o川* ー )o幼年期が終わるようです

《 三 》

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219 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/10/17(金) 19:55:57 ID:v/2L0mXk0
           ※



川 ゚ -゚)「内藤キュート、あなたはポーカーゲームを嗜みますか?」

o川*゚ぺ)o「は?」

予想外の問いに、思わず素っ頓狂な声が漏れる。
素直クールの向かった先は、旧閉鎖棟内の管理室だった。
いつもは長岡がコーヒーを沸かせて陣取っている場所。
いまはその場所に、素直クールが枯れ枝の腰を下ろしている。

その手にはどこから取り出したのか、トランプカードが置かれている。

川 ゚ -゚)「トランプのポーカーゲームです。プレイしたことはありませんか?」

o川*゚ぺ)o「何度か遊んだことはありますが……」

川 ゚ -゚)「役の強さについては? 順に述べてみなさい」

o川*゚ぺ)o「なぜですか」

器用なシャッフル。扇状に膨らんだカードが、素直クールの手により高速で重なっていく。
シャッフルが終わる――と思いきや、素直クールは再びカードを扇状に曲げた。

そしてまた重ね終わったかと思うと、再びシャッフルする。
質問に答えるまで、このままだということか。
キュートは仕方なく、記憶を頼りにポーカーの役を唱えていく。

220 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/10/17(金) 19:57:26 ID:v/2L0mXk0
まず再弱なのが手札五枚がばらばらなノーペア。
それからワンペアツーペアスリーカードと続き、ストレートの次がフラッシュ。

フラッシュよりもフルハウスの方が強くフォーカードはそれに勝ち、
ストレートフラッシュにそのロイヤルさらに強く。

最も高い手はジョーカー必須のファイブカードで、同じ役の場合役の部分の数字が大きい方の勝ち。
数字も同じだった時はマークの順位、スペード、ハート、ダイヤ、クラブの順で判定する、
というルールで間違いなかったはず。

伺うように、素直クールを仰ぎ見る。

川 ゚ -゚)「結構」

十二分にシャッフルされたトランプが卓上に置かれる。
素直クールは対面の椅子に座るようキュートを促してから、口を開いた。

川 ゚ -゚)「内藤キュート、賭けをしましょう」

o川*゚ぺ)o「賭け?」

椅子に座り、素直クールと真正面で向かい合う。

川 ゚ -゚)「そう、ポーカーの賭け勝負です。あなたが勝ったら、杉浦しぃはあなたに差し上げます。
     どうぞお好きなようにお使いください。ですがもし負けたら――」

o川*゚ぺ)o「負けたら?」

川 ゚ -゚)「あなたはここで、死になさい」

221 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/10/17(金) 19:58:58 ID:v/2L0mXk0
o川 ゚Д゚)o「…………え?」

素直クールは根を張った枯れ木のようにしんとして微動だにせず、ただ口だけを動かす。

川 ゚ -゚)「あなたが負けたら、私はあなたをここ、旧閉鎖棟の一室に幽閉します。
     永久にです。あなたはここで生涯を終えます。それでも出しません。
     死してなお自由はなく、あなたはここに縛り付けられます。
     あなたはここを出られません。私が出させません」

デミタスが話していたことを思い出す。
気狂いを隔離するために造られた施設の話。
複雑に張り巡らされた三次元的迷宮世界。そのすべては、漏れ出すことを恐れたため。

何をか。
呪いを。

話者がデミタスであったために、あの時は場を盛り上げる怪談程度の意味しか持ち得てはいなかった。
だが、素直クール。人を呪って栄えた一族の、その長。その言。

彼女は、本気だ。

222 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/10/17(金) 20:00:41 ID:v/2L0mXk0
o川*゚ぺ)o「……なぜ、そんな条件を。あなたのメリットがわかりません」

川 ゚ -゚)「あなたが知る必要はありません。
     あなたが考えるべきはこの勝負を受けるか否か、それだけです。

     断っておきますが、恩情は一切ありませんよ。私は勝負の結果を歪めません。
     あなたが負けた場合、刑は必ず執行します。

     これはただの脅しではありません。現にもう何人もの人間を、
     私は私自身の手でこの旧閉鎖棟に監禁してきました。
     権力面においても、人間性においても、私はそれができる者です

     最後の確認です。内藤キュート、それでもあなたはこの勝負を受けますか」

キュートは目をつむった。
息を止め、それから静かに、胸を抑えた。



そして、勝負は開始される。



キュートの手札は2のペアと残りは6、9、Aの三枚。
より強い手を狙うならばらばらの三枚全てを交換するのが最善だが――。

223 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/10/17(金) 20:02:21 ID:v/2L0mXk0
川 ゚ -゚)「四枚チェンジです」

素直クールが先に、手を交換する。
四枚チェンジとは、余程手札が悪いらしい。
手元に残したのは数の強いカードか、あるいはワイルドカード(何でもあり)のジョーカーか。

