( ^ω^)千年の夢のようです

川 ゚ -゚):先駆者の踏む骸

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65 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/06/07(火) 23:18:45 ID:uoQSJDlE0
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(推奨BGM:Numara Palace)
https://www.youtube.com/watch?v=bd8a07PC0ts



晴れ渡る大空はまだどこか湿り気を漂わせる。 草木の乾く匂いが、雨の残り香と混ざり合う。
太陽の光がさんさんと降り注ぎ、昨日まで降り続いた憂鬱を浄化していた。


[かがみ]を通じて、はじめてこの地に降り立った日。


ジー、ジー…と。
鬱憤を晴らすかのように、さざめく虫の群れも次第にその声を大きくする。


川 - ) 「────── ……」


このとき瞼の向こうから照らされる橙色を、クーは不快なものと感じなかった。
味わうように息を吸い込むと、いくつもの嗅ぎ慣れない感覚が鼻腔を襲う。
むしろ、それすら心地よい。


耳を擦るわずかな草の音も、遠くで見守る小動物も、突如現れた彼女の存在を迎え入れる。
さっきまで居たはずの闇の世界とはまるで違う、生きている実感が徐々にわいてくる。


「おおぃ、こんなところで寝てたらぁ、猪と一緒に食べられてしまうよぉ」


……その野太い声さえなければ、もう少しだけ、この初々しい微睡みに身を委ねていただろう。


川 ゚ -゚)


だが彼女は目を覚ます。
仲間の誰よりも早く、この世界で。


 

66 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/06/07(火) 23:20:40 ID:uoQSJDlE0
( ^ω^)千年の夢のようです


              |
              先
              駆
              者
              の
              踏
              む
              骸
              |




( "ゞ) 「行き倒れなんて珍しいぃ〜と思ったんだぁよお」

川 ゚ -゚)

( "ゞ) 「どっから来たんだ? この辺りの人間じゃなかろうよぉ」

川 ゚ -゚) 「……ここは、いったいどこだ?」

( "ゞ) 「おかしな話だあ。 訊いたのはこっちだろうに」


男は困惑した様子を隠すことなく、しかし問いに答えてくれた。


どこに向かっても海に行き着いてしまう……そんな土地に彼女は居た。

大陸下部の、名もなき山腹の塊村。
   ……遠い未来の、水の都の在処。

68 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/06/07(火) 23:21:35 ID:uoQSJDlE0

( "ゞ) 「しかし自分がどこから来たのか判らないなんてえ、まさか空から降ってきたぁわけもあるまいに」

( "ゞ) 「まあ安心しなぁよ、ウチで少し休んでから船着き場まで送ってやるさぁ。
なあんにもないけど、茶ぁくらいなら出してやれるからよお」


野趣に満ちた山の道。
右も左も分からないクーのために案内を買ってでた、デルタという青年。
彼はそののんびりした口調のわりに、よく口を動かすような男だった。


がに股で歩くその姿はいかにも男らしさを感じさせるものの、どちらかといえば華奢な体格に分類される。
細身のクーと同じか、もう少しだけ大きく見える程度に似通っていた。


彼は道行くところどころに生えた小さな木の枝から、天蚕の繭を選んでは葉ごと摘む。
そして満足げに頷きながら、背に担いだ籠へと無造作に放っていく。


( "ゞ) 「これはいい糸にぃなってくれそうだ。 …ところでアンタぁ、運が良かったなぁあ?」


なんのことか、クーは言葉の意味を尋ねた。


前者は "繊維の女王" とも呼ばれ、織物にとても重宝されること。
そして後者は────昔から、この辺りには人喰い獣が出るらしい。

69 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/06/07(火) 23:22:54 ID:uoQSJDlE0
近くは二年前にも首元を抉られたのだと、彼は言った。
自らを指さし、しかしぴったりとボタンで留められたその襟首は露出を避けている。

