-
286 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 14:52:59 ID:qhRfP9qoO
-
弟者は怖いものが嫌いだ。
何故ならば怖いから。至極単純な話だ。
それを人に知られるのは、もっと嫌だった。
自分が怖がりだと知られたら、姉者を安心させられないし。
何より恥ずかしい。
だから霊など信じていないと言い張ってきた。
周囲も、弟者はリアリストなのだなと納得してくれている。
だが──そんなもの、結局は無意味な張りぼてだった。
だって、霊の存在を信じているからこそ「怖がり」なのだ。
.
-
287 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 14:55:07 ID:qhRfP9qoO
-
(´<_`;)「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏」ブツブツ
ξ;゚听)ξ「大丈夫、大丈夫よ。別に、悪い人じゃないから……」
( ^ω^)「たしかに悪い『人』じゃなさそうですけど」
(;<_; )「あああああああ悪霊退散んんんんん!!!!!」
ξ#゚皿゚)ξ「余計なこと言わないでよ内藤君!」
【+ 】ゞ゚)「……悪霊呼ばわりをされたのは初めてだな」
(;'∀`)「ええ、ええ、失礼にも程がありますよねオサム様! オサム様ほど善良な神様もいないってのに!
よっ、日本一! いや世界一!」
(,,゚Д゚)「言っとくけど裁判長にゴマすってりゃ無罪判決になるってもんじゃないわよ」
(;*-ー-)「……先が思いやられる」
故に、弟者は「幽霊裁判」というものをあっさり受け入れることが出来た。
-
288 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 14:56:04 ID:qhRfP9qoO
-
case2:つきまといの罪/後編
.
-
289 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 14:57:04 ID:qhRfP9qoO
-
( ^ω^) ハァ
内藤は溜め息をついた。
原因などいくらでもある。
これから本気で裁判が行われそうだし、
どうにもマトモな人間や霊がいなさそうだし、
それに、
(´<_`;)「ううううっうう……帰ろう……帰ろうブーン……」
しっかりした人だと思っていた親友が、極度の怖がりであることが判明したし。
(´<_`;)「ていうか何でお前そんなに落ち着いてるんだよ……」
ξ゚听)ξ「内藤君、霊感持ちだから幽霊には慣れてるもの」
(゚<_゚;)「えええええええええええええええ!!?」
( ^ω^)「おい」
しかもバラされたし。
-
290 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 14:58:08 ID:qhRfP9qoO
-
ξ゚З゚)ξ「いいじゃない、ここまで来たなら。逆に隠し続ける方が大変よ」
( ^ω^)(すっっっごく殴りたい)
(´<_`;)「もうやだもうやだ帰りたいぃいい……」
内藤の後ろに隠れるようにして──弟者の方が背が高いので、隠れきれていないのだが──、
震えながら涙声で囁く彼の姿は、あまりにも惨めだ。
──ほんの数分間の気絶から目覚めて以来、弟者はずっとこんな調子だった。
気を抜くと再び失神してしまいそうに見える。
(*゚ー゚)「別に帰ってもいいんじゃないんですか?
