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637 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 19:52:32 ID:xhuItdG2O
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(;-_L- )「お願いします、お願いします、どうか……
どうか娘を助けてください……」
思えば軽率だった。
(;-_L- )「俺を代わりに連れていってもいい、
何でもします、何でもしますから──
娘の命だけは……!」
神棚に向かって土下座する形で、祈り続ける。
言葉に偽りは無かった。
「何でもする」から、病に苦しむ娘を助けてほしい──その思いは真実に変わりない。
しかし、やはり、軽率と言うよりほかなかった。
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638 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 19:53:48 ID:xhuItdG2O
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(;-_L- )「何でもします……神様、神様!!」
がたがたと窓を叩く吹雪の音が、ますます焦れったさを煽る。
こんなに天候が荒れていなかったら、今すぐ病院に飛んでいくのに。
〈──本当に何でもしますか〉
頭に声が響いた。
低い、男の声だった。
瞠目する。幻聴かと耳を摩りながら顔を上げた。
室内には、自分以外に誰もいない。
固まっていると、また同じ言葉が響いた。
(;‘_L’)「……はい……」
事態を理解しきれぬまま、頷く。
まさか。本当に神様が。
そのまま何分待っても、返事は聞こえなかった。
やはり幻聴だったか。そう思い、脱力した。
ほんの数分前の自分が、ひどく愚かに思えた。
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639 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 19:55:01 ID:xhuItdG2O
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──瞬間、電話が鳴り響いた。
心臓が跳ね、嫌な汗が浮かぶ。
こんな真夜中の電話など──不吉な予感しか齎さない。
ディスプレイには、娘が入院している病院の名があった。
鼓動が激しくなり、汗も流れていくのに、体は冷えきっていく。
震える手で受話器をとり、右耳に当てた。
(;‘_L’)「……もしもし」
主治医の声がする。
予感とは裏腹に、やけに明るい声だった。
『持ち直しましたよ! 顔色も一気に良くなって……。
詳しい検査は後ほど行いますが、もう心配はいらないと思います』
死の淵に立った娘が無事に生還したことを、主治医は伝えた。
先程とは別の意味で、体から力が抜けた。
涙が浮かぶ。良かった。本当に、良かった。
そのとき。
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640 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 19:55:56 ID:xhuItdG2O
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〈──あなたの孫娘を嫁にもらう。約束ですよ〉
左耳に直接、低い声が捩じ込まれた。
振り返っても、やはり、誰もいなかった。
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641 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 19:56:54 ID:xhuItdG2O
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case7:異類婚姻詐欺/前編
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642 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 19:59:27 ID:xhuItdG2O
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( ^ω^)「払いますお」
ξ゚听)ξ「いらないってば」
( ^ω^)「払います」
ξ゚听)ξ「いらない」
( ^ω^)「払う」
ξ゚听)ξ「いらん」
('A`)「いつまでやってんだお前ら……」
N県からG県へ行き、A県ヴィップ町へ帰還して。
駅の真ん中で、内藤ホライゾンと出連ツンは延々と金について言い合っていた。
傍にふわふわと浮いている鬱田ドクオが、すっかり呆れ返っている。
