-@∀@)『僕だってオジョーサンを苛めたくなっちゃうデショウ』
アサピーの胸を押す。
彼は、ぱっと手を離してツンを解放した。
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135 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:17:32 ID:o0h64PMoO
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ξ;;)ξ『ひどい、ひどいっ』
裏切られた。
舐められた頬を拭い、わあわあ泣きながら走った。
おばけなんか、みんな意地悪だ。
(-@∀@)『冗談なのに』
消える間際に落としたアサピーの呟きは、泣きじゃくるツンには聞こえなかった。
旧校舎から飛び出す。明るい。
ツンはその場に立ち止まり、振り返った。
ランドセルを回収していない。
また旧校舎の中へ入るのは嫌だ。
けれど、先生に叱られるのも嫌だった。
昼休みの終了時間が近付いている。
ξ;;)ξ『う、う、』
しゃがみ込む。
もう何もしたくなくて、けれど何かしなければいけないのは理解していて、
どうしたらいいか分からず、ぼろぼろと涙だけを零した。
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136 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:17:59 ID:o0h64PMoO
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(;,゚Д゚)『ツン!』
少し遠くから聞こえた声に、ツンは顔を上げた。
駆け寄ってくる少年。安堵の感情が、ますます涙を押し出した。
埴谷ギコ。保育園の頃からの仲だ。
ξ;;)ξ『ギコ、ギコ……』
ランドセル、と言って旧校舎を指差す。
ギコはそれで事情を把握したらしかった。
(,,゚Д゚)『取ってきてやるからな』
ここで待つように言い、彼は旧校舎の中へ飛び込んでいった。
ツンは右腕で目元を擦ると、ふと、数メートル先の木を見遣った。
∬;´_ゝ`)、
木の陰に隠れるようにして、少女がツンの様子を窺っている。
彼女は、ツンと、その後ろの旧校舎に怯えているのか
顔をすっかり青ざめさせていた。
少し震えてすらいる。
──彼女が、ギコを呼んできたのだろう。
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137 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:18:35 ID:o0h64PMoO
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∬;´_ゝ`)そ
ツンが近付こうとした瞬間、びくりと跳ね上がり、逃げ出してしまった。
いつものこと。
自分のことが嫌いなら、放っておいてくれればいいのに。
お礼を言うことすら出来ない。
ツンはランドセルを抱えたギコが戻ってくるまで、彼女がいた辺りを見つめて泣き続けた。
──『おばけ法を知れば、おばけなんか怖くなくなるさ』──
脳裏を過ぎる声。
何年か前に聞いた言葉。
ξ;;)ξ(おばけ法……)
後で、ギコに訊いてみようと思った。
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138 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:19:03 ID:o0h64PMoO
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case8:神隠し罪/前編
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139 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:19:51 ID:o0h64PMoO
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年が明け、2013年。
元旦から2週間と少し。
しんしんと雪が降る朝、ヴィップ小学校の職員室にて
職員会議が行われている。
「──というわけで、隣町の小学生が行方不明となった事件を受け、
我が校でも町内ごとに集団となって登下校を──」
_
( ゚∀゚)(やっと本題か……話長えよ校長……)
男性教諭、長岡ジョルジュは周囲へ聞こえぬよう溜め息を漏らした。
寝不足で体が怠い。目をしょぼしょぼさせながら書類を見下ろす。
新聞記事のコピー。
「児童行方不明」──という見出しが載っている。
隣町の小学生が、正月にヴィップ町の祖父母の家に来たらしいのだが、
家族が目を離した隙に忽然といなくなってしまったのだそうだ。
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140 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:20:37 ID:o0h64PMoO
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_
( ゚∀゚)(もう2週間経つのにまだ見付かってないのか……)
そんなことを思いつつ、ジョルジュは視線を右へ滑らせた。
頬が緩む。
咳払いをするふりをして、口に手を当てた。
