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188 名前:1[] 投稿日:2014/06/11(水) 23:23:56 ID:ZxCJGoXU0
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('A`)「いやあ〜、あのマッシュルームだけはなんとかしてもらえて助かったわ〜」
鼻唄の飄々とした声がやけに辺りを支配する。
('A`)「一通り見て回ってきたけど、あとはこれまで通り対人のみの戦さになりそうだな、ふひひ。
…どうした?」
(#゚;;-゚) 「…あんたァ」
ナナシにはまだ音が聞き取れない。
しかし、状況を把握することは出来た。
…鼻唄のガンアクスの銃口から硝煙が立ちのぼっている。
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189 名前:1[] 投稿日:2014/06/11(水) 23:25:47 ID:ZxCJGoXU0
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(;-_-) 「な、なにやってんだよ!
なんで味方を…」
('A`)ノシ「いや、そんなん居ないし」
二人の表情からもわかる。 …たしかに外斜視を撃ったのは鼻唄だ。
しかしそれを微塵も感じさせない態度が、スカーフェイスの怒りを増して買う。
(#゚;;-゚) 「ほ〜、裏切り者っちゅうわけか。
やってくれるやん」
長刀を握り直しいまにも飛び掛かるところだが、
('A`)ノシ「いやいやいや、それも違う」
要領を得ない鼻唄の返答に、さすがに違和感を感じて踏みとどまる。
ーー だが、それこそ失敗だった。
('A`)「俺はね、常に一人なの。
裏切るもなにもない。 皆殺しっていう」
(;;-_-) .;" 「グフッ…!」
(#゚;;д゚) .;"「…かっは…ァ…!?」
唐突に、スカーフェイスも陰鬱も苦しみだした。
ナナシは目を逸らしてはいない。 鼻唄は特になにもしていないように思う。
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190 名前:1[] 投稿日:2014/06/11(水) 23:27:51 ID:ZxCJGoXU0
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('A`)「ふひひ。 そろそろ効いてきた?
それね、毒」
(#゚;;-゚) 「!?」
('A`)「スカーフェイスっていえばそこそこ名の知れた傭兵だけど、俺の名前、聞いたことないか?」
(;-_-) 「ど、毒…? なら…」
('A`)「あ、忘れてたわ」
言うと同時に、またガンアクスが火を噴く。
もはや雑音にしか聞こえない破裂音と共に陰鬱から鈍い音が吹き出したかと思えば、その姿が背後へと吹き飛んだ。
喉から絞り出されるような呻き声が、何かをいう前に大地に染み込み、かき消えた…。
('A`)「魔導士を潰しとけば」
ナナシは陰鬱の最後の表情をみてしまった。
裏切りの驚愕、そして無念と憎悪に満ちた顔のまま、陰鬱は命を失ってしまった。
('A`)「俺の毒を戦場で治すこともできない」
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191 名前:1[] 投稿日:2014/06/11(水) 23:29:50 ID:ZxCJGoXU0
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スカーフェイスは膝をつき、しかし顔を鼻唄から離さない。
(#゚;;-゚) 「……あんた、"ポイズン" か…」
('A`)「知ってるじゃねえか」
('A`)「しかしなんで俺の顔が割れてないかな?
