ξ゚听)ξ幽霊裁判が開廷するようです

case3:復讐罪

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553 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/06(水) 20:57:50 ID:qgnrL7UgO



ξ゚听)ξ「──追体験っていうの? そういう感じ」

 家路の途中。
 「送る」と言い出し、内藤と並んで歩いていたツンは、突然そう言った。

( ^ω^)「何がですかお」

 夏は日が長い。
 夜と言える時間にはなっているが、まだ辺りを視認出来るほどに、闇は浅い。

 ツンの足取りは、法廷とは全く違った。
 先程、タクシーで帰れとギコ達に言われた際、これ見よがしにスキップを始めたくらいには
 もうすっかり回復しているようだ。

ξ゚听)ξ「何がって、ほら、前に約束したでしょ。
      『内藤君がまた幽霊裁判に関わったら、私の秘密を教えてあげる』って」

 内藤は無言で歩を進めた。
 それに構わず、ツンは話を続ける。

555 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/06(水) 21:00:04 ID:qgnrL7UgO

ξ゚听)ξ「昔からよくあったのよ。
      幽霊や妖怪と向かい合って話すとね、そいつの──過去の記憶の一部とかが、
      私の頭の中で繰り広げられて……まるで私自身が体験してるみたいになる」

( ^ω^)「……」

 何となく、予想はついていた。
 内藤にも似たような経験がある。
 浮遊霊が、いかに無念なのかをアピールするために記憶を見せてきたり、脳内に感情を流し込んできたり。そういう。

 ただツンの場合は、口振りからするに
 「相手が見せてくる」のではなく「勝手に見えてしまう」のが正しそうだが。

ξ゚听)ξ「体験っつったって、100%じゃないのよ。
      映像だけで音声が聞こえなかったり、逆に音声だけが聞こえたり……。
      触感や臭いまで感じたり、感じなかったり」

ξ゚听)ξ「あと、いつでも見れるわけじゃなくてね。
      相手が油断してたり私に心を許してたりするときだけなのよね」

557 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/06(水) 21:03:53 ID:qgnrL7UgO

( ^ω^)「……とりあえず、トソンさんやドクオさんのときに
       焦ってたり余裕ぶってたりした理由が分かりましたお」

 トソンの裁判でツンが焦っていたのは、内藤が「ごみ山」での出来事を思い出せるか分からなかったから。
 ドクオの裁判でそこそこ悠然としていたのは、弟者さえ目覚めれば
 数日前の記憶くらい、すぐに思い出してくれるだろうと踏んでいたから。

 概ねこんな感じだろう。

ξ--)ξ「ドクオさんはねえ、私をばりばり警戒してたから分かんなかったわー。
      まあハインさんがめちゃくちゃ油断してくれたおかげで、裁判前に真犯人わかって助かったけど。
      あ、あと、くるうさんとか裁判長も全然分かんない」

 あのバカップルは色々と謎よね。
 両手を広げ、ツンが言った。

 近くの民家から煮物の匂いが漂ってくる。
 香りが鼻を抜け、内藤の腹を刺激した。

558 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/06(水) 21:05:20 ID:qgnrL7UgO

ξ゚听)ξ「今回はヒートさんもなおるよさんも、今日になるまで分からなかったのよ。
      でも今日の昼、ヒートさんと話してるときに……彼女も疲れてたんでしょうね。
      ようやく記憶を辿れたわ」

ξ;--)ξ「ただ、追体験した箇所が悪かった……。
      ヒートさんがなおるよさんに拷問じみた方法で惨殺されるシーンでね……。
      よほど強い記憶だったのか、感触も臭いも音も、何もかも体験しちゃって」

( ^ω^)「あー……それで倒れたんですかお」

ξ;゚听)ξ「しかも、たちが悪いことに、ちょっとシンクロしちゃったみたいで……。
      ヒートさんが動揺したり怯えたりすると、その記憶が繰り返し再生されるようになってさ。
       こりゃあ私1人じゃ無理だわってことで、内藤君を呼んだの」