デルタは言葉を続けた。


( "ゞ) 「やられた方は死に物狂いだったさぁ。 必死になればなるほど、生き物ってえのは本能に抗えないもんだぁよ」

川 ゚ -゚) 「ほかの生物が、人を食べる…のか??」

( "ゞ) 「……餌が見つからなくて、出てくるんだろうなぁ。
生き物なんて、どれも生きていくのに精一杯よお」

川 ゚ -゚) 「…」


          『弱肉強食って言葉が、昔あった』


川 ゚ -゚) ( シャキン…… )


いつかの仲間の言葉が記憶に浮かび上がり、すぐに消える。


クーが知る由もない、この山の自然は大陸内においても些少たるものだった。

土地面積に対して樹木の育ちも悪く、人の手入れがなくなれば緑は消失し、禿げてしまう。
自然が、自然を拒む島。
草食動物は数を減らし、そんな獣を餌としていた肉食獣もだんだん居なくなっていく……そんな場所だ。


徐々に日射しが強くなる。
遮る葉が少ないために直射する陽が、目覚めたての網膜を刺激した。

  _,
川 ´ -゚) ( ……眩しい )


浴びたことのない太陽光と、大地を彩る緑黄。
肺を満たす酸素に染み付く匂いを、慣れることはあるのだろうか。

70 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/06/07(火) 23:23:56 ID:uoQSJDlE0
そんなクーのしかめ面も獣への畏れと勘違いしたのか、デルタは「今日はたぶん大丈夫さあ」と気遣った。

彼は耳をすまし、周囲を用心するのは自分の役目だといわんばかりに薄っぺらな胸を張る。
そんな姿が良くも悪くも滑稽に映った。


( "ゞ) 「なあ、クーは何をやってる人なんだあ?」


デルタは荷を降ろすとあぐらをかき、仰々しく腕を伸ばす。


( "ゞ) 「ッぁあ〜〜。 それにしても、いぃい天気だなあ」

川 ゚ -゚) 「…そうだな」


違いない。 心からそう思う。


故郷たる灰蒼の世界…グランドスタッフにおいて、光というものは人工的にしか与えられていない。
この世界でこうして得られるものとそれは、完全な別物であることをクーは受け入れることから始めた。




しかし、

    ──"何をやっている人" ?

…その質問に答えることが出来ない。


川 ゚ -゚) 「…私は、」

( "ゞ) 「んん?」

71 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/06/07(火) 23:25:25 ID:uoQSJDlE0
今までの自分は、ただ生きていただけに過ぎない。

解り合える友と語り過ごし、解り難き周囲の大人によって生かされる。
アーカイブと呼ばれる知識の海を管理され、想像力を培う材料すら乏しい環境。

それはクーにとって、決して居心地の悪いものではなかった。


川 ゚ -゚) 「………私は…、」

( "ゞ) 「ああ、答えにくいなら無理に答えなくてもいいんだぁ」

川 ゚ -゚) 「…」

( "ゞ) 「あんなところで倒れてるなんて、変だと思ったぁんだ。 訳ありなんだろぅ?」


彼のその言葉は、他人への無関心からとは違う、温もりを感じさせる。
それはかえってクーに、自らに課した決意を思い出させた。


『私は、自分で求めて、自分で何者かになりたい』
……そういって此処にたどり着いたことを。

72 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/06/07(火) 23:27:01 ID:uoQSJDlE0
ハインやツンと遊んでいた頃のように、残された役割を果たすだけの自分。
ハインやツンにとって先生やブーンのような、愛する者のいない自分。

都合の良い解釈をして、自分に言い聞かせて、周りに一歩甘んじてきた。


結果としてとりとめたこの魂もそうだ。
グランドスタッフを喰らい尽くしたあの怪物のように、命は突如失われる日が必ず訪れる。
一度失われれば、もう……取り返せない。
後戻りもできない。

