ξ゚听)ξ幽霊裁判が開廷するようです

case2:つきまといの罪/前編

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337 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 16:57:25 ID:qhRfP9qoO

ξ;゚听)ξ「5日……」

川 ゚ 々゚)「……逮捕された後?」

【+  】ゞ゚)「そういうことになるな」

(;*゚ー゚)「き、気のせいということは!?」

( ^ω^)「ないですお。撮った日付も残ってるし」

(;*゚ー゚)「じゃあ泥は前日の夜の内に!」

( ^ω^)「朝だと思いますお。写真撮ったの7時前だけど、全然乾いてなかったので」

(,,゚Д゚)「あらら」

 しぃの瞳が、手元の書類、ドクオ、内藤へと忙しなく動く。
 完全に動揺していた。
 徐々に、ドクオの口元が吊り上がる。

338 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 16:59:23 ID:qhRfP9qoO

(;'∀`)「内藤少年!! お前最高だ!!」

( ^ω^)「ありがとうございますお、幽霊に褒められても全然嬉しくないけれど」

ξ*゚听)ξ「……時間稼ぎどころじゃない働きよ内藤君」

 突如、後ろから呻くような声が聞こえた。
 弟者の声だ。

(´<_`;)「……う……」

ξ゚听)ξ「! 弟者君、起きた!?」

( ^ω^)「大丈夫かお、弟者」

(´<_`;)「……うう、やっぱり夢じゃなかったのかよ……帰りたい……」

ξ゚听)ξ「ともかく立って!!」

 最高のタイミングだわ。
 ツンのその呟きを、内藤は聞き逃さなかった。

 立ち上がらせた弟者の背に手を添えて、ツンが顔を覗き込む。

339 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 17:00:55 ID:qhRfP9qoO

ξ゚听)ξ「弟者君。6月4日のこと、覚えてるわよね」

(´<_`;)「4日?」

ξ゚听)ξ「あなたのクラスの下駄箱に泥が付いてた事件。
      その──泥について、何か思い出すことはない?」

 弟者は頭を押さえ、きょとんとした顔でツンを見返した。
 ツンの真剣な眼差しに射抜かれ、たじろぐ。

(´<_`;)「……泥」

ξ゚听)ξ「何でもいいのよ」

 泥、泥。
 うわ言のように繰り返し、はたと、弟者は顔を上げた。
 頭を押さえていた手を下ろす。

(´<_`;)「5月の、たしか、31日に。
       部活の朝練中に、女の人を見た……気がする」

(;*゚ー゚)「女?」

340 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 17:05:13 ID:qhRfP9qoO

ξ゚听)ξ「その人の顔は?」

(´<_`;)「ぼうっとしてたから、顔は見てないけど……。
       その後、女の人が立ってた場所に泥が落ちてた」

ξ゚听)ξ「たしかに女の人だった?」

(´<_`;)「うん」

从;゚∀从「……ま、待てよ!
     ぼうっとしてたんだろ!? それで走ってる最中なら、
     そんな、すれ違っただけの相手の性別なんて正確に分かるわけっ……!!」

 木槌の音。
 ハインリッヒは肩を跳ねさせ、口を噤んだ。

ξ゚ー゚)ξ「落ち着いて、詳しくゆっくり話して」

(´<_`;)「ええと……」

 ──5月31日の早朝。
 弟者は陸上部の練習に行ったのだが、夜に降った雨のせいでグラウンドが使えなかったという。
 そのため、学校の周りを走ることになった。

 途中、道端に女が立っていたそうだ。
 すれ違いざま、弟者は会釈をして通り過ぎた。
 一周して同じところに戻ってくると──

341 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 17:08:23 ID:qhRfP9qoO

(´<_`;)「女の人はいなくて、泥が撒かれてあった」

(,,゚Д゚)「……泥がねえ」

【+  】ゞ゚)「その4日後に今度は下駄箱に泥、か」

( ^ω^)「じゃあ弟者の靴の汚れが一番酷かったのって、やっぱり……」

ξ゚听)ξ「……きっと、その女が真犯人なんだわ。被害者の次は弟者君に狙いを定めた。
      泥を使った嫌がらせなんて、そうそう別々の人がやるもんじゃないもの」

