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409 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/05(火) 20:57:56 ID:jIsGywL2O
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('( ∀ ∩「……ぁ」
ほんの数秒後、体中を駆け巡っていた痛みは消えた。
真っ暗になっていた視界に明るさが戻る。
手足が動く。顔や胸を撫でても、全く痛まない。腕にも軋みはない。
周囲に人だかりが出来ている。
皆、好奇と一抹の怯えを浮かべながら、僕を眺めている。
右手を振ってみせるが、誰も反応を返さない。
それどころか、手の動きを目で追うこともしない。
('(゚∀゚∩(……ああ)
そうか。
僕は死んだのか。
('(゚∀゚∩「……ヒート……」
ノパ听)
愛しい人の名を呼ぶ。
彼女は僕のすぐ傍に浮かび、こちらを見下ろしていた。
健康的に日焼けした彼女の手に、自分の手を伸ばす。
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410 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/05(火) 20:59:59 ID:jIsGywL2O
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ノパー゚)
しかし彼女は微笑んだだけで、応えてくれなかった。
しばらくして救急車のサイレンが近付き、人だかりがバラけた。
幾人かの男が担架を持って駆け寄ってくる。
そして──僕は、救急隊員に運ばれていく「僕」を見送った。
どうせ無駄だ。だって、運ばれていったのは肉体だけ。もはや抜け殻でしかない。
魂は、僕という存在は、ここにいる。
ノパー゚)
('(゚∀゚;∩「! ヒート!」
彼女が背を向け、人々の間をすり抜けていく。
追いかけなければ。
死んだばかりなせいか、動きにくい。
僕は何とか起き上がって彼女を追った。
どんどん距離が開いていき、彼女が視界から消え──かけた。
ノハ;゚听)「あっ……」
彼女の動きが止まる。
どうやら、何者かに腕を掴まれたようだ。
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411 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/05(火) 21:02:13 ID:jIsGywL2O
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(,,゚Д゚)
彼女の腕を掴んだまま、じろりと睨みつけた男。
大柄で、精悍な顔つきをしている。
ワイシャツにネクタイ、スラックス。いかにも仕事の途中といった出で立ちだ。
彼はこちらを見遣り、憐憫を瞳に浮かべた。
(,,゚Д゚)「……助けられなくて、ごめんなさいね」
彼はスラックスのポケットから細長い紙を取り出した。
表側にはミミズがのた打ったような文字。
そして、その紙で彼女の両手首をまとめて縛った。
彼女は困惑した顔で男を見上げている。
('(゚∀゚;∩「なっ……何してるんだよ!?」
思わず、彼の腕を掴もうとした。
けれど触れない。
そうか、僕はもう幽霊なのだ。
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412 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/05(火) 21:03:16 ID:jIsGywL2O
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(,,゚Д゚)「現行犯逮捕よ。あたし、たまたま全部見てたもの」
('(゚∀゚;∩「現行犯? ヒートが?」
彼が女口調であることには、この際、構わないことにした。
それより、彼女が犯罪者であるような物言いをされたことの方が重要だった。
彼女は優しい人だ。犯罪に手を染めるような人間ではない。
そう言おうとして──目が眩んだ。
ちかちか、既視感を伴った光景が脳裏に浮かんでは消えていく。
──僕は、SSビルに来ていて。
最上階の展望台フロアに入って。
('( ∀ ;∩「……っ!」
そうだ。
彼女が。
彼女が僕の体を操って、窓から──
.