ジョーカーだとすれば厄介だが、素直クールの表情からは何も読みとれない。

o川*゚ぺ)o「三枚チェンジ」

キュートはカードを二枚場に伏せて捨てた。
ジャッジに任命された長岡が、手札から減ったのと同数のカードを配る。

相手がジョーカー持ちであるならブラフや何かを企むよりは、
少しでも自分の手を強くしておきたい。最低でもスリーカード以上にしておきたいが
――手を開き、キュートは歯噛みする。

引いたの7が一枚に9が二枚。手元の9を残していればフルハウスが完成していた。
今回のルールでは、カードの交換は一度のみ。
ツーペアにはなったが、フルハウスに比べれば心許ないこの役で勝負に臨まなければならなくなった。

川 ゚ -゚)「レイズ」

逡巡する様子なく、素直クールは場代のチップ――に見立てた、
折れた割り箸――の上に更にチップを重ねる。

コールではなくレイズ。やはりジョーカーが何かと結びついて大きな役となったのか。
しかしレイズツーにしないところを見ると、そこまで大きくはなっていないのか。

224 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/10/17(金) 20:03:54 ID:v/2L0mXk0
キュートは自分の手札を見る。2と9のツーペア。
この手で、勝負から降りるか、勝負を受けるか、
さらにレイズ、場代を釣り上げるかを選択しなければならない。

勝負を降りた場合、場代のチップ一枚が相手の手に渡ってしまう。
サドンデス(どちらかのチップが尽きるまで勝負が終わらないルール)なのでチップ一枚の移動は、
取り返しのつく軽微な損失に過ぎない。

もし勝負を受けて勝った場合は、
場代分とレイズで追加したチップ一枚分、計二枚のチップがこちらに移動する。

相手のダメージと合わせて考えれば、それだけで四点分の開きが生じる。
逆にこちらが負けた場合は、相手が四点分リードすることになる。

場代を上げた場合。相手が降りなければだが、
レイズならチップ三枚の勝負に、レイズツーならチップ四枚の勝負になる。

レイズスリーはなく、ベットタイムも一度だけとの約束なので、
今回の状況だと最高でチップ四枚分の勝負に挑むことができる計算になる。

勝負がつけば、一気に八点分の差。
初期チップ数が一○枚なので十四対六と、たった一回の勝敗で勝負の大勢を決しかけることができる。

225 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/10/17(金) 20:07:06 ID:v/2L0mXk0
とはいえこれは、現実的な思考ではない。いまは降りるか、受けるかだ。
ツーペアという役は、強くもないが、決して弱い手でもない。
ポーカーには手が揃わない状況も山ほどあるからだ。

仮に素直クールの手にジョーカーが含まれていたとしても、
手がワンペアやツーペアであれば負けない。
同格の役を成立させた場合役の優劣は、
ワイルドカードを含んでいない方が強いことになっているからだ。

o川*゚Д゚)o「コール!」

場代に合わせて、チップを一枚重ねる。
キュートは勝負に出た。負ける可能性はあるが、勝つ可能性もゼロではない。
それに初戦から弱気を見せて、素直クールの正体不明な威圧感に呑まれたくない、
呑まれてたまるかという意気もそこには含まれていた。
  _
( ゚∀゚)「それじゃ、互いに手札をオープンしてくれ」

ジャッジの長岡の言葉にあわせ、キュートは手を開く。
手札は当然ツーペア。あとは素直クール次第。
素直クールはキュートの手札を見たまま、しばらく手を開けなかった。

226 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/10/17(金) 20:08:30 ID:v/2L0mXk0
川 ゚ -゚)「負けてしまいましたね」

素直クールの手札が開く。クイーンのワンペア。
危惧していたジョーカーの姿は、どこにもなかった。
  _
( ゚∀゚)「勝者はさっさとチップを回収してくれ」

いわれて、急ぎ卓上のチップを集める。
勝ってしまった。あっさりと。あんなに頭を悩ませたのに、結局ジョーカーは使われていなかった。
その事実が何だか肩透かしで、ぼーっとしてしまった。

ほほを叩く。

十二対八。優勢ではあるが、こんなのすぐにひっくり返ってもおかしくない点差だ。
気を引き締めろ。しぃを――パパを手に入れるための勝負はこれからだ。

キュートと素直クール、お互いが場代のチップ一枚を卓に置いたのを確認して、長岡がカードを配る。

さて、今度の手は――最悪、ブタ<役をなしていない>だ。
フラッシュやストレートも狙えそうにない。今回の勝負は、捨てか。その鉄面皮に、変わりはない。
だがその顔を見た時、キュートはちょっと案を思いつく。

o川*゚ぺ)o「四枚チェンジ」

今回はキュートが先に手を交換する。
カードの交換やベットタイムの順番は、前の勝負の勝利者が先に行うよう取り決めてある。
入ってきたのは、ジャックのワンペア。勝てる役とは言えない。
が、今回はこれでいい。役にはこだわらない。