(;'∀`)「そう! そうだ! 絶対そうだ!」

 ツンの推理にドクオが何度も頷く。

 彼には不可能な犯行時刻。女。泥。
 俄然、ドクオへの疑惑が揺らぎだした。。

342 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 17:11:40 ID:qhRfP9qoO

 それに反論するのは、当然、しぃ。

(;*゚ー゚)「だとしたら、その女の目的は何だって言うんです!?
     被害者の榊原と弟者君に何の共通点があるんだ!」

( ^ω^)「あの、共通点かどうかは分からないですけど……。
       被害者って、嫌がらせを警察に相談しようとしなかったんですおね。
       弟者も、僕や姉者さんが『通報した方がいい』って言っても聞きませんでしたお」

(#゚ー゚)「そんなもん個人の考え方の問題だろうが!」

(,,゚Д゚)「あら、でも弟者君が通報しないのはちょっと不思議よお。
     少なくとも、あたしに相談ぐらいはする筈だもの」

 そうよね、とギコが声をかけると、弟者は頷いた。

(´<_`;)「言われてみれば、たしかに……」

 何も、弟者の慎重さだけの問題ではない。

 家の玄関にまで被害があったとなれば、
 弟者なら、姉者や妹者が巻き込まれる可能性にまで思い至る筈だ。
 それなのに何の対処もしなかったのは──やはりおかしい。

344 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 17:13:05 ID:qhRfP9qoO

【+  】ゞ゚)「……何かに取り憑かれていれば、普段とは違う行動に出ることもあるな」

(;*゚ー゚)「ぐっ……」

ξ゚听)ξ「──検事」

 顎に手をやり沈黙していたツンが、しぃを呼んだ。
 机の端にまとめていた書類の下から、一冊の本を持ち上げる。

 ぱらぱらと捲られていくページ。
 時折、不気味な挿絵が目に入る。弟者が小さく悲鳴をあげ、また内藤の背後に逃げた。

(;*゚ー゚)「……何ですか」

ξ゚听)ξ「『濡れ女子』って妖怪はご存知?」

川 ゚ 々゚)「ぬれおなご?」

(;*゚ー゚)「……濡れ女や磯女ならば知っていますが」

ξ゚听)ξ「うん、まあ、似たようなものね。同じものではないだろうけど。
      ……ああ、このページ」

 あるページでツンの手が止まった。内藤が覗き込む。
 挿絵はないが、今ツンが言った「濡れ女子」の字が書かれている。

345 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 17:15:07 ID:qhRfP9qoO

(,,゚Д゚)「濡れ女子、漫画でなら見たことあるわ」

【+  】ゞ゚)「俺は知らないな」

川*゚ 々゚)「くるうもー。オサムとお揃いー」

ξ゚听)ξ「濡れ女子は、雨が降っているとき、あるいは雨が降った後に現れる女の妖怪です。
      男が通りかかると笑いかけてきて、それに笑い返すと、
      一生つきまとうようになると言われています」

ξ゚听)ξ「先程の証言を思い出してください。弟者君はぼうっとしていた。相手の顔も見ていない。
      恐らく、笑いかけるか挨拶をしたか、とにかく女は弟者君に何かしらのアクションを起こしていた。
      弟者君はそれに気付かず会釈をし──」

(,,゚Д゚)「なるほどねえ。動作が何であれ、妖怪とコンタクトをとっちゃったわけ。
     それで取り憑かれた」

347 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 17:17:51 ID:qhRfP9qoO

(;*゚ー゚)「……弟者君の見た女が、濡れ女子であると確信している言い方ですね?」

ξ゚听)ξ「ええ。
      弟者君が彼女を見たのは雨が上がって間もないときだった。
      それと下駄箱に泥が付いていた6月4日の朝は、たしか雨が降ってたわね」