先陣きって行動しなければ、不本意な結末も納得して飲み込むことすら出来はしないのだ。


川 ゚ -゚) 「…………私は」


繰り返される自問と、脱け出せない自答。


役割は重要だ。
人は生活の過程で自然と立場を得て、在るべき場所で生きる。

…だからといって。
凡てを許容できるほど、人間は無感情ではいられない。

73 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/06/07(火) 23:28:00 ID:uoQSJDlE0
(;"ゞ) 「そんな恐い顔するなぁよ」

川 ゚ -゚) 「…あ…」


違う、とクーは慌てて手を振り否定する。
デルタは分かっているようで分かっていないような、曖昧な表情でクーを諌めた。


( "ゞ) 「いいんだいぃんだぁ、一休みするかい? のんびり行こぉうぜ」

川 ゚ -゚) 「…なにか手伝えることなら私もやるよ」


デルタは籠に手を突っ込むと、奥の木箱からいくつかの道具を取り出しはじめる。
当然だが、いずれも見たことのない…未知のアイテム。
皆目見当のつかないそれらをクーも手に取り、どう使うものかとまじまじ眺めた。


( "ゞ) 「…ははは、なぁにやってるんだ。
ほらこの飯盒に、そう、これだ。 水を注いでくれるかなあ。
…それとぉ――」


文化の違う異邦人はこうして交流を深める。
クーは言われるがまま、即席の火鉢の上に飯盒をセットしていく。
支度を終えるとデルタは指を動かし、火打ち音が鳴ったかと思えば間もなく炎が熱を生み出した。


( "ゞ) 「湯がぁ沸くまで少しある。 話せるところだけでいいから、おたくの世間話でも訊かせてもらうとするかあ」

( "ゞ) 「名前、なんていうんだぁ?」

川 ゚ -゚) 「……





            私の名前は――――」




 

74 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/06/07(火) 23:29:33 ID:uoQSJDlE0


クーが果たしてどれほどの時間、気を失なっていたのかは分からない。


( "ゞ) 「記憶喪失……ってぇやつかい」


デルタに元の世界の話はしなかった。
クーが覚えているのは自分の名前と、漠然とした知識のみであることを伝えた。

そして、それ以上のことはデルタも追求しなかった。


( "ゞ) 「だったらぁ放り出すことも出来ないな。 クーさえ良ければしばらくは村にいていいさあ」

川 ゚ -゚) 「ありがとう」

( "ゞ) 「けどな、ここはよそ者を嫌う。 はじめは気にさわることもあるかもぉしれん」


デルタも元は旅人だったという。
村に身を寄せ、長く居着くに至るまでに様々なトラブルがあったことを匂わせた。

…それでも彼はここにいる。
今では立派な村人として、此処で骨を埋めるのだろう。


( "ゞ) 「この村に居着くか、離れるかは、その時になったらクーが決めてくれぇな」

川 ゚ -゚) 「わかった」


長居するつもりはない。
やるべきことがある。

いつかは仲間のもとへと旅立たなくてはならない。

75 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/06/07(火) 23:30:15 ID:uoQSJDlE0
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デルタと過ごし始めて一週間。
他の村人は通りすがるたび、奇異なものをみる目でクーを睨み付ける。
戸惑いを隠せずにいると、そんな時はデルタが前に出て視界を塞いだ。


時間という概念は、ここでは太陽と月の循環に守られている。
グランドスタッフとは違い、デジタル化されたタイムテーブルに朝夜を照らし合わせる習慣がない。

そして──もし出歩くならば明るいうちが適切であることを学ぶ。


(゚- ゚ 川 「…」

( "ゞ) 「物珍しそうになぁにを眺めてる?」

川 ゚ -゚) 「ああ、いや…」


外出時、デルタは必ずクーを連れた。 クー自身もそれを望んだからだ。

獣と出くわす危険もあるが、無為に留守番させれば村人からあらぬ目を向けられる可能性もある。
それならば旅人としてのノウハウを覚えるほうが有意義だろう。


クーが担ぐ薪の擦れる音は不器用で、しかしそれが足を踏み出す単調なリズムの打破に一役買う。
担いでいる量だけを見れば、デルタの半分も無いはずなのに、彼はそれほど大きな音をたてたりはしない。


