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5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 18:28:33.67 ID:S0CF/fV7O
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<(' _'<人ノ「この家は祟られています」
──その女が来たのは、夫が死んで間もない頃であった。
<(' _'<人ノ「身内……旦那様に不幸がおありだったでしょう」
J(;'ー`)し「は、はあ……あの、どちら様です?」
着物姿の女は若く見えたが、どこか儚げで神秘的な雰囲気を湛えていた。
身なりも小綺麗で、彼女の周りだけ空気が澄んでいるような錯覚をおぼえる。
前述の第一声を除けば怪しいところなどなかった。
女は、高崎美和と名乗った。
<(' _'<人ノ「西南の庭に、白い花がありませんか」
J(;'ー`)し「白? ……スイセンかしら……」
<(' _'<人ノ「そのすぐ傍に、この家へ災いをもたらす呪具が埋まっています。
……突然こんなことを言って、おかしな女だとお思いでしょう。
けれど、どうか、騙されたと思って一度、花の傍を掘り返してみてくださいませ」
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6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 18:30:14.48 ID:S0CF/fV7O
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有無をいわせぬ何かがあった。
試しに言われた通りにしてみると、「それ」は発見された。
<(' _'<人ノ「やはり、夢で見た通りですね……。
……まだ祟りは終わっていません。このままでは、あなたや──息子さんも」
女は、鬱田家に起こった不幸を、大きなことから小さなことまで言い当ててみせた。
J(;'ー`)し「あ──ああっ、あ、あの、ど、どうしたら……私、私、」
<(' _'<人ノ「落ち着いて。……大丈夫。私が、守りますから……」
抱き締められる。
自分の息子よりいくらか年下であろう彼女の腕は、胸は、暖かくて、慈母のようで。
神様だと、思った。
*****
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7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 18:32:15.47 ID:S0CF/fV7O
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<(' _'<人ノ「鬱田さん。こんなお金、どこから」
J(;'ー`)し「息子に頼みました。……お願いです、受け取ってください」
<(' _'<人ノ「いけません。たしかに、ありがたいことですけれど……
無理をなさらない程度でいいと、言ったじゃありませんか」
J(;'ー`)し「お願いします! ……お願いします……お願いします、助けてください……。
たった一人の息子なんです、いい子なんです、あの子だけは、あの子だけは幸福に……」
「神様」には、自分のように縋る者が多くいた。
彼女は「心付け」は少額でいいと言ったが、中には大金を贈る者もいる。
そうなると、相手の顔を立てるためにも、「神様」はそちらを優先せざるを得なくなる。
──彼女にいち早く救ってもらうには、こちらも、多くの心付けを用意する必要があった。
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8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 18:34:10.73 ID:S0CF/fV7O
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幾度も縋った。幾度も守ってもらった。
全て終われば幸福になる。
今一瞬の苦しみさえ堪えればいい。
──不幸の底はまだ見えない。
息子が仕事で上手くいっていないようだった。
家の中で、時おり暴れるようになった。
「神様」から頂いた品々を破壊し、暴言を吐いた。
どうしてこんなことに。
こんな子ではなかったのに。
どうして。
<(' _'<人ノ「……息子さんには悪霊が憑いているようです」
ああ、なんてことだ。
助けてください。「神様」。
お金をもっと用意しますから。どうか。どうか。
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9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 18:36:16.94 ID:S0CF/fV7O
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大晦日の夜。
息子と、これまで以上に激しい喧嘩をした。
(#'A`)「カーチャン騙されてんだよ!! 何が神様だ! 何が悪霊だ、祟りだ!!」
J(#;ー;)し「どうしてそんな酷いことを言うの!? あの方は、あんたのことだって守ってくれるって言ったのに!」
(#'A`)「なんで俺よりあいつの方を信じんだよ!!
何かに取り憑かれてるっていうなら、カーチャンの方だろ!!」
乾いた音がした。
頬が痺れた。
しまった、というような顔をして、息子が手を見下ろす。
──叩かれた。
そんな子じゃないのに。
親孝行な、とてもいい子だったのに。
悪霊のせいだ。
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10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 18:38:15.25 ID:S0CF/fV7O
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J(#;ー;)し「──消えろ!! 消えろ消えろ消えろ!!
