('A`)ドクオは凄腕ハンターのようです

5.レイス&はぐれなんたら

83 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/11/24(火) 18:46:32 ID:RwSNsPyg0

5.レイス&はぐれなんたら


(;'A`)

深い森の中、凄腕ハンターと呼ばれるウツタ・ドクオは、選択を強いられていた。

目の前には、魔物。
今回の依頼の目標、レイスである。
布の塊のような幽霊のくせに、生意気にも畑を荒らすとの依頼だった。

彼を迷わせているのは、その横。
ドロドロとした、なんとも言えない銀色の魔物。

年に一回見られるか見られないかの、希少な魔物だった。

彼は選択を強いられていた。
今少しだけはじめている錬金術に、あの銀色の魔物の体が必要だった。
どうしても必要だった。

レイスも、倒さなくてはならない。
放って行っては逃げてしまうだろう。

しかし、今ここで銀色のこいつを逃したら、次会えるのはいつだろうか。

彼は、選択を強いられていた。

84 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/24(火) 18:47:55 ID:RwSNsPyg0

(;'A`)

思えば、以前もこういうことがあった。
負け知らずのハンターが、未だ世間を知らぬ子供の頃であった。

お母さんがアイスを二つ買ってきてくれて、どっちか選んで食べていいと言ってくれた。
残りは明日だ、と。

彼には、選べなかった。

結果的に両方を一口ずつ交互に食べ進め、お腹を壊した事があった。

('A`)「人は、変わらないな…」

自分はあの頃のままだ、と独りごちた。
彼の人生の課題を体現するように、魔物たちはじっとこちらを見ている。

ここで、結論を出す必要がある。
あの時の、選べなかった自分の為にも。

あの時の手は使えない。
交互に攻撃すれば、両方逃してしまうだろう。
大魔法で両方を消し飛ばすことも考えたが、銀色のやつが消し飛んでは意味がない。
というかそもそも、銀色のやつには魔法が効かないのだ。

85 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/24(火) 18:50:23 ID:RwSNsPyg0

('A`)「何にせよ、考える時間が必要だ」

刻一刻と変わりゆく戦闘の中で、そのような選択をするのは困難であった。
しかし時間を稼ごうにも、銀色のやつに魔法は効かない。

…が、しかし。

ドクオは考えた。

('A`)「この空間そのものを制圧してしまえば、それも関係ない…!」

集中を高める。
久しぶりの大魔法に、少しだけ緊張した。

(;'A`)「よし」

魔力を込めた腕で、目の前の空間に円を描く。
空中で光り輝くその奇跡は同じく円となり、彼の思念に合わせて紫色の魔法陣へと変化した。

(;'A`)「『滔々たる時の流れよ、揺蕩う我等とその理よ』」

(;'A`)「『今、我が名において命じる!』」

(;'A`)「『鎖を緩めろ!タイムストップ』!!」

魔法陣が溶けるように消え去った瞬間。
世界が、魔物達も含めて凍りついたように動かなくなった。
成功したようだ。
ドクオの周り、半径10メートルほどの空間の時間が止まった。

(;'A`)「ふー…」

相変わらず、詠唱は恥ずかしい。

86 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/24(火) 18:51:25 ID:RwSNsPyg0

さて、考える時間はできた。

('A`)

仕事を取るか、私事を取るか。
ドクオは、これは大きな問題だと考えた。

『仕事と私、どっちが大事なの!?』という有名なセリフがある。

どちらかを立てればどちらかは成らない。
難しい問題だ。

例え自分が両方を大事にしていても、選ばなくてはならない。
さらに言えば、片方がより大事であっても、もう片方、然程大事ではない方を取らなくてはいけない場面も、往々にしてある。

レイスを倒せば、錬金術はうまくいかない。
銀色のやつを倒せば、任務は失敗。
片方は仕事、片方は趣味。

('A`)「この戦いは、全男性の悩みを背負う戦いも同然なのか」

凄腕ハンターのウツタ・ドクオには、妙なところで少々考えすぎる癖があった。

87 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/24(火) 18:52:29 ID:RwSNsPyg0

('A`)

凍った世界で考える。

仮にレイス、仕事を取った場合。

先程の男女間に置き換えて考えると、『彼女より仕事を優先するつまらない奴』になってしまうのではないだろうか。
どうあれ、彼女の心が離れていってしまうことは必然的とも思えた。

ならば逆に、もう片方の魔物、趣味を取った場合は?

男女間に置き換えれば、『仕事より彼女を優先する不誠実な奴』になりかねない。
確かに、彼の住む国の経済は割と潤っている。
だがしかし、流石にそこまでは許されないだろう。
仕事を失ってまでご機嫌を取るものなのだろうか。

(;'A`)

女性などとロクに話したことがないドクオには、分からなかった。
最早、詰みの状態に思えた。

早急に王城の賢者に相談すべきだと思った。

いやしかし、と考え直す。
どこかにある筈だ。


どちらもそこそこ上手く取っていける、冴えた答えが。

88 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/24(火) 18:53:09 ID:l6S0GzmY0

('A`)

長考すること、十五分。
覚悟は、決まった。

腕を一度振り、時間停止を解除する。
周りの世界が、再び動き出した。

ドクオは剣を構え直す。
魔物達も向き直る。


(#'A`)「ってやぁぁぁぁぁっ!!!!」


一瞬で速度上昇の呪文をかけ、もう一瞬で距離を詰め、無防備な体に剣を振り抜く。

彼が選んだのは――――――




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89 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/24(火) 18:53:58 ID:l6S0GzmY0


(#'A`)「らぁっ!!!!」





―――――レイス、仕事だった。





ドクオは、『お前が大事だから、お前を養うために好きでもねぇ仕事してんだよ!!』という究極の言葉で、この問題にけりをつけたのだ。




この答えが、今回のドクオの迷いに適用される訳ではないと気づくのは、少しだけ後の話である。

90 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/24(火) 18:54:40 ID:RwSNsPyg0

('A`)「…よし」

やはり、銀色の魔物の姿はもう見えない。
しかし、ドクオは満足だった。

ドクオが斬ったのはレイスだけではない。

あの時の不甲斐ない自分の迷い。
ひいては全男性の迷いさえも、真っ二つに斬ったのだ。

レイス討伐の証を袋に入れ、彼は踵を返して歩き出した。

柔らかな森の木漏れ日が、彼を祝福しているように感じた。

大きな選択を終え、彼のレベルは確実に上がったのだ。

91 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/11/24(火) 18:55:28 ID:RwSNsPyg0





(;'A`)「あ、あの、はぐれなんたらの体ってあります?」

( ^ω^)「ありますお」

―――銀色のやつの素材は、近所の魔法道具屋さんが持っていた。
頼んだら売ってもらえた。




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