( ^ω^)千年の夢のようです

( ^ω^):ふたごじま

237 名前:1[] 投稿日:2014/06/18(水) 18:46:06 ID:ZT2cpQkA0
( ^ω^)千年の夢のようです


- ふたごじま -

238 名前:1[] 投稿日:2014/06/18(水) 18:47:07 ID:ZT2cpQkA0


「貴方は神を信じますか?」


信仰心を試されるこの町では、立ち入る者すべてに問われる言葉が丁重に出迎えてくれる。

旅人に限り、答えはなんでも良い。
コミュニケーションの一環として、旅人はそれぞれが信ずるものを口にして門をくぐるのだ。

神の概念を語る間柄でもなければ、そもそも神が偶像か実在かも曖昧な問い掛け。


( ^ω^)「信じてるお」

ξ゚听)ξ「信じないわ」

「ようこそお出でくださいました。
どうぞ、心安らかなご滞在を…」


同じ顔をして両脇に立つ門番が腕をあげ、胸の前で掌と拳を合わせる。
それが合図のように、凡そ見たことのない生物をモチーフとしたレリーフの荘厳な扉が、重々しく音をたてながら観音開いた。

239 名前:1[] 投稿日:2014/06/18(水) 18:48:24 ID:ZT2cpQkA0

谷の麓に居を構えるこの町について、一つ耳にした風の便り。
…いや、恐らくどこに居てもその話で持ちきりだった。
ブーン達がここにたどり着くまでに出会ったすべての土地で、それを聞くことができた。


"いままさに神の使いが肉体を棄て、より高位の存在として世を旅立たん"
との文言が、大陸中を席巻した時代。


三日月にくり貫かれた大地から海を隔ててすぐの孤島で、この町は独自の文化を形成している。


ξ゚听)ξ「中はキレイに整備されてるのね」

( ^ω^)「綺麗すぎるお…」


この町を初めて見た旅人が必ず口にする感想。 ブーン達もまんまと前人に倣った。


地形を利用して造られた大空洞。
はるか頭上にやっとみえる天井に目を凝らせば、白い羽根を背に生やす子供や、ヘイロウと呼ばれる輝く天輪を浮かべる美しい女性がところせましと画かれている。

通路や区画は存在せず、ただただ大広間が左右前方に延々奥へと続いている。
太陽の光が届かない代わりに、大空洞を内部から支えるため等間隔にそびえる巨大な柱。
そこに設置されたおびただしい数のランプの灯りが煌々と輝き、町中を照らし尽くす。
それはまるで闇を必死に拒むようにもみえた。

240 名前:1[] 投稿日:2014/06/18(水) 18:51:17 ID:ZT2cpQkA0


( ^ω^)「おーん…」

ξ゚听)ξ「ねえ、アンタも気付いた?」


町中を歩いていて、視界に収まる人々の挙動や表情。
同じブラウン色のローブを纏うのは、洋服や装いの文化が無いためだろう。
談笑する姿は穏やかで、子供も駆け回ることなく物静かに歩く。


( ^ω^)σ 「その辺に寝っころがってる人がいるお!」

ξ゚听)ξ「そうじゃないわよバカ」


町の人々は自由に過ごす。
大広間だけのこの町には、通路もなければ影になる場所もなく、地も平坦で少しの段差や傾きもない。
彼らは眠る時間が来れば好きなときに横になり、疲れたなら好きなところで座り込んでしまう。

(*^ω^)「バ、バカ…」

罵られてつい喘ぐも、もう一度、人々を眺めてみた。

講義する者…される者、天井の絵画に祈りを捧げるもの…地に祈る者。
鏡越しに反抗する己の姿を写し出すかのように。


ξ゚听)ξ「…みんな、双子だわ」

241 名前:1[] 投稿日:2014/06/18(水) 18:53:55 ID:ZT2cpQkA0

町のなかを歩く最中も、一組の双子に声をかけられる。


「旅人とは珍しい。 天かける儀式を見にこられたのかな?」
「神の使いたるビコーズ様なら、奥の祭壇にいらっしゃいますよ」


優しく微笑む双子に会釈し、ブーンとツンはなおも大広間を正面にまっすぐと歩む。

町としての面積は、外から想像するよりも広い。
脇目もふらず歩き続けてすでに十を超えるグループから話し掛けられている。
…そして、その全てが双子であり、内容も異口同音である事が、異質に感じられた。

何度も、何度も。
それ以外はこの町に触れてほしくないと言われているように。

歩いても、歩いても。
同じ間隔で柱が並び、それぞれ同じ顔の双子が並び語り合うための無限回廊を歩かされているような…そんな錯覚に陥る。


.

