ワンダーランドではないようです

その2

16 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/05/18(木) 21:58:45 ID:/zTS6FDc0
――( ^ν^)――


堂々としていればいいとは、後部座席にいる少女の弁だった。
親子と見れば不自然な年齢でも無いからと。頷ける考えではあった。
確かに、少し前の自分も同じような考えを使っていた。

ただ、今の自分が実践出来るかどうかは話が別だった。
対向車線を走る一台一台に注意を払いすぎて、運転が覚束ない。
身体が勝手に動かしているようなもので、信号の色を判別出来ているのが不思議なほどだった。

土曜日の青い空が今日は一段と疎ましかった。
解像度の高い視界だと、県道に引かれた白線の経年劣化が分かり易く映る。
些細な綻びすら衆目の元に晒されてしまう。そんな気がした。

いつのまにかブレーキに体重がかけられていた。
前を行くトラックが停止している。それを壁に見立てて、俺は少し息を吐いた。

ξ゚听)ξ「大丈夫ですか」

背後から少女の声が聞こえた。
バックミラーを見ると、さっきまで開いていた漫画雑誌が閉じられていた。

( ^ν^)「誘拐犯って心配されるんだな」

なにもかもがおかしかった。
俺に気を遣う余裕すらある少女も、少女の要求を呑み続けて雑誌まで買い与えた俺も。
既に下に置かれているのか。職場ですらこんなスピードで転がり落ちたことはねぇぞ。

17 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/05/18(木) 22:00:18 ID:/zTS6FDc0
ξ゚听)ξ「よくある話じゃないですか? 極限状態で情が芽生えてしまうとか」

( ^ν^)「そうかもな。極限状態ならな」

他人事のように話す少女は例に当てはまらないが。

中々前方のトラックは動きを見せない。
少しの間、沈黙が続いた。

ξ゚听)ξ「今更な話ですが」

静寂を破ったのは、車の発進ではなく、少女の声だった。

ξ゚听)ξ「結局のところ、誰でも良かったんですか?」

( ^ν^)「……答える必要あんのかそれ」

俺の返答は、違うと言っているようなものだった。

ξ゚听)ξ「母親の方ですか?」

( ^ν^)「……はぁ」

吐いた溜め息は、肯定に等しかった。
どちらかと言えばそっちの比重の方が大きい。

18 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/05/18(木) 22:02:43 ID:/zTS6FDc0
ξ゚听)ξ「そりゃどっかで恨みを買いますよね」

( ^ν^)「……別に、恨んでるつもりじゃ」

言いかけたところで口が止まった。



文学少年、と言えば聞こえが良い根暗な高校生。
それが二十年近く前の俺だった。

日陰者の趣味にも馴染めなかった俺は、教室の隅にいる脂ぎった男どもを、
内心では見下していた。息抜きと現実逃避を混合し、だらだらと堕ちていくこいつらとは違うと。

今思うと、唯一秀でている勉学で、自分のプライドをなんとか維持していたのだろう。
クラスの賑わいから逃げた先にある文字に没頭し、孤立していることを孤高だと思い込んでいた。

その思い込みも、実に脆いものではあったが。

傍から見れば、俺は見下している連中と何も変わらなかった。
寧ろ一人でいる分惨めに映り、嘲笑の的には最適だった。

それなりの進学校ではあったから、表立った攻撃は少なかったが、
時折俺をネタに使った話が耳に入った。普段は喧騒の一部でしかない声が、
そんな時に限って言葉として意味を成し、鮮明に聞こえたことを覚えている。

だから、女子連中に視線をやっている際に、あいつに話しかけられた時は冷や汗が止まらなかった。

19 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/05/18(木) 22:04:28 ID:/zTS6FDc0
ζ(゚ー゚*ζ「どこをみてるのかなー?」

