ξ゚听)ξ幽霊裁判が開廷するようです

case5:誘惑罪/中編

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41 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 03:03:17 ID:BXPGb1/sO

( ゚д゚ )「あの御札、俺が貼ったわけじゃなくて。実はうんざりしてたんだ」

 あれよあれよという間にミルナが自動販売機でジュースを買ってくれた上、
 内藤の隣に座って話し出したので、公園から立ち去る機会を失ってしまった。

( ゚д゚ )「いきなり入ってきて剥がし出したときは何かと思ったけど……
     でも、君のおかげで少しすっきりした。
     部屋が明るくなった気がして、何か、久々に散歩したいような気持ちにもなれたんだ」

 ありがとう、とミルナがお辞儀する。
 どういたしまして、と一応返して、内藤はジュースを飲んだ。

 ミルナが着ている半袖のシャツ。
 その左腕の袖の下から、ちらりと、痣というか傷跡のようなものが覗いた。
 やはり見間違いではなかったか。

42 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 03:06:02 ID:BXPGb1/sO

( ゚д゚ )「君は出連さんの知り合いなのか?」

( ^ω^)「──どうして」

( ゚д゚ )「君がうちに来た理由を親父から聞いたけど、俺は君を助けた覚えはないよ。
     返ってきたハンカチは、おととい出連さんと会ったときに持っていってたやつだったし」

 顔色が悪く少し窶れ気味だが、口調はしっかりしている。
 夢に取り憑かれていた割には日記に印まで残すような人間だし、
 他の被害者よりはまだ軽症で済んでいるかもしれない。

( ^ω^)「……怒ってますかお?」

( ゚д゚ )「別に。さっきも言ったけど、お札の件は感謝してる。
     君が来なければ、ずっとあのままだったろうし」

( ^ω^)「自分で剥がそうとは思わなかったんですかお」

( ゚д゚ )「うん。……親父が勝手に貼ったんだ。
     馬鹿らしくて、何か、いちいち剥がしてやるのも癪だった。
     勝手にしろって気分だったんだな、もう」

( ^ω^)「……お父さんとずいぶん仲が悪いみたいですお」

 ミルナに嫌われている、と父親が言っていた。
 父親はミルナを気にかけているように見えるので、
 どうも、息子が一方的に嫌っているらしかった。

 彼はベンチの背もたれに寄り掛かり、目を伏せる。

43 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 03:07:52 ID:BXPGb1/sO

( -д- )「昔っから嫌い……の筈だ。
     小さい頃の記憶なんてほとんど無いんだけどな」

 どうして、と口にしかけて思い留まる。
 掘り下げようとする癖が出来てしまったようだ。

 待ってみてもミルナは続きを話さない。
 沈黙が気まずい。

( ^ω^)「僕には、真面目で優しい人に見えましたお」

 何気なく口にすると、ミルナは小さく笑った。
 嘲笑の類。

( ゚д゚ )「他人相手ならそうなんだろう。
     でも家族に対しては最悪だ」

 吐き捨てるように言って、まだ何か続けようとしたミルナだったが、
 内藤に顔を向けると悩むような目つきをしてみせた。
 言いたいことがある。しかし内藤に聞かせるべきではない、そんな話なのだろう。

44 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 03:11:37 ID:BXPGb1/sO

( ^ω^)「話したくないなら聞かないし、話せるなら聞きますお」

 そうか。
 囁くように一言落として、ミルナが俯く。
 またもや沈黙。

 話は続けられることなく、ミルナが腰を上げることで打ち切られた。

( ゚д゚ )「悪いな、帰るよ。出連さんによろしく」

( ^ω^)「はいお。……ジュース、ありがとうございましたお」

 ミルナの背を見送り、ジュースの缶を両手で握る。
 冷えていく手のひら。頭はまだ冷えきらない。
 成果は何も無し。どころか、しぃに余計なことを言っただけ。

 ジュースを半分ほど飲み下し、内藤は缶を持ったまま公園を後にした。



*****

45 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 03:13:17 ID:BXPGb1/sO


 ミルナは、自分に呆れていた。

( ゚д゚ )(俺は不幸自慢でもするつもりだったのか)