242 名前:1[] 投稿日:2014/06/18(水) 18:57:25 ID:ZT2cpQkA0

----------


「この世は誰が創られたのか、君は知っているか?」


手に開いていた本をパタンと閉じて、彼は棚にそれを戻すべく壁棚に向かう。


( ^ω^)
つ□ ~ 「…誰って……どういう意味だお?」

「文字通りさ」


書斎と見間違うほどの壁一面に本棚がレイアウトされたこの一室は、
神官のみが立ち入りを許される大空洞二階の各々の私室。
大広間とは異なる、町の外に一度出て別の岩場の狭い扉から入ることができる。


冴えない顔をしている…
青年と呼ぶには相応しくない、達観したような態度で語りかける長身の男と飲むコーヒーは、あまり美味しくなかった。
ブーンは甘いものが好きだが…それにしてもこのコーヒーは苦い。


( ´_ゝ`)「それともこの世界が、空が、海が、大地が、少しずつ現れたとでも思うか?」

243 名前:1[] 投稿日:2014/06/18(水) 18:59:12 ID:ZT2cpQkA0

長身の男はブーンに向き直る。
腕をくみ、テーブルを挟んで向かい合うソファーに身体を沈めて。


( ^ω^)
つ□~ 「うーん…」

ξ゚听)ξ「あ、これ読んだことある」

( ´_ゝ`)「あんまり考えないか」


身を乗り出して、その口が動き続ける。
真剣だが、どこか大事なものを置き忘れたような眼差しで。


( ´_ゝ`)「 -この世界は神が作り出した。
偉大な神は、真っ暗闇なその世界を憂いて己の眼球を取りだし、
その虹彩からは光を、
瞳孔からは闇を、
硝子体は大地を、
水晶体は海を産んだ」

( ^ω^)
つ□~ 「……」

ξ゚听)ξ「なにこれ、初めてみる本だわ」

( ´_ゝ`)「つまり、この世界は神の眼球そのものとして生まれ変わり、また神の瞼の下に埋め直された。
これにより神の体温を得たことで世界には暖かみが生まれた」

244 名前:1[] 投稿日:2014/06/18(水) 19:00:30 ID:ZT2cpQkA0

( ´_ゝ`)「だが神もまた真っ暗闇の中にいる。
神が目を開ければ夜になり…目を閉じれば朝になる…-
と、いうわけだ」


そこまで語り、ソファーに背中を預けた。


( ´_ゝ`)「……いまのが、この信仰で必ず詠まれる教典の最初の一文です」

どう思った? と言わんばかりに、彼は肩をすくめ、組んでいた腕のちからをだらりと抜いた。
…そして沈黙する。

どうやらこちらの答えを待っているらしい。
面倒な質問であり、いたずらに気を遣わされる…
そんな思いを抑えつつ、コーヒーカップをテーブルに置き、


( ^ω^)「面白い考え方ではあると思うお」

と返答した。

245 名前:1[] 投稿日:2014/06/18(水) 19:02:05 ID:ZT2cpQkA0

ξ゚听)ξ「……」

ツンは先程からずっと本棚を漁り、一つ一つ本の中身にパラパラと目を通している。


( ^ω^)「というより、人間らしい考え方だお。
いまある物や名前を当てはめて、それらしい物語で皆にお話しするんだおね?」

( ´_ゝ`)「そうとも言うな」

ξ゚听)ξ「やだ、紙が欠けてて読めないじゃない」

( ´_ゝ`)「神がなぜ真っ暗闇の中にいるか、それは神の世界もまた暗闇だからさ。
己を省みる前に他者を慈しむ。
神の慈悲で私たちの世界は創られ、常に神と共にある」


質問の意図は読み取れないが、彼の態度をみる限りはひとまず何事もなさそうで安心した。


( ^ω^)「おーん…」


ξ゚听)ξ
⊃Ι⊂ パタン
「…ツマンネ」


彼女は飽きた様子で本を閉じる。
本棚から身体を離し、その隣にある一人用テーブルに背伸びして寄り掛かった。
スカートから健康で活発そうな脚が伸びる。


(;´_ゝ`)「できればちゃんと聞いて…」

ξ゚听)ξ「その講義を聞かないと、この町には滞在が許されないの?」

( ´_ゝ`)「君たちが旅人である以上、神官として布教活動を行っているだけさ」

246 名前:1[] 投稿日:2014/06/18(水) 19:03:51 ID:ZT2cpQkA0


ツンの刺々しい言動にも動じないこの男は、大空洞を訪れたブーン達の呼び出しにより現れたサスガ一族…
その長身の男。


( ´_ゝ`)「私がサスガだが…君たちは?」

(;^ω^)「…あれっ」

( ´_ゝ`)「?」


初対面のはずだが、この顔をブーンは知っている。
そしてツンも。


ξ゚听)ξ「はじめまして。 で、いいのよね。
私たちはサスガ・弟者さんのことで家族を訪ねてきたんだけど」


そう言い終わる前に、彼の表情が一瞬だけ変わった気がした。
今は眉間にシワを寄せている…が、もっと、それ以上に。



( ´_ゝ`)б「そうか…伺おう。
立ち話も失礼ですからどうぞこちらへ…」


.