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413 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/05(火) 21:03:51 ID:jIsGywL2O
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case3:復讐罪
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414 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/05(火) 21:04:55 ID:jIsGywL2O
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( ^ω^)『……ツンさん、全部知ってたんですかお。
僕とトソンさんが会ってたのも、トソンさんが絶対に犯人じゃないってことも』
ξ゚听)ξ『……』
( ^ω^)『だからあんなに必死になってトソンさんの無罪を主張したんじゃ──』
夜道の中、2人は言葉を交わす。
少年──内藤ホライゾンは、出連ツンの顔を見つめ、その真意までをも暴こうとしている。
しかしツンは背を向けてしまった。
ξ゚听)ξ『君がまた幽霊裁判に関わるようなことがあれば、教えてあげる。かも、ね』
絶対に関わるものか。内藤は思う。
しかし知りたいのは確かだ。とも、思う。
遠ざかる背に手を伸ばそうとして──視界が閉ざされた。
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415 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/05(火) 21:06:00 ID:jIsGywL2O
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( ‐ω‐)
( ‐ω^)
起き上がる。
内藤は、時計が午前7時を示しているのを見て、欠伸をしながら布団を出た。
カーテンを開けて朝日を浴びる。
手早く制服に着替えると、鞄の中身を確認してから1階に下りた。
洗面所に入る。
顔を洗い、歯を磨き、身だしなみを整えて。
鏡に向かって、様々な表情を浮かべてみせる。──大丈夫だ。今日も猫被りに支障はない。
( ^ω^)「……」
ふと、先程まで見ていた夢が頭に甦った。
あれは夢というより、記憶の反芻に近い。
一週間ほど前、都村トソンの裁判の後、出連ツンと交わした会話。
彼女の発言は、いかにも意味ありげな口振りだった。
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416 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/05(火) 21:06:45 ID:jIsGywL2O
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( ^ω^)(……あの人は、真実を知ってた)
問題は、なぜ知っていたか、ということ。
──何となく、答えめいたものには気付いている。
内藤とツンは同じだから。同じ──霊感といったものを持っているから。
とある可能性を、内藤は知っている。
だが、「それ」が正解だとすれば、また一つ、気になることが出てくる。
( ^ω^)(……めんどくっせ)
内藤は眉を顰め、冷水で再び顔を洗った。
こんなことを考える必要はない。気にする必要もない。
あれは──幽霊裁判なんてものは「非日常」だ。平凡な日常を送るにあたって、邪魔となるものだ。
水を止める。タオルで顔を拭いながら、鏡に目をやった。
('A`)
内藤の真後ろに、痩せぎすの男が立っていた。
今まさに内藤の肩を掴まんとする体勢で。
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417 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/05(火) 21:07:43 ID:jIsGywL2O
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('∀`)ノシ
( ^ω^)「何してんだお」
鏡越しに男を睨みながら、問いかける。
ドクオ。ここ最近、内藤の周りをうろついている浮遊霊である。
('∀`)「いやねえ、内藤少年に朝の挨拶……ついでにちょっと取り憑──」
内藤が滅多に見せない鬼の形相を浮かべると、ドクオは口を噤んで消えた。
*****
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418 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/05(火) 21:08:45 ID:jIsGywL2O
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(-_-)「──あのさ、この前、駅前のビルで飛び降りがあったでしょ」
昼休み。
ヴィップ中学校、2年1組。
内藤の席の横、窓際に寄り掛かっていた小森ヒッキーが
不意にそんな話題を出した。
( ^ω^)「飛び降りって──ああ、SSビルの?」
(-_-)「そう。……その飛び降りた人ってさ、僕も知ってる人だったんだよね」
(;^ω^)「そうなのかお? それは……何て言ったらいいか」
覚えがある。数日前にニュースで見た。
駅前の高層ビル、SSビル。
そこで、男が飛び降り自殺を図ったという事件が起きたのだ。
内藤は驚きと哀悼を混ぜ合わせたような表情を「作って」、ヒッキーに答えた。
そこへ別の声が割り込む。
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419 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/05(火) 21:10:00 ID:jIsGywL2O
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( ・∀・)「あれか! 展望台に来てた客がいきなり窓開けて──」
(´<_` )「で、飛び降りたってやつだな」
内藤と向かい合うように座っていた浦等モララーと、その隣でしゃがみ込んでいる流石弟者の声だった。
モララーの手にはトランプが2枚、弟者の手には1枚。
4人でババ抜きをしていたのだが、内藤とヒッキーが早々に上がってしまったため、
残る2人の一騎討ちとなっていた。
( ・∀・)「ふらっと1人で来て、ふらっと飛び降りたらしいからなあ。
初めからそれが目的で来てたんじゃないかって言われてる。
──弟者君やい、本当に右でいいのかな? 左の方がいいかもよ? いや、やっぱ右かな?」
( ^ω^)「でも、そういうところの窓って簡単に開かないようになってるんじゃないかお?」
( ・∀・)「一ヶ所だけ、窓の鍵が壊れちまってたんだと。
だから業者が来るまでの間、その窓の周りだけ立ち入り禁止にしてたんだけど──
おっと、右か!? 右を引くのか弟者!?」
(´<_` )「その窓から飛び降りたわけか」
(;・∀・)「そうそう──あああっ! くそ! 左引けよ馬鹿!!」
(´<_` )「上がり。モララーおめでとう、3連続ビリだ」
スペードの2とダイヤの2が、弟者の手から机の上へと落ちる。
モララーはジョーカーを叩きつけるように放り、ぐったりと机に突っ伏した。
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420 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/05(火) 21:13:07 ID:jIsGywL2O
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(;・∀・)「ちっくしょー……もう一回! もう一回やろう!」
(;^ω^)「モララー、3人分×3回で、ジュース9本奢ることになってるんだお?