(´<_`;)「……そういえば」

( ^ω^)「6月5日も朝から雨が降ってましたお」

ξ゚听)ξ「被害者……榊原さんが話していた『嫌がらせ』も、
      きっと雨が降った日に起こっていた筈よ」

 ロッカーの映像。
 あれに映っていた窓は、雨で濡れていた。

ξ゚听)ξ「……ところで、この濡れ女子。
      四国の愛媛に出る、と言われることが多いです。
      さて──」

348 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 17:18:30 ID:qhRfP9qoO


ξ゚ー゚)ξ「ハインさん。どちらのご出身でしたっけ?」


从;゚∀从

 ハインリッヒは、青ざめていた。
 ツンでもなく、ドクオでもなく、弟者でもなく、
 どことも知れぬ場所を見て、固まっていた。

川 ゚ 々゚)「……いよかん」

 愛媛。
 彼女自身が、そこの出身だと言った筈だ。

350 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 17:22:13 ID:qhRfP9qoO

 我に返ったハインリッヒが拳を握り、机を叩いた。

从;゚∀从「……私がその女だってか!? 証拠はどこにあるんだよ!
     本当に濡れ女子って妖怪の仕業だったとして──
     私が、その弟者ってガキの家の玄関や靴に泥を付けたって、どこに証拠が!!」

(#'A`)「ここまで来たら認めろよ! 人に罪なすりつけやがってこのアマ!」

从#゚∀从「それはこっちの台詞だ! てめえがさっさと認めないから私が疑われてんだぞ!」

 呆然としていたしぃ。
 不意に、その目に力が篭った。

351 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 17:24:01 ID:qhRfP9qoO

(*゚ー゚)「──証人」

从#゚∀从「ああ!?」

(*゚ー゚)「今、玄関と言いました?」

从#゚∀从「言ったよ、それがどうした? さっきそっちのにやけ面の奴が話してたじゃないか!」

 しぃが表情を歪める。
 先程までの焦りとは違った。
 その顔は寧ろ──呆れたようで。

 見れば、ギコまでもが同じ表情を浮かべている。
 内藤が疑問に感じると同時に、しぃの心中をツンが代わりに口にした。


ξ゚听)ξ「──どうして、内藤君と弟者君が同じ家に住んでることを知ってるの?」

.

352 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 17:26:41 ID:qhRfP9qoO

从;゚∀从「えっ……」

ξ゚听)ξ「内藤君は、『うちの玄関に』としか言ってないわ。
      内藤君も弟者君も私達も、この法廷内では、彼らが同居していることは話していない」

ξ゚听)ξ「なのに、どうして内藤君の『うち』が弟者君の家だと分かったのかしら。
      まるで行ったことがあるみたい」

( ^ω^)「あ」

ξ゚ー゚)ξ「あとね、あなた、実はもう一個ミスがあるわ。
      弟者君の証言のとき『ぼうっとしながら走ってる最中に
      すれ違った相手の性別なんか分からない』……というようなことを仰ったわね」

ξ゚ー゚)ξ「……おかしいわ。あの時点では、弟者君が朝練中に『走っていた』ことも、
      『すれ違った』ことも、本人以外は知らなかったのにね」

353 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 17:29:25 ID:qhRfP9qoO

ξ゚∀゚)ξ「さらにさらに! 『すれ違った相手の性別なんて分からない』!?
      果たしてどうかしらねえ!
      たしかに弟者君は当時ぼんやりしてたし顔も見てなかったみたいだけど、」

 ツンはハインリッヒを指差し──叫んだ。



ξ#゚∀゚)ξ「そぉおおんな風に御自慢の巨乳様をさらけ出してれば、
      女だってことぐらい、いやでも分かるんじゃありませんこと!?」



( ^ω^)(……ちょっと格好いいかと思ったけどそうでもなかった)