残暑が鬱陶しい九月の日だった。
開いた窓に近い机の俺はまだマシだったが、入って来る風は生温く、あまり心地の良いものでは無かった。
そのせいしれない。後ろの席に彼女がいることに気づかないほどに、注意力を欠いていたのは。

恐る恐る振り向くと、頬杖をついて座っている彼女が目に映った。
不安を煽りたてる心臓が、一瞬だけ別の鳴り方をした。

別の世界に住んでいる存在がそこにいた。
派手な化粧。ウェーブをかけた金髪。着崩したブラウス。
どこを取っても気圧される要素しか無い……はずだった。

品の無さを感じなかったのは、単純に顔立ちが整っているからだろうか。
それとも、内面から滲み出ているものがあるのか。

なんにせよ、俺がデレに見惚れていた瞬間があったのは事実だった。
すぐにそれどころではなくなってしまったが。

20 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/05/18(木) 22:06:18 ID:/zTS6FDc0
ζ(゚ー゚*ζ「珍しいね。いつもはずーっと本に向かってるのに」

( ;^ν^)「あっ、いや、その」

スタッカートのような声を出している俺は情けなかった。
この先に起こりうることに、恐れを抱いていた。

何度傷つけられようが、心の強度は増したりしない。
少なくとも俺の場合はそうだった。
だからその時が訪れたら、同様に胸が引き裂かれてしまうのだろう。

じゃあ、どうすればいい? どう取り繕って、この場を凌げばいい?

……考えるまでもなかった。無駄だ。
俺がどんな言葉を使おうが、デレが曲解して面白おかしく言いふらしたらおしまい。

( ^ν^)「……くだらねぇ話をしてんなって」

なら、もういい。
そう開き直れたのは、日ごろの鬱憤が爆発したせいだろうか。

21 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/05/18(木) 22:09:42 ID:/zTS6FDc0
( ^ν^)「どいつもこいつもモララーモララーって馬鹿みてぇに騒いでやがる。発情期か? あいつら」

モララーとは、先日の甲子園で優勝投手になった球児だった。
ルックスが良く、メディアでの受け答えも様になっていた。

( ^ν^)「あいつらはさ、ドラマに酔ってるだけだろ。
体格が良いわけでもないし、特に目立った球も放ってない。プロに入ったら最初だけ客寄せに使われておしまいだよ。
そしてキャーキャー騒いでる声も萎んでいく。結局は一瞬の酔狂じゃねぇか。そんなんに踊らされるやつって脳が足りないんじゃねぇの」

捲し立てるように溜まっていた毒を吐き出した。
紛れも無い本音で、間違ったことを言ったとも思わない。

だが、一瞬も無い人間の妬みが混じっているのは否めなかった。
例え先を見据え、軌道に乗り、良い生活が出来るようになったとしても、俺にはあんな春は訪れないから。

ζ(゚ー゚*ζ「……へぇ」

俺の小心を引き戻したのは、デレの声だった。
そのトーンからは感情を伺うことはできなかった。

再び冷や汗を掻き始めたのと、デレが動いたのは同時だった。
彼女は開かれた窓の方へ向き、背伸びを兼ねるようにして立ち上がった。
腰に巻かれたサマーベストが連動して動く様が、やけにゆっくりと見えた。

22 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/05/18(木) 22:10:58 ID:/zTS6FDc0
ζ(゚ー゚*ζ「いやーその通りだね」

( ^ν^)「……えっ」

俺の方に向き直したデレは、やけにすっきりした表情で、
胸の前で両手を重ね、小さく拍手をするかのように動かした。

ζ(゚ー゚*ζ「だから、代弁者に褒美のキスを」

一瞬の出来事だった。
俺の頬に、デレが口付けをしたことは。

ζ(゚ー^*ζ「いい? これが一瞬の酔狂です」

軽くウインクをしてから、デレはそそくさと女子連中の方へ去って行った。



( ^ν^)「……確かに軽薄な奴だったが、どうなんだろうな」

自分でもよく分からなかった。あの出来事があったから、今の状況があるのは間違いないが。

ξ゚听)ξ「私に訊かれても分かりませんよ」

( ^ν^)「ああ、悪い」

口に出してからはっとしてしまう。
それは癖だった。遜り続けていた人間の。

23 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/05/18(木) 22:13:04 ID:/zTS6FDc0
ξ゚听)ξ「誘拐犯も謝罪とかするんですか」