それで使い物になるかどうか怪しいもんだ」
弁護席の向かい、検事席に立つ学ランの少女が、腕を組んで言った。
猫田しぃ。弟者が落ち着く(静かになる)のを待っている間に聞いた、彼女の名前。
高校生で、内藤達とは然程歳が変わらないそうだ。
-
291 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 14:59:41 ID:qhRfP9qoO
-
ツンいわく、
ξ゚听)ξ『私達ほど霊感持ってる人間なんて、そう多くはないからねえ。
それなりに霊感と知識があって、おばけ法の試験さえパス出来れば
高校生だろうと、弁護士や検事になれるわ』
( ^ω^)『試験?』
ξ゚听)ξ『司法試験みたいな。難しいのよ』
( ^ω^)『そんなんあるんですかお』
ξ゚听)ξ『ある』
ということらしい。
-
292 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 15:01:43 ID:qhRfP9qoO
-
【+ 】ゞ゚)
(´<_`;)「ひ」
お面の男がしぃから弟者へ視線を移すと、弟者は更に縮こまった。
彼は「オサム様」。裁判長。
町の真ん中、ある神社に祀られている神様だという。
正直、神様と呼ぶには、「らしい」姿ではないように思う。
しかし一応、ここら一帯では最も強い神様なのだとか。
だからなのか何なのか、彼は内藤や弟者のことを知っていた(名前や顔ぐらいしか知らないようだが)。
【+ 】ゞ゚)「流石弟者。本来の開廷時間より20分ほどの遅れが出ている。
これより先、お前の都合で停滞することは避けたい。
よって今は……あー……『お前に構ってる暇はない』ってことだ。黙っていろ」
顔の右半分は隠れているが、左目だけでも威圧感は伝わってくる。
弟者も、ほぼ反射的に頷いたようだった。
-
293 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 15:02:57 ID:qhRfP9qoO
-
('∀`)「いよっ、オサム様! 人間風情にも逐一お声を掛けなさる優しさ!」
(#゚ー゚)「やかましい」
被告人である痩せぎすの男は、先程からオサムを持ち上げるのに忙しい。
その様子に苛々しているようで、しぃが舌打ちした。
男の格好をしているとはいえ、年頃の少女がするべき形相ではない。
(,,゚Д゚)「オサムちゃん、もう始めちゃいましょうよう」
そんなしぃの背中を叩きつつギコが言う。
オサムは頷きかけて、顔を上向けた。
【+ 】ゞ゚)「くるう。どうした? 下りてこないのか」
知らない名前が出た。
まだ増えるのか。
内藤の肩を掴んでいる弟者が、ぐすっと鼻を啜る音がした。いっそ哀れだ。
【+ 】ゞ゚)「くるう」
オサムが名前を呼ぶ。
瞬間、天井からにょっきり首が生えた。
-
294 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 15:04:16 ID:qhRfP9qoO
-
川 ゚ 々゚)
髪の長い女だ。
髪をだらりと垂らし、生気のない目で内藤を睨んでいる。
光景だけで言えば、どこのホラーかと問いたくなるものだった。
後ろの弟者は死にそうだが、敢えて無視する。
川 ゚ 々゚)「……くっさい」
天井から生えている首が、ぼそりと呟いた。
【+ 】ゞ゚)「くさい? 何がだ?」
川 ゚ 々゚)「嘘の臭いがぷんぷんする……」
全員の目が内藤と弟者に向けられた。
口を開いたのは、顔を顰めているしぃ。
(*゚ー゚)「虚言癖のある子はいるかな?」
( ^ω^)「……?」
ξ;゚听)ξ「あっ」
失礼な問いに内藤が眉根を寄せ、ツンが声をあげた。
ツンの顔色が、焦りから憔悴へ変わる。
彼女は額に手を当てて嘆息した。
-
296 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 15:05:56 ID:qhRfP9qoO
-
ξ;-д-)ξ「あーん……もー、面倒臭い……。
ビビりに嘘つきって、最悪の組み合わせだわ」
そのポーズのまま5杪ほど沈黙してから、ツンは溜め息をつき、内藤の頭に左手を乗せた。
ξ;゚听)ξ「裁判長! この子、ぶりっ子なんです。
普段は他人に対して『いい子』な演技をしてるんです。
臭いがするのは、そのせいかと」
( ^ω^)「ぶりっ子って」
('A`)ノ「友達には朗らかに接するくせに、いたいけな幽霊はぶん殴るような奴でしたー」