お前なんか消えちまえ!!」
霊に向けて言ったつもりだった。
息子の顔から表情がなくなる。
こちらをに向けられる瞳は、どこか遠くを見るようであった。
彼は踵を返し、2階の自室へ戻っていった。
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11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 18:40:19.19 ID:S0CF/fV7O
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──何時間か経過して。
年越しまで2時間あまりとなり、頭が冷えたので、階下から息子を呼んだ。
返事がない。
何度も呼んだのに出てこない。
部屋を見に行くと、息子がぶら下がっていた。
糞尿の臭いがした。
息子の体が小さく揺れる度、ぎし、ぎし、とロープを掛けられた天井が軋んだ。
縄に絞められた首元が赤黒く変色している。
息子の体を下ろそうとしたが、一人では無理だった。
早く下ろさないと死んでしまう。
もう死んでいる。早くしないと死んでしまう。もうとっくに死んでいる。早く。
救急車を呼ぼう。今なら間に合う。そんなわけがない。間に合う。生きている。死んでいる。死んでいる。
分からない。救急車さえ呼べば分かる。呼ぶべきは警察だろうか。救急車。どちらでもいい。
階下におりる。
居間の電話に手を伸ばした。
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12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 18:42:46.07 ID:S0CF/fV7O
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テレビから賑やかな声。大晦日のバラエティ番組。
急に映像が変わった。緊急ニュースらしい。
『──たった今、詐欺容疑で、高崎美和容疑者を逮捕──』
受話器を握り締めたまま、じっとテレビを見つめることしか出来なかった。
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13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 18:44:04.23 ID:S0CF/fV7O
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case6:道連れ罪、及び故意的犯罪協力の罪/中編
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15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 18:46:09.99 ID:S0CF/fV7O
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( ^ν^)「流石姉者……A県ヴィップ町の小学校教師」
グレーのワイシャツ。ループタイの先端をいじりながら、
検事、鵜束ニュッは供述書とメモ書きを見比べた。
内藤は携帯電話をしまう。
「しばらく帰れないかも」と姉者に連絡したところだった。
( ^ω^)「姉者さんのことまで調べる必要がありますかお」
( ^ν^)「さあな。調べてから必要な情報に気付くかもしれねえ」
2人は、スチール製の机を挟んで向かい合っている。
机の上にはファイルやメモ用紙、何かの書類と電気スタンド。
ここは──警察署の中にある、取調室である。
刑事からの取り調べだと思って来たのに、いつの間にやらニュッが相手になっていた。
本来なら検察庁で話すべきらしいが、行く手間が省けたと思えば得だ。
ζ(゚ー゚*ζ
開かれたドアの傍に、照屋デレが立っている。
白いブラウスに、襟元に結ばれたスカーフ。
濃紺のスカートからは黒いストッキングに包まれた脚が伸びる。
刑事という言葉から受ける厳つい感じは、全く感じられない。寧ろ華やかさが取調室の空気を和らげている。
そのとき、内藤の腹が鳴った。
ここに呼ばれてから、もう3時間にはなる。
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17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 18:48:09.43 ID:S0CF/fV7O
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( ^ω^)「お腹すきましたお」
ζ(゚ー゚*ζ「もうお昼ですもんねえ。そこのコンビニで何か買ってきましょうか?