( "ゞ) 「見てみろぉよ、ここからは木の種類が違うだろ?」


道すがら、デルタは草木の名前を一つずつ語る。
「手に取って、少しでも見聞きするのは楽しいもんだあ」とクーには言うが、むしろ楽しんでいるのはデルタのほうに思えた。


彼に訊けばあらゆる答えが返ってくる。
花の名前も…、山の成り立ちも…、海の広さも。
果てには村で活用される機械類…そのアイテムの利用価値も。


だが、とりわけデルタは自然を愛する。
毎朝通る崖上の三叉路から山を一望するたび、彼は微笑むのだ。

そんな彼を、クーもだんだんと理解し、同調していった。

76 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/06/07(火) 23:31:19 ID:uoQSJDlE0
この山村から展望する空模様は、一度たりとも同じ様相を見せてはくれない。
ちぎれちぎれに走り去る雨雲が狐日和を演出することもあれば、
天高くに浮かぶ太陽が爛々と大地を照らし、巻層雲と相まって "かさ" を見せる時もある。


川 ゚ -゚) 「今日はずいぶんと陽が近いな」

( "ゞ) 「だなぁ、暑い暑い。 おかげで樹がよく育ちそうだぁ」

川 ゚ -゚) 「太陽は食事。 しかも、そこに光があるから葉が伸びるのではなく……」

( "ゞ) 「そう、光をより多く得るために "自ずと葉を伸ばす" んだあ。 よく覚えてぇるなぁ」

川 ゚ -゚) 「順序が逆なんだな、と不思議に思ったよ」

( "ゞ) 「見つけて欲しくて手をおぉおきくかざすのは、人も自然もおんなじよお」


植物には意思がある。
…それを仲間たちに伝えたらどんな反応をするだろうか。


ブーンとツンは興味を示すかもしれない。
『こちらの愛情も伝わるのか!』とさぞ驚くことだろう。

ドクオ、そしてシャキンはきっと真逆だ。
『くだらない、誰がそれを証明したんだ?』などと言いかねない。

77 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/06/07(火) 23:32:14 ID:uoQSJDlE0
( "ゞ) 「太陽があるから、植物は自分の立場が把握できるんだぁ。
辺りは今どんな世界なのか? 実を作ったらすくすく育ってくれるのか? なんてなあ」

川 ゚ -゚) 「……」

( "ゞ) 「勝手に育ってくれれば気も楽だぁよ。
機嫌を窺ってぇ生きる奥ゆかしさも、植物の良いところであり、悪いところかもしれないなあ」


そして──ハインならばこう言うだろう。
『それはまるで、アタシみたいじゃないか』と。


川 ゚ -゚) 「…デルタはどうなんだ?」

( "ゞ) 「俺は単に眩しいのが苦手なだけさあ」


彼は日中、常に被り物を離さない。
帽子の陰に溶け込んだ彼の睫毛はとても長く、クーの小指程度なら乗せられるほどに瞳を厳重に守っていた。


( "ゞ) 「……草花にとってはぁ好物でも、俺にとっては苦味が強いものもあるぅよ」


ハハハ、とデルタは声をあげて笑う。
その表情は寂しそうに行く先を向いていた。


クーはもう一度、空を見上げる。
しばらくは雨も降りそうにない、いい天気だ。


 

78 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/06/07(火) 23:33:08 ID:uoQSJDlE0


