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48 名前:1[] 投稿日:2014/06/03(火) 18:10:43 ID:gWx9.eAM0
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( ^ω^)千年の夢のようです
- 遺していたもの -
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49 名前:1[] 投稿日:2014/06/03(火) 18:14:18 ID:gWx9.eAM0
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モナーを待っていた村の依頼主との契約を済ませてから十三日後。
もう一つの山も無事に越え、広大な湖を前にしたモナーは何度目かの興奮を露わにする。
( ´∀`)σ 「まるで海みたいモナね、向こう側が水平線になってるモナよ」
山越えでは休みながらとはいえ、歩けども似たような景色に辟易していたところだ。
日光に当てられた水面は刻まれる波に呼応するように反射し、魔法のように美しい。
日課となった、借りたナイフの感触を確かめながらクーが口を挟む。
川 ゚ -゚) 「ここまで来ることはあまり無いのか?」
( ´∀`)「大陸のこっち側は初めて。
一族としてもきっと渡った事があるのはおじいさんだけモナ」
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50 名前:1[] 投稿日:2014/06/03(火) 18:18:45 ID:gWx9.eAM0
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地図で確認すると、この湖があるのは大陸の端。
湖を渡ったところで向こう岸には集落があるわけでもなく、すぐに海に出てしまう。
陸地からぐるりと迂回してもやはり観光になるようなものもない。
本来はこの湖を眺めて気を休めた後、皆 それぞれの道を歩んでいく。
だが、遺言である回収すべき指輪はこの湖を通る必要がある。
川 ゚ -゚) 「なんせ湖の真ん中に深く沈んでいるんだからな」
( ´∀`)「えっ」
川 ゚ -゚) 「お前の祖父が造った指輪は海に沈んでいる。
実は渡りきる必要はないんだ。
そうだな…ちょっと、こちらへ来てくれ」
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51 名前:1[] 投稿日:2014/06/03(火) 18:20:15 ID:gWx9.eAM0
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しばらくの間、先を歩くクーに従って向かう先には漁網が幾重にも大袈裟に被された、二人の背丈ほどある大きな岩がみえる。
ここまでくると道らしき道はなく、自然に囲まれた崖や浜が無骨感を醸し出していた。
( ´∀`)「? ここがどうしたモナ」
川 ゚ -゚) 「これは私が時間をかけて回収したものだ。
今は魔法と網でただの岩に見せてはいるが…」
クーが漁網をひっぺがえして軽く錫杖をかざすと大岩とその周囲の空間が一瞬歪み、その姿を現す。
ーー直後、異臭が辺りを包み込む。
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52 名前:1[] 投稿日:2014/06/03(火) 18:22:27 ID:gWx9.eAM0
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(;´つ`)「ぐぁぅ…」
思わずえづく。
それは大量の甲殻獣や猛禽類、おそらくは貝や珊瑚など、この辺りに生息しているものが干物化した姿だった。
練り固められている。
まるで生き物という生き物の血や臓物を乱暴に吸出したかのように。
所々が風船のように膨張してグロテスクな形を擁してる。
ヘドロにまみれて固まった異形。
なぜか視線が外せなかった…こうして見たくないものを見ていると、視界が闇で狭まるような錯覚に陥る。
川 ゚ -゚) 「…ちょっと離れよう、空間をある程度は切り離してはいるから近付き過ぎなければ臭いもしなくなる」