お代は警察で出しますよ」
( ^ω^)「片手で持てるものが食べたいですお。あと飲み物は冷たい焙じ茶で」
( ^ν^)「警察パシろうとしてんじゃねえぞガキ」
( ^ω^)「言い出したのは向こうですお」
ζ(゚ー゚*ζ「ニュッさんは欲しいものあります?」
( ^ν^)「犯行の自供」
ζ(゚ー゚*ζ「コンビニにはないですねえ」
その後デレが取調室を出ていき、内藤とニュッの2人きりになってしまった。
はっきり言って、居心地は良くない。最悪だ。
手持ち無沙汰に右手を軽く摩る。手首は腫れていて、手のひらの傷もまだ痛む。
裂傷の辺りを強く押すと、包帯に小さく血が滲んだ。ぴりぴりと広がる痛み。
昨夜は随分と遅くに旅館に帰されたし、ろくに眠れなかったし、今朝は早くからデレが迎えに来た。
寝不足で頭がぼうっとする。
時おり傷を刺激することで、ぼやける意識を叱咤していた。
豆乳を飲みながら、ニュッが書類をめくる。
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18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 18:50:13.00 ID:S0CF/fV7O
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( ^ν^)「ヴィップ町っていうと……金物屋か」
( ^ω^)「金物屋?」
( ^ν^)「ナベとカマがいる」
内藤は吹き出したのを誤魔化すように咳払いして、
それから、疑問を口にした。
( ^ω^)「ギコさん達のこと知ってるんですかお」
( ^ν^)「ヴィップ町は一部じゃ有名だぞ。
猫田家の娘が齢17で男の格好なんざして検事やってるし
田舎のくせに『嘘発見器』なんて贅沢なもん持ってやがる」
嘘発見器──くるうか。
「監視官」という正式な役職名よりも卑近な呼び方。
オサムに聞かれたら怒られそうだ。
「猫田家の娘」、まあまず間違いなくしぃだろう。
そういえば彼女の家はおばけ法の制定に関わっていたと聞いている。
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19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 18:52:11.59 ID:S0CF/fV7O
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( ^ν^)「あと、『弁護士殺し』」
少し前の検事──しぃの父だろう──があまりに優秀で、
そのため弁護士が自信と評判をなくして別の町に移る。
仕方なく他所の町から新たな弁護士を呼ぶ。また弁護士が逃げる。それの繰り返しだったとか。
やがて付いた呼び名が「弁護士殺しの町」。物騒だ。
思えば、ドクオや──先日の被告人も、ツンを「無能」と罵った。
彼女の実績だけではなく、あの町全体の空気から、そんな評価に至っていたのだろう。
よくまあ、そういった町で弁護士になろうと思ったものだ。
( ^ν^)「で、お前こそどうしてカマ刑事の名前知ってんだ」
( ^ω^)「──姉者さんの同級生らしくて、たまたま交流があって。
おばけ法のことも彼……彼女……彼から聞きました」
( ^ν^)「鬱田ドクオの話と食い違いがあるな」
( ^ω^)「……。ドクオさんが以前、ヴィップ町の事件で起訴されて、
その裁判に弁護側の証人……の、付き添いで参加したのが諸々のきっかけでしたお」
( ^ν^)「最初から事実だけ喋ってりゃいいんだよ」
知っているなら訊くなと言いたい。
ニュッの視線が内藤を射通した。
不躾な目だったので、満面の笑みを浮かべてやる。舌打ちが返ってきた。
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21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 18:54:04.93 ID:S0CF/fV7O
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机に両手をつき、ニュッが身を乗り出させる。
( ^ν^)「……ほんっと、ムカつく顔してんなあ……」
至近距離。睨まれる。
相手の腹を抉って荒々しく暴こうとするような、嫌な目だった。
恐い、と思った。
その感情を、内藤は隠さなければならない。
隙を見せたくない。
( ^ω^)「よく、愛嬌のある顔だって言われますけど」
( ^ν^)「だからムカつく。
へらへら薄っぺらい愛想振りまいて、
オニーサンオネーサンからさぞ可愛がられてんだろうよ」
生憎、まともなオニーサンもオネーサンも身の回りに少ないのだが。
しかしたしかに可愛がられることは多い。それを狙っての振る舞いなのだから当然と言えばそうだ。
( ^ν^)「てめえみたいなガキに人生分からせてやるのが楽しいんだ」
囁いて、ニュッは座り直した。
足音が近付いてくる。
がさがさ、ビニールが擦れる音も。
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23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 18:56:58.62 ID:S0CF/fV7O
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ζ(゚ー゚*ζ「ただいま戻りました!」
部屋に入るなり、デレが敬礼をしてみせる。
内藤もニュッも反応せずにいると、つまらなそうに右手を下げ、
左手のビニール袋を揺らしながら机に寄ってきた。
ζ(゚ー゚*ζ「内藤君には菓子パンとおにぎりとホットスナック各種とー、冷たい焙じ茶とー、デザートにプリン!
好きなものをどうぞ!