一ヶ月も経つと、村人の道理も見えてくるようになる。
クーを見掛けては時々声をかけて、中にはこちらまで近寄ってくる者も現れ始める。

今日もそう。
まだ名も知らぬ、好好爺然とした老人が言った。


「おめぇ意外と働きモンなんだってな、そーんな、ほっそい身体でえ」

川 ゚ -゚) 「残念ながら大人しくしていられる性質じゃないからね。 それに、身が細いのはデルタも同じじゃないか?」

(;"ゞ) 「……えぇ」

「カカカッちげえねえ、よぉく言うたったなあ」


村人はすぐに離れたが、その別れ際には軽く手を振っていった。
ただそれだけの動作が、村人なりの礼を尽くされたものだと受け取れる。


( "ゞ) 「……俺ぇ、そんなに細いかよ?」

川 ゚ -゚) 「女の私とそれほど変わらないじゃないか」

( "ゞ) 「そうかぁ? んじゃ栄養不足かもなあ」


だったら同じ食事を摂っている私まで倒れるじゃないか、と、二人は微笑み合った。


人は沈黙すればするほどに心を探り、探られる。
閉鎖的な空間では尚更だ。
当初はクーも言葉を選ぶことで誠意を見せていたつもりだったが、それは逆効果なのだ。


ある日のデルタはこうも教えてくれた。

79 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/06/07(火) 23:34:56 ID:uoQSJDlE0
( "ゞ) 『黙ってると目が泳ぐだろお? 考えたりぃ、思い出そうとしたりな』

( "ゞ) 『そーすっとぉ聞いてる方は勝手なもんで、相手を好きかどうかで、その間に不信感を抱いたりする』

川 ゚ -゚) 『…咄嗟に話し掛けられても、どうしたらいいのかなんて分からないよ』

( "ゞ) 『なんでもいいから喋ってみれぇよ。 人はそこまで難しくねえ。
それにぃ考えなしで喋るときは、思ったことしかぁ出てこない……だろ?』

( "ゞ) 『この村では特にそうってぇだけだ。
たとえ不器用でも、無礼でも、偽りのない本音のほうが楽な生き方もあるのさぁ』


下手な気を遣うくらいなら、ざっくばらんに応えるほうが相手にとっても都合が良い。
さもなくば、瞳の奥を覗かれる。
見たくもない心を暴き、晒される。


川 ゚ -゚) 『覚えておくよ』


仲間となら容易く出来たことも、時と場所、そして相手が変わるだけで、いつの間にか萎縮してしまうものだ。


そう…、クーがクーとして常に在るならば、村に馴染むまで一ヶ月もかかることはない。
だがしかし、人格と個性は似て非なる。
前者は他者が評価し、後者は持って生まれた性質だ。


( "ゞ) 『困ったときこそ自分に正直に生きなあ。 人の時間は限られてるんだぁからよお』

川 ゚ -゚)


それほどに……。
何も、誰も知らぬ、そんな世界で生きることは難しい。


 

80 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/06/07(火) 23:35:52 ID:uoQSJDlE0


半年もすると、クーはようやく村人の一員として歓迎されるようになっていた。
その日は笊を抱えた中年女性が嬉しそうに近寄ってきて、二人に向けて収穫物を自慢する。


「おーいクー! 畑で採れたこの苺、良かったら食わないかね」

川 ゚ -゚) 「いいのか? ありがとう」

( "ゞ) 「そんなもん、そこらに生えてるので充分じゃなぃかあよ」


命あるものには必ず得意とする環境があり、発揮する力もバラバラだ。


「はあ? デルタにあげるだなんて言ってないだろうさ!」

川 ゚ -゚) 「…だ、そうだ。 これは私が一人で食べさせてもらおう」

(;"ゞ) 「……つれないねえ」


大陸には季節というものがあり、絶えず気温が変化する。
それは塔全体に施されていた空調によって常に一定温度を保ったグランドスタッフでは、決して感じることの出来ない現象。

