ξ゚听)ξ幽霊裁判が開廷するようです

case6:道連れ罪、及び故意的犯罪協力の罪/中編

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57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:28:15.68 ID:S0CF/fV7O
 

(´<_`;)「ブーン! どこ行ってたんだ!」

 夕方。
 旅館の前に立っていた弟者が、内藤を見付けるなり駆け寄ってきた。

(´<_`;)「昨日は夜中に帰ってきたと思ったらいきなり寝るし、
       今朝起きたときにはもう居ないし……何かあったのか?」

( ^ω^)「……えっと」

ζ(゚ー゚*ζ「流石弟者君ですね」

(´<_`*;)「えっ、あっ? あっ」

 内藤の後ろから、デレが声をかける。
 弟者は一瞬怪訝な顔をし、祭会場で会った女性だと気付いたのか、すぐに頬を染めた。

ζ(゚ー゚*ζ「内藤君を待ってたんですか? お優しいですね」

(´<_`*;)「いや、そんな。そろそろ帰るってメールが来たから。昨日から何か様子変だったし。だから」

 デレが弟者の耳に顔を近付ける。
 弟者は体を硬直させ、頬だけでなく耳や首まで真っ赤にさせた。

 その様子にくすりと笑い、彼女は、吐息を吹き込むように囁いた。

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:30:05.06 ID:S0CF/fV7O
ζ(゚ー゚*ζ「──内藤君は幽霊裁判にかけられることになりました。
      ……彼の親御さん達にありのままを説明するわけにもいきませんので、
      もしものときは、あなたの方から誤魔化してあげてくださいね」

(´<_`;)「──は……?」

 さっと青ざめる。
 弟者はデレから距離をとると、内藤の後ろに回った。もはや定位置。

( ^ω^)「……刑事さんなんだお、この人。ギコさんと同じ」

ζ(゚、゚*ζ「昨夜の殺人事件ご存知ですか? お祭会場の近くの」

(´<_`;)「あ──ああ、はい。おかげで今夜の祭が中止だそうで」

ζ(゚、゚*ζ「その裁判です。内藤君が関与しているようなので」

(´<_`;)「関与って、ただの証人とかじゃなくて?」

ζ(゚、゚*ζ「まあ被告人ですね」

 絶句する弟者。
 長考し、たっぷり沈黙して──ようやく彼が口にした問いは、予想外のものだった。


(´<_`;)「……傍聴って、出来ますか」



*****

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:32:23.09 ID:S0CF/fV7O
 

 内藤とドクオが逮捕されたのだと、幼馴染みのオカマは電話口で言った。
 冗談かと思ったが、どうも、そういうわけでもないらしい。

『──どうすんの、あんた』

ξ゚听)ξ「どうって……」

『弁護』

ξ゚听)ξ「ああ、まあ……今に本人が泣きついてくるでしょ」

ξ゚ω゚)ξ「『美しくセクシャルボディなツンさん! 哀れな僕を助けてくださいお! おーんおーん!』」

『えっ何それ物真似なの……? 割とびっくりするくらい声似てるんだけど……』

 自慢の金色の癖毛を指先で弄びながら、ゆったりとソファに身を預ける。
 あの生意気な少年が電話越しに頭を下げるまで、あと何分だろうか。
 楽しみだ。ギコとの電話などさっさと切ってしまおう。