オサムは無言で女を見上げる。
女は首を振った。ばらばら、髪の毛が揺れる。
川 ゚ 々゚)「ツンは嘘ついてない……と思う……鼻が痺れてよく分かんないけど」
ξ;゚听)ξ「今は素の状態ですし、証人として証言するのは弟者君の方です。
内藤君は傍聴するだけですから、どうか、ここに残させてあげてください。
彼がいなくなったら弟者君が完全に使い物にならなくなります」
( ^ω^)「いや、邪魔なら帰りますけど」
(´<_`;)「えっ、ちょっと待てブーン帰らないで! 俺を1人にしないで!!」
-
297 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 15:07:35 ID:qhRfP9qoO
-
川 ゚ 々゚)「ぶーん」
弟者が口にした内藤のあだ名を、女は繰り返した。
響きが気に入ったのか、ぶーん、ぶーんと何度も呟いては、くすくす笑っている。
多少は機嫌を直してくれたようだ。
川*^ 々^)「ぶーん」
(*゚ー゚)「あだ名かい? 変わってるね」
(*,゚Д゚)「ブーンちゃんって呼ーぼうっと」
( ^ω^) イラッ
【+ 】ゞ゚)「くるう、おいで」
女──くるうは、頭から落下するようにして、両手を広げたオサムのもとへと下りていった。
彼女が身につけているワンピースの裾が、ふわりと広がる。
そうしてオサムがくるうを受け止める様は、ちょっとした映画のワンシーンのようだった。
川*゚ 々゚)「んふふ」
すっかり機嫌を良くした様子で、くるうはオサムを抱き締めた。
ふんふんと犬のように鼻を鳴らし、オサムの首筋の匂いを嗅いでいる。
-
298 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 15:08:40 ID:qhRfP9qoO
-
川*´々`)「オサムはいい匂いがするから好きー」
【+ 】ゞ゚)「くっつくのは後でな」
ξ゚听)ξ「……バカップルうぜえ……」
( ^ω^)「今の呟きはチクってもいいやつですかお」
ξ゚听)ξ「よくないやつだから黙っててちょうだい」
オサムはくるうを隣に立たせて──とは言っても2人は床から数センチほど浮いている──、
一つ咳払いをした。
そして、右手の木槌で空中を打つ。
何もないのに、やたら硬い音が響いた。
(´<_`;)「なん、な、なん、何なん、何なんだよ、何だよあれ」
ξ゚听)ξ「幽霊裁判で裁判官をやる者にのみ渡される、特別な槌よ。
どこを叩いても音が鳴るわ。空気でもね」
幽霊が裁判などをやる時点で、もう何でも有りだ。
槌よりも、内藤はくるうの方が気になった。
-
299 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 15:15:09 ID:qhRfP9qoO
-
( ^ω^)「『くさい』って何なんですかお? それに嘘とか演技とか」
ξ゚听)ξ「くるうさんは、人間がつく嘘の臭いが分かるの。
幽霊なのか妖怪なのか知らないけど、そういう体質の人」
くるうは「監視官」という役職についているそうだ。
この辺りについては、以前説明した通りなので省略。
再び木槌が鳴った。今度は2回。
呼応するように、しぃとツンが互いを睨み合う。
【+ 】ゞ゚)「とにかく始めようか。25分遅れだ。
──これより、被告人……ドクオの裁判を始める」
オサムの声で空気が引き締まる。
男の霊は顔を背け、がしがしと頭を掻いた。
('A`)「……くそっ」
.
-
300 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 15:16:57 ID:qhRfP9qoO
-
【+ 】ゞ゚)「──それでは被告人。名前と生年月日を」
('A`)「……ドクオっす。生まれた年も日も、もう覚えてません。秋生まれだった気はするけど。
名前だってうろ覚え、苗字なんかは完全に忘れました」
ドクオ。
そういう名前らしい霊は、へらりと笑って首を竦めた。
日々をぼんやり過ごしているような幽霊は、生前の記憶を忘れがちになる──そうだ。
ツンが内藤の耳元で説明してくれた。
【+ 】ゞ゚)「死亡した日付と享年はどうだ? 死因も」
('A`)「あ、それも全然。享年はー……まあ30歳前後じゃないっすかねえ。見ため的に」
【+ 】ゞ゚)「死後100年経っていれば強制浄霊の対象になるが……」
(;'A`)「いやいやいやっ、さすがに100年は経ってない!