野苺は暑さに弱い。 だから自分という種のために、涼しくなってから実を成す。
これは夏が過ぎ…秋に移り変わったことを意味している。


[かがみ]突入用の法衣でもあれば風も凌げたが、アサウルス襲撃の際に失ってしまっている。
この頃はデルタがこしらえてくれた外套を羽織らなければ、肌寒く感じた。


"( ) "ゞ) 「うん、んまぁいなあ」

川 ゚ -゚) 「結局食べるんじゃないか…」

( "ゞ) 「そら収穫時期が来たらぁ一度は食べる。 せっかく出来たのに、無視するのは失礼野暮だよなぁ」


育つ野菜は季節と共に変わり、樹木はエネルギーを細く長く蓄えるべく枯れていく。
点々と、草紅葉は淋しげに、仲間を探すように頭をたれる。

クーの目に映る風景は、再び知らないものに埋め尽くされていた。


( "ゞ) 「生まれついてのサガは変えられないからよお。 美味いもんは美味い」

( "ゞ) 「……でも俺はやっぱりぃ、人の手入れがされてない苺のほうが好きだあ」

81 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/06/07(火) 23:37:14 ID:uoQSJDlE0
日が暮れると家に戻り、収穫した山菜を食す。

少量ならば生で口に出来るもの…、
火を通してから口に出来るものを見分けられるようになった。


( "ゞ) 「油と調和させることで身体がぁ吸収しやすくなる栄養素もあるよお」

川 ゚ -゚) 「うん、その辺はだいぶ覚えてきた」

( "ゞ) 「だなあ…、後の課題といえば────」


鉄鍋のなか、焦げて縮んでしまったミイラの青菜炒めが二人を睨む。


(;"ゞ) 「……料理の腕だぁ」

川 ゚ -゚) 「精進したいとは思ってるんだが…」


デルタが作れば、少ない品数でも食べやすく健康的なメニューが食卓を彩ることができる。
それでもいつからか自主的に、クーがそれを真似て作るようになっていた。


川 ゚ -゚) 「デルタはいつも簡単そうにやってるのに、自分でやるとなると中々に難しいよ」

( "ゞ) 「上辺だけで判断するのは、なぁんにも知らないってことだからぁな。
そうやってぇ難しいと思うのは想像してたよりも奥深いってぇことよ。」

( "ゞ)  「それさえ分かったなら、いつか誰かのために、覚えておいて損はないぃだろうよ」

川 ゚ -゚) 「…誰かのため…」

( "ゞ) 「ん……さぁてご馳走さんなぁ。 ちと出てくるから、好きに過ごしててくれえ」


 

82 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/06/07(火) 23:37:55 ID:uoQSJDlE0

いつからか、デルタはよく夕食後に外へ出るようになった。
夜風に当たるだけだと言いはしても、朝昼のようにクーをはべらそうとはしない。


一人になり、手持ち無沙汰に座る。 刻々と時間が流れていく。
何度も自分用の外套を弄んでは、どこかに汚れはついていないかをチェックする。


川 ゚ -゚) 「…」


部屋の隙間を縫い射すのは、雲に見え隠れした月明かり。


デルタの小さな家は周りと比べても古めかしく、老朽していた。
はじめて来た時は廃屋と見間違っても仕方ないほど…まるで眠ることだけを保障されたように。

しかしそれも以前の話。
今では内装も整い、二人で過ごすには差し支えのない清潔さを保っている。
クーもそれを手伝いはしたが、主にデルタによって作り出された環境だ。


川 ゚ -゚) 「ぬいぐるみとか…あった方がいいのかな」


綺麗だが無駄もない…そんな部屋に、いつしか殺風景という感想をもつようになった。
グランドスタッフではあり得なかった感情が芽生えている。


眠気はまだ来ない。
…むしろこうしてデルタと離れている時間、懐うことが増えた。

83 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/06/07(火) 23:40:35 ID:uoQSJDlE0

[かがみ]の力によって、クーは世界を移動した。
他の皆もきっと同じように飛び込んだだろう。
…飛び込んだ、と信じるしかない。


当初こそ、誰かを捜しに行くには知識が足りなすぎた。

この山村が海に囲まれていると知った時、海の渡り方も解らない。
食べ物はゼリー状のソイレント以外に口にしたことがなかったため、食べ物もロクに判別できない。
その他にも耐熱、防寒、火の扱い、湿気対策など……、
グランドスタッフでは考える必要すら無かったものを思い浮かべると枚挙に暇がない。


