ξ゚听)ξ幽霊裁判が開廷するようです

case6:道連れ罪、及び故意的犯罪協力の罪/中編

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155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 21:02:37.70 ID:68SsUsgk0
 
( ^ν^)「──被告人、鬱田ドクオは17年前の12月31日に死亡した。
       死因は首吊り。自殺だ」

(;'A`)「……!!」

( ^ω^)(……首吊り自殺……?)

 ニュッが右手のみでデレに指示を出す。
 デレが手元の装置を動かすと、新たな写真がモニターに現れた。

 それは、一通の便箋だった。
 ドクオが愕然としている。一体、何なのだ。

( ^ν^)「これは鬱田ドクオが死亡したときに部屋から見つけられ、母親が大事に保管していた手紙。
       ──遺書とも言う」

(;'A`)「やめろ! ──やめてくれ!!」

 存外に読みやすく整った、細かな字で綴られた手紙。
 ドクオが証言台から飛び出そうとするのを、木槌の音が咎めた。

156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 21:04:41.65 ID:68SsUsgk0
 
( ^ν^)「一行目。『カーチャン、俺にはもう無理だ。先に逃げる。ごめん。』……」

爪;ー;)「……自害とは……。なんて悲しい……虚しいことだ。人間というのは何故こんなにも虚弱なんだ」

( ^ν^)「鬱田ドクオの母親、鬱田カー。
       被害者は17年前まで、ある霊媒詐欺に引っ掛かっていた」

 さらに繰り出された予想外の言葉に、面食らう。

(;^ω^)「さ、詐欺、ですかお」

( ^ν^)「事の始まりは、被害者の夫の過労死。
       葬儀後間もなく、とある霊媒師の女が鬱田家を訪れた。
       そいつは突然『夫は呪いにかけられて死んだのだ』と告げる」

( ^ν^)「霊媒師に言われるまま庭を掘り返してみると、おどろおどろしい人形と札が現れた。
       ──この写真はそれの再現らしい」

 弁護側の証拠品が映されていたモニターの映像が、変わった。
 人の形に切られた赤い紙と、よく分からない文字が書かれた木製の札の写真。
 画質はどこか粗く、少し年代が感じられた。

158 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 21:06:47.62 ID:68SsUsgk0
 

 ──霊媒師は、これが呪いの正体だと言って、目の前で燃やしてみせる。
 「呪詛返しをした。今、この呪具を使用した者のもとに呪いが戻った」という言葉と共に。

 それから間もなくして。
 夫の同僚が突然倒れ、そのまま亡くなった、との一報が入った。

 そのときにはもう、ドクオの母はすっかり霊媒師を信用しきっていた。


ζ(゚、゚*ζ「実はこれ、この霊媒師の常套手段だそうで。
      死人が出た家庭に赴いて、こっそり呪具を埋めて、
      その後、さも霊視をしてみせたように振る舞って掘り起こして……
      で、信用させるっていう」

(;´・_ゝ・`)「17年前に発覚して、被害報告が相次いだ事件ですね……。
        ニューソク市やプラス町を始め、N県各地で起きていたとか。
        グループ犯という噂も聞きましたが」

ζ(゚、゚*ζ「関係者らしい方達も見付けることは出来たんですが、
      それも結局はみんな騙されてて、知らず知らず手伝わされてただけだったんですよ」

爪'ー`)「ああ……犯人が獄中で死亡した、あれか」

 聞き覚えがあった。
 もしかして、昨日の昼、デミタスに聞かされた事件のことではないか。

160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 21:08:29.30 ID:68SsUsgk0
 
ζ(゚、゚*ζ「ちなみに事件発覚時、おばけ課の刑事が各家庭から押収した呪具を
      プロの呪術師の方に見てもらったらしいんですが……」

( ^ν^)「てんでデタラメで効果なんか欠片も期待できない、『呪いもどき』だった。らしい。
       ……が、当時騙されてた奴らにそんな見極めが出来るはずもない。
       あっさり霊媒師に騙された」