354 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 17:31:38 ID:qhRfP9qoO

 最後のは、私怨が混じりすぎていたような気もするが。
 ツンの指摘も尤もといえば尤もだ。

 ハインリッヒが口を押さえる。

 先のドクオのように全て「偶然」だと言い張れば、
 この中の数人は、それ以上何も言えなかっただろう。

 しかし彼女はそうしなかった。

从;゚∀从「っ……!!」

(#゚ー゚)「どこに行くんです!」

从;゚∀从「触るな!!」

(;'A`)「あっ、こいつっ!!」

 逃げようとしたハインリッヒの腕をしぃが掴み、
 ハインリッヒがしぃを突き飛ばし、

(#,゚Д゚)「待てゴルァ!!」

 ギコが、後ろからハインリッヒにタックルをかました。
 吹っ飛んだ机が、耳障りな音を立てる。

 俯せの状態で床に倒れ込むハインリッヒ。
 彼女の背にギコが乗っかり、動きを封じた。

355 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 17:34:16 ID:qhRfP9qoO

 一連の流れは、ほんの数秒間のことだった。

 言い逃れを続けようとしたのなら、まだ何とかなったかもしれない。
 しかしハインリッヒは逃げようとした。
 その行動は、もはや「答え」だ。

(#,゚Д゚)「オサムちゃん!」

【+  】ゞ゚)「ああ」

 オサムがハインリッヒの前に移動した。

 左手で彼女の前髪を掴み上げる。
 そうして露になった額に、右手の木槌を叩き込んだ。

从; ∀从「──っ」

 力が入っているようには見えなかったのだが、その瞬間、ハインリッヒは気を失った。

 オサムが手を離す。
 支えがなくなって、ハインリッヒの頭は勢いをつけて床に落ちた。
 痛そう、と顔を顰めながら、ギコが彼女の上から退く。

356 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 17:35:33 ID:qhRfP9qoO

(;,゚Д゚)「あらっ」

 直後、ハインリッヒの髪や着物が、雨に濡れたかのように水気を含んだ。
 髪の先から水が滴っていく。

 今し方の一瞬の騒ぎも収まり、場には静寂が満ちていく。

 そこに弟者とツンが、ぽつりと一言。

(´<_`;)「……濡れ女子」

ξ゚听)ξ「やっぱり、浮遊霊じゃなくて妖怪だったのね」



*****

357 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 17:37:31 ID:qhRfP9qoO



 ドクオには無罪の判決が出された。

 その後、ギコとしぃが慌ただしくハインリッヒを連行していき、
 オサムも「そっちの裁判はまた後で」とだけ言って、くるうと共に消えた。
 何とまあ、あっけない終わりだ。


('A`)「……」

ξ゚ー゚)ξ「おめでとう、ドクオさん」

 ビルの前。
 壊れかけた街灯の頼りない光の下で、ツンは言った。
 ドクオはぶすっとした顔でそっぽを向いている。

('A`)「疑ってごめんなさい、ぐらい言ってくれてもいいんじゃねえか、あの検事共」

ξ;゚ー゚)ξ「まあ、ハインさんの裁判で呼ばれるだろうから、そのときに期待したら?」

 苦笑し、ツンは内藤と弟者に振り返った。

358 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 17:40:21 ID:qhRfP9qoO

ξ゚ー゚)ξ「2人共、お疲れ様。ありがとうね。
      君達のおかげで、ドクオさんの無実を証明出来たわ」

('∀`)「おお、そうだそうだ、ナイス証言だったぜお前ら!! ありがとな!
    何だかんだで、お前に取り憑こうたした辺りも有耶無耶になって万々歳だ!」

( ^ω^)「はあ、どういたしまして」

(´<_`;)「俺は最初から最後まで、何が何だかよく分からんままなんだが……。
       ……ブーン、本当に幽霊見えるんだな」

 法廷を出てから、弟者にはドクオが見えなくなったようだった。
 内藤の肩を掴みつつ、不安げにあちこち見回している。

359 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 17:42:16 ID:qhRfP9qoO

ξ゚听)ξ「変な裁判に参加させられて疲れたでしょ。お家に帰ったらゆっくり休んでね。
      あ、このことは内密に」

(´<_`;)「だから、言ったところで誰が信じるんだよ……。
       なあブーン、もう帰ろう。俺ここに居たくない」

( ^ω^)「そうするかお」

ξ゚ー゚)ξ「途中まで送るわ」

('A`)「俺も帰らせてもらうぞ。くたくただ」

ξ゚ー゚)ξ「ええ、さようなら。
      さっきも言った通り、今度は証人として呼ばれることになるだろうから
      明日にでも、私と一緒に裁判長のところに行くわよ」

(;'A`)「……そうかい。面倒くせえな」

 ふわり、ドクオが浮かぶ。
 そのままツンを見下ろし──ばつが悪そうに口を開いた。

360 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 17:43:49 ID:qhRfP9qoO

('A`)「……あんたのことは信用してないし、今回は証人のおかげで助かったに過ぎないが、
    まあ一応、礼は言っとく。
    ありがとうよ。それと7連敗を阻止出来て良かったな。おめでとう無能弁護士」