心臓に悪いこと言わないでくださいよ! もう心臓動いてないけど!」
-
301 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 15:18:24 ID:qhRfP9qoO
-
(*゚ー゚)「彼は、ここら周辺の生まれではないようなので
出身や命日などを調べるのには少々手間が掛かります」
オサムはゆったりと頭を揺らした。
そこはどうでもいいのだろう。
【+ 】ゞ゚)「それでは検事。起訴状朗読」
(*゚ー゚)「はい」
( ^ω^)「きそじょう?」
ξ゚听)ξ「ドクオさんにどういう疑いがかけられてるかってのを、しぃ検事が説明するの」
(*゚ー゚)「──公訴事実」
しぃは右手に持った書類を見下ろし、口を開いた。
ひやりとするような声だった。
-
302 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 15:20:16 ID:qhRfP9qoO
-
(*゚ー゚)「今年、平成24年5月29日の深夜。
被告人は、ヴィップ市ラウンジ××丁目のアパート102号室に居住する被害者、
榊原マリントンを死亡させた……」
聞き覚えのある名前だった。
はて、どこで聞いたのだか。
内藤が考え込むと同時に、焦りを一杯に詰め込んだような怒鳴り声が響いた。
(;'A`)「だから、やってねえっつってんだろ! そんな奴も知らねえって!!」
【+ 】ゞ゚)「被告人」
喚くドクオを、オサムの声と木槌が咎める。
ドクオは一旦は口を閉じたものの、ぎろりとツンを睨んだ。
初めにこの場所に現れたときもそうだった。
(;'A`)「……この裁判、未だに納得いかねえ。
冤罪吹っ掛けられたのも、この無能弁護士を宛がわれたのも!」
ξ゚ー゚)ξ「ご安心を。私、有能ですので」
(;'A`)「今んとこ5連敗中らしいじゃねえかよ!」
ξ゚ー゚)ξ「6連敗ですよ」
ツンは朗らかに笑う。
それに対し、ドクオは顔を引き攣らせていた。怒りか不安か、両方か。
-
303 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 15:23:42 ID:qhRfP9qoO
-
(´<_`;)「6連敗……」
(,,゚Д゚)「幽霊裁判って、地域によって人手が足りる足りないの違いがあるのよ。
ここら辺は足りてないから、弁護士も自由に選ぶのは難しいの。我慢してちょうだいな」
ギコが宥めるように言った。
まあたしかに、霊感があって、なおかつ試験に受かるような人間はそうそういないだろう。
だから、しぃのような年齢でも参加出来るのだとツンも言っていたし。
('A`)「……余計な真似はすんなよ。
弁護士がするべきことだけしてりゃいい」
ξ゚ー゚)ξ「ええ」
そろそろオサムが割り込みそうだったが、ドクオはそれだけ告げると沈黙した。
まだ納得しきっていない顔ではあるが。
(*゚ー゚)「……そろそろ続きよろしいですかね?」
【+ 】ゞ゚)「ああ、頼む。
──被告人。今は黙っていろ」
ドクオは頭を僅かに下へ揺らした。
頷きと取ったか、オサムはしぃに視線で指示を出した。
-
304 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 15:30:33 ID:qhRfP9qoO
-
(*゚ー゚)「事件の一週間以上前に、被告人は何らかの理由を以て
人知れず被害者を付け狙うようになったものである。
そしてついに5月29日、被害者宅にて、被害者の前に姿を現した」
(*゚ー゚)「被害者の遺体は湯船の中にあり、死因も溺死であるとされている。
後頭部に打撲傷、浴室の壁に何かがぶつかった跡があることから、
壁に頭を打ち付け、その結果気絶し、湯船に倒れ込み溺死したものと考えられる」
(,,゚Д゚)「被害者は、仰向けの体勢で上半身がお湯に浸かっていて
