ξ゚听)ξ幽霊裁判が開廷するようです

case5:誘惑罪/後編

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115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/09/13(金) 19:48:40.84 ID:REyuzfcd0
 
【+  】ゞ゚)「では改めて、飛縁魔という情報を念頭に置いた上で事件の流れを追おう。
        飛縁魔を裁いた判例はかつて無いので、俺も諸君も今まで以上に手探りになるだろうが、よろしいか」

ξ゚听)ξ「然るべく」

(,,゚Д゚)「そうしましょ。ミルナ君、大丈夫? きつかったら外で休んでてもいいわよ」

( ゚д゚ )「大丈夫です、ここまで来たら最後まで見させてください」

 しぃは未だに俯いている。
 まさか不貞腐れたわけではあるまい。
 ギコが何度か呼び掛け、やっとしぃは口を開いた。



(* − )「……僕はまだ納得していない……」



 内藤は咄嗟にツンの様子を確認した。
 まだまだツンの考えが分からなくて焦れったくて、
 何か小さな反応でも得られないだろうかと考えたのだ。

 しかしツンは静かにしぃを見つめている。
 彼女のことは諦め、内藤も検察席へ視線を戻した。

 瞬間。
 しぃと目が合った。

117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/09/13(金) 19:50:23.94 ID:REyuzfcd0
 
(*゚ー゚)「内藤君。この間きみと話してからというもの、どうにも苛つく」

( ^ω^)「……」

 オサム達が怪訝な顔をする。
 しぃはツンや貞子にではなく、内藤を見、内藤に話しかけていた。

(*゚ー゚)「情けないが、君の言葉に僕は少し毒されていたようだ。
     たった今、もう諦めようかと考えてしまった」

(*゚ー゚)「だが、やはり駄目だ。こんなのは──癪で堪らない」

 しぃが机を叩く。
 目に力を込め、内藤とツンを睨んだ。

 そうして、怒鳴る。

120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/09/13(金) 19:52:32.13 ID:REyuzfcd0
 
(#゚ー゚)「僕は検事だ!
     弁護士のあんたは心ゆくまで被告人を信じればいい、
     代わりに僕は心ゆくまで被告人を疑う!」

(#゚ー゚)「これが僕の仕事だ! 中途半端なまま引き下がれるか!!
     起訴をしたのは僕だ、責任ならいくらでも取る!
     だからまだまだ付き合ってもらうぞ!」


 ただの自棄っぱちな叫びではない。
 そこには、己を奮い立たせる意図も、きっとあったのだ。

 いつもは興奮するしぃを宥めるギコが、真剣な顔で、黙って聞いていた。
 いつもは人の大声に怯えるくるうも、オサムの後ろに隠れることをせず目を丸くしている。

122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/09/13(金) 19:55:10.42 ID:REyuzfcd0
 
 内藤はしぃの発言を何度も頭の中で繰り返しながらツンを見る。
 ツンが内藤の額の前で手を構えた。

ξ゚听)ξ「……検事に何言ったの?」

( ^ω^)「えーと、端的に表すと……攻撃的すぎいい加減にしろ、みたいな……いやほんと口滑って」

 でこぴんをいただいた。

 ようやく、しぃの叫びが胸へと落ちる。

 彼女はあれで良かったのだ。
 たとえば砂尾ヒートの事件。事実が明らかになり始めた途端、しぃは自身の主張を引っ込めた。

 彼女は初めから、「自分が納得する」ことを基準としている。
 納得した以上は被告人を追い詰めていくし、
 それを覆すような新事実が現れれば、認めるに値するなら受け入れる。

 しぃはしぃなりのやり方を心に決めていた。
 後は、そのやり方を内藤が気に入るかどうかという、どうでもいい問題だったのだ。
 なのに余計な揺さぶりをかけてしまった。

124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/09/13(金) 19:57:32.74 ID:REyuzfcd0
 