始まりは、電車の中、ふと内藤が零した疑問であった。
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643 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 20:00:26 ID:xhuItdG2O
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( ^ω^)『そういえば、弁護士費用ってどうなってるんですかお』
あの──盛岡デミタスという弁護士からは、詳しく説明されなかった。
内藤が払う必要はない、としか。
ξ゚听)ξ『そりゃ、普通に依頼人からお金もらったり』
( ^ω^)『……おばけってお金持ってるんですかお?』
ξ゚听)ξ『持ってるのもいるわよー。
アサピーなんかどうやって稼いでんだか知らないけど小金持ちだし』
ξ゚听)ξ『現金しか受け付けないって弁護士もいるけど、私は「物」で払ってもらうこともあるわ。
長生きしてる妖怪なんかは高価な骨董品持ってたりするしね。
あとは……弁護費用に相当する額の宝くじを当てる程度の「運」をつけてもらうとか』
( ^ω^)『そういう支払いも出来ない場合は?』
ξ゚听)ξ『ドクオさんみたいな普通の浮遊霊は、支払い能力ないひと多いわねえ』
v('A`)v『生前も死後も貧乏まっしぐらドクオちゃんです』
( ^ω^)『笑えませんお』
('A`)『ごめん』
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644 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 20:01:45 ID:xhuItdG2O
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ξ゚听)ξ『こういう場合は、おばけ法務局からお金もらうの。雀の涙だけど。
えーっと、あれ。人間の裁判でも、国選弁護っつって、
国がお金払って弁護士つけさせる制度あるでしょ。あんな感じ』
( ^ω^)『じゃあ僕のもそうなるんですかお』
ξ゚听)ξ『なるなる』
それから電車が駅へ着くまでの間、考えれば考えるほど、
内藤の中で納得いかなくなってしまった。
費用は内藤ではなくおばけ法務局なる、よく分からぬ組織が払うらしい。
しかしツンに助けてもらったのは内藤だ。
それなのに当人である自分が、ツンに何か形のある礼をしないというのは。何だか。どうにも。
──そういうわけで、駅に降りてから「費用を払う」「いらない」の応酬が始まったのである。
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645 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 20:03:24 ID:xhuItdG2O
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ξ;゚听)ξ「だから、お金は別の場所からもらうんだってば!
なのに更に内藤君からお金もらうなんて無理よ!」
( ^ω^)「じゃあ法務局だか何だかからは受け取らなきゃいいじゃないですかお」
ξ;゚听)ξ「いや、──中学生からお金もらえないわ。
雀の涙っつったけど、掛かる労力に対して、って意味であって、金額自体は安くないわよ」
( ^ω^)「分割で」
ξ;゚听)ξ「中学生に分割払いさせるのって心苦しいわ」
( ^ω^)「でも僕が依頼して、実際に助けてもらったんですから、せめてお金くらいは払わないと」
ξ;゚听)ξ「依頼したのは弟者君でしょ」
( ^ω^)「最終的に『お願いします』って言ったのは僕ですお」
ξ;゚听)ξ「でもねえ」
('A`)「おい少年、あんまり食い下がられると、自分で金払う気ゼロの俺がクズみたいに思えてくるんだが」
( ^ω^)「……要するに僕はツンさんにだけは借りを作りたくないんですお」
ξ;゚听)ξ「うわー、それか! それが本音か! 可愛くねえな!」
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646 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 20:05:21 ID:xhuItdG2O
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( ^ω^)「そろそろ頷かないと、僕ここで泣き喚きますお。
『お金払わせてください受け取ってくださいでなきゃ死んでしまう』と。
叫ぶように。涙だらだら流して。土下座しながら縋りついて」
ξ;゚听)ξ「駅の真ん中で!? やめてよ意味深な言動で私を社会的に殺そうとするの!!」
('A`)「社会的には既に死んでんじゃねえのか、丸出しの不審者オーラで」
ξ゚听)ξ「てめえ。私が月に何回職質受けるか知ってのその発言か」
内藤が無言で土下座の体勢に移りかけて、ようやくツンは頷いた。