( ;^ν^)「うるせぇな。お前やっぱり自分の立場を理解出来てねぇだろ」

ξ゚听)ξ「あなたが分かってないんですよ。着替えの服も、
風呂場も、食事も提供して、尚且つ暴力も振るわず、あまつさえパシリすらこなす」

( ;^ν^)「……ちっ」

これも癖だろうか。

ξ゚听)ξ「結構いい人なんですね、あなたって」

( ^ν^)「……馬鹿じゃねぇの」

俺の悪態は、クラクションに掻き消された。
いつの間にか信号の色が変わっていたらしい。

八つ当たりをするかのように、アクセルを強く踏み込んだ。
視界の端に映る、横断歩道を待つ母と子の姿が瞬く間に歪んだ。

( ^ν^)「あれだろ、不良が少し良いことをするのと一緒。ああいうの大っ嫌いだから俺は」

ξ゚听)ξ「ごもっともで。結構私たちって気が合うんじゃないですか」

( ^ν^)「……嬉しくねー」

同意を得られたことに対する感情は複雑だった。

24 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/05/18(木) 22:14:38 ID:/zTS6FDc0
――ξ゚听)ξ――


おはようと声をかけて来た内藤に、私は返事を返さなかった。

なんとなく予想はついていたけど、よくもまあ前日で懲りないものだった。
お人好しという分類なのかもしれない。もしくはただ能天気なだけか。

彼にそんな印象を抱いたのが今朝のことだった。

そして次の休み時間を迎えるや否や、私の机に歩いて来た彼に、
どんな印象を抱けばいいのか分からないのが現在のことだった。

ξ゚听)ξ「……国語とか苦手な人?」

左に立っている内藤に目を向けないまま、言葉を発した。

( ^ω^)「えっ? 別に苦手ではないと思うお……多分」

ξ゚听)ξ「著者の気持ちを考えることって難しい?」

( ^ω^)「それも別に……。なんでだお?」

なんでもなにもなかった。
私は確かに内藤の机に入れていたはずだった。
あなたがからかわれるだけだと、そういう文章を書いた紙を。

( ^ω^)「……あっ、もしかして君も嫌だったのかお?」

ξ゚听)ξ「なにが?」

( ^ω^)「ほら、冷やかされるのが」

ξ゚听)ξ「そんな相手もいないから別に」

( ;^ω^)「おっ……」

私の返しに影を感じてしまったのか、内藤は言葉を選び始めている。
悪い気はしないけど、いらない気の遣い方だった。

25 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/05/18(木) 22:15:58 ID:/zTS6FDc0
ξ゚听)ξ「……結局あなたはなにがしたいの?」

私は頬杖をつき、内藤を見上げた。
急に視線を寄越されたせいか、元からかは分からないけど、彼の所作は安定していない。

( ;^ω^)「ちょっと、話がしたくなったんだお」

ξ゚听)ξ「例えばどういう?」

( ;^ω^)「ほら、あの漫画を知ってるのかとかだお」

あの漫画、とはなにを指しているのかと訊くと、内藤は私が聞いたことのあるタイトルを出した。

ξ゚听)ξ「そりゃ、知ってはいるけど、読んだことは無いわね」

( ;^ω^)「そうかお……」

再び内藤は言葉を選び始めた……というよりは、今度は探し始めたと言い換えた方が正しい気がした。
なんとか間を空けないようにと、必死に頭を動かしているように見える。

私は、その姿が妙に気になってしまった。

ξ゚听)ξ「……それ、面白いの?」

結果として、助け船を出すぐらいに。

26 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/05/18(木) 22:17:34 ID:/zTS6FDc0
今日はここまで。
またお付き合い願えたらなと思います。