227 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/10/17(金) 20:10:11 ID:v/2L0mXk0
川 ゚ -゚)「一枚チェンジ」

素直クールが手札の一枚を交換する。一枚だけとは、どういうことか。
フルハウス狙いのツーペアが濃厚だが……。表情からは何も読めない。
  _
( ゚∀゚)「さ、ベットを」

素直クールの手が最低でもツーペアなら、キュートの手で勝てるわけがない。
通常ならドロップ<降りる>して次戦に臨むところだろう。だが。

o川*゚ぺ)o「レイズです」

チップを場にもう一枚重ねる。
キュートは、勝負に出た。これがキュートの策。
つまり先ほど自分が考えたジョーカーへの恐れを、素直クールにも抱いてもらおうという魂胆だ。

ジョーカーが手元にあれば、スリーカード以上の役は割合現実的に揃えられる。
もしキュートの読み通り素直クールの手がツーペアであるなら、
ドロップも考慮しておかしくない状況のはず。

仮に負けたとしてもこちらは振り出しにもどるだけだが、
素直クールは勝負に出て負けた場合、残りのチップ数を六枚にまで減らした上、
点差は八点まで広がってしまう。ここは無茶をせず、傷口を最小に抑える選択もありだろう。

さあ、どうでる素直クール。
もし場代を引き上げるようならその時は引き下がるが、
できればここも拾っておきたい。勝っておきたい。そのために、降りろ、素直クール。

ドロップ<降りろ>、
ドロップ<降りろ>、
ドロップ<降りろ>!

228 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/10/17(金) 20:11:44 ID:v/2L0mXk0



川 ゚ -゚)「ドロップ。降ります」

思わず、小さくガッツポーズ。
やった、賭けに勝った!
キュートは長岡から催促される前に、卓上のチップをかき集める。

やはり素直クールの手はツーペアだったのか。
いや、もしかしたらストレートやフラッシュを狙って、結局役にならなかったのかもしれない。
どちらでも、いまはもう構わないが。とにかく、勝った事実がすべてだ。

いける。このままいける。
素直クールなんて怖くない、この勢いで全勝してやる!



この意気込みが功を奏したのか、キュートは続く三戦目、四戦目も勝利。
素直クールとの点差を十五対五にまで広げていた。

勝てる。
勝てる。
私は勝てる。
運も味方についている。

素直クールは三戦目をツーペア、四戦目はドロップしていた。
対するキュートはフラッシュ、ストレートと、二回連続で高めの役が回ってきている。
流れはこちらにあるのだ。

229 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/10/17(金) 20:13:11 ID:v/2L0mXk0
o川*゚ぺ)o「レイズツー!」

キュートは果敢に責める。キュートの手札はキングのスリーカード。
前二回に比べれば格下だが、十分に戦えるカードだ。
しかしキュートの狙いはカードの手にはなく、チップの圧力を増すところにある。

受けられないはずだ。眼前の鉄面皮を観察しながら、キュートは思考する。
素直クールがもしこの勝負を受けて負けたら、彼女の残りチップは二枚だけになる。
これは実質、勝負の終結を意味する。

勝負の参加には場代としてチップを一枚支払わなければならない。
そうすると手元に残るのはチップ一枚。これでは相手のレイズツーを受けることができず、
降りることしかできなくなる。チップがなくなるより前に、勝敗は決するのだ。

四戦目はドロップした。
弱気になっている証拠だ。
もう一度ドロップ、来い。

だが、素直クールの選択は、キュートの予想から外れたものであった。

川 ゚ -゚)「レイズツー」

素直クールは手元のチップをすべて支払い、場代を引き上げた。
一回でチップ五枚――点数十点分の推移を奪い合う勝負。
それを受諾するかどうかのバトンは、再びキュートに渡された。

230 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/10/17(金) 20:14:03 ID:v/2L0mXk0
――落ち着け。よく考えるんだ。

可能性を考慮する。なぜコールではなく、レイズ。
それもレイズツーなのか。その答えは簡単だ。
先ほどキュートが考えたように、残りチップが二枚を切った時点で、勝敗は決するから。

コールもレイズもレイズツーも、最後のチャンスという意味では素直クールにとっては同価値になる。
であれば、限界まで賭け金を引き上げるのは当然だろう。

ではなぜドロップして次戦に持ち越さなかったのか。
一見、良い手が入ったので強気の勝負にでたように思える。
しかし果たして本当にそうか。今回の戦いではできて、次戦に持ち越してはできないこと。

それは、場代をチップ五枚まで引き上げることだ。
残りのチップ数が四枚になれば当然五枚勝負はできなくなるし、
そもそもキュートがレイズするかもわからない。

当たり前のことだが、賭け金が大きくなればなるほどチップの圧力は増す。
三枚の勝負ではなく、四枚の勝負でもなく、賭け額の上限である五枚で挑んだ、その意味。

――実は、ブラフなのではないか?