 そのとき、オカマの悩ましげな溜め息が聞こえた。

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:34:44.73 ID:S0CF/fV7O
 
『……まあ、向こうで優秀な弁護士がついたから、良かったわよね』

ξ゚听)ξ

『無罪になるといいわね』

ξ゚听)ξ「あの浮気者ニヤケ野郎……」

『え?』

ξ゚听)ξ「そこは私に依頼して絆深める流れじゃねえの……?
      え? 私に頼らないわけ? 私の重大な秘密を共有してるくせに?」

『重大な秘密って何?』

ξ゚听)ξ「あのガキめ……。
      ……アサピーの依頼料っていくらだっけ?」

『何のプライド傷付けられたのか知らないけどすぐ呪おうとすんのやめなさいよ』



*****

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:36:47.43 ID:S0CF/fV7O
 
 ──翌日、8月27日。午後10時。

 N地方裁判所、202号法廷。
 ここが今回の舞台であった。

 まさか、こんな「ちゃんとした」場所でやるとは思わなかった。

(´・_ゝ・`)「昼は普通に人間の裁判に使われ、
        夜は幽霊裁判に使われているんだ。もちろん秘密裏にね」

 弁護側の席できょろきょろする内藤とドクオに、
 黒い背広のボタンを留め直しながらデミタスが説明する。

 普段着でいいと言われたので内藤はTシャツにチノパンなのだが、
 もう少しちゃんとした服装にすれば良かったかもしれない。

( ^ω^)「僕、初めて裁判所に入りましたお……。
       ヴィップだとそこら辺の廃墟でしかやってませんでしたお」

(´・_ゝ・`)「それはそれで楽だからね。
        その日の気分で変えられるし、ヴィップ町の神様には性が合ってるんだろう」

('A`)「オサム様、かっちりしてるの嫌いそうだもんな」

 ドクオの口調はいつもと変わりなさそうだったが、
 表情は硬く、視線も落ち着いていない。
 自分はどうだろうか。内藤は頬を指先で軽く揉んだ。

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:38:31.52 ID:S0CF/fV7O
 しかしまあ、こっちの方が、いかにも裁判らしい(当たり前だが)。

 テレビドラマで見るような、しっかりした造りの弁護人席、検察席、証言台。
 注目すべきは傍聴席だ。

「おいマジで子供だぞ親殺し!」「殺しやったのはおっさんの方だろ?」
「頑張れ弁護士ー」「犯罪者の味方すんな!」
「地獄に落ちろ性悪検事!」「デレちゃんおっぱい揉ませてー」

 満員御礼。
 欠損した血まみれ幽霊や、人より獣に近い化け物など、
 たくさんの傍聴人がスポーツ観戦でもしているかのように野次を飛ばしている。


::( <_ ;):: タスケテ シヌ コワイ タスケテ シヌ コワイ タスケテ

 その中で1人震えている弟者が、とても哀れだった。


('A`)「気絶して退廷させられかねないな、あれ……」

( ^ω^)「ですおね……」

(´・_ゝ・`)「?」

 それにしても賑やかな傍聴人たちだ。
 彼らにとっては、それこそスポーツ観戦のような娯楽じみたものなのだろう。

 賑やかといえば、「しもべ」──エクストとダイオードがいない。
 デミタスが気にしていないようなので、何か理由があるのだろう。

69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:40:16.56 ID:S0CF/fV7O
 
( ^ν^)「毎回毎回うるせえ……うぜえ」

ζ(゚ー゚*ζ「楽しいから好きですよ、この雰囲気」

 検察席では鵜束ニュッと照屋デレが正反対の感想を言い合っている。
 服装は昨日と変わりない。ニュッはグレーのワイシャツにループタイ、デレはブラウスにスカーフ。

 そこへ、扉の開く音がした。

爪'ー`)y−┛

 白い和服姿の者が1人、入ってきた。
 狩衣と言ったか。歴史の教科書で見た服に似ている。

 左手に持った煙管を悠然と吹かしながら、そいつは裁判官の席に座った。

 ──どこからどう見ても、子供だ。

 小学5、6年がいいところ。
 座高の問題か、肩から下は机に隠れてしまっている。
 少年とも少女ともとれる顔付きで、性別がはっきりしない。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:42:21.98 ID:S0CF/fV7O
 
( ^ω^)「……まさか……」

(´・_ゝ・`)「あちらが裁判長。ここら一帯では最も力のある神様だよ。
        ニューソクには裁判官をやってる神様が3人……3柱ほどいるけど、今回はあの方だけみたいだ」

(;'A`)「ガキじゃねえか」

(;´・_ゝ・`)「ドクオさん、口を慎んで……幼いのは外見だけですから」

 開廷はまだかと傍聴席がざわついている。
 「裁判長」が煙管をくるりと回すと、それは木槌へ変わった。机──より数センチ上の空間を二度叩く。
 オサムのものに似ているが、デザインが微妙に違う。

 法廷が静まり返り、「裁判長」はうんうんと頷いた。

爪'ー`)「──今回の裁判官を務めさせていただく、吉津根神社のフォックスだ」

 声も中性的である。
 また、子供らしいとも、大人っぽいとも言えない声で。全てがあやふや。

 フォックスというらしい神様は法廷内を見回し、内藤逹を視界に収めると、固まった。

 そして。

爪;ー;)

( ^ω^)「え」

 泣いた。

73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:44:18.46 ID:S0CF/fV7O
 
爪;ー;)「齢14の身でありながら、こんな場所へ……。
     恐ろしいだろう、心細いだろう。
     しかし逃げずに出廷した勇気、何て素晴らしいんだ……人間ごときのくせに」