それから彼女は瞼を下ろすと、溜め息をつき、何か考えているのか沈黙した。
少しして、目を開く。
ξ゚听)ξ「じゃあ」
唇を舐め、挑発的な笑みを浮かべた。
内藤の腕を引き、耳元で囁きを一つ。
ξ゚ー゚)ξ「体で払ってもらいましょうか」
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647 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 20:06:45 ID:xhuItdG2O
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翌日、内藤は、平屋建ての一軒家の前にいた。
道順が書かれたメモ用紙と家を見比べる。ここで合っている。はずだ。
( ^ω^)(ここに1人で住んでるのかお)
表札には「出連」の文字。
ツンの家である。
('A`)「ここ、何年か前に『おばけ屋敷』って呼ばれてた曰く付きの家だな。
今は綺麗だ。弁護士が幽霊ども追い出したんだろう」
( ^ω^)「へえー。……ところで、何でドクオさんがついてきてんですかお」
('A`)「内藤少年があの弁護士に、どんないかがわしいことされるか見届けてやろうかと」
貧相な脇腹をぶん殴り、内藤は玄関先に立った。
足元を見る。左方を指す矢印とぐしゃぐしゃな線が書かれた紙が貼られている。
矢印の先を目で追うと、一定の感覚で矢印が置かれているのが見えた。どこまで続いているのか。
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648 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 20:08:03 ID:xhuItdG2O
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( ^ω^)「何だお、これ」
('A`)「『おばけ法の話なら、家の裏手に回ってください』って指示が書かれた札だな。
普通の人間にゃ分からんだろうが、霊や妖怪が見りゃ分かる。
……少年、脇腹が超痛いんだが。ちょっとした冗談にあのパンチは重すぎじゃねえか」
とりあえず無視してインターホンを押してみる。
数秒の後、ドアが開かれた。
ξ゚听)ξ「いらっしゃい──あら、ドクオさんも来たのね。上がって」
家の中は少々古めかしさを感じるものの、普通だった。
廊下を進み、一番奥の部屋へ案内される。
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649 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 20:09:12 ID:xhuItdG2O
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( ^ω^)「……おー……」
磨りガラスが嵌め込まれた引き戸を開けると、事務所然としたつくりになっていた。
壁に並ぶ棚。事務机。
中央にはローテーブルと、それを挟む形で置かれた二人掛けのソファが2つ。
外の矢印を辿れば、この部屋の窓に行き着くのだという。
ξ゚ー゚)ξ「ようこそ、出連おばけ法事務所へ」
('A`)「意外とまともだな」
( ^ω^)「華やかな壁紙とそこに貼られたお札が何ともミスマッチで怪しさ満点ですが」
ソファに座れと指示を出されて、内藤はおとなしく腰を下ろした。
向かいにツンが座り、ドクオは物珍しげに棚を見ている。
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650 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 20:11:31 ID:xhuItdG2O
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ξ゚听)ξ「と、いうわけで。私も弁護士なので、罪を犯した幽霊さんの弁護の他に、
おばけ法限定で法律相談なんかも受けております」
( ^ω^)「はあ」
ξ゚听)ξ「1人でやってるので、かーなーり大変です」
( ^ω^)「でしょうね」
ξ゚听)ξ「お客様をお迎えする以上、毎日掃除して綺麗にしなきゃいけないし、
分かりやすく資料の整理もしなきゃいけません。
開けっぱなしの出しっぱなしが多い私にとって、それもまた一苦労です」
( ^ω^)「仕事をしつつそういったことまで気を回すのは大変でしょうお」
ξ゚听)ξ「なので、雑用を引き受けてくれる人がいると、とてもありがたいです」
話はもう見えている。
( ^ω^)「やりますお。
ただし、弁護士費用分の働きを完了するまでですが」
ξ゚ー゚)ξ「うん。ありがとう。
学校帰りにちょっと寄ってくだけでいいし、来たくない日は来なくていいわ。
ただし私から手伝いをお願いした場合はなるべく応えてちょうだい」
内藤が承諾する。
決まり、と手を叩いて、ツンは嬉しそうに笑った。