戦場でほかに生き残りがあんま居ないからかな」
ふひひ、と笑う。
彼の態度は貨物車に同乗していた時から変わってはいない。 …変わったのは、こちらが彼をみる目だ。
それだけで、ひどく不気味な印象に掏り替わってしまう。
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192 名前:1[] 投稿日:2014/06/11(水) 23:33:52 ID:ZxCJGoXU0
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戦局をみればマッシュルームの撃破は敵陣の意気を削ぎ、味方を鼓舞したが、まだ乱戦は続いている。
鼻唄は背後に騎士達を控えている。
が、それも味方ではないという…
ならば、
「しねええ!」
鼻唄…いや、 "ポイズン"に、騎士が斬りかかる。
"ポイズン" は表情を変えず、肩にガンアクスを掛けたかと思うと、振り向かずそのまま発砲する。
騎士がまた一人、無慈悲に命を吐き散らす。
ーー それと同時に、"ポイズン" の背中から血塗られた刃がズリュリと生えた。
ミ,,;;;Д゚彡 「!」
不自然に長いその刃が、決して自分の意思で生えたものではない事を主張するようにその身体をよろめかせる。
(#゚;;-゚) つ「……隙だらけや、ボケが」
スカーフェイスの長刀が手を離れ
「ーー ぼふっぅ」 ・".('A` )
"ポイズン" の心臓を貫いていた。
まるで、はち切れんばかりに水と空気を入れて縛られた袋に穴をあけたように、"ポイズン" の口からは止めどなく血が流れ出し、そのまま倒れ込む。
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193 名前:1[] 投稿日:2014/06/11(水) 23:36:11 ID:ZxCJGoXU0
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所持する武器が一つである限り、そして銃口が別の誰かに向けて牙を突き立ててる限り。
身体と顔がどちらを向こうが、その神経は銃口と共にある。
ーー 人は日常において…
五感の中で"見る"事に頼る部分が多いが、それは"神経で見ている"からだ。
というのがスカーフェイスの経験論 ーー
たとえ視界に入っていようが、神経がそれを見ていなければ視覚していないのだ。
彼女はその隙を見逃さなかった。
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194 名前:1[] 投稿日:2014/06/11(水) 23:39:40 ID:ZxCJGoXU0
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(;'A`)「ぐっほ…いてぇ〜
ち、くしょう〜 殺せ〜…ゲフっぇ……ふひ」
(#゚;;-゚) 「そらもう死ぬわ、あんた」
肺の中の空気が漏れるようにブツブツと呟くポイズンを捨て置き、スカーフェイスがまだ少しフラフラした様子でナナシに近づく。
(#゚;;-゚) 「立てるか?」
ミ,,;;;Д゚彡 「…だい、丈夫」
ナナシもやっとの思いで立ち上がる。
時間の経過で耳が正常に音を聞き取れるようになったのも大きい。
痛みに慣れた身体は、その場から退避するだけの力を甦らせる。
(#゚;;-゚) 「今度こそ一旦退くで。
今日の戦いはまだ終わらん、その傷を落ち着かせて、あたしも解毒しとかんと」
ミ,,;;;Д゚彡 「……わかったから。
でも…」
自陣に目をやるが、乱戦に次ぐ乱戦でもはや戻ることは難しく、すでに貨物車も次の兵を運ぶべく戦場から引き揚げている。
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195 名前:1[] 投稿日:2014/06/11(水) 23:41:56 ID:ZxCJGoXU0
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しかし、ナナシが気にしたのはそれではなかった。
スカーフェイスも胸元からカミソリ程の極小ナイフを取りだし、
(#゚;;-゚) 「…アイツらは残念やったな」
そう語りながら…
外斜視と陰鬱の首元から、同じ陣営で戦う証だった識別リングプレートを切り外す。
"ヒッキー"
"またんき.S"
プレート裏にはそれぞれの本名と思われる刻印。
彼らに家族がいるならば、このプレートが死亡通知となる。
家族がいなければ…墓標となるのだ。
ナナシは、心のなかで彼らの冥福をそっと祈った。
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196 名前:1[] 投稿日:2014/06/11(水) 23:43:41 ID:ZxCJGoXU0
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ナナシとスカーフェイス。
二人が戦場から抜け出した先には、すでに避難が終わっている集落が佇む。
海に面したこの集落には火の手はまだ上がっていない。 …おそらく戦略的な利点が伴わないからだろう、とスカーフェイスが独りごちた。