コクコクと頷き、モナーは背を向けて数歩離れた。
クーも横にならび、同様に異形から目をそらす。
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53 名前:1[] 投稿日:2014/06/03(火) 18:25:00 ID:gWx9.eAM0
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川 ゚ -゚) 「さて、順を追って話す。
これはお前の中だけで考えたり消化したりせず、しっかりと聞いてくれ」
俯くクー。モナーもニオイの元から離れると少し落ち着いた。
…最初にみた美しい湖を思い出すと空気も美味しく感じる。
川 ゚ -゚) 「さて、お前の祖父…二代目は、ここに居た女から依頼を受けて一つの指輪と、一つのリングを造った」
( ´∀`)「リングと…指輪?」
川 ゚ -゚) 「これが少々やっかいでな、どちらも実験的要素が強かった。
リングには揮発の特性を持たせた。
そして指輪には蓄積…半永久の特性を持たせたんだ」
錫杖を持ち直して、シャララ、と音が鳴る。
川 ゚ -゚) 「依頼主の女は、そもそも指輪には魔除けとしての効果を期待していたんだ。
…ちなみに、いまのお前ならこの依頼をどう応える?」
( ´∀`)「魔除け…半永久的…」
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54 名前:1[] 投稿日:2014/06/03(火) 18:28:16 ID:gWx9.eAM0
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( ´∀`)「それなら光の属性を持つ魔導力から抽出したエネルギーを使うモナ。
破壊力としてのエネルギーベクトルは散漫で弱々しくても、スカラーとしては優秀なことが分かっているし、それを踏まえて造れば素材との組み合わせで波状的な相乗効果が…」
川 ゚ -゚) 「そうだ。いまならそうなるんだろう。
そして細工師としての技量が高いほど、比例して純度の高い効果が得られるはずだからな」
モナーと会話しつつも、クーは俯いたまま。
目を閉じているせいか、なにかを思い出しながら話しているかのように続ける。
川 ゚ -゚) 「だが、当時は光の魔導力というものは勘違いされていた。
定義が逆だった…人々が惹かれるほうが光だと考えられ、霊や悪魔のように魔なる生物が惹かれる属性が闇だと」
( ´∀`)「………」
川 ゚ -゚) 「そしてお前も…モナー一族にもそれが伝わってしまっている」
突如、刺すような一言にモナーは思わず身を固くした。
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55 名前:1[] 投稿日:2014/06/03(火) 18:30:49 ID:gWx9.eAM0
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寿命のある人間は、物事を捉えきるまでに死んでしまう事がほとんどだ。
"人は想像力から闇に惹かれ、
霊は浄化を求めて光に惹かれる。"
その本質にたどり着くまでにどれだけの半端な知識を垂れ流したのか、当の本人らは理解するまえに死を迎える。
( ´∀`)「…たしかにモナーも、先代達もみんな闇の魔導力を使えるモナ」
川 ゚ -゚) 「……」
( ´∀`)「モナー一族に伝わる闇の魔法は…一つだけ」
ーー【ドレイン】ーー
モナーが先の村で受け渡した指輪にもこの【ドレイン】がかけられていた。
けっこん(結魂)指輪として、契約者同士の命を繋いだのは、禁忌を犯す死の呪い。
指輪を介して契約者の魂部分を構成する魔導力を指輪がドレインし、瞬間的に溶解した個別の魂を合わせた後、再び二つに分離して分け与えることで極めて拒絶反応を抑える。
ただし混ぜ合わさった魂は一心同体となる…どちらかが欠けてしまえば、それまで抑えられていた拒否反応が蓄積された年数分、契約者に襲い掛かる。
数十年生きてから片方が死ねば、数十年分の死の波動を遺されたもう片方が一身に受けることになる。
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56 名前:1[] 投稿日:2014/06/03(火) 18:34:23 ID:gWx9.eAM0