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651 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 20:13:33 ID:xhuItdG2O
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──こうして、内藤は、この事務所の臨時雑用係として雇われることとなった。
数ヵ月前の自分に聞かせたら卒倒しそうだな、なんて思いながら、小さく溜め息をつく。
口元の笑みが、いつも以上に深まっていることには気付かない。
('A`)「不審者と中坊の事務所……ますます評判下がりそうだな」
ξ^竸)ξ「ありがとうねードクオさんも働いてくれるだなんてー」
(;'A`)「はあ!? 俺ァ関係ねえだろ!?」
ξ^竸)ξ「貴様は恩人である私への感謝の姿勢が足りなすぎる」
ドクオがぎゃあぎゃあ文句を言う声に混じって、
こんこんという音が聞こえてきた。
ツンが窓を見る。内藤とドクオも続いた。
(゚、゚トソン「あ……こんにちは」
血まみれの女──都村トソンが、窓ガラスの向こうに立っていた。
ツンが腰を上げ、「入って」と告げる。
ガラスをすり抜けて入室するトソンへ会釈する内藤の肩を、ツンが叩いた。
ξ゚听)ξ「はい、早速お仕事。お茶淹れて」
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652 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 20:15:38 ID:xhuItdG2O
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(゚、゚トソン「大変でしたね、内藤さんと──ええと、鬱田さん」
トソンは内藤達の話を聞くと、そう言って、内藤が淹れた緑茶に口を寄せた。
量は減っていないが、味の方を堪能しているのだろう。
ええ、まあ。
無難な返答と共に内藤は首肯した。
ドクオとトソンは初対面のようで、互いにぎこちない。
三森ミセリの部屋を再訪した「猫」を発見したのがドクオなのだ、とツンが紹介すると、
トソンは目を丸くして何度も礼を言った。
(;'A`)「やめてくれ。追いかけたが結局見失っちまって、何の役にも立てなかったんだ」
(゚、゚トソン「それでも、あなたがいなければ……ミセリはそのときに、『猫』の手にかかっていたかもしれません。
本当に、ありがとうございました」
(;'A`)「ああ、もう、礼なんて言い慣れても言われ慣れてもねえんだよ……恥ずかしいな何か」
照れ臭くなったようで、ドクオは決まりの悪そうな顔をすると
窓を抜けて逃げていってしまった。
内藤の隣で、ツンがくすくす笑う。
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653 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 20:17:44 ID:xhuItdG2O
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ξ゚ー゚)ξ「行っちゃった。ドクオさんもなかなか可愛いとこあるわ」
(゚、゚トソン「後で改めてお礼を……」
ξ゚ー゚)ξ「ますます照れちゃうわよ、放っときなさい。
──トソンさん、最近は何してる?」
(゚、゚トソン「相変わらずふらふらしてますが、たまにミセリの様子を見に、病院へ」
ξ゚听)ξ「まめに通わなくても、ちゃんとした警備がついてるわよ」
(゚、゚トソン「ええ……。でも、放ってもいられませんから。
私なんかがいても力にはなれませんけどね」
誰かが目を離した隙に、また「猫」が侵入するのでは──と思うと、不安になってしまうとトソンは呟く。
ただ、それ以外にも理由があるという。
(゚、゚トソン「彼女が目を覚ますところを見たいっていうのも、あります」
7年も眠り続ける友人、ミセリ。
彼女の目覚めを、何よりも望んでいるのだ。
早く起きるといいわね、と、ツンは優しい目をして言った。
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654 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 20:18:51 ID:xhuItdG2O
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──それからツンは、埴谷ギコから聞き出したという「猫」の情報をかいつまんでトソンに伝え、
最後に昨日のG県での調査結果を内藤と共に話した。
とはいってもG県の方はこれといった収穫もないので、話すことなど大して無かったのだが。
ξ--)ξ「まあ……これじゃトソンさんにも申し訳ないから、
せめてお土産だけでも買っていかなきゃなと思いまして」
(゚、゚;トソン「は、はあ」
ξ゚听)ξ「準備してくるわ、ちょっと待ってて」