もうやめた方がいいお」
(´<_` )「次もビリになったら計12本の奢りだな」
(;-_-)「あんまりお金残ってないんでしょ。ここら辺にしときなよモララー」
(;・∀・)「いいや、やる! 俺はやる! 一回でも勝たないと男が廃る!」
( ^ω^)(こいつの将来が心配だなあ)
その言葉は飲み込み、内藤はトランプを集めて整え、シャッフルした。
それから順番に配りながらヒッキーを横目で見る。
( ^ω^)「ヒッキーの話が途中だおね」
( ・∀・)「あ、そういやそうだった。飛び降りの話だっけ」
(´<_` )「ヒッキーとはどういう関係の人だったんだ?」
(-_-)「関係っていってもね、僕がよく行ってた病院の先生ってだけだよ。
お世話になったのは数える程度だし。
でもすごく優しい人だったのは覚えてるなあ」
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421 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/05(火) 21:15:11 ID:jIsGywL2O
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( ^ω^)「何で自殺なんかしたのかお……」
(-_-)「それが、僕も詳しくは分からないんだけど、
一年くらい前にその先生の恋人が自殺してたらしくて──」
( ・∀・)「おお、後追い!?」
(-_-)「さあ……。そう噂する人も多いみたい」
それぞれの手札から、数字の揃っているカードが机に捨てられていった。
1分と経たずに、全員、手札の準備が完了する。
ジョーカーは内藤の手札の中。
( ・∀・)「その展望台ってもう入れんのかな? ちょっと見に行きたいよな」
(´<_` )「ビルの前、まだ血痕が残ってたらしいぞ。兄者が言ってた」
(;-_-)「うえー。しばらくあそこ通るのやめようかな」
順にカードを引いていく。
内藤のジョーカーは早速モララーの元へ旅立っていった。
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422 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/05(火) 21:16:39 ID:jIsGywL2O
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2巡目。
内藤はヒッキーの手からカードを取り、自分の手札と見比べた。
('A`)「ハートの8とクラブの8」
( ^ω^)「あ、本当──」
内藤の手が止まる。
そっと右側へ顔を向けると、今朝会ったばかりの男と目が合った。
v('A`)「よう内藤少年」
覗き込むように前屈みになったドクオが、右手でVサインを作る。
内藤は正面へ顔を向け直し、8のカードを2枚、机へやった。
( ・∀・)「何かあった?」
(´<_`;)" ビクッ
( ^ω^)「いや、何でもないおー」
最近は、内藤が何もない場所を見ると弟者が怯えるようになった。
たぶん彼は犬猫を飼えないであろう。
それはともかく。さて、このまま無視するか、隙を見て蹴り飛ばすか。
ドクオへの処遇を思案する内藤だったが、続けてドクオが口にした言葉に意識を引かれてしまった。
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423 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/05(火) 21:18:09 ID:jIsGywL2O
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('A`)「今度は取り憑きに来たんじゃねえぞ。
裁判の話だ」
裁判。
わざわざドクオが内藤に話しに来たということは、「普通の」裁判ではなく。
幽霊裁判。
(´<_`*)「あ、残り1枚」
(;・∀・)「早っ! 弟者ずりい!」
(-_-)「モララーの手札が一番多いね……」
当然ながら、他の者にはドクオの姿は見えていないし、声も聞こえていない。
('A`)「弁護士がぶっ倒れた。お前に助けてほしいっつってるぞ」
──弁護士、は、確実に。
出連ツンのことだ。
内藤は頭を掻き、手札を机に置いた。
立ち上がる。
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424 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/05(火) 21:20:09 ID:jIsGywL2O
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(;^ω^)「ごめんお! 先生に呼ばれてたの思い出したお……」
( ・∀・)「えー。どんぐらいで戻ってくる?」
(;^ω^)「ちょっと面倒な書類とかの話らしいから、結構かかるかもしれないお。
だから申し訳ないけど、この勝負は終わりってことで……」
(´<_` )「そっか、分かった」
(-_-)ノシ「行ってらっしゃーい」
(*・∀・)「あっ、じゃあ、じゃあっ、試合放棄ってことでブーンの負けだからな!
