( ^ω^)千年の夢のようです

('A`):死して屍拾うもの

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339 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/07(月) 17:09:17 ID:fmnOfmms0

大陸内のどこかの山中に、確かに存在はするものの人々から秘匿され、村ありきで作られた村。

人が集まって出来たのではなく…
不自然に存在する場所だからここに村が出来た。


村正面から窺える大きな水門がどしりと構え、村の水路を細かく整備している。
このおかげで村が大雨や洪水による被害を受けた歴史はない。

東方を模倣した瓦屋根、金箔や紅に彩られた建物は平屋にしては天井が高く、階層建てられているならば低い。
村を通る数本の川には水車小屋が造られていて、子供達が跳ねた水で無邪気に遊んでいた。

340 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/07(月) 17:13:20 ID:fmnOfmms0

ヒートが村に戻るのは何年ぶりになるか…

幼い頃、ばあ様と村の皆に見送られて忍の里に旅立ったきり。
そんな記憶が甦ると、まるで彼女の心も当時に遡るようだ。

水車小屋の中では穀粉や酒などが造られている。
いまならお酒の味も分かるだろうか?
昔は嫌いだった麦飯も、成長した今ならありがたみがよく分かる。


ノハ*゚听) 「……」


Σ ノパ听) 「そうだ、ばあ様のところへ!」


思い出に浸ってしまう気持ちを抑え、ヒートはばあ様の屋敷へと駆けていく。

昔は広大な土地だと身体全体に感じていた村の風景が、今では数歩翔び歩くだけでガラリ、ガラリとその姿を変えていく。

畑仕事をこなすジジ達、
大荷物となる洗濯に勤しむ女達、
番犬の世話を兼ねて探検隊を組む子供達。


その誰もがヒートの帰郷を笑顔で迎えてくれる。
何年経っても、生まれ故郷は自分を祝福してくれるものだ。

…例え、どんなに汚れ仕事をしていても、
…例え、罪を犯しても、
…例え、一度は故郷を棄てたとしても、

故郷は優しく出迎えてくれる。
それはきっと、産まれた場所に還りたくなる本能として人間が最後に願う事なのかもしれない。


きっとばあ様にも喜んでもらえる。
ヒートは長旅の疲れも吹っ飛ばして村の最奥へと走った。

341 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/07(月) 17:14:08 ID:fmnOfmms0


ノパ听) 「ばあ様!」


ヒートがガラッと屋敷の戸を豪快に開けた先で、暢気な様子で棚上の埃取りに精を出す老婆が振り返る。


lw´‐ _‐ノv 「……あれえ?
なんでヒートがここに?」


ノパ听)


ノパ听) 「……あれえ?」


老婆はヒートのばあ様であるシュー、その人だった。
しかし、腰も曲がってなければ顔や腕にシワも見当たらない。
唯一、首に刻まれたシワだけがそれを見分ける特徴。
若々しい女性だと誰もが思う容姿が、名物婆さんと呼ばれる所以だ。


だがヒートが驚いたのはそんなことではない。


ノパ听) 「病に倒れたんじゃないのか!」

lw´‐ _‐ノv 「倒れたよー。
そん時は忍者も真っ青の宙返りで鶏もびっくりしてたもんさ」

ノパ听) 「すげえ!」

342 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/07(月) 17:15:06 ID:fmnOfmms0

騙された! とは思わない。
ばあ様は無事に生きて生活している…その事実の方がヒートには大切だった。

だが飄々として言葉を交わすものの、シューの表情には真剣味が増し始める。


lw´‐ _‐ノv 「…それで、なんであんたがここに帰ってきたんだい?
まだ忍の修行が終わる歳でもないだろう」

ポンポン、とハタキを反対の手のひらで弄ぶ。
手首に巻かれた数珠がカラカラ哭いた。


忍の里に出た子らは皆、使い物にならなくなる年齢になって初めて帰郷する。
もしくは任務中の死や、五体不満足による戦線離脱が常となる。


ノパ听) 「そうだ! 病に伏せたっていうばあ様のために薬を持ってきたんだ!」

lw´‐ _‐ノv 「薬?」


訝しげに問うばあ様に、ヒートは腰縄にくくりつけた秘薬袋をちゃぶ台の上にぽつりと置く。


直後、シューの目の色が変わった…
驚き、そして、怒りへと。

ヒートは気が付かない。 その変化に。


ノパ听) 「忍の里で伝えられてる、すべてを救う秘薬だ!
これならばあ様の体調もーー 」



.