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( ´∀`)「これがうちの家系に伝わった理由はモナーにも分からないし、そもそも滅多に使うこともないけれど…」
川 ゚ -゚) 「だろうな。
さっきの私の"アレ"も、あくまで擬似的にドレインを再現しただけで厳密には異なる魔導の仕組みだ。
まだ私のドレインは完成していない。
それを鑑みればお前達の呪術は精密で正確だから効果範囲が適切に限られている」
ただしそれは呪術だけの話でな。
付け加えて、クーは話を戻す。
川 ゚ -゚) 「細工技術というよりはそもそも当時の製造過程に難があったのかもしれない。
指輪は後々、依頼主だった女にも扱いきれないレベルで暴走を始めた」
話ながら二人は船を貸借りるために船渡しを探す。
川 ゚ -゚) 「暴走を抑えるにはその女が命を懸けてでもなんとかすれば良かったのだが、あまりに魔導力が反発するので決着が長引くほど、下手をすれば大陸全土に余波で呪いカスが広がる可能性があった」
(;´∀`)「そ、そんな…」
川 ゚ -゚) 「パンデミックとでもいうのかな…何が起こるか予測できないものを引き起こすよりは、と女が考えたのがこの広い湖を使った封印行為だったのだが…時間稼ぎが関の山だったよ」
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57 名前:1[] 投稿日:2014/06/03(火) 18:35:39 ID:gWx9.eAM0
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小さな船を借りた二人は散歩に行くような足取り…それよりも少しだけ早歩きで船に乗り込み、沖を離れる。
ゆっくり、しかし確実に、二人を乗せた小さな船は湖の中心部に近づいて行く。
湖は相変わらず美しい。
透き通った水面は、その水面下を泳ぐ魚達の動きひとつひとつを優雅に魅せる。
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58 名前:1[] 投稿日:2014/06/03(火) 18:38:01 ID:gWx9.eAM0
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(;´∀`)「…読めてきたモナよ。
まさかクー、君は…君がその…」
川 ゚ -゚) 「巻き込んですまないな、四代目。
しかしこの数日間だけでもお前の仕事に懸ける誠実さは本物だと感じたよ」
(;´∀`)「クー…」
川 ゚ -゚) 「以前も同じことを言ったが私は嘘などつかない。
二代目への依頼主とは私本人だ。
ずっと生きている…不死者というやつだ」
(;´∀`)「でっでも! …いや、もし失敗したらどうするモナ!」
川 ゚ -゚) 「その時は私なんて放っておいてひとまず工房に戻ってくれ。
今回みたいに直接指輪に向かう分には時間はもっと稼げるのさ」
クーの錫杖がカタカタと震え出す。
クーではなく、錫杖がひとりでに震えている。
川 ゚ -゚) 「実はその時のための保険をかけておいた。
お前ならすぐ気付ける類いのな」
錫杖はクーの手の中で激しく暴れている。
反動で船が揺れている。
しかし気が付けば、足場はクーの魔導力によって安定するよう少しだけ浮いていた。
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59 名前:1[] 投稿日:2014/06/03(火) 18:39:59 ID:gWx9.eAM0
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川 ゚ -゚) 「ついでに言っておくが、いくら死なないと言っても殺され続ければずっと動けないし、痛いものは痛かったりする。
だからつけられる決着はつけておくのさ」
(;´∀`)「クー!モナーは…!!」
先程から耳鳴りが鳴り止まない。
クーの魔導力だけではなく、湖からはち切れそうな精神圧迫が押し寄せて、それを相殺しあっているせいだ。
身体全身を震わす衝撃が止まらない。
川 ゚ 々゚) 「覚悟を決めろ! モナー!