 深く息を吐いたしぃが再び顔を上げたとき、瞳は静かな熱を放っていた。

(*゚ー゚)「裁判長。既に争点は大きく変わっています」

【+  】ゞ゚)「うん? まあ、そうだろうが……」

(*゚ー゚)「これまでは『被告人に犯行の事実があったか否か』、について争っていました。
     それは被告人の自供によって決着がついた」

(´・ω・`)「ですね……。ですから、今から量刑の確認を」

(*゚ー゚)「違う。
     ──ここからの争点は、『被告人が本当に飛縁魔か否か』、です」

(,,゚Д゚)「それは既にオサムちゃん達も、被告人の主張を認めてるみたいだけど?」

 返すギコの声色は、どこか嬉しそうだった。
 親兄弟が家族の成長を喜ぶ様に似ている。

 そんなギコを見遣り──しぃの顔に、いつもの笑みが浮かんだ。

(*゚ー゚)「この僕がまだ認められないんだ。これを解消してもらわないと困る」

(,,゚Д゚)「……そういうわけだから、オサムちゃん、話を進めるのはもう少し待ってちょうだいね。
     でないとこの子うるさいから」

【+  】ゞ゚)「やむを得まい。しかし無駄な問答であれば即刻止めるぞ」

(*゚ー゚)「構いません」

125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/09/13(金) 19:59:20.74 ID:REyuzfcd0
 
 しぃから目を逸らした貞子が、頬に触れる。
 直後、しぃが鋭い声をあげた。

(*゚ー゚)「被告人。ずっと気になっていたことがあります」

川д川「……何でしょうか」

(*゚ー゚)「あなたの、癖についてです」

川д川「癖?」

 右手で頬の上辺りを触る癖。
 髪で隠れて見えないが、目に近いところを指先で撫でているように思う。
 その指の動きが、止まる。

126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/09/13(金) 20:01:16.46 ID:REyuzfcd0
 
(*゚ー゚)「僕の──身内に。似たような癖を持つ女性がいます。
     彼女は顔に大きな傷痕があって。
     ちょくちょく、無意識に傷の近くを触るんです」

川д川「……」

(*゚ー゚)「あなたもそうだと言いたいのではありません。
     ただ、先日も先程も、顔の右側だけ見せようとはしていませんでしたね。
     そこが気になって仕方ないんです」

 だから、と、しぃは一拍置いて。

(*゚ー゚)「顔を全て見せてくれませんか」

川д川「……」

(*゚ー゚)「髪を掻き上げてくれればいい。
     ──余計な小細工をしようとは考えないでください。裁判長にすぐバレます」

 貞子の雰囲気が変わった、ような。
 小さな針先で突かれるような居心地の悪さが、一瞬内藤の周りを過ぎった。

 数秒の沈黙。貞子が、前髪を持ち上げる。

127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/09/13(金) 20:03:12.13 ID:REyuzfcd0
 

川";д゚川


('、`;川「──わ……」

 顔の右側、上半分。
 変色した皮膚が、突っ張ったように引き攣れ、歪んでいた。
 下がった瞼が右目を覆っている。

 ペニサスが息を呑む。
 その反応が気に障ったのか、貞子の左目がペニサスを睨んだ。

(*゚ー゚)「……飛縁魔とは、とても美しいものだと聞いていましたが」

川";д゚川「傷痕があっちゃいけないの?」

 貞子の口調に刺々しさが覗く。
 おどおどした態度は、消えていた。

128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/09/13(金) 20:05:35.80 ID:REyuzfcd0
 
【+  】ゞ゚)「被告人、それはいつ付いたものだ?
        飛縁魔ほどの力がある妖怪なら、傷を治すことも出来る筈だが……。
        ……いや、そもそも、原因は何なんだ」