足は湯船の外に、だらんと投げ出されていたそうよ。発見者いわく、ね」
(*゚ー゚)「争ったような跡や、その他に怪我がないことから、『事故』の可能性が高い」
想像すると──少し、間抜けな姿だ。
被害者からすれば、おかしくも何ともないだろうが。
しぃが一旦口を閉じ、俯くドクオを一瞥した。
(*゚ー゚)「つまり。普段より被害者に付きまとっていた被告人は、事件当日、被害者の家に入り込んだ。
被害者は目の前に現れた被告人に驚き、
逃げようとしたものの足を滑らせ……」
(,,゚Д゚)「壁に頭を打ち付け、湯船に──ってとこね。
殺意があったかどうかは確認出来てないわ」
ドクオが拳を握る。
彼が犯人だとしても違うとしても、こんな状況、生きた心地がしないだろう。
本当に生きてはいないわけだが。そういうことでなく。
-
305 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 15:33:43 ID:qhRfP9qoO
-
(*゚ー゚)「──罪名及び罰条!
つきまといの罪、おばけ法第88条」
(*-ー-)「……以上の事実について、審理を願います」
少しの間をあけてからオサムが動いた。
木槌をくるりと回して、ドクオへ視線を送る。
【+ 】ゞ゚)「異論は?」
(#'A`)「異論しかねえよ!!」
怒鳴ってから、ドクオは我に返ったように表情を変えた。
無理に口元を引き上げたような笑顔。
(;'∀`)「……っあ、い、異論あります、へへ。
あのう、そもそも榊原なんて男知らないし、付きまとった覚えも……」
【+ 】ゞ゚)「つまりは全面否定だな」
川#゚ 々゚)「オサムに乱暴な口きいた!」
(;'∀`)「いやいや、そりゃ気のせいです! 聞き間違い!
俺がそんな、オサム様に下品な口のきき方するわけない!」
-
306 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 15:35:46 ID:qhRfP9qoO
-
(´<_`;)「……つきまといの罪って?」
弟者がツンに訊ねる。
多少は慣れてきたのかと思ったが、内藤の肩に乗せた手が未だに震えているので、
特に慣れたというわけでもなさそうだ。
ξ゚听)ξ「人間で言うところの、ストーカー規制法みたいなものね。
『霊が、特定の生者・霊に対して、付き纏い等の迷惑行為をすることを禁ずる』……。
簡単に言えばこういう感じ」
( ^ω^)「なるほど、ストーカー」
ξ゚听)ξ「つきまといの罪とは別に、ストーカーの罪もあるんだけどね。
今回は、つきまといの方で立件したようだわ」
(´<_`;)「つきまとい……幽霊がつきまとい……」
勝手に想像して勝手に怯えている弟者は放置することにして、
内藤はツンから前方へと目を向け直した。
【+ 】ゞ゚)「そもそも、被告人が被害者に行っていた、具体的な『付きまとい』の内容は?」
(*゚ー゚)「それは今から説明いたします」
しぃが別の書類を手に取る。
それを眺めながら、くるうが隣のオサムに凭れ掛かった。
オサムがくるうの頭を撫でてやる。皆、見て見ぬふりをした。
-
307 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 15:38:18 ID:qhRfP9qoO
-
(*゚ー゚)「……ええと、まずは、付きまといの事実があったことから証明しましょう。
事件が起きる一週間ほど前。被害者は同僚に、ある話をしていました。
──『身の回りのものを泥で汚される』と」
泥。
内藤は弟者に振り返った。
弟者も思うところがあったらしく、驚いた顔をしている。
何となく、弟者が証人として呼ばれた理由が分かった。
(*゚ー゚)「以下は同僚の証言……」
──内容をまとめる。
被害者の榊原マリントンは同僚に、こう話したそうだ。
「この間、自分のロッカーの内側に泥が付着していた」。
「それ以来、鞄や靴も泥で汚されるようになった」。