爪;ー;)「ああっ、すまない! 人間でもこんなに懸命に生きているのかと思うと涙が……」

('A`)「情緒不安定じゃねえか」

(;´・_ゝ・`)「やめてくださいドクオさんあのひと神様なんです」

爪;ー;)「矮小な人間のちっぽけな人生においても、罪は罪。卑小な浮遊霊でも悪は悪。
     罪悪は償うべきであり、また、これが誤解であるなら解くべきである」

爪;ー;)「今回は弁護人たっての希望で、2人分の審理を同時に行う。
     それでは、鬱田ドクオと内藤ホライゾンの裁判を始めよう」

(;'A`)「……何かすっげえ偉そうだぞ」

(;´・_ゝ・`)「ドクオさん! フォックス様は感傷的すぎて一歩間違うと祟り神になりかねない方なんです、
        言葉には気を付けてください!」

( ^ω^)「何でそんな爆弾抱えた人を裁判官に……」

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:46:06.36 ID:S0CF/fV7O
 
 フォックスが涙を拭う。デミタスが汗を拭う。
 繊細な神の目が、デミタスの隣に座っている内藤逹を見据えた。
 指示を受け、2人は証言台へと立つ。内藤だけ、俯いた。

爪'ー`)「霊の方から先に、自分の名前と生年月日、享年、死因を」

('A`)「……鬱田ドクオ。1967年、昭和42年11月27日に生まれました。
    死んだのは28歳で平成7年の12月31日」

 死んでから17年近くが経過している。
 彼は17年もの間、この世を彷徨っていたのだ。
 人に言えぬような記憶と未練を抱えて。

('A`)「死因は、……」

 そこから無言が続いた。
 被告人、とフォックスが続きを促す。

( A )「……覚えてません」

( ^ν^)「ダウト」

 ニュッが、さも楽しそうに呟く。
 フォックスはそれ以上は訊かなかった。

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:48:16.40 ID:S0CF/fV7O
 
爪'ー`)「それでは次は人間の。名前と生年月日、年齢と本籍地、住所、それから職業」

 来た。
 俯いたまま深呼吸を一つ。

 内藤は昼間、デミタスに言われたことを思い出しながら、顔を上げた。

(;^ω^)「……な、内藤ホライゾン、ですお……。
       へ、平成10年の4月18日に生まれて、今14歳で、中学2年生で……」



   (´・_ゝ・`)『──「子供らしく」することが大事だ。
           悪い印象を与えてはいけない』



 「か弱く、いじらしく」。
 そうするように、デミタスは言っていた。

79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:50:34.47 ID:S0CF/fV7O
 
   (´・_ゝ・`)『嫌なら、素のままでもいいけど。
           ただ、君は、歳の割に小賢しいところがあるようだから、
           そういった点から悪い印象を抱かれるかもしれない』

   ( ^ω^)『法廷で嘘つくんですかお』

   (´・_ゝ・`)『嘘をつくんじゃなくて、態度を柔らかくするだけだ。これも作戦の内だよ。
           このまえ私に見せたような、「殊勝な少年」らしくしているのが一番いいと思う』

   (´・_ゝ・`)『再三言うけれど、やりたくなければいいんだ。
           君にも負担はあるだろうし』


 被告人の態度が重要なのだと彼は言う。
 心証が悪ければ信用もされにくい。
 無実を訴えたいなら、それに見合った振る舞いをするべきだと。

 内藤の得意分野ではあった。
 全てを曝け出せばみんな分かってくれる、なんて甘いものではないことも、分かっている。

81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:52:07.07 ID:S0CF/fV7O
 
 ──おどおどしながら、実家の住所と、流石家の住所を順に告げる。
 本籍地と現住所が離れていることをフォックスに突っ込まれた。

(;^ω^)「今は、諸事情で親戚の家に居候してるんですお……」

爪;ー;)「──おお! その歳で親と離れて暮らさねばならないとは……寂しいだろう。
     それとも両親の方が、子供を育てるに値しない者たちだったのか……」

 かちんと来たが、表には出さず、「まともな方達ですお」とだけ返す。
 フォックスは目元を袖で擦りながら頷いていたが、果たしてちゃんと理解したのか否か。

 ドクオが肘で内藤をつつき、小声で囁いてきた。

(;'A`)「少年、そのキャラでいくのか」

( ^ω^)「戦法ですお」

爪ぅー`)「鬱田ドクオ、内藤ホライゾン」

(;'A`)「──はい」

(;^ω^)「あ……はっ、はいっ」

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:54:15.55 ID:S0CF/fV7O
 
爪'ー`)「そう怯えるな。さて、お前達は道連れの罪、そしてその共犯で起訴されている。
     これから検事の話をよく聞くように。
     それでは席に戻って。──検事、起訴状の朗読を」