559 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/06(水) 21:08:32 ID:qgnrL7UgO

ξ;--)ξ「まあ流石に、ヒートさんが実際に経験した苦痛の半分にも満たなかったでしょうけど。
      それでもキツすぎたわ。参った」

 道理で、審理中に度々調子がおかしくなっていたわけだ。
 さぞ大変だったろう。

ξ゚ -゚)ξ「……で、加えて、ヒートさんの感情も流れ込んでくるのよね。
      『やっと復讐出来たのに、まだなおるよが目の前にいる。
      早くこいつのいない場所に行きたい。丸ごと消えてしまいたい』っていう感じの」

ξ゚听)ξ「……なおるよさんをもっともっと苦しめたい、
      でももう傍にいたくない……──とかね」

( ^ω^)「……なるほどですお」

 だからこそ、ツンは裁判の日付とヒートの「動機」に拘ったのだろう。

 今日の内にヒートとなおるよを永遠に引き離し、
 さらになおるよに厳罰を与える。
 それらを実現したかったのだ。

 ヒートも、早く全てを終わらせたいと思うと同時に、
 心の底ではなおるよの罪を暴いてほしかったのではないか。
 「死因」の件が、その表れだったのかもしれない。

561 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/06(水) 21:10:03 ID:qgnrL7UgO

ξ*゚听)ξ「内藤君がいてくれて良かった! ありがとうね、あれはナイスな質問だったわよ。
      お礼にちゅーしてあげる」

( ^ω^)「やめてください腐る」

ξ゚听)ξ「噛みちぎってやろうか」

( ^ω^)「……にしても、なら、どうして誰にも話さないんですかお」

ξ゚听)ξ「んー?」

( ^ω^)「今回に限らず、ツンさんの『追体験』をみんなに話せば裁判なんか開かずに済むだろうに。
       ……ほら、ツンさんが、容疑者が本当に罪を犯したかどうかを説明して、
       くるうさんに嘘をついてるかどうか確認してもらえば……」

 その方が、よっぽど楽だと思う。
 回りくどい真似をしなくていいわけだし。

 しかし、ツンはそうは思わないようだった。

562 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/06(水) 21:11:11 ID:qgnrL7UgO

ξ゚ー゚)ξ「……そう出来れば簡単なんだけどねえ」

( ^ω^)「出来ないんですかお?」

ξ゚ー゚)ξ「結局は、言い方と考え方が問題なのよね」

 言い方。と、考え方。
 内藤には分からない。首を捻る。

ξ゚听)ξ「たとえば私が、誰かに内藤君を紹介するとして……。
      『猫を被って他人を欺いているクソガキです』って言ったら、相手はどう思うかしら?」

( ^ω^)「第一印象最悪ですお」

ξ゚听)ξ「うん、そうよね。でも、
      『場を和ませるために周りに合わせることが出来る、空気の読める子です』って言ったら?」

( ^ω^)「……」

ξ゚听)ξ「きっとほとんどの人が、内藤君は優しくて楽しい子なんだと感じるわ。
      くるうさんだって、嘘の臭いなんか感じないはず」

564 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/06(水) 21:13:36 ID:qgnrL7UgO

ξ゚听)ξ「……これは恐いことよ。
      みんなが、私の言うことが全て真実なんだと信じるようになってしまったら……。
      絶対に良くないことが起きる」

ξ゚听)ξ「もしも、私が個人的な感情で容疑者を嫌っていたら?
      ……その人は大した罪を犯していないのに、
      私が極悪人のような扱いをしたら──」

 その先は続かなかった。
 けれど、言わんとすることは理解出来る。

 そして「意外に思慮深い人だな」とも感じた。
 失礼極まりない。

565 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/06(水) 21:15:45 ID:qgnrL7UgO