247 名前:1[] 投稿日:2014/06/18(水) 19:05:20 ID:ZT2cpQkA0

ξ゚听)ξ「もう信仰のお話は結構よ。
否定してるわけじゃないわ、人の自由という意味でね」

( ´_ゝ`)「そうですか…これは失礼。
えーっと、弟者についてでしたね」

( ^ω^)「これを…」


差し出したのは黒い木札。
男はそれを眺めるものの受け取らない。
待てど動きがないため、ひとまずテーブルに置き直してみたが、それを手元に寄せる様子もなかった。



コーヒーの淹れられたカップの隣で、同じ灰黒色が灯りにゆらゆらと照らされる。

248 名前:1[] 投稿日:2014/06/18(水) 19:06:36 ID:ZT2cpQkA0

( ´_ゝ`)「……死んだのか、アイツ」


沈黙は思考の表れだった。


提出した灰黒色の木札はこの町の信仰における偶像であり、これを持つものは同時に孤島出身の証ともなる。

木札が町に返還される場合、そのほとんどが死亡や他宗教への心の移り住みを意味した。


ξ゚听)ξ「私たちが縁あって預かったわ」


兄者の言葉を否定はしなかった。
彼なりに、弟が他宗教を信仰する根拠には至らなかったと考えると、信頼感を感じさせる。


( ^ω^)「彼は兄者さんのことを心配していたお。
ちょっとびっくりしたけど…君も双子なんだね」

ーー 弟者からは『兄がいる』とは聞かされていた。

( ´_ゝ`)「心配? 俺が心配されるようなことは何もない」

ーー そして、その兄が自分の存在故にこの孤島に縛られているとも。


( ^ω^)「弟者は最後まで理由を言わなかったけど…彼はこの町に戻ろうとしなかったお。 なぜ?」

( ´_ゝ`)「……」

ξ゚听)ξ「私たちは弟者からその木札を預かって、弟者の代わりにこの孤島に来て。
弟者の代わりに貴方に…兄者に会いに来たようなものだわ」


( ´_ゝ`)「……フゥ」


( ^ω^)「家族をそんなに拒絶するなんて変だお」

( ´_ゝ`)「アイツは戻れなかったのさ。
なんせ追放されたんだからな」

249 名前:1[] 投稿日:2014/06/18(水) 19:08:09 ID:ZT2cpQkA0

( ^ω^)「追放…」

( ´_ゝ`)「この島で生まれ育った子供なら、物心つくまでには信仰心が育つはずなんだ。 親から教えられる。
"人様に石を投げつけたら怪我をするから危ないですよ" 、
と教えるのと同じ物差しで、
"この世界は神が創りたもうた" とね」


ブーンとツンの記憶から数えれば、今から約550年前。
信仰と共にそれを組織するための宗教が世界で初めて立ち上がったという話を聞いた事があった。
あれはどこだったか…。

それはおよそ人為的にはあり得ない奇跡を立て続けに起こした少女と、それを崇めた人々の歴史。


( ´_ゝ`)「島で生まれたなら、そのしきたりに従うのが常識であり日常なんだよ。
でも…弟者は疑ってしまった」

( ´_ゝ`)「この世界に神など本当にいるのか、奇跡など本当に起こりうるのか。
証明して見せてみろ…とね」

250 名前:1[] 投稿日:2014/06/18(水) 19:09:09 ID:ZT2cpQkA0

(;^ω^)「神を否定したら、追放かお…?」

ξ゚听)ξ「あたしも入り口で居ないって答えたけど?」


思い当たる節のあるブーンが気まずくなるのとは対照的に、その思い当たる元凶であるツンは堂々と、
追放してみろと言わんばかりに口を挟む。


( ´_ゝ`)「否定ではなく、疑いだよ。
それに旅人を追放なんてしないさ…
そもそも入信してないんだから」


m9(´<_` )「信仰とは、信じて仰ぐと書く。
なのに自分の意思で信じるのでなく、押し付けられた定義を信じるのが本当に正しいのか?。
単に寄り掛かってその責任から逃れてるだけ…
そうは思わないのか?」