先程キュート自身が行ったように、このレイズツーにはチップの圧力を増すという意味が
――いや、その意味だけしかないのではとキュートは考える。

231 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/10/17(金) 20:15:18 ID:v/2L0mXk0
しかもキュートの場合と違い、素直クールには後がない。
それなのに勝負にでたという事実で、実際以上にその手を強く見せている。
ただそれだけで、種を合かせばその手は空、役を成していないのではないか。

仮に手が入っていたとしても、落ち目の素直クールに強い手が入っているとは思えない。
いや、入っているはずがない。

キュートは目の前の怪老をにらむ。
素直クール。
いいですよ。やってやりましょう。
ここで、決着をつけてやる。

o川*゚Д゚)o「コール!」

チップを場に払う。卓上には、十点分のチップが積もる。
ブラフは見破った。あとは手を開き、このチップをすべて回収するだけだ。
そして私は、パパと会う。

キュートの手はもちろんキングのスリーカード。
負けるはずがない。この手を上回っているはずがない。
さあ素直クール、その手を開け。

キュートの念に呼応するようなタイミングで、
ゆっくりと、素直クールはその手の中の五枚のカードを、場に開いた。

232 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/10/17(金) 20:16:42 ID:v/2L0mXk0
o川 ゚Д゚)o「……え?」

川 ゚ -゚)「紙一重でしたね」

o川 ゚Д゚)o「だって、そんなはず……」

素直カードの手札は、3と7と、エースが三枚。
エースのスリーカードだった。

揃っていないはずだったのに。
決着するはずだったのに。
だが現実は、キュートの負け。
絶対的に有利だった状況は、一瞬にしてなかったものへと変じた。

川 ゚ -゚)「いまでしたらまだ、勝負の破棄も受け付けますよ」

いつの間にか綺麗に片づいた卓をはさんで、素直クールが話しかけてきた。
依然として矍鑠(かくしゃく)、枯れ木の身体から不気味な威圧感を発している。

バカにして。

o川*゚ぺ)o「結構です。まだ振り出しに戻っただけですから。長岡さん、カードを!」

長岡を急かして配らせたカード。その中身は――やった、ジョーカーだ。
現状ではワンペアにしかならないけども、一回のカード交換で化ける可能性は十分にある。

川 ゚ -゚)「三枚チェンジです」

素直クールが先に、カードを交換する。
三枚チェンジということは、元々はワンペアだろうか。
あまり良い手ではなさそうだ。それなら――

233 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/10/17(金) 20:18:23 ID:v/2L0mXk0
o川*゚ぺ)o「三枚チェンジです!」

キュートは罠を仕掛ける。
一枚余計なカードを手元に残すことでジョーカーの所持を隠蔽し、弱い手だと相手に錯覚させる。

むろん交換したカードに良い手が来なければ絵に描いた餅だが、
果たして――よし、いける。これなら負けない。
勝てる。後は相手が引っかかるかどうかだが――。

川 ゚ -゚)「レイズツー。チップを二枚支払います」

よし、よし、よし!
かかった! 勝った!

o川*゚Д゚)o「私もレイズツーです!」

チップを支払い、卓上は再び十点を奪い合う勝負の場となる。
けれどこのチップはすべて、私のものだ。
点差はまた大きく開き、今度こそ止めをさしてやる。

キュートは手を開いた。
それに続き、素直クールの手も開けられた。
そこに描かれていたのは――。

234 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/10/17(金) 20:19:31 ID:v/2L0mXk0
o川 Д )o「…………うそだ」

キュートも、素直クールも、その手はお互いフルハウス。
しかし役の強さが同格だった場合、問答無用でジョーカーを含む側が負けとなる。

つまり、キュートは負けた。
絶対に勝てると踏んだ勝負に挑んで、負けた。
たったの二戦、たったの二戦で形勢は逆転してしまった。

川 ゚ -゚)「またもや紙一重でしたね。長岡、カードを」

カードが配られる。
まだだ、まだ完全に敗北したわけじゃない。
素直クールだって、同じ状況から勝てたんだ。
私にだってまだ逆転の目はあるはずだ。

引いたカードはスリーカード。悪くない。
どころか初手ということを鑑みればかなり強いカードだ。
そうだ、まだ流れはこちらにある。相手が誰だろうと負けはしない。
絶対に勝って――。

川 ゚ -゚)「ノーチェンジ」

素直クールはそういって、卓上に手札を伏せた。

235 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/10/17(金) 20:20:33 ID:v/2L0mXk0
ノーチェンジだって?
つまり、素直に考えたら最低でもストレートになるということ?