343 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/07(月) 17:16:15 ID:fmnOfmms0


ーー バチン!
言葉の終わりを待たず、シューは手に持つハタキをちゃぶ台に叩き付けた。
折れたハタキ棒が力なく畳の上にコロコロと転がる。


lw #´‐ _‐ノv 「これはなんだい?」

ノパ听) 「…え?」

lw #´‐ _‐ノv 「この…バカタレが!!」


怒声が耳をつんざく。
グリガンの猛攻にもひるまなかったヒートの身体が反射的にビクンと跳び跳ねる。


ノハ;゚听) 「え? え?」

lw #´‐ _‐ノv 「これは門外不出の秘薬だったはずだろう!
あんた、勝手に持ち出してきたね?」

ノハ;゚听) 「……ば、ばあ様のためと思って」

lw #´‐ _‐ノv 「ほー、私がこれを望んだって?」


シューの全身から立ち上る怒気は屋敷全体に留まらず…
外でまどろむカラスの群れもその場からバサハザと逃げ出し、
村の各所を見張る番犬達が一匹の例外もなく身を縮めた。

村の子供達にはその理由がわからず怯える番犬を宥めていた事を、ヒートは知る由もない。

344 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/07(月) 17:17:03 ID:fmnOfmms0

ノハ;゚听) 「あ、あの…」

lw #´‐ _‐ノv 「そういうのはね、ヒート」


見たことも聞いたこともないばあ様の叱咤に震えるヒートをおいて、一呼吸後にシューは言葉を続ける。


lw #´‐ _‐ノv 「あんたがやりたいことを私のせいにしてる…そういう話さ」

ノハ;凵G) 「!!」


そんなつもりではなかった。
喜んでもらう一心で、ヒートは我が身の明日を省みずに行動した。
ばあ様の身体を気遣ってここまで来た。

その気持ちに嘘偽りはない。
それなのに…


lw´‐ _‐ノv 「今は動けるけど…確かに私はそろそろお迎えが来るだろうね」

lw´‐ _‐ノv 「でもそれは自然な事だよ。
150年も生きてきたことが不自然なのさ。
それをあんたの独断で反故にしようって?」

ノハ;凵G) 「違う! そうじゃない!!」

lw´‐ _‐ノv 「ねえ、ヒート?
よくお聞きよ」


狼狽える孫娘…もう何人目か分からない、自分の子孫を前にシューはその怒気を抑えて優しい口調に切り替える。

その顔は、ヒートのよく知る慈愛に満ちたばあ様の顔だ。

345 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/07(月) 17:17:50 ID:fmnOfmms0

lw´‐ _‐ノv 「人はいつか死ぬんだ。
事故や病気、老衰や、早くても寿命がきて亡くなる幼子もいるだろう。
誰かに殺されたりもするさ」

lw´‐ _‐ノv 「皆、死にたくなくて頑張ってそれに抗う。
自分で身を守れない赤ん坊を守るためなら命をなげうつ母親や、息子を死なせたくなくて代わりに世の中を奔走する父親もたくさんいるだろうね。
…でも、やっぱり生きていれば死ぬんだよ」

ノハ;凵G) 「……」

lw´‐ _‐ノv 「…あんたが持ち出したこの秘薬。
なんだか知らないだろう?」


ヒートが置いた秘薬の入った麻袋。
その閉じ口を親指と人差し指で、まるで不浄なものを摘まむように軽く持ち上げる。


ノハ;凵G) 「すべてを救う秘薬…
忍の里ではそう伝わってて…」

lw´‐ _‐ノv 「それはもう聞いたよ、聞き飽きた。
…まったく、あの里にも困ったものだ」


そのまま指を離そうとして…
その危険性を考えてシューはゆっくりとちゃぶ台に麻袋を置き戻す。


lw´‐ _‐ノv 「これはたしかにすべてを救うかもね…
だが、人が生きるにあたってのしがらみから…だけども」



lw´‐ _‐ノv 「こいつは毒だ。
昔、天性の毒物からごっそり抽出された極上の猛毒の塊だよ」

346 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/07(月) 17:18:44 ID:fmnOfmms0