30 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/05/20(土) 20:58:17 ID:9Ror0A8M0
――( ^ν^)――


俺はなにをしているんだ? 今更になって、そう思った。
三十代半ばの無職が今の状況に疑問を覚えるのは当然だった。
青々とした芝生の上で、ゴムボールを少女と投げ合っているという、そんな状況に。

明らかにおかしい事態なのに、認識が遅れた理由は、余裕の無さにあった。
言われるがままにたどり着いた市民公園には、自分の入る隙間が見当たらなかったから。

快晴の下に照らされている、アスレチックにまとわりつく子供、
ペットと戯れている熟年夫婦、噴水近くのベンチで距離を計りかねている少年少女。

その風景に溶け込むことは、とても困難に感じたが、
強い視線を察知することは無かった。ガキどもの高周波音が隙間を作ってくれたせいだろうか。
それとも、親子と見れば不自然ではない、という少女の見立て通りだったのか。

どちらかと言えば後者の方に頷けた。
確かにこうしていると、父親ごっこをしている気分になる。
なんかの風俗かよ、と内心で毒づいたが、首筋を撫でる風はインモラルの反対にあるものだった。

31 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/05/20(土) 20:59:50 ID:9Ror0A8M0
長らく触れていない健全は、引きこもりにとっては毒だ。
浴び続けていると、長らく触れていない後悔が浮かぶほどに。

人生を間違えたのは、いつだった?



ガリ勉というのは、つまりのところ要領が悪いだけだと知ったのは、
度々俺を小馬鹿にして来たあいつが、自分より上の大学に悠々と入った時だった。
裏でなにをしていたかまでは把握していないが、遊びの計画を立てる姿ばかりが目に入り、
勉強に打ち込んでいるようには見えない男だった。なのに結果はそれだ。
少なくとも、放課後の時間を多く使ったのは、間違いなく自分の方だというのに。

しかし、即ちそれは、何かに打ち込める精神を俺が持っていたことの証明だった。
なのに、大学に入って打ち込んだものは、運転資格の取得ぐらいだった。

どうしようもない挫折感を覚え、だらだらと単位を掠めとり、
サークルにも入らず、怠惰を貪る俺には、乗せる相手なんて見つかりもしないというのに。

孤独には慣れていたはずだ。高校に比べ、大学では馬鹿にされることも無い。
楽な日々を送れていた。だが、それだけ。本当に、楽なだけだった。

そんな空虚な生活で摩耗した心に、遅効性の病が襲い掛かった。
くだらないと思っていたものに憧れを抱いてしまった。
甘ったるくて安っぽい歌を、思い出の一ページに刻み込むような、そんな人種に。

32 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/05/20(土) 21:01:27 ID:9Ror0A8M0
俺をこんな風にした張本人は、とっくに手の届かない場所にいた。
次元が違う存在に恋をしてしまう。高校で見下していた、脂ぎった男たちの気持ちに近かったが、
次元、という表現が、ただの比喩でしかないところが決定的に異なっていた。

いつしか、確かに存在する彼女が、どうしているのかを考えるようになった。
不毛な時間だった。俺にとって、ネカディブな想像しか浮かばなかったから。
それでもやめられず、やがて冬を迎え、クリスマスソングが至る所で流される頃には、酷く憂鬱になった。
華々しい音楽を聴くと、彼女はイルミネーションの中に放り込まれる。
その先を見たくない俺は、瞼を閉じても消えないものを必死に振り払った。

当時の俺は、頭を黒で塗りつぶしたかった。
ラジオから流れる轟音を聴いていたのもその一環だった。
きらびやかさとは無縁な、無骨な声やギターに溺れていた。

ロッカーがサンタクロースは死んだと歌ったのはクリスマスイブの夜だった。
最初はざまぁみろと思ったが、当たり前の話だった。
俺がいる場所はどうしようもない現実で、デレが誰かと寝ていることは変わらなかった。