先ほどまでいた戦地からは丘になっていて、ここからならその状況が遠目にだが確認できる。
…ただし、敵が迫ったら逃げることは難しいかもしれない。
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197 名前:1[] 投稿日:2014/06/11(水) 23:47:14 ID:ZxCJGoXU0
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ミ,,;;Д゚彡 「……」
集落の入り口を抜けると、なんともいえない不思議な感覚に心を覆われる。
(#゚;;-゚) 「当たり前やが人の姿は見当たらんな…
その辺お邪魔して手当て出来そうなもん捜すか」
彼女には特に何も感じられないようで、警戒は解かないまま奥に進んでいく。
この集落の家屋の文化的レベルは高くない。
点在する畑も、収穫を迎えることなく置き去りにされた野菜のほとんどは枯れ果てて放置されている。
いずれも個人が耕した程度の広さしかないため、避難の際に持っていかなかったのだろう。
散開とした発展具合を鑑みるに、たとえ戦争が起きていなくともそれほど裕福とは言えない土地なのかもしれない。
順番に家のなかを覗き、手分けして薬や包帯を探してみるが見当たらず、人も物も、もぬけの殻だ。
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198 名前:1[] 投稿日:2014/06/11(水) 23:49:25 ID:ZxCJGoXU0
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(#゚;;-゚) 「あかん、身体がぐらついてしゃーないわ…なんもないんかい」
スカーフェイスの顔色が芳しくなかった。
仕組みはわからないが "ポイズン" の仕掛けた毒は、彼女を蝕み続けた。
…恐らくは自然界において毒をもつ獣達と同程度の症状を発症させているのかもしれない。 …持続性が高く、獲物を追い詰めるための毒。
もしそうだとすれば、あまり長い時間そのままにしておけない。
即効性はなくとも、やはり命に関わる。
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199 名前:1[] 投稿日:2014/06/11(水) 23:52:08 ID:ZxCJGoXU0
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さらに集落の奥に進むと、螺旋を描く岩階段が見えた。
ミ,,;;Д゚彡 「……これ…」
ナナシの記憶に眠る、幼い頃のイメージが重なる。
この岩階段で、周りの子と馴染めなかったナナシが一人登り降りして遊んだ記憶。
いや、同じように一人で遊ぶ女の子がいたかもしれない。
岩階段を一歩一歩登り、振り向くたび、集落を上から見渡しては見晴らしの良い解放感を味わう。
そして、その向こうには海が広がる水平線と、まだ見たことの無い島か大陸か…。
幼いながらに想像して、しかし、永遠にあそこには行くことなく自分はこの集落でやがて死んでいくのだろう…と、朧気ながら思っていただろうか?
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200 名前:1[] 投稿日:2014/06/11(水) 23:53:19 ID:ZxCJGoXU0
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それまでの自分より、あの日、ミルナと歩み始めた頃からの記憶の方が鮮明だ。
( ゚д゚ ) 『…皆とお別れはしていかないのか?』
ミ,,゚Д゚彡 『へーきだから…』
( ゚д゚ ) 『さっきの女の子とも?』
ミ,,゚Д゚彡 『うん』
ーー そう言って、当時この岩階段の上にある教会を後にしたのだった。
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201 名前:1[] 投稿日:2014/06/11(水) 23:55:28 ID:ZxCJGoXU0
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岩階段がゴールを迎える…。
あれから何年も経ち、さすがに外観の古くなった教会が同じ場所で未だ健在していた。
当時の他の子ども達はあれからどうしただろう。
里親が現れたか、それともまだこの教会に住んでいるのか…いや、さすがにいまは避難しているか…。
(#゚;;-゚) 「だれや? 避難してなかったんか?」
思い出に浸るナナシの思考を遮るスカーフェイスの声が少しだけ警戒を滲ませている。
慌ててナナシも騎兵槍に手を掛けた。
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202 名前:1[] 投稿日:2014/06/11(水) 23:57:20 ID:ZxCJGoXU0
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( ^ω^)「そっちこそ何者だお?