 ツンは答えず、笑みを深めると片手を振った。
 ふん、と鼻を鳴らし、彼はさらに浮上する。

('A`)「じゃあな内藤少年。今度会ったら体貸してくれ」

( ^ω^)「絶対に嫌だお」

('A`)「ちょっとぐらいはいいだろ」

 けち。
 その言葉を残して、ドクオは消えた。

 一拍おいて、ツンが踵を返す。

ξ゚听)ξ「さ、帰るわよ」

( ^ω^)「はいお」

(´<_` )「……おう」

 今日は色々ありすぎた。
 早く帰って、一息つきたい。

361 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 17:49:38 ID:qhRfP9qoO


 ──しばらく、無言のまま歩いた。

 内藤と弟者の前をツンが進んでいく。
 その背に、内藤は問い掛けた。

( ^ω^)「ギコさんにドクオさんを逮捕させるために、ハインさんはああいう証言をしたんですおね」

ξ゚听)ξ「そうね。たまたま被害者の周りで見ることが多かったから、利用することにしたんでしょ」

( ^ω^)「なのにドクオさんが逮捕された後に、うちの玄関に泥を付けましたお。
       何ででしょうかお」

ξ゚ -゚)ξ「ううん……多分だけど、あんなに早くドクオさんが捕まるとは思ってなかったんでしょうね。
      本当は、ドクオさんが捕まる前に弟者君を『仕留める』つもりだったのかも。
      あわよくばその罪もドクオさんに被せる予定だったり」

(´<_`;)「しっ、仕留める!?」

ξ゚听)ξ「殺すつもりだったのか、ただ精神を衰弱させるつもりだったのかは分からないけどね。
      ……で、多分、玄関に泥やっちゃった後で、ドクオさんが逮捕されたことを知ったんじゃないかしら」

( ^ω^)「間抜けな人ですお」

(´<_`;)「……仕留める……」

 会話が途切れた。
 再び無言に。

362 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 17:52:49 ID:qhRfP9qoO

 内藤は横目に弟者を見て、ツンの背中を見て、また弟者を見た。

 このまま家に着いたら、もう、弟者に「この話」をする勇気が出ないかもしれない。
 呼吸を3回。
 そして、ようやく弟者へ声をかけた。

( ^ω^)「……弟者」

(´<_`;)「え? 何だ?」

( ^ω^)「僕の──その、霊感のことだけど」

 本当は何事もなかったかのようにやり過ごしたかったが、そうもいかない。

 でもやはり、話を振るのも恐かった。
 昔の同級生のように、大人達のように。気味悪がられたら。
 どうしよう。

(´<_` )「……誰にも言わないよ」

 続きの言葉が出てこない内藤に、弟者は答えた。
 内藤の肩から力が抜ける。

363 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 17:54:28 ID:qhRfP9qoO

(´<_` )「姉者が知ったら、どれだけ怯えるか分からないし。
       兄者や妹者には面白がられるだろうし、そんなの面倒だろ、お前も」

( ^ω^)「……うん」

(´<_` )「なら、黙っとく」

(´<_`;)「……だからっ、お前も変なもの見ても俺に報告とかするなよ!?
       あと、みんなに言い触らすなよな! 俺が幽霊とかそういうの苦手だって!」

 焦ったような声で弟者は続けた。
 内藤は反芻し、吹き出す。

 ──内藤は、幽霊が見えることを知られたくない。
 弟者は、幽霊が苦手なことを知られたくない。
 同じだ。どちらも互いの弱み。

 頷き、弟者の背を叩いた。

( ^ω^)「分かってるお。……ありがとう」

 くすくす、前を歩きながらツンが笑う。
 その笑い声は穏やかで、少し、優しくも感じられた。



.