 返事もせずに髪を下ろし、そっぽを向く。
 オサムが強い口調で再び呼び掛けたが、やはり返答はない。

(;´・ω・`)「火傷でしょうか」

(,,゚Д゚)「ええ、あたしもそう思うわ」

 右頬に伸ばしかけた手を、貞子はすぐに下ろした。
 押さえるように腕を組む。

(*゚ー゚)「……飛縁魔はまず容姿で男を誘惑する。
     しかしあなたはそういったことはせず、初めから肉体関係を結びましたよね」

(*゚ー゚)「散々言われた通り、飛縁魔は女犯を戒めるための妖怪です。
     一目で男を惑わすのに何より必要なのは容姿だ。……有り体に言えば顔。
     それを隠す必要があるというのは、些か飛縁魔として致命的ではありませんか?」

129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/09/13(金) 20:08:50.19 ID:REyuzfcd0
 
(*゚ー゚)「被害者は皆『顔を思い出せない』と言っています。
     見えなかった、ではなく思い出せない、ということは
     顔に意識を向けさせないよう、いくらかコントロールしていた節さえ感じます。
     そうまでしなければならない飛縁魔が、どこにいますか?」

川д川「……ここにいるわよ。こうなったもんは仕方ないでしょ。治せないんだもの」

(*゚ー゚)「何故『そうなった』んです? 何故治せないんですか」

川д川「──……弁護士さん。どうしてずっと黙ってるの。私の弁護人なんじゃないの?」

 貞子は腕を組んで正面を向いたまま、ツンを責めるような語調で言った。
 ツンが頭を掻きながら咳払いをする。

ξ゚听)ξ「……ごめんなさい、これからの進め方を考えていて。
      ──検事、被告人が飛縁魔ではないという確かな証拠はあるかしら?」

(*゚ー゚)「逆に、被告人が飛縁魔である確かな証拠は?」

ξ゚听)ξ「その証明はもう済んでるわよ。
      被告人は実際に男を誘惑し、また、誘惑に乗った男を破滅に導いている。
      『火』に関する事象も飛縁魔を示唆しているし。……これ以上に何が必要?」

 しぃは文句をつけることもなく、顎に手をやり机を見下ろした。

 ツンの言葉に冷ややかな調子を感じられて、内藤は何も言えなかった。
 なぜだか──彼女の冷たさが、恐ろしかった。

131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/09/13(金) 20:10:20.76 ID:REyuzfcd0
 
(,,゚Д゚)「しぃ、別の方向から考えましょう。
     飛縁魔でないとしたら、被告人は一体何なのか」

(*゚ー゚)「そりゃあ本人が当初言っていたように、ただの霊じゃないか?
     浮遊霊、というより色情霊か」

(´・ω・`)「それなら人間として生きていた過去が必ずある筈ですね」

 その痕跡を見付けられれば、検察側の証明は完了する。

 ヒントとなり得る情報は、名前と顔。
 この「名前」が厄介だ。偽名だったとすれば手掛かりはほぼゼロに近くなる。

(*゚ー゚)「ともかく僕らは手元にあるヒントから探すしかない。
     若くして亡くなった『山村貞子』という女を探すんだ」

(;,゚Д゚)「いやあ……苗字も名前もよくあるものよ? ちょっと無理あるんじゃない?
     せめて亡くなった時期や地域を特定しないと」

(*゚ー゚)「服装を見る限り、そこまで昔ではないだろう。
     地域は──そうだな……」

 長考するしぃを前に、ツンの指先がこつこつと机を叩く。
 焦れている。
 はたと、しぃはファイルを開いた。

133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/09/13(金) 20:12:21.06 ID:REyuzfcd0
 