 自室の窓の傍に腰を下ろし、公園で会った少年を思い浮かべる。

 ミルナの父を優しいと評した彼の言葉に、反発心が湧いた。
 それで──自分の過去を話してしまいたい気持ちになったのだ。

 少年からすれば、聞かされたところで困るような話である。
 思い留まって良かった。

(;-д- )(身内の恥でもあるよなあ……)

46 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 03:14:08 ID:BXPGb1/sO

 ──ミルナには、7歳より前の記憶が無い。

 嫌な記憶を頭の底に封じて自分を守っているのだろうと、
 いつぞや、カウンセラーが言っていた。
 それが具体的に何なのかは知らないが、原因は父親だろうと考えている。

 ミルナが明確に継続した記憶を持つようになったのは、
 この町に父親と2人で越してきた前後からだ。
 それ以前のことは非常に曖昧で、どんな家でどんな暮らしをして、どんな友達がいたのかも分からない。

47 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 03:17:20 ID:BXPGb1/sO

 辛うじて覚えているのは、母に向かって怒鳴る父。
 それで泣かされている母。
 自分はいつも隣の部屋で、母の泣く声を聞いていた──気がする。

 その挙げ句に父は母を捨てた。
 どのような流れで離婚したのかは知らないが、父を嫌うには充分な光景である。

 ミルナに対してだけは常に気を遣うような態度でいるのが、また腹立たしい。
 その気遣いを、なぜ母に見せてやらなかったのか。

 最近のペニサスへ向ける父の態度も嫌だ。
 母を虐げるときの声に似ていて、頭が痛くなる。
 ミルナが止めようとするとますます怒るのだから堪らない。

 そうしてミルナも苛立って、心が荒れて──

 夢が。
 恋しくなる。

48 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 03:22:52 ID:BXPGb1/sO

( ゚д゚ )(……裁判って、本気でやるのかな……。
     捕まった人──霊か。霊って、本当に、あの夢の人なのかな。
     ここ最近は夢に出てこないけど、やっぱり……)

 膝を抱えて考え込む。
 夢を思い出すと、腹の辺りに熱が滲んだ。

 あの夢は気持ちがいい。
 熱くて。溶けそうで。
 舌が絡むだけで体中の力が抜けそうになる。ペニサスのときとは随分違った。


 しかし──それにしても。
 夢の女性とは違う、あの声の主は誰なのだろうか。

49 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 03:25:09 ID:BXPGb1/sO

 ミルナを現実へ引き戻そうとする声。
 何故だか懐かしい。

 ミルナ。ミルナ。あんな風に名前を呼んでくれる誰かを、自分は知っている筈なのだ。
 まるで心配するような声の──


(;゚д゚ )「──!!」


 顔を上げる。
 そのまま硬直し、一瞬過ぎった思考の欠片を必死に追う。

 そうして「それ」に気付いたとき、ミルナは思わずポケットに手を伸ばしていた。

 立ち上がり、室内をうろついて、机の前で足を止める。
 悩みに悩んだ末、彼はポケットから出した携帯電話で父の番号へ掛けた。

50 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 03:27:26 ID:BXPGb1/sO

 呼び出し音。
 汗がこめかみを伝った。
 間もなく、音が途切れる。

『──ミルナか』

( ゚д゚ )「……親父」

『どうした。珍しいな』

 昼休みなのかどうか知らないが、父はすんなり応対した。

 本題を切り出そうとして、口籠もる。
 ミルナは自らを奮い立たせるために右手で拳を作ると、思い切って訊ねた。

( ゚д゚ )「母さんは今どこにいるんだ」

 父は答えない。
 電話越しに、彼の戸惑いが伝わってくる。

51 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 03:30:39 ID:BXPGb1/sO

( ゚д゚ )「──この世には、いるのか」

『……』

 3秒。5秒。

『いいや』

 拳に力がこもる。
 爪が手のひらに食い込んだ。

 なぜ黙っていたのか。なぜ死んだのか。
 問い詰めたかった。
 けれどもう、父と話したくなかった。

 通話を切り、携帯電話をベッドに投げつける。
 机に手をついたミルナは、唇を噛み締めて項垂れた。

(;゚д゚ )「……、……くそっ……」

52 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 03:33:37 ID:BXPGb1/sO

 ──ミルナは母親の顔すら覚えていない。
 それでも母は好きだった。

 嫌な思い出以外に、唯一、心が安らぐ記憶がある。
 何歳の頃だろうか。
 熱を出したとき、ずっとミルナに声をかけ、看病してくれた女性がいた。

 その人の顔も思い出せないが、それは母の筈だ。

   『……ミルナ……』

 ミルナを心配する声は、優しかった。
 温かかった。


 ああ、どうして気付かなかったのだろう。


(;-д- )(『夢』を見るときの……俺を引き止める声と同じだ……)