俺らにジュース1本ずつ奢りな!」
(;-_-)「うわ、ここぞとばかりに」
(;^ω^)「それでいいおー。本当ごめんお!」
両手を合わせて謝り、内藤は慌てた様子で教室を出た。
階段を上り、屋上前の踊り場に立つ。
周りに誰もいないのを確認して、後ろへ振り返った。
相変わらず顔には笑みを湛えているが、目は冷たい。
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425 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/05(火) 21:22:05 ID:jIsGywL2O
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( ^ω^)「つきまといの罪で訴えてやってもいいんですお」
(;'A`)「清々しいほどキャラが違うな、少年」
ふわふわと浮かびながら、ドクオが溜め息をついた。
こういった場所は浮遊霊や妖怪が集まりやすいので好きではないのだが、
ドクオと会話するには、人のいないところに来るしかない。
( ^ω^)「言っておくけど、あの人が倒れようが僕には関係ないことだお」
('A`)「じゃあ何でわざわざこんな場所まで移動したんだ?
詳しく話聞こうと思ったんじゃねえのかよ?」
( ^ω^)「……」
答えられず、目を逸らす。
黙考した内藤は、観念してドクオに視線を向け直した。
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426 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/05(火) 21:23:55 ID:jIsGywL2O
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( ^ω^)「倒れたって、いつどこで倒れたんですかお」
('A`)「さっき。20分くらい前?
場所は神社な。オサム様の家」
( ^ω^)「何で、あんたがそれを僕に伝えに来たんだお」
('A`)「俺も神社にいたんだ。
先月の裁判で俺、冤罪吹っ掛けられたろ。
それのアフターケアだか詫びだか知らんが、たまに呼ばれる」
嫌な予感が、じわじわと。
( ^ω^)「……『助けてほしい』っていうのは、介抱しろとか救急車呼べとかいう意味──」
('A`)「あ、違う違う。
俺最初に言っただろ。裁判の話だって」
( ^ω^)「……じゃあ、それ、あれかお。要するに『手助けしろ』って」
('A`)「そういうこと。だから、放課後に神社に来いってよ。
カンオケ神社。場所分かるか?」
内藤は踵を返した。
階段を下りようとしたが、「待て待て」とドクオに手を引っ張られる。
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427 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/05(火) 21:25:03 ID:jIsGywL2O
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( ^ω^)「何と言われようと、助ける気はありませんお」
('A`)「それならそれでいいさ。強制じゃないっつってたし。
ただ、これ」
('A`)つ\(^o^)/ スッ
言って、ドクオは一つのぬいぐるみを掲げてみせた。
一体どこに隠し持っていたのだろう。
球体に棒状の腕を付けたような単純な作り。お手上げ、というようなポーズだ。
その割に顔は笑っているが。
何故だか、不穏な気配を感じる。
( ^ω^)「……何それ」
('A`)「オワタくん人形。
少年が非協力的なようなら、渡しといてくれって弁護士から頼まれた」
ドクオは内藤の手にぬいぐるみを乗せた。
くれるのだろうか。物凄くいらない。
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428 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/05(火) 21:25:46 ID:jIsGywL2O
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('A`)「世を儚んで絶望し、全てを投げ出さんとしているキャラクター、オワタくん。
十何年か前、少しだけ流行ったんだとよ」
( ^ω^)「そんな鬱々としたキャラクターが何故人気に……」
('A`)「俺が訊きたいわ」
( ^ω^)「ああもう、これ不吉極まりないお」
瞬間、ぞくりと悪寒が走った。
反射的にオワタくん人形を取り落とす。
オワタくんがころころと階段を転げ落ちていく様は、なかなか物悲しかった。
首を傾げつつ、内藤はドクオを一瞥すると顔を背け、足早に下りていった。
*****
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429 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/05(火) 21:26:56 ID:jIsGywL2O
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さて、それから一時間後。
, , ,( ^ω^) トボトボ…
内藤は教室ではなく外にいた。
鞄を肩に提げ、重い足取りで進んでいく。
体中に倦怠感。
動きたくない。
それ以上に辛いのは、沈み込んでいくばかりの気持ちだった。
果てない海の真ん中に放り込まれたような絶望、諦念。
何となく、
( ^ω^)(死にたい……)
漠然とした鬱屈。
黒い靄が内藤の右手に巻きついている。
その靄の発生源は、同じく右手に抱えられた、オワタくん人形であった。
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430 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/05(火) 21:28:07 ID:jIsGywL2O
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ドクオと別れて教室に戻ったとき、階段で落とした筈のオワタくん人形が
内藤の机の中から出てきた時点で、碌なことにならないという予見は出来ていた。
出来ていたのに、すぐに午後の授業が始まったせいで人形を便所に流すことも叶わず、
気付けば、内藤の右手は靄に包まれていた。
さらに突発的に沸き上がった「死にたい」という感情。
それらは時間が経つごとに、濃厚さを増していった。
そこへ教師が「顔色が酷いぞ」と声をかけてきたので──
内藤は早退を申し出ると、荷物を抱えて学校を後にしたのだった。
そして今に繋がる。
.