それから数分。
ツンが台所へ引っ込み、香ばしい匂いがこちらまで漂ってきた頃、
「土産」の乗った皿を持って彼女が戻ってきた。
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655 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 20:21:43 ID:xhuItdG2O
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ξ*゚听)ξ「お待たせー。いい具合に焼けたわ。
焼きまんじゅう。どうぞ!」
串に刺さった4つのまんじゅう。
たっぷり絡んだ甘い味噌ダレと、程よく付いた焦げ目が胃を刺激するような香りを放つ。
G県の名物だ。内藤も店頭で試食したが、実に美味かった。
ツンがトソンの前に皿を置く。
──そこで、予想外の反応があった。
やきまんじゅう。
反芻するように呟き、トソンが眉根を寄せる。
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656 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 20:24:21 ID:xhuItdG2O
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(゚、゚トソン「……ミセリ、昔……お盆明けに会うと、お土産に焼きまんじゅうくれました」
ξ゚听)ξ「え、」
(゚、゚トソン「お母様だったか、お父様だったか……御実家が他県にあるとかで、
お盆になるとそちらの方へお墓参りに行っていたみたいです。
それから帰ってきた日にはいつも、私に焼きまんじゅうを焼いて食べさせてくれて……」
どの県かは聞いていませんでした、と付け足す。
内藤とツンは顔を見合わせた。
──G県に縁のあった三森ミセリ。
G県の寺で起きたという住職の変死、そこに残されていた「猫」の痕跡。
果たして偶然だろうか?
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658 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 20:26:57 ID:xhuItdG2O
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ξ゚听)ξ「……ミセリさんが、G県に……」
(゚、゚トソン「ええ。──あ、いただきます」
串を持ち上げ、トソンが焼きまんじゅうに齧りつく。
やはりまんじゅうは傍目には減らないのだが、トソンは口をもごもご動かした。
そして、首を傾げる。
(゚、゚トソン「……これ、あんこ入ってます?」
ξ゚听)ξ「入ってるわよ」
(゚、゚トソン「初めて食べました。ミセリは、あんこが入ってない方が好きだって言ってて」
ミセリが土産に買ってくる焼きまんじゅうには、餡は入っていなかったらしい。
内藤達が寄った店では、餡が入っているものと入っていないもの、2種類あった。
( ^ω^)「僕も入ってない方が好きですお」
ξ゚д゚)ξ「えー。入ってる方がいいじゃないの。ドクオさんだって餡入り派だったわよ」
( ^ω^)「甘すぎませんかお?」
ξ゚ -゚)ξ「そこがいいのに」
(゚、゚トソン「どっちも美味しいと思います。
……懐かしいなあ、ミセリにも食べさせてあげたい……。
あ、でも餡入りだったら嫌がられちゃうかな」
くすり、トソンが笑う。
けれど、その笑みはどこか寂しそうで、内藤もツンも目を逸らしてしまった。
*****
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659 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 20:29:01 ID:xhuItdG2O
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川 ゚ -゚)
細く白い指が、しなやかに動いて鍵盤を叩く。
伏し目がちな横顔。きゅっと結ばれた唇。
どこを取っても綺麗な人だ。
彼女が奏でる旋律を聴きながら、傍らの姿見で自分の顔を見てみる。
川*` ゥ´)「……ううーむ……」
思わず唸ると、姉の手が止まった。
ピアノから、こちらへと視線を移す。
川 ゚ -゚)「どこか間違えただろうか」
川*` ゥ´)「ええ? ……あ、いや。違う違う。
姉ちゃん見てたら、本当に私と血が繋がってんのか怪しくなって」
何を馬鹿な、と姉が小さく笑む。
その笑顔もまたとんでもなく綺麗で、ほうと溜め息が出た。
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660 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 20:31:09 ID:xhuItdG2O
-