こんなところまで…」
教会の入り口を塞ぐように立ちはだかるのは、ニコニコした若い男…
ナナシより少しだけ歳上だろうか。
だが、服や外套に覆われたその佇まいからは歴戦の戦士を思わせる雰囲気を嫌でも感じさせられる。
腰にも数本帯剣しており、かなり使い込まれていることが鞘の褪せ具合からも分かる。
スカーフェイスはいま長刀を持っていない。
もし敵兵だとすれば自分が矢面に立たねばならない。
ーー せめて彼女は逃がしてやりたい
思わずそう考え、そしてハッとする。
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203 名前:1[] 投稿日:2014/06/11(水) 23:58:27 ID:ZxCJGoXU0
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生来の勇敢さから過去、一度も敗北した時の事を考えたことはなかったナナシは、自分の頭によぎったこの考えに驚いた。
自分はこの男には敵わない。
万全な態勢であっても。
自然にそう考えてしまったのだ。 …その得たいの知れない強大さが、目の前の男には確固として存在する。
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204 名前:1[] 投稿日:2014/06/12(木) 00:00:31 ID:19bhCS9M0
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(#゚;;-゚) 「…あんたこそ、なんや?
うちらはちぃと手当てだけさせてくれるならすぐ消えたる。
でもな、もし…」
スカーフェイスはある程度の言葉を選んで対応した。
もし敵兵と分かれば ーー
( ^ω^)「構わないお。 ただ、この中には入らない。
…それが守れるならね」
(#゚;;-゚) 「それでもかまへん。
ただし爆弾だの危ないもん作ってないならな」
互いに探りあう。
こちらの探りにも、笑う男は動じない。
当然だ。
そもそもが杞憂だったのだから。
( ^ω^)「…この中で、赤ちゃんが産まれそうなんだお……」
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205 名前:1[] 投稿日:2014/06/12(木) 00:02:52 ID:19bhCS9M0
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彼が守ろうとしていたのは、ーー 妊婦。
避難に間に合わず、ついには産気付いてしまい、この教会で産むことになったのだ。
ブーンと名乗った笑う男にはそもそも敵意が無かったらしい。
スカーフェイスの推測通り、この集落をわざわざ戦場として使うような価値はなく、かといって万が一にも巻き添えは恐ろしい…
住人が迷い戸惑っていたそんな時、彼もここにたどり着いたという。
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206 名前:1[] 投稿日:2014/06/12(木) 00:05:00 ID:19bhCS9M0
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( ^ω^)つ ( (◎) )
「ブーンはここでツンと待ち合わせてるんだお。
はぐれてしまった時の合流地点…まさかすぐそこがもう戦場になってるとは思わなかったけれど」
( (◎) ) (゚-;;゚#)
「ツンってあんたの恋人かなんかか? …傭兵とかでもなければ多分あたしらは見かけてへんけどなあ」
教会にも手当てする道具は余ってなかったらしいが、ブーンは解毒魔法を使うことができた。
スカーフェイスは治療してもらいながら、もう彼との会話に馴染んでいる。
( ^ω^)「これで毒は平気だお。
…それにしても戦場で使うにしては悠長な効果の毒だおね」
(#゚;;-゚) 「やっぱりそう思うか?」
言われて気付く矛盾点。 スカーフェイスはさすがに分かっていたようだが、確かに違和感がある。
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207 名前:1[] 投稿日:2014/06/12(木) 00:06:30 ID:19bhCS9M0
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^Ъ (#゚;;-゚) 「ま、ええわ、巻き込んだらアカンからこの話はやめとこ。
…もうどれくらいなんや?」
治療を終えると、クイッと教会を指さし聞いた。
出産の事が気になる。
(;^ω^)「もうまる一日経つお…」
(#゚;;-゚) 「設備の乏しそうなとこでその時間は危ないな…」
ミ,,゚Д゚彡 「ブーンは…ずっと見張ってたの?」
( ^ω^)「おっおっ、これくらいならなんともないお」
(#゚;;-゚) 「せやけど、無事産まれたらええな」
( ^ω^)「だお! きっと大丈夫だお!」
弾むように答える様子はさっきまでの雰囲気とはかけ離れたものだった。
こちらが素の顔なのだろうか。
そして、
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208 名前:1[] 投稿日:2014/06/12(木) 00:08:56 ID:19bhCS9M0
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ーー …ァァ! オ ギャア!!