 ニュッもデレも、伝聞調だった。
 17年以上前の事件ともなれば──デレは分からないが──ニュッなど、まだ子供だったろうから仕方ない。

ζ(゚、゚*ζ「霊媒師はこう続けます。『夫は仕事で各方面から恨まれていた。呪詛は一つだけではない。
      夫本人だけでなく、一族まるごと祟られている。
      このまま放っておけば、やがてあなたや息子にも不幸が訪れる』と、こんな具合です」

爪;ー;)「愚かだ……愚かだが哀れだ」

 ドクオはすっかり黙り込み、俯いている。
 両手は体の横にだらりと垂れて、拳だけが力強く握り締められていた。

162 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 21:10:38.19 ID:68SsUsgk0
 
ζ(゚、゚*ζ「たちの悪いことに、この霊媒師、霊能力は本当にあったんですよ」

 ──霊媒師はその辺の悪霊を使役し、でっち上げた「呪術者」を祟らせる。
 表向きは呪詛返しだが、実際はストレートな呪いだ。
 そうして相手は、怪我や病気に見舞われ──最悪の場合には命まで奪われた。

 そうすることで、詐欺被害者はますます騙される。

爪;ー;)「霊力があれば霊を操れる、というものでもない……。
     そういった力は天性のものだ。
     使い方を誤り、無関係の者を殺すなど──あまりに重すぎる罪……」

爪;ー;)「……ああ、そうだ、私の神社で面倒を見ている霊も、その事件の関係者だったか。彼も哀れなものだ」

( ^ν^)「や、俺の担当じゃねえから細かくは分かんねえです」

ζ(゚ー゚*ζ「裁判長の仰る通りですよ。
      一体だけ逮捕出来た『悪霊』は裁判長のもとに預けられてるそうです」

 その霊にも、呪いがかけられていたらしい。
 いわく──「詐欺行為に関する情報を話せば消滅する」というような。

 既に事件は解決しているので無意味な呪いなのだが、あまりに根深く、
 それを除去しないことには霊自体の浄化も行えない。
 悪霊とはいえ、そいつも霊媒師に騙され利用されているだけだったので、消滅処分にも出来ない。

 現在、フォックスの吉津根神社にて呪詛の浄化をしているのだが
 なかなか上手くいっていないらしい。

165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 21:12:35.20 ID:68SsUsgk0
 
ζ(゚、゚*ζ「本題に戻りましょう。
      ……ドクオさんのお母さん、どんどん霊媒師に貢いだそうです。
      時には借金までして」


#####


(;'A`)『カーチャン、いい加減やめろよ! 頼むから頭冷やしてくれよ……』

J( 'ー`)し『大丈夫、大丈夫だよドクオ、もうちょっとだから……。
      ここでやめたら、守ってもらえなくなるから……』

(;'A`)『善意で守ってくれる奴が金なんか要求すんのかよ、なあ、カーチャン──』

J( 'ー`)し『お清めの準備は、いっぱいお金がかかるんだって……。
      ……大丈夫、呪いが無くなれば、うちにもお金が入ってくるようになるから』


#####


(; A )「……っ」

166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 21:14:41.72 ID:68SsUsgk0
 
 また映像が切り換わる。
 今度は、日記帳のようだった。同じデザインの分厚いノートが何冊も積まれている。
 表紙に「○年1/1〜12/31」という印字があるので、一冊につき一年分なのだろう。

 ドクオの母親の日記だとデレが説明した。
 母と詐欺師の行いがしっかり書き留められていたそうだ。

( ^ν^)「鬱田家は困窮していった。
       鬱田ドクオがいくら働いて生活費を稼いでも、母親は泣いて縋って、
       息子から金をもらって霊媒師に金を渡す。残った金で母の借金を返しつつ生活するのは難しかったろう」

ζ(゚、゚*ζ「ドクオさん、荒れたらしいですねえ。日記に書いてありましたよ。
      まあ当然ですよね。いくら詐欺だ何だと諭しても、お母さんは聞く耳持ちませんから」