∬´_ゝ`)
流石姉者が真剣な表情で書類を眺めている。
その横顔を見つめてから、ジョルジュは小声で姉者に話しかけた。
_
( ゚∀゚)「心配ですね……どこへ行ってしまったんでしょう」
∬´_ゝ`)「ええ、本当に……。ずっと注目してたんですけど、続報があまり無いんですよね……。
この子、無事だといいんですけど」
_
( ゚∀゚)「同感です」
──たしかに、いくらか気にかかるのは事実だ。
だが、見ず知らずの子供を本気で心配するほどジョルジュは出来た人間ではない。
正月にローカルニュースで見て以来すっかり事件のことなど忘れていたし、
それよりかは、新学期に向けての準備を始めとした業務の方が彼にとっては差し迫った問題だった。
教師(それも小学校の)としては些か薄情に思われるかもしれないが、
一般人の感覚からはそう逸脱しているわけでもあるまい。
何にせよこのとき彼は、姉者に良く思われたいがため
いくらかオーバーに案じているような素振りをした。
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141 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:21:14 ID:o0h64PMoO
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∬´_ゝ`)「もし誘拐だったら……。
営利誘拐ならまだしも、続報が無いとなると、無事である可能性は……」
一方で、姉者は心の底から事件に胸を傷めているようだった。
何度も記事を読み直している。
ふと記憶の底から湧き上がったものがあって、ジョルジュは口を開いた。
_
( ゚∀゚)「神隠しって線もありますね。非現実的ですけど」
∬;´_ゝ`)「……か、神隠し?」
_
( ゚∀゚)「俺、昔よく婆ちゃんから言われたんですよ。
『夕方は子供をさらいに来たおばけが物陰から見つめているぞ。
ひとりで狭いところや暗いところに行っちゃいけない。行ったら連れていかれる』って──」
そこまで言って、ジョルジュは少し気恥ずかしくなった。
こんな話、大人が子供を管理しやすくするための方便だ。
幼い頃はたしかに信じていたが、大人になってからは、今の今まで思い出すこともなかったのに。
なんちゃって、と誤魔化そうと、ジョルジュは改めて姉者を見る。
::∬; _ゝ )::
_
(;゚∀゚)「……姉者先生?」
-
142 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:21:55 ID:o0h64PMoO
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姉者は震えていた。
顔を真っ青にし、細い目を見開き、書類をぐしゃぐしゃに握り締め。
明らかに、恐怖に打ち震えていた。
_
(;゚∀゚)「姉者先──」
声をかけ、肩に触れる。
その直後。
∬; _ゝ )「──……〜〜っ!!」
姉者は、椅子ごと後ろへぶっ倒れた。
*****
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143 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:22:27 ID:o0h64PMoO
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l从・∀・ノ!リ人「姉者は極度の怖がりなのじゃ。
オカルト話は禁物なのじゃー」
休み時間。社会科資料室。
ジョルジュに肩車される形で棚の上の箱に手を伸ばしながら、
流石妹者は呆れたような声音で言った。
_
(;゚∀゚)「そうなのか?
いや、怖いのが苦手って噂は聞いてたけどさ、そんなに?」
l从・∀・ノ!リ人「ジブリの某神隠し映画ですら怖い怖い言って目を逸らしてたくらいなのじゃ」
⌒*リ;´・-・リ「あ、姉者先生って、そうだったんだ……」
l从・∀・ノ!リ人「家族でも軽く引くレベルじゃ。
姉者のクラスの子達も、初めは姉者を怖い話でおどかして遊んでたらしいけど
姉者のビビり具合が異常で、だんだん『これは触れちゃいけない部分だ』と理解したようなのじゃ」
⌒*リ;´・-・リ「学級文庫、2年3組にはおばけが出る本は回しちゃいけない決まりがあるって噂、本当なんだね……」
-
144 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:23:36 ID:o0h64PMoO
-
l从・∀・ノ!リ人「事実じゃろうな。──ジョルジュ先生、地図帳あったのじゃー」
_
( ゚∀゚)「おう、ありがとう。下ろすぞー」
⌒*リ´・-・リ「先生、地球儀、この小さいのでいいですか」
_
( ゚∀゚)「それそれ。凛々島もありがとな」
しゃがんだジョルジュの肩から下りて、妹者はスカートの裾を叩いた。
妹者の肩についていた埃を凛々島リリがつまんでゴミ箱へ捨てる。
──ジョルジュは、妹者とリリが属する3年3組の担任である。
教材を運ぶのを手伝ってくれ、と声をかけられた彼女達は、進んでそれを受け入れた。
l从・∀・ノ!リ人「はあ。ジョルジュ先生がいらんこと言ったせいで、
姉者は今夜、妹者と一緒に風呂に入ったり布団に入ったりするじゃろうなあ」
_
( *゚∀゚)「おい姉者先生可愛いな」
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145 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:24:08 ID:o0h64PMoO