お前を信じてるぞ!」
ギギィインッッ
キリ
ギャッギャッ
キリキリキリ
キリキリキリキリキリキリキリ
振り上げ、水面に叩きつけられた錫杖から不協和音が凶悪にハウリングする。
湖の全ての水が逆流、驚地動天、まるで巨大な滝からなす統べなく落ちていくような浮遊感をモナーは感じた。
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60 名前:1[] 投稿日:2014/06/03(火) 18:42:05 ID:gWx9.eAM0
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〜now roading〜
( ´∀`)
HP / B
strength / C
vitality / D
agility / E
MP / G
magic power / D
magic speed / D
magic registence / E
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61 名前:1[] 投稿日:2014/06/03(火) 19:43:05 ID:gWx9.eAM0
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昔、遥か海のそのまた向こうの大陸で起きたのは失われた歴史。
紅い森と呼ばれる土地でのジェノサイド。
それを逃れ僅かに生き残った部族により、人が語る歴史からは透明性を欠如したが、
代わりに "呪術" を産み出す結果を招いた。
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62 名前:1[] 投稿日:2014/06/03(火) 19:45:00 ID:gWx9.eAM0
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モナーが目を覚ますと、一見して先程までとさほど変わらない景色が視界に入る。
どうやら船の上で倒れていたらしい。
クーの後ろ姿を煽って見上げていることに気が付く。
激震するクーの錫杖、
叩きつけられた水面、
宙に舞った自身の身体…
一瞬の出来事に記憶のフラッシュバックを順番に行ってから立ち上がる。
モナーのそんな悠長な寝起きを、周囲の風景が叩き砕いた。
重量感のある水泡の割れる音が聞こえる。
異臭が酷い。
…赤黒い大地が一面に広がっている。
しかし足場は乗っていたはずの船に間違いない。
耳鳴りが鳴り止まない。
続いていたのだ、モナーが気を失っていたほんのわずかな間も。
川 ゚ -゚) 「目が覚めたか」
光る錫杖を両手に持って身体を支えているクーをみて、急激に体温が下がった。
(;´∀`)「こ、これは…」
川 ゚ -゚) 「これが湖に封印していた指輪のいまの正体だよ。
湖の中だけでなく、周囲の土地からも穢れという穢れをドレインしたんだろう」
少しだけ落ち着いた口調でクーは状況を把握させる。
そう、この赤黒い大地があのさきほどまで美しかった水面なのだ。
いまや空気に触れた血液のように濁り、見渡す限りを埋め尽くしている。
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63 名前:1[] 投稿日:2014/06/03(火) 19:46:43 ID:gWx9.eAM0
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モナーとクーの立つこの船の上だけが、まるで地獄の釜に投げ込まれたような錯覚に陥った。
時々、火柱のように吹き出る様は亡者が足掻き悶えて伸ばす腕のように見える。
このような光景が、誇りをもって取り組んできたモナー工房の…自分のおじいさんの仕事の結果とでもいうのか?
ドレインがいわゆる闇の魔導力といえど、ただ吸いとり、吐き出す…それだけの魔法だとタカをくくっていた。
ちょっとした物珍しい技術の延長と考えていた。
直面する地獄絵図にモナーは愕然としてしまう。
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64 名前:1[] 投稿日:2014/06/03(火) 19:47:55 ID:gWx9.eAM0
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川 ゚ -゚) 「さあ、モナー」
気が付けばまたモナーの悪い癖が出ていた。
クーの一声で、現世に意識を引きずり戻される。
川 ゚ -゚) 「私がもし一人だったら、この状況のまま何年も膠着してるところなんだ」
川 ゚ -゚) 「でも今はお前と共にきた。
今ならお前のお陰でこの状況を静めることが出来るかもしれないんだ」