#####


(#'A`)『何で俺の金をあんなやつに渡さなきゃいけねえんだ!!』

J( ;-;)し『どうして分かってくれないの!』

(#'A`)『分かってないのはどっちだよ!
    ……っもう知らねえ、一人でやってろ! 俺は出てくからな!!』


#####

169 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 21:16:44.01 ID:68SsUsgk0
 
( ^ν^)「もう母親を置いて家を出ようとまで考えたし、口にもしたが……
       どうしてもそう出来ない理由があった」

 デミタスは苦虫を噛み潰したような顔で聞いている。
 内藤が傍聴席を見てみると、傍聴人は、呆れた顔をする者とドクオに哀れみの目を向ける者とに分かれていた。
 弟者は、やはり顔を上げたり下げたりしている。

 「理由」とは何か、とフォックスが問う。

( ^ν^)「鬱田ドクオは一度、世話になっている上司から旅行の宿泊券を頂戴した。
       ──丹生素温泉街の旅館のチケットだった。
       それを使って、母親と一緒に旅館に泊まった」

ζ(゚、゚*ζ「温泉に行っているときだけは、お母さん、まともになってくれたんですよね。
      ね、ドクオさん」

( A )「……うるせえ……」

 映像が、ドクオの遺書の写真へと戻る。
 そこには、こんな文があった。

 「旅行は楽しかった。
  カーチャンと普通の話が出来るから。
  これからも、年に一度、温泉に行ってください。その間だけでも、全部忘れてください。」──

171 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 21:18:15.58 ID:68SsUsgk0
 
#####


J(*'ー`)し『こんなところ、昔、あんたがちっちゃい頃に来て以来だよ。
      トーチャンったらお酒飲み過ぎちゃって、次の日二日酔いで……』

('A`)『覚えてる。せっかく美味そうな朝飯出たのに、トーチャン食えなかったんだよな。
    ……カーチャン、明日、近くで丹生素祭あるんだよ。行ってみようぜ』

J(*'ー`)し『ええ? ……そうだねえ。たまには、お祭もいいかもねえ……』


#####


( ^ν^)「普段はどうしようもない母親だが、たまに、昔の母親に戻る。
       だから見捨てられなかった。
       何度も旅行に行けば、やがて、完全に元に戻るんじゃないか……そう考えたんだろう」

ζ(゚、゚*ζ「毎年、ズレたお盆休みの時期に、お母さんと旅行に行っていましたね。
      ……でも、3年目に、もう限界が来た。仕方ありませんね。誰だって疲れます」

173 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 21:20:17.11 ID:68SsUsgk0
#####


 ──大きな仕事が舞い込んだ。
 上手くいけば、他の社員を置いて、出世への近道に踏み込めそうだった。

 しかし、先輩や同期に妨害され、失敗した。

 仕方ない。無理矢理納得した。
 心配事が多すぎて、他人とのコミュニケーションを上手く取ってこれなかったのだ。
 他人からの信頼。そういったものが、あまりに薄すぎた。嫌われていた。

 重大な責任問題に発展した。ドクオが罪を被らされた。事実を訴えても証拠がない。
 とうとう、目をかけてくれていた上司からも愛想を尽かされた。

 クビを匂わせることを言われて。

 今後のビジョンが脳裏を過ぎった。
 全てが無くなる光景しか見えなかった。

176 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 21:22:27.97 ID:68SsUsgk0
 
 なんとか母の借金だけは完済していたが、彼女がこのまま変わらなければ意味がない。
 繰り返されてしまう。
 繰り返されても、もう、当座を凌ぐほどの金も気力もない。

 年の終わりに、母を説得しようとした。
 口論になって──母を叩いてしまって。

 消えろと言われた。



 何かが、切れた。



#####

178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 21:24:32.88 ID:68SsUsgk0
 