ξ゚听)ξ「……だから私は、このことは黙っておくことにしてるの。
      依頼人が事件にどう関わってるかが分かったら、
      あとは自力で証拠や証言を集めて、それを証明するだけ」

ξ゚听)ξ「たとえ依頼人が無実でも、私の実力が足りなくて
      しぃ検事が一枚上手だったら、有罪にされてしまう──
      それくらいの『隙』を残しておいた方が丁度いいのよ。きっとね」

( ^ω^)「今日さっそく僕に助け求めてたじゃありませんかお」

ξ゚З゚)ξ「そういう、人のツテも実力の内なの!」


.

566 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/06(水) 21:18:01 ID:qgnrL7UgO



l从・∀・*ノ!リ人「あっ、ブーン!」

( ^ω^)「お」

 気付けば流石家の近くにいた。
 玄関の前には流石妹者と弟者の2人。

 妹者がブーンのもとへ駆けてきて、一方の弟者はツンを見て顔を顰めた。

ξ゚∀゚)ξ「チャオー」

(´<_`#)「ブーン。どういうことだ」

( ^ω^)「まあそれなりに深いわけが……2人共どうしたんだお」

567 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/06(水) 21:20:44 ID:qgnrL7UgO

l从・∀・*ノ!リ人「姉者が晩ご飯の準備しててね、材料足りなかったみたいで、おつかい頼まれたのじゃー。
        ツンさん、こんばんは! じゃ!」

(´<_`#)「妹者、そんな変質者に挨拶するな!」

ξ゚听)ξ「このシスコンは酷いわねー、妹者ちゃん」

l从・∀・ノ!リ人「ツンさん、目の前にいるのが妹者で良かったのう。
       妹者じゃなくて姉者だったら、今頃ツンさんはちっちゃい兄者にフルボッコだったのじゃ」

ξ゚听)ξ「ええ、ほんと良かったわ……。
      弟者君のシスコンぶりがまだ『やだやだ姉者と一緒じゃなきゃ
      買い物行かないー』レベルにまで進行してなくて……」

l从・∀・ノ!リ人「実は最初はおっきい兄者がおつかい頼まれたんじゃがな、
       おっきい兄者が『妹者と一緒に行きたーい』って騒いでキモ鬱陶しかったから
       妹者とちっちゃい兄者で行くことにしたんじゃ……」

ξ゚听)ξ「変な兄弟に囲まれて苦労するわね……」

(´<_`;)「俺らの悪口で妹と盛り上がるな! 中2の繊細さナメんなよ!!」

 ツンと弟者が言い合いを開始する。
 無視して家に入ろうかと内藤が思案していると、
 ツンの鞄に目をやった妹者が、明るく声をあげた。

569 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/06(水) 21:23:44 ID:qgnrL7UgO

l从・∀・ノ!リ人「あっ」

\(^o^)/

 ぱっと妹者の瞳が輝く。
 視線の先には──鞄の口からはみ出た、オワタくん人形。
 持ってきていたのか、それとも勝手についてきたのか。

 内藤がどうでもいいことを気にしている間に、妹者の手が人形に触れていた。


\(^o^)/⊂l从・∀・*ノ!リ人「これ何なのじゃ?」

(;^ω^)「あっ、それ……」


ξ゚∀゚)ξ「ん?」

 弟者の罵声を笑って聞いていたツンが、妹者へ振り返る。
 焦る内藤とは対照的に、ツンは鞄の口を大きく広げ、妹者が取りやすいようにした。
 気味の悪い気配ごと、人形が妹者の手に渡る。

570 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/06(水) 21:24:47 ID:qgnrL7UgO

 妹者は人形を見下ろし、言った。


l从・∀・*ノ!リ人「万歳してて可愛いのじゃ!」


 瞬間。
 オワタくん人形が纏っていた嫌な気配が、消えた。


 内藤の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
 それと共に目から鱗が落ちた。

 万歳。
 たしかに、そうも見える。
 内藤が真っ先に抱いた「お手上げ」という感想とは正反対だ。

571 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/06(水) 21:28:37 ID:qgnrL7UgO