短気なニュッさんには煮干しを買ってきました。あと豆乳。以上」
( ^ν^)「死ね」
ζ(゚ー゚*ζ「ボケとかじゃなく本当に煮干ししか買ってませんので我慢してくださいね」
( ^ν^)「死ねカス」
ζ(゚ー゚*ζ「さあ昼休憩! これ食べたら今日の取り調べは終わりに……はっ!?」
礼を言って内藤がビニール袋を受け取った瞬間。
デレが硬直し、
ζ(゚¬゚*;ζ ダラッ
涎を垂れ流した。
すごい量だった。犬かと思った。軽く引いた。
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25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 18:58:54.82 ID:S0CF/fV7O
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ζ(゚¬゚*;ζ「あ、あのう、ち、血の匂いがするんですけど……」
( ^ω^)「え、……ああ、はい」
これですかお、と右手を挙げる。
血の染みは先程と変わりなく、出血量も僅かである。匂いがするほどだろうか。
ζ(゚¬゚*;ζ「きず、傷、開いちゃったんですね、な、なめ、舐めて、よかろうか」
よくなかろうが。
ζ(゚¬゚*;ζ「お、おいしそ……ち……若い血、わかいこのち、おいしそう……」
椅子ごと後退する内藤に迫り、右手を取って恍惚とするデレ。
どうしよう。気持ち悪い。
デレがうっすら口を開く。尖った歯が両端から覗く。
包帯の染みに舌先が触れそうになって、
ζ("ー";ζ「ぎゃんっ!」
ニュッが投げた豆乳のパックが、デレの側頭部に命中した。
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27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:00:25.02 ID:S0CF/fV7O
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( ^ν^)「おばけ法第206条」
ζ(゚ー゚;ζ「……吸血罪……吸ってもいない内から酷いですよ! ほんのちょっとしたジョークなのに!」
( ^ν^)「完全なるガチだったじゃねえか」
突如として繰り広げられたやり取りに、どういった反応を示せば良いのか分からず
内藤は無言でアメリカンドッグに噛みついた。
咀嚼。嚥下。
( ^ω^)「吸血鬼」
とりあえず、まずはその言葉だけ。
涙目のデレがニュッと顔を見合わせ、それから内藤に振り返る。
ζ(゚ー゚*ζ「あは。やっぱ分かっちゃいます? 別に隠してたわけでもないんですけどね」
あんな牙を剥き出しにしながら血だの吸血だの言われたら、そりゃあ分かる。
デレが、えへんと胸を張った。
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30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:02:08.60 ID:S0CF/fV7O
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ζ(-ー-*ζ「お察しの通り、私は吸血鬼です! 昔、吸血罪で捕まったんですが
霊界から釈放された後に警察に雇われたんですよ。やっぱ優秀ですからね私」
( ^ν^)「馬鹿が。野放しにしてらんねえから監視するために雇っただけだ。
面倒見させられる方の身にもなれ」
吸血罪とはまた、適用される対象がえらく限られていそうな。
デレは、したり顔でニュッの後ろに回り、ループタイを緩めた。
ワイシャツのボタンを2つ3つ外していく。
襟を引っ張り、露になった首へ口を近付けた。
吸血鬼の食事シーンなど、そうそう生で見られるものではない。当たり前だが。
内藤は2人を真っ直ぐ見ながらアメリカンドッグにケチャップを足した。赤い。
首を噛まれている男、首を噛んでいる女、アメリカンドッグを食いつつそれを眺める中学生。場所は取調室。
「何だこの光景」。ニュッの独り言に胸中で同意し、内藤は無言のまま食事を続けた。
少しして、デレがニュッから離れた。
口元から赤い液体が一筋垂れる。
ζ(゚、゚*ζ「相変わらず、まっっっずいですよ。生活習慣改善してください」
( ^ν^)「文句言うなら飲むな。野垂れ死ね」
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32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:04:06.21 ID:S0CF/fV7O
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( ^ω^)「痛くありませんかお」
( ^ν^)「痛みはねえが気持ち悪い」
ζ(゚、゚*ζ「私、この人のしか飲んじゃいけないって決められてるんですよー。
なのに唯一の供給元が口に合わないんです。最低です。
飲まなきゃ死んじゃうんで仕方なく飲みますけど」
( ^ν^)「おかげで血が足りねえ」
豆乳を飲みながら、青白い顔でニュッがデレを睨む。
負けじと睨み返した彼女は内藤の傍に寄ってくると、声を潜めた。
ζ(゚、゚*ζ「あのひと常に血が足りてないもんだから、まだ若いのに勃起不z──」
(#^ν^)「それは別に貧血のせいじゃねえよ死ねヒル!!」
ζ(゚、゚#ζ「ヒル!? あんな気持ち悪い生き物と一緒にしないでもらえます!?」
この人たち、法廷でマトモに仕事出来るんだろうか。
何故か内藤の方が心配になってしまった。
*****
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35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:06:12.60 ID:S0CF/fV7O
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ζ(゚ー゚*ζ「お見苦しいものをお見せして」