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l从・∀・ノ!リ人「妹者、お風呂はゆっくり入りたいのに……。怯えた姉者は早風呂じゃからのう……。
──それよりジョルジュ先生、可愛い妹者に肩車させてもらえた代金として500円払うのじゃー」
_
( ゚∀゚)「冗談だろ」
l从・∀・ノ!リ人「払ってくれたら、サービスとして、姉者の前で
『ジョルジュ先生が家族になってくれたら嬉しいなあ』と呟いてあげるのじゃ」
_
( ゚∀゚)「五千円払うから10回たのむ」
l从・∀・ノ!リ人「冗談なのじゃ」
3人で教室を出て、ゆっくり廊下を歩く。
通りすがる女子生徒からの挨拶にジョルジュは爽やかな笑顔で返し、
通りすがる男子生徒からの眼差しに妹者は可愛らしい笑みを向け、
横を歩くリリは苦笑いだか何だか分からぬ表情で2人を横目に見遣った。
_
( *゚∀゚)「それにしても──いいよなあ……姉者先生。
優しくてさ……胸でかくてさ……ちょっと隙があって……真面目で……胸でかくて……胸でかくて……」
l从・∀・ノ!リ人⌒*リ;´・-・リ(また始まった)
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147 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:24:52 ID:o0h64PMoO
-
_
( *゚∀゚)「俺なら幸せにしてあげられると思うんだ」
l从・∀・ノ!リ人「ジョルジュ先生ぜんぜん相手にされてないじゃろう」
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( ゚∀゚)「いや……姉者先生も俺を憎からず思ってる筈だ。
俺は姉者先生が困ってるときには助けてきたし、見掛ければほぼ必ず声をかけたし、
声をかけられる距離じゃなくても、目に入れば常に見守り続けた」
_
( ゚∀゚)「さらに姉者先生に下心を持って近付く男は、たとえ生徒であろうと牽制してきたからな……
姉者先生にとって一番親しく一番頼りがいのある男は俺の筈だ」
l从・∀・ノ!リ人「ほぼストーカーだし最高に大人げないし思い上がりもいいとこなのじゃ……」
ジョルジュは姉者より2、3歳上。
20代という若さに加え、体格もがっしりしている。
いかにも爽やかなスポーツマン、といった佇まいの彼は
女子生徒や女性教諭のみならず、生徒の保護者からも人気が高い。が。
こういった、少々残念なところがあるのが玉に瑕。
_
( ゚∀゚)「俺のことは『お義兄ちゃん』と呼んでくれて構わない」
l从・∀・ノ!リ人「兄なら間に合っておる。というか──
ちっちゃい『お兄ちゃん』が黙ってないと思うんじゃがのう……」
*****
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148 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:26:06 ID:o0h64PMoO
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(´<_` )「ふぇぶしゃっ!」
(;・∀・)「わーびっくりした! もっと控えめにやれよ!」
(´<_` )「急に出るもんはしょうがないだろ」
駄菓子屋の前で、流石弟者のくしゃみが響き渡った。
ちり紙で鼻をかむ弟者を浦等モララーが睨む。
(-_-)「誰か弟者の噂してたり」
(;^ω^)「それならいいけど、風邪だったら大変だおー」
小森ヒッキーが微笑み混じりに言う。
内藤ホライゾンは、気遣う演技で弟者の顔を見上げた。
まあ、いくらか本音ではある。風邪だとしたら、伝染されても困るし。
ひとまず弟者の話題はそこまでとして。
( ・∀・)「なあ、このあと用事とかある?」
買ったばかりの駄菓子を頬張り、モララーが訊ねる。
──今日は休み明けの学力テストの日で、普段より早く放課となった。
だからこうして寄り道して、買い食いなどしているわけである。
このまま遊びに行かないか、とモララーは誘いをかけたいのだろう。
弟者とヒッキーはそれに乗り気だ。
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149 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:26:34 ID:o0h64PMoO
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( ^ω^)「ごめんお、僕、今から寄るところがあって……」
( ・∀・)「あーそう? んじゃ、俺らだけでどっか行くか。またな、ブーン」
(´<_` )「夕飯までに帰ってこいよ」
( ^ω^)「分かったおー」
(-_-)「また明日」
モララー、弟者、ヒッキーは内藤に手を振り去っていった。
「今から」とは言ったが、約束の時間まではまだ余裕がある。
内藤は入口の邪魔にならないところへ寄りかかり、ビニール袋から取り出した駄菓子の封を開けた。
「──、……で……」
「ああ……──、……」
店先のベンチに老人が2人座って、世間話をしている。
近くにバス停があるので、恐らくバスを待っているのだろう。
内藤も同じだ。
菓子を齧りつつ、何となく老人達の会話を盗み聞きしてしまう。