 ──17年前、大晦日。
 ドクオは首を吊った。


( ^ν^)「『俺は悪霊や呪いのせいで死ぬんじゃない。
       カーチャンのせいでもない。
       誰かのせいだっていうなら、あの胡散臭い霊媒師のせいだ。
       あいつが来なければ、俺が死ぬわけなかった。』──手紙は以上」

ζ(゚、゚*ζ「……ドクオさんが亡くなった直後、霊媒詐欺が明るみに出ました。
      新聞やテレビで次々と各家庭の被害状況が報道されました。
      その頃のお母さんの日記は、ドクオさんへの懺悔で溢れています」

 せめてあと少し、死なずに待っていれば──
 ニュッのとどめの一言に、ドクオは崩れ落ちた。
 質量のない手で床を殴り、叫ぶ。

(;A;)「……っ、ああああああ!! うう──あああああああああ!!」

 デミタスが席を立ち、証言台の前で蹲るドクオのもとへしゃがみ込んだ。
 見ていられず、内藤は机に目を落とす。
 ドクオの慟哭が法廷内に響き渡っていた。

181 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 21:26:32.97 ID:68SsUsgk0
 
( ^ν^)「母親は心を入れ替えた。自分ひとり食ってくだけなら、パートで事足りる。
       それでもいくつも仕事を掛け持ちして、がむしゃらに働いた。
       年に一度、息子とした温泉旅行にいくのを支えにして」

ζ(゚、゚*ζ「……熱さえ引いてしまえば、こんなに真面目な方だったんです。
      だからドクオさんはどうしても見捨てられなかった」

ζ(゚、゚*ζ「きっと、独り残していってしまったことが気掛かりだったでしょう。
      お母さんは、この17年間、ずっと苦しんでいました。
      毎年温泉旅行に来てはいましたが、あまり楽しそうではなかったと旅館の女将さんが言っています」

( ^ν^)「息子なら、母親がどんな性根の持ち主で、どれだけ引きずるか想像がつくだろう」

ζ(゚、゚*ζ「だから、いっそ、お母さんを楽にしてあげようと思った。──ですね?」

 ドクオの泣き声が治まっていく。
 そして彼は、首を横に振った。デレの言葉を否定した。

184 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 21:28:23.15 ID:68SsUsgk0
 
(;A;)「本当にただ話したかっただけだ! 話して……色々……俺のことを恨んでないかとか、そういう、ことを……」

( ^ν^)「ここまで来て、まだしらを切んのか」

(;A;)「……何だよ、何なんだよ!! 人の傷えぐって──カーチャンのこと貶めて!!
    今度はデマぬかして……いい加減にしろよ! 何がしてえんだお前ら!!」

( ^ν^)「10年近く前、母親がまた借金の返済に追われるようになったのも知ってたんだろ?」

 虚を突かれたように、ドクオが固まった。
 力ない声で、どういうことだと問う。

ζ(゚、゚*ζ「よくある話です。連帯保証人。
      知人に泣きつかれて保証人になって……その知人に逃げられたんです」

( ^ν^)「それで、馬鹿正直に必死こいて返済してたわけだ。……本当に知らねえのか」

186 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 21:30:52.72 ID:68SsUsgk0
 
 痛いほどの静寂が続いた。
 体感では5分以上にも思えた。

 それが、破られる。
 ドクオの笑い声だった。

 壊れたように笑い、壊れたように涙を流している。

(;A;)「何だよ──何だよそれ! まだ懲りてなかったのか! また騙されたのか!!
    俺が死んだの何だったんだよ……なんで……くそっ、……畜生、馬鹿だ、カーチャン、馬鹿だ……」

ζ(゚、゚*ζ「……あなたへの償いもあったんですよ、ドクオさん。
      あなたを傷付けてしまった分──他人を傷付けないようにと、
      頼みは断らないようにと、心掛けていたんです」

(;´・_ゝ・`)「──検察官の主張は分かりました。……どうかその辺にしておいてあげてください。
        ドクオさんには、あまりに辛い話です。
        それに、……私は、それが殺害の動機になるとは思えません」