錫杖のリングが一つ、いままさに光を失っていくのをモナーは見逃さない。
これでは何年どころか、クーは錫杖に装着した揮発性の魔導リングを使用してやっと状況を膠着させているだけ。
そう長く保つはずがないのは分かりきった事実だ。
一つ一つ、状況を把握して身に落としていくにつれ、モナーは冷静さを取り戻してくる。
腰のナイフを抜き、懐から一つリングを取り出すと、ナイフの柄尻に装着した。
(;´∀`)「はぁ、はあ」
呼吸が浅い…
深呼吸を一回、 二回とゆっくりする。
川 ゚ -゚) 「いいぞ、そのまま聞いてくれ」
ナイフを持つ手が汗で滑る。
深呼吸をもう一回した。
川 ゚ -゚) 「この湖の中に飛び込む必要はない、多分20秒と潜って無事ではいられないからな」
モナーは唾を飲み込み、頷く。
川 ゚ -゚) 「この底から私が指輪をなんとかして引きずりあげる。
お前のドレインの有効範囲は?」
さきほど柄尻に装着したリングの具合を確かめてみる。
モナーは自力で魔法を使うことはできない。
つまり……
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65 名前:1[] 投稿日:2014/06/03(火) 19:49:27 ID:gWx9.eAM0
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(;´∀`)「はっきり言うよ。このナイフが届く範囲モナ」
闇の魔導力を行使するために、専用のリングからエネルギーの管を通して対象から魔導力を抽出する必要がある。
川 ゚ -゚) 「わかった。
指輪からのドレインは私が潰す、そうすればお前のドレインが一方的に効くだろう。
…もう一度言うが、私が失敗したら工房にまっすぐ帰るんだぞ」
そう念を押すクーの錫杖から、また一つリングの光が消えた。
クーの身体がガクンと崩れるが、それも一瞬。
何事もなかったように錫杖を構え直す。
川# ゚ -゚) 「フゥッ!」
バシンッと空気を震わすクーの魔導の鼓動に合わせ、船が揺れる。
同時に船底をかすめるように、赤黒い水面に渦が巻き起こりだした。
今度はそれに抵抗するかのように、地鳴りのような音がまるで五感を奪うために鳴り響く。
クーが作り出す渦はそれに構うことなく深く、大きくなっていく。
指輪の出現を待っているモナーですら吐き気が止まらないのに、クーは微動だにせず魔導力の放出を続けている。
このような精神を、この華奢な身体のどこに秘めているのか。
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66 名前:1[] 投稿日:2014/06/03(火) 19:51:40 ID:gWx9.eAM0
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その時、二人の背後から赤黒い亡者の腕が水面に固定されたように出現した。
影に気付き、振り向いたモナーが慌ててナイフでガード態勢に入る。
…しかしその攻撃がモナーに届くまでに、幾何学模様の魔法シールドに阻まれ弾かれた。
さらにそれに終わらず、たちまちシールドの余波で亡者の腕が霧散する。
どうやらこれもクーのおかげのようだ。
防御魔法まで張り巡らせていた…
モナーの知る限りのどんな魔法使いよりも、クーは展開を読み、魔法を使いこなしている。
川; ゚ -゚) 「…そろそろ来るぞ」
クーの顔が視界に入ると、モナーからみてもさすがに疲れが見え始めたように思う。
実際はそれほど時間は経っていないだろうが、それほどクーの消耗が激しい状況なのか。
気を失っていた自分を叱咤する。
川; ゚ -゚) 「言っておくが余計な真似はするなよ、気遣いも必要ない。
お前には指輪のために全力を尽くしてもらうからこそ、私がそれ以外に全力を尽くしているだけだからな」
クーがなにかの詠唱を行い魔導力を組み直すと、錫杖のリングの光がまた一つ消えた。
…いや、モナーが気が付かなかっただけで恐らくもっと減っている気がする。
ーーもう、やるしかない。
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67 名前:1[] 投稿日:2014/06/03(火) 19:53:25 ID:gWx9.eAM0
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( ´∀`)「見えたモナ!」
渦の中から響き渡る亡者の叫び声と共に、指輪がゆっくりと水面から現れ、宙に浮いた。
川 ゚ -゚) 「やってくれ、モナー!」
(# ´∀`)つ=> 「せえぇーぃゃ!!」
モナーが腰を静め、その反動で全身をバネのように使い、ナイフを突き刺す。
ナイフと指輪が接触すると同時にジャストタイミングで発動したモナーのドレインが、指輪の動きを止める。