警察署内、エレベーター。
5階のボタンを押して、デレは照れ笑いをしてみせた。
結局あの後、内藤がデザートを食べ終わるまで、デレとニュッの口汚い罵り合いが続いたのである。
( ^ω^)「仲悪いんですかお?」
ζ(゚ー゚*ζ「生理的に嫌いなタイプの人なんですよねー、向こうも同意見みたいだけど」
( ^ω^)「……嫌いな人の血、よく飲めますおね」
ζ(゚ー゚*ζ「嫌いな方がいいんですよ。
ほら、好みの人だと、うっかり吸いすぎて殺しちゃうかもしれないじゃないですか」
あっけらかんと言い放たれる。そういうものか。
デレは壁につけられた大きな鏡を見ると、スカーフを結び直し、髪を手櫛で整えた。
( ^ω^)「……吸血鬼だ、って、あんなにあっさり僕にバラして良かったんですかお。
清々しいほどあっさりしてましたけど」
ζ(゚ー゚*ζ「ここら辺に住んでるおばけや霊能力者さんは、大抵知ってます。私の正体。
効果あるんですよー結構。
吸血鬼って何か『ただ者じゃない』って感じあるでしょう」
鏡越しに、デレは内藤を見た。
目が合う。
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37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:08:07.47 ID:S0CF/fV7O
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デレの瞳と牙が光ったような気がした。
ぞわり、怖気が走る。
言い様のない不安。ここが密室であることが、さらにそれを煽る。
ζ(゚ー゚*ζ「だから内藤君もあんまり私達のこと馬鹿にしちゃ駄目ですよ」
──あの検事にして、この刑事ありだ。
結局どちらも「威圧」を武器にしている。
内藤は目を逸らした。
ぽん、と電子音。
エレベーターが目的の階に着いたようだ。デレがいそいそと降りる。内藤も続いた。
検察の取り調べが終わったとはいえ、今度は弁護側との話がある。
まだまだ旅館に帰れそうにない。
ある部屋の前に立っていた警官が、デレに気付くや敬礼する。
デレが手で指示を出すと、警官はその場を去っていった。
ζ(゚ー゚*ζ「こんにちは盛岡先生! 内藤君をお連れしました」
部屋──「会議室C」のプレートがあった──の扉を開け、デレは元気に言い放った。
会議室と呼ぶには少々手狭な部屋の中央に、長机が一つ置かれている。
そこに、男が1人と幽霊が1人、それと2体のおばけがいた。
眼鏡をかけた方の男が会釈する。
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39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:10:07.45 ID:S0CF/fV7O
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(´・_ゝ・`)「こんにちは。ホライゾン君、体調はどうかな」
( ^ω^)「右手がまだ痛いけど……疲労以外は大丈夫ですお」
盛岡デミタスは微笑み、机を挟んだ向かいを手で示した。
パイプ椅子がある。一礼の後に入室し、内藤はそこに腰掛けた。
('A`)「……」
( ^ω^)「……ドクオさんの方は大丈夫ですかお」
('A`)「おう」
隣の椅子に、ドクオが座っていた。
背もたれに札が貼られており、昨晩同様、そこから伸びる光に拘束されている。
──「拘束札」。作用はその名の通り。
逮捕されたおばけを閉じ込めておくためのもの。
ちなみに逮捕する際に使われるのは「手錠符」。手首にぐるりと巻くことで手錠の役割を果たすという。
拘束札は凶悪犯や、暴れて手に負えないような者に使われるそうだ。
ヴィップ町での裁判で、ギコが使っていたのを見たことがある。
一応、検事と弁護士も所持する権利はあるらしい。ツンも持っているのだろうか。
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41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:12:04.01 ID:S0CF/fV7O
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( ^ω^)「札の中、快適ですかお」
('A`)「さあな」
ζ(゚ー゚*ζ「拘束札の中に入ってる間は、幽霊さん達の意識はなくなるんですよ。
こうやって外に出してるときは目が覚めますけど」
場を和ますための冗談のつもりで質問したが、真面目に返された。
チョイスを間違った模様である。
ζ(゚ー゚*ζ「ドクオさん回収しときますね。いいですか?」
(´・_ゝ・`)「ええ」
('A`)「……けっ」
デレが椅子の後ろに回り、拘束札を剥がす。
彼女の指が札の字をなぞると、光の糸が増え、ドクオを札の中に押し込めた。
それを、ポケットから出した木箱にしまう。
(´・_ゝ・`)「それじゃあ……疲れてるところ悪いけど、今度は私とお話ししよう」
( ^ω^)「はい」
──本来なら留置場の面会室で行われるような話し合いだ。
だが幸い(?)、内藤が「おばけ法」関係の容疑者であることや、逃亡の意思が見られないこと、年齢、
その他諸々の理由から留置場には入れられずに済んでいる。
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43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:14:12.69 ID:S0CF/fV7O
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ζ(゚ー゚*ζ「盛岡先生、相変わらず血を吸いたくなるほどダンディーな佇まいです……」
うっとりと呟くデレに、デミタスは返事に困ったのか苦笑いだけを浮かべた。
こういうタイプが彼女の「好みの人」か。
内藤が冷やかし半分でそのことを指摘すると、デレは拳を振り上げて熱弁した。
ζ(゚ー゚*ζ「そりゃ勿論!
