( ^ω^)千年の夢のようです

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905 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/11/07(土) 00:50:04 ID:zkSXS8IA0
■38     - 変えられないもの -



特級神官の( ФωФ)


【ふたごじま】話中の "天かける儀式" での神託によって、
祈り、しいては信仰を否定されてしまった。

彼を含めた島の人々は存在そのものすら拒絶された負の感情を抱いてしまい、
結果としてそれがアサウルスの招来を許してしまう。

しかしこの舞台裏で、一点の相克が行われていた。
とあるワンシーンから抜粋する。



(´・ω・`) 『海中はどんなものがあるんだろう』

( ФωФ) 『これ、集中しなさい』

(´・ω・`) 『ねえ、なにがあるの?』

( ФωФ) 『うむ、魚がいるのは確かだが…
か ーー …人間は水に潜れない。
誰も海の中をきちんと見たことはないのである』

 

906 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/11/07(土) 00:52:15 ID:zkSXS8IA0

『か ―― …』

ロマネスクは言い淀み、悟られぬように誤魔化しはしたが…
本当はこう発言するつもりだった。


『神のみぞしるのである』。


…信仰は終わっていなかった。
島の人々のなかにも同じような者は確かに居たが、
特級神官として携わっていたロマネスクのなかでは秘めた想いが特に大きく在り続けた。


アサウルスは感情を餌にし、感情目掛けて襲ってくる。

感情値が強ければ強いほどアサウルスは感知しやすくなり、
それが負の感情であればあるほどアサウルスという個体は強くなる仕組みだ。


御神体としての( ∵)が行った警告は
あくまでアサウルスの招来を防ぐためのものだった(終末年における人々のように無感情を求めた)が、
ふたごじまの民に蔓延した否定感の強さはビコーズの予想になかったといえよう。


アサウルスはこれによって一定の強さを手に入れるも、
ロマネスクを筆頭に、心の底からの純粋な祈りによって不完全な状態で降臨する。


その姿が "黒い槍" のアサウルスであり、
兄者とショボンを貫いた正体となっている。


<了>


907 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/11/07(土) 00:53:05 ID:zkSXS8IA0
■39      - 変えられるもの -



( ´_ゝ`)はかつて信仰教団としての責務は果たしつつ、
しかし ミセ*゚ー゚)リやζ(゚ー゚*ζ、
その他の信者による行き過ぎた勧誘を、それとなく止めるよう努めていた。


【ふたごじま】話中に記述された用語を紐解くとこうなる。


破折屈伏(はしゃくくっぷく)とは、いわゆる折伏を指す。
人をいったん議論などによって破り、自己の誤りを悟らせること。

摂受(しょうじゅ)は、
心を寛大にして相手やその間違いを即座に否定せず反発せず受け入れ、
穏やかに説得することをいう。


ミセリとデレは前者ばかりに気をとられていた。
兄者によって日頃から後者の心を説かれてはいたものの、
結局最後まで改善することはなかった。

とどのつまり、兄者は組織には馴染めても島の信仰に染まっていなかった。
そんな彼だからこそ、いの一番に価値観を変化させることができたのだろう。

908 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/11/07(土) 00:55:06 ID:zkSXS8IA0
ふたごじまの信仰は以下の特徴がある。


・御神体(ビコーズ)を奉っていた。
・神、および天使や神の使いの存在を肯定していた。
・信者はみんな灰黒色の木札を持っていた。


…典型的な偶像崇拝。
崇めるべきは神であり、心のない依り代を用意してまで
"見えないものを、目に見える" まで追い求める。

突き詰めてそれは
"神を信じる" のではなく、
"神を信じている自分を盲信しているだけ" だと弟者は思った。
だから弟者は耐えきれず、追放に至る。


兄者は違う。
"神を信じる" ということは、
"同じものを信じる仲間も信じられるはず" なのだと、
信仰の先にある対人感情を求めていた。

909 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/11/07(土) 00:56:05 ID:zkSXS8IA0
天かける儀式から数年…。
大空洞の兄者の元に、かつての信者として以後毎日を過ごす沢山の迷い人が訪れていた。