 ニュッが書類を片手に立ち上がる。
 彼の目は、デミタスの隣へ戻る内藤を見ていた。
 演技には気付いている筈だが、まだ何も言ってこない。

 検察側から内藤の性格を指摘されることだけが気掛かりである。
 まあ、そうされたところで、「監視官」がいないこの法廷では
 その気になればいくらでも言い訳できる。

( ^ν^)「──公訴事実」

 まずは鬱田ドクオの方、と前置き。

( ^ν^)「今年、平成24年8月25の午後8時すぎ。被告人は内藤ホライゾンに合意のもと憑依し、
       N県ニューソク市、丹生素にて被害者……自身の母でもある鬱田カーに、
       薬物を混入したジュースを飲ませて毒殺したものである」

84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:56:21.58 ID:S0CF/fV7O
 
( ^ν^)「被害者は毎年、祭の時期になると丹生素温泉街へ観光に来ていた。
       当然被告人はそれを知っており、計画を立てることは容易である──」

 ドクオが眉根を寄せる。
 母が殺され、自分が疑われているのだ。その上、毒殺ときた。
 内藤には思いも及ばぬ気持ちを、持て余しているに違いない。

 いくらか、間があいた。
 書類をめくり、2ページ目に移る。

( ^ν^)「続いて、今度は内藤ホライゾンの方の公訴事実。
       つっても、さっきとほとんど変わんねえんですけども」

( ^ν^)「同日、鬱田ドクオから殺害計画を聞かされた上で
       憑依の申し出を受け、同人に自身の体を貸し……
       計画に協力した。と」

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:58:21.05 ID:S0CF/fV7O
 
( ^ν^)「──罪名、及び罰条。
       道連れの罪、おばけ法第162条第1項及び第2項。
       故意的犯罪協力の罪、第231条」

 ドクオの罪状が道連れ。
 道連れ罪には項目が二つあり、一つは「復讐などとはまた違う、特殊な理由で生者を殺害する」もので、
 もう一つは「自己の利益のために、他者に犯罪行為の協力を要請する」もの。
 前者が母親殺し、後者が内藤への憑依の依頼に当たるとして、両方を起訴されている。

 内藤の方は故意的犯罪協力──要するに、犯行の計画を知った上で協力した罪、らしい。
 昼にデミタスから教えてもらった。

 勿論どちらも覚えはない。
 これはあくまで起訴状なので、文句をつけるのは後だ。

89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 20:00:08.21 ID:S0CF/fV7O
 
( ^ν^)「以上っす」

爪;ー;)「うむ。──被告人。
     以上のことを踏まえて訊くが、検察の公訴事実を認めるか?」

('A`)「いいえ」

(;^ω^)「み、認めませんお」

 ニュッが、くつくつ笑っている。
 いちいち癇に障る男だ。しぃも嫌味ではあるが、彼女の方がまだマシである。

('A`)「……カーチャンを殺す動機がねえ。
    たとえあったとしても──内藤少年を巻き込んだりしねえ」

(;^ω^)「僕、ドクオさんから憑依したい理由を聞いてませんお……。
       ドクオさんがそんなことを考えてるようにも見えなかったし……だから体を貸したんですお」

90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 20:02:38.51 ID:S0CF/fV7O
 
爪;ー;)「弁護人、意見は」

(´・_ゝ・`)「被告人と同様です。私からは、被告人の無罪を主張させていただきます。
        本件の争点は、被害者を殺害したのが被告人であるか否か、になるかと」

爪ぅー;)「まあ、たしかに子供の方は、そう大それたことをしそうにないな……」

 ああ、見事に騙されている。
 それでいいのか神様。

 正面から向けられる検事の生温い視線が何となく嫌で、内藤は顔を逸らし、傍聴席を見据えた。
 弟者が俯いている。すわ気絶したかと危惧したが
 びくびくしながら顔を上げたため、ほっと胸を撫で下ろした。