( ´_ゝ`)「その一言が、人々への決定打になったよ。
親の言うことも素直に聞けない、
信仰もろくにできない、
あまつさえ信仰する人を責任逃れ呼ばわりだ…」

ξ゚听)ξ「……」


信仰者にとっては信仰ありきの人生。
それは自然を愛し、共生する、山の民や海の民にも同じことが言える。
海を信じない海の民はいない。
山を信じない山の民はいない。

何が自分を支えているか、が信仰にはとても大事なのだ。

251 名前:1[] 投稿日:2014/06/18(水) 19:10:31 ID:ZT2cpQkA0

ブーンもツンも、それは理解できるよう努めている。
しかし、それでもひとこと言ってやりたかった。



ξ゚听)ξ「ねえ、いまの弟者の真似?」

(;´_ゝ`)「……」


ーー 兄者は少し、茶目っ気があるとも。




----------

252 名前:1[] 投稿日:2014/06/18(水) 19:11:57 ID:ZT2cpQkA0



白い点が、近付くにつれて台座になり、それに至る階段が同じ目線に下ってくる。

この大空洞で唯一、頭が高い祭壇が見え始めた。


( ´_ゝ`)「さっきは喋りすぎてしまって失礼した」


彼の私室を出て、実際に天かける儀式を行うための場所を教えてもらう。
儀式までにはまだだいぶ時間がある。
せっかくだから…と、兄者は案内を申し出てくれた。


ζ(゚ー゚*ζ 「ようこそ旅の方」

ミセ*゚ー゚)リ 「サスガ様もご一緒ですのね」


祭壇への階段を塞ぐように立つのは、やはり同じ顔の、双子の女性。
だが兄者の名を呼ぶ時のみ、その声色には若干の嘲りを感じた。


⊂ζ(゚ー゚*ζ 「旅の方。
天かける儀式は翌日…太陽が一番輝く時間に行われますのよ」


右に立つ女性が仰々しく頭を垂れながらその腕が導く方角…。

祭壇の上には台座。
そして、台座に御神体である真球体が長い年月の間、磨き奉ってある ーー と、すでに兄者から受けていた案内を思い出す。


ミセ*゚ー゚)リ 「サスガ様。
旅の方への布教はもうお済みですか?」

( ´_ゝ`)「ええ、もちろん」

ζ(゚ー゚*ζ 「では、旅の方も当教への入信を?」

253 名前:1[] 投稿日:2014/06/18(水) 19:13:46 ID:ZT2cpQkA0

( ^ω^)


( ^ω^)「えっ?」

ミセ*゚ー゚)リ 「信仰は素晴らしいものです。
また、皆で共に同じ教えに乗っ取り祈ることがより一層の幸せに…」


ξ゚听)ξ「ちょっと、私たちは入信するなんて言ってないわよ」

ζ(゚ー゚*ζ 「まあ。 それは失礼しました。
…私も幼い頃に入信致しましたが、目標をたてて邁進する日々はそれはそれは充実しております」

( ^ω^)「いや、あの」

ミセ*゚ー゚)リ 「わかりますわ、突然言われてもね…
しかし、一人でやるより皆さまが一体となって捧げる祈りは、己を高める第一歩のためにとても勇気付けられるのですわよ」

ζ(゚ー゚*ζ 「いえいえもちろん、強制は致しませんし、許されません。
しかし己を信じ続けることで拓く道も確かにあり、この町の信仰はそれを支え、皆で協力し合い、後押しするものです」


ξ゚听)ξ「こっちの話を聞…」

ミセ*゚ー゚)リ 「争いを好まず、平和のためにのみ、できうる限りの尽力を捧げましょう」

254 名前:1[] 投稿日:2014/06/18(水) 19:15:24 ID:ZT2cpQkA0

彼女達の破折屈伏(はしゃくくっぷく)の説は止まらない。
自身の信仰する教えが正しいと思うが故の行動が、一介の旅人を困惑させる原因とはつゆほども分からないらしい。


( ´_ゝ`)「デレ、ミセリ。
こちらの方々はまだ本日こちらに着いたばかりです。
それに折伏は信仰を知り、理解を求めた方のみに行うべきだと私は思いますよ」

ζ(゚ー゚*ζ 「そんな! 私達はただ旅人方のためを思って…」

ミセ*゚ー゚)リ 「デレ、およしなさい。
…失礼致しました。
旅の方、サスガ一等神官殿」


ξ#゚听)ξ「……」


その口調から、兄者は双子より上の階級に属すらしいが、どうにも節々からは彼を見下しているかのような目付きが先程から気に食わない。
そしてその盲信ぶりも。

255 名前:1[] 投稿日:2014/06/18(水) 19:17:06 ID:ZT2cpQkA0

その後も続く双子の話を兄者が適当に切り上げ、三人は双子と祭壇の元から離れる。
彼女達の目線を背中に感じながら、その姿が見えなくなるまで口を開く気にはなれなかった…。