川*´ ゥ`)「姉ちゃんは綺麗だなあ。私なんかと大違いだ」
川 ゚ -゚)「私はお前の愛敬のある顔が好きだな」
今度は吹き出してしまう。
愛敬ときたか。ものは言い様というか何というか、まあ。
川*` ゥ´)「ないないないない。いいんだ。分かってるよ、私全然そういうの、もう、本当ないから」
自分はただでさえ「綺麗」とも「可愛い」とも言い難い顔だ。
姉と並ぶとますます差が際立つ。
幼い頃はこれでよく笑われたものだ。いや、今もか。
親戚やら友人やら何やらは、自分と姉を見て、大抵こう言う。
「あら、似てないのねえ」。
失礼な輩になると「お姉ちゃんにいいとこ全部持っていかれたのかしら」とまで。もう慣れた。
そもそも事実である。
姉は美人で、淑やかで、頭が良くてピアノの腕も素晴らしい。
対する自分は不細工──とまでは言いたくないが、まあ平均かそれ以下──だし、がさつだし、頭が悪けりゃ特技も無い。
1歳しか違わないのも、比較の餌食になり得る要因だった。姉の大人っぽさときたら。
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661 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 20:33:17 ID:xhuItdG2O
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川 ゚ -゚)σ「何むずかしい顔してるんだ。ピャー子は笑ってる方がいいぞ」
川*` ゥ´)「あ、こら、ほっぺ突っつかないでよ」
ここまで来ると、妬ましささえ通り越す。
姉は近くに居て最も遠い。憧れや庇護を一身に受けるべき存在だ。
恐らく、彼女を最も敬愛しているのは妹の自分であろう。
彼女には、何不自由なく、全てにおいて成功を収めて幸せに暮らしてほしい。
そのためならば、自分に出来ることは何だってしよう。
「──クー、ピャー子、お風呂沸いたよー」
母の声。
一番風呂は姉に譲り、部屋を出ると、廊下の奥へ向かった。
突き当たりに、3段ほどの短い階段がある。そこを下りたところに一枚のドア。
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662 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 20:34:44 ID:xhuItdG2O
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ドアの前で立ち止まる。
ふと浮かんだ悪戯心。音を立てぬように、ドアを細く開けた。
隙間から室内を覗く。
部屋の奥で、男が本──どこから引っ張り出したのか、中学時代の教科書──を読んでいる。
先と同様、慎重にドアを閉め、絞るように僅かに喉へ力を入れた。
川*` ゥ´)「──ロミスさん、ロミスさん」
血の繋がりを疑うほど類似する点の少ない自分と姉だが、
声真似だけは自信があった。
親ですら騙せるほどに似せられる。
「クールさん?」
そら、「化け物」も簡単に騙された。
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663 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 20:36:15 ID:xhuItdG2O
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川*` ゥ´)「ピャー子は風呂に行った。あなたと2人で話したいんだが、今は忙しいだろうか」
「いいえ。暇をしていたところです」
川*` ゥ´)「そうか、それじゃあ、ふっ、いま、どあをあけ、」
途中で吹き出した。
それを皮切りに、笑い声が勝手に迫り上がってきて、喋られなくなってしまった。
ドアの向こうの気配が揺らいだような気がした。気付かれたようだ。
今度は豪快にドアを開け、部屋に入る。
川*´ ゥ`)「あっはっはっは。姉ちゃんがわざわざお前と話すわけないだろ」
£°ゞ°)「意地の悪い」
男は困ったように笑うだけだった。
いつも通り。
悪戯しても嫌味をぶつけても、穏やかに笑うのみ。
我ながら憎たらしい行いを、手応え無しに受け入れられるのが、何となく居心地悪い。
少し苛立ちさえする。
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664 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 20:37:40 ID:xhuItdG2O
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壁の両側に備え付けられた棚のせいで、心持ち狭く感じる部屋。
立て掛けられていた折り畳みの椅子を広げて座り、携帯電話をいじる。
ちらりと、歴史の教科書に視線を戻す男を見遣った。
川*` ゥ´)「それ、私が中学のときのやつ。面白いの?」
£°ゞ°)「少し」
ページを繰る左手を注視する。