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150 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:27:07 ID:o0h64PMoO
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「──そういえば、行方不明事件……」
「隣町の子がヴィップ町で行方不明になった、あれですか」
「なんでも、神隠しに遭ったんじゃないかと噂で」
「この町では昔からちょくちょくありますしな」
神隠し。
例えとしての表現ではなく、怪奇現象のそれとして話しているようだ。
「数十年前など、とつぜん行方不明になった娘が
その5年後、行方不明になった当時の姿のまま戻ってきたとか……」
「ああ、騒ぎになったもんで」
「他にも十……何年前だったかな……。
友達とかくれんぼしてる間に消えちまった子は、
前日『おばけが呼んでる』って家族に言っていただの何だの──」
「ヴィップ小学校の裏山でいなくなった子の話もありましたかな」
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151 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:27:47 ID:o0h64PMoO
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( ^ω^)「……」
この町の地理を思い浮かべ、内藤は一瞬、咀嚼する動きを止めた。
ヴィップ小学校の裏山。
そこの近くには、嫌な思い出がある。
大小様々なゴミが積まれた空き地。
昔、おばけに襲われ都村トソンに助けられた場所。
トソンの裁判にて、あのとき抱いた恐怖を思い出して以来、
あそこへはなるべく近付かないようにと決めている(そもそも近付く用も無いのだけれど)。
今は大抵の霊に怯えることもないが、
あんな印象的な出来事を、裁判に臨むまで忘れていた──脳の奥に閉じ込めていた程度には
当時の内藤にとってあまりに恐ろしい記憶だったわけだし。
──思考に意識を向けていた内藤は、耳慣れた単語が突然出てきたことで、また隣の会話に気をとられた。
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152 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:28:32 ID:o0h64PMoO
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「やはり、あれですかな……。カンオケ神社の神様……」
「オサム様」
「あの神様に、みんな連れてかれてるんでしょうかな……」
「ええ、まことに恐ろしい話で」
「あれは人を喰う神だと聞いたこともありますし──」
*****
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153 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:29:01 ID:o0h64PMoO
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総合病院。
三森ミセリの病室。
(゚、゚トソン「ミセリ……」
都村トソンはミセリの顔を覗き込んだ。
呼び掛けても、返事は当然ない。
ミセ*- -)リ
ミセリに繋がれた管や何かしらの器具が、絶えず微細な音を吐き出している。
それが、唯一彼女の生を証明しているようだった。
ξ゚听)ξ「トソンさん、あまり近付きすぎないようにね」
( ^ω^)「向こうの方々が警戒してますお」
(゚、゚トソン「はい……」
背後に立つツンの言葉に頷き、トソンは名残惜しげに顔を上げた。
付き添いとして呼ばれていた内藤は、病室の入口へ振り返る。
警官と、何やら大きな獣の姿をした化け物が内藤達を監視している。
「猫」がこの病室で目撃された一件以来、こうしておばけ課の職員と協力者たるおばけで警戒に当たっているらしく、
単なる見舞客である内藤達にも厳しい目を向けていた。
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154 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:29:30 ID:o0h64PMoO
-
トソンだって、こんな風に中まで入ってくるのは実に半年ぶりなのだそうだ。
結界が張られている──今は弱めてもらっているが──ため、
窓の外から病室を覗くことしか出来なかったとかで。
(゚、゚トソン「……ミセリ、髪伸びましたね……」
トソンがミセリを見つめ、ぽつりと呟く。
ぱさぱさに乾いた長い髪が、看護士の手によってか軽くまとめられている。
話は色々聞いていたけれど、内藤が実際にミセリを前にするのはこれが初めてだった。
明るい人、とトソンは言っていたが──目の前で眠り続ける彼女からは、そういった印象は受けなかった。
肌も髪もツヤはなく乾ききっている。
年齢は、三十代の半ばを過ぎた頃の筈だ。
その年齢よりいくつも老けて見える。
(゚、゚トソン「高校のときは、ミセリ、髪長かったんですよ。まっすぐで、綺麗で……。
大学上がる頃から癖毛が増えて、短くしちゃいましたけど……」
ξ゚听)ξ「あー、髪質変わるひと結構いるわよね。私は昔から癖毛だったけど」
(゚、゚トソン「ミセリ、残念がってて──でも短い方が、元気な彼女に合ってて、私は好きでした。