教会の中から元気な産声がここまで響いた。
心なしか教会全体を包み込む雰囲気も穏和になったような気になる。
きっと出産は成功したのだろう。
(*^ω^)「よかったお! 泣いてるお!」
ブーンは一層強く笑った。
こちらもつい笑みがこぼれる。 …今日の数時間前までは戦争に参加し、殺し合いをしていたのに。
(#゚;;-゚) 「おーおー威勢のいい産声や。
元気そうな男の子やろな」
ミ,,゚Д゚彡 「わかるの?」
(#゚;;-゚) 「傭兵に本腰いれるまでは助産婦だったんやで。
……ま、もう昔の話や」
スカーフェイスもニカニカと笑っていた。
…ほんの数時間前には殺し合いをして、
"ポイズン" をもその手で殺し、
陰鬱と外斜視の死を確かめてしまったのに。
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209 名前:1[] 投稿日:2014/06/12(木) 00:11:13 ID:19bhCS9M0
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助産婦の女性が教会の扉を開けると、こちらに声をかけてくる。
女「旅の方! 産まれました、母子共に健康に!
長い時間、見張りなんてお願いしてしまって…」
( ^ω^)「いいんだお!いいんだお!
…じゃあ、ぼくはこれでおいとまさせてもらうかお」
(#゚;;-゚) 「え、ちょいちょい、顔見てかんのか? 知り合いなんやろ?」
ブーンは顔を横に振り、岩階段の方角を指差す。
( ^ω^)ノ 「ただ待ち合わせのついでに見張ってただけで、別に知り合いではないお。
それに、もう待ち合わせもちょうど終わりだから」
女「あぁ、善良なる行為に感謝致します。
旅の方、あなたに神の祝福がありますように…」
助産婦が指を組み、頭を垂れてブーンに祈りを捧げるのを見届けると、彼は嬉しそうに両手を広げて急ぐように岩階段を掛け降りていった。
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210 名前:1[] 投稿日:2014/06/12(木) 00:13:06 ID:19bhCS9M0
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(#゚;;-゚) 「慌ただしいというか、明るいやっちゃな〜…」
女「あなた方も、見張りを?
もしお急ぎでなければ是非ともお礼申し上げさせてください。
この中で、さきほど母親となった方もお待ちしているんです」
助産婦が教会に招き入れようと扉を支えている。 本来ならブーンがここに入るべきだと思うのだが…
(#゚;;-゚) 「…なあ"フサギコ" 、あんた産まれたての赤ん坊、みたことあるか?」
ミ,,゚Д゚彡 「えっ?」
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211 名前:1[] 投稿日:2014/06/12(木) 00:15:09 ID:19bhCS9M0
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棄てられたての赤ん坊なら見たことがあった。
ーー 自分も恐らくは同じだったはずの、親に見棄てられた赤ん坊や子供。
ーー なにもわからないまま、きっと誰かが救い上げてくれなければ朽ちていく命だった赤ん坊。
幼い自分が退屈だと思っていた、暗い穴の底辺だと思い込んでいたこの教会が……こうして命を救い上げ続けていたのかと思うと。
ナナシは胸に込み上げてくるはじめての感情に心を囚われていく。
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212 名前:1[] 投稿日:2014/06/12(木) 00:17:48 ID:19bhCS9M0
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(#゚;;-゚) 「社会勉強や。 せっかくだからお邪魔して見てみぃ」
"人を殺さないあんたが、もしかしたら遠回しに救ってるかもしれん命だと思ってな"
…最後の一言だけ、とても小さくナナシにだけ聴こえるように喋った彼女は、特に笑ってはいなかった。
代わりに、なにかとても、とても寂しそうに見えたのが印象的だった…。
助産婦に迎えられ教会に入っていくナナシを後ろから見守りつつ、スカーフェイスは岩階段から集落を振り返り、見下ろした。
(^ω^)ノシ
ξ゚听)ξ ノシ
(#゚;;-゚) 「あれがブーンの待ち人かい」
仲睦まじく旅立つ二人を見送ると、小さく溜め息を吐く。
(#゚;;-゚) 「…あたしもああして過ごせとったら違った人生だったんかもなあ」