『あれから夜も眠れません…。
陽が昇れば思えます、新しい朝が来た、と』

『…夜の帳がおりるたびに気持ちが塞ぐんです。
もう二度とあの日には戻れないのだ、と』

『自分には何もないことを思い知ったよ。
見続けていたのは幻で、身に付いたのは身体の贅肉ばかりじゃて…』

『こんなことなら、ああしておけば良かった…こうしていたなら……
そんな思いばかりが募るのよ、ねえ』


異口同音に語られる不安。
ロマネスクですら、時に口をついて溢すことがあった。


( ФωФ)『…我々の信仰とは、一体なんだったのだろうか』

( ´_ゝ`)『皆も、きっとおなじ気持ちなのでしょうね』


そこで彼はまず話を訊き、肯定し、相手の言葉を促す。
――摂受。

そうすることではじめて、人はこちらの言葉を求める時が来る。
彼は言葉を結ぶ。
――折伏。


( ´_ゝ`)『……しかし輝く過去も、薄暗い未来も、すべては貴方の心が作り出した執着でしかない。
貴方を否定しているのは、他ならぬ貴方自身です。
誰一人として貴方を否定していない』

( ФωФ)『…』

( ´_ゝ`)『好きだった頃の貴方はもう居ないことを認めましょう。
そうすれば、きっと誰かが助けてくれる。
…たとえばそう、昨日はじめて出逢った人が縁を結ぶこともあります』

910 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/11/07(土) 00:57:21 ID:zkSXS8IA0
いつか見たやり取りを、ここにもう一度記述しておこう。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ξ゚听)ξ「…儀式、結局はどう思ったの?」

( ´_ゝ`)
つ□~ 「…変わらんさ。 変われないよ」


無反応ではないが、やはり気落ちしているせいですべてを諦めたように彼は呟く。


( ^ω^)「神はまだ、兄者の中にいるかお?」

( ´_ゝ`)
つ□~ 「……どうなんだろうな」

( ^ω^)「……」

( ´_ゝ`)「…でももしかしたら、俺はもう町に居ても仕方ないかもしれないな」


そう言って彼は顔を伏せ、膝を折ってしゃがみこみ、祈るように少しだけ涙を流す。

それは海へ向けて…

かつて自分が追放した、もう会うことのできない弟へ向けて…


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ここで兄者が流した涙は、失われた島の信仰に対するものではない。
人の心と向き合わなかった島民と己の末路に涙したのだ。

きちんと向き合えていたなら、
弱った彼らは互いを慰められるはずなのだから。

911 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/11/07(土) 00:58:22 ID:zkSXS8IA0
そしてもうひとつ。
兄者の葬儀でロマネスクはこう語った。



( ФωФ) 『肉体は朽ちても、魂がいく場所は我らの記憶の中なのだ』

( うωФ) 『彼はそう、我輩に説いてくれた… それで…良いのだろう?』



後年の兄者の生活は、時に挫けることもあれど、きっと充実していたのではないかと思う。

人は人と居ることで向き合う準備を整える。
人は人と触れ合うことで向き合える。


ふたごじまから三日月島へと名を変えたこと…。
それを物語る一端に、兄者を筆頭とする
"変われた者" たちが確かに居た。


世に蔓延る信仰を否定こそしないが、ないがしろにしてはいけないものも必ずあるはずだ。

遺されるものを考えて祈るべし。
本質として何が大切かを考えるきっかけになるだろう。


――願わくば、
死の間際に空っぽな記憶だけが灯び甦らないことを切に願う。


変われるものは救われる。



<了>


913 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/11/07(土) 01:00:45 ID:zkSXS8IA0
■40      - 海に見た雪景色 -



"(´<_` )「よっ――こいせっ…と」


すっかり愛着のわいた小舟に荷を詰め込んで、弟者は背を伸ばした。

天に煌めく星々が彼の瞳を潤す。
ひんやりした空気が鼻孔を触る。


いま彼は一人、陸に面した低い崖下でたゆたう舟に揺られている。
月に照らされた海面がわずかながら彼という存在を知らせてはいるが、
それを知っているのは依頼人だけだった。


(´<_` )「重量オーケー、スペース問題なし。
…あとは到着を待つばかりだな」


今日の客は若い ――といっても同世代頃と思われるが―― 一組の男女。
まとめた荷物をひとまず弟者に預け、当人らは日没から夜明けまでに改めて来るという。


曖昧な指定時刻ではあるものの別段心配はしていなかった。

言い方は悪いが、人質ならぬ物質がこちらにはある。
金銭も共に受け取っているため、いざとなれば換金させてもらえばいい。

あまり考えたくはない待ち伏せという線も、自分が海にいれば逃げる自信もあった。

914 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/11/07(土) 01:03:10 ID:zkSXS8IA0
(´<_` )「…」

(´<_` )

(`<_,` )"