そのことを言ったら、ミセリは照れくさそうに笑ってくれたんです」
トソンの言葉尻が震えた。
きゅっと唇を噛み、眉間に皺を寄せる。
ミセリの髪の毛先を軽く撫で、彼女は離れた。
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155 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:29:56 ID:o0h64PMoO
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(゚、゚トソン「……久しぶりにミセリを見たら、何か、色々思い出しちゃって」
そこへ警官が声をかけた。
時間切れだという。その声のおかげか、トソンの潤み始めた目から涙が零れることはなかった。
──病院を出て、内藤とツンは事務所へ向かうためバス停に立った。
他に客はいない。
(゚、゚トソン「ツンさん……あの、『猫』のことなんですけど……。
何か新しい手掛かりはあったんでしょうか」
ξ゚ -゚)ξ「残念ながら」
昨年11月──素直ヒールとロミスの離婚を巡る裁判が終わった後。
家路についた内藤達は、件の化け猫らしき男と遭遇した。
だが、すぐに男を見失ってしまったため、事が進展することはなかったのだ。
けれども分かったことはある。
トソンや鬱田ドクオが男を見たのは去年の夏で、内藤達は11月。
その3ヵ月以上もの間、奴はヴィップ町に滞在し続けていたと見ていいだろう。
となれば、過去数年、何県にもわたって痕跡を残してきた者が、この町にだけ長期間いたことになる。
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156 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:30:24 ID:o0h64PMoO
-
何のためか。
──詳細は分からないにしても、目的は確実にミセリだ。
あの警備態勢によりミセリに近付けないものの、
何か果たさねばならない目的があって、ここを離れるに離れられないのだろう。
もしも奴が未だに諦められずこの町に残っているのなら、いずれは捕らえられる筈。
ξ゚听)ξ「何にせよ、強行突破できるほど強いおばけじゃないみたいだから
警察に見付かっちゃえば終わりでしょうね」
(゚、゚トソン「そう、ですよね。
……事件が解決すればミセリが目覚めるような気がして、私、焦ってしまって」
( ^ω^)「まあ解決しなきゃミセリさんの安全も保障されませんから、
早く化け猫を捕まえるに越したことはないんでしょうけど」
(゚、゚トソン「ですね……」
ツンは、トソンをまじまじと見つめた。
何でしょう、とトソンが首を傾げる。
ξ゚听)ξ「……トソンさん、普段は何してる?」
11月にしたのと同じ問いを、ツンはぶつけた。
(゚、゚トソン「……ふらふらしてますよ」
答えも、前回と同じだ。
けれど視線を僅かに逸らしたのが気になった。
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157 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:30:57 ID:o0h64PMoO
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ξ゚ -゚)ξ「──無茶なこと考えてない?」
( ^ω^)「無茶って?」
ξ゚听)ξ「『猫』を捕まえてやろうとか思って、1人で色んなとこ探してるんじゃないかってこと」
トソンはまた首を傾げた。
苦笑いを浮かべている。
(゚、゚トソン「ツンさんには何でも見通されているような気が、たまにします」
( ^ω^)(実際に見通してるようだけど)
彼女はツンの「追体験」を知らない。
ともかく、ツンの懸念は当たっていたらしい。
諦めたように頷き、トソンは小指の無い右手で頬を掻いた。
(゚、゚トソン「でも捕まえようとは思ってません。私なんかじゃ、とてもそこまでは……。
ただ、目撃情報でも立派な手掛かりにはなるでしょうから、
警察のお手伝いにでもなればいいなと思って──まあ私が勝手にやってることなんですけど」
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158 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/04/21(月) 00:31:35 ID:o0h64PMoO
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ξ゚听)ξ「鉢合わせたとき、向こうがどんな行動に出るか分からないでしょ。
危険だわ。捜索は警察や私に任せて、あなたはゆっくりしてなさいよ」
(゚、゚トソン「お気遣いありがとうございます。でも、じっとしてもいられなくて」
叱られた子供がそうするように、トソンは目と話題を逸らした。
バスが来ましたよ、と。
重たいエンジン音が近付いてくる。
(゚、゚トソン「それでは……私は、これで」
一礼し、トソンは去っていった。
バスが停まる。扉が開いた。
ξ゚听)ξ「……思いきったこと、しなけりゃいいんだけど」
( ^ω^)「多分──大丈夫じゃないですお? ちゃんとした人だし」
ξ゚听)ξ「でも、少し……言いかた悪いけど、愚直なところがあるわ」
( ^ω^)「まあ、それは少し分かりますけど」
ξ゚听)ξ「でしょう。──内藤君、うちに来てもらえる? 事務所の片付け手伝ってほしいの」
*****