53 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 03:34:51 ID:BXPGb1/sO

 母は今もずっと、ミルナを心配してくれていたのだ。
 あんな夢に取り込まれてはいけないと、ずっと警告してくれていた。

 なのに自分はそんなことも知らずに、夢に溺れて。

(;゚д゚ )「母さん……」

 ミルナは机の上、一枚の紙を手に取った。
 埴谷ギコ。少し前に家を訪ねてきた刑事の名刺。

 そこに書かれた電話番号を確認しながら、再び携帯電話を使うためにベッドへ歩み寄った。



*****

54 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 03:37:47 ID:BXPGb1/sO


#####


     ──おとうさん。



   (*ぅ-゚)『おとうさん、どこ行くの……』

   (*゚∀゚)『あ……しぃ。まだ起きてたのか?
        父さんはちょっと仕事行くとこだよ』

   (*゚ -゚)『今日もおとうさんが勝つの?』

   (*゚∀゚)『どうかな。そうだといいけど……何にせよ今夜の裁判が終わったら、休みもらえるから。
        明後日、遊園地行こうな!』

   (*゚ -゚)『遊園地? ほんと?』

   (*゚∀゚)『ほんと! ……さ、ギコ君と一緒に寝ておいで。
        ギコ君にあんまりわがまま言っちゃいけないぞ』

   (*-ー-)『うん』

   (*゚∀゚)『おやすみ、しぃ』

   (*-〜-)『おやすみなさい……』

55 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 03:39:28 ID:BXPGb1/sO


   (,,゚Д゚)『しぃ。どうした? こっちで寝るのか?』

   (*-〜-)『うんー』

   (;,゚Д゚)『もうほとんど寝てるな……あーこらこら、ちゃんと布団入れって。ほら』

   (*゚ー゚)『……ぎこ』

   (,,゚Д゚)『何だ? 絵本か?』

   (*゚ー゚)『おとうさんがね、あさって、遊園地行こうって』

   (*,゚Д゚)『お、良かったな』

   (*゚ー゚)『……おかあさんも一緒に行くよね』

   (,,゚Д゚)『……うん。きっと行ってくれるよ』

   (*-ー-)『ふふ……ギコも行こうね』

.

56 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 03:41:39 ID:BXPGb1/sO





     ──しぃ。
     しぃ。



   (;,゚Д゚)『しぃ!』

   (*ぅ-゚)『んー?』

   (;,゚Д゚)『しぃ、着替え……あー、いや、上に何か羽織ればいい。
        とにかく起きろ!』

   (*゚ -゚)『なんで? どこか行くの? 遊園地?』

   (;,゚Д゚)『……叔父さんが──つーさんが、』


#####

57 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 03:42:18 ID:BXPGb1/sO



(*- -)

(*- ゚)「……」

 蛍光灯の明かりがまぶしい。
 時間が空いたので昼寝をしていたのを思い出した。

 夢の内容に舌打ちする。

 昨夜と一昨夜、そして今日。
 見たのは全て同じ夢だった。

59 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 03:48:34 ID:BXPGb1/sO

(*゚−゚)(内藤君とあんな話をしたからだな)

 2日前の昼、あの変な少年と交わした会話が脳裏を掠めていく。
 いくつかの言葉は胸中に留まり、ざらつく感情を沸き上がらせる。

 彼も随分と毒されたものだ。
 ツンや怪異に振り回されるのを嫌うようなスタンスでありながら、
 すっかり幽霊裁判──ひいては裁判に関わる人間──に深入りしようとしている。