明らかに人為的で、榊原だけを狙っているようにしか思えなかったという。
同僚が警察に相談するよう勧めたが、榊原は
「こんなことで警察が動くと思えない」と言って聞かなかった。
-
308 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 15:42:39 ID:qhRfP9qoO
-
それから一週間後の5月30日。
榊原は出社してこなかった。電話にも出ない。
嫌がらせの件を覚えていた同僚は、その旨を上司に話す。
その日の夜、上司と同僚は榊原の住むアパートを訪れ、
部屋の電気がついているのにチャイムを鳴らしても反応がないことを不審に思い
ドアの鍵を開けてみてもらえないかと、アパートの管理人に交渉した。
(*゚ー゚)「管理人により部屋の鍵が開けられ、上司、同僚、管理人の3名は室内へと入り──」
無人の部屋。
窓辺から浴室まで、泥が点々と落ちていた。
3人は浴室に行き、榊原を発見する。
湯船から榊原を出すも、すぐに息絶えており、警察を呼んだ。
以上が、しぃ達が同僚から聞いた証言。
(*゚ー゚)「発見されたのが5月30日、死亡していたのは前日……29日の夜だとのことです。
被告人、身に覚えは?」
(;'A`)「一つもねえよ!」
-
309 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 15:45:33 ID:qhRfP9qoO
-
( ^ω^)(──ああ、そっか)
思い出した。
この事件は、以前、兄者達と朝食をとっているときにニュースで見たのだった。
あの時点では、人間による犯行だとして捜査を進めていたようだが。
ξ゚听)ξ「その同僚は証人として来てないの?」
(*゚ー゚)「誰彼なしに連れてこれる場でもありませんしね」
【+ 】ゞ゚)「その事件が霊の仕業だと気付いたのはいつだったんだ?」
(*゚ー゚)「先の同僚から、とあるデータを渡されたときでした。
ギコ」
(,,゚Д゚)「はいな」
ギコは、机の下から何やら機械を引っ張り出してきた。
モニターと──DVDプレイヤーか何か。
プレイヤーとモニターを繋ぎ、ディスクを入れる。
-
310 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 15:47:00 ID:qhRfP9qoO
-
川*゚ 々゚)「でぃーぶいでぃー!」
オサムとくるうは、興味津々に機械類を見つめていた。
物珍しいのだろう。
数秒経過。ディスクの内容がモニターに映し出された。
どこかのオフィスらしかった。斜め上からの角度。
壁際に並んだロッカーをカメラの中心に据えていて、時折、映像の端に社員らしき人々が映り込む。
雨が降っていたのだろう、窓に幾筋もの水が垂れていく。
(*゚ー゚)「社内のロッカーに泥が付いていることが多かったため、
被害者と同僚はここにカメラを設置しました。
社員の犯行であると考えたのでしょう」
ギコが映像を早送りで進めていく。
たまに社員がロッカーに物を取りに来る以外に、変わったものはない。
しかしギコが早送りを止め、右下の時間表示が「16:21」を示したとき、異変は起きた。
-
311 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 15:49:35 ID:qhRfP9qoO
-
ロッカーの周りが無人になる。
すると、あるロッカーが突然開かれた。
(´<_`;)「ひっ……」
( ^ω^)「おー」
扉は薄く開いているだけで、その中までは見えない。
しばらくして、扉は再び独りでに閉じた。
(*゚ー゚)「このように、奇妙な映像が撮れていました。
ただ今のロッカーは被害者のものです。
帰社の時間になりロッカーを開けると、やはり泥があったそうで……」
(*゚ー゚)「気味が悪くなり、彼はますます警察に話すのを躊躇うようになりました。