('A`)「ふひひ、役立たず共め」


黒装束達は盾になるどころか、一つの攻撃の巻き添えになって意図しない者が倒れていくばかりだった。
ヒートとは違い、ドクも標的であるせいでグリガンに集中していない。

ドクの銃連撃をかすめながら宙を縦横無尽に駆け回るグリガンは、時に視界に入る黒装束に対しスピアの雨を降らせながらも、その意識を銃斧の男から外さない。

黒装束達が次々と屠られるなかで、同じ様に攻撃しても身を躱すドクを見てグリガンは想う。


その男の動きは無駄がなかった。
…というよりも、こちらの動作が始まると同時に回避行動を開始されている。

羽根を飛ばすべく身を屈める。
翼を降り下ろすべく背中を広げる。
突進すべく爪を縮める。
そのわずかな動作で、こちらの次の攻撃を知っているのではないか? といわんばかりの反応だ。


だが、グリガンは己に立ち向かう者を逃がしたことはない。
敵対する総てを排除してきた王者だから。

347 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/07(月) 17:19:33 ID:fmnOfmms0


シューが秘薬袋を軽く開けると、中から一つの白い岩石が顔を覗かせる。


lw´‐ _‐ノv 「私がまだ若い頃…いまの忍の里で数人の仲間と忍者ごっこして過ごしてた時代さ。
水を飲んだ仲間が毒で死んだことがある」


シューはこの大陸における忍の祖であり、元は身を守る技として東方の術を学んだ一人。
忍の里を作り上げたのも彼女だ。


lw´‐ _‐ノv 「原因は一人の男。
川に浮かんでいたそいつは…死体かと思えばすぐに息を吹き返した。
でもね、その身体から湧き出る毒素がそこを死の川に変えてしまったんだ」

ノパ听) 「人間が…毒を?
…それにそんな川、里には無かった」

lw´‐ _‐ノv 「そりゃあそうだ。
だからコイツがある」


つん、と袋越しに白い岩石を優しくつつく。
見た目はどちらかといえば綺麗な石…しかし、よく見ればその輝きは砂糖水を溶かしたような淀みが内部で蠢いている。


lw´‐ _‐ノv 「これはその毒素を取り出して濃縮した結晶だよ。
その辺に捨てれば毒が滲むだろう。
破壊すれば毒が空気に散るかもしれない。
そもそも、ただそこにあるだけでも微量の毒素が噴き出しかねないんだよ」


ーー だから保管するしかなかった。
シューは無表情に、だが忌々しげな気持ちで呟きながら白い岩石を見つめていた。

348 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/07(月) 17:20:39 ID:fmnOfmms0


グリガンは大地に降りてこない。
空から鋼の体毛を撒き散らしつつ、時には更に上昇して幾度目かの【ダウンバースト】を繰り出す。


('A`)「ふひひひ! あんま乱発するもんじゃないなそれ」


黒装束達は岩陰や大木に慌てて身を隠すが、
風と重力で根こそぎ地をえぐり、スピアを紛れ込ませる【ダウンバースト】の前になす術なく貫かれ、薙ぎ倒される。

唯一、ドクだけがどういう理屈かダメージを最小限に抑えるように動き回っていた。

徐々に受ける傷を減らしながら、グリガンに向けて放つガンアタックがその威力を増しているかのように力強く咆哮している。


「ピイィーーッ!」

('A`)「弱気な声出してんじゃねえよ、うるせえな」


ドクの右手首に嵌められたリングが、トリガーを引くたびに発光している事をその場の誰が知るだろう。

349 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/07(月) 17:21:46 ID:fmnOfmms0