33 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/05/20(土) 21:02:24 ID:9Ror0A8M0
それっきり病が襲ってくることは無かった。
再び空虚な生活を送り、こなし、やがてそれなりの企業へ入社した。

学歴というのは、あくまでスタートラインでしかないことを知ったのはその時だった。
真面目にこなしていればなんとかなると思っていた。
だが、仕事を覚えるためのメモにはどっ散らかった内容を刻んでしまい、
分かったふりをして独断で動けば怒声が飛び、同僚とのコミュニケーションも上手くいかなかった。

気がつけばカーストの最下層だった。
同僚と談笑しているからといって、事務職の契約社員である、
若い女の仕事を押し付けられることは日常茶飯事だった。

それぐらいやってやれよと、軽い調子で言う同僚と、
猫撫で声から冷めたトーンに落とし、上っ面の謝罪をする女。

いつか殺してやると思い続けながらも、訪れるはずもない実行日の前に退職届を書いた。

34 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/05/20(土) 21:04:04 ID:9Ror0A8M0
大体その繰り返しだった。
やがては祈られる対象となり、怠惰を貪るだけの人間になっていた。

そんな空虚な生活で摩耗した心には、やはりというべきなのか、デレの影が忍び寄って来た。
ネットの発達は著しい。少し調べれば、近況が分かってしまうケースもある。

幸か不幸か、彼女は分かってしまう方のケースだった。

別に、大きなことをしようとしたわけではない。
あわよくばネットストーカーでもしてやろう。
小心者の俺がすることなんてその程度のはずだった。

35 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/05/20(土) 21:05:43 ID:9Ror0A8M0
ただ、デレの結婚相手が、あいつだったのがいけなかった。
歪な恋慕の相手と、挫折の象徴が混ざり合い、脳内がどうしようもないほどに掻き乱された。
長らく揺れ動くことの無かった感情が爆発し、前後不覚になり、最終的に得たのは全能感だった。
本来なら決行出来るはずの無い計画が、今なら完遂出来る気がした。

まずは子供を人質に取ろう。話はそこからだと思った。



ξ゚听)ξ「なにが面白いのか分からないですね、これ」

疲労を感じさせない声で少女は言った。

流石に喉は乾いたのか、ペットボトルの水を度々口に含んでいるが、
ベンチで俺の隣に座っている少女は息一つ切らしていなかった。

華奢な身体にも関わらず、運動神経が良いのか、
続けるごとに随分と綺麗な球を放るようになっていた。

36 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/05/20(土) 21:07:16 ID:9Ror0A8M0
( ;^ν^)「てめーが言い出したんだろうが。へとへとになるまでやらせといてよく言うな」

対照的に体力の無さを露呈している俺は、ベンチの裏に両腕を回し、空を見上げていた。
徐々に雲が占める面積が増えてきているように見える。さっきよりはマシな天気だ。

ξ゚听)ξ「あの、シャワーを浴びたいので一回戻っていいですか」

( ;^ν^)「なんでお前の意思で事は動いて行くんだよ……」

ξ゚听)ξ「だってあなたがどうしたいのか言わないから。結局物とか金が欲しいんですか?」

その問いかけに対する解答が見当たらなかった。
結局のところ、誘拐までは勢いで誤魔化せたが、
そこからは本来の小心が戻ってしまっていた。

漠然とした復讐心を、どう扱えばいいのか分からない。

ξ゚听)ξ「別にまだ決めなくてもいいですから、とりあえず帰りましょうよ」

少女は先に立ち上がり、空のペットボトルを隣のゴミ箱に入れた。

( ;^ν^)「あのな、俺の家だからな」

後を追うように俺も立ち上がった。
我ながら、滑稽な姿だった。

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