 しかしまたすぐに俯いてしまう。
 ──何かしている?
 審理が進行し、内藤は弟者の観察をやめた。

爪'ー`)「次は検察側の冒頭陳述を」

 冒頭陳述。
 簡単に言えば、犯行時に起こっていたであろう「事実」の説明。
 まずは説明だけをして、後で、裏づけとなる証拠を出していく。これもまたデミタスに教えてもらった。

 ヴィップ町では起訴状朗読以降は、これといった段階も無しに審理が進められていた。
 というより、起訴状の中に冒頭陳述が含まれるようなやり方だったのだろう。
 場所が違うだけで、こうも進め方が変わるものなのか──ちょっとしたカルチャーショックだ。

 再びニュッの出番。デレも腰を上げている。

92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 20:04:15.46 ID:S0CF/fV7O
 
( ^ν^)「えー……まず、鬱田ドクオ。
       N県プラス町の出身であるが、死後はA県ヴィップ町へ移っていた。
       そこで内藤ホライゾンとの交流を持つ」

ζ(゚ー゚*ζ「そして先日、内藤君がニューソク市へ行くことを知り、
      8月24日、内藤君と共に丹生素温泉街の旅館『ろまん』を訪れました」

 それからニュッは、ドクオが温泉街を徘徊している最中に、
 母親を発見したことを続けた。

( ^ν^)「かねてより、老いて一人きりの母の苦労を偲んでいた鬱田ドクオは
       『楽にしてやりたい』という思いから、殺害を決意。
       内藤ホライゾンに計画を話し、共感を得る」

 もし本当に、その殺害計画とやらを聞かされたとしても──
 内藤は協力などしない。したくない。

 結局のところ、実行に移すのは内藤の「体」ではないか。
 そんなの、自分の手を汚すだけだ。

95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 20:06:17.00 ID:S0CF/fV7O
 
( ^ν^)「それから内藤ホライゾンについても説明を」

 内藤がA県の流石家に居候していることから始まって、
 母者が旅館「ろまん」の従業員であり、その母者に呼ばれて内藤達が旅館に来たのだと
 事の成り行きが一通り説明されていく。

 フォックスがまた泣いている。
 内藤だけでなく、流石家の面々にも勝手な同情をしているのだろう。

 内藤に並外れた霊感があって、それによりドクオと顔見知りだったことや
 幽霊裁判とも関係が深いことが情報に加わる。

( ^ν^)「以上の経験から、内藤ホライゾンは憑依の契約手順を知っていた」

( ^ν^)「……そして翌日の8月25日、土曜日。午後8時過ぎ。
       前もって決めていた時間に、内藤ホライゾンは旅館『ろまん』を後にした」

ζ(゚ー゚*ζ「正確には一度外から戻ってきて、すぐにまた旅館を出たとのことです。
      その際に帳場で朱肉を借りたそうなので、このときに契約書を作成したものと思われます」

 こちらを向くフォックスに、内藤は視線を合わさずに頷いた。
 たしかに朱肉は借りた。

98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 20:08:17.97 ID:S0CF/fV7O
 
( ^ν^)「諸々の準備を済ませ、鬱田ドクオは内藤ホライゾンに憑依し、被害者に接触」

ζ(゚ー゚*ζ「午後9時前後、被害者が宿泊している旅館『れすと』の女将が、
      被害者の部屋の前で女性の声を聞いています。
      いわく、『本当にあなたがドクオなの!』──と」

 あまりに大きく、仰天したような声だったので
 女将もはっきり覚えていたのだそうだ。

 このことから、内藤に憑依したドクオが母の部屋を訪れていた筈だというのが検察の主張。
 ドクオ本人は、そんな覚えはないと呟いているが。

( ^ν^)「そうして被害者を、当日開かれていた丹生素祭の会場へ連れ出した。
       会場は人が多いが、路地の方へ入ってしまえば人気はなくなる。
       そこへ誘い込み、あらかじめ用意していた薬物を飲ませて殺害」

 ──被害者が事切れた頃、霊に体を貸した上に無茶をさせられた内藤の肉体は限界に達し、
 ドクオもろとも失神したのだとニュッが続ける。

100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 20:10:12.17 ID:S0CF/fV7O
 
( ^ν^)「祭の終了時間が迫った頃、屋台の片付けをしていた男が、路地で倒れる被告人と被害者を発見する。
       午後9時56分、通報を受けてN県警の警官──と自分が、被害者の遺体と、
       その傍で気絶している内藤ホライゾンを確認した」

ζ(゚ー゚*ζ「あっ、警官は私です! ニュッさんと一緒にお祭に行ってましたので」

( ^ν^)「余計なこと言うなよ照屋」

「いっぱしにデートしてんじゃねえぞ!」
 野次──よりは冷やかしに近いか──が傍聴席から飛ばされると、一斉にブーイングが起こった。
 しかしニュッとデレが同時に睨みつけたことにより、これまた一斉に沈黙する。

(´<_`;) エ? デート? デート? カレシイタノ?