……脅しだ。ただの脅しに過ぎない。
初手からそんな良い手が入ってくるわけない。
萎縮させようって魂胆だろうが、そうそうあんたの思い通りにはいかせないから。

しかしその異様さを、キュートは意識せざるを得ない。
現状のスリーカードでは勝てないのではないかと、どうしてもそう考えてしまう。

手札の内訳は、10のスリーカードと、あとがばらばら。
ただし10のうちの一枚と役にならない残りの二枚は、マークがすべてスペードだ。

通常なら10を手元に残しスリーカードを保険とした上で、フルハウスを狙っていくところだ。
しかし、スリーカードが負ける手札だとすれば、この10は保険でも何でもならなくなる。

ストレート以上を目指すなら、フラッシュかフルハウスが妥当。
だが同じ数字のペアと同じマークのペア、単純な確率でいえばフラッシュの方が遙かに揃いやすい。

強さでいえばフルハウスの方がもちろん上だが、役にならなければ元も子もない。
そもそも相手の手がブラフであるなら、この10のスリーカードで十分勝てるかもしれない。

どうするのが正解なのか。
どうすればいいのか。
どうすれば。

236 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/10/17(金) 20:21:35 ID:v/2L0mXk0
o川 へ )o「……二枚、チェンジです」

キュートはカードを二枚、捨てる。捨てたのは、10を二枚。
キュートはフラッシュ狙いを選んだ。配られたカードを凝視する。
胸を強く押さえる。
  _
( ゚∀゚)「どうした、見ないのか」

長岡に促されても、すぐにはカードを拾えなかった。
どれだけの時間が経ったか、キュートはようやくカードを拾う。
そして、その表側を細目で確認する。

――賭けに勝った。フラッシュだ。スペードが揃った。

キュートは安堵しかける。

が、それも束の間。

川 ゚ -゚)「レイズツー、場代を上げます」

237 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/10/17(金) 20:22:28 ID:v/2L0mXk0
素直クールは、二枚のチップを放り投げた。
わざとそのような仕草をしているようにも見えた。

脅しだ。ただの脅しに過ぎない。
戦って、もし負けたら後がないという事実をちらつかせて、
脅しをかけているだけの姑息な手段だ。

逆の見方をすれば、この強気は、自分の手の弱さを隠そうとしている行動に他ならない。
案外中身はブタなのではないか。そうに違いない。
勇気を出して踏み込めば、これは勝てる勝負だ。 

そうだ。私は負けない。このフラッシュは負けない。
戦えば勝てる。戦えば勝てる。戦えば勝てる。

戦えば、
戦えば、
戦えば――!



ドロップ<降りる>、です……。

247 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/10/17(金) 21:14:40 ID:v/2L0mXk0



続く二戦とも、キュートはチップを吐き出した。
勝負に負けたのではなく、どちらもドロップ、
勝負に挑むとができなかったのである。

わかっていた。
チップが四枚残っている時はともかく、三枚になったら勝負しなければならないと。
けれど、できなかった。手札がワンペアだったということもあるが、それ以上に、
キュートにはもう、勝つビジョンが見えなくなっていた。

結果、点差は一六。一八対二となり、勝敗は決した。
後はもう消化試合――の、はずだった。

o川 Д )o「とくべつ、ルール……?」

川 ゚ -゚)「そう、特別ルールです」

場面はすでにベットタイム。
素直クールがレイズツーを宣言し、どう足掻いても勝負にこぎつけないキュートが
ドロップを口にしようとしたところ。それを遮り、素直クールが話かけてきた。

特別ルール、という単語を伴って。

o川 Д )o「何ですか、それは」

川 ゚ -゚)「不足したチップ分を、ある条件を呑むことと引き替えに
     補足するというルールです。ただし対等な勝負ではありませんので、
     あなたが勝っても私の払ったチップ三枚すべてをお渡しすることはしません。

     あなたの払う条件と同様、一枚分のチップはあなたの手には渡らず、形なきものとしてゲームから除外致します。
     むろん負ければそこでおしまい。いかがですか、受けますか?」

248 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/10/17(金) 21:19:13 ID:v/2L0mXk0
キュートの手札は7と8のツーペア。
強い手とはいえないが、相手次第で十分に勝つことはできる。
受け取るチップ数が減るとはいえ勝負させてもらえるならば、それは願ってもない提案だ。
だが――。

o川 Д )o「ある条件って、何ですか。今すぐ死ねとかいいださないでしょうね」

川 ゚ -゚)「それではゲームになりません。私の提案はもっと穏便なものですよ。
     私の問いにあなたが真実を持って答えてくれさえすれば、それで構いません。
     ただし嘘やごまかしが見られた場合は、このルールは即刻破棄します。
     すなわちあなたは死にます」

結局怖いこと言ってるじゃないか……。

けれど、その程度の条件なら、別に。躊躇することもない。
素直クールのことだから意地の悪い質問をしてくるかもしれないが、
何とかして正解を答えてやる。あんたの気紛れ、乗っかってやる。

キュートは肯定の意を示すため、首肯する。
それを見て、素直クール、では……といった様子で口を開いた。

川 ゚ -゚)「あなたの両親の名を教えてください」

249 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/10/17(金) 21:20:50 ID:v/2L0mXk0
o川 ゚ぺ)o「……なんですって?」

聞き間違いを疑う。
もっと意味不明な難問が来るものと思っていたところに、両親の名前?