指輪から小さな淡黒い魔導力が漏れていくのが分かる…しかし、すぐには終わらない。
"((∴ ;´∀`)).゜「あがっ だッ」
漏れても漏れても指輪から溢れる黒い魔導力が、逃げ場を失い苦し紛れにナイフの持ち主へと殺到。
その力は徐々にモナーの身体を蝕んでいく。
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68 名前:1[] 投稿日:2014/06/03(火) 19:55:17 ID:gWx9.eAM0
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川; ゚ -゚) 「ちっ、しゃらくさい!」
クーはモナーの一挙一動を監視してはいるが、手を差しのべることができない。
渦から飛び出た指輪の座標固定。
指輪のドレイン封印。
周囲の赤黒い水面からいまにも這い上がろうとする亡者の腕の抑止。
船の破壊防御。
足場の安定。
モナーへの魔法シールドの展開。
指輪の魔導力が作り出す空間の穢れの相殺。
_,
川; ゚ -`) 「く…そぅ、まだか…!?」
思わず奥歯を噛む。
錫杖のリングの力を駆使してるとはいえ、すでにクーのキャパシティは限界だった。
そもそも異なる複数の魔導力を行使できること自体が異常なのだ。
このままではこれ以上の魔法は使えない。
((#;;;´∀`/))つ=> 「あがが……!」
モナーは指輪の魔導力に傷付きながらも、ドレインの発動と突き刺したナイフを力の限り指輪に捩じ込んでいる。
ーーしかしその時、彼の頭のなかは、別のことに満たされていた。
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69 名前:1[] 投稿日:2014/06/03(火) 19:59:28 ID:gWx9.eAM0
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四代目モナーが、祖父である二代目と過ごしたのは極僅かな期間と回数だけ。
父は三代目として修行するべく、モナーの産まれる以前より、祖父と毎日まいにち工房で細工仕事をしていた。
親子といえども手加減のない指導に、いま思えば父も辛い思いをしていたのかもしれない。
モナーが産まれ、物心のつく年頃になっても、家庭での父は仕事の愚痴も多かったが、祖父その人を悪く言うことは一度たりともなかった。
モナー六歳の誕生日の時、珍しく祖父が会いに来た。
( ´/∀\`)『お前もそろそろ、触ってもいい頃合いだろて』
…そういって差し出されたのは、子供用に祖父が造ったスミスハンマーだった。
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70 名前:1[] 投稿日:2014/06/03(火) 20:01:47 ID:gWx9.eAM0
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それはまだ幼いモナーの手によく馴染み、はじめこそは
『こんなもの!』
と、ふて腐れていたモナーも、気付けばよく触って感触を確かめていた。
滅多に逢うこともなかったのに、何故それほどの物を造ることができたのか不思議だった。
それから間もなく、祖父は倒れた。
父が朝はやく工房へ足を踏み入れたときにはすでに死んでいた。
原因は ーー 不明。
外傷もなく、ましてや持病もなかったはずの祖父。
病院で死因検査も行ったがなんの異常も発見されなかった。
当時はもう街の人々との交流もほとんど無かったため、葬式は身内だけで行った。
遺留品をまとめ、散らかったままの工房を片付けていた父とモナーが目にしたのは、最後に依頼を受けた客の、このあと産まれてくる予定だという赤ん坊のために造っていた小さな手乗りのメリーゴーランド。
土台となる円柱の内部にリングを埋め込み、風の魔導力で廻る仕組みのその玩具は、父が代理として依頼主に届けたらしい。
そもそも、本来の依頼の品はすでに引き渡していた後だった。
その品は、祖父が必要だと思って、それだけの理由で追加で造った玩具だったのだ。
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71 名前:1[] 投稿日:2014/06/03(火) 20:04:57 ID:gWx9.eAM0
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その翌年の夏、父のもとに届けられた一通の手紙。
祖父の形見となった玩具を受け取った依頼主からだった。
『 猛暑が続き、
熱病が村で流行りました。
小さな子供たちが
何人も亡くなってしまった…。
でもね、モナーさん。
うちの赤ん坊ももう少しで
命を落とすところを、
貴方からいただいた
玩具のメリーゴーランド…