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431 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/05(火) 21:29:48 ID:jIsGywL2O
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もちろん悔しい。
これはツンによる罠なのだ。内藤を誘き寄せるための。
しかし放ってもいられない。放っているのは何より危険な気がする。
( ^ω^)(……カンオケ神社……)
その神社の名を、聞いたことはあった。
行ったことはない。
正月に弟者達から初詣に誘われたが、体調を崩していて、断ったのだった。
('∀`)「あーあ。かーわいそ、かーわいそ♪ 呪われちゃって、かーわいそ♪
早く何とかしないと、マジで死んじまうんじゃねえの?
俺が取り憑いてやろうか? そんな人形の呪い程度なら跳ね返せるかもー♪」
( ^ω^)「黙れお」
前を行くドクオを睨みつける。
校門で待ち構えていた彼が神社への道案内を申し出たのは、正直助かった。
申し出たというか、そうするようにとツンに命令されていたらしいが。
それにしても、実に楽しそうだ。
殴りたい。が、その行動すら億劫。
内藤はドクオを睨んだまま、ふと湧いた疑問を口にした。
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432 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/05(火) 21:30:37 ID:jIsGywL2O
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( ^ω^)「何でそんなに取り憑きたがるんですかお」
('A`)「あ?」
( ^ω^)「体貸せ体貸せって言うけど、いざ取り憑いたとして、何がしたいんですかお?」
ドクオの笑みが消える。一瞬だけ悲しそうな目をした──ように、内藤には見えた。
以降、彼は黙ったので、答えづらい質問だったのだろう。
てっきり下らない返答が来るものだと思っていたので、少し意外だった。
深追いするのは失礼な気がして、内藤も口を噤む。
('A`)「……あ、着くぞ」
しばらく歩いて、鳥居が見えてきた頃、ドクオは口を開いた。
森林の片端に置かれた鳥居。
その脇に、「カンオケ神社」と社名が彫られた石柱が置かれている。
鳥居の向こうを覗けば、参道や社殿、右手に手水舎などが見えた。
古びた雰囲気がある。
手水舎の傍には袴姿の男が1人。
箒を持って、ぼうっとしている。
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433 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/05(火) 21:31:24 ID:jIsGywL2O
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('A`)「ほら、こっち来い」
ドクオが鳥居をくぐる。
内藤も続いた。
参道には石畳が敷かれていた。
真ん中は神様が歩く道だと聞いたことがあるので、端の方を歩く。
ふと、袴の男が内藤に顔を向けた。
(´・ω・`)
('A`)「よう、青ネギ」
( ^ω^)(青ネギ?)
どことなくしょぼついた顔の、30代を過ぎるか過ぎないかの男だ。
彼は内藤とオワタくん人形、そしてドクオを見遣って、にっこり笑った。
(´・ω・`)「ツンさんに呼ばれた子ですね。内藤君だっけ。こんにちは」
( ^ω^)「……こんにちは」
内藤も笑みを深めようとしたが、上手く出来なかった。
表情を作るのすら面倒臭い。
そもそもツンの知り合いなら、内藤の本性を知っているかもしれない。
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434 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/02/05(火) 21:32:46 ID:jIsGywL2O
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(´・ω・`)「よろしくお願いします。僕はここの禰宜のショボンです」
( ^ω^)「ねぎ……」
(´・ω・`)「宮司さんの補佐ですよ」
ショボンと名乗った禰宜は、にこにこと笑みを浮かべている。
穏やかな印象。
とりあえず、ドクオが「青ネギ」と呼んだ理由が分かった。
背が高い──というか、ひょろりと細長く、肌が生白い。
('A`)「弁護士は?」
(´・ω・`)「ツンさんなら、まだ寝てますよ」
ショボンとドクオが言葉を交わす。
見えるんですか、と内藤は訊ねた。
(´・ω・`)「神社の中限定ですけどね。
あ、内藤君、手を洗って」
手水舎の前で作法を教わりながら手を洗う。
それが済むと、ショボンは社殿の方へ歩いていった。
内藤はハンカチで手を拭いつつドクオと共についていく。