命あるものには "GC(ガードコンディション)" と呼ばれる防衛本能が備わっている。

ダメージを受ける際、反射的に力をいれたり、逆に力を抜いたりすることでその力の浸透を抑える。

或いは誰かを守ろうとする強い意思が、団体戦においてもその本能が発揮され空気中の魔導力と混合し、擬似シールドとして後衛の命を救うこともある…
と、語る戦術家も存在した。


グリガンが一度横面を撃たれた時、ダメージが通らなかったのもこのGCによる本能が無意識に発動していたからだった。

そのGCに影響を与える魔導力が、ドクの手首を通じて弾丸に込められている。
魔導力は効果循環のためにリング状を維持しなければならない…。


('A`)「おい」


('∀`)「…怖いのか?」


そう、弾丸はリング状を描きながら螺旋し放射され、目標を撃ち抜く。
ーー グリガンの、GCをも撃ち砕けるのだ。


「ゴアアァァァーーーッッ!!」


あり得ない! 俺は百獣! 人間如きに逃げ回るつもりなどない!

そうグリガンが吼えたのかもしれない。
巨大な躯から生やす体毛を全身逆立てて、翼を最大限に広げたグリガンが急降下する。
大地スレスレから方向転換したかと思った直後、最高速度に全体重を乗せた蒼い閃光となってドクに襲い掛かり ーー

350 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/07(月) 17:22:53 ID:fmnOfmms0



ノパ听) 「…その男は?」

lw´‐ _‐ノv 「そのあと少しだけ一緒に皆と暮らしたさ。
意識さえあれば毒素を撒かずに生活できてたし、なにより川の浄化とこの結晶化にも協力してくれたからね。
…ま、罪滅ぼしってわけじゃあなかったらしいけど」


どこか見上げながら、シューは思い出にふけた。
150年生きてきた彼女の人生においても、不思議な体験だったのだから。


lw´‐ _‐ノv 「…秘薬があんたの思い通りの代物でなくて、がっかりしたかい?」

ノパ听) 「……うん」

lw´‐ _‐ノv 「そうかい」


いつの間にか、ちゃぶ台に置かれた湯呑みをすすりながらシューは穏やかにヒートを見つめた。

その顔はもう二度と、怒気を放つ鬼の形相にはならないだろう。
孫娘と邂逅して嬉しそうな老婆の顔。

そして…少しだけ死の影が濃くなった老婆の顔。


ノパ听) 「薬は…ないのか」


ヒートは諦めきれないようにすがる。
彼女はあまりにも直情だが、決して愚鈍ではない。
目の前の人間がどんな状態かくらいはきちんと汲み取れる優しい女性だ。

シューにはそれが堪らなく嬉しい。
忍としてなかば強制的に村から追い出しても尚、ヒートは非情な忍者ではなく、意思をもった人間であったことが。

351 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/07(月) 17:23:40 ID:fmnOfmms0

lw´‐ _‐ノv 「ああ、無いね。
確実に死を逃れる薬なんてものは、存在しない。
それでいいんだ」

ノパ听) 「…そうかあ」


老いても忍の祖であるシューには、定期的な経過報告が忍の里から伝えられている。
報告内容は、すべての忍の生死や、任務遂行時における行動やその心理状況。
日常の健康や修行態度も。


ノパ听) 「それでも」


…ヒートは、人の死に携わった経験がなかった。
暗殺はもちろん、任務中における殺害や仲間の死に立ち会った事が、幸か不幸か皆無だった。



ノハう凵G) 「……ばあ様には、もっと生きていてほしいよぅ」




lw´‐ _‐ノv 


.