ξ゚听)ξ「…たった数十分で弟者の気持ちが分かったわ」

( ´_ゝ`)「すまない、熱心な人になると少々ね…
摂受の説を蔑ろにしてはいけないといつも言ってはいるんだが」

兄者も苦労しているのかもしれない…しかし、

ξ゚听)ξ「謝るくらいなら身内のあんたらがなんとかするべきでしょ。
言われた方が我慢するのはお門違いなのよ。
そもそも幸せの定義なんてものは自分が決めるわ」

ツンの不満は相当なものだ。
彼女はそもそも押し付けがましい話が嫌いだった。


(;^ω^)「まあまあ…兄者はちゃんと止めてくれたお。
でも信仰の骨組み的な教えとしては彼女達に同意なんだおね?」

( ´_ゝ`)「……。
まあな」

ξ゚听)ξ「じゃあ結局は同じ穴のムジナじゃない。
兄弟を追放されても、あんただけがここに残ってるのがいい証拠だわ」


ーー 直後、兄者の足がビタッと止まった。
慣性からも、重力からも力強く逆らうように。
ツンの言葉に背中で逆らうように。

256 名前:1[] 投稿日:2014/06/18(水) 19:18:48 ID:ZT2cpQkA0


そのまま数分間、彼は一切動かなかった。
大広間に立ち並ぶ柱々のように、ズシリと重く…。


( ´_ゝ`)「…… 俺なんだ」

( ^ω^)「……」

( ´_ゝ`)「弟者を追放したのは、俺自身だ」


握りこぶしを作り震える。


( ´_ゝ`)「町の人々は関係ない。
俺が…俺が……」


沈黙に耐えかねたツンが見たものは、隠す様子もなく歯を食い縛り、口内から血を流しなお噛み締める兄者の顔。


それは…この大空洞より空虚な、記憶のなかの弟を想い、果てに懺悔の面を被った一人の兄の姿だったのかもしれない。

257 名前:1[] 投稿日:2014/06/18(水) 19:24:09 ID:ZT2cpQkA0

----------


やがて神がまばたきし、この世界に神の暖かみが満ち足りた時刻。

祭壇に集った町人らと、それに比べればわずかな旅人達が囲むなかで、
天かける儀式が始まった。


ξ゚听)ξ「こんなにたくさんの人がどこにいたのかしら」

( ^ω^)「町が広くて感覚が掴みにくかったんだお、きっと」


海に点在する魚達が一ヶ所に集まったようなものだ。
前をみても後ろを向いても、人の頭で埋め尽くされている。
なかなか圧巻だ。


儀式は信者一同による教典の復唱から始まり、
神への謝辞、
町への祈り、
隣人との相互一礼、と続く。


この時点ですでにツンはイライラを募らせていたが、祭壇に立つ特級神官がなおも信仰心溢れる話を続けている。


ξ#゚听)ξ「…あと一つでもなにかやるようなら出てくわ」

(;^ω^)「まあ…止めないお」


だがどうやら、ここで時間が来たらしい。


( ФωФ) 「ーー これを結びとし、我輩からの言葉を締めさせて頂く」

( ФωФ)⊃ 「さて、ついに太陽が天にもっとも登る時刻となった。
神の使いであるビコーズ様から、私たちへの現世最後のお言葉を承りながら、祝福を祈らせて頂きたい。
…ビコーズ様、どうぞ前へ」

258 名前:1[] 投稿日:2014/06/18(水) 19:26:29 ID:ZT2cpQkA0

( ^ω^)「!?」


特級神官が階段を降りてくると同時に、祭壇に一つの影が浮かび上がる。


ーー 人の顔…ではない。
人間でもない。
酷似したなにか別の存在。


それには身体が無いのだ。
幾重もの筋を刻む白い球体が、さらに眩い輝きが、小さくも強く、目下の人々へと注がれた。



「おお…なんと神々しい…」
「これが、ビコーズ様」
「御言葉を! ビコーズ様!」



人々からあがる歓喜の声。

御神体であった真球体…それがひとりでに宙にゆらゆらと舞う。
それは自身の目覚めへの自覚と、人々を見下ろし役目を果たさんとする義務感を纏いながら、やがて留まる。

259 名前:1[] 投稿日:2014/06/18(水) 19:27:12 ID:ZT2cpQkA0




( ∵)





.