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213 名前:1[] 投稿日:2014/06/12(木) 00:19:42 ID:19bhCS9M0
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教会で出産を済ませた女性との対面は、それまで空虚だったナナシの人生に、一粒の波紋を波立たせた。
かつての女の子との再会。
母親となったその女の子とナナシがくぐったのは、ミルナの故郷であり、ナナシが長く育ったあの村の門だった。
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214 名前:1[] 投稿日:2014/06/12(木) 00:23:25 ID:19bhCS9M0
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村長「…ナナシ、おぬし無事だったのか!」
数年ぶりに会う村長の顔はもはやしわくちゃで、まるで懐で押し潰された饅頭のようだと思った。
ミ,,゚Д゚彡 「…ただいまだから」
ナナシは思わずたじろぐ。
「風の噂でお前の事を聞いた奴がいたんだぜ!
フサギコって名前で、人を殺さない奇特な傭兵がいるってさ!」
「昔は、本当に悪かったな…
"塞ぎ児" だなんて、陰で呼んじまって…お前が出てったあと、俺たちみんな考えたんだ」
「このまま…、あいつは…、
ナナシは死んじまったら、そんな気持ちのままあの世にいっちまうのかよ…とかさ。
そんなことになったら、もし俺たちもあの世にいった時、ミルナに合わせる顔がないって!」
村人達から、謝罪と後悔の言葉が降り注ぐ。
ナナシの顔を見るなり、涙ぐむ者もいた。
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215 名前:1[] 投稿日:2014/06/12(木) 00:25:23 ID:19bhCS9M0
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傭兵家業は人に嫌われやすい。
このご時世…そのほとんどが、金のために働く人殺しや、戦争屋といっても差し支えがないからだ。
しかし、ナナシは決して殺さなかったのだ。
受け取った報酬も、自分のためにはほとんど使わなかったのだ。
村長「お前が送ってくれていたお金は一つも手をつけておらん。
お前の…ミルナとの古家に保管しておるよ」
ミ,,゚Д゚彡 「…みんな…」
これは、ミルナがくれた贈り物だ、と思った。
ミルナが居たから今のナナシが存在する。
そして…
(*゚ー゚) 「ミルナ…さんって、あの時のギョロ目の?」
昔、教会で唯一ナナシに懐いていた女の子…今は一児の母となった女性が、ミルナの名に反応する。
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216 名前:1[] 投稿日:2014/06/12(木) 00:29:17 ID:19bhCS9M0
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出産後、人のいなくなったあの集落では生活も成り立たないため、ナナシの村に避難しようと共に来たのだ。
スカーフェイスも道中まで見送ってくれたが、再び戦地に赴くと言う彼女は、村にたどり着く前に別れを告げた。
村長「ミルナをご存じか? ひょっとしておまえさんは…」
(*゚ー゚) 「はい。 ミルナさんはあのあと何度も私達の集落に寄って頂いてました。
出稼ぎの帰りだから、と、そのたびに教会に寄付されてたみたいで…」
ミ,,゚Д゚彡 「!!」
(*゚ー゚) 「皆に好かれてました。
最初は怖がってたけど…優しくて頼りになるって大人にも子供にも」
村長「そうか…あやつらしいな。
ところでお前さんの名前は?」
(*゚ー゚) 「しぃ。 せめてこの子が大きくなるまで、この村でお世話になります」
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217 名前:1[] 投稿日:2014/06/12(木) 00:31:23 ID:19bhCS9M0
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これから一緒に村で過ごすのだから…と、矢継ぎ早に質問する村人達を諌めて、ナナシとしぃは、ミルナの古家にその身をやっと落ち着かせた。
ナナシにとって、これから新しい生活が始まる。
まずは、しぃの夫を捜さなくてはならない。