352 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/07(月) 17:26:58 ID:fmnOfmms0

もし自分が彼女にとって最初の死との対面になってしまったら、彼女にどんな影響が出てしまうのだろう…。

シューの心配は、最後の愛娘に注がれる。


lw´‐ _‐ノv 「ヒートや」

lw´‐ _‐ノv 「死ぬのはいいものだ」

ノハ;凵G) 「えっ?」


再び涙する赤い髪の孫に、シューは出来るだけ分かりやすい言葉を選んで伝える。


lw´‐ _‐ノv 「考えてごらん。
生き物が死なないってことは、何かを継いだり、継がれたりするって事から永遠に目を逸らされるって事さ」

lw´‐ _‐ノv 「草は草を食べる動物に。
草を食べる動物は肉を食べる動物に。
肉を食べる動物はやがて土に。
土はその死骸から栄養を頂いて美味しい草を育てるだろう」

ノハ;凵G) 「…うん、ばあ様はそうやって米を育ててたな」


健康的な食物連鎖から育まれる豊かな土壌を使い、新鮮な水を通すことで稲穂を育てあげる。


忍の里と、その人材を秘匿しながら育ててきたこの村で、シューが子供たちに教える最初の仕事は稲刈りだった。

この村の水路が整備されているのも、シューが水の大切さと共に食育を通じて子供たちがせめて健やかに育つようにとの願い。

353 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/07(月) 17:27:46 ID:fmnOfmms0

lw´‐ _‐ノv 「私らはいつか死ぬから、人を思いやったり、残された時間のなかでどうにかして生きた証を育むんだ」


親から子へ受け継がれる意思は、姿かたちを変えながらも、たとえ村から離れても、忍の里に行かなくても、またその子らへ継がれていく。


ああ、こんな時、親はどうしていただろう?
親ならどうやってこの子に教えただろう?

シューに限らず、親は一度は子供だった。
だが、親は親になって初めて親として生きていく。
だからその見本として自分の親を模倣するのだ。


lw´‐ _‐ノv 「私にとっての娘たち…
そしてヒート、あんたが私の最後の孫さ」

lw´‐ _‐ノv 「あんたが私の生きた証になっておくれよ」


ーー こんな事を言うなんて、私も老けたもんだ。
150年生きた老婆は、そう言って白い岩石の袋を縛り直し、ヒートに手渡した。
それと一緒に手首に巻かれた数珠も持たせる。


lw´‐ _‐ノv 「これは里に戻しておいで。
その数珠も見せるんだ。
元通りにしたなら軽い懲罰だけで済ませてもらえるさ」

354 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/07(月) 17:28:56 ID:fmnOfmms0

数珠が手の中でカラカラ哭いた。
ヒートは二つの品を交互にみやると、ごしごしと涙をふいてシューに深くお辞儀する。


ノハう听) 「ばあ様、ありがとな!
私、戻るよ」

lw´‐ _‐ノv 「ああ。 達者でな」

ノパ听) 「…あ」


そう言えば、とヒートは思い出す。
村の外ではドクが追手を食い止めているままだ…。


ノパ听) 「急がなきゃ! ドクが」

lw´‐ _‐ノv 「ドク?」


ヒートは立ち上がり、踵を返す。


ノパ听)ノ 「途中で会って手助けしてくれたんだ。
もう戦わなくていいこと伝えなきゃ!」

lw´‐ _‐ノv 「ほうほう、そうかい。
そりゃあ大変だ」

ノパ听) 「ばあ様、また逢えるよな?」


lw´‐ _‐ノvノシ 「いや、そりゃあ無理だわ」

ノパ听) 「え、ええ〜…」

355 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/07(月) 17:29:58 ID:fmnOfmms0

おどけた調子で返答するシューに、ヒートはがっくりするもののある種の安心を覚える。


lw´‐ _‐ノv 「なあに、死んだらあの世で待ってるから、あんたも人生楽しんでからおいで」

ノハ;゚听) 「逢えるのかあそれ?」

lw´‐ _‐ノv 「だから言ってるだろう。
死ぬのはいいものだって」


やっぱりばあ様はばあ様だなあ!
ヒートは手を挙げてシューに別れを告げ走り去る。

シューは老体に鞭を打ちながらも、屋敷の外でヒートが見えなくなるまで見送った。



lw´‐ _‐ノv 「……ドク。
そういえばあの男もドクオとか言ったっけね」


腰を叩きながら、大陸最高齢の老婆は屋敷へと戻っていった。


彼女は死を迎えるその瞬間まで、村の子供たちに稲刈りを教えていたという。

356 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/07(月) 17:30:47 ID:fmnOfmms0