 弟者が別の方向で狼狽えているが、そんなことはひとまずどうでもいい。
 ニュッが舌打ち。苛立ち混じりに再開させる。

( ^ν^)「……起こしてみると鬱田ドクオが憑依したままであったため、まず同人を引き離した。
       事情を訊いていた最中に逃げ出そうとしたため、逮捕」

102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 20:12:15.66 ID:S0CF/fV7O
 
( ^ν^)「その後ニューソク病院で目を覚ました内藤ホライゾンが、
       憑依の契約書は自分で書いたものだと証言したため、当人も逮捕、起訴した」

爪;ー;)「……なぜ逃げようとした?」

(;'A`)「カーチャンが死んでて、すぐ傍に俺らがいて警察が目の前にいたら、
    頭が真っ白になって、嫌な予感がして堪んなくなって……──恐くなったんです」

( ^ν^)「どうだか」

(#'A`)「……あ?」

爪;ー;)「ふむ……」

ζ(゚ー゚*ζ「以上が簡単な経緯ですね。次に、犯行の計画性について──」


<_フ*゚ー゚)フ「デミタス様ー!!」

/*゚、。 /「持ってきましたー!!」


 ──突然、丸っこいのと平べったいのが法廷に飛び込んできた。
 デレが目を丸くしている。
 ついでに弟者が全身で跳ね上がっているのも、内藤は横目で見ていた。彼の心臓には悪すぎるだろう。

103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 20:14:25.41 ID:S0CF/fV7O
 
<_フ*゚ー゚)フ「やりました! 褒めてー」

/*゚、。 /「褒めてー」

(;´・_ゝ・`)「しーっ!」

爪;ー;)「何だ、弁護人のいつもの助手達か……どうした?」

(;´・_ゝ・`)「すみません、必要な証言があって、それを調達してもらってまして……
        2人共ありがとう、外で休んでおいで」

 ダイオードから紙を数枚受け取って、デミタスが彼らの頭を撫でる。
 傍聴したいと騒いでいたが、うるさくするから駄目だと叱られ、しょんぼりしながら退廷していった。
 まるで子供のようだ。

 デミタスがフォックス達に謝罪する。
 いいんですよ盛岡先生は見てて楽しいですからげへへ。だらしなく笑って言うデレの尻をファイルでぶっ叩き、
 ニュッは咳払いしてから話を進めた。

( ^ν^)「丹生素温泉街近くでは、毎年恒例の祭がある。丹生素祭。温泉街の地神を祀るもの。
       N県の者なら誰でも知っているし、全国でもそれなりに知られている祭だ」

ζ(゚ー゚;ζ「尻いてえ……あ、えっと、お祭の時期には観光客がどっと増えます。
      被害者も、毎年この時期になると丹生素温泉街の旅館に宿泊していくそうです。
      温泉街の饅頭売りやお土産屋さんの証言もあります」

104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 20:16:09.26 ID:S0CF/fV7O
 
( ^ν^)「20年ものあいだ欠かしておらず──被告人、鬱田ドクオが死亡したのは17年前。
       死亡までの3年、鬱田ドクオも被害者と連れ立って旅行に来ていたとか」

ζ(゚ー゚*ζ「ですので、被害者が祭の時期に丹生素へ赴くことを、被告人は知っていたわけです」

 交互に話す2人の息は、なかなか合っている。
 取調室での貶し合いはどこへやら。

( ^ν^)「故に鬱田ドクオは、内藤ホライゾンが丹生素へ行くのを知り、利用することにした。
       犯行には計画性が窺える」

( ^ν^)「──以上が、立証予定の事実です」

 書類を手放し、ニュッが乱暴に座る。
 デレもゆっくりと腰を下ろした。

爪ぅー;)「賑やかな祭の裏で、想像するだに恐ろしいことが起きていたのだな……。
     では、続いて弁護側の冒頭陳述を」

(´・_ゝ・`)「はっ」

 エクスト達の持ってきた紙を眺めていたデミタスが、立ち上がる。
 不安げに見つめる内藤に、彼は微笑みを返した。

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