(*゚ー゚) 「…彼も戦争に行ってしまったの。
もともとは国に雇われた軍師だったけど、ちょうど一年くらい前から戻ってこなくなって…」
ミ,,゚Д゚彡 「戦争はすごく大きくなったから…」
(*゚ー゚) 「フサ…ナナシは、紅い森って知ってる?」
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218 名前:1[] 投稿日:2014/06/12(木) 00:34:13 ID:19bhCS9M0
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大陸の北西には、ナナシとしぃの居た教会のある集落。
そこから山々を越えて南下するとミルナとナナシの故郷の村。
そして紅い森は、ここから反対側となる大陸の真東に位置する、古の部落が住むといわれる広大な土地だ。
(*゚ー゚) 「彼がその名前を口にしたのを聞いたことはある…でも、もしそこに彼が向かっていたとしたら…」
戦争は大陸の中心地に近いほど、激しさを増す。
よほど運が良くない限り、恐らく無事には帰ってこれないだろう。
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219 名前:1[] 投稿日:2014/06/12(木) 00:35:54 ID:19bhCS9M0
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ミ,,゚Д゚彡 「……」
(*゚ー゚) 「ねえ、ナナシ」
考え込むナナシに、しぃは訊ねる。
(*゚ー゚) 「…あなたも、また戦争に行っちゃうの?」
ミ,,゚Д゚彡 「……」
(*;ー゚) 「あなたも、もう、もしかしたら帰ってこないの?」
しぃの瞳から涙が零れる。
夫となるはずの男が出発して以来、
数週間… 数ヶ月… そして、一年…
子供を産んだ彼女は、なかなか戻らない伴侶をどんな想いで待ち続けているのか。
ナナシにとって、戦争に行ったきり帰ってこなかったミルナを待ち続けた日々…
そして、
ミルナの亡骸だけが帰ってきたときの絶望感を思い出す。
いまの彼女は、昔のナナシだ。
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220 名前:1[] 投稿日:2014/06/12(木) 00:37:45 ID:19bhCS9M0
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正直、悩んでいる。
ナナシは新しい命の輝きを知ってしまった。
死んでいく命の重さを知ってしまった。
スカーフェイスのように、過去と現在におそらくは葛藤しながらも、強く生きていこうとする想いもあるという事を知ってしまった。
…そしてミルナのように、自分の意思で出来ることを自分で探して、それを実行する偉大さを知ってしまった。
ーー ナナシは
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221 名前:1[] 投稿日:2014/06/12(木) 00:39:37 ID:19bhCS9M0
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ミ,,゚Д゚彡 「ナナシは」
(*;ー;) 「?」
ミ,,゚Д゚彡 「ちゃんとここに帰ってくるから!
しぃはここで安心してナナシと夫を待ってて欲しいから!」
(* ;ー;) 「……」
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222 名前:1[] 投稿日:2014/06/12(木) 00:41:44 ID:19bhCS9M0
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「ナナシは…
( ゚д゚ ) (*゚ーミ,,゚Д゚
きっとあの頃から、ずっとずっと、
強くなったんだね…」
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223 名前:1[] 投稿日:2014/06/12(木) 00:45:23 ID:19bhCS9M0
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ーー この故郷を守り、しぃの想いを護るべく、ナナシは再び戦地へと赴く決意をした。
「必ず帰るから。」
( ゚д゚ ) 『もし帰ってこられたら、今度こそ俺はお前に…
"お前の父親はもう俺なんだ" と、胸を張りたい』
人は、自信がないからこそ、
もっともっと頑張ろう!と、
胸を張って生きていく。
(了)