(*゚ー゚)「10年ほど前の、S県で被害に遭ったという男性が『分かっている限りで一番古い被害者』なんだよな」

(,,゚Д゚)「ええ」

(*゚ー゚)「見付けた限りで一番古い、ではなく、実際に一番古いのだと仮定しようじゃないか。
     そうなると──」

(´・ω・`)「あ……S県及び周辺で被告人が亡くなっていた可能性が高いですね! それも10年前に!」

ξ゚听)ξ「……そうね」

 ツンの相槌は、どこか投げやりだった。
 貞子の方から、ちくりと刺さるような視線を感じる。

 オサムとくるうは検察席の結論を悠然と待ち、ペニサスは考えるのをやめたような顔付きをして、
 ミルナと内藤は話に加わるタイミングを逃し傍観に徹している。

(*゚ー゚)「ギコ。S県警のおばけ課に確認をとれ」

(;,゚Д゚)「ええっ、今? 再捜査は明日からでいいんじゃ……やあねえもう分かったわよ睨まないでちょうだい」

 ギコは検察席から一旦離れ、携帯電話を耳に当てた。

 何を話しているかはよく分からないが、徐々にギコの顔色が変わっていく。
 そして定位置に戻ると、ノートパソコンを開いた。

134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/09/13(金) 20:14:51.33 ID:REyuzfcd0
 
(,,゚Д゚)「──届いたわ。ええ、ありがとね」

 携帯電話を机に置き、ギコはプロジェクターの電源を入れ直した。
 スクリーンに書面が映し出される。

 ある事件について、表のような形式で記されていた。
 ニュースサイトや新聞記事ではなく、何らかの資料のようだった。

【+  】ゞ゚)「──火事?」

 10年前、秋口。
 S県の某町某アパートで、火事が起きたという事件。

 出火元は2階の角部屋からで、
 その部屋に1人で住んでいたという女は死亡しているが、他の住民は何とか助かっている。

 どうも女は自ら火をつけた後、薬を飲み、眠ったまま焼かれたらしかった。

 女の名前は──


(;゚д゚ )「……山村貞子……」


   【川゚д゚川】


 名前と顔写真。前髪は長めではあるが、顔を覆うほどではない。
 例の傷痕も無いが──間違いなく、今ここにいる山村貞子と同一人物であった。

135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/09/13(金) 20:16:50.98 ID:REyuzfcd0
 
(*゚ー゚)「……初めから調べておけば良かったな。こんなに簡単に見付かるなんて」

(,,゚Д゚)「今回の事件、出身は重視してなかったからね……。手間惜しんじゃ駄目ね」

 2人が呆れ返ったように顔を見合わせる。
 しぃはギコの肩を叩き、ギコもしぃの背中を叩いた。

 貞子は何か言いかけ、溜め息だけを吐き出している。

【+  】ゞ゚)「これは──すまなかった、検事。俺が軽率だった」

(;´・ω・`)「いえ、僕が煽ってしまったのもあります!
      オサム様は元々、人を疑うのが苦手な方ですから──」

(*゚ー゚)「いいえ。……いいえ。
     知識が邪魔をしただけです。たまたま、被告人と飛縁魔を結ぶ共通点が多かった故に起こった勘違いなんです」

(*゚ー゚)「……そしてそれを利用した被告人側にも、相応の知識があった」

 しぃの目は、他の誰でもない、ツンを射抜いていた。
 嫌な予感がする。内藤は無意識にシャツの裾を握り締めた。

136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/09/13(金) 20:18:22.01 ID:REyuzfcd0
 
(*゚ー゚)「──あなたの入れ知恵ではありませんか」


 しぃの問いに。


ξ゚听)ξ

ξ--)ξ


ξ--)ξ「……ええ」


 ツンは、頷いた。

 

137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/09/13(金) 20:20:45.14 ID:REyuzfcd0
 
 何故だか、ちょっとしたショックが内藤の脳を揺らした。
 「まさかツンさんが」、なんて言葉が浮かんで、それにまた動揺する。

( ^ω^)(何だそれ……僕はこの人にどんなイメージ持ってんだ……)

('、`;川「な、内藤? なに頭抱えてんだ?」

 元からろくでもない女ではないか。
 真っ向勝負、というタイプでもないし。しかし。何だか、どうにも。

 1人煩悶する内藤を置いて、ツンは話を続ける。

ξ゚听)ξ「掲示板の『えんしょうじょ』って書き込みで思いついたの。
      飛縁魔なら罪が軽くなる、だから……」

川д川「『無罪判決が絶望的な状況になったら、飛縁魔だと告白しなさい』、ですって。
    最終手段はそれしかないから、って──その最終手段すら一か八かで、
    結局失敗しちゃってんじゃないの」