 フォックスの涙も止まらない。
 彼の手元に、小さな池が出来そうだ。

190 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 21:37:01.46 ID:68SsUsgk0
 
爪;ー;)「……鬱田ドクオの事情は分かった。
     内藤ホライゾンも、この話を聞かされれば協力したくもなるだろう。
     心の優しい子供なら、尚更だ」

 まずい。
 フォックスの中で、ドクオが主犯であることが確定し始めている。

 デミタスが口を開──きかけたところで。
 ニュッが、「そのことですが」と割り込んだ。

( ^ν^)「これも言い忘れていた。内藤ホライゾンの本性について」

 ──ここで出してくるのか。
 内藤は目を伏せ、深く息を吸い込み、溜めて、吐き出した。
 さあ、言い訳の準備を、

( ^ν^)「最近、世間様じゃ取り調べの可視化がどうとか騒がれてるもんで。
       ちょっくら試しに、内藤ホライゾンの取り調べでレコーダーとか使ってみました」

 準備をしようと思ったが、ああ、やばい、これは。ちょっと。参った。

188 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 21:34:45.96 ID:68SsUsgk0
 
 デレが黒いICレコーダーを取り出し、検察席のマイクに近付けた。
 スイッチを入れる。

 ──『お腹すきましたお』
 『もうお昼ですもんねえ。そこのコンビニで何か買ってきましょうか? お代は警察で出しますよ』
 『片手で持てるものが食べたいですお。あと飲み物は冷たい焙じ茶で』
 『警察パシろうとしてんじゃねえぞガキ』
 『言い出したのは向こうですお』

 聞き間違えようもなく、内藤とデレ、ニュッの声だ。
 「早送り」とニュッが指示を出し、デレがレコーダーをいじる。
 一旦音声が途切れ、間もなく再生された。

 ──『で、お前こそどうしてカマ刑事の名前知ってんだ』
 『姉者さんの同級生で、たまたま交流があって。おばけ法のことも彼……彼女……彼から聞きました』
 『鬱田ドクオの話と食い違いがあるな』
 『……。ドクオさんが以前、ヴィップ町の事件で起訴されて、
  その裁判に弁護側の証人……の、付き添いで参加したのが諸々のきっかけでしたお』
 『最初から事実だけ喋ってりゃいいんだよ』

 デレがにっこりと笑んで、レコーダーをしまった。
 デミタスが冷や汗を垂らしながら内藤に振り返る。
 ごめんなさい。手でジェスチャーを送っておく。

191 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 21:39:04.46 ID:68SsUsgk0
 
ζ(゚ー゚*ζ「内藤君は一昨日の夜、病院で目覚めた直後、年相応に怯えたような素振りを見せましたが……
      翌日にはもう、この通りでした」

( ^ν^)「さらに内藤ホライゾンと親しい、
       おばけ法専門弁護士、ヴィップ町の出連ツンに確認の連絡をとったところ──」

( ^ω^)「え?」

( ^ν^)「彼女にとって内藤ホライゾンというのは
       『どちらかといえば功利的、年上の自分にも敬意が見られないが、
       演技が上手いため、日常生活では皆から好かれて平穏に暮らしている。
       一方で、寄ってくる霊を殴って追い返す逞しさもある。』、と」

 ──今。
 聞き流せない名前があったが。

192 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 21:43:43.91 ID:68SsUsgk0
 
(; A )「……っあのアマ、何つー証言してやがる……!!」

( ^ω^)(まあ……事実ではあるお……)

 バラされたものはしょうがない。
 もうちょっと表現の仕方を柔らかくしてくれれば、と思わなくもないけれど。

 ニュッの右手が、内藤を指差した。

(#^ν^)「図太い、厚かましい、暴力的、利己的、嘘つき!
       ──これのどこが『心優しい少年』だ?
       教師と級友の証言は上辺だけを見たものであり、このガキ……少年の本質ではない!」