川 ゚ -゚)「どうしました、答えられないのですか?」

o川 ゚Д゚)o「そんなこと! 内藤ホライゾンと、内藤ツン、です。これで満足ですか?」

単純すぎる質問に、正直に答える。こんな質問なら、いくらでも答えよう。
キュートは勝負に挑もうとチップをつかんだ。
しかし素直クールは、キュートの行動を制するように静かに首を振った。

川 ゚ -゚)「その答えではチップの代わりにはなりませんね。あなたはごまかしている」

o川;゚Д゚)o「そんな、私はごまかしてなんか――」

川 ゚ -゚)「私が尋ねたのは、あなたの本当の両親の名です。
     あなたを産んだ者と、その夫の名」

250 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/10/17(金) 21:22:00 ID:v/2L0mXk0
胸に、杭を突き刺されたような痛みが走った。
痛い、痛い、ずきずきと、痛い。

o川; Д )o「何で、そのことを……」

川 ゚ -゚)「答えられませんか?」

息が苦しい。まるで海中へと一気に引きずり込まれてしまったみたいに。
それでもキュートは、胸の中に残った酸素を無理矢理に吐き出す。

o川; Д )o「……倉田モナーに、…………倉田、くるう……」

川 ゚ -゚)「結構。ゲームを続けましょう」

勝負は、キュートの勝ちだった。
素直クールの手札はジャックのワンペア。
これで残り二枚だったキュートのチップが四枚にまで増え、首の皮一枚つながったことになる。

だがそれも、たったの二戦で元に戻る。
キュートは再び所持チップ数を二つの減らし、
また同様に、素直クールはレイズツーを宣言してくる。

川 ゚ -゚)「では今回の問いです。あなたは何故精神科医を目指すのですか」

o川; Д )o「それは――」

川 ゚ -゚)「内藤キュート、真実を」

o川 Д )o「……ママ――倉田くるうへの復讐のため、です」

251 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/10/17(金) 21:22:42 ID:v/2L0mXk0
勝負に勝つ。
負ける。
レイズツー。

川 ゚ -゚)「実の母への復讐。その動機は何ですか」

o川 Д )o「あいつが、パパを奪ったから……。私のパパを、あいつが……」

川 ゚ -゚)「それは真実ですか」

o川 Д )o「そう、です……そのはず、です……」

勝つ。
負ける。
レイズツー。

川 ゚ -゚)「精神科医になることが、なぜ復讐になるのですか」

o川 Д )o「あいつが、くるうが言っていたんです。
      あいつの母親は人の心を導くすごい人だったって。
      そんなふうになりたかったって。
      だから私は、あいつがなりたくてもなれなかったものになって、それで……」

川 ゚ -゚)「それで、彼女が悔しがるとでも考えたのですか?」

o川 Д )o「……」

252 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/10/17(金) 21:23:38 ID:v/2L0mXk0
勝つ。
負ける。
レイズツー。

勝つ。
負ける。
レイズツー。

勝つ。
負ける。
レイズツー。

現実感がない。
無数の勝負。無数の負けに無数の問い、無数の答え。
そのどれもが、夢のなかの出来事のようにキュートには感じられてきた。

自分がいま何を答えているかすら、キュートには判然としない。
まるで自分のうちに潜む別の自己が、勝手に回答しているような、
そんなふうにすら思えてしまう。

だが、その永遠にも等しい時間にすら、終わりは平等に訪れる。
特別ルールの導入により、キュートはチップの枚数が足りないまま勝負に参加し続けてきた。

そのツケはチップの総数が一枚ずつ減っていくという歪みとして、
場に潜んでいたのである。初めのうちこそ微少な変化として誰も気にとめなかったが、
それは少しずつ、だが着実に進行し、やがて確かな形としてその姿を現した。

253 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/10/17(金) 21:24:52 ID:v/2L0mXk0
現在場で動いているチップの総数は、たったの八枚。
そしてその内訳はキュートが二、素直クールが六。
ただしその数も一時的なもの。一度の勝負で、その比率もたやすく変じる。

川 ゚ -゚)「いささか調子に乗りすぎてしまいましたか」

例によってレイズツーを宣言した素直クールにキュートが勝利し、
素直クールはそのチップ数を三枚に減らし、キュートは四枚にまで増やした。
一時の絶望的な差から、経緯はどうあれ形勢逆転したのである。