盛岡先生はおばけ法にも人間の六法にも精通している、二足のわらじ弁護士ですよ」
<_フ*゚ー゚)フ「エリートだエリート!」
/*゚、。 /「デミタス様は日本一ー」
今まで黙って動き回っていたおばけ共が、急に話に加わってきた。
人魂はエクスト、一反木綿はダイオードという名前らしい。
彼らはデミタスの「しもべ」を自称している。
( ^ω^)「そういうの有りなんですかお?」
(´・_ゝ・`)「まあ私の場合、おばけ法では刑事裁判だけ、
それ以外は民事訴訟だけ受け持つことで何とか両立出来てるんだけどね」
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46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:16:31.58 ID:S0CF/fV7O
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ζ(゚ー゚*ζ「大企業の不当解雇訴訟! これまた大企業の薬害訴訟! 果ては地元の名士に潰された中小企業の訴訟!
強大な敵を相手に、弱い庶民の味方をして……しかも勝つ!
優しく手強い、人権派弁護士! それが盛岡先生です」
内藤は法に詳しくないが、要するにそれは人間の民事訴訟に強いだけではないか。
どちらかというとおばけ法の刑事裁判に強くないと困るのだが。
<_フ*゚ー゚)フ「ヒューヒュー」
/*゚、。 /「我らがデミタス様ー」
ζ(´ー`*ζ「私も弁護されたーい。原告になって盛岡先生に助けてほしーい。
被告はもちろんニュッさんです。パワハラで訴えるんです」
おばけ2体と吸血鬼がデミタスの周りを回る。
デミタスは空笑いと共に、「そのときが来たら依頼に来てください」と返した。
その表情にまた身をくねらせ、デレは扉の把っ手を掴む。
ζ(゚ー゚*ζ「ごゆっくり。内藤君、私は部屋の外で待ってますね。
もちろん室内の会話を聞いたりしませんから、どうぞ自由に好きなだけ」
扉が閉められる。
それを見届けてから、デミタスは内藤の向かいに座った。
(´・_ゝ・`)「お腹は空いてないかい」
( ^ω^)「さっき、取り調べのときに色々いただきましたお」
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48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:18:22.17 ID:S0CF/fV7O
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(´・_ゝ・`)「そっか。──取り調べ、大変だったろう。
ニュッさんは少し乱暴なところがあるから、恐かったり、嫌なことがあったりするかもしれない。
……少しの辛抱だよ」
( ^ω^)「……はい」
応えたつもりはなかった。
取り調べで話せることも大して持っていない──事件に関わった覚えすらないので、
実感が依然として薄い。
デミタスは眼鏡を押し上げ、机上に書類を並べた。
(´・_ゝ・`)「ドクオさんは犯行を否認している。
『憑依してすぐに、気を失った』と」
──事件現場で、被害者と内藤が倒れているのが発見された。
被害者は既に息絶えていたという。
通報を受けて駆けつけたデレが、内藤に憑依したままのドクオを引きずり出し、
ポケットにあった「契約書」を見せて確認をとる。
ドクオは契約者であることを認めた上、被害者──自身の母の死体を見るや否や
逃げ出そうとしたため、デレが確保した。
そして内藤が目覚めるまでの間に大雑把な事情聴取をし、
容疑者として正式に逮捕した──というのが、ニュッから聞かされた一連の流れであった。
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50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:20:17.68 ID:S0CF/fV7O
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( ^ω^)「──信じてますかお」
(´・_ゝ・`)「勿論。そもそも君達がこんなに早く起訴されたことがおかしいんだ。
事件現場に居合わせただけだろう。
警察側が軽率だった。……いや、警察じゃなくて検察かもしれないけど」
ふと、呆れたような顔で溜め息。
ゆるゆると首を振る。