260 名前:1[] 投稿日:2014/06/18(水) 19:29:54 ID:ZT2cpQkA0

( ^ω^)「御神体…あれが?」

ブーンの率直な意見だった。
思わず含みを持たせたが兄者は気付かない。

( ´_ゝ`)「町中に漂っている願いや祈りを集約してその身に宿す…という言い伝えが教典にある。
つまりあれが、この町の信仰の形ということになるな」


戸惑うブーンの感情は捨て置かれる。
兄者も無表情の奥では感極まった気持ちを抑え切れない。



( ∵) ーー ザザッ




( ∵) "生きる目的" という概念が、生への渇望となる




( ∵) 神託 ーー を 下す



  _,
( ^ω^)
  _,       「…ん?」
ξ゚听)ξ


ーー 僅かなノイズ音。
ブーンもツンもそれを聞き逃さなかった。

しかし、二人の表情に、誰一人気付くことはない。
周囲は誰しもが壇上の御神体に目をやり顔を背けることなく。



( ∵) この星の均衡は間もなく破られる



その一言で。
感涙や高揚に支配されたはずのその場から、大量の血の気が引いた。

261 名前:1[] 投稿日:2014/06/18(水) 19:31:51 ID:ZT2cpQkA0


聞き間違いか?
声は聞こえる…が、耳に届いているわけではない。
頭に直接響いたのだ。

…頭に、不吉な一文が。


だが、これからどのような内容が発されようとも、もはや逃れられない。


御神体ビコーズは言葉を続ける。



( ∵) 遠くて近いアサウルスらの
招来はもはや避けられない
激震は孤島から始まる




( ∵) このビコーズは精神体となり
世に満ちる
間も無く生まれ来る
"魔導力" の助けとなるために

262 名前:1[] 投稿日:2014/06/18(水) 19:35:56 ID:ZT2cpQkA0


(;ФωФ) 「こ、これは…?」

ζ(;゚ー゚*ζ 「…ビコーズ様? 一体何を??」

ミセ*゚ー゚;)リ 「孤島? 激、震??」


動揺が広がり口々に漏れる不安。
皆、混乱を抑えられない。
やはり同じ言葉をここにいる誰もが聞いているのだ。



( ∵) 不死 ーー ザザザ ーー は
ーーザザーー を操り、
これを迎撃できる可能性を
秘める




( ∵) このビコーズの身体が
欠けている 合、
人の願いは闇に傾 ている



ζ(;゚ー゚*ζ 「闇!?」
「そんな……なんで」
「ああ、神様…っ!」

一つ一つの単語に過敏に反応してしまう。
期待と違う。
望んだものと違う。
人々は思わず祈る。

光に満ちた大空洞での生活に。

263 名前:1[] 投稿日:2014/06/18(水) 19:37:17 ID:ZT2cpQkA0



( ∵) その祈りをやめるのです
アサウルスの増長を促
ザザッ ーーザ ーー


.

264 名前:1[] 投稿日:2014/06/18(水) 19:38:36 ID:ZT2cpQkA0


その場の誰もが呆気にとられていた。
…繊維の切れるような音。
声が止み、あとには静寂が残された。


物音一つ立たない。
動くことができない。
特級神官も。 デレとミセリも。 兄者も。
そこに居たすべての人々も。


時間という存在が忘れられたようだった。



…ついにはビコーズが光を失い、抜け殻となった御神体はただの球体となる。

ーー かつん、かつん、かつん。

と、無機質な音をたてて、祭壇から一段一段と転がり落ちる。
やがて人々の目線にまで転がり落ちて、それが動かなくなっても、町が呼吸を取り戻すまで、人々の時は停まり続けた。




----------

265 名前:1[] 投稿日:2014/06/18(水) 19:40:46 ID:ZT2cpQkA0

天かける儀式…

神の使いがより高位の存在となるべく用意されたはずの記念日は、人々の期待とは大きくかけ離れたものとなった。


うやむやに儀式を終えて…町の人々は生気という生気が抜け落ちてしまったように静かに立ち尽くした。

昨日までのように彼らが笑いあい、会話する姿は見られない。


壇上では背中を丸めて座り込む特級神官。
その階段の下で、いつもなら嬉々として旅人らに法を説くであろう双子の彼女達がへたりこみ顔を地に伏せる。


町全体が長年勤めあげた信仰が、崇め奉ったビコーズの神託に脆くも砕かれた…。


"その祈りをやめなさい"


神託のなかには理解できない言葉もあったが、人々に共通しているのはその一言。

この町に、そして人生に根付いた習慣であり、信仰の証であり、毎日毎日…神を想っておこなってきた行為の否定 ーー 。


信じてきたものに裏切られたという感情が、いまや町そのものを埋め尽くしている。

266 名前:1[] 投稿日:2014/06/18(水) 19:42:28 ID:ZT2cpQkA0


数少ない部外者であった旅人達が、町を後にするべくパラパラと港へ歩いている。

大陸中に流布された話から、
『その姿を一目観てやろう』
そう考えてはるばる孤島にやってきたが、却ってみてはいけないものを目撃してしまったという思いに駈られてしまう。


神託というものを初めて目の当たりにした旅人達は、きっと故郷や行く先々で様々語るだろう。


「以前、三日月の孤島で見た神託はなーんだか陰気臭くて、とても耐えられなかったね」ーー だろうか。

「神託なんてありがたいもんだとは限らないぜ! 俺が昔聞いたのなんて、町人が落ち込むようなことばかりだった」ーー かもしれない。

はたまた、
「あそこは邪教さ、悪いものを召喚する集団なんだ。 御神体にすら見放されたのを俺は見たぜ」ーー と言われてしまうか。


いずれにせよこの孤島の信仰は、信者にとっても余所者にとっても、
"考えていたものとは違う" 存在として歴史に語られることになるかもしれない。



ーー しかし

267 名前:1[] 投稿日:2014/06/18(水) 19:44:11 ID:ZT2cpQkA0

( ^ω^)


ブーンが町の外に一歩出て気付いたことがある。


自身の身体に満ちる充実感。

大空洞全体を包み込む暖かさ、
靴の裏に踏み締めた大地の感触、
港に流れる風の重厚感、
はるか水平線を映し出す海の躍動感、

そのすべてが生まれ変わったような…。



( ^ω^)「……不思議な感覚だお」







ーー この力を、後に世界では
"魔導力" と呼ぶことになる。ーー


.

