('A`)ドクオは凄腕ハンターのようです

7.エビルスパイダー

126 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/11/26(木) 23:10:14 ID:jrQLXXF60

7.エビルスパイダー


(;'A`)

凄腕ハンターウツタ・ドクオは、今、覚悟を迫られていた。
事の起こりは三十分前。

ちょっと見た事のないキノコでも食べて、グルメ気取ってみようと思ったのが間違いであった。

食べたその瞬間から、一切の魔法が使えなくなってしまったのだ。
毒なら魔法で解毒しよう、とか軽く思っていたが、流石に予想外というものだった。

それだけなら、まだいい。
彼には国の騎士団長にも劣らぬ剣捌きがある。



その剣も、今しがた溶けた。

127 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/26(木) 23:11:01 ID:jrQLXXF60

(;'A`)

前に見えるのはエビルスパイダーという魔物。
大きな蜘蛛だ。

この魔物、本来は巣を作るだけである。
無毒な魔物の筈だった。

それが、酸を吐いた。
咄嗟に剣で守ったが、剣は失う結果となってしまったのだ。

(;'A`)「新種かな…」

国の魔物調査委員に要報告だ、と頭の中に留めたが、まずは目の前。
彼は徒手空拳の武術においても、ナンバー1と言ってもよい実力を持っている。
攻撃手段を二つ失っても尚、負ける要素はなかった。




(;'A`)



蜘蛛が、苦手でなければ。

128 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/26(木) 23:13:44 ID:jrQLXXF60

そう、彼は蜘蛛が苦手であった。


(;'A`)



昔のことだ―――

駆け出しの頃にまさにこのエビルスパイダーを相手取ったことがあった。
怖いもの知らずのハンタードクオは、魔物を二つに切り裂いた。

それが、間違いであった。

切り裂いたその断面、特に腹から数百数千の子蜘蛛(手のひらサイズ)がわらわらと飛び出し、波濤となって彼を襲ったのである。

ドクオは半狂乱に陥り、所構わず剣を振り、火炎を放ち、雷を落とし続けた。
しかし圧倒的な物量にはそれでも足らず、結果的に半径50メートルを消し飛ばす大爆発を引き起こし、事態を収束させた。

そのせいで、その山はそこだけ未だに岩肌である。

129 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/26(木) 23:14:49 ID:jrQLXXF60

そんな彼が、素手での戦闘を強いられる結果となった。

平素であればこの魔物は、極大火炎魔法で灰と化すか、闇の魔法で存在ごと消し去るか。
どちらかであった。

それが、素手。
心中は察しても察しきれないというものである。

(;'A`)「何でキノコなんか食っちまったんだ…」

もともとこの魔物だと知らされていれば、そんな無謀は犯さなかった。
『なんか大きいやつがいた』というだけの依頼だったのである。

今日に限って、魔法符は切らしてしまっている。

これを慢心と言わずに何と言うのか。
彼はもう気を抜かない、見知らぬキノコなど食べないと、彼は固く誓った。

130 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/26(木) 23:15:59 ID:jrQLXXF60

(;'A`)「…」

ともかく今は、素手でやらなければならない。
剣も、魔法も、ないのである。

しかし、考え無しでは行けない。
できたら一撃で、安全に仕留めたい。

溶毒を持っているが、分泌しているのは内臓であろう。

ならば胸でも、もちろん腹でもなく、一撃で頭を砕きたい。


もちろん、ドクオなら可能である。
一瞬で間合いに入り、毒を吐かれる前に頭に一撃を見舞い、離脱。


しかし、理論上可能でも実行できるかは、別である。
思考と実行は、違うのだ。

気合を高め、一瞬で、いや一瞬すら生温いほどの速度で、自らの触覚をも騙す速度で拳を打ち込む必要があった。

さもなくば、恐らくぬるりとした、じゅるっとした、生暖かくて臭い何かを、思う存分拳で感じることになる。

131 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/26(木) 23:17:11 ID:jrQLXXF60

(;'A`)「っっ………」

(; A )「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!」

咆哮。


人体の限界を超えるための、自らの慢心を清算する為の。
かつてない叫びは、少し離れた彼の街にまで届いた。
それを聞き「新種の魔物だ」と勘違いした人が、ドクオ討伐依頼を書き始める程だった。


そして。

(;'A`)「!?」

気合十分のドクオは、何かに気づいた。
体に、変化が訪れている。

自らの体から、金色のオーラが迸っているのだ。

(;'A`)「まさか…」

(;'A`)「覚醒…!?」

そう、覚醒、であった。

ここにきて。いきなり。なんの前触れもなく。
このスペックの上、覚醒であった。

132 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/26(木) 23:18:51 ID:jrQLXXF60

何が何だか分からないが、これがあれば蜘蛛に触れずに倒せる。
希望が見えた。

彼は蜘蛛に右腕を向けた。
勝利を確信した笑みが浮かんだ。

('A`)「ふふ…蜘蛛風情が、覚悟を決めな。終わりだ!」

('A`)「破ッッッ!!!!!」

('A`)

('A`) ?

何も起こらない。
エネルギー波とかが出る予定であった。

('A`)「なるほどな…。『破』じゃなかったか 」

('A`)「滅ッッッッッ!!!!!!!」

('A`)

('A`)「邪ッッッッッッ!!!!!!!!」

('A`)

('A`)「セイッッッッッッ!!!!!!!!!」

('A`)

('A`)「ほぉんッッッッッッッッ!!!!!!!!!」

ちなみに、ここまでの行動は、全て蜘蛛の攻撃を避けながらの動作である。
凄腕と呼ばれる所以である。

133 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/26(木) 23:19:50 ID:jrQLXXF60

(; A )「…………」

かれこれ五分。
何も、起こらない。

間違いなく、二度目の慢心であった。

もう本当に、物理攻撃しか残されていない。

(; A )

(;'A`)

('A`)

覚悟を、決めた。
元はと言えば、自分の油断から生じた状況。
ケリを、つける時だ。



('A`)「行くぞ!!」

覚醒によって、身体能力は極限まで引き出されていた。
光にさえ届きそうな速さで、距離を詰める。

魔物がそれに気づく前に、脳天に一撃を―――――!!

134 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/26(木) 23:20:48 ID:jrQLXXF60

(;'A`)「!?」

拳がヒットした瞬間、魔物が消え去った。

(;'A`)

否、違う。
そんな訳はない。

空を見る。
まとめて粉々になった蜘蛛と子蜘蛛の体が、今まさに天から降り注ごうとしていた。

魔物が内側から破裂したのだ、それがこのオーラの力だ、と理解できた頃には、遅かった。

纏っていたオーラは、もうない。
その一撃で、既に疲労困憊だった。

( A )

ドクオにはもう、立ち尽くすことしか――――――

135 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/26(木) 23:21:36 ID:jrQLXXF60






この日の彼のお風呂は、普段より二時間長かった…。






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