本来であれば。

キュートは、そうしなかった。
受け取る権利を得た素直クールからのチップを、卓上から払いのけた。

254 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/10/17(金) 21:26:52 ID:v/2L0mXk0
  _
( ゚∀゚)「おい」

長岡が睨んでくる。
だがそんなこと、構っていられない。
そんな余裕はない。相手はあくまで、素直クール。

o川 Д )o「いりません、こんなもの。
      その代わり、私も特別ルールです。
      私の問いに真実を答えてください、素直クール」

川 ゚ -゚)「何を聞きたいのです」

呼吸を整える。

知らない方が良いことかもしれない。
そんな予感が、キュートのなかではとぐろを巻いて鎮座している。

だが同時に、知らなければならないという焦燥感もある。
いまこの機を逃したら、私は一生懐疑と盲目の蜃気楼に惑わされ続けてしまうだろうから、と。

だからキュートは、真実を問う。

o川 Д )o「杉浦しぃとは、何ですか」

255 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/10/17(金) 21:27:55 ID:v/2L0mXk0
素直クールの目つきが鋭くなった。
人間らしい表情の変化をまるで見せなかった素直クールが、
初めて感情らしきものを露わにしている。

杉浦しぃとは、この素直クールにとっても特別な存在なのだろうか。

川 ゚ -゚)「……しぃとは、すべてです」

o川 Д )o「答えになっていません」

川 ゚ -゚)「それ以上答えようがないのです。……が、それではあまりに不義なのも事実。
     もう少し説明を試みてみましょうか。うまくいくとは思いませんが。

     元来、すべての中にはすべてが在ります。あなたにも、私にも、すべてが在る。
     私たち素直の者は、それを”太梵”と呼んでいましたが」

o川 Д )o「何の話ですか?」

川 ゚ -゚)「しぃを語る上で欠かせない話です。黙ってお聞きなさい。
     つまりすべての者のうちには太梵が在り、太梵のうちにすべての者は在ると私たちは考えました。

     ですが生命はその意識の表層で、個という在り方を獲得してしまいます。
     名を与え、自己と他者とを、自己とすべてとを分断してしまう。

     悪と善、毒と薬、死と生。一見相反するように思えるそれらが、
     一つの事象を別の相から捉えているという事実を忘れてしまう」

256 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/10/17(金) 21:29:26 ID:v/2L0mXk0
o川 Д )o「それは……」

素直クールの話を遮り、キュートは、
自らの抱える”真実”への懐疑を、口に、する。

o川 Д )o「呪いと、祈りも、ですか……」

素直クールが、薄く笑った、ように、見えた。

その顔が、キュートには、誰かと、
キュートのよく知っている何者かと、重なったように、思えた。

257 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/10/17(金) 21:30:27 ID:v/2L0mXk0
川 ゚ -゚)「内藤キュート。どうやらあなたも、真実へと足を踏み入れ初めているようですね。

     この世界とは、複雑に編み込まれた関係の織物です。
     我々とは、その織物が一時的に表す形象に過ぎません。
     やがてその糸は解かれ、我々という形象は跡形もなく消え去ることでしょう。

     永久不滅であるかのように振る舞おうと、それはただのつながりの中の表れでしかなく、
     自己に拘泥する限り彼はただの消えゆく者です。

     しかし杉浦しぃは違います。彼には自己が存在しません。
     自己が存在しないのに、存在している。彼は何者でもないが為に、何者でも在れる。
     故に彼は太梵――すなわちすべてなのです。

     ですが我々消えゆく者には、真に彼を理解することはできません。
     個として分断された我々には、すべてをすべてとして知覚する方法がわからないのです。
     その為に彼は、観測者の意識と無意識とに応じた相として表れる。

     ちょうどそう、量子の世界では、その位置と運動量を同時に観測できず、
     末端の関与者である観測者にその性質を依存するが如く。

     あなたにも心当たりがあるのではないですか、内藤キュート――」

258 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/10/17(金) 21:32:23 ID:v/2L0mXk0



勝負が開始される。おそらくは、最後の。

配られたカードはキングが二枚に、後はばらばら。
策はない。単純に強いカードを狙っていく。

o川 Д )o「三枚チェンジ」

引いたカードのうちに、キングが含まれていた。
これでキングのスリーカード。戦いに挑む格好は整った。

そしてベットタイム。キュートの宣言はコール。
現状維持。レイズしようが、同じ事だから。バトンは素直クールに渡される。

川 ゚ -゚)「レイズツー」

レイズツー。レイズツー。レイズツー。

耳の奥で、エコーしている。
五感が麻痺している感じ。
けれど、その中で意識だけが、次にくる質問が何かを、いやにはっきりと予知していた。

川 ゚ -゚)「あなたへの最後の問いは、ひとつ。”あの日”の真実を、すべて私に話してください」

259 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/10/17(金) 21:33:20 ID:v/2L0mXk0
あの日。
その言葉が何を示すのか、問わずともキュートには分かっていた。
”真実”に隠された”真実”が。

手元のカードをみる。
キングのスリーカード。
強い手だ。戦えば、きっと勝てる。
戦えば。
でも――。

それは、認めることと同義だ。

私が過ちであったと。

私の存在理由が過ちであったと。

私の存在が、過ちであったと。

それでも私は、進むべきなのか。

それとも私は、戻るべきなのか。

影の子供。

彼と一緒に、留まっているわけにはいかないのか。

o川 Д )o「わたし――」

パパ。

o川 Д )o「わたし、は――」

……ママ。

260 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/10/17(金) 21:34:50 ID:v/2L0mXk0







          お前はまた、奪うのか。






.