急に強い風が出てきて、
子を守るように
まとわりついてたんですよ。
不思議ですね。
壊れたわけでもないのに。
おかげで体温も上がりきらず、
うちの子も助かりました。
貴方に感謝致します。』
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72 名前:1[] 投稿日:2014/06/03(火) 20:06:10 ID:gWx9.eAM0
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こんなものは偶然だ、と父は手紙を手の甲で軽くはたいて笑って読んでいたが、その顔は誇らしげにみえた。
ーー祖父の心遣い一つが命を救った可能性があるならばそれでいいと思う。
幼いながらも、それらしい言葉を使いモナーも父に祖父を誇った。
より嬉しそうに、父が頷いた。
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73 名前:1[] 投稿日:2014/06/03(火) 20:10:06 ID:gWx9.eAM0
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((#;;;´∀`/))つ=>「ぐ、ぐぅぅ…!」
この現状が祖父の遺恨となってしまうなら、それは遺された者が晴らさねばならない。
死者はもうなにも遺せない。遺さない。
遺っているのは、人が死ぬ前にやり残した事だけだ。
川 ゚ -゚)『お前の祖父の遺言だ』
そう。
どんな形であれ、祖父は死ぬ前に遺していたじゃないか。
生きていたからこそ、遺言があった。
なにも残さずに祖父は死んだわけではなかった。
遺言がない事を、
父も、モナーも、
いつの間にかそれが祖父の落ち度のように、どこかで考えるようになっていた気がする。
それをいま生きているモナーが無事受けとることが出来た。
この仕事は、しっかりとモナーに託されたのだ。
(#;;;´∀)つ=>「んがぁあ!!!」
モナーは最後の魔導力を振り絞り、指輪に注ぎ込む。
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74 名前:1[] 投稿日:2014/06/03(火) 20:16:38 ID:gWx9.eAM0
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指輪から漏れ出る淡黒い魔導力も、残りカスのように絶え絶える瞬間。
……パキ ィ ン 。
モナーのナイフが折れた。
その瞬間、心の中のなにかも一緒に折れてしまったかもしれない。
ドレインの魔導力も最後まで伝け切ることはできなかった。
(#;;;´∀);." 「…ガフッ」
精魂尽き果てたモナーは、指輪に当てられ続けた魔導力のダメージを自覚する。
もうこれ以上の魔導力をぶつけられれば、耐えることはできない。
船が大きく揺れた。
モナーは倒れていく自分の身体になにも抵抗できない。
景色が暗く沈んでいく…。
川#;;゚ 々゚)
つ=> 「モナーよく頑張った!!」
咆哮が辺りを震わす。
邪悪ではない、
期待していたものを我慢して我慢して、
やっと手に入れたような希望の叫び声。
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75 名前:1[] 投稿日:2014/06/03(火) 20:17:40 ID:gWx9.eAM0
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いつのまにかクーの手には錫杖ではなく、モナーから借りたままのナイフが握られていた。
錫杖とリングを手放し、すでに他の全ての魔法も解除している。
川#;;゚ 々゚)つ=> 「決着だ、私のような不死者は共に戦う他人の技術を時間をかけて盗める!
モナー、きちんとバトンは受け取ったぞ!」
川 ゚ -゚) 『ナイフはお前に教えてもらうさ』
川 ゚ -゚) 『私のドレインはまだ完成していない』
_,
川; ゚ -`) 『く…そぅ、まだか…!?』
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76 名前:1[] 投稿日:2014/06/03(火) 20:20:03 ID:gWx9.eAM0
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クーはモナーからナイフ技術と、指輪に対するドレインの魔導力を盗み覚えていた。
さらにモナーと違い、クーは自力で魔法を行使できる。
リングのないナイフでもドレインの魔導力を込める。
そして周囲から迫る亡者の腕を掻い潜り、すでに指輪に接近していた。
川#;; ゚ 々゚) 「長い時間またせたな!