爪;'ー`)「──なんとまあ」

 傍聴席からブーイングがあがる。もちろん、内藤に対してのものである。
 弟者が呆然と辺りを振り返っていた。

 木槌が打ち鳴らされる。
 静寂は訪れたが、内藤に向けられる多くの視線は敵意を孕んでいる。

 ニュッは右手の書類で顔を隠し、肩を揺らした。
 笑っている。
 少しして、彼は書類を下ろした。

196 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 21:46:08.67 ID:S0CF/fV7O
 
( ^ν^)「話を進めましょうかね。何故、内藤ホライゾンが鬱田ドクオに協力したか。
       ……それもまた、『親』が原因だ」

爪'ー`)「親……そういえばこの少年は、実の親と離れて暮らしていたな」

( ^ν^)「内藤ホライゾンは親から見放された子供である」

 きっぱりと、ニュッはその一言を落とした。
 内藤の頭が、ゆるりと揺さぶられる。

( ^ν^)「生まれついての霊感により、幼少の頃は周りから疎まれ、虐げられてきた。
       親からも信用してもらえず……ついには部屋に閉じ篭るようになった」

ζ(゚、゚*ζ「そして手を焼いたご両親は、わざわざ遠縁の親戚──流石家へ、息子を押しつけたんです」

 これは、内藤自身が取り調べのときに話したことだ。
 けれど。こんな言い方はしていない。見捨てられたなどとは。

 違う。両親は内藤を捨てたのではない。
 ただ少し、少しだけ、折り合いがつかなくて。苛めっ子から遠ざける必要があって。
 だから離れただけで。決して、自分は、決して、親に、

 嫌われた、わけでは。なくて。

197 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 21:48:16.45 ID:S0CF/fV7O
 
( ^ν^)「親からの仕送りはあるものの、会うのは稀で、連絡も頻繁には来ない。
       こうなりゃ、誰だって『見捨てられた』と感じるだろう」

ζ(゚、゚*ζ「見捨てたドクオさん、見捨てられた内藤君……
      内藤君は、ドクオさんの話を聞き、思うところがあった筈です」

( ^ν^)「『自分を蔑ろにした親への仕返し』──鬱田ドクオの目的とは全く違うが、
       それに協力することで、内藤ホライゾンは自身の親へ対する不満を間接的に解消しようとした」

(;´・_ゝ・`)「かっ……勝手な憶測だ! 無闇に彼らを傷付ける発言はやめてくれ!」

( ^ν^)「じゃあ本人に確認をとろう。
       内藤ホライゾン。親に対して、そういった不満はなかったか?」

 怒りたかった。
 内藤と両親のことを勝手に決めつけられたことに、怒りたかった。

 怒りの表情は、
 ──どうしたら、良かったのだったか。

 演技としてなら、浮かべられる。
 でもそれが、いま通用するのか。
 もし下手に顔を作って、それがバレたら、もう誰も内藤のことを信用しない。

 そしたら裁判が終わる。
 すぐに判決が出る。
 内藤もドクオも、有罪になってしまう。

199 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 21:50:15.29 ID:S0CF/fV7O
 
 ずいぶん長いこと考え込んでいたようだった。
 ホライゾン君、と急かすデミタスの声と、ニュッの書類を置く音が同時に耳へ入ってきた。

( ^ν^)「……何も俺は、彼を一方的に非難したいんじゃない。
       14という年齢なら、もっと親に甘えたいし、その存在自体を必要とする筈だ。
       なのに親から嫌われたら? すぐ傍で友人の家族仲の良さを見せつけられたら?
       ──歪んだ願望が顔を出してもおかしくない」

 何でもいいから言わなくては。
 内藤の焦りと反対に、口が動かない。

 そこへ、怒鳴り声が響いた。
 傍聴席からだった。

(´<_`#)「ブーンの両親はブーンを見捨てたんじゃない!!
       ブーンのために、仕方なくうちに預けたんだ!!」

 弟者だ。
 まだ恐怖に慣れきっていないのか言葉尻が情けなく震えていたが、
 内藤が言いたいことも、怒りも、代弁してくれた。

 木槌が鳴る。弟者は怯みつつも、フォックスを睨みつけた。

202 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 21:52:29.85 ID:S0CF/fV7O
 