ノハ;゚听) 「……なんだ、これ……」


ドクと別れた村の外で見たものは、見渡す限り死屍累々の風景だった。


目に見える黒装束達は皆その身体を引き裂かれ、辺りに血の池をいくつも作り出している。

だがそれだけではない。
その顔はブクブクと爛れており、間近で直視するのも憚れる。

木々は倒れ、岩は砕け、草は根こそぎ散っている。

だが…やはりそれだけではないのだ。
木の幹はあり得ない箇所からへたれ、枝は悉く萎れ倒し、葉は例外なく泥々に液状化してその滴を真下の大地へと落としている。

そして極めつけは、
ーー 周囲を取り巻く瘴気。


ノハ;゚∩゚) 「ウグッ」


尋常ではないその空気の悪さに、思わずヒートもその場から逃げ出してしまう。

357 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/07(月) 17:31:40 ID:fmnOfmms0

堪らず山を降りるべく駆け抜け、周りの景色が見慣れたものに彩りを取り戻すと、無意識に止めていた呼吸活動を再開する。


ノハ;゚听) 「はあ、はあ、
どうなってるんだ…あれは」


村の方角を振り返るも、もう一度あの場所に戻り、あまつさえドクを捜す気にはなれなかった。
あの場所にいては…たちまち脳みそから足の先まで血管ごと熔けてしまいそうだ。

あの黒装束達のように。


ノハ;゚听) 「ドクは…どこにいったんだ」


ヒートはなんとなくシューの話を思い出して、腰にぶら下げた麻袋に目をやる。


極上の猛毒…。
それはまるで ーー

358 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/07(月) 17:32:48 ID:fmnOfmms0

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瘴気漂う崖の遥か下で。

首根っこにアクスを深々めり込ませた巨大な獣が佇んでいる。
蒼い体毛が焼け焦げ、血にまみれている。
その身を横に倒しながらも瞳を開き、意識を失ってはいない。

崖下までは瘴気も届いていないが、躯に染み込んだ毒素に抵抗するべく毛細血管からも異物を吐き出すように浅い呼吸を維持し、一方を睨み付けている百獣。


('A`)「まだ死なないか、おまえは」


ふひ、と笑う。
グリガンが睨み付ける先にへたりこんだ痩せこけた男は、右手にガンを持っている。
だが構えていない。 もはや狙いを定めるほどの体力も有していないからだ。


「グルル…!」

('A`)「おーおー、粋がっちゃって。
いや、生きたがっちゃって…か?」


げほげほとドクが血反吐をだらしなく垂らす。
ヨダレに混じる赤黒い血が、内蔵ごと彼の体内にダメージを蓄積していることを物語る。

359 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/07(月) 17:33:58 ID:fmnOfmms0

グリガンもドクも、ともに自分の体力の回復を待っていた。

すでにドクの両手首からはリングが破壊され、GCの貫通もできなければアクスを取り戻そうとも焔を纏わせることもできない。
それでもドクは慌てる様子なくその場から動かない。


".; ('A`)「まーどっちもまだ動けないからな。
のんびり ーー ゲホッ、だべろうや」


痛みはある。 恐らくその痛みだけで並みの人間はショック死するだろう。
だが痛みに頓着しないドクはお構いなしにグリガンに話し掛ける。


('A`)「俺はさー、なんでこんな身体になったんだか…もう憶えてねえんだ」

('A`)「ともかくお前がいくら俺を殺そうが死なないわけよ。
けほっ… 希望としてはまともに死んでみたいけど」


ドクの言葉から命乞いや哀しみの色は表れない。
他人を欺くことはあっても己を偽らない。


('A`)「もしかして俺とお前って何度も戦ってるかもなあ〜、ふひひ」

360 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/07(月) 17:36:07 ID:fmnOfmms0