268 名前:1[] 投稿日:2014/06/18(水) 19:45:07 ID:ZT2cpQkA0

ブーンとツンが港で迎えを待つ間、他の旅人達は自前の舟をこぎだし海の向こうに渡ってしまった。

こちらからは追い風のようで、その速度はあっという間に彼らを豆粒のように小さくしてしまう。


ξ゚听)ξ「…来ないわね、今日にお願いしてるのに」


わざとらしくぼやくツンがため息混じりに腰に手を当てた頃、町の方角から一人の長身の男…兄者がこちらに歩いてきた。


( ´_ゝ`)「……まだいたのか。
予め迎えを寄越してるのか?」

( ^ω^)「だお。 でもこの風だから向かい風になって遅れてるのかもしれないね」

( ´_ゝ`)「そうか。 たしかに風が強い…私はあまりここには来ないんだが」


ブーン達を追いかけてきたわけではなかった。
彼はただ、落胆した町から離れて独りになりたかったのだろう。

手にしていた水筒からコーヒーを注ぎ入れ、ちびちびと飲み始める。

269 名前:1[] 投稿日:2014/06/18(水) 19:46:11 ID:ZT2cpQkA0

ξ゚听)ξ「…儀式、結局はどう思ったの?」

( ´_ゝ`)
つ□~ 「…変わらんさ。 変われないよ」


無反応ではないが、やはり気落ちしているせいですべてを諦めたように彼は呟く。


( ^ω^)「神はまだ、兄者の中にいるかお?」

( ´_ゝ`)
つ□~ 「……どうなんだろうな」

( ^ω^)「……」

( ´_ゝ`)「…でももしかしたら、俺はもう町に居ても仕方ないかもしれないな」


そう言って彼は顔を伏せ、膝を折ってしゃがみこみ、祈るように少しだけ涙を流す。


それは海へ向けて…
かつて自分が追放した、もう会うことのできない弟へ向けて…

270 名前:1[] 投稿日:2014/06/18(水) 19:47:25 ID:ZT2cpQkA0


それからはもう、ブーン達はなにも言わなかった。
しばしの沈黙と、ようやくたどり着いた迎えの舟に乗りこみながら、兄者、と呼んだ…




ーー ブーン以外の男の声で。

271 名前:1[] 投稿日:2014/06/18(水) 19:48:54 ID:ZT2cpQkA0

「久しいなバカ兄者。 そんなとこでどうした?」


声は聞こえる。
頭の中ではない、直接耳に届いている。

ーー 顔がすぐには上がらなかった。
身体もすぐに動かなかった。
心だけが焦り、瞼の奥では何度も何度も、頭を動かしているのに。


「ちょっと! もう少し優しく呼んであげないと顔あげないんじゃないの?」

「それは流石だな、あの頑固者め」

「おっおっ。 きっとガクブルしてるんだお」


兄者がここに着いた際、周りにはもうブーンとツンしか居なかった。
背後から誰かが来た様子もない。
…つまり、三人の他には舟乗りしか居ない。

バカ兄者と呼ぶ者など、この世に一人しかいなかったのだ。


ヾ(´<_` )「おーい、元気してたか」

( ;_ゝ;)「……………なんで…」



( ;_ゝ;)「…死んでねえじゃん…」

涙を隠そうともせず彼はそのままブーン達を睨み付ける。
おかげで形相が凄い。

272 名前:1[] 投稿日:2014/06/18(水) 19:51:05 ID:ZT2cpQkA0

( ^ω^)「僕たちは弟者が死んだとは一言もいってないお」

(´<_` )「信仰しないのにずっと持ってても仕方ないから、いい機会だし返してきてくれとは頼んだがな。
おれ町に入れないし」


ブーン達から渡された弟者の木札。
確かに私室に置いてある…鍵つきの引き出しに大切にしまった。


ξ゚听)ξ「この孤島にだって弟者の舟で来たのよ。
帰りもお願いするつもりでね」

(´<_` )「そう、追放されてから舟乗りになったんだ。 しかも向こう岸の港町にそのまま住み着いてる」

(´<_` )「…何度か旅人もここに運んでるんだが。
外に出ないでずーっと引き籠ってるから気付かないんだよなバカ兄者は」



( ;_ゝ;)「………」

( う_ゝ;)「…」



( ´_ゝ`)「……まじで?」

+(´<_` )「まじだ」



兄者は今度こそ、がっくりうなだれて落ちた頭を上げることが出来なくなった。

恥ずかしさや怒りがこみ上げてくるも、それをうまく処理することが出来ない。

273 名前:1[] 投稿日:2014/06/18(水) 19:52:52 ID:ZT2cpQkA0

( ^ω^)「兄者。
ちなみに僕は、町に入るときには "神を信じてる" って答えたんだお」


あの時、ツンとは対照的に答えたブーンが、兄者の返事を待たずに話し掛ける。

( ^ω^)「木札のことは弟者から口止めされてたからハッキリさせなくて申し訳ないけど…
でも今だって、本当に舟を待ってたところに兄者がここに来たお!
タイミングが悪ければ、結局弟者とは会えなかったはずだお!」


そう、目的は違えど兄者は自分の意思で、自分のタイミングでこの港に来た。


( ^ω^)「僕たちは信仰心もなければこの町の信者にもなれないけど、自分の心のなかにはいつだって神様がいる。
旅をする上で、生きていく中で支えは必要だから、挫けないために自分の心に神様を創るお」