(;´・_ゝ・`)「ニュッさんは少しゲーム感覚で裁判に臨む傾向がある。
特に話題性が高い事件を好むというか。
今回は『母親殺し』と『14歳の共犯者』という図が彼を煽ったんだろうね」
<_フ#゚ー゚)フ「あの検事はなー。嫌いだ。デミタス様に酷いこと言う」
/#゚、。 /「あいつが事件起こして、無関係の奴に罪かぶせて起訴してるんだ」
(´・_ゝ・`)「ダイオード、そういうことを言うものではないよ。根も葉もない噂だ」
/#゚、。 /「火のないところに!」
<_フ#゚ー゚)フ「煙は立たず!」
エクスト達がぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる。内藤は片耳を指で塞いだ。うるさい。
デミタスが宥めることで、ようやく落ち着いた。
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51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:22:16.30 ID:S0CF/fV7O
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(´・_ゝ・`)「噂はともかくとして、彼の自己満足で不当な判決を出させるわけにはいかない。
私は断固戦い、君達を守ろう」
優しげな顔付きだが、やけに頼もしい。
内藤は頷き、机上の書類を見下ろした。
難しく、読めない言葉が多い。
ニュッの顔を思い浮かべる。
しぃとはまた違う自信に溢れていた。と思う。
自信というか──楽しんでいる。
( ^ω^)「……盛岡、……さん」
(´・_ゝ・`)「ん?」
( ^ω^)「もし僕が……有罪になったら、どうなるんですかお?」
気になっていたことだった。
ニュッには訊きたくなかった。
内藤が見てきた幽霊裁判で、霊に下された刑は、「幽霊だからこそ」のものであった。
しかし、生きている人間である内藤に同じ刑が言い渡されるのも考えにくい。
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53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:24:09.07 ID:S0CF/fV7O
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(´・_ゝ・`)「君には執行猶予がつく筈だよ」
( ^ω^)「執行猶予……」
(´・_ゝ・`)「一定期間、見張りをつけられる。日常生活に支障はない。
悪いことをせず……幽霊裁判などにも関わらずに無事に期間が過ぎれば、
お咎めは無いよ」
( ^ω^)「その、執行猶予がつかない場合はあるんですかお?」
(´・_ゝ・`)「あるにはある。でも人間に実刑判決が下されても、
刑が執行されるのは死後だ」
(´・_ゝ・`)「生きている間は、やはり見張りがつく。何年、何十年でもね。
そして死んだらすぐに、見張りが魂を捕まえて霊界に連れて行き、刑に処す」
たとえば十数年前。霊を用いて詐欺行為を働いた女がいた。
犯行の中で、何度も霊に人間を取り殺させていたそうだ。
その女は捕まり、表向きの──人間の──裁判では単なる詐欺として起訴されたが、
幽霊裁判ではそこに呪詛罪やら何やらが加えられ、
死後、消滅処分になることが決定したという。
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54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/31(木) 19:26:13.65 ID:S0CF/fV7O
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(´・_ゝ・`)「結局その人は刑務所に入れられて間もなく、心臓発作か何かで死んでしまったから
すぐに刑が執行されたんだけどね。……バチが当たったんだろう」
( ^ω^)「やっぱり悪いことはするもんじゃありませんおー……」
そうだね、とデミタスが首肯する。
会話が途切れた。
デミタスが難しい顔をしている。
どうかしたかと問うと、彼は顎を摩り、答えた。
(´・_ゝ・`)「私は君達の無実を信じるよ。
ただ、そうなると──」
(´・_ゝ・`)「……誰かが、君達へ罪を被せようとしたことになるね」
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