゚。('<. ` )「――えっくし!!」


息を吐き、ぶるるっと震えた身体を思わずさする。
防寒具として厚手の首巻きと手袋を装備してはいるがそれでも尚。


(´<_`;)「……この辺りは冷えるな」


大陸には二季がある。
空の彼方…太陽がもっとも放熱する夏と、その放熱が静まる秋。


しかしそんな秋の気候にしても、これほどの寒気を感じることは滅多にない。


ふと見上げた先に聳える大きな頂き。
ちりちりと宙に降り注ぐパウダースノウ。

天に近いほど色濃く主張し、しかし地に降り立つ頃にはかき消えてしまう儚い命。


(´<_` )「……まだかなぁ」


――アイスキャニオン。
それは古来より形成されし氷の山が鎮座する雪原地帯。

彼は棚氷の片隅に舟を止めて、いまか、いまかと依頼人を待っている。

915 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/11/07(土) 01:03:54 ID:zkSXS8IA0
大陸北西に位置するこの地域は気温だけでなく、風景も寒々しさを感じさせる。


草木の生えにくい土… 氷壁に覆われた獣道。
この山を登るための路は存在するのだろうか…。
背が高く分厚い氷が邪魔をして、なまじ歩くことも砕くこともできそうにない。

猛り吹くすきま風は迷路の入り口を連想させつつ、
その奥を見通すことすら許しはしない天然の要塞を思わせた。


(´<_` )「ワケアリ…駆け落ち… うーん、そんなところか?」


暇をもて余し、なんとなく依頼人を思い起こす弟者。
悲壮感漂う雰囲気でもなかったが、どこか神妙な面持ちを残していった印象がある。


(´<_`;)「…あーくそ、ますます寒くなってきたぞ」


夜が深まってきた……。
波に濡れた舟には少しずつ氷霜が張り付きだす。

強くなる身体の揺れ。

それが冷気に凍える自分自身のせいだけではないと、
気付かされるまでそれほど時間はかからなかった。

     《ド
       ::(´      :    》
「ぅお?!」   <_`;):  ォン


――直後、吹雪空を衝く爆発音。
真横に噴き出す大量の雪土が彼方向こうへ飛んでいく。


(´<_`;)「おいおいおい…なんだよ、何が起き ――――」



 

916 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/11/07(土) 01:05:19 ID:zkSXS8IA0
凄まじい震動がここまで轟き伝わった。

方角は違ったものの雪崩が押し寄せる可能性を考え、
弟者はオールに手をかけた。
いつでも舟を動かせる心構えをもちながら空を仰ぐ。


(´<_`;)「…………」


…。
しかし閑静に時は流れる。


弟者がいくら待っても、
アイスキャニオンの動きは続くことなく、それきり日常を取り戻していた。

余韻としての粉雪が彼の頭をほんの少しだけ撫でていくだけ。
そんな固まった体勢のまま一時間が経とうとしている。


(´<_`;)( …早めに離れたいところだな、これは )

「待たせてしまってごめんなさい」


その時かけられた声は最後に聴いた音と同じだった。

視界の外から投げられる不意打ちの穏やかさ…。
先の爆発と比べての落差に、一瞬でも心身を強張らせてしまった己を自嘲する。


(´<_`;)「えっ――あ、ぁあ…あんたか」

ξ゚听)ξ 「約束通り残っていてくれて凄く助かるわ、ありがとう」

917 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/11/07(土) 01:06:06 ID:zkSXS8IA0
ツンは崖上まで来ると、片手でスカートの前を抑えながら舟へと飛び乗った。
カクッと揺れる足元にも弟者は平然と立ち、依頼人を支えようと腕を差し出す。