(´<_` )「いま思えば、おれもそうだったんだ。
町から…
他人から押し付けられる作り物の神ではなく、自分の心のなかに一本、ず太い支えを育てたかった」


兄者はまだ顔を上げない。
ブーンの言葉を弟者が引き継ぐ。

274 名前:1[] 投稿日:2014/06/18(水) 19:55:14 ID:ZT2cpQkA0

(´<_` )「兄者がおれを追放した理由、今は分かるよ。
あのまま町に縛られたら駄目になりそうなおれを助けるために、世間体を犠牲にしてでも逃がしてくれたろ?」

(´<_` )「この双子の町は、一人っ子や、離別して独り身になった者だけが役職に就ける。
そうすればせめて信仰心だけでも人一倍努力して育むからな…蔑みや軽蔑を避けるために」


(´<_` )「遅くなったけど、
……ありがとうな、兄者」


ーー すべてその通りだった。
気を遣っていたつもりが、悉くを見破られていた。


弟者を町から追い出すことで彼の精神を守り、
自分が信仰を続けることで今は亡き両親から託されたサスガの名を守り、
町のしきたりからとはいえ役職に就くことで行きすぎた折伏から旅人を守り、
無心にひたすら信仰を続けることで自分の精神を守ってきた。

兄者はすべてを守ろうとして、心に仮面を被りながら、この町で一人戦ってきたようなものだった。


離れて暮らしていた弟に見破られていた悔しさと、
同時に唯一の理解者がやはり弟である嬉しさに、
止めどなく涙をながし続ける。


兄者にはその権利がある。

275 名前:1[] 投稿日:2014/06/18(水) 19:57:49 ID:ZT2cpQkA0


ξ゚听)ξ「神託の件はともかく、今後この町の存在意義は大きく揺れるでしょうね…」

(´<_` )「…その口ぶりからすると、なかなかうまくはいかなかったみたいだな」

(  _ゝ )「……」

( ^ω^)「でも、町の人々の心次第だと思うお…」

(´<_` )「そんなもん放っておいて逃げるのも手だけどな。
どうせ皆して自分の身が可愛いさ。
…兄者、なんなら一緒に乗っていくか?」


そう、信仰心で繋がっていた人々の心は恐らくバラバラになった。

支えを失ったいま、逃げ出す者やこれを気に独裁者となって恐怖と無理矢理戦う者も現れかねない。
彼らは皆、信じたものに裏切られたから。

兄者も裏切られた一人…

でも、弟者との再会のような裏切りなら何度あってもいい。


思い込みから裏切りを許せなくなるか、
考え方一つで裏切りも許せるか、
それは自身の心の持ち様なのだから。

276 名前:1[] 投稿日:2014/06/18(水) 19:59:17 ID:ZT2cpQkA0

( ´_ゝ`)「……。
俺は町に残るよ」


だから、放ってはおけない。


(´<_` )「そうか」


長年離れていてもそれが分かるから、止めない。


( ´_ゝ`)「その代わりに……ちょっとだけ、その舟で海を見せてくれないか?」


血で繋がった兄弟だから、分かる。


(´<_` )「一日くらいなら平気だろうしな。
わかった、乗れよ」



兄者が初めて孤島から足を離した時、彼の心を縛り付けていた見えない鎖は音をたてずに崩れ去っただろう。

想像してたよりも不安定な足場はこれからの自分を暗示しているようで、
しかしその浮遊感は味わったことのない未知の体験としてワクワクさせる。

277 名前:1[] 投稿日:2014/06/18(水) 20:00:36 ID:ZT2cpQkA0

(´<_` )「どうだ、おれの舟は」

( ´_ゝ`)「すごく…狭いです」

ξ゚听)ξ「まあ、四人も乗ってるからね」

( ^ω^)「おっおっ! みんなでガンガン漕ぐお!」


ひとときだけ楽しんだら、生まれ育った町に帰ろう。


よし。


( ´_ゝ`)「せっかくだ、俺も、町も生まれ変わってやる!」

(´<_` )「ナイス気概。流石だな兄者」

( ´_ゝ`)
つ□~ 「さあ、みんなで乾杯するぞ!」

(;^ω^)「お…」


ーー 俺が淹れたコーヒーが空になったら出発してくれ!


その言葉と共に、ブーンは美味しくないコーヒーで喉を潤すことを強要される。

278 名前:1[] 投稿日:2014/06/18(水) 20:03:49 ID:ZT2cpQkA0

まずは兄者が見せ付けるように、自身のコップを一息で煽り飲み干した。
すぐに新しくコーヒーを注ぎ入れ、次の者へ。

笑顔の弟者が続き、やれやれといった表情でツンも特に気にせずマイペースに飲み干した。


少しだけ躊躇したブーンだが、コップを手渡された時に兄者の目元に残る涙の跡をみて、
やはり一息で飲み干した。



( ´_ゝ`)b d(´<_` )



…彼はこれまでの取り戻せない生き方と向き合いながら、違う価値観で生きていかねばならない。


それにはとても勇気が必要なのだ。
一度手に入れたものを失くすのは、とても辛い。



だから、せめて ーー 生まれ変わる兄者に乾杯した。

279 名前:1[] 投稿日:2014/06/18(水) 20:04:51 ID:ZT2cpQkA0






それでもやはり、
ブーンは兄者のコーヒーが苦手だった。







(了)

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