グリガンはドクを変わらず睨み付ける。
今にも襲い掛からん勢いではあるが、躯を動かす様子は見られない。


('A`)「お前だって多分何歳とか何十歳じゃきかないだろ?
どうだよ、生きてて楽しいことあるか?」

('A`)「俺は…戦ってる時が一番愉しいんだよなあ。
どうせ死ぬと記憶がトンじまうから、だんだん面倒になってきて普通に過ごす気が無くなっちまった」


まるで旧友に話し掛けるように、ドクは言葉を紡ぐ。
独り言ではない。
確かにグリガンに向けて喋っている。


('A`)「おい、もうすぐ俺は動けるぞ。
お前はどうだ?」


グリガンからの唸り声はいつの間にか途絶えていた。

死んだわけではない。
その証拠に…百獣はすでに躯を起こしてドクに向けて確実に歩を進めている。

ドクはまだ視力が回復していなかったのだ。
グリガンが見えていない。
そして、気配が動いていることにも。


('A`)「おーい、まさか死んだのか?」


ドクの身体に大きな影が差す。
だが、彼は気付けない。
無音の驚異が迫っていることに。

361 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/07(月) 17:37:40 ID:fmnOfmms0

すでにグリガンはドクを一噛みできる位置にまで肉薄していた。
軽く口をあけ、牙を突き立てれば容易くこの華奢な肉体は噛み千切れるだろう。

生殺与奪はグリガンが握った。


('A`)「まじかよ…反応が、ねえ」


グリガンは動かない。
じっと目の前の男を見つめている。


('A`)「…戦いてえ」


('A`)「死にてえよお〜…」


ーー 不死者の嘆き。

グリガンには言葉が通じている訳ではない。
百獣が下等な人間の言葉を理解する必要はない。

グリガンはドクの身体に牙を…突き立てた。

362 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/07(月) 17:38:56 ID:fmnOfmms0

そして、ひょいとその身を宙に放り投げたかと思うと、ドクはグリガンの背に身を預ける形になる。


戦闘時とはうって代わりその体毛は柔らかく、傷付いたドクを包み込むように受け止める。


('A`)「……あぁ?」


どうしたことかとドクが状況を把握する前に、グリガンはその翼を小さくたたみながら少しずつ高度を上げる。

「ケェェーッ!」

嘶きも小さく、ドクに何かを語るように一吠えして空へと昇っていく。



浮遊感は不思議と感じない。
ドクは少しだけ回復したその目でグリガンを背中越しに見つめる。

雄大な背中は何を語るわけでもなく、グリガンはゆっくり山頂へと身を泳がせた。


('A`)「…あー、あーあー、そーですかい」


ふひ、と笑う。

人類史上この百獣の背中に乗ったのは彼が初めてだろう。
滅多に出来る体験でもない。

363 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/07(月) 17:40:12 ID:fmnOfmms0

グリガンが翼をはためかせる。
遠い向こうでグリガンを眺める誰かは、やはりこの姿を神々しいと表現するだろうか。


風が傷だらけの身体を撫でるたびに気持ち悪かった。
こんなものを気持ち良いと感じる阿呆がいたら撃ち殺したい気分だ。


('A`)y-~ 「治ったらまたやりあおうぜ」


どこから取り出したのか、タバコに火をつけて一服し出す。
たゆたう煙は空にかき消え、灰は風に煽られて散っていく。


そんなドクをグリガンは気に止めず、どこかへと飛び去った。



ドクの望みが叶わない限り、
たとえエサとしてドクを貪り喰おうとも再生し続けてその姿を見せるだろう。

たとえドクの身体をバラバラに引き裂いて空に散らばり棄てても、いつの日かその姿は五体満足でこの世に現れるだろう。

364 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/07(月) 17:41:49 ID:fmnOfmms0


限りなく不死に近い蒼い百獣は、これまで孤独に世を謳歌してきたといえた。

そんな百獣と対等に向かい合える人間がいるならば、それはもはや人間ではなく、己のような怪物なのかもしれない。


孤独を馴れ合うつもりなど毛頭ない…が、怪物には怪物の欲がある。




気に入らないものは滅する。
気に入れば弄ぶ。





背中越しにタバコを吸うドクの吐き出した煙からは、極上の毒の香りがした。







(了)

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