爪;ー;)「傍聴人……友として素晴らしい行為だ。だが、お前の証言は求めていない。
     次にまた勝手な発言をしたら、退廷させるぞ」

(´<_`#)「外野のブーイングは散々やらせといて──」

( ^ω^)「弟者! ……いいお、大丈夫だお」

 何が「大丈夫」なのか、自分でも分からなくて、勝手に口元が笑った。
 常に笑っているような顔なので、大して変化はなかっただろうけれど。

 ニュッが興味深げに弟者を眺め、木槌を振り上げたフォックスを制止した。

( ^ν^)「いや、……少しばかり、証言してもらいましょうか。
       そこで一言答えてくれればいい」

(´<_`#)「証言?」

( ^ν^)「流石弟者だっけか。内藤ホライゾンの親戚であり友人の。
       お前から見て、内藤ホライゾンの両親はどんな人間だった?」

(´<_`;)「……っ」

 途端、弟者は複雑な表情を浮かべた。
 内藤と弟者は、幼い頃から交流がある。
 彼は内藤の親もよく知っている。

203 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 21:54:40.93 ID:S0CF/fV7O
 
( ^ω^)「正直に答えてくれていいお、弟者」

(´<_`;)「……。……ま、真面目で……ちょっと堅い人達で」

( ^ν^)「幽霊、妖怪、おばけ。そういうのを信じるタイプだったか?」

( <_ ;)「……いいえ……」

 弟者が力なく腰を落とす。
 彼が言うことは事実である。
 だから、仕方のないことなのだ。そう。仕方のない。

爪;ー;)「……鬱田ドクオ、内藤ホライゾン……どちらにも深く重たい動機があった……。
     これだから人間というものは、その存在に不相応に複雑なんだ。
     ──情状酌量の余地は充分にあるな」

 フォックスがうんうん頷きながら呟く。
 情状酌量。実際に犯行に及んだ者からしたら、救いのある響きであろう。
 だが身に覚えのないことで起訴されて、身に覚えのないことで酌量されても困る。

 内藤はデミタスを見た。
 デミタスが異議を唱えようとする、と同時。またニュッに邪魔された。

205 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 21:56:17.46 ID:S0CF/fV7O
 
( ^ν^)「最後にこれだけ。
       ……被害者の日記は、つい先日まで続けられていた」

爪;ー;)「うん? まだ何かあるのか?」

( ^ν^)「今回の旅行にも日記帳を持参している。本人の旅行鞄から発見された。
       ──照屋」

ζ(゚ー゚*ζ「はい! ──『2月15日、火曜日。
      知人の紹介により、弁護士さんを紹介された。
      腕利きの弁護士さんとのこと。期待のしすぎは良くないと思いつつ会わせてもらう。』……」

 未だドクオの傍にいたデミタスが、一気に青ざめた。
 下がってもいない眼鏡のブリッジを押し上げる。

206 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 21:58:37.21 ID:S0CF/fV7O
 
ζ(゚ー゚*ζ「『とても優しく、親しみを覚える方で、まるで懺悔するかのように全て話してしまった。
      先生は大変でしたねと私を慰め、改めて相談に乗ってくれた。
      すると、借金返済において過払いがある可能性が高いとの返事。』」

ζ(゚ー゚*ζ「『時間はかかるが、調査の結果次第で返還請求が出来るかもしれないらしい。
      家に帰り、仏壇に報告。もしお金が戻ってくるのなら、ドクオへの贖罪となる使い方を考えなければ。』」

ζ(゚ー゚*ζ「『もっと早く盛岡先生に相談していたら……。』──とのことです」

 ──盛岡。

 内藤とドクオの目は、同時にデミタスへと向けられた。
 デミタスは辛そうに顔を歪め、頭を下げる。
 よくは分からないのだが、嫌な空気が流れた。

(;´ _ゝ `)「……申し訳ありません、ドクオさん。
        私は、仕事の中でお母様のことを知っていました」

(;'A`)「あ……ああ?」

 なぜ今まで黙っていたのだろう。
 黙っていることで、何かメリットはあったのだろうか?