261 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/10/17(金) 21:35:36 ID:v/2L0mXk0
部屋の中に、突風が吹き荒れた。
いやそれは、人為的な暴力だ。

飛び込んできたのは、人間だった。
獣のような凶暴さで一瞬にして椅子や机を破壊し、暴力的な眼光で素直クールに牙を向いている。

キュートはその人物を知っていった。
人相があまりにも変貌しているために
ぱっと見では記憶と合致しなかったが、彼女は、確かに――。

o川 ゚Д゚)o「ハイン……?」

呼びかけた途端、身体が宙に浮いた。
そして次の瞬間には、景色が高速で動き出していた。
ハインに抱き抱えられていると気づいたのは、すでに管理室から出た後の事だった。

川 ゚ -゚)「長岡!」

素直クールの声が聞こえたような気がしたが、それも一瞬のうちに遠ざかっていった。
後にはもう、どこまでも続く伏魔殿<ラビリンス>の回廊しか映らなくなった。


.

262 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/10/17(金) 21:36:53 ID:v/2L0mXk0
          ※



从 ゚ー从「かわいそうに、こんなにやつれてなぁ……」

ハインの手が、キュートのほほをやさしくなぞった。

どうしてこうなったんだっけ。
場所はまだ、旧閉鎖棟の内部みたいだけれど。

キュートはいま、床の上で仰向けになっている。
その上には、ハイン。ちょうど、押し倒されるような格好になっている。
いや、ような、というよりは実際に、押し倒されているのか。
黒く染めた髪の根本から、地毛の金髪が現れているのが見える。

確か素直クールと対決している最中にハインが乱入して、
ハインは暴れ回って私をさらい、すごい早さで走り去っていって、それで――。

おでこに軽い衝撃が伝わった。
ハインが頭を下げて、額を合わせてきたらしい。
すぐ目の前で、ハインの瞳が輝いている。

蒼く、澄んだ瞳。コンタクトをつけていない。

263 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/10/17(金) 21:38:22 ID:v/2L0mXk0
从 ゚ー从「お前がいなくなってる間にな、いろんな事があったんだぞ。
     俺な、振られちゃったんだ」

o川 ゚ぺ)o「振られたって、デミタスに?」

キュートの言葉に、ハインは吹き出した。
楽しそうに笑っている。けれど、ハインだって、ひどいものだ。
やせこけてしまって、元の美しさも全部、台無し。見る影もない。

从 ^ー从「違うよ、あいつは違う。もっと大切な人。たぶん、俺の初恋の人、かな」

ハインの両手が、抱えるように、拘束するようにキュートの頭に絡む。
それ自体が意志をもった動物のように。背筋に何か、寒いものが走った。

264 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/10/17(金) 21:39:33 ID:v/2L0mXk0
从 ー从「キュートは勝手に、大人になんかなったりしないよね?」

o川;゚ぺ)o「……ハイン?」

从 ー从「私には、キュートだけなの」

o川;゚ぺ)o「ちょっと、ハイン」

从 ー从「私にキュートを守らせて」

o川;゚ぺ)o「いい加減にして」

从 ー从「ずっとこのままでいて……」

o川; へ )o「そうしないと、私――」

从 ー从「ずっと、幼いキュートで……」

o川 へ )o「私は――」

蒼い瞳に見入られる。

私は――。
彼女は――。



だから、すべてを忘れて――

265 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/10/17(金) 21:40:34 ID:v/2L0mXk0






















                                                       ――あなたの、ことも?

266 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/10/17(金) 21:42:24 ID:v/2L0mXk0



从 ∀从「……あはっ」

ハインは天井を仰いでいた。
馬乗りの格好のまま。

彼女がいま、どんな顔をしているのか。
私には、わからない。
その瞳が、まだ。
蒼いのかも。

从 ∀从「また、振られちゃった、かな」

男たちの声が聞こえる。
足音も。
探しているのだ、私たちのことを。
私と、ハインを。
 


程なくして、キュートは捕らえられた。
彼女は牢室に閉じこめられ、
一切の灯りはかき消され、

そして、
その胎内にキュートを残し、
旧閉鎖棟の、

錠は下りた。


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