この世界の "日常" をようやく知った後、自然と考える。
かつての仲間たちも、デルタのような者と出逢えたのだろうか。

デルタは言った。
海の向こうは何倍も、何十倍も、ここの村人には想像できないくらい広大な土地があると。
風習も、見た目も…寿命すら様々な人種が住んでいると。


川 ゚ -゚) 「そうだ、そろそろ水をやれと言われていたっけ」


部屋の角に飾られた植物に語りかけ、身近にある手鍋から水を注いだ。
雫を弾き、ピンっと葉が跳ねる様は、植物なりの健常さを感じさせる。

デルタが世話をするこの観葉植物は、室内でも長く世話をして生かすことが出来る。
一年中緑を保つ、長寿や繁栄のシンボルだ。

84 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/06/07(火) 23:41:17 ID:uoQSJDlE0
川 ゚ -゚)


空を見れば…いつの間にか月は完全にその姿を消してしまっていた。
デルタはまだ帰ってこない。
クーにとっては見慣れていて、しかしどこか違う灰色の雲が胸を騒がせる。

ホロロロ…と、どこかで鳴くのは夜の鳥。
静寂以外のすべてを持っていかれたような錯覚に陥りそうになる。


────果たして本当に、みんな、同じこの世界に来ているのか。


いつか根拠もなく、それを盲信していることに気が付いた時、思わずへたりこんでしまったものだ。
ハインやツン、ドクオやブーンと永遠に再会できない可能性が、クーの好奇心を保身へと走らせる。


すなわち現状維持。 あるいは現実逃避。


そうでなくとも、こうしてデルタと共に暮らす日々も悪くないと考えてしまっている自分がいることを、彼女は自覚している。

85 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/06/07(火) 23:42:11 ID:uoQSJDlE0
外では風が吹きはじめた。
家の出入口がカタカタと音をたててクーを呼ぶ。

或いはデルタの帰宅を期待したが、しばらく注視していても入ってくる様子はない。


川 ゚ -゚) 「…」


重い腰を持ち上げて出迎えてみるも、戸の向こう側は静かに時を刻むだけ。
夜の深い闇に沈む塊村。
この時間に出歩く村人も、外界から用を足しに来る者もいない。


今の生活に馴れてしまったせいだろうか。
でこぼことした地平線という違いを除けば、グランドスタッフから見た景色とそう代わり映えしないものだと…クーは感じるようになった。

──実際は自分自身の "感性の変化" という問題でしかないのだが。


戸を閉め直すと、悪戯するかのように風がとんとんと、今度は家そのものを叩いてまわる。
…また、さっきと同じ鳥の声がする。


川 ゚ -゚)


グランドスタッフを懐かしむつもりはない。
しかし、この世界はあまりにも、感情の蠢きと起伏が多い。


待ち疲れたクーは、自身の背丈と同じサイズに編まれた藁を肩からかぶる。
見た目に反した暖かみが安らかなる睡魔を急速に誘う。

86 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/06/07(火) 23:43:08 ID:uoQSJDlE0




 

87 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/06/07(火) 23:43:51 ID:uoQSJDlE0


                            《    ォォォ゙ゥ……》



 

88 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/06/07(火) 23:44:35 ID:uoQSJDlE0



川 - -)




川 ゚ -゚)



思わずどんよりとした微睡みに逆らう。
──これまで耳にしたことのない遠吠えが聴こえたせいだ。
野生の獣にしては……どこか感情を押し殺したような含みのある鳴き声。


隣にデルタの姿はまだ無い。
どうしてか嫌な予感を抑えられなくなる。


川 ゚ -゚) ( …念のため、迎えに行こう )


迷いつつもクーは立ち上がり、壁に立てかけてあった鉄の棒を握りしめる。
立て付けの悪い玄関扉を開け放ち、その歩調は胸の鼓動と共に速度を上げていった。



 

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