364 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 17:59:52 ID:qhRfP9qoO



 この数日後。
 道端で会った際、ドクオからハインリッヒの裁判について聞いた。

 何でも、ハインリッヒは全国を移動している折に、梅雨の時期になっては
 ちょくちょくその辺の男を捕まえて、弟者達に行ったような「いたずら」をしていたのだという。
 「いたずら」の内容は泥に限らず、色々あったようだ。

 そうして弱らせた相手の精気を吸い取ったり、
 時に命を奪っては喰らったりして、自身のエネルギーにしていた。

 根っからの悪意による犯行だったわけでもない。
 「そういう妖怪」なのだから仕方がなかった。

 とはいえ、相手を生かしたまま精気を吸収することも可能なのに、何人かの命を奪っていた件。
 榊原マリントンに対して殺意はなかったものの、運悪く亡くなった彼の魂を、その機に乗じて喰らった件。
 さらに、反省するでもなく、すぐさま標的を弟者に切り替えた件。
 極めつけは、ドクオに罪をなすりつけるために検察側の証人になった件。

 これら諸々の理由から、実刑は免れなかったという。

 刑とはどんなものだろうと気にはなったが、
 ドクオが性懲りもなく「体を貸せ」と言って
 無理矢理憑こうとしてきたので、ぶん殴って放置しておいた。

365 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 18:01:38 ID:qhRfP9qoO


 これが、内藤が幽霊裁判に初めて参加した事件の顛末である。



*****

366 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 18:03:03 ID:qhRfP9qoO



 時を戻して7月。土曜日。


( ^ω^)

 目を覚ます。
 時計を見ると、昼を過ぎていた。

 布団の中でぼうっとしたまま、昨夜の都村トソンの裁判を思い返す。
 ツンは全てを知っているような振る舞いをしていた。

 今にして思えば、ドクオの裁判でもそうだ。
 弟者を証人として呼んでいた。下駄箱に関する証言なら、弟者でなくても良かったのに。
 わざわざ、ハインリッヒと接触したことのある弟者を。

367 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 18:04:20 ID:qhRfP9qoO

( ^ω^)「……」

 不意に、視界の隅にちらつく光に気付いた。
 携帯電話。不在着信を知らせるランプ。

( ^ω^)(……あ)

 しまった。
 モララー達に連絡するのを忘れていた。

 そして気付いたことがもう一つ。
 階下が騒がしい。
 嫌な予感。

 内藤は部屋を出て、そろそろと階段を下りた。
 声は居間から聞こえる。
 音を立てぬように近付き、覗き込んだ。

368 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 18:05:16 ID:qhRfP9qoO


( ;∀;)「おっ、俺とヒッキーがっ、ブーンのこと置いてって……!!
      すぐに気付いたけど、戻るの恐くてえっ!!」

(;_;)「電話かけてもブーン出ないし、
    あ、明るくなってから工場見に行ったけど、もう誰もいなくてっ」

( ^ω^)

 モララーとヒッキーが号泣していた。
 2人の話を、兄者と弟者が真剣な顔で聞いている。
 弟者の方はジャージ姿。部活に行っていたところを呼び戻されたのであろう。

369 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 18:07:49 ID:qhRfP9qoO

( ;∀;)「もっ、もしかしたら、危ない奴らがいたのかもしれない!!
      ブーン、そいつらに誘拐されたんじゃっ……うわあああああ!!」

(;_;)「ごめんなさい! ごめんなさい!」

(´<_`;)「落ち着け2人共。お前らは悪くない」

l从・∀・;ノ!リ人「いま姉者に電話したのじゃ! 今からこっちに来るって!」

(;´_ゝ`)「くそっ……朝飯のときに呼んでも下りてこなかったのはそのせいか!
       部屋を見に行けば良かった! そしたらすぐに気付けたのに!」

(´<_`;)「兄者、警察に電話してくれ! 俺はブーンの部屋を見てくる!」

( ^ω^)

( ^ω^)(やべえ)

 心配してくれるのはありがたい。
 本当にありがたいのだが。

 まず玄関に内藤の靴があることを、しっかり確認してほしかった。
 そこまで大騒ぎする前に、部屋を見に来てほしかった。
 切実に。

371 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 18:10:05 ID:qhRfP9qoO


 恐らく数分後には、モララー達と並んで正座させられ、
 鬼の形相をした弟者に叱られているであろう自分の姿が、容易に想像出来た。



case2:終わり

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