薬指に、薄紫色のヘアゴムが二重に巻き付けられている。
きつくはなさそうだが、簡単に落ちるほど緩くもない。
川*` ゥ´)「……さっき、姉ちゃんが来たと思って喜んだろ」
呟く。男はやはり、いつも通り笑った。
自分の左手に目を落として、溜め息。
姉ほど細くも長くもない指に触れる。
その薬指には、男と同じように薄紫色のヘアゴムが括られていた。
*****
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665 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 20:39:47 ID:xhuItdG2O
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──トソンの新証言以降、「猫」に関する新たな情報も、事件もなく。
2ヶ月ほどが過ぎた。
暦の上では11月上旬。
もう秋が終わるのではと思えるほど、外の空気は冷えている。
ξ゚听)ξ「ありがとうねえ、内藤君」
( ^ω^)「仕事ですので」
学校帰りに事務所へ寄った内藤は、いつも通り、事務所内の掃除をしていた。
書類との睨めっこに没頭していたツンが、思い出したように礼を言う。
内藤がここへ来るのは、週に2、3度といったところ。それ以下のときも、たまに。
雑用係とはいっても掃除と棚の整理が主な業務なので、長居もしない。
しかし、時折おばけが法律相談に来るところに居合わせることもある。
その度、おばけ法や幽霊裁判に関する細々した知識が増える。
それは別に──嫌ではない。何なら、少しばかり楽しいとさえ思う。
あくまで、楽しいのは知識が増えることだ。
ツンといるのが楽しいわけではない。
そればかりは認めてはいけない。何となく癪なので。
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666 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 20:41:14 ID:xhuItdG2O
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( ^ω^)「終わりましたお」
ξ゚听)ξ「ん、おつかれ。気を付けて帰ってね」
掃除機の中の紙パックを取り換え、内藤は鞄を持ち上げた。
4時半。今から帰れば流石弟者より先に家に着くだろう。
ツンの事務所でバイトまがいのことをしているのを弟者にだけは話しているが、やはり、いい顔はされない。
引き戸に手を伸ばす。
──こつり、背後で硬質の音が鳴った。
窓を叩く音。客だ。
ξ゚听)ξ「あら。どうぞ、開いてるわよ」
ツンが窓へ声をかける。
彼女が招き入れるアクションを起こさない限りは、
おばけが勝手に室内に入ることは出来ないようになっているのだという。
客人と認められたのなら、茶を用意しなければならないだろう。
振り返る。
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667 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 20:43:23 ID:xhuItdG2O
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(*゚ー゚)
( ^ω^)「あれっ」
セーラー服姿の少女。
窓を開けながら、検事、猫田しぃが会釈した。
ξ゚听)ξ「玄関から来ればいいのに」
(*゚ー゚)「中に上がる気はないし、話はすぐに済みますので」
言って、しぃが内藤を見る。
呆れ笑いか嘲笑か、とにかく彼女の口元が嫌味に歪んだ。
(*゚ー゚)「君、ついにこの事務所に出入りするほどになったか。
もう本格的にツンさんの助手だな」
( ^ω^)「期間限定ですお」
(*゚ー゚)「いい加減、その『嫌々やってます』ってふりをやめたらどうだ。
素直にこの出来損ない弁護士の役に立ちたいんですと言えばいい」
( ^ω^)「しぃさんこそナンチャッテ弁護士と喧嘩するのが楽しいと認めてはいかがですかお」
ξ゚听)ξ「お前ら口喧嘩したいのか私を貶めたいのかどっちだ。
……で、しぃ検事、私に何の用?」
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668 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 20:44:21 ID:xhuItdG2O
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しぃは頭を小さく揺らし、何かメモ用紙のようなものを差し出した。
内藤が受け取る。
見知らぬ名前と、簡略化された地図が書いてあった。
紙をツンの机に置く。
(*゚ー゚)「土曜日の昼時にでも、そこへ行ってください。
仕事がありますよ」
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