…しかし、どうやらいらぬ心配だったようだ。
彼女は慌てる様子もなく足場の感触を確かめると、
弟者の手を軽く握り返した。

そして振り向き、アイスキャニオンの麓を指差す。


ξ゚听)ξ 「あと一人ももうすぐ来るから待っててね」

(´<_`;)「いいけどあんたら…今まで雪山に居たのか?
さっき上のほうで爆発が――」

ξ゚听)ξ 「居たけど…大丈夫よ、ここまでは追ってこないはずだから。
でも念のためブーンが戻ってきたらすぐに出発しましょう」

(´<_`;)「…??」


煙に巻くようなやり取りから程なく、もう一人の依頼人であるブーンの姿が見えた。
挨拶もほどほどに、彼もまた崖から飛び乗る。


⊂( ^ω^)⊃ 「 ――っとう!」


ツンと違い、ブーンは体格に恵まれている。
ガク  と大きく舟が傾いた。
  ン、
…海上で荒波に揉まれることもある弟者ですら、さすがにたたらを踏む衝撃。


ξ゚听)ξ 「大丈夫?」

(´<_` )「ああ…それじゃあ行くぞ」

( ^ω^)「よろしくだお!」


弟者は掴んでいたオールに重心を落とすと、肩を回して舟を進める。
静かに…だがしかし速やかに岸辺を離れた。

918 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/11/07(土) 01:07:28 ID:zkSXS8IA0
ブーンもツンも、短い河を渡る時くらいにしか舟を動かしたことがない。
だから大海で舟を操るのは弟者の生業であり、得意分野だ。

細かな流氷を退かしつつ、
大きな流氷に行く手を遮られぬよう、
器用にオールと舟頭を左右に操る。


( ^ω^)「うーん、さすがだお。
やっぱりお願いして良かったお」

ξ゚听)ξ 「実は誰に頼んでも断られていたのよ。
陸地経由も考えていたけれど、今日は少しでも退路を増やしておきたかったから……」

(´<_` )「退路…アイスキャニオンにはそんな危険なものがあるのか?」

ξ゚听)ξ 「一部の人にとってはね。
麓にいる分には何もないんだけど…私たちにはあそこが故郷だから」


弟者は内心驚きながらも「へえ…」と適当な相槌を打ち、
後ろにいる二人の表情を窺おうとした。

今はリラックスした様子のブーンとツン…。
しかしよく見れば、その額にはうっすらと汗が滲んでいる。


あのアイスキャニオンにいたにも拘わらず。
…走ってきた疲れとは明らかに異なる発汗の跡。


   ――なによりも。
     今は遠くに見える、
     彼らの背後の空に見えるのは――

 

919 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/11/07(土) 01:08:54 ID:zkSXS8IA0
(´<_`;)「――……」


弟者は生唾を飲み込み、前方へ注意を向け直す。


氷海地帯での余所見は命取りとなる。
自分だけならいざ知らず、今は二人の命を預かっている身…。

万が一、この舟が転覆でもして冷たい海に投げ出されてしまえば決して生きて帰れないだろう。

人の生が有限である限り。


ξ゚听)ξ 「……」(^ω^ )


そんな弟者の気持ちを二人が見抜いているかは分からない。

…彼らがアイスキャニオンで戦っていたのは、
かつて自分たちが産み出してしまった幻影。


今しがた弟者の見た、
この世のものとは思えぬ残像。


(´<_` )「…まあいいさ、命があるだけ俺は今日という日に感謝するよ。
さあ、ここからどこに向かえばいい?」


すでに氷の群れは抜けた。
ここからは水温も高くなり、
しかし代わりに海底からの災害に注意を払わねばならない。

雪景色に背を向け、
三人を乗せた舟が少しの重みを取り戻して大海を走る。

920 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/11/07(土) 01:09:47 ID:zkSXS8IA0
( ^ω^)「西の孤島、"ふたごじま" まで」

(´<_` )「――!」


年に一度は必ずその地を告げる客がいる……まるで弟者の里帰りを願うかのように。


(´<_` )「…良かったらアンタらの話でも訊かせてくれるかな」


もうすぐ彼の故郷において、一つの歴史が刻まれる。
世界の構造と共に…。


(´<_` )「故郷…ね。
俺も実はその島の生まれでさ」


オールを漕ぐ手は止まらない。
むしろどこか急かすように力んでいるのを弟者当人は気付いてはいないだろう。


一度どこかの町で食料を…、
それと、先日までに飲みきってしまったコーヒーを補給しよう。


弟者は頭の中でぼんやりとそう考えて、次の瞬間には世界地図を浮かべる。


そうこうしているうち――。
アイスキャニオンで見た影のことを彼は少しずつ忘れてしまった。


悪い夢のように。




<了>


921 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/11/07(土) 01:19:53 ID:zkSXS8IA0
■6    - 初代モナーとの約束 -


ショボンが携えていた "隕鉄の刀" 。
彼がこれを所持し始めたのは赤い森での軍事侵攻時。


原材料となる隕鉄は、三日月島を発ってから
(アサウルス戦でブーンを助けるために海に散らしてしまった)蟻を捜しては殺し、
かき集めたもの。



隕鉄を加工した初代モナー(以下モナー)は、
かつて三日月島から大陸に移住した家系の生まれである。


彼らが初めて出会ったのは大陸戦争最初期。

モナーにとってのショボン。
祖父母、両親から言い伝えられていたとはいえ、
不老不死の存在を間近でみた驚きは大きかった。

それと同時――軍に所属しているという事実に対しても。

922 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/11/07(土) 01:21:58 ID:zkSXS8IA0
そんな彼が請けたショボンの依頼、
それが "刀の製造" 。