 ドクオも、戸惑った顔でデミタスを見遣っている。

208 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 22:00:09.34 ID:S0CF/fV7O
 
(;'A`)「……日記の内容からしたら、あんたはカーチャンを助けてくれたんだろう。
    何を謝ってんだよ」

( ^ν^)「助けていたからこそ、だ」

(;'A`)「はあ?」

ζ(゚ー゚*ζ「この日以降、多少ではありますが、日記には前向きな表現が増えていきました。
      借金に関しても解決の方向で話が進んでいたようです。
      というか、もう解決間近だったんですね」

( ^ν^)「つまり、被害者には、身に迫る悩みはもうほとんど無くなっていた。
       金の悩みが解消されるってのは、人間には多大な影響を与える」

ζ(゚ー゚*ζ「借金が無くなれば、息子さんや……逃げた知人のこともゆっくり考えることが出来るし……
      そうすることで、胸の中の凝りも幾分か楽になることでしょう」

209 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 22:02:11.64 ID:S0CF/fV7O
 
( ^ν^)「ならば、『生きる意欲』が、これ以前よりはずっと高まっていた筈」

爪;ー;)「……おお……!」

( ^ν^)「このことを知っていたからこそ、弁護人は黙っていた」

(;´‐_ゝ‐`)「……本当に、申し訳ありません……」

ζ(゚ー゚*ζ「いいんですよ盛岡先生、あなたは弁護士です。
      弁護には、『黙っている』ことも大事なことですもんね」

 頭が回らない。
 だから何だというのだろう。
 早く説明が欲しくて、内藤はニュッやデレ、デミタスへと忙しなく目線を動かした。

212 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 22:04:57.52 ID:S0CF/fV7O
 
( ^ν^)「生きるための希望があったんだ。
       ……これからやっと本格的に明るくなるはずだった被害者の人生を、未来を、
       被告人は不当に──身勝手に奪ったことになる」

( ^ν^)「加害者の心情より、被害者の心情こそを重んじるべきで──
       情状酌量なんて生温いこと言っちゃいけねえんですよ、裁判長」

 ニュッの声は、とても冷たく、そして楽しげだった。

 考える。理解する。
 内藤達はこの瞬間、さらに突き落とされたのだ。

 自分が今、どんな顔をしているか。想像もつかない。

爪;ー;)「……検察官、弁護人、被告人。まだ何か言うことはあるか?」

 ぐすぐすと鼻を啜りながらフォックスが問う。
 デミタスもニュッも、口を閉ざしていた。

 冷たい沈黙が数秒。
 そうして木槌は鳴らされた。

213 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 22:08:20.04 ID:S0CF/fV7O
 
爪;ー;)「それでは、本日の審理はこれで終了としよう。
     現時点での次回公判予定は29日、午後10時にまたこの法廷で。
     証人尋問から始めるので、各自、然るべき用意をしておくように」

 くるり。回転した木槌は、煙管へ戻る。
 それを燻らせながら、フォックスは来たときと同様、ゆっくりと法廷を出ていった。

 傍聴席が今まで以上に騒がしくなり、おばけ達も法廷を後にする。



 ──「きっとチャンスはもう、明後日の審理一度きりだ」。

 ドクオと共に席に戻ってきたデミタスは、小さな声でそう告げた。

 

216 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 22:10:07.49 ID:S0CF/fV7O
 

 現実逃避かもしれない。
 目の前の事態から少し、意識を逸らしたかったのかもしれない。
 ともかく急に、気になった。


 殺されたというドクオの母──被害者の霊魂は、どこに行ったのだろう?



case6:続く

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