川д川「無能弁護士って噂は本当だったわけ。最悪……」

 飛縁魔ではないのですね、と改めて問うしぃに、貞子は「そうね」と無愛想に返す。

139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/09/13(金) 20:23:15.85 ID:REyuzfcd0
 
川д川「ただの男狂いの色情霊。こう言えばいい?」

 下卑た答えだった。
 しぃの眉間に刻まれた皺が、彼女の受けた不快さをありありと表していた。

【+  】ゞ゚)「弁護人が──偽証するように仕向けたのか」

ξ゚听)ξ「はい」

【+  】ゞ゚)「人間である自分が言えば、くるうに嘘がバレるから。
        だから被告人本人に言わせたのか」

ξ゚听)ξ「はい」

【+  】ゞ゚)「俺や検事や証人を、騙そうとしたのか」

ξ゚听)ξ「……はい」

【+  】ゞ゚)「自分が勝つために?」

ξ゚ -゚)ξ「……」

(;´・ω・`)「お、オサム様。たしかに褒められたことではありませんが、
      人間の裁判においても多々あることです」

【+  】ゞ゚)「……今回は見逃す。まんまと騙された俺にも落ち度があった」

 次は何らかの処罰を下す──オサムの警告に、ツンは「申し訳ありません」と頭を下げた。

140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/09/13(金) 20:25:11.38 ID:REyuzfcd0
 
 意外にも、しぃやギコはツンを叱責しなかった。
 ギコはともかく、しぃなどはここぞとばかりに責め立てそうなものだったが、
 お馴染みの見下げ果てた視線すらなかった。

【+  】ゞ゚)「審理に戻ろう。
        その写真では、被告人には傷痕が無いようだ。
        ということは、自殺した際に出来たものなのだろうか」

(*゚ー゚)「いいえ。写真と今の被告人では、髪の長さが違います。
     恐らく写真は、自殺するより随分前に撮られたものであるかと」

【+  】ゞ゚)「ん……そうか、写真が撮られた日から自殺した日までの間に負傷した可能性もあるか」

(,,゚Д゚)「眠ってる間に焼死したのよね? じゃ、自分がどんな姿で死んだか分かってなかった筈。
     だからこそ今ここにいる被告人の霊体は──まあ、顔を除いて──傷も何もない綺麗な状態なわけよ」

(´・ω・`)「死後に自分の遺体を見て、霊体がそれに合わせて負傷した可能性は?」

(,,゚Д゚)「それだと丸焦げになってるでしょう?
     そうでなくても、あれだけ長い髪や服に燃えた痕跡が一つも無いのは不自然だし」

141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/09/13(金) 20:27:18.12 ID:REyuzfcd0
 
(*゚ー゚)「ですので、顔の傷は生前に付いたものである筈です。
     原因と思われるものも、ここに」

 しぃがパソコンを引き寄せ、マウスを掴んだ。
 大きなスクリーンの中でカーソルが動く。

 カーソルの先が、資料の一番最後の行をなぞった。

(;゚д゚ )「……『昨年にも火の不始末で火災を起こしていた』……?」

 それは、貞子が過去に同様の事件を起こしていたことを伝えている。
 ふん、と貞子が鼻を鳴らした。

142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/09/13(金) 20:29:41.27 ID:REyuzfcd0
 
川д川「あれは私が悪いんじゃないわよ。
    家に連れ込んだ男が……あいつ、やるだけやったらそっぽ向いて煙草吸って……。
    つまんないから私寝てたの。そしたら──」

川#д川「あいつ、煙草に火つけたままうたた寝したのよ! あまつさえ1人で逃げるなんて!
     ……目が覚めたら火が回ってて、あいつのせいで、私の顔、こんな……!!」

 もし見付けたら呪い殺してやる──貞子の物騒な呟きを、ツンが咎める。

 既に、無罪判決や酌量減軽とやらは諦めているのだろう。
 事情も感情も、ありのまま剥き出しにしていた。

川#д川「旦那がたまたま早引けしてこなかったら死んでたわよ、きっと!」

 ──こんな顔になるくらいなら、あのとき死んでいた方がマシだったけど、と付け足す貞子。
 その髪型も、火傷の痕を隠すためのものだったという。

145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/09/13(金) 20:31:56.45 ID:REyuzfcd0
 
(;,゚Д゚)「旦那って……結婚してたの、あんた」

川д川「……あれもつまんない男だった。頭堅くって。
    おかげで親権あっちに渡って離婚よ。
    追い出されるし、この顔のせいで男も引っ掛からなくなるし──あの一年、ほんと地獄だった」

(;´・ω・`)「まさか、それで自殺を?」

川д川「悪い?」

【+  】ゞ゚)「……自業自得だろう」

川#゚ 々゚)「なんかヤダ、くるうこいつ嫌い……!」

ξ゚听)ξ「貞子さん、そこら辺でやめとおいた方がいいわ。
      印象がますます悪くなっちゃうから」

 オサムの心証は最悪だろう。
 法廷にいる者のほとんどが、彼女に対して多少の嫌悪感を抱いている筈だ。
 それでも貞子には、こたえた様子もない。

147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/09/13(金) 20:33:45.14 ID:REyuzfcd0
 
(*゚ー゚)「……彼女にとって、一度目の火事の記憶はひどく色濃いもののようです。
     彼女が焦げ跡を目印にしたり、無意識に火の玉を出していたのはそのせいでしょう」

 それはたとえば、溺死した人間が、幽霊になっても全身から水を滴らせるのと同じだという。
 生前、あるいは死の間際に残された強烈なイメージが、霊自身に影響を与えるのだと。

 「そうなんだ」。他人事のように流した貞子は、不意にミルナを見た。
 にたり、笑う。

川д川「……ぜーんぜん、覚えてないんだあ?」

(;゚д゚ )「……は……?」

 そこへ、ギコの携帯電話が流行りの歌を奏でた。

149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/09/13(金) 20:35:15.31 ID:REyuzfcd0
 
(,,゚Д゚)「もしもし。──あら、ありがとうね。
     生憎、その話はもう本人から聞いちゃったけど。ええ、また何かあったら掛けるわ。じゃあね」

 ギコがパソコンを操作する。
 スクリーン内で、メールボックスが開かれる。
 それから、新しい受信メールに添付されたファイルをクリック。

(,,゚Д゚)「一回目の火事に関する情報ですって。いま聞いた話と大差ないでしょうけど──」

 書式は先程のものと同じだった。
 日付は11年前、春先。
 事件の場所はやはりS県だが、町の名前は違った。

 それらの情報を読み上げていくギコ。
 しかし、人物の名前に差し掛かった瞬間に、詰まった。
 ギコの声に合わせて文を追っていた内藤の思考も、そこで急ブレーキをかけられる。

150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/09/13(金) 20:37:08.17 ID:REyuzfcd0
 

(,,゚Д゚)「……河内……?」



 ──河内貞子。


 確かに、そう書かれていた。



(;゚д゚ )「……!?」

 ミルナが血相を変えて立ち上がる。
 がたがたと、椅子の揺れる音が激しく鳴った。

152 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/09/13(金) 20:39:29.13 ID:REyuzfcd0
 
川д川「離婚する前だもの……旦那の苗字よ」

('、`;川「河内って」

 よくある苗字だ。
 偶然だろう。
 「そんなこと」、あるわけがない。

 だが。

 記事を読み進めていくと、やがて、「それ」にぶつかった。





 ──「息子・ミルナ 左腕に深い火傷」──





 ミルナが左腕を押さえる。
 内藤の脳裏に、あの、染みのような痣が浮かんだ。

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