(´<_` )「何か妙にめでたそうな人形だな。
       笑顔で万歳って」

l从・∀・*ノ!リ人「のじゃ!」

 人形を掲げ、妹者がくるりと回る。
 黒い靄は出なかった。
 それどころか一瞬、白い光の筋のようなものが妹者の顔をくすぐって、消えた。

 人形を抱き締めてから、妹者は名残惜しそうにツンのもとへ戻した。
 ツンは小声で内藤に囁く。

ξ゚ー゚)ξ「……ね。言い方と考え方で、ずいぶん変わるもんでしょ」

( ^ω^)「……ですお」

ξ゚听)ξ「さあて、帰るわ。
      じゃあね、ごきげんよう皆さん。
      ──妹者ちゃん、近々いいことあるかもよ」

 ツンは人形を鞄に突っ込むと、流石家の前から去っていった。
 ますます暗くなっていく住宅街の中、彼女の後ろ姿がより濃い黒を残していた。


.

572 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/06(水) 21:29:35 ID:qgnrL7UgO



 その後、内藤は弟者達と一緒にスーパーへ行った。

 スーパーの福引きで妹者が2等の米5キロを当てたのは、まあ、余談である。



*****

573 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/06(水) 21:32:29 ID:qgnrL7UgO



(゚、゚トソン

 ヴィップ総合病院。
 廊下を歩く──ゆっくり滑っていく──血まみれの女が1人。

 都村トソン。

 彼女は、友人、三森ミセリの病室へ向かっていた。
 頻繁というわけではないが、たまに見舞いに来ている。

(゚、゚トソン(……誰が、ミセリに憑依したんだろう……)

 ミセリに取り憑き、彼女を植物人間にまでした「真犯人」。
 ツンと内藤のおかげでトソンの疑いは晴れたが、真犯人は未だ分かっていない。

 いっそ──真実は明らかにならなくたっていい。
 ただ、ミセリに目を覚ましてほしかった。

575 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/06(水) 21:35:59 ID:qgnrL7UgO

(゚、゚トソン(おっと)

 「三森ミセリ」。
 プレートが掲げられた病室の前で、トソンは立ち止まった。

 本来なら限られた人物しか入れないが、霊には関係ない。
 壁を摺り抜け、トソンは室内に侵入した。

(゚、゚トソン「ミセ──」



 ベッドの傍らに男が立っていた。

 少々太り気味のシルエット。
 トソンに背を向ける形で立っており、顔までは分からない。

576 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/06(水) 21:36:54 ID:qgnrL7UgO

(゚、゚;トソン「なっ……!」

 男が振り返る。
 その拍子に、彼の右手がミセリの首へと伸ばされているのが見えた。

(  Фω)

 ちらりと確認出来た猫目は、明確にトソンへの敵意を振り撒いている。
 その威圧感に、トソンの行動が遅れた。

(゚、゚;トソン「あっ……待ちなさい!」

 男が逃げる。
 窓を通り抜けた。生きている人間ではない。
 トソンが追ったが、彼女が窓を出たときにはもう、男はどこにもいなかった。

(゚、゚;トソン「……」

 今のは、何者だ。
 ミセリに何をしようとしていた?
 彼はまさか──


(゚、゚;トソン「……『真犯人』……?」



*****

577 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/06(水) 21:38:55 ID:qgnrL7UgO





(;・∀・)「……なあ、ジュース奢るのさ、分割でいい……?」

( ^ω^)(-_-)(´<_` )「一括で」

(´<_` )「あ、俺500mlのスポーツドリンク」

(;・∀・)「何で他のより高いやつ買わせようとしてんだよ死ね!!」



case3:終わり

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