私のもとに戻れ、ばか指輪が!」
指輪は座標固定の魔導力が解除されているため水面に落ち逃げようとしている。
クーの腕は間に合わない
指輪が水面に沈む
ーー そう思われた瞬間
ーー クーの手から投擲されたナイフが指輪を貫き
ーー ナイフに込められたドレインが
ーー 発動する。
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77 名前:1[] 投稿日:2014/06/03(火) 20:22:00 ID:gWx9.eAM0
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波打ち際で倒れている男がいる。
美しい湖には不釣り合いのような、よく見れば傷だらけだが、呼吸していることが分かるため深く心配はしない。
( ´∀`)「………ねえ、クー?」
倒れていた男、モナーは隣で方膝を立てて座り込む女…クーに声をかける。
川 ゚ -゚) 「なんだ?」
( ´∀`)「指輪にナイフを突き刺しながら、モナはお爺さんのことを思い出してたんだよ」
川 ゚ -゚) 「ほう、ずいぶん余裕だったんじゃないか」
咎めるような言い方だが、クーはむしろ笑っていた。
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78 名前:1[] 投稿日:2014/06/03(火) 20:23:16 ID:gWx9.eAM0
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( ´∀`)「お爺さんはお爺さんなりに精一杯生きたんだと思うモナ。
突然死んで家族は戸惑ったけど、考えてみれば大きな混乱はなかったんだ」
( ´∀`)「工房の仕事もお父さんがすぐ継げた。
そうしてモナーも成人した頃には仕事を任してもらえるまでになってたモナよ。
…精一杯生きたお爺さんだからこそ、色んな準備をしてたんだって分かったから、お父さんも見習って、モナーに工房を引き継げるまで指導してくれたんだモナ」
クーは黙って耳を傾ける。
( ´∀`)「モナーは一人で工房の仕事をするようになってから、過去の伝統や習慣ばかり気にしてたモナ。
余計な人に会わないとか、依頼のためならなにかを犠牲にしても良いとか」
( ´∀`)「そんな結果ばかり気にしてたから、細工師として信頼はされても、モナー個人としての信頼はまったく得られてなかったことにすら気付かなかったんだ」
クーが立ち上がる。
モナーはそれに気付いてるのか、独白を続けた。
( ´∀`)「あまつさえ同じ街で暮らす人達からの一切の依頼を断ってきたモナ。
おじいちゃんもおとうさんもそうしてきたから、そうするものだと思い込んでた」
( ´∀`)「でもそうじゃないんだ、評判を聞いてやってきた権力者が、さも当然のように造って貰おうとする…
気持ちのないただのブランド欲しさの態度が気に食わないからおとうさん達は断り続けて…
街の人達がそれを誤解した。
そして…モナもそんな彼らを誤解してしまってたんだ」
苦々しく、しかし清々しい口調で語るモナーは真っ直ぐ空だけを見上げ続けた。
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79 名前:1[] 投稿日:2014/06/03(火) 20:26:15 ID:gWx9.eAM0
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蒼い空の下で懺悔するように、想いを口にしてみると心が洗われるようだった。
…思えば空を眺めるのをいつからやめてしまったのだろう?
子供の頃のほうが空模様をよく記憶している気がする。
( ´∀`)「…ねえ、クー?」
川 ゚ -゚) 「なんだ?」
クーはすぐに返事をしてくれる。
いつも考え事ばかりしていた自分と比べたら、まるで空のようにオープンな態度。
( ´∀`)「友達になってほしいモナよ」
突然のモナーな願いに、クーも思わず動きが止まる。
モナーを見下ろした体勢でその顔を見つめた。
川 ゚ -゚) (´∀` )
アハハッ
…声をあげて破顔したのはどちらだろうか…。
肩で息を吐き出したクーは、根負けしたようにかぶりをふって答える。
川 ゚ -゚) 「お前だけが老けても、私は若いままだからそのうち親子みたいな友達になるかもな」
そういって、懐から指輪を取り出した。
ドレインし尽くされ、魔導力のからっぽな指輪…。
それをモナーに投げ渡す。
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80 名前:1[] 投稿日:2014/06/03(火) 20:27:43 ID:gWx9.eAM0
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川 ゚ -゚) 「ではさっそく友達価格でその指輪の修理を頼むよ。
お前のご自慢の技術でな」
「後日また工房に行くよ」
と、返事を待たず後ろを振り向いて、足早にクーはどこかに歩いていった。
モナーはそれを見送り、手を振る。
やがてお互いの姿が見えなくなった。
川 ゚ -゚)
「…まったく、よく喋るようになったものだ。
長生きしてれば面白いこともあるものだな」
「長生きしてるせいか変なところで素直じゃないモナね、きっと。
いつの間にか笑うようになったのは気が付いてるのかな?」
(´∀` )
モナーも立ち上がり、帰路につく。
久し振りにみる自分の工房は、もしかしたら今までと少し違った風景に見えるかもしれない。
(了)