自分のいたずらだと思われかねない、と」
(,,゚Д゚)「警察に話していれば、あたし達おばけ課の方に話が回ってきてただろうに……。
おばけ課の存在を世間に発表する必要性を実感させられるわ」
映像を止め、溜め息をつくギコ。
また聞き馴染みのない言葉が。
機器を机の下に戻すギコを横目で見ながら、内藤はツンに「おばけ課」なるものについて質問した。
-
312 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 15:52:19 ID:qhRfP9qoO
-
ξ゚听)ξ「おばけ法を導入している地域の警察には、オカルト事件を捜査する、
通称『おばけ課』ってのがあるの。
公表されてないし、同じ署に勤めててもおばけ課の存在を知らない警官もたくさんいるけど」
(´<_`;)「……ギコさん……刑事課の人だったんじゃ」
(,,゚Д゚)「表向きはそうなんだけどね、おばけ課なんて言ったら姉者気絶しちゃうじゃないのよう」
ξ゚听)ξ「言い触らされても困るしね」
「人に喋っちゃ駄目よ」。
唇の前で人差し指を立て、ツンが微笑む。
「喋ったところで誰が信じるんだ」。弟者の呟きは尤もだった。
(,,゚Д゚)「ま、ともかく。この映像を手に入れてから、
『こっち』の管轄だってことになったわけよ」
(*゚ー゚)「そうしてギコが調べていったところ、近所をうろついていた霊の証言により
被告人が被害者の周りによく出没していたことが判明しましたので
6月4日の夜、つきまといの容疑で逮捕に至りました」
6月4日。
内藤のクラスの下駄箱が、泥で汚されていた日だ。
すっかり存在感をなくしていたドクオが気色ばむ。
-
313 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 15:53:32 ID:qhRfP9qoO
-
(#'A`)「だから! そりゃあ、たまたまそこに居ただけだっつうに!」
(*゚ー゚)「『たまたま』ねえ……」
しぃの方は、端から信用する気もなさそうな顔だ。
学生服の襟に指先を引っ掛け、侮蔑しきった瞳でドクオを見る。
(*゚ー゚)「被害者が亡くなる数日前から、現場をうろちょろしてたのも『たまたま』?」
(;'A`)「ぐ」
(*゚ー゚)「先程の映像が撮られた日。
その日に、被害者の勤める会社の周囲に
あなたが居たところも目撃されていますが、それも『たまたま』ですか?」
ドクオの顔が歪む。
焦りと怒りを内包したような表情。
(#'A`)「……ああ! たまたまだよ!! 信じちゃくれねえみたいだがよ!!
お前ら、みんなそうだ!
ちょっとでも疑わしい奴が相手だと『偶然』や『たまたま』を認めようとしねえ!」
(,,゚Д゚)「その偶然が重なる確率がねえ……」
(#'A`)「確率が低けりゃ絶対に起こらないのかよ。
降水確率低けりゃ雨は降らねえのかよ!?」
-
314 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/25(日) 15:54:31 ID:qhRfP9qoO
-
ξ;゚听)ξ「ドクオさん落ち着いて。そんな風にあんまり騒ぐと印象が良くないわ」
(*゚−゚)「ああ、何て恐ろしいんでしょう……」
しぃが自身を抱き締めるようにして呟く。
わざとらしい。
(#'A`)「このっ……!」
ξ;゚听)ξ「ドクオさん! 反論は私がするから!」
川;゚ 々゚)「あうう」
【+ 】ゞ゚)「大丈夫か? うるさいよな、ごめんなくるう」
川;゚ 々゚)「オサムの声しか聞きたくない……」
【+ 】ゞ゚)「裁判が終わったら、2人だけでたくさん話そうな」
ξ#゚听)ξ チィッ!! ('A`#)(゚ー゚#)
(´<_`;)「……裁判って騒がしいもんだな」
弟者の呟きには、うーん、と唸り声で返した。
裁判が、というよりは、ここに揃っているメンバーに問題があるような。