死なない人間が、殺し合いの避けられない戦争に関わっている。
死なない人間が、人殺しの道具を欲している。

たかだか一振りの刃であろうと、どれだけ生殺与奪を握れるのか…
モナーでなくとも理解できよう。



そして当時、大陸におけるモナーの人間関係は徐々に崩れていた。

とりわけ依頼に関して想定外の使い方をしてしまうケースが後を絶たず、
その内容もよりによって軍事利用に傾きつつある状況に、
いいかげん辟易としていた。

ともすれば不老不死が求めるほどの刃など、
当時、精神的に疲れていたモナーにとっては畏怖の対象そのものでしかない。


『ショボンは…その刀でどれだけの命を奪うつもりモナか?』

(´・ω・`) 『誰かを殺すためじゃあない。
普通の人たちでは太刀打ちできないであろう存在に立ち向かうに、
もっと適した力が欲しいだけさ』


依頼受理を渋るモナーに、ショボンはゆっくり諭すように話し始める。

923 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/11/07(土) 01:22:53 ID:zkSXS8IA0
(´・ω・`) 『モナー、君のこれまでの話は聞いているよ。
自分の意思とは裏腹に他人を傷付けたり死なせてしまう……
どうしようもなくて、やるせない気持ちならば僕にも理解できる』

(´-ω-`) 『だからせめて僕は、製造者となる君に誠意をもって応えたい。
僕の望む力を与えてくれるならば、君の望まない力は決して持たない。
…これを等価交換条件とでもいおうか』

(´・ω・`) 『この戦争には必ず裏がある。
人と人、国と国の単純な争いではない気がする…。
恐らくは、僕の捜しているものが関わっているような――』


二人きりの部屋。
やがてテーブルに置かれたショボンの手の中に一つのガラス瓶。

中にはぎっしりと黒い塊…いや、黒い虫の群れが詰められている。


(´・ω・`) 『僕からの条件はただひとつ、これを練り込んだ得物を頼めないか?
形状は問わないが…とりわけ扱いには注意がいる。
作業時には念のため僕も同席するよ』

924 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/11/07(土) 01:23:37 ID:zkSXS8IA0
…こうして二人はしばらくの時間を共に過ごす。

黒い虫の特性上、鍛練作業には困難極まる部分もあったが、
ショボンの手助けによってひとまずは無事に得物が出来上がった。

鈍色に、しかして刃の奥に潜ませる輝きは、反して光を発している。


「この世のものとは思えないモナ」

(´・ω・`) 「はは、なんだかそれ、自画自賛してるみたいだね」

「あの虫は一体なんだったモナ?
しかもそれがこんな刃になるとは夢にも……」

(´・ω・`) 「…」


"空から降ってきたのさ" ――。
このときショボンには、そう形容するのが限界だった。

それでもモナーはどこか満足げに頷き、
「ならこれは、天からの贈り物ってことモナね」
と納得した。
そしてショボンに向けて、刀を差し出す腕を途中で止める。


「……このあいだ話してくれたこと、覚えているモナ?」

925 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/11/07(土) 01:25:38 ID:zkSXS8IA0
等価交換条件。
そしてショボン自ら語った、刀の使い道。


「そのままそっくり約束して欲しいモナ」


…誰かを殺すのではなく、普通の人には立ち向かえない存在のためにこの刀を使う。


(´・ω・`) 「…わかった」

「約束なんて曖昧なもの…期待しているわけじゃないけど。
それでもこの刀はショボンのために造られたモナ」


人にも物にも、存在理由が必ずある。
鳥の翼は空を飛ぶために…人の足は歩くためにある。

レゾンデートルを否定してしまうのをモナーはなにより嫌がった。
だから――モナーは戦争が嫌いだ。


(´・ω・`) 「同感だね」


軽い口調。
しかし、刀を受け取ったショボンの腕から伝わる力強い返答をモナーは確かに感じとる。


その双肩に人の意志を背負い、若き不死者は礼を陳べて城へと戻っていった。

再びモナーを引き連れて、赤い森に旅立つのはこのあとの話。



そして10年…100年と月日が流れても、
ショボンはモナーとの約束を守り続けていた。



<了>

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