 それにしても彼は子供らしいんだか、らしくないんだか。
 ツンを奇人扱いして馬鹿にする割に彼も充分、いや、ツンと同等の変人である。

(,,゚Д゚)「しーぃ。起きた?」

 ぼうっと霞んだ視界と意識に、見慣れた顔が入り込んできた。
 化粧をしている。

60 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 03:50:39 ID:BXPGb1/sO

(*゚−゚)「……何だ。ギコか」

(,,゚Д゚)「ギコちゃんよーう。
     ほら起きなさい。そろそろ時間よ。ミルナくん迎えに行かなきゃ」

(*゚−゚)「うん……」

 身を起こす。
 革張りのソファが、ぎしりと鳴いた。

 寝起きの頭をゆっくり働かせながら辺りを見渡した。
 机。スチール製の戸棚。本棚。

 実家の離れに作った、事務所代わりの部屋だ。
 最近、あまり母屋の方で過ごしていない。

 背凭れに引っ掛けていた学ランを取り、羽織る。
 しぃはボタンを留めながら、姿見の前でひらひらした服を確認しているギコを見た。

62 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 03:52:04 ID:BXPGb1/sO

(*゚ー゚)「……お前は本当に、昔と比べるとキャラが変わったな」

(,,゚Д゚)「何よう、急に。
     あんたに言われたくないわ」

(*゚ー゚)「それもそうだ」

 机に乗っている資料を鞄に詰める。
 ギコが振り向き、にっこり笑った。

(,,゚Д゚)「行きましょうか」

(*゚ー゚)「ああ」

 踏み込みで革靴を履く。
 どこで買ったのか、女物とは思えぬサイズのサンダルをギコの方へ向けて置いた。

(*゚ー゚)「何だこのヒール……歩きづらくないのか」

(*,゚Д゚)「可愛いからいいの」

 そういうものかと思いつつ、事務所を出る。
 女性的なお洒落はよく分からない。

63 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 03:53:20 ID:BXPGb1/sO

 現在午後7時。まだ僅かに明るかった。
 正門より裏門の方が近い。そちらへ向かおうとすると──

(#゚;;-゚)「しぃさん……」

(*゚−゚)

 背後から声をかけられた。
 右手で強張った顔に触れる。
 ギコが、しぃと声の主の間に立った。

(,,゚Д゚)「こんばんは、叔母様」

(#゚;;-゚)「こんばんは……あの、もう行かれるの?」

(,,゚Д゚)「ええ」

(*゚ー゚)「どうかなさいましたか? 母さん」

 ギコの隣に立ったとき、しぃの顔には既に笑みが浮かんでいた。
 ツン達に向けるような冷ややかなものではなく──素直で優しげな。

 着物を着た女性、しぃの母は、ほっと安堵するように笑った。
 重箱を抱えている。

64 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 03:55:09 ID:BXPGb1/sO

(#゚;;-゚)「最近、離れでご飯とか済ませてるでしょう?
     たまにはお母さんが作ったものを食べてほしくて……」

 媚びるような声。
 顔や手にちらほら残る、古い傷跡。

 ──相変わらず醜い人だなと思った。

(*゚ー゚)「ありがとうございます。
     ですが今は食べられませんし、いつ帰ってこられるかも分からないので──」

(,,゚Д゚)「そんなに遅くならないわよ。
     ……叔母様、帰ってきたら、あたしとしぃで頂きますね。
     それまで事務所の冷蔵庫に入れておきます」

 ギコが和やかに微笑み、丁寧に重箱を受け取った。
 蓋をずらして中身を見ながら、あら美味しそう、と明るい声で言う。

 母は頬に手を当てた。
 そこに残る一番大きな傷跡を指先でなぞる。
 気付いているのか知らないが、彼女の癖だ。

65 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 03:56:11 ID:BXPGb1/sO

(#゚;;-゚)「……しぃさん、今夜もその格好で行くの?」

(*゚ー゚)「はい」

(#゚;;-゚)「暑いでしょう? それに──男の格好だなんて。
     あなたはもっと女の子らしい服の方が似合うのに」

 笑いだしてしまいそうだった。
 手を当て、咳をする。そうすることで口を押さえた。

(#゚;;-゚)「大丈夫? 夏風邪かしら……」

(* ー )「平気です」

 母と目が合った。
 彼女は、眉を顰めていた。

66 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/08(木) 03:56:58 ID:BXPGb1/sO

 また一層、父に似てきたと思っているのだろう。

 それでいい。
 もっともっと、父に近付いてやる。

 こんな